小木曽望乃は勇者である?   作:桃の山

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私の気持ち

 本日も勇者部は部室に集まっていた。今日の議題も昨日と同じである。

 今日は夏凜が喉に良い飲み物とサプリを大量に持ってきた。夏凜が聞いてもいないのに説明を始める。

 

「夏凜ちゃんは何かあったら大体サプリで解決しようとするんだよ~」

 

「望乃さんも飲んだことがあるんですか?」

 

「ううん。私には必要のない物質だからね~」

 

「聞きなさいよ! まあいいわ。さあ樹。これを全種類飲んでみて。ぐいっと!」

 

「え? 全種類?」

 

 突然の無茶ぶりに、樹が驚きを見せる。

 

「多すぎでしょそれはさすがに夏凜でも無理じゃない?」

 

 風の言葉に夏凜が乗せられてしまう。

 夏凜が大量のサプリを口に入れ、オリーブオイルで流し込む。しかし、すぐに顔が青くなって涙目で部室を出て行った。帰ってきた夏凜が一つでいいと訂正して樹も飲むが、うまく声を出すことはできなかった。

 その夜、キレイな歌声で歌う樹の姿があった。場所は風呂であったが……。

 

「やっぱり樹。一人で歌うとうまいじゃん!」

 

 しかも風に聞かれてしまっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 風と樹の両親がバーテックスとの戦いで命を落とした。それからというもの、風が母親代わりとして樹を育て、守ってきた。勇者部のことを一人で抱え込んでいた風を見て、樹は後ろに隠れている自分ではなく、隣を歩いていける自分だったら……と思った。そんな夢を見ていた樹は風に起こされて目が覚めた。

 風は朝食を用意している。もちろん精霊にもご飯をあげていた。そこに着替えを済ませた樹が部屋から出てくる。眠そうに朝食を食べる樹の寝癖に気付いて風が櫛で梳かしてあげる。

 

「元気ないね。どうした?」

 

「あのね……あのね、お姉ちゃん」

 

「うん」

 

「ありがとう」

 

「何? 急に」

 

 急に礼を言う樹に少し戸惑いを見せる。

 

「なんとなく言いたくなったの。この家のこととか勇者部のこととか、お姉ちゃんにばっかり大変なことさせて」

 

「そんな、私なりに理由があるからね」

 

「理由って?」

 

「ま、まあ簡単に言えば、世界の平和を守るため―かな?」

 

 そう言いながら風は笑顔を見せた。

 

「だって、勇者だしね」

 

「でも……」

 

「何だっていいよ。どんな理由でも、それを頑張れるならさ」

 

「どんな……理由でも?」

 

 樹は風のその言葉を学校でも考えていた。自分にとっての理由をずっと考えていた。

 

 放課後友奈と東郷、夏凜に望乃の四人は、飼い主探しの猫の貰い手決まったということで、依頼主の家に向かっていた。

 道がいまいちわからなかった夏凜は東郷に教えられる。

 

「わ、わかってたわよ。ちょっとこの辺りの地理に慣れないだけよ!」

 

「強がる夏凜ちゃん可愛い~」

 

 望乃が夏凜に自然な流れで抱き付く。

 

「こんなところで抱き付かないでよ!」

 

 そんな二人微笑ましく見ている友奈と東郷。すると、友奈が思い出したように鞄からノートらしきものを取り出す。

 

「東郷さん、夏凜ちゃん、望乃ちゃん。ちょっと協力してほしいんだ!」

 

 そう言って友奈は微笑んだ。

 

 風と樹チームの帰り道。橋の上で風は突然樹に向かって真剣な顔で謝罪をした。

 

「樹を、勇者なんて大変なことに巻き込んじゃったから」

 

「え?」

 

「樹を勇者部に入れろって命令された時、私やめてって言えばよかった。泣いてでも……。そしたら、もしかしたら、樹は勇者にならないで普通に――」

 

「何言ってるのお姉ちゃん!」

 

 樹が風の言葉を途中で遮る。

 

「樹?」

 

「お姉ちゃんは、間違ってないよ」

 

「でも……」

 

「それに私嬉しいんだ。守られるだけじゃなくて、お姉ちゃんと、みんなと一緒に戦えることが!」

 

 樹の言葉を聞くと、風の自責の念が和らいだ。

 

「ありがと」

 

「どういたしまして」

 

