小木曽望乃は勇者である?   作:桃の山

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勇者と歌

 いつも通り平和な勇者部。

 友奈は勇者部の新聞を練っていて、東郷はサイトの編集をしている。風は何かのストーリーを書いていて、夏凜はにぼしを食べている。望乃はそれを、指をくわえてもの欲しそうに見ている。

 そんな中、風が夏凜のあだ名を、にぼしを食べていることから『にぼっしー』と名付ける。その最中に望乃が、そーっとにぼしを取ろうと狙いを定めて、魚が他の魚を食べるかのように俊敏に一つ手に入れていた。

 

「そういえば、にぼっしーちゃん」

 

「待って、その名前定着させる気?」

 

「え~、可愛いよ~」

 

 望乃が息をするように夏凜に後ろから抱き付く。

 

「私は嫌なの!」

 

「それより、飼い主探しのポスターは?」

 

 東郷はそんなやり取りを無視して尋ねる。

 

「ん? もうそんなの作ってあるわ」

 

 夏凜は自慢げに自身が作ったポスターをみんなに見せる。

 

「わあー、ありがとう!」

 

 自信満々な夏凜。しかし、その絵は何の生物なのか理解しづらい絵だった。

 

「えっと……妖怪?」

 

「猫よ!」

 

 このように、少なくとも猫とは思えない代物だった。

 

「これは望乃にも頼んでおいて良かったわね。望乃も出してくれる?」

 

「あ、は~い」

 

 望乃が鞄からポスターを取り出す。

 なんだかんだ言っても、望乃は器用なので問題はないだろうと思っていたのだが、望乃のポスターを見た反応は

 

「こ、これは……ちょっと」

 

「怖い?」

 

 というものだった。望乃の絵は確かにうまいことはうまいのだが、絵がリアルすぎて恐怖を覚えてしまいそうな絵だったのだ。

 そこに、樹が露骨に大きなため息をついた。

 その理由はもうすぐ歌のテストでうまく歌えるか占っていやのだが、『死神』のカードが正位置で出てしまったらしい。

 そこで友奈がもう一度タロットカードで占ってはどうかと提案する。しかしその結果は、四連続『死神』の正位置である。さすがの風たちも言葉が見つからない。

 

「樹ちゃん、もうしない方がいいかも~」

 

 望乃の言葉に樹が小さく頷く。この時の望乃の言葉にみんなと違う意味が含まれていたことには、誰も知る由はない。

 というわけで、今日の勇者部の活動は『樹を歌のテストで合格させる』こととなった。

 

「歌がうまくなる方法か―」

 

「まず歌声でアルファ波を出せるようになれば、勝ったも同然ね!」

 

「アルファ波……」

 

「良い音楽や歌というものは、大抵アルファ波で説明がつくの」

 

 東郷が謎の動きを見せる。

 

「そうなんですか?」

 

「んなわけないでしょ!」

 

「夏凜ちゃん。アルファ波って何~?」

 

「私が知るわけないでしょ!」

 

「樹、一人で歌うとうまいんだけどねえ。人前で歌うのは緊張するってだけじゃないかなあ」

 

 風がおそらく正解であろうことを言う。

 

「緊張か~」

 

「望乃には一番遠い言葉かもしれないわね」

 

「そっか。それなら、習うより慣れろだね!」

 

 友奈が手をポンと叩いて出した提案は、考えるよりもやった方がいいということで、みんなでカラオケに行くことだった。

 

「私、カラオケって初めて~」

 

 と楽しみにしている望乃。カラオケに着き、受付を済まして部屋に入る。

 望乃は夏凜の右隣に座る。画面が一番近いところである。

 夏凜が風に対抗して全力で友奈と歌ったり、望乃が完全にうろ覚えで歌ったりして盛り上がる勇者部の面々。自分の番以外の時の望乃は歌う歌を選ぶのではなく、牛鬼とお菓子の取り合いをしていた。

