小木曽望乃は勇者である?   作:桃の山

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 本日で第一話からちょうど一年です。それと同時に番外編最終回です。

 最終回なんですけど、望乃と園子がメインです。


これからも

 望乃の言ったとおり、望乃の主人こと乃木園子が友奈たちのクラスに転校してきた。

 

「乃木園子だよ~。よろしくね~」

 

 体中に巻かれていた包帯は取れ、元の姿になっている。当たり前なのだが、人間になる前の望乃と瓜二つで、望乃の体全体が大きくなり、髪が長いだけである。どちらかが髪を合わせれば一瞬どちらかわからなくなってしまうほどだった。

 というのがクラス内の勇者部で唯一園子と初めて会った夏凜の第一印象であった。

 休み時間になると夏凜を除いた三人が園子の席に集まる。

 

「やっほ~。わっしー……ってもう違うんだっけ?」

 

「わっしーでいいわ」

 

「良かった~。それからゆーゆもよろしくね~」

 

「ゆーゆ!?」

 

「友奈ちゃん。そのっちはいつもこんな感じよ」

 

「そうなんだー」

 

 園子は友奈の隣に立つ望乃に視線を向ける。

 

「あと、あなたの名前も考えないとね~」

 

「私のですか?」

 

「そうだよ。あともう敬語は使わなくていいんだよ」

 

「望乃ちゃんって敬語使えるのね」

 

「初めて聞いたね」

 

「ご主人様限定だけどね~」

 

「その呼び方も直してね~」

 

「は~い」

 

 その後、望乃の『ご主人様』呼びに反応したクラスメイトがどういう関係なのかを聞いてきたが、何とか誤魔化した。

 それを遠目で見ていた夏凜は大きくため息を吐いていた。

 

 放課後になり、夏凜が一足先に部室へと向かう。

 そこに後ろから自分を呼ぶ声が聞こえ、手で夏凜の目を覆う。

 

「だ~れだ!」

 

「誰ってその声は望乃でしょ」

 

 夏凜はそう言いながら手をどけて振り返る。

 

「ざんね~ん。私でした~」

 

 しかしそこにいたのは園子だった。

 望乃と園子の声は同じ声なので見分けがつかないのである。

 

「の、乃木園子……」

 

「夏凜ちゃん、だよね? あの子がよく話していたからよく知ってるよ~」

 

「……そう」

 

 そうしていると、望乃が園子の後ろからのんびりと歩いてきた。

 

「やっほ~。どうしたの? こんなところで~」

 

「ちょっと話していただけだよ~」

 

 声が同じな上に口調まで似通っているので、目を閉じて聞くとどちらが話しているのかわからない。目を開けていても人間になる前の望乃の姿だとほとんど見分けがつかない。そういう意味では望乃の髪が変わって良かったとつくづく思った夏凜だった。

 

「あんたら声が同じだから紛らわしいのよ!」

 

「そんなこと言われても~」

 

 望乃と園子が同時にそう言った。

 望乃がもう一人増えたような現状に夏凜はため息を吐くしかなかった。

 

「あっ、今から勇者部の部室に行くんだよね~?」

 

「うん。私も勇者部に入部したいからね~」

 

「じゃあ、こっちだよ。ご主人様……じゃなかった、えっと園子ちゃん」

 

 望乃と夏凜を先頭にして三人で部室へと向かった。

 

 部室に到着し、全員が集まってから風が園子に自己紹介をした。

 

「初めまして。私は犬吠埼風。勇者部の部長よ。こっちが妹の樹」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「よろしくね~」

 

「で、そこにいる無愛想なのが夏凜で――」

 

「誰が無愛想よ!」

 

「他は知ってるよ~」

 

 園子が脳天気に答える。

 

「そういえばそうだったわね」

 

 そこに夏凜に抱きつきながら望乃が割り込んでできた。

 

「ご主人様……園子ちゃんは勇者部のことほとんど知ってるよ~。私が話したからね~」

 

「変なことまで言ってないでしょうね?」

 

「ん~? 私の知ってることは全部言ってるよ? それが私の義務だったからね~」

 

