バーテックスとの激闘が終わり、勇者部一行は大赦の所有する病院で検査のために入院することになった。もちろんほとんど外傷のなかった望乃も、その例外ではなかった。
「あなたの身体に問題はありません。外傷はもちろん、外面・内面も変化なし。記憶・考え方も前と変わりありません。それに加えて、勇者になっても正常の状態です。ただ、少し精神的に少し異常が見られますね」
診察結果の書かれた紙をトンと叩く。
「それは異常なんかじゃないよ」
「そうですか? 本来のあなたにとって害のあるものだと思いますが。それで、どうされますか?」
「もちろんそのままで」
「……わかりました。ただし、あまり入れ込み過ぎないようにお願いします。あなたがどうなりたいのかは私にはわかりかねますが、少なくともあなたがあの方たちと『対等』になることは不可能ですから」
「わかってるよ。でも私たちは友達だからね。私から関係を断ち切ることはできないよ。大丈夫、じきに来ると思うよ。私が嫌われる時がね」
「そうですか。望乃さま。今回の検査の結果は報告しますか?」
「ほとんど問題ないんでしょ? だったらあっちにとって不都合は何もないから必要ないよ」
「望乃さま!」
話は終わったと思って診察室から出ようとした望乃が呼び止められる。
「あとスマートフォンですが、大赦が預かるということで、代わりにこちらを」
画面に望乃と書かれたスマートフォンを差し出される。望乃は疑問を一つ思うことなくそれを受け取る。
「まあそれはわかってたからね」
「それから望乃さま。本来の潜伏期間は終わりましたけど――」
「私その言い方好きじゃないな」
望乃が言葉を遮って圧をかける。
「と、とにかく、いつまでこちらにいる予定なんですか?」
「さあ。わかんないよ。私一人で決めていいことじゃないし。いつもの時に相談してみるよ」
「わかりました」
「それとその堅苦しいのやめてね~」
そう言って望乃は診察室から出て行った。
広場に向かうと、すでに勇者部のみんなが集まってお菓子等を並べていた。
「あ、望乃ちゃん来た!」
「長かったわね」
「ごめ~ん。いろいろあってね~。……それどうしたの~?」
望乃が風の目の辺りを指差す。
「あー、これは戦いの疲労で視力が落ちてるんだって。療養したら良くなるだろうだって」
「……ふ~ん」
風は左目の部分に眼帯をしていて、樹は声が出ないらしい。二人とも戦いの疲労によるものだと医者から言われているらしい。
「望乃は疲労とか大丈夫なの?」
夏凜が心配そうに望乃を見る。望乃は夏凜ちゃんもこんな顔もするんだな~なんてことを考えていた。
「ん~。私はね~」
その時望乃の腹から大きな音が鳴る。
「お腹すいたかな~」
「……まあ、いつも通りってことね」
「みんなそろったし、お祝いしよ!」
「お祝い?」
「そう! 私たちバーテックスみーんな倒しちゃったんだから、そのお祝い!」
「……そっか~」
机の上に置いてあるお菓子や飲み物は、友奈が今さっき売店で買ってきたとのことだ。
「さあ、みんな飲み物持ってー!」
各々が机の上にある飲み物を一つずつ取っていき、残った一つを友奈が手に取る。
「では勇者部部長から一言!」
「わ、私!?」
友奈が缶をマイクに見立てて風に音頭を促す。
「え、えっと。本日もお日柄も良く」
「真面目か!」
軽くテンパりながら言う風に夏凜が勢いよくツッコむ。
「堅苦しいのは抜きで!」
「それじゃ。みんな、よくやったー。勇者部大勝利を祝って、カンパーイ!」
「カンパーイ!」
そう全員で言ってから飲み物をグッと飲んだ。
「やっぱり目的を達成した後のジュースは格別よね」
「もうお菓子食べてい~い?」
「いいわよー」
そんな話をしながら望乃がお菓子の袋を手に取る。そんな中、東郷は友奈のちょっとした動揺を見逃さなった。
「ああ、そうだ。渡したいものがあったんだった」
風がダンボールから出したスマートフォンを部員一人ずつに渡していく。
「あれ、望乃のだけないわね」
「それならさっきもらったよ~」
「それならいいわ。これは新しい携帯。前使ってたのは回収されたでしょう?」
