私の名前は小木曽望乃。
讃州中学に通う二年生。今日はそんな私の一日を紹介しちゃうよ~。
私はいつも朝の七時くらいに学校に着くの。教室に着いて、もちろんまだ誰もいないから寝ます。
目が覚めて授業中だったらまた寝ます。
休み時間だったら寝ます。
移動教室だったら夏凜ちゃんが起こしてくれます。
お昼の時間だったら夏凜ちゃんと友奈ちゃんと美森ちゃんと一緒になんかいっぱい食べます。
午後の授業が始まったら寝ます。
放課後になったらみんなと勇者部に行きます。頑張ります。
終わったら夏凜ちゃんと帰ります。
終わり。
「ほとんど寝てしかいないじゃない!」
風が盛大にツッコむ。今の話は風たちが望乃の一日を聞き、その返答だったのである。
「今さら望乃の言動にツッコんだところで変わらないわよ」
望乃をよく知る夏凜が風にそう言う。
「いや、待って。望乃! 私たちと過ごさない休日は何をしてるのかしら?」
「どうせ意味ないって」
「んっとね~」
私の名前は小木曽望乃。次は予定がない休日を紹介するよ~。
まず寝ます。
起きたらまた寝ます。
お腹がすいたら何か食べます。
食べたら寝ます。
終わり。
「お前はウシかー!」
またしても風が盛大にツッコむ。
「だから言ったでしょ?」
「も~」
「鳴きまねするな!」
「お、お姉ちゃん落ち着いて」
興奮している風を樹がおろおろしながらなだめる。
そこに、掃除当番で遅れていた友奈と東郷が部室に到着する。事情を知らない二人は今の状況を飲み込めることができなかった。
「何かあったんですか?」
「聞いてよ東郷! 望乃の奴がね、毎日毎日寝てばっかりなのよ!」
「確かにそうですね。授業中に起きているところを見たことがありません。それなのになぜか頭はいいんですよね?」
「そうなの?」
驚愕の事実に驚く風。
「望乃ちゃんすごいんですよ! この前のテストだって満点でしたもん!」
「当たり前よ! 望乃は昔から呑み込みが早いんだから」
「でも、そんなに食っちゃ寝してたら太るわよ」
「私、太らないから大丈夫だよ~」
その瞬間、その場の空気が凍り付いた。
「そ、そんな……。食べた後に寝たら太るっていうのは迷信だったの?」
「待ってください、風先輩。いくら太らない体質だったとしても、限度があるはず」
「どれだけ食べても問題ないよ~」
「うそ!?」
「ねえ、何よこれ」
「あはははは……」
今のやり取りに呆れる夏凜と、苦笑いしかできない樹であった。
夏凜は軽くため息をつきながら、お約束のにぼしを取り出す。
「夏凜ちゃ~ん。にぼしちょうだ~い」
望乃が夏凜に抱き付きながら要求する。
「嫌よ」
「もうつれないな~」
それ以外の四人は望乃の突然の行動に戸惑うが、夏凜にその様子はない。それどころか、いつもされているかのような対応の仕方である。
「えっと、夏凜。それについて説明してもらえる?」
「え? ああ、これは望乃の癖なのよ」
「癖?」
勇者部四人の声が被さる。
「そう。大赦にいる時からそうだったんだけど、よく人に抱き付く癖があったのよ。ここに来てからはなかったのよね。なぜか」
「それは夏凜ちゃんのためかな~。夏凜ちゃんがみんなと仲良くなるまで待とうって思ってたから~。それと、私はお友達にしか抱き付かないよ~。心から信頼してるお友達に、だけ」
新たな一面を知った勇者部、特にこの数分だけで知らなかった望乃の姿を多く知った樹と風は驚きに満ちていた。
それからしばらくすると、望乃は料理部に呼ばれているということで出て行った。望乃の食べっぷりと何よりもおいしそうに食べる姿が気に入られたらしい。望乃自身もいっぱい食べられるということで協力している。ちなみに望乃は失敗作であっても食べてくれるのである。
望乃が出て行くと、部室内が会議中のような空気に染まる。
「さて、今日の議題は『望乃について』よ」
「『望乃について』ってどういうことよ?」
「言葉の通りよ。何だかあの子ってわかりにくいのよね……。夏凜と違って接しやすくはあるんだけど」
「接しにくくて悪かったわね」
「だからかもしれないけど、何を考えてるのかいまいちよくわからないのよね」
「確かに、それはあるかもしれませんね」
東郷が風の言葉に賛同する。
「というわけで、私の知らない望乃の姿を教えなさい!」
「要はもっと望乃のことを知りたいってわけね。回りくどいわね」
「いいじゃないの。私と樹はここでしか会えないんだから。じゃあまず友奈から!」
風が友奈を指差す。
「え? 私? えーっと、望乃ちゃんはクラスのみんなから人気がありますよ! よくお菓子とかもらってますし」
「なるほどね! よく部室に持ってくるお菓子はもらったものだったのね。次は東郷! よろしく!」
