斜陽のResistance   作:藤原守理

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第3話「日本義勇軍」

-2031年5月28日-

-中華連邦極東自治区第2経済特区長野ブロック-

-菅平高原[7:00]-

 

 

 菅平高原(すがだいらこうげん)は、長野県上田市の北部から須坂市にまたがる、標高1,250mから1,650mの高原地帯である。夏でも冷涼な気候であるため、古くから、ラグビー合宿の聖地として知られており、夏はラグビーをはじめ、サッカー、テニス、ゴルフ、陸上競技、パラグライダー、乗馬、冬は、スキーなど多種多様なスポーツが盛んに行われていた。

 また、日本初のスキー指導が行われた地でもあり、1911年(明治44年)にオーストリア・ハンガリー帝国公使館付武官、テオドール・エードレル・フォン・レルヒ少佐により高田第13師団の陸軍研究員14名に指導が行われた。同年1月12日、午前8時に「メテレ・スキー!」(スキーを付けよ)のレルヒ少佐の合図が響き渡った。まさに日本のスキー誕生の瞬間だった。

 夏の冷涼な気候を利用した高原野菜の栽培も盛んで高原のいたるところにキャベツやとうもろこし畑が広がる田園風景が見ものである。

 かつては避暑地として栄えた地域だったが現在、その姿は一変している。 

 

 

 

 

 

 

 

「……今月の収穫は装甲車3両に補給車1両、T80U戦車1両か。上出来だ」

「実のところ装甲車は4両捕れるはずだったが、敵が機関砲で攻撃して来たから仕方なく車両ごと撃破した」

 

 

ズズゥゥゥンパラパラ…

 

 ここは地下をくり抜いて造った地下壕のこぢんまりとした部屋である。不定期に襲い来る連邦空軍の空爆による地響きが地下壕に居ても感じるほど苛烈さを増し天井から土ホコリが落ちてくる。ファインダーに貼られた報告書を左手に持ってそれを眺める眼鏡をかけた切れ目で迷彩服姿の男とスーツ姿の男が書類の積まれた机を挟んで立ち話をしていた。迷彩服の男は右手の中指で下にブレた眼鏡の位置を正しながら話を続ける。

 

 

「見る限りこれでこっちが鹵獲した車両はかなりの数になったな」

「燃料もこの前山道で道に迷っていた連邦の補給車を手に入れてあと4ヶ月はいけるほど充分蓄えはあるようだ」

「あぁ、しっかしそれにしても中華連邦(エイリアン)の武器を使うのは気持ちのいいもんじゃないな」

 

 

 ファインダーを近くの机に置き1歩2歩と歩を進める。相手の男は変わらず直立姿勢を保っている。

 

 

「…ところで、連絡将校としての任務と鹵獲作戦の指揮を務めてくれてありがとう。南の方はどうだ?こっちはひたすらここにこもって敵を迎え撃つのが精一杯だ」

「いや、仲間からの救援要請があればこちらから喜んで駆けつけるよ。そうだな…。南の方は…」

 

コンコンッ

 

 そこへドアをノックする音が鳴った。

 

 

 

「なんだ?!」

「牧田(まきた)一佐!お話中のところをすみません。第2司令部の久佐木(くさき)二佐が第7会議室で急遽話をしたいそうで!」

「そうか、少し待ってくれもうすぐ行くと伝えておいてくれ」

「畏まりました!」

 

 

 そう言って伝令役の兵士が走り去っていった。

 

 

「すまない。話の続きをしないか?」

「そうしたいのは山々だが、急用があるから残念だけどここを発とうと思うよ」

「そうか、もう少し話をしたかったが…元気でな。”一佐殿”」

 

 

 

 敬礼をし牧田(まきた)一佐と話を終えた一佐殿と呼ばれた男は熱のこもった地下壕の外へ出て背を伸ばし新鮮な空気を吸った。

 

 

 長かった冬の季節が終焉し初々しい春を迎えた高原には蜜を求める蝶たちがパタパタと飛び廻り幾万もの咲き誇る菜の花に集っていた。

 

 そんな平和な景色をぶち壊すかのように視線を少し逸らしてみると高原のいたるところで爆撃の被害で燃え盛る大地や建物、火薬の硝煙と肉の焼け焦げる臭いが充満している。

 

 