「はい。この病院に来た時に」
「あっちの携帯は、メンテナンスとかで戻って来るのに時間がかかるから、しばらく携帯を使って」
「わあー、新品だー!」
「あれ、あのアプリがダウンロードできませんね」
風の話によると、そのアプリは勇者専用のアプリだからダウンロードできないとのこと。ついでに、勇者の戦いが終わったからもう精霊も呼び出せないそうだ。
それを聞いて友奈が寂しそうな顔になる。そんな友奈を望乃が励まそうと思ったが、言おうとした言葉を飲み込んだ。
その日の夜、望乃は暗がりの一室にある椅子に腰かけていた。そこで数分間誰かと話し、しばらくすると、口を閉じて考え事を始める。
「決まりましたか?」
そこに大赦の一人が、話が終わるのを見計らったように現れる。
「もう少し考えるよ」
望乃はそう言うと、また考え事を始めた。
そして友奈たちは検査入院を終えて学校に戻ってきた。東郷のみがまだ入院という形だった。
普段通り部室に来る友奈。そこには黒い眼帯をつけた風とスケッチブックを持った樹がいた。
「ところで夏凜と望乃は?」
「あれ? 来てないんですか?」
「むう。サボりか。後で罰として、腕立て伏せ千回とかやらせよう」
「夏凜ちゃんだったらホントにできちゃいそう」
「意外と望乃も軽々とやったりするかもよ」
樹が何か文字を書いたスケッチブックを掲げる。
『かりんさん何か用事があって、それにののさんも付き添ってるんでしょうか?』
「そうかもねー」
スケッチブックは声が治るまでの応急処置だということだ。
本日の勇者部の仕事は、夏凜や望乃、東郷の担当ばかりで、集まった三人ができることがなかった。なのでその日は雑談などをしながらだらだらと過ごして終わった。
放課後、望乃は東郷の元に向かっていた。病室に入ると東郷がパソコンを広げて調べ物をしていた。望乃がそれを聞こうとすると、小難しい単語を並べた説明をされた。
「お~、すご~い。でも、本当はみんなの異常について調べてたんだよね~?」
「な、何でそれを……」
「私も気になってたからさ~、美森ちゃんは調べてるんだろうな~って思ってたんだ~」
「そうなの? ところで望乃ちゃんに何か変化は?」
「特にないね~。他のみんなは?」
「……この通り」
パソコンの画面には表が書かれており、そこには今の状態に関することが書かれていた。その表によると、風と樹以外にも友奈が味覚、東郷が左耳に異常があったことがわかった。
それを見ると望乃は、関心するようなそぶりを見せた。そして、しばらくしてから病室を出て行った。
「ごめんね。美森ちゃん。利用しちゃって」
その小さな呟きは東郷に聞こえることはなかった。
望乃は病院を後にして、日が落ち始めた頃、普段夏凜が鍛錬している場所に向かう。
そこでは勇者部をサボった夏凜が、二本の木刀を使って鍛錬をしていた。
「あれ~? 夏凜ちゃん。部活は~?」
夏凜がこちらに気付いて手を止める。
「何よ? 望乃も行ってないじゃないの」
「私は、用事だよ~。それより夏凜ちゃん、どうかしたの~?」
望乃が夏凜の様子がおかしいことに気付いて心配する。
「さっき、風から聞いたのよ。満開を起こした四人にだけ異変が起きてるって」
「私も聞いたよ」
「これじゃあ、私だけ役に立ってないみたいじゃない」
「私も何も起きてないよ~」
「あんたは、立てなくなるまで戦ってたでしょうが! ……私は戦うためにここに来たのに、戦いが終わったらどうすればいいの?」
「戦いが終わったら、平和に暮らせばいいんだよ。ただ、それだけだよ。でもね、夏凜ちゃんもわかってると思うけど、本来の私たちの役割はここまで。大赦に戻るように言われてる」
「そういえばそうだったわね」
「でもね、夏凜ちゃんがここに残りたいのなら、それを伝えたらいいと思うよ。夏凜ちゃんにはその資格があるからさ」
望乃は夏凜の隣に行って腰を下ろす。
「ね?」
ニコッと笑いながらそう言う。
「考えとくわ。とりあえず今日は帰るわよ」
夏凜が立ち上がって望乃に手を差し出す。望乃はその手を握って立ち上がる。そして二人並んで帰路に着いたのだった。