-2030年8月30日-
-大分県大分市-
-昭和通り・大分城址公園[15:10]-
大分城。その名前はあくまで通称として使われており正しくは府内城と呼ばれる。大分市の中心にそびえ建つこの城は、古代に豊後国国司(現代でいう知事)の政庁が置かれたのが始まりで、1597年に豊臣秀吉家臣の福原直高が現在の地に築城を開始し1599年に完成した。その後紆余曲折を経て2006年に日本100名城に選定された。観光客が賑わい大分市が誇る美しい城であった。
しかし今、この城を境に白い城壁を赤く染める激戦が繰り広げられていた。
城は中華連邦軍に占拠され補給拠点が設営されていた。城内では上空から迫り来る空自のF15戦闘機に07式35mm自走高射機関砲などの対空砲火が、目前の陸自の地上部隊へは銃砲撃が加えられ自衛隊の前進を阻んでいた。
連邦から見て敵である自衛隊の全部隊は後方の味方や市民が避難する時間を稼ぐため空自の航空支援を得てイチかバチかの攻勢に出ていた。
戦っていたのは自衛隊だけではなく市民の男女で構成された義勇兵部隊も愛する子供や恋人を守るため武器を取って戦闘に参加している。
大分城は連邦の補給拠点になっているとの情報に基づいて打撃を与えようと自衛隊は陸と空から攻撃を仕掛けている。
「右から敵だ!対応しろ!」
「啓治(けいじ)!弾だ!受け取れ!」
前線の一角では連邦が占拠した博多駅から脱出していた佐川啓治が義勇兵部隊の指揮を執っている。佐川が警官であることと実戦経験があることを買われたことが故であった。
「ありがとよ!翔(かける)そっちはどうだ?」
「こっちはマズい。敵の戦車が来てる。なぁこっちロケランはないか?」
翔(かける)と呼ばれた白のカッターシャツのを着た男は会社へ出勤しようとしていた伊藤翔で、博多駅にいた連邦兵に捕まり殺されかけたところを間一髪、佐川たちに救われて以来行動をともにしていた仲だ。
佐川は愛銃となった64式小銃に伊藤から受け取ったマガジンを地面に1回叩いてから銃に装填、連邦兵に7.62mm×54NATO弾を浴びせる。
「俺たちは今まで銃を使ったことのないような素人の集まりだ。そんな高度なもん扱えないからないぞ!」
「そういやそうだっ…た!」
そう言って伊藤は手にしたM3サブマシンガンのトリガーを引き、突っ込んできた連邦兵を撃ち殺した。2人のいるところへ頻(しき)りなしに50m先から連邦兵が土嚢越しに銃を乱射してくる。
市役所前の大通りであるこの戦線では砲撃で道路のほとんどは穴だらけであり周囲には爆撃で犠牲になった市民の死体や炎上する車両が放置されている。
義勇兵自衛隊連合と連邦軍の両軍が土嚢や近くの放置車両に身を隠しながら頭上数cmに銃弾が飛び交う激しい銃撃戦をしている。どちらにも攻勢を仕掛けられる戦車などがいなかったため戦線は膠着状態になっていた。
「撃って倒しても次々と沸いてきやがる」
「このままじゃ持たないぞ!」
「?おい、何か来るぞ?!」
仲間が指さす先に黒い鉄の塊、連邦軍の19式戦車が姿を現したのだった。義勇兵たちは青ざめ、連邦兵が活気付き銃撃が一層激しくなった。
次いで19式戦車の大口径155mm戦車砲の砲火が轟き、砲弾は義勇兵部隊の守る一角を爆発させた。
「ぇぁ目がぁぁぁ俺の!!!」
「あぁぁぁかぁさぁん!痛い!助けてぇ!」
「もうイヤだぁぁぁ!!!」
砲弾の爆発で数人の仲間が吹き飛び破片で手足や内蔵をえぐられた少年などは母親の名前を叫ぶ、そんな叫び声が陣地に木霊していた。戦場特有のプレッシャーに耐え切れず武器を投げ出した者もいた。
連邦兵は勢いに乗り前進する戦車に伴って突撃を始め、義勇部隊の隊員たちは自分たちが蹂躙される未来に息を呑んだ。
…………ブゥンブゥンブゥンブンヴンヴンヴンブゥゥゥゥゥ!
そこへ、東の上空から大きい飛翔音がどんどん近くづいてきたのを義勇兵と連邦兵が感知し上を見上げた。
すると急に連邦兵たちが空を指差し一斉に西へ西へと逃亡する。
Voooooooooooooo!
Pashhhhhhh!Pashhhhhhh!