 そこに東郷が重箱を持って近づいてくる。

 

「そのっちの転校祝いのぼた餅よ」

 

「わーい!」

 

「わ~い」

 

 それを聞いた望乃と友奈が嬉しそうに喜んでいた。

 

「わっしーのぼた餅、その子に聞いてから食べたくて仕方がなかったんだ~」

 

 園子はわくわくしたような表情で食べるのを楽しみにしていた。

 相変わらず夏凜は口にはしなかったが、園子は喜んで食べていた。

 

「それにしてもわっしーとゆーゆ、創作が捗るね~」

 

 友奈に食べさせてあげている東郷を見て、園子がそんなことを呟いた。

 

「やっぱり本物もこんな感じなのね」

 

「そりゃあ、望乃のコピー元なんだから仕方ないわよ」

 

 風と夏凜は予想通りといえば予想通りである園子の言動に呆れかえっていた。

 

「そうでしょ~。でも私は友奈ちゃんと夏凜ちゃんも良いと思うな~」

 

 当の望乃は園子と百合談義をしていた。

 

「それは違うよ~。だってにぼっしーちゃんの相手はコギー、あなたなんだから~」

 

「私?」

 

「コギーにツッコミなさいよ! ていうか、にぼっしーで呼ばないでよ!」

 

 少し離れた場所で聞いていた夏凜がツッコミを入れた。しかし望乃は何とも思っていない様子だった。

 

「ご主……園子ちゃんはいつもこんな感じだよ~?」

 

「ふっふっふ~。コギーに聞いた話とここでのことで、私の中ではコギー×にぼっしーが確立したんだよ~」

 

「だってさ~。夏凜ちゃん」

 

「はあ? わ、私と望乃はそんなんじゃないわよ!」

 

「いいねいいね~」

 

「ん~。確かに私は夏凜ちゃん大好きだけどな~。夏凜ちゃんは?」

 

「私も好きに決まってるって……」

 

 夏凜は言い終わった後に気付いた。目の前にいる園子が満足そうな顔をしていることに……。

 

「グッジョブグッジョブグッジョブ!」

 

「あぁー!」

 

 夏凜はしまったと言わんばかりに雄叫びをあげた。

 

「夏凜ちゃん、おかしくなっちゃった」

 

 その夏凜の近くで望乃がそう小さく漏らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、園子の歓迎会としていつものうどん屋にやってきた勇者部一行。この日は珍しく夏凜が園子の隣に座った望乃から離れた場所に座った。

 園子は久しぶりに食べた好物のうどんに、ぼた餅の時以上に嬉しそうな表情になった。

 

「そういえば、突然転校してきたけど、園子は勉強の方は大丈夫なの?」

 

 風がふと疑問を聞いた。

 

「ちょっと大変だけど何とかできると思うよ~」

 

「そのっちは勉強はできるのよ」

 

 東郷が園子の言葉に付け加える。

 

「えぇー! 園ちゃんは私と同じだと思ってたのにー」

 

「望乃で察しなさいよ!」

 

「望乃さん頭良いですもんね」

 

「?」

 

 夢中でうどんを食べていた望乃は話を全く聞いていなかった。

 

 それから全員が食べ終わり(望乃は三杯目で止められた)、うどん屋を出た。

 

「園子は望乃ほど食べないのね」

 

「うん。私は食べることよりぼーっとしてる方が好きだからね~」

 

「その辺りの性格は結構違ってるところがあるんだよ~」

 

 園子と望乃が説明をする。

 その瞬間望乃が何か思い出したかのような声を上げた。

 

「あ、そうだ~。ご主……子ちゃん。今度のお休みにどこかお出かけしない?」

 

「ご主子って誰よ!」

 

「うん、いいよ~」

 

「園子も普通に返さないで!」

 

「望乃ちゃん園ちゃんとどこか行くの? 私も行きたいな!」

 

「友奈ちゃんが行くなら私も!」

 

「ん~。お昼からならいいかな?」

 

「お昼からですか?」

 

「うん。ちょっとね、同一人物同士で語り合いたいこととかあるんだ~」

 

「わかった! じゃあ、お昼からだね!」

 

