小木曽望乃は勇者である?   作:桃の山

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今回は題でわかる通り、ハロウィンです。


いたずらよりお菓子

 いつもの勇者部。一大イベントを明日に控えたこの日、勇者部はその準備のために部室に集まっていた。

 しかし望乃が少し遅れるということで、望乃を除いた五人は望乃を待ちながら雑談をしていた。そしてそこに望乃が勢いよく入ってきた。

 

「みんな~、大変だよ~。事件だよ~」

 

「え? 事件って?」

 

 望乃の言葉に驚いた勇者部五人に、望乃はその内容を口にした。

 

「なんと、私の体重が増えてたの!」

 

 事件でも何でもない出来事に風は首を傾げた。

 

「それが事件?」

 

「そうだよ~」

 

「何が大変なの?」

 

 友奈も風と同じように首を傾げていた。

 

「え~? だって、私の体重が増えたんだよ?」

 

「普通じゃないの? いや、女の子的には事件かもしれないけど……」

 

「そうじゃないわよ」

 

「その意味だと、望乃ちゃんが明るい顔で入ってくる理由になりません」

 

「そうよね……」

 

「体重が増えるのって嬉しいことなんですか?」

 

「そうだね~。少なくとも私にとっては嬉しいことだね~」

 

 樹の質問に望乃が答える。

 

「望乃にとっては体重が増えるのも新鮮なのよ」

 

「今まで精霊だった望乃ちゃんは体重が増えることがなかった。けれど人間になって初めて体重が変わったことに嬉しく感じているんです」

 

 望乃が言うことの理由がわかっていたのであろう夏凜と東郷が説明する。

 

「なんだー。そういうことね。事件なんて言うから何事かと思っちゃったわよ」

 

 そのことに理解した風が安堵しながら言った。

 

「え~? 私にとっては十分事件なんだよ~。だってなんとね~、二キロも増えたんだよ!」

 

 望乃は非常に嬉しそうに笑った。

 

「むしろ毎日あれだけ食べててよくそれだけしか増えなかったわね」

 

 夏凜が呆れた表情でそう言う。

 望乃は人間になって、精霊の頃より食べる量が減ったのだが、それはあくまで人間レベルになっただけで、常人より遙かに食べることに変わりはなかったのである。

 

「とにかく全員揃ったことだし、始めるわよ」

 

 風の号令で各々の席に座る。

 

「さて、この時期と言ったら何かわかるわよね? 望乃?」

 

「え~? うどんがおいしいとか~?」

 

「それは一年中よ! 正解は? 樹!」

 

「え、えっと、ハロウィン?」

 

「そう! というわけで、今日の議題は『ハロウィンに向けての準備』よ」

 

「風ちゃ~ん。質問い~い?」

 

 望乃がゆるゆると手を挙げながら聞く。

 

「ん? 何?」

 

「はろうぃんって何~?」

 

「……えっ? 知らないの?」

 

「うん」

 

 望乃は本当に知らないようだった。

 風の代わりに東郷がハロウィンの起源から説明していた。その横で聞いていた友奈の頭には大量のハテナが浮かんでいた。

 その間話を進めるわけにも行かず、風はイスに座って頭を悩ませていた。

 

「まさか、ハロウィンを知らないとはね……」

 

「望乃はけっこう一般常識抜けてるわよ」

 

「確かに望乃さん、そういうところありますよね」

 

 数分後、東郷の説明の甲斐もあって、望乃はハロウィンを理解できた。

 

「早いわね」

 

「元々単語は知っていたみたいなので、理解も早かったみたいです」

 

 そうしてようやく話を進められるようになり、勇者部は再び先ほどと同じ形に座り、風がその前に立つ。

 

「えっと、改めて、今日の議題は『ハロウィンに向けての準備』よ! ハロウィン当日には仮装をして子供たちにお菓子を配りに行くわ。今日はその準備!」

 

 樹がその要約が書かれた紙を配る。そして樹がそれを読み上げる。

 

「えっと……お菓子は各自で準備してください。多すぎず少なすぎない量を用意してきてください。衣装は部室にあるものを使います。あとは紙を読んでおいてください」

 

 言い終わった樹の頭を風がよくできましたと言わんばかりに撫でる。それに樹は少し恥ずかしがっていた。

 

「ということはさ~、私たちは配るだけでもらえないの~?」

 

「当たり前でしょ。私たちがもらってどうするのよ」

 

「え~」

 

