「神様を殺す……?」
僕は先程言われた言葉をゆっくりと繰り返した。自分の聞き間違いなのではないかという思いがあったからだ。神様を殺す……そんないきなり荒唐無稽な話を持ちかけられること事態が普通ではなく、異常だと判断したからだ。だが、そんな思いは呆気なく崩れさることになった。
「うむ……お主には悪行を働く神を殺してもらいたいのじゃ」
数秒間の沈黙の後……
「聞き間違いじゃなかった……」
僕はその場で頭を抱えて、蹲った。聞き間違いではなかったようだ……本気でこの女の子は僕に神様を殺せという、難題の中の難題をこなしてくれと言っているのだ。正直に言えば即座にごめんなさいとお断りしたいところだけれど、でもさっきの女の子は頭を下げてまで僕にお願いをしてきた。僕なんかよりも最適な人はいるはずなのに、こんな僕に……小さな祠に祀られていた僕に、どうして頼んだのだろうか。
「なぜ……どうして自分なのかと思っておる顔じゃのぅ」
「あ、当たり前ですよ。神様を殺せ……なんて言われて……僕は名前さえも忘れ去られた人神……そんなのが神様を殺せるわけないじゃないですか」
「理由はちゃんとあるのじゃ……」
「理由……ですか?」
「うむ……今回悪行を働いているのは、名もほとんど知られていない。そんな神なのじゃ」
「そ、そんな神様がいるのですか?」
「いる……それこそ星の数ほどのぅ。 悲しいことじゃが、我々日本の神というのは、お主のように人でさえも神になれてしまうほどに、数も多ければ都合のいいように増える……」
その言葉には確かに理解出来た。この僕が……もう人間だった頃の記憶はほとんどないけれど、ただの村の子供だった僕でさえも神様のようなものになれてしまうのだから、それはよくよく考えると悲しいことだし、同時に恐ろしくも感じた。
「生きる人間の力というものは想像以上に恐ろしいものじゃ、無意識に世界を日々動かしておる……そして、その動かしていく結果にはじき出されたものが……」
「今、悪いことをしている名前の無い神様……」
「そういうことじゃ……そして、彼奴らは同じような仲間とともに軍団を作り、名のある神を襲撃するようになっていった。幸いなことにまだ死んだものは出てきてはおらぬが……ここでもう一つの問題が持ち上がった」
「もう一つの問題?」
「いくら彼奴らが手を組んでいたとはいえ、彼奴らの力は強大であった、なぜそうなっているのか……それはまだワシらにもわかっておらなんだが、彼奴らの背後にはなにか黒幕がいるのではないかと踏んでいる」
「黒幕……その名前の無い神様を統括している何者かがいるということですか?」
「そういうことじゃ……それと同時に、その黒幕がいることを考え始めた時、我々は無闇には動けなくなったのじゃ」
「ど、どうしてですか?」
名のある神様達が本気を出して戦えば、その名前の無い神様を抑えることだって可能なはずなのに……どうしてそれをしないのか、それが一番早くこの状況を収められるはずだ。
「黒幕の正体がわからない以上……下手に我々が動けば、この世界すべてを巻き込んだ戦になる可能性があるということじゃ……ワシら名のある神の中に裏切り者がいたとしても、それ以外にしても……のぅ」
「この世界すべてを巻き込んだ戦に……」
よく考えたらその通りだった。神様の中に裏切り者がいたとなればその中で神様同士の戦が始まる恐れがあるし、始まればきっと……この世界はただではすまなくなる。なるほど……つまり僕は
「僕が選ばれた理由は……ほぼ存在が知られていない僕が、その名前の無い神様と戦えば、黒幕がどうあれ……大きな問題に発展することは無い……ということなんですね」
「お主を利用するようなことになってしまうことは心苦しいと思っておる……じゃが、今我々に取れる策はこれが最善なのじゃ……だから、頼む」
もう一度、深々と頭を下げられる……ふと僕は考えてみた。今まで祠にいた何千年という時間を……ここで過ごしてきて、確かに暇ではあったし、神様になんてならなければよかったと何度も思ったけれど……それでも僕は、この世界が好きだ。確かに、僕が知っている世界はこの祠から見える小さな世界だけれど、ここは素敵だった……人の営みがあり、皆が自分の人生を生きている。
そんな素晴らしい世界が、まだまだたくさん存在しているのならば、その世界は絶対に守らなければならない……それに、あの名もわからぬ人も……神様達の戦が始まり、巻き込まれれば……呆気なく死んでしまうだろう、そんなのは絶対に嫌だった。
「わかりました……僕に出来ることであれば、全力でやらせていただきます」
「恩にきる……」
「いえ……気にしないでください。 僕にとっても、神様同士の戦が始まってしまうのは阻止しなければと思っていますから。 ですが……」
「ですが……なんじゃ?」
引き受けたはいいものの、僕が戦うとなったら一つの問題が出てきてしまう。 この問題はかなり深刻かもしれない。いや、深刻だ。戦う以前の話になるかもしれない。
「僕……戦う力とか、武器とか持ってませんよ?」
さらに沈黙……あれ? なんか前にもこんなことがあった気がする。
「くっ……くくくっ……あっはっはっ! まさかそのようなことを気にしておったとはっ!」
いきなり大声て笑われてしまった。
「笑い事じゃないですよね!? 戦うことになったのに武器がないとか、あれですか、体一つだけで戦うんですか、絶対に無理ですからね!!」
「いやいや……そうじゃったのぅ、お主はまだ、そうじゃったのぅ」
「それって……どういう……」