 不発弾に注意しながら歩いていると2人の兵士が担架をしょって走り去っていく。担架で運ばれる人は全身黒焦げてうめき声を出していた。2人が走ってきた方向を見るとそこには銃身が折れ曲がり燃え上がる87式自走高射機関砲とそこに駆け寄る人々の姿があった。どうやら死者が出たらしい。こういう光景はみなもう慣れていた。ここでは連邦軍の襲撃で今月だけで数十人以上の仲間が殺された。

 

 

 

 

 

 

 

 それを傍に見ながらしばらく歩くと目的の車が見えてくる。

 

 

「久瀬(くぜ)一佐!遅いです!」

 

 

 トヨタのヴェルファイアに駆け寄ると窓からスーツ姿の女性が身を乗り出した。

 

 

「すまない、羽柴(はしば)。旧い友人の牧田一佐と話が長くなってな」

「そうですか。しかし、時間は守ってください。1300に静岡沖で友軍潜水艦と合流しないといけないのですから」

「了解しましたとも。羽柴(はしば)一尉殿」

「もう、茶化さないでください…!」

「へいへい」

 

 

 

 

 2人はあの大分撤退戦を戦い抜いた久瀬(くぜ)冬馬(とうま)三等海佐と羽柴(はしば)市子(いちこ)二等海尉だった。2人ともそれぞれ三佐から一佐、二尉から一尉と昇進している。

 

 

 

 

 

 半年前の大分戦で久瀬は腹部に2発の銃創を負いショック状態に陥り意識不明になっていた。知らせを聞いた羽柴は気が動転して久瀬の意識が戻ることを祈って必死に久瀬の横で看病をした。その願いが叶ったのか1ヶ月後、洋上の護衛艦『かが』の医療ベットの上で目を覚ますことができた。

 

 太平洋上で作戦行動中だった『かが』を旗艦とした海上自衛隊第3護衛隊群、『いせ』を旗艦とする第4護衛艦群とその他の艦艇は9月の日本政府の降伏声明に抗命、中華連邦への徹底抗戦を唱える部隊が集う小笠原諸島と北海道、受け入れ表明するインドネシア共和国に亡命した。

 日本より脱出した艦艇は初めバラバラに接近してくる中華連邦海軍へゲリラ攻撃を仕掛けていた。しかし、冬のある日、太平洋の公海上で警戒任務についていた護衛艦『あさかぜ』が連邦軍の潜水艦に撃沈され、隊内でただ守るだけで手をこまねいてやられるだけは御免だ、本格的攻勢に出るべきだという声が仕切りなしに強くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-2031年1月2日-

-インドネシア共和国領内自衛隊臨時基地島-

 

 

 

 この日この小さな島で各国の記者や大使が招かれ全世界に向けて1つの宣言が発表された。

 

 

 

 

「昨年7月、多くの日本人が無念の思いとともに虐殺され8月に中華連邦に我が日本国は占領されました。連邦の弾圧に抵抗して散っていった日本人の数は数えきれず、先月には護衛艦『あさかぜ』乗員205名が魚雷攻撃で戦死、国内では連邦人に日本人の女性はレイプされ多くの人々の財産は略奪、連邦兵は捕まえた日本人をいたぶった上で殺人、強制労働で虐げられています。我々は同胞がむざむざと死んでいくのを黙って見ているわけにはいきません」

「よって本日2031年1月2日、我々日本人は独立の断固たる意志を持って、ここに『日本義勇軍』の結成を宣言します。日本の誇りと自由を奪還することを侵略者中華連邦に通告する!」

「日本は俺たちの国だ!俺たちは国を奪われ家族を殺されたが心までお前らに屈していない!今こそ祖国を取り返すため団結する時だ!」

「国内国外の日本人よ!俺たちが国を守らずして誰が守るんだ!」

 

 

 

 2031年1月2日に日本国内で抵抗する陸海空の部隊、ゲリラ戦で抵抗する市民たちと合同で「日本義勇軍(レジスタンス)」を結成、世界に向けて日本の独立を取り戻すことを宣言した。幹部で実戦経験豊富な久瀬三佐と羽柴二尉は日本義勇軍に参加した。

 

 

 

「我々ASEAN議会は日本義勇軍を日本の正式な政府と認め中華連邦に宣戦布告する」

「我がオーストラリア連邦も同盟国として中華連邦に宣戦布告する!」

 

 

 