 そんな調子で話は進んでいった。

 衣装は以前使ったハロウィン用の衣装の中から選ぶことになっていた。

 

「いい? 子供が怖がりすぎない衣装にするのよ」

 

 風が何度も繰り返して言う。

 

「何でカボチャがあるの~?」

 

 望乃がカボチャに顔のような穴がある被り物を手に取る。

 

「それはカボチャのお化けなんだよ!」

 

「ジャック・オ・ランターンっていうの」

 

 友奈と東郷が望乃の質問に答える。

 

「へ~。私これにする~。なくなってもカボチャで代用できそうだしね~」

 

「できないわよ!」

 

 望乃の発言に夏凜がツッコミを入れたのは言うまでもない。

 結局望乃は、カボチャの被り物が気に入ったということで、ジャック・オ・ランターンの仮装をすることにした。友奈がフランケンシュタイン、東郷が魔女、風がドラキュラ、樹が狼の仮装をすることになった。そして夏凜は誰かはやるべきという理由で、半ば強制的にお化けの仮装をすることになった。

 

 

 

 

 

 

 そしてハロウィン当日。

 勇者部は事前に決めた仮装をして、各自で用意したお菓子を持って町中を歩いていた。

 そして「トリックオアトリート」と言ってくる子供たちにお菓子を渡して回っていた。

 勇者部は少し休憩がてらベンチに座っていた。

 すると不意に夏凜の肩を誰かにポンポンと叩かれた。振り返ると望乃がじっと見ていた。

 

「夏凜ちゃん。とりーとおあとりーと~!」

 

「……は? どういう意味よ、それ」

 

「えっとね、確か『トリックオアトリート』が『お菓子をくれないといたずらするよ』っていう意味だよね? だから、『お菓子をくれないとお菓子にしちゃうよ』っていう意味かな~」

 

「いたずらより怖いわね、それ」

 

 そう言いながら夏凜は持っていたにぼしの袋を望乃に渡す。

 

「何よそれ。にぼし? あんたそんなの配ってたの?」

 

 夏凜が渡したにぼしは小さな袋に入っているにぼしだった。

 

「お徳用パックよ」

 

「そんなの聞いてないわよ」

 

 道理で夏凜からもらった子供たちが微妙な反応をしているはずだと思った風だった。

 望乃はそんなことも気にせずに夏凜からもらったにぼしをボリボリと食べていた。

 

「思ったんですけど、『お菓子くれなきゃいたずらするぞ』って言いますけど、いたずらってどんなことがそうなんでしょうか」

 

 友奈がふと疑問を口にする。

 

「確かにそうね。やりすぎたらいたずらで済まないからねー。というかみんなならどんないたずらをする?」

 

「望乃なんていたずらをする姿自体想像もできないわね」

 

「樹もそうね」

 

「友奈ちゃんもそうですね」

 

「そうねえ。そうだ、じゃあその三人にどうするか聞いてみましょうか。気になるし」

 

 風が不敵な笑みを浮かべる。

 

「じゃあ誰から言う?」

 

「はい! 風先輩!」

 

「早いわね。じゃあ友奈から!」

 

「東郷さんのぼた餅食べたいです!」

 

「あ、私も食べたいな~」

 

「……今したいことじゃないわよ! じゃあもう、樹! 言っちゃって!」

 

 急に名前を呼ばれて、樹がビクッと肩を震わせる。そして答えを考えているのかおろおろし始めた。少しそうした後、勇気を出した口を開いた。

 

「こ、こちょこちょとか?」

 

 樹が少し照れながら言った。

 

「弱い! でも可愛いから許す!」

 

「許すんかい!」

 

 風が樹をギュッと抱きしめる。風の言動に夏凜がツッコミを入れるが聞こえていないようだった。その隣では望乃が風と樹を見て、目を輝かせていた。

 

「例を挙げた方が言いやすいんじゃないですか?」

 

 東郷がそんな提案をする。

 それを聞いて夏凜が頭を働かせる。

 

「そうね。例えば……相手を転ばすとか、ピンポンダッシュとか?」

 

「やることがこすいわね」

 

「う、うるさいわね!」

 

「あとは、恥ずかしい過去をばらすのはどうでしょう」

 

「それ身内にしかできないじゃない!」

 

「そういうのでいいんだ~」

 

 望乃がきょとんとした顔で言った。

 