「同一人物同士のとこにはツッコまないの?」

 

 そうしてその当日。

 午前十時頃、望乃と園子は集まっていた。

 

「やっほ~」

 

「やっほ~。ご主……園子ちゃん」

 

「コギー、まだ慣れないの?」

 

「うん、まだ慣れないかな~」

 

「そっか。それにしても、うん! やっぱりそれよく似合ってるよ~」

 

「そうかな~」

 

 望乃は自身の服を確認する。

 普段は適当な服しか着ていないのだが、この日は一段と女の子らしい服装をしていた。その理由は前日に園子が見繕ったからだった。

 望乃がくるりと一回転する。制服以外では履かないスカートがふわりと風になびいた。

 

「うん、コギー可愛いよ~」

 

「ありがと~。じゃあ、そろそろ行こっか~。ご主……子ちゃん」

 

 そうして二人は歩き出した。

 

「だから、ご主子って誰よ!」

 

 そこから少し離れた場所で小声のツッコミを入れながら二人を見張っている者がいた。

 

「ってそんなこと言ってる場合じゃないわ。追いかけないと」

 

 その正体は三好夏凜。二人に見つからないように尾行していたのである。

 

「何で私たちまで夏凜に付き合わないといけないのよ」

 

「お姉ちゃん、落ち着いて……」

 

「はい、友奈ちゃん。あーん!」

 

「うん! おいしいよ! 東郷さん!」

 

 他の勇者部の四人も駆り出されていた。

 

「何のんびりしてるのよ! 早く追うわよ!」

 

 夏凜が急いで二人を追いかける。風が文句を言いながら樹と一緒に夏凜に続き、友奈と東郷は友奈がぼた餅を飲み込んでから後を追いかけた。

 

 望乃と園子はそれからジェラードを食べて目を輝かせたり、うどんを一緒に食べたり、犬と戯れたりしていただけだった。

 

「ねえ、夏凜。今更だけどさ、何であの二人の後を追ってるわけ?」

 

「私はただ、園子のことをまだ信用してないだけよ。先代勇者だか望乃の元主人だか知らないけど、すぐには認めないわ」

 

「ああ、いつもツンデレかー」

 

「ツンデレ言うな!」

 

「でもそれと尾行は関係あるんですか?」

 

 樹がそう聞き返した。

 

「あるわよ。そんな相手と望乃を二人で会わせるわけにはいかないでしょ。それに、なんか最近、望乃が園子の話ばかりするし、園子から服もらって嬉しそうにしてるし、今日だって楽しそうに出て行ったし……」

 

「要するに嫉妬ね」

 

 東郷が夏凜の言葉の途中でそう言った。

 

「嫉妬かあ」

 

「……ですね」

 

 風と樹もその意見に賛同した。それに対して夏凜が否定しようとした瞬間、友奈が突然声を上げた。

 

「あっ、園ちゃんが望乃ちゃんに何か渡してるよ」

 

「何ですって!」

 

 慌ててそちらに視線を向けると、園子が紙の束のようなものを望乃に渡していた。しかし何を話しているのかは聞こえない。

 

「ここじゃ聞こえないわ。もう少し近付くわよ」

 

 気付かれないように近付くと段々と声が聞こえてきた。

 

「……どう? この新作」

 

「うん。いいと思うよ」

 

「いや~、考え出すと手が止まらなくって~」

 

「ん~。でも何で友奈ちゃんと美森ちゃんじゃないの?」

 

「コギーに見せるならそれかなって。良いと思うんだよね~。自覚なしのコギーとツンデレのにぼっしーちゃん」

 

 話している内容を聞いた瞬間、それに動揺した夏凜が小さな物音を立ててしまった。

 

「……! 誰かいる。ご主……園子ちゃん、こっちに!」

 

 それに警戒した望乃が園子を連れて走り去っていく。

 そして二人を尾行していた五人は二人を見失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 走って場所を移した望乃と園子は、近くで飲み物を買ってからベンチに座って休むことにした。

 

「多分、ここまで来たら大丈夫だと思います」

 

 園子は多分勇者部の人たちだろうなとは思ったが、望乃には言わなかった。

 

