-2031年5月30日-
-北海道空知郡南富良野町-
-JR幾寅(いくとら)駅プラットホーム[10:20]-
新緑の生える北海道空知郡、『イトウと暮らす』南富良野(みなみふらの)町。人口2200人の小さな町ではあるが知る人ぞ知る映画『鉄道員(ぽっぽや)』のロケがおこなわれた地としてコアな映画ファンからは有名であり、JR幾寅駅は映画では石炭集積所の『幌舞(ほろまい)駅』という名で登場している。
JR幾寅駅の駅舎は木造造りで古びているが駅そばの旧型の円型郵便ポストと合わせると絵としてむしろ良い雰囲気を醸し出している。
町の名物であるラベンダー畑ではまだ開花はしてなく蕾が緑色で出穂している。今日は快晴で峰にまだ白く雪が残っている山々が見え幻想的な景色であった。
普段は和やかで静かな駅周辺ではあったが今は多くの人と機械で溢れかえっていた。
駅のプラットホームに灰色の車体に緑色のラインが入ったデザインのキハ150形気動車が5両編成で到着した。
客車のドアが開くと中から緑色の集団が一斉にホームに降り立った。
「第1小隊は駅舎を出て整列!人数確認終わり次第トラックに乗り込め!第2第3小隊は待機!」
駅前には大人数の緑色の大集団、73式大型トラックや87式自走高射機関砲、40mmテレスコープ弾機関砲(CTA機関砲)搭載の20式偵察警戒車が並んでいる。
彼らは日本義勇陸軍北海道方面第1師団(旧陸自北部方面隊第5旅団)の普通科隊員であり、最前線で戦闘する部隊の救援のため訓練を終えた新兵を主体に根室より送られてきた。隊員の手には5.56mm23式小銃やミニミ機関銃を装備し鉄ヘルに背嚢や防弾ベストを着て完全武装である。
「よし!第1小隊この2両のトラックに乗り込め!第2小隊集まれ!」
階級は一尉の中隊長が小隊に命令し次々と隊員は乗り込んでいった。
「現時刻1030(ヒトマルサンマル)。これより夕張へ向かう。今のうちに装備の点検を済ましとけ」
「了解」
「運転手、出してくれ」
小隊長が隊員に言いトラックは動き出した。
発車してから15分、車内は静まったままであり、隊員たちの表情や感情はそれぞれ異なっている。無機質・悲愴・涙・興奮といった様々であり、中には嘔吐を繰り返す者もいた。前線の戦況は悪化の一途をたどり後方に運ばれてくる戦傷者からの証言で悲惨だということは隊員に知れ渡っていた。隊内の士気は下がる一方だった。
「…おい、あんた。名前はなんていうんだ?」
高校生にも見えなくもない若者がウトウトしていると前の男から話しかけられた。
「ん…あぁ、名前、名前は清元(きよもと)康(やすし)一等陸士です」
目を手で擦りながら若い男は答えた。
「あ、寝起きだったか。すまない」
「いえ、そちらは…?」
「俺か?俺は松原(まつはら)佑都(ゆうと)。三等陸曹だ」
松原と名乗った男は30代ぐらいの飄々とした顔立ちをしている。2人はお互いの名前を認識した。
「三等陸曹?陸曹さんでしたか。どうしましたか?」
「そんな硬くならなくていいよ。君、歳は?」
「19です」
「お!俺とおないじゃん!なら尚更だよ」
「いえ、一応軍ですので敬語は」
「なくていい。どうせ前線に行ったら関係なくなる。今のうちに仲良くしとこうじゃないか」
「え…まぁそれじゃ普通に…しますか」
揺れるトラックの中で2人の会話が進んでいく。
「…そうかあぁいうのが好きなのか」
「そうですよ。悪い?」
「いいやからかってすまん。ええと清元ってどこ出身?どこの駐屯地にいた?」
「俺は生まれは富山で育ちは旭川だよ。前は真駒内(まこまない)だね」
「そうか!真駒内!俺と同じじゃないか!俺は生まれも育ちもここ十勝だ」
