樹海に来た勇者部六人は、来ているバーテックスを遠くから見ていた。バーテックスは一体だけではなかったのだ。
「残り七体。全部来てるんじゃないの? これ」
夏凜の言葉を聞いてスマートフォンで数を確認する。夏凜の言う通り、残りの全てが総攻撃をしに来ていた。
これが最悪の事態なのである。
「やりがいありすぎて、サプリも増し増しだわ」
夏凜が緊迫した様子でサプリを口に放り込む。
しかしバーテックスはなかなか攻めてこない。勇者は神樹様の加護が届かない壁の外に出てはいけないのである。バーテックスは壁の向こうにいるため、こちらからも攻めることができない。
風によると、壁のギリギリのところから攻めてくるつもりらしい。
「決戦ね! みんなもそろそろ準備を」
先に変身を済ませていた風が五人に指示する。
不安がっていた樹を友奈がくすぐる。
「緊張しなくても大丈夫! みんないるんだから!」
そう和ませた。樹がみんなを見ると、夏凜は目を背け、東郷は微笑み返し、望乃はうんと頷いた。そして樹は
「はい!」
大きな声で返事をした。
「よし、勇者部一同変身!」
「はい!」
もう一度風に指示をされて、五人がスマートフォンを操作して勇者の姿に変身する。
「望乃ちゃんの勇者服、初めて見た!」
「そりゃあ、初出だからね~」
初めて見た望乃の勇者服に目を輝かせる友奈。
望乃の勇者服は、紫を基調としているもので、その右手には複数の穂先が宙に浮いている槍を持っていた。
「敵ながら圧巻ですね」
「逆に言うとさ、こいつら殲滅すれば、もう戦いは終わったようなもんでしょ?」
「そういうことになるのかな~」
勇者部の六人は横並びで遠くからバーテックスを見据えていた。
その時に、風が『あれ』をやろうと言い出した。夏凜、望乃を除く四人が二人分を開けて円陣を組んでいた。『あれ』とは、円陣のことなのだ。二人も一緒にやろうと誘われる。
夏凜は渋っていたが、その手を望乃がつかんで円陣まで引っ張る。
「夏凜ちゃん、やろ?」
「し、仕方ないわね!」
六人で円陣を組む。
「あんたたち、勝ったら好きなもの奢ってあげるから、絶対死ぬんじゃないわよ!」
「よーし、おいしいものいっぱい食べよっと! 肉ぶっかけうどんとか!」
「言われなくても殲滅してやるわ!」
「わ、私も、叶えたい夢があるから!」
「頑張ってみんなを、国を、守りましょう!」
「……」
「どうしたの? 望乃ちゃん?」
「え? 何?」
一人だけ何も言っていない望乃に、友奈が声をかける。
「聞いてなかったの? 一人一言言ってるんだけど」
「何か一言言って、気合いを入れましょう?」
「うん、そうだね~。じゃあ、無事に帰ろうね。そしてまた……みんなで笑い合おうね! 約束だよ?」
望乃の言葉を聞いた風が少し笑って
「よーし! 勇者部ファイト―!」
「おー!」
六人で声を揃えて気合いを入れた。
「望乃。あんた大丈夫なの?」
円陣が終わってすぐ、夏凜が望乃に話しかけた。
「もちろん大丈夫だよ~。ちょっと集中してるだけだから」
「珍しいわね、望乃がそこまで本気になるって。今回の相手がそこまでってこと?」
「特別な意味なんてないよ。ただ、大切なお友達を失いたくない。それだけ。でも、そのためなら私、何でもするつもりだよ」
夏凜は、望乃らしい言葉のはずなのに望乃の言葉ではないような、そんな違和感を覚えた。しかしそんなことを気にしている暇もなく、戦いは始まる。
いつも通り東郷が遠距離で、それ以外が前衛である。
まずは牡羊座のバーテックスに夏凜が一太刀入れ、その瞬間に東郷が長銃で一発当てる。動きが止まり、封印の儀に入る。バーテックスから『ミタマ』が出てきたが、高速で回転している。
「何回ってんのよ!」
夏凜が刀を投げるが効果はない。そこで友奈がパンチで回転を止め、東郷が長銃でとどめを差すという連携を見せた。
「お~。すご~い」
後ろからのんびり来た望乃が感嘆の声をあげる。
東郷があっさり倒せたことへの疑問を感じる。そして、罠だと気づくが、それと同時に雄牛座のバーテックスが体についているベルから怪音波を放つ。その音に近くにいた勇者部は耳を抑えて動けなくなる。
東郷が援護に入ろうとするが、魚座のバーテックスに狙撃を邪魔される。
「音はみんなを幸せにするもの。こんな音……。こんな音―!」
樹がワイヤーを使ってベルを固定し、音を止める。そして風が水瓶座のバーテックスと天秤座のバーテックスを真っ二つに切り裂く。繋げているワイヤーが引っ張られ、ワイヤーをほどく。
「この!」
「待って!様子がおかしい」