 順番は樹の番になり、マイクを持って前に出る。知り合いとはいえ、人前で歌う練習である。しかし、やはり緊張してうまく歌うことはできなかった。

 

「まあ、今はただのカラオケなんだし、うまかろうと下手だろうと、好きな歌を好きに歌えばいいのよ」

 

「そうそう。気にしない気にしない!」

 

 樹にフォローを入れる風と友奈。

 

「そうだよ~。楽しめればいいんだよ~」

 

「望乃はもう少し真面目に歌いなさい。あんた、覚えてない歌詞を『フフフン』って誤魔化したり、歌の途中で忘れたとか言ったり、自由過ぎよ」

 

「そうかな~?」

 

 樹と望乃を合わせて二で割ったらちょうどよくなるんじゃないのか、と思った風だった。

 

「さあお菓子でも食べて……って残ってない!」

 

「え!? まさか、望乃?」

 

 風が根拠もなく望乃を疑う。

 

「私じゃないよ~。犯人は~、そいつだ~!」

 

 望乃が指を差したのは牛鬼だった。よく見てみると、いやよく見なくても、お腹がパンパンに膨らんでいることがわかる。

 

「なんか、無闇に疑って悪かったわね」

 

「気にしてないよ~。それより、夏凜ちゃん。にぼしちょ~だい!」

 

「何でそうなるのよ!」

 

「え~、だって奪い取れたの一つだけだったんだもん」

 

「ダメよ!」

 

「ね~。おねが~い! 夏凜ちゃんのにぼし、すごくおいしかったからまた食べたいんだ~」

 

「……し、仕方ないわね。少しだけよ」

 

「ありがと~!」

 

「ちょっと! 抱き付かないで!」

 

 その瞬間その場にいる全員がチョロい、と思ったことは内緒である。

 そして、東郷が歌う番になった。

 その瞬間、友奈、風、樹の三人が立ち上がり敬礼をする。

 

「え? 何?」

 

 状況を理解できない夏凜が戸惑って望乃に同意を求めようするが、

 

「何で望乃もやってんのよ!」

 

 夏凜からもらったにぼしを口にくわえた望乃が、三人と同じように敬礼していた。

 

「ノリで~」

 

 東郷が歌い終わり、夏凜以外の四人も敬礼をやめて座る。

 東郷が歌う時はいつもあんな感じであるらしい。

 そのようにしていると、突然風が席を立ってトイレに入る。大赦から連絡が来たことに気付いた夏凜が後から入ってくる。基本大赦の連絡は夏凜か風に送られるのだ。

 内容は『最悪の事態を想定しろ』とのことだった。

 

「怖いの?」

 

 それを聞く風の手は震えていた。

 

「あなたは統率役には向いてない。私ならもっとうまくやれるわ。望乃の方がうまくできるかもしれないけど」

 

「これは私の役目で、私の理由なのよ。後輩は黙って先輩の背中を見てなさい」

 

 風はそう言いながら出て行った。

 

 結局、その日は楽しんだだけで終わりを告げた。

 その帰り道、みんなで一緒に帰っていた。

 

「カラオケはあまり樹ちゃんの練習にはならなかったかな」

 

「でも楽しかったですよ。みんなが歌うのを聞けて」

 

「私も楽しかったよ~」

 

 深刻そうな顔をしていた風に樹が呼びかける。

 

「え? 何?」

 

「樹の歌の話よ」

 

「風先輩、何かあったんですか?」

 

「ううん。何にも……」

 

 友奈から心配されるが、強がりを見せる風。

 

「樹はもう少し練習と対策が必要かな?」

 

「アルファ波を出せるように……」

 

「アルファ波から離れなさいよ」

 

「それよりお腹すいた~」

 

「カラオケでいっぱい食べてたでしょ?」

 

 その中で笑う風を樹が心配そうに見ていた。

 




 今回はいつもより少し短くなってしまいました。

 次でアニメの四話を終わらせます。
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