「この前望乃ちゃんにいつも寝ていて大丈夫なのかを聞いたんです。その時に『私は将来なんて考えなくていい』と言っていましたね」
「そりゃあ望乃は頭も良いし、大体何でもできるし、加えて家も裕福らしいから考えなくてもいいでしょ。最悪、フードファイターにでもなれば望乃の右に出る奴なんかいないし!」
夏凜が自慢気に望乃のことを話す。
「確かに、おりがみ教室の時も望乃さんすごかったです」
夏凜の言葉を聞いて樹がその時のことを思い出す。
「聞けば聞くほどハイスペックね、あの子。何か苦手分野とかないの? 夏凜」
見た目に反してスペックが高すぎるからなのか、なぜか風は望乃の苦手なことを知りたがった。
「そうね。苦手分野ではないけど、表情がわかりづらいわね」
「どういうこと?」
「望乃ちゃん、いつも楽しそう見えるけど違うの?」
風と友奈が夏凜の言葉に疑問を口にする。
「それは多分違わないわ。だけど、そればかりなのよ。私もけっこう付き合いが長いけど、笑顔と真剣な顔しか見たことないのよ。まあ、温厚な子だからその状況にならなかっただけだと思うけどね」
「こう聞いてみると、やっぱり私たちとは少し距離を置いてるように感じますね」
「単に望乃が自分のことを語るのが好きじゃないのよ。私にだってあまり言いたがらないし」
「夏凜! 望乃のことを全て知ってると思ったら大間違いよ!」
「べ、別にそんなこと思ってないわよ」
「じゃあ、望乃の誕生日は?」
「八月三十日」
「血液型!」
「O型」
「好きな食べ物!」
「何でも好きだけど一番はうどん!」
風の質問に淡々と答える夏凜。
「やるわね。まあ、私は答え知らないから正解かわからないけど」
「何のために聞いたのよ!」
「というわけで、後をつけるわよ!」
「何よ、いきなり」
風が突然提案する。
「それは犯罪ですよ。風先輩」
「大丈夫よ。それにみんなも気にならない? 望乃が夜に何をしてるか……」
「家でゴロゴロしてるだけよ」
「それは実際に見たの?」
「見て、ないけど……」
「でしょ? 誰も夜の望乃の姿を知らないのよ! 私が思うに、男といるわね」
「え!?」
風以外の四人が声をそろえて驚く。
「また根拠もなしに……」
そして樹が呆れたような声を出す。
「だからそれを突き止めるのよ! 私たちの手でね!」
結局、その場の流れで決行することになってしまった勇者部。
まずは望乃を携帯で呼び出す。
夏凜が勇者部と仲良くなって以降、今回のように単独行動した時は一人で帰ってしまうこともあったので、一応うどん屋に行こうと伝える。
予想通り望乃と合流することに成功し、うどん屋に向かう。
そこで、望乃が料理部で食べたにも関わらず、うどんを10杯食べて驚いたりもしたが、無事に食べ終わる。
店を出ると、携帯で時間を確認した望乃が
「私、ちょっと用事があるからもう帰るね~」
と、そそくさと退散する。
そこで勇者部は、例の作戦を決行に移した。
車イスの東郷とそれを持つ友奈は参加せず、三人でそそくさと退散した割にはのんびりと歩いている望乃の後をバレないように追う。
「これ、家とは違う方向ね」
しばらく進んでから夏凜が呟く。
それからもう少し進むと、遠くに高校生らしき男性が立っているのが見えた。その瞬間に望乃がその男性に向かって駆け出す。
それを見て、風が興奮し、夏凜が今までにないほどの驚きを見せ、樹が口元に手を当てる。
そして望乃は、その男性の前で立ち――止まらず、その奥の弁当屋に直進した。
望乃は弁当を買った後、後をつける勇者部に気付いたようで、走って逃げ出す。
その先に何かがあるのではないかと思った風とそれに付き添う二人は追いかけるが、まかれてしまった。
そしてその次の日。
「ねえねえ、夏凜ちゃん。昨日ね~、後をつけられてたみたいなの~。怖かったから走って逃げたんだけとね~」
夏凜はまあ普通そうするわよね、と今更ながら思った。
「と、ところで望乃は、こ、恋人とか興味ないの?」
風の言葉が気になっていた夏凜は本人に聞いてみることにした。
「? 私、そういうのはよくわからないから~。あ、でも、女の子同士がイチャイチャしてるのを見るのは好きだよ~」
「そ、そう?」
夏凜は初めて聞いたことにあえてツッコまなかった。
その目の前で望乃が大きくあくびをする。
「夏凜ちゃん。私眠いから寝るね~」
そう言いながら机に突っ伏す望乃を見て、やっぱり望乃は望乃ね、と一人で結論づけた夏凜だった。
ほとんど望乃を紹介するための回でした。
こんな作品を読んでくださっている方、マイリスをしてくださった方、本当にありがとうございます。
これからも頑張っていこうと思っていますので、何卒よろしくお願いします。