 二人の顔は笑顔でいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 そして本番の日がやってきた。

 やはり樹は緊張していて、うまく歌えるような状況ではない。

 先生に呼ばれて立ち上がった時に、教科書から何かが落ちた。それは一枚の紙で、勇者部のみんなが書いた寄せ書きだった。それには

 

『テストが終わったら打ち上げでケーキ食べに行こう 友奈』

 

『周りの人はみんなカボチャ 東郷』

 

『気合いよ』

 

『楽しんじゃえばいいと思うよ~ 望乃』

 

『周りの目なんて気にしない! お姉ちゃんは樹の歌が上手だって知ってるから 風』

 

 と書かれてあった。

 それが功を成したのか、樹はうまく歌うことができたのだった。

 部室に来た樹は、みんなにうまくいったことを報告し、部室内は歓喜の渦になった。樹は友奈、東郷、夏凜と順にハイタッチをした。その後、望乃ともハイタッチをしようとしたのだが

 

「良かったね~。樹ちゃん」

 

 とギュッと抱きしめられた。

 

「はい」

 

 そして最後に、風と一緒にバンザイをして喜んだ。

 その帰り道、樹は風に「やりたいことができた」と報告する。

 それを聞こうとした風だったが、秘密にされてしまった。

 それから、アイドルという夢を見出した樹はカラオケで歌を取り、インターネットでアイドルのオーディションに応募した。

 場所は変わって犬吠埼家では、風が大赦に『意見陳情』のメールを出すか悩んでいたが、結局消してしまった。

 その瞬間、スマートフォンのアラームが鳴る。もちろん、バーテックス出現のアラームである。

 

「始まったの? 最悪の事態」

 

 風は覚悟を決めて樹海に向かった。

 

 

 

 

 

 

 一方数分前の浜辺では、夏凜がいつも通り鍛錬をしていて、望乃がそれを座って見ていた。

 

「珍しいわね。望乃がここに来るなんて」

 

「なんとなくだよ~。それにしても夏凜ちゃん。頑張るね~」

 

「私は勇者だから、当たり前よ!」

 

 夏凜が二本の木刀を使って鍛錬しながら話を続ける。

 

「でも、一人で抱え込んだらダメだよ~」

 

「それは私より、望乃の方がやることでしょ」

 

「……私はいいんだよ」

 

「何よ、それ。不公平じゃない」

 

「うん。そうだよ~!」

 

「全く……」

 

 夏凜がため息をつきながら呆れる。

 珍しく望乃が黙り、この二人だけの時はまずありえなかった沈黙が訪れた。

 その状態に何かあったのかと思った夏凜は、会話中も止めることのなかった腕を止める。そして望乃のいる方に視線を向けた。

 肝心の望乃は、手を後ろについて遠くの何かを見つめているかのように空を見上げていた。

 

「ねえ、夏凜ちゃん」

 

 空を見上げていた目を徐々に下ろしてきながら語りかけてくる望乃。

 夏凜は今までで一番真面目な口調になっている望乃の次の言葉を待った。

 

「私、ね……」

 

 望乃は何か大事なことを言おうとしているのか、大きく喉を鳴らす。

 言おうと口を開くが、言えずに閉じてしまう。もう一度言おうと口を開く。しかしまた口を閉じてしまった。その時の望乃の表情は複雑そうだった。

 

「私、わかってるよ~。不測の事態が起こるかもしれないんだよね~」

 

「え、まあ、そうね」

 

 夏凜は望乃が言いたかったことはこんなことだったのだろうか、と疑問に思った。

 

「じゃ~、頑張らないとね~」

 

「頑張るのは当たり前よ! いい? 絶対に死ぬんじゃないわよ!」

 

「……大丈夫だよ。私もみんなも死ぬことはないから」

 

 それと同時に異様に大きな音でアラームが鳴った。望乃の小さな声はその音にかき消されて、夏凜の耳に届かなかった。

 

「ついに来たわね! そういえば望乃、さっきなんて言ったの?」

 

「ん~? みんなで頑張ればきっと大丈夫だよ、って言ったんだよ~」

 

「そう、ね。それじゃあ、行きますか!」

 

「うん」

 

 どうか、無事に戦いが終わりますように。望乃はそう心の中で願いながら、夏凜とともに樹海に向かった。

 




 さて次回はついに戦闘シーンです。
 うまく書けるかどうかわかりませんが、頑張ろうと思います。
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