「……ご主人様」

 

「コギー、また――」

 

「わかってるよ。ちょっと、今から今日の本題に入っていい?」

 

「そういえば、何か用があったんだよね?」

 

「うん。私が人間になってからあまり話せる時がなかったから……」

 

「皆がいる時じゃダメなことなの?」

 

「みんなの前だと、少し恥ずかしいことだからね」

 

 その言葉を聞いた園子は少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「そっか。じゃあ、どうぞ~」

 

「……まずはいろいろとありがとうね。ご主人様のおかげで夏凜ちゃんとも会えたし、勇者部のみんなとも出会えた。まずはそのお礼が言いたかったんだ~」

 

「私は何かした覚えはないよ。コギーが頑張った結果なんだからね」

 

 望乃は一息ついてからさらに言葉を続けた。

 

「ううん。ご主人様のおかげだよ。本来ただ精霊として生きる以外なかった私に、友達を作ることを教えてくれた。そのおかげで夏凜ちゃんと仲良くなれて、思い出ができた。その後勇者部のみんなと仲良くなって、普通の人間のような暮らしができた。私もね、ずっとみんなと一緒にいたいって思ってたの。でもそれは絶対に叶わないから、仕方ないことだからって思ってたの。そしたらさ、みんなを守ることができて、こうして人間になることもできた。本当に叶っちゃたの。夏凜ちゃんやご主人様、友奈ちゃんに美森ちゃん、風ちゃんそれから樹ちゃんとこれからもいろんな思い出が作れるようになれた。そのことが私は嬉しくてたまらないんだ~」

 

 

 そう言い終わった望乃の目元にはかすかに涙がにじんでいた。

 

「でもやっぱり、それはあなたの頑張りのおかげだと思うよ。それからさ~、今からわっしーたちのところに行かない?」

 

「ふえ?」

 

「勇者部の皆ともっとも~っとコギーの思い出作ろうよ」

 

「うん!」

 

「あー! 望乃ちゃんと園ちゃんいたよー!」

 

「友奈ちゃん声が大きいわよ」

 

 望乃が園子に微笑み返した瞬間、どこからか友奈と東郷の声が聞こえた。

 

「友奈、どこよ!」

 

「そんなに焦らなくても大丈夫よ」

 

「お、お姉ちゃん、待って」

 

 続いて夏凜と風、樹の声も聞こえてきた。園子が五人を呼ぶと、互いの顔を見合わせてから近付いてきた。

 

「ちょっと、望乃。鼻の頭少し赤くなってるわよ。園子に何かされたんじゃないでしょうね」

 

「大丈夫だよ。何もされてないから」

 

「にぼっしーちゃんのツンデレいいね~」

 

「そんなんじゃないわよ!」

 

「望乃ちゃん、園ちゃんとの用事は終わった?」

 

「あ、うん。終わったよ」

 

「じゃあ、いまからみんなでどこか遊びに行こ―!」

 

「私は友奈ちゃんに賛成よ」

 

「わ、私もです」

 

「しゃーないわね」

 

「全く、仕方ないわね!」

 

「うん! 行こう行こう~」

 

 望乃は六人を一通り見渡してから再び笑った。

 

「そうだね~。みんなで行こっか~」

 

 七人に増えた勇者部全員が歩き出す。しかし何を思ったのか望乃が足を止める。それに気付いた六人が振り向く。

 望乃はこの時精霊としての自分の最期の時のことを思い出していた。そして、その時と同じ最高の笑顔を六人に向けた。

 

「夏凜ちゃん、友奈ちゃん、美森ちゃん、風ちゃん、樹ちゃん、……園子ちゃん。みんなみ~んな、だ~い好きだよ!」

 

「……ちょっ!」

 

 六人に向かってそう言った瞬間、望乃が夏凜に勢いよく抱きついた。

 

「だから、これからもみんなでい~っぱい思い出作ろうね!」

 




 というわけ終了です。

 次回作の予定は全く決まっていません(というか次回作があるかどうかもわかりません)。

 今までこの作品を見て下さった皆様、本当にありがとうございました。
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