その「抵抗」宣言の同日に東南アジア諸国連合とオーストラリア連邦は日本義勇軍と同盟を結んだ。

 と、同時に両軍の攻撃機が北ベトナムや南沙諸島にある中華連邦軍基地や艦艇へ先制攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 のちの歴史家はこれを「ASEAN・オーストラリア・日本による連合国と中華連邦の間で戦われた第2次太平洋戦争」と呼んだ。

 

 支援を得られた日本義勇軍はASEANから無人島を購入し基地と街を建設した。国内の陸自は残存する兵器をかき集めて各地にゲリラ基地を作り連邦軍にダメージを与える。空自は小笠原の飛行場やASEAN諸国と連携して連邦に攻撃を仕掛けている。

 南沙諸島では連合国軍と中華連邦軍の艦隊戦が、インドシナ半島では連合軍と中華連邦の戦車や戦闘機が殴り合う地上戦が発生。

 世界各地で中華連邦への反撃の狼煙が上がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-2031年5月19日-

-中華連邦極東自治区第3極東経済特区京都[19:30]-

 

 

「いらっしゃいませーこんばんはー」

「フェミチキお買い得です。いかがでしょうか?」

「レジお願いしまーす!」

「Aポイントカードはお持ちですか?」

「ありがとうございましたーまたお越し下さいませ!」

「おいっ早くしろ!俺は急いでるんだ!くそ店員!」

「申し訳ございません。もう少しお待ちくださいませ!」

 

 

 19時は夕食と仕事終わりでサラリーマンが街に溢れる時間帯。連邦がバックの大企業が仕事を大量に発注した影響で皮肉にも表向きの極東自治区内の経済と雇用は改善している。ここコンビニエンスストア『フェミニスト』ではフェミチキなど5品目が30円引きセールをやっておりフェミチキを買い求める買い物客がレジに並んでいた。

 

ピッピッピッピッ

「…110円が1点。合計8点で4545円になります。5000と45円いただきます」

 

 

 男性店員が会計を素早い手つきで処理していく。

 

 

「お待ちのお客様!こちらへどうぞ!」

 

 

 次々と客を裁き彼は就業終わり時間になったため仕事を終え裏へ着替えに行く。

 

 

「こんばんは、長町(ながまち)さん。お疲れ様です」

 

 

 裏のスペースで男に対して廃棄予定のスパゲッティーを食べる手を止め女の子が挨拶してきた。

 

 

「こんばんは、北上(きたかみ)さん。学校終わりかな?」

 

 

 ネクタイを緩めながら男は北上と呼ばれた女の子、北上(きたかみ)穂乃果(ほのか)の制服姿を見て聞いた。彼女は小顔で栗毛で髪を片方に紐でまとめて縛った髪型をし育ちが良いのか仕草が上品だった。

 

 

「そうです!長町さん、聞いてください!今日うちの男子が!」

 

 

 彼女は男に近寄って学校での出来事を話していく。男は仕方がないなというような素振りで淡々と話を聴く。北上は長町という男に好意を抱いていた。彼は傍から見たら髪はボサボサで30過ぎてフリーターのだらしない男という評価がついていた。それでも彼女は彼の内なる何かに気を惹かれているようだった。

 

 

「それでですね。次の休日にその……」

「…あーそろそろバイト始まるんじゃないかな?」

 

 

 腕時計を見て長町は北上に目を配る。

 

 

「あっ!いっけない!またね、長町さん!またお話しましょうね!」

 

 

 そう言ってパパッとバイトの制服に着替えた彼女は裏部屋から出て行った。

 

 

(やっと、終わったか…)

 

 

 長町は凝り固まった肩をならし着替えをすませ裏から店の外に出ていく。

 

 

 すると、タイミングよく着信音が鳴った。バックパックから箱型の通信機を取り出し通知画面を見て長町は一通りが少ないとこに身を移した。

 

 

 

「もしもし」

「…出てくるのが遅いぞ」

「すまない。だがお詫びにいろいろといい情報が入った」

「そうか。それじゃ聴かせてくれ、長町(ながまち)…いや、”伊藤(いとう)翔(かける)”准尉」

 

 

 ネオン輝く街の陰で光が1つ動き出していた。




高校の陸上部時代、夏に菅平高原のダボススキー場やサニアパークで箱根駅伝出場校の大学生を招いて8校合同合宿で走っていた思い出(トラウマ)の地です。
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