-2030年8月30日-
-大分県大分市-
-大分川・弁天大橋[14:10]-
7月16日、所属不明の武装集団による日本各都市への攻撃から発した連邦軍の侵攻は止まるところを知らなかった。難民や市民学生団体に扮した工作員がまず戦略目標として主要都市中央で蜂起。警察署や役所、インフラ施設を占拠し無力化。レーダーサイトや基地へは潜伏していた特殊部隊などが制圧。瞬く間に自衛隊の戦力は削られた。
自衛隊員や警察官が侵略者から市民を守ろうとしたがその守ろうとした市民から後ろから刺され殺されるケースが多発した。
国防に穴が空いたところへ中華連邦軍の空母艦載機・大陸からの爆撃機による空爆で自衛隊の各部隊を撃滅。北九州・福岡・佐世保・鹿児島・沖縄へ連邦軍の主力部隊は着上陸作戦を展開。揚陸艇より戦車、歩兵戦闘車、兵員が陸に上がる。
何十万にも上る連邦軍兵士が一斉に次々と街に侵入、住宅に押し入り住民を強引に引きずり出していく。サイレンが鳴り響く街には泣き叫ぶ声と反抗する住民を射殺する銃声が木霊していた。
日本側抵抗勢力はあらかじめ工作員によって無力化されていたため、ほとんどの抵抗なく上陸に成功した。
上陸から4日後の7月20日の昼、九州福岡県北部の制圧を終えた中華連邦陸軍第8戦車大隊所属の19式戦車24輌は久留米市で陸上自衛隊第4戦車大隊の10式戦車30輌と交戦する。
「撃て!奴らを絶対ここで食い止めろ!」
「了解!」
10式戦車に乗車する中年の陸自第1戦車中隊長が各車へ伝達する。
「2時の方向敵戦車!およそ700!」
中隊長車の100m前方を走る2号車が敵を捉える。
「撃て!」
掛け声と同時に大きな砲撃音と衝撃が車内に走る。
砲弾はほんの1秒ほどの飛翔で目標の正面右側面に命中。
敵戦車は着弾した拍子に炎が噴き上がり動きが止まった。
「命中!」
「やったか?」
そうした矢先、別方向から155mmAPSFDS弾が10式の複合装甲を諸共せず車内をも貫通し乗員の命を瞬時に刈り取った。
目の前の19式戦車は火が消え終わるとともにゆっくりと前進し始めた…。
高度な精密射撃を可能とする自衛隊の10式であったが、120mmAPSFDS弾は連邦の19式戦車の爆発反応装甲と重厚な新世代複合装甲に阻まれ貫通する確率は低かった。逆に19式戦車から放たれる破壊力に勝る155mm砲弾1発1発によって命中の度、次々と10式戦車が撃破されていく。
「…ちっくしょうが…」
残りは中隊長車を含む3輌だけになり連邦の19戦車20輌が徐々に取り囲む。抵抗するように10式は砲弾を命中させるも装甲に弾かれるばかりだ。
「…13、18号車に継ぐ。ここから撤退せよ」
「隊長、まさか?!」
混戦の最中、意を決した中隊長車は2輌の撤退の殿として連邦軍戦車隊に突進、10式の思わぬ行動に動揺し隙をみせた敵戦車の側面に砲弾をぶち込み3輌を撃破した。しかし、中隊長車はすぐに囲まれてしまい、集中砲火によって砲塔が上空に10mも飛び散る壮絶な爆死を遂げた。
結果、第4戦車大隊は撤退した2輌を残して壊滅。連邦軍は別方面でも同じように自衛隊を蹴散らし意気揚々と進んでいった。
そして、8月30日の今日。九州における陸海空自衛隊は宮崎県の日向港と大分県の大分港に追い込まれていた。
本州でも北陸方面中国方面からの上陸を防げず日本海側の県が連邦軍の支配下になりつつある。上空では航空優勢を巡って両軍の戦闘機隊による熾烈な空中戦が、陸ではゲリラや連邦軍から武器を供給された日本人過激派によって多くの隊員が殉職、戦闘車両が失われたため退役間際の74式戦車や後方要員に銃を持たせて防衛戦を繰り広げられていた。
東京の日本政府と防衛省・統合幕僚監部は九州を放棄することに決定。残存部隊はまだ安全な関東方面への脱出のため、なんとしても重要港湾である日向港と大分港の2つの港を死守しなければならなかった。
「連中を絶対渡らせるな!」
ここ大分市の中央を流れる1級河川「大分川」を境に自衛隊は防衛線を築いていた。そこに架かる弁天大橋を守備する部隊の隊長として佐世保から脱出してきた久瀬(くぜ)冬馬(とうま)三佐が連隊司令部のある天幕の中で指揮していた。
久瀬の率いる海自隊員5人はあの日、敵の襲撃で混乱する佐世保基地から脱出できた。しかし、佐世保市街で連邦軍に協力する武装した平和団体の市民との銃撃戦で1名の仲間を亡くし4人に減る。
その後、南福岡で撤退中の陸自第19第40普通科連隊の生き残りと合流、連隊の幹部はみな戦死しており、陸海の隔たりはあるものの臨時として「二尉」から「三佐」へ昇格して陸自の連隊の指揮を執ることとなった。
「羽柴(はしば)二尉、港の撤退状況は?」
久瀬はテーブルに置かれている大分市の防衛陣地を示した地図を見ながら右前に立つ羽柴(はしば)市子(いちこ)二尉に聞く。羽柴も佐世保から脱出したあと久世と同じ様に三曹より昇格していた。