重厚な機械音がしたと同時に戦車に槍(スピア)が突き刺さり爆発四散し、逃げる連邦兵たちの血煙が噴き上がる。人間が真っ二つにちぎられるなど余りにも酷い光景であったため義勇兵の中には吐く者が続出した。
機械音が止むとそこには散り散りと逃げる兵士と人間だった肉片、上空に「陸上自衛隊」と書かれた1機のヘリがホバリングしている。
生き残った連邦兵たちがヘリに向けて攻撃するも瞬時に別方向から飛翔した砲弾に殺傷された。
後ろを振り向く佐川たちの前に地面の軋むキャタピラ音とともに2両の戦車が姿を現した。
絶望の表情を浮かべる敵兵たちに容赦なく砲弾が叩き込まれた。戦車の援護もない敵たちは命からがら逃げていく。
「…み、味方のか…」
「攻撃ヘリって映画でしか観たことないけどこんなんだとは…」
義勇兵たちはただただ驚くばかりだ。
「おーい、君ら大丈夫か?!助けに来たぞ!」
戦車の後ろに続いてきたトラックから出た自衛隊員が走ってきた。
自衛隊部隊と佐川たちが合流する。走ってきた指揮官風の男と佐川は相手の階級章を見て話し始めた。
「ありがとうございます。三佐さん。上のヘリとこの戦車は?」
「いえ、間に合って良かったです。この数十分前に…」
佐川たちに三佐の階級の自衛官より陸自の攻撃ヘリ「AH-1S」が瀬戸内海に展開した護衛艦「かが」から飛び立って近接航空支援をしに来たと聴かされた。
港湾部の脅威を取り除いたあと、撤退の支援に揚陸艇から90式戦車改数輌が揚陸したらしい。
「あ!申し遅れました、この部隊の長で久瀬と言います。階級はおっしゃられる通り、三佐です」
自己紹介をした自衛官、久瀬は敬礼をする。
「俺はここのリーダーの佐川啓治です。警官です」
「僕は伊藤翔って言います。会社員です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
3人はひとまず握手をする。
「佐川さん伊藤さんこれからのことを話したいのでこちらに来てもらえますか?」
久瀬はそう言って2人を連れ出した。
「この中に入ってください」
3人は内部に余裕のある空間がある装甲車―――17式指揮通信車。82式指揮通信車の後継として2017年に採用された装輪装甲車だ。内部の通信機器が最新式の物が装備され武装は上部にM2機関銃が備え付けられている。
「案外、広いですね」
「ええ、私も初めて見たときはそう思いました」
久瀬は車内の席に2人を座るように促す。車内は壁に通信機器が密集しているが中央にはミニテーブルが置かれ大分市の地図が広げられていた。
「席につきましたか?それでは…」
「佐川さん!これからどうします?」
久瀬が話し始めたとこへ外から英字Tシャツを着た華奢な姿の女の子が佐川に顔を車内に覗かせ質問してきた。
「…君!今は取り込んで」
「いや待ってくれ」
少女を追い返そうとした伊藤を佐川が遮る。
「…怪我してないか?…橘…何も君までも戦わなくてもいいのに…」
「いいえ、私は戦います」
抗弁する女子高生の彼女、橘あきらは佐川の下で戦線に加わっていた。か細いその腕には佐川から貰ったMP5が握られている。
「……君はここで死ぬべきじゃない。君には生き延びて欲しい」
「いえ、佐川さんが死んでまで私は逃げたくないです」
「橘…」
橘の一言に佐川は苦々しく想うも反面ともに戦ってくれることに安心感を感じていた。
2人は博多駅で気まずいような出逢い(佐川視点「不機嫌そうだな…」。橘視点「格好良い…///」)をしたが行動を一緒にする中で2人の間に相手を愛しく想う心情が芽生えていた。言葉に出さずとも。
「佐川さん…」
「橘……」
血なま臭くなったこの場において2人は場違いな雰囲気を醸し出していた。
「…あーお二人さん、話しいいかな?」
伊藤が申し訳なさそうに言葉をかけた。いつの間にか佐川と橘の距離は近くなっていた。
「っ!ごめんなさい」
「あっ?!いや、その、まぁいい…」
2人は距離を離し戦場にもかかわらず赤面する。
「…な、なんだ?翔?」
「啓治のあんな慌てる姿初めて見たよ。それより久瀬さんから話があるらしい」
伊藤は手をクイッと久瀬に向ける。
「佐川さん、伊藤さん、そして橘さんだったかな…皆さんここを守ってくれてありがとうございます」
久瀬が頭を下げる。
「いや、当然です。連邦からみんなを守るためです」
佐川と伊藤の2人が謙虚に話す。
「あなたたちのおかげで部隊の撤退が終わりつつあります。ここで本題ですが私たちはこれから殿として敵を足止めしながら九州から本土に撤退します」
久瀬はそう言い詳しい内容を語り始めた。
次話で本章が終了します。長くなってしまった…。