「ほら、望乃が変な知識をつけちゃったじゃないの! どうしてくれんのよ! 今日一日中お菓子をあげ続けちゃいけなくなったじゃない!」

 

 夏凜が叫びに近い声で東郷に向かって言った。

 

「そんなに恥ずかしい過去があるんですか……」

 

「どんだけ恥ずかしい過去持ってんのよ」

 

 犬吠埼姉妹が夏凜の言葉に呆れていた。

 そして望乃が東郷の肩をトントンと叩いた。

 

「美森ちゃん。とりっくおあとりーと~」

 

「私? これは子供たちの分だからダメよ」

 

「じゃあ、いたずらするね~。えっとね~、美森ちゃんはね~、遠足の時にすっごい分厚いしおりを作ってきたんだよ~」

 

「え……」

 

 それは本来園子と銀しかしらない出来事だった。しかし望乃は自分が生まれるまでの園子の記憶を全て引き継いでいるため、このことを知っていたのである。

 それを思い出した東郷は驚いた状態から抜け出し、東郷にとってそれほど恥ずかしい出来事ではないそのことについて勇者部の面々に細かく教えた。

 

「あれ~? これは違ったのかな~?」

 

 その東郷の反応に一人ハテナを浮かべている望乃だった。

 そして配る用ではないお菓子を取り出して口に運ぶ。

 

「やっぱり私はいたずらよりお菓子かな~」

 

 誰に言うでもなくそう呟いた望乃だった。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで勇者部は無事にお菓子を配り終えた(夏凜のにぼしの大半は望乃がもらった)。

 そしてその翌日。

 ハロウィンが終わり、勇者部はまた依頼をこなす形に戻った。

 この日また望乃が少し遅れるということで雑談をしながら待っていた。すると、望乃が先日と同じように勢いよく扉を開けた。

 

「大変だよ~。事件だよ~!」

 

 既視感を覚えるセリフと共に望乃が部室に入る。

 

「どうしたの?」

 

 先日のこともあるので驚くようなこともなく冷静に聞き返す。

 

「え~とね、お胸が少し大きくなってたの~」

 

「何ですって!?」

 

 友奈と東郷を除いた三人が驚嘆の声を上げた。

 

「ちょっとだけなんだけどね~。生まれてから変わったことがなかったからびっくりしちゃった~」

 

 元々望乃の体は園子の小学生時のものなので、見た目は樹よりも幼かったのだが、人間になったことでその体が成長し始めたのだ。

 望乃がそのことを伝えると、友奈が少し嬉しそうな表情になった。

 

「じゃあ、これから大きくなるんだね!」

 

「そうだね~。もう別の人間になったとは言っても、私は元々ご主人様のコピーだから、ご主人様に近い体型になるかもしれないね。ならないかもしれないけどね~」

 

 勇者部の面々はその出来事に驚きを隠せずにいた。特に樹は一応年上で自分と同じような体型だった望乃にどこか安心感を覚えていたので、裏切られたような気分になり、さらにそのように思ってしまった自分を恥じていた。

 

「今はまだちっちゃいけどね!」

 

 望乃がふんすと得意げに腕を組む。

 

「何で得意げなの?」

 

 それに東郷が独り言のようなツッコミを入れていた。

 

「あ、でも残念なことに、体重は前より減っちゃったんだよね~」

 

「あんなに食べてたのに!?」

 

 風が再び驚く。その隣の夏凜は驚きを通り越して呆れていた。

 

「とにかく、今日の依頼を片づけるわよ。東郷」

 

「あっ!」

 

 東郷が今日の依頼を言おうとした瞬間、望乃が何かを思い出したような声を上げた。

 

「どうしたの? 望乃ちゃん」

 

 友奈が突然声を上げた望乃に聞いた。

 

「えっとね、大事なこと言い忘れてたの」

 

「大事なこと、ですか?」

 

「じゃあ、先にその話を聞きましょうか」

 

「また変なことじゃないでしょうね」

 

「望乃! さっさと言っちゃいなさい!」

 

 勇者部メンバーから許可をもらった望乃がその内容を口にした。

 

「明日、ご主人様が転校してくるんだって~」

 

「……え?」

 

 部室内は静まりかえった。そして勇者部は互いの顔を見合ってから風が代表して言った。

 

「そういうのは、もっと早く言いなさいよ!」

 

 風の叫びは部室中に響きわたった。

 




と、いうわけで、次回は園子様襲来+番外編最終回です。
ちなみに園子様の転校時期は適当です。
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