「1410現在、撤退状況はは50%終わっております。1430より新たに貨物船3隻護衛艦1隻が入港予定ですが…あまり状況は好ましくありません」
「そうか…ありがとう」
そう言って、地図から目を離し久瀬は天幕から外へ出て前線陣地に歩き出した。
大分市を守備する自衛隊は大分川を挟んで東側にまで追い詰められていた。数日前までは隣の別府市の港を使用して隊員の撤退作戦をしていたが連邦軍爆撃機による無抵抗の市民を巻き込んだ無差別爆撃と戦車を伴った敵地上部隊によって使用不可になり、九州で大型船が寄港できる大きな港は大分と日向の2港だけになっていた。
そして、今やこの大分市も西半分が占領され、この防衛線が突破されるのも時間の問題だった。
連邦軍は捕虜をとらず殺し、婦女暴行をするという。以前、銃を手放し敵に降伏をした自衛隊の隊員たちに対して敵の兵士たちがいきなり発砲した。手招きをしておびき寄せたあとの一斉射撃だったので逃げようにも逃げれず全員死亡した。
別の場所では陸上自衛隊のある部隊が撤退行動の途中に首が捻じ曲げられ無残な死に方をした隊員の死体や全裸で股を開き壮絶な表情をして息絶えている20代女性、木に杭で打ち付けられた中学生ぐらいの少年の死体などが至るどころに発見された。
民族浄化。大量虐殺(ジェノサイド)が起きていた。連邦軍兵士が余興に日本人を見つけると捕まえいたぶり殺したりレイプ、暴行で楽しんでいる姿も目撃されたという。
「捕まえられると全員殺される」という恐怖の噂が広まったことにより数十万は超える日本人の避難民が本州へ逃れようと大分港と日向港の周辺で足止めされていた。自衛隊としては全ての国民を救いたいがあまりに多すぎて対応を諦める他なかった。
(酷い…酷すぎる…)
久瀬たちの部隊が守備する岸の対岸では連邦の兵士たちが集結しつつあった。初めは機関銃や小銃で撃ち合って集結を妨害していたが1両、また1両と敵側に装甲車が姿を見せ始めるとこちら側の戦力が徐々に劣っているかのように敵に思われ心理的な圧力は薄れ妨害の効果はなくなった。今は両軍、睨み合うようにして対峙していた。
「自衛隊のみなさん!あなた方は敗北しました!大人しく投降しなさい!」
連邦軍陣地の大音量のスピーカーから降伏を促す日本語の音声が流れていた。降伏したら殺されることが解っている久瀬たちは一切反応しなかった。
それでも敵は強く呼びかけてくる。この声の主はどうやら福岡の大学生のようで時々自衛官を侮辱するような口調で話しかけてくる。売国奴め。
隊員たちが敵を忌々しく思っていると突然、上空からヒュルルという落下音のあと敵陣地から爆発と炎が上がった。
自衛隊陣地からは攻撃を受けた連邦兵が慌ててアサルトライフルで発砲する様子が見えるのと上空に向けて携行式対空ミサイル、機関砲や対空砲からの凄まじい数の曳光弾、炸裂弾が轟々と打ち上げられている。上空には空気を震わせるようにして灰色の翼が天に舞う。
「空自のF15とF35だ!」
「味方だ!」
連隊の隊員が歓喜の声を挙げる。上空で日の丸をつけた戦闘機がフレアをバラ撒き激しく右に横転して反転、敵対空砲陣地にF15とF35の20mmバルカン砲から放たれた毎秒100発毎分6000発の砲弾が対空砲陣地に降り注ぎ爆発、見事なクレーターが出来上がる。
陣地が破壊された影響で連邦兵は逃げまどい小銃でなんとか反撃したりと大混乱が起きていた。
「!敵の動きが乱れた。総員戦闘再開!」
「日本人の底力見せてやる!!!!!」
これを好機だと久瀬の声とともに隊員たちは雄叫びを上げ敵に向けて反撃を始めた。
軽快な音を鳴らしながら火を噴くミニミ機関銃と正確な射撃をする23式小銃・89式小銃をもつ兵士たち、連隊の側で隠蔽していた10式戦車2輌が表に出て仲間を殺した連邦軍に120mmの怒りの砲火が浴びせられる。
航空自衛隊の戦闘機からの突然の爆撃と対岸の自衛隊からの猛烈な反撃で地上の連邦軍は装甲車と多くの人員を失う大打撃を受け、連邦兵たちは恐れを感じて後方に下がり始めたのだった。
「 …ところで本来純粋な制空戦闘機として配備されていたF15Jがなぜ対地攻撃ができたのか。
なぜならF15Jは2027年までにはアビオニクスに新型管制装置と対地攻撃能力を付けた改修が終わりF15MJとなったからであり、最大でMk.82通常爆弾を12個搭載可能だった。
F35"J"は2017年に自衛隊へ配備されて以来、対地対空任務に作戦行動可能で尚且つ敵に察知されにくいステルス多用途マルチロール戦闘機であった。」
という設定です。
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次話もお楽しみに!