まだ、そうじゃった……という、この子の言葉に少し疑問を抱いた。最初から僕のことを知っているようだったし、いったいこの子は僕の何を知っているのだろうか。僕は僕のことをあまり覚えていないぶん、そういうことには過敏になってしまう。
「やはり……気になるかの?」
「そ、それはもちろんですよっ!」
「ふむ……」
女の子は少し考えるような表情をした後、うむ……と、頷いた後……僕の頭に手を置いた。
「へ……?」
「今は知らなくてもよい……ここですべてを知ってしまっても、きっと混乱してしまうだけだと思うからのぅ」
「っ……じゃあ、知ってるってことですよね……なら、教えてくださいっ! 僕は……神様になる前はいったい、なんだったんですか……!?」
「じゃから、今は知らなくてもよいと言ったじゃろう?」
そういうと、女の子は軽く僕のおでこにデコピンをした。
「いたっ……な、なにを……」
「確かにワシは、お主のことを知っている。 どんな人間であったか、お主の生前になにがあったのか、そのすべてをな……だがそれは、今ワシの口から説明すべきではないのじゃ」
そう言われると、余計に気になってしまう。この人は僕の何を知っているのか、何を知られているのか。別に自分のことを知られているのに相手のことを何も教えて貰っていないということでいちいち拗ねるような性格でもないから、このモヤモヤはそういうことなのだろう。
「まぁ……お主がこれから先の未来で、自分で切り開いて行くしかないと思うがのっ」
語尾を強調しながらにこっと笑う女の子。喋り方は独特で、オーラもなにか特殊な子だが、その笑顔だけは、容姿の通りに無邪気だった。そんな笑顔を見ていると、その通りな気がしてくるから不思議だ。遠い未来なのか近い未来なのか、僕が僕自身を知ることが出来るのだと、何故か確信してしまうほどに。
「わかりました……僕自身のことは僕の力で知っていこうと思います」
「うむ……いい結果が得られることを祈っておるよ」
「はいっ!」
きっとわかっていけるはずだ。これから何が起こるかわからないけれど、どんな出会いがあるかはわからないけれど、きっと、僕のこのモヤモヤを晴らすことができるなにかが。
そう……思った時だった。
「……もう来たようじゃな」
「っ!?」
その時、世界が歪んだ。僕達は祠があった場所に立っていたが、突然、まるで紙を墨汁で塗りたくったように塗りつぶされ、真っ黒な空間になってしまった。
「こ、これはなんですか!?」
周りを見回すも、周りはどこもかしこも……黒、くろ、クロ……光が一切なく、あの女の子の姿さえも見えなくなってしまった。
「落ち着くのじゃ……空間を一気に歪めたのじゃぞ、こんなことを、しかもワシらにしてくる者など、決まっておろう……?」
「ま、まさか……!?」
「そう……そのまさかじゃろうな、名のない神……そいつらの仕業じゃろうて」
何処からくるのか……しかし、こうも周りが真っ黒だと目では見つけることはできない。とはいえ、気配を察知できるほど僕は戦うということに対して精通しているわけでもなかった。
「うっ……」
突然誰かの呻き声が聞こえた。それと同時に、僕の中では一つの胸騒ぎのような感覚を覚えた。今の声は僕の聞いた限りでは……あの女の子の声に酷似していて、それを理解してしまったからこそ、不安がこみ上げてきていた。先程の女の子が言っていたことが真実で、こういう事態になったのなら、神様を殺しに来た、ということになるのだろう。
だとしたら、人神である僕を殺しに来た可能性……そしてもう一つは、あの女の子が神様で、女の子を殺しに来た可能性がある……ともなると、どちらが狙われてもおかしくない状況だったということ。そしてあの女の子の呻き声……
僕の額に冷や汗が流れる。あって欲しくない可能性。最低最悪な可能性。嘘であって欲しい可能性。そんな可能性に、僕の体は震え始めていた。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
返事はない。
「聞こえたら返事してください!!」
返事はない。
「あのっ……っ!?」
足を一歩踏み出すと、ぴちゃりと音が聞こえた。まるで水たまりを踏んだ時のような感覚。そう……なにか水のようなものがたくさん溜まっていたのだ。
「ま、さか……」
僕は唾をごくりと飲み込む。口の中が自分の想像以上に乾いていた。しかし、今の僕はそれさえも意識している暇はなかった。
そんな時、突如真っ黒だった空間がいきなり真っ白に変わる……突然の出来事に驚いた僕は咄嗟に目を瞑った。
「なにが……っ……ぁ……」
なにが起きたのか、混乱していた僕は……なんの考えもなく、反射的に目を開けてしまった。そして、知ってしまった。見てしまった。現実を、リアルを……あって欲しくないと望んだのに……
そう……そこには、心臓のあたりを槍のようなもので貫かれ、白い空間を赤く染めるほどに血を流して倒れている……さっきの女の子の姿があった。
「そんな……ぅ……うぁぁぁぁぁぁ!!」
その時僕に出来たのは、ただただ、叫ぶことだけだった。
というわけで、第二話目がだいぶ時間をあけての投稿になりました。
さて……今回のことで一言いうとするならば、二話目にして結構重たかったような気もします。というか重たかった。
登場して数行にしてもうあの子はリタイアなのか!?
そのあたりはこうご期待、ということになるのですが……正直あまり死人は出したくない……といいつつ、原作キャラ以外は容赦なく殺します、はい
しかし、殺しまくるというわけでもないので、そこら辺は大丈夫です。
さて、ではまた三話でお会いしましょう、さようなら〜