第1話「日常」
-2031年5月9日-
-中華連邦極東自治区第1極東経済特区渋谷[12:00]-
-渋谷スクランブル交差点-
『…大統領閣下のご慈悲により極東自治区の人民には平等な権利が与えられており、これからは中華連邦人民の一員としてますますの経済発展が見込まれますでしょう…』
毎日多くの人々が行き交う渋谷交差点。行き交う人々の姿から普段と変わらないように見えるが建物や看板の所々に日本語はなく中国語の広告や案内が目立つように掲げられている。
ビル窓に設置されている大きな街頭テレビでは大学の教授や芸能人、役人らが出演して「これからの極東自治区」という名の番組が流れていた。
その交差点一角で信号待ちに2人のスーツ姿のサラリーマンが話をしていた。
「しっかし、極東自治区って言われてもピンっと来ねぇなぁ。もう日本って言っちゃいけないんだろ?」
「俺たちは日本人じゃなくて連邦人民になっちゃったわけだからなぁ」
男の手のタブレットには『日本国名、中華連邦・極東自治区と改称』という題の記事が載っていた。
もう1人の男は話しながらポケットからスマートフォンを取り出す。
「ここは東京じゃなくて第1極東経済特区。でもこうなってみると『日本人』って言えないのはなんか腹が立つよなぁ」
男は地下出入り口にいる「公安」のワッペンを身につけた警察官に目を配り聞こえないようにそっと不満を漏らした。
「たしかに」
隣の男も同感だったようだ。
「ちょっと君たち」
そんな2人の後ろから2人組の中年男女が近づいて声をかけてきた。
2人のサラリーマンは何かと後ろを振り向くと、中年男がいきなり2人の手に手錠をかけた。
「っておい?!」
「俺らが何したっていうんだ?!」
サラリーマンは驚いて抵抗しタブレットを落とした。すると周りから大男が群がり2人を無理やり取り押さえた。
「警察だ。大人しくしろ」
2人はそのままどこかへと連れて行かれたのだった。
『…日本語の使用については3年の猶予の後、全面的に禁止されます…』
そんな中でも街頭の番組はなんの問題もなく淡々と流れていく…。
-とある普通の小学校-
日中の小学校では社会の授業が行われていた。教師が子供たちに授業を行っている。
「かつて、日本人は悪事の限りを尽くして近隣の国々に迷惑をかけていました。今、中華連邦のおかげでようやくまともな人民になろうとしているのです」
教師は日本の歩んできた歴史を子供たちに『正しく』教えていく。
「授業が終わるので最後に、中華連邦にありがとうの気持ちを伝えましょう!」
教師の言葉を聞き子供たちは全員立ち上がる。
「はい。それじゃぁみんなぁせーの!」
「「「日本を良くしてくれてありがとう!!!中華連邦万歳!!!」」」
学校現場では授業終わりに万歳することを義務付けられるようになった。
-大学のキャンパス-
「検索できない言葉だらけだ」
「しっ!集音マイクがある…捕まるぞ…」
ベンチに腰掛けノートパソコンを観る学生が呟くと隣の学生は黙るように促した。
ネットは規制され情報統制が敷かれ日常生活では常に監視され政府批判する言動をすると見つかり次第逮捕されるようになっていた。
-同日-
-アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨークシティ-
-国連本部・国連総会会議場-
「日本は今まで我々中華連邦を攻撃してきた。その報復と日本人民を救うため日本に陸海空軍を派遣しました。そして今回、今までの罪を赦し友好の印しるしとして我々中華連邦と日本国の間で日中合併条約を締結します」
国連総会で今回の日中の戦争について会議が行われ中華連邦代表がスピーチした。続いて日本代表も壇上に上がる。
「日本側としても何も問題はありません。日本人民は中華連邦と合併できることを心より待ち望んでいました」
ASEAN加盟国や中央アジア諸国、インドなどの国々は中華連邦の行為を侵略で日本を助けるため国連軍を派遣すべきと非難していたが日本代表のスピーチで構おうにも構えなくなってしまった。
「私日本国全権代表として、日中合併条約の調印に賛同し中華連邦の行政区に編入されることを受け入れます。本条約で我々日本国は主権を中華連邦に委譲し翌日5月10日0:00をもって国連から脱退します」
日本代表はスピーチを終え中華連邦代表の隣の席に座った。
こうなって欲しくないですね…。個人的に。