「同じだったの!?平和なときに出会いたかったな…今はこんなだしね」
周りの隊員たちは全く喋っていない。前線に行くプレッシャーにひたすら耐えているのだ。小隊長ですらどこか憂鬱な表情をしている。
「そういや松原ってさ、元々自衛官だったの?」
清元が話題を変えて話してみる。
「あぁそうさ、でも去年曹候で入隊したばっかだから実戦もくそもないよ。清元と同じさ」
「ふーん、そうなのか」
「ところで清元は前線に行くのが怖くはないのか?この状況で寝てたからつい声かけちまったが…正直…俺は怖い」
皆少なからず何かを恐れている印象なのに対し清元は全くそういう素振りがなかった。松原はそこを不思議に思って目の前で寝ている少年に声をかけたのだ。
「…怖いさ。だけどみんなの感じる”怖い”とは違う」
「それって…」
「おい、静かにしろ。お前らも装備の最終点検を済ましとけ。もうすぐ着く…」
松原が話そうとしたところで小隊長に注意を受けた。ここで2人の話は途切れて車内は再び静まり返ったのだった。
-同日-
-ロシア連邦首都モスクワ市スターラヤ広場-
-ロシア連邦大統領官邸-
通称「クレムリン」。1776年から1788年にかけて帝政ロシア元老院として建てられたこの三角形の建物は赤きソビエト時代の旧ソビエト共産党閣僚会議館を経て現在はロシア連邦大統領の玉座となっている。
「大統領、南部軍管区第49諸兵科連合軍司令官、レジノフ・マタリノーコフ中将より3月に南オセチア共和国へ侵入したグルジア陸軍を現地軍と共同で殲滅、同陸軍の南オセチア領外への完全撤退の確認が取れました」
「うむ。それは良いことだ」
執務室の椅子に腰掛けるこの人物はウラジーミル・プーチン前大統領の後継者として指名されたセルゲイ・イワノフ現連邦大統領である。
彼もプーチンと同じく旧ソ連時代のソ連国家保安委員会(KGB)出身であり、プーチンの出世とともに彼も出世していた。そして今日、連邦大統領の座についている。
「南オセチアからのグルジア人勢力の一掃で我が軍の支配圏が及ぶことができます」
「наивысший(メイブッシィェ・上出来だ)!次の報告は」
大統領の言葉を受け事務官が報告書の次の欄を見て読み上げる。
「次は東アジア情勢についてです」
「おぉ、たしか今、中華連邦と連合国軍で火花を散らしているところだな」
「えぇ、大統領。在北京大使館の対外情報庁(CBP)北京支部からの報告によると近頃連邦軍の日本での攻勢が弱まっているようで連邦本土から陸軍兵力を送っている影響で次々と本土の戦力が減っているとのことです」
「そうなのか。ならばT-14U戦車の増産を急がせろ。全軍に中華連邦を刺激することを極力控えろと伝えておくんだ。…あとは、陸軍極東軍管区に第1機動生物防護部隊を配備しろ」
セルゲイは2015年に採用されたT-14戦車の改良型のT-14U戦車の増加生産を以前から命じていた。
「大統領閣下。…あの兵器を投入するおつもりで?」
「前の実験レポートのスペックを見る限り”使える”と判断した。せっかくの機会だ。使わない手はないだろう」
「しかし、アレは我々からしても諸刃の剣では…?」
「使えないとなればミサイルでもぶち込んで滅菌すればいい。とりあえず配備するんだ」
「…畏まりました、大統領閣下」
大国ロシアでも着々と手を伸ばす準備が進められていく…。
ロシア料理の中でもボルシが一番大好きで、私の得意料理でもあります。最近めんどくさくて作ってないですが。
Youtubeでロシア軍格闘術『システマ』を観ていましたが自衛隊格闘術と戦わせたらどちらが勝つんでしょうかね…。