立ち向かおうとした友奈を、夏凜が止める。
三体のバーテックスが離れていく。
後退なのかと思った風だったが、三体のバーテックスは獅子座のバーテックスに向かって行っていた。
その頃東郷は、魚座のバーテックスと対峙していた。何度も攻撃を当て、バーテックスが地面に潜る。潜ったことで援護に戻ろうとした時、後ろからバーテックスが現れる。
不意を突かれた東郷はそれに対応することができず、攻撃を受けるのを覚悟した瞬間、後ろから槍が高速で飛んできてバーテックスを貫いた。
「ふ~。危ない危ない」
緊迫した今の状況とは逆に、のんびりした口調で望乃が東郷の隣に着地する。
やはり貫かれた大きな穴は再生され、再度バーテックスと対峙する。
「私だけまだ何もしてないからね~。私もやらせてもらうよ~」
「望乃ちゃん、そいつは地面に潜ります」
「知ってるよ~。だから助けに来たんだもん」
そう言いながら右手に槍を出して構える。
「援護します!」
「あ~、大丈夫だよ~」
「え?」
「私一人で十分だから」
望乃がバーテックスに向かっていく。バーテックスの攻撃をものともせずに、槍で切り裂く。バーテックスが潜る暇もないまま、望乃が投げた槍に再び貫かれる。
「……すごい」
戦いに絡めず見ていた東郷の口からぽつりと言葉が漏れる。
その望乃の戦いぶりには苦戦の欠片もなかった。夏凜が「すごい」と言っていた理由も少しだけわかった気がしていた。
「封印の儀!」
望乃が封印の儀に入り、バーテックスから『ミタマ』出てくる。
「これは私が……!」
それに照準を当てるために銃を構えた瞬間、『ミタマ』が消滅する。
東郷が気付かない間――つまりは出てきた瞬間に、望乃が槍を上に投げて貫いていたのである。
「あれ~? もしかして美森ちゃん、倒したかったの?」
「いえ、別にいいんですけど」
望乃がぴょんと飛んで東郷の元に戻ってくる。さっきまで激しく戦っていたとは思えないくらいの能天気さだった。
「あ、望乃ちゃん、ありがとう」
東郷が思い出したように礼を言う。
「美森ちゃんが無事で良かったよ~。そろそろ夏凜ちゃんたちのところに戻らないとね~」
「私も援護を……っ!」
向き直した先にいたのは、三体のバーテックスと合体した獅子型のバーテックス。より大きな姿となってその身を現した。
「これは、あんまりのんびりしてる場合じゃないみたいだね」
「望乃ちゃん! 気をつけて!」
「うん」
望乃が友奈たちのところに戻る。
「ちょっと、こんなの聞いたことないわよ」
「でも三体まとめて倒せるよー」
「友奈の言う通りよ! まとめて封印開始よ!」
「まあやるしかないよね~」
その瞬間、バーテックスが無数の玉のような攻撃を仕掛けてきた。
勇者部はそれをかわすために散らばる。
「こいつ、追尾すんの?」
かわしたと思った勇者一行だったが、その攻撃はかわしても追いかけてくる追尾タイプの攻撃だった。
勇者部はそれの攻略を考えながらかわし続ける。
風が大剣で防ごうとするが、防ぎきれずにダメージを受ける。
樹も必死でかわそうとしていたが、追いつかれて当たってしまう。
友奈は、追ってくるならこのまま返す、とバーテックスに近付くが前からも撃たれてしまい、挟み撃ちで攻撃を食らってしまう。
夏凜が隙を突いてバーテックスに刀を頭の上から振り下ろすが、硬くて折れてしまう。そして攻撃が直撃してしまった。
東郷も遠くから銃を放つが効かず、攻撃を撃たれて的中してしまう。
「みんな!」
ずっとかわし続けていた望乃が心配そうに叫ぶ。
攻撃の威力は非常に高く、当たった五人は倒れてしまっている。
「……もう、許さないよ」
それを見た望乃はかわし続けるのをやめ、バーテックスの目の前に着地する。そして上から追尾していた攻撃が望乃を目掛けて飛んでくる。それに対し望乃は、動くことすらせずその攻撃をまともに受け、煙が湧き上がる。
ところが、その煙から傷一つない望乃が槍を突き刺す形で構えながら飛び出してきた。
そのままバーテックスを貫き、大きな穴を作る。そして向きを反転して、もう一度槍で貫き二つの穴を作る。
その勢いのまま着地し、バーテックスの方を向き直す。
槍を右手で回してから後ろ手に持つ。
「ここからは私一人が相手だよ! もうこれ以上みんなを傷つけさせないから! 覚悟してね!」
五人が倒れる中、望乃がたった一人で合体バーテックスに立ち向かった。
今回、魚座のバーテックスには望乃の力を見せるために犠牲となってもらいました。分かりづらいかもしれませんが、とにかくめっちゃ強いと思ったら大丈夫です。