斜陽のResistance   作:藤原守理

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第8話「襲撃と逼迫する北方戦線」

-2031年5月30日-

-中華連邦極東自治区第2経済特区新姚(シンヤオ)(旧松本市)-

-官庁街[10:30]-

 

 

 長野県松本市。6階建ての天守を擁する松本城を中心とする旧城下町であり、幸いにも戦災を免れたことから、旧開智学校(重要文化財)などの歴史的建造物が多く残る歴史的な都市であった。中華連邦による日本侵攻時、奇襲を受け上陸された日本海側の主要都市では住民や自衛隊員が武器を取ってゲリラ戦で連邦軍に対抗した。連邦軍はハーグ陸戦条約どこ吹く風の如く徹底的に都市を空爆。戦闘によって街は灰塵と化し、現在も戦闘が行われている。

 松本市では市議会と住民によって無防備都市宣言が出され連邦軍の進駐を認め、中部地方で唯一、街に被害を受けなかった。現在では地名が「松本」からここに進駐した第2軍総司令官・姚(ヤオ)中将の名をとって「新(シン)姚(ヤオ)」と改称。松本市役所に極東自治区第2経済特区の省庁が、松本城内に連邦軍第2軍区総司令部が置かれ中部地方での軍事的経済的流通の要衝となっている。

 

 

 ここでも渋谷や大阪のように連邦人と日本人の区別がつけられたが軍司令官の意向でここでは露骨に連邦人を一等民、日本人を二等民と呼ばれ、かつてのゲットーのような場所に二等民とされ反発する日本人を収容している。

 

 

 

 丸の内の旧市役所周辺では急ピッチで高層ビルの建築が進み官庁街として整備されつつあった。昼間なのに車は走っていない。ここ一帯には戒厳令が出され、戦闘のない渋谷や大阪中心部といった場所以外は軍の車両以外の通行を制限していた。

 

 

 

 

 

 曇り空のこのビル街では今、炎で肉焦がれる臭いが立ち込め轟々と黒煙が焚き上げっていた。

 

 

「走れ!」

「2ブロック先から脱出するぞ」

「後ろから迫ってきてる!」

 

 

 1時間前に連邦軍ビル一角での爆発と同時に銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

「…孫(ソン)大佐はやったぞ」

「物資と設備も爆破したからさっさとおさらばだ」

 

 

 立ち込める黒煙の中から現れたのは火器を装備した日本人レジスタンスだった。日本国内には日本義勇軍のほかに小規模ながらレジスタンス勢力が複数存在している。彼らは新潟に拠点を置く抵抗組織(レジスタンス)の人間だった。この連邦軍ビル(旧市役所)に第2軍ナンバー3で新潟方面軍の指揮官、孫(ソン)鳳和(ホウワ)大佐が滞在している情報から彼らの今回の目標となり、孫(ソン)大佐の尋問と暗殺に成功した。

 

 

 

「打ち合わせ通り、1班は陽動。2班と3班は脱出。近くに用意してある車で1班を救出だ。行けいけ行け!」

 

 

 警戒サイレンの鳴り響く中、1班に8人、2班3班にそれぞれ5人ずつにわかれ行動に移っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 2班3班はそれぞれ非常階段を足早に駆け下りていき、1班は駆けつけてくる連邦兵を待ち伏せすることにした。

 

 

 

 

 

 ところが、1班は廊下を駆け足で移動中に部屋から出てきた連邦兵とばったり遭遇してしまった。

 一瞬の沈黙のあと、1人の班員がトリガーを引くとAR18ライフルの放つ5.56mm弾が連邦兵の顎(あぎと)を食いちぎった。マズルフラッシュを輝かせパパパと軽快な弦楽を奏でる銃声と血潮を撒き散らしてふんぞり返る連邦兵。寿命の尽きかけた蛍光灯の下で戦闘は唐突に始まった。反応の遅れた双方の兵数人が被弾し瞬時に血飛沫を撒き散らし事切れる。 

 

 

 

「こっちだ!中国狗(ジョングゥオゴォウ)!」

「小日本人(シャオリーベン)!」

 

 

 お互いが蔑称で挑発し、近くの鉄製の本棚やドアを盾に銃撃の応酬をする。時間はかけていられないためレンジスタンス側の62式機関銃やミニミ軽機関銃をもった班員が制圧射撃を加えたり破片手榴弾を惜しみなく使った。5.56mm程度なら耐えられる鉄製の壁でも7.62mm以上の口径は貫けるようで62式7.62mm機関銃の弾は元々防弾効果の薄い壁やドアを貫いて隠れていた連邦兵が被弾、次々と倒れていく。すると、連邦兵は徐々に後退し始める。

 

 そして、1班は連邦兵のあとを追い1階のエントランスに到達した。

 

 

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁ!食らえくそったれ!」

「っ!おい!牛野郎だ!」

 

 

 レジスタンスの目の前に茶色の塗装でまるで映画『スターウォーズ』に出てくるような形状をした牛型の連邦軍歩行ドローンが出入り口の自動ドアを突き破って姿を見せた。

 

 

「ドローンに集中しろ!」

「みんな一旦引け!」

「前芝(まえしば)出すぎだ!引け!」

「………あぁぁぁ」

 

 

 

 

 レジスタンスからの集中銃撃を受けるドローンだったが全身に施した人工ダイヤモンド複合装甲に銃弾はすべて弾かれる。ドローンは自律思考機能(AI)で最優先排除目標を査定し、上部に搭載する14.5mm3銃身ガトリング機関銃がもっとも脅威と判断した目標(前芝)に照準、掃射した。

 

 14.5mm弾は人の身体に1発でも着弾すると人の身体は14.5mm弾の運動エネルギーに耐え切れず最悪、真二つに引き裂かれる。湾岸戦争当時、似た種類の12.7mm×99NATO弾がイラク兵への狙撃に使われた際、目標から1.5km離れていたにもかかわらずその目標人物の身体を両断したという話がある。

 

 その凶弾を前芝はドローンに1秒に10発の速さで身体に撃ち込まれ上下が裂かれたかと思うと周囲に肉片と真っ赤な液体が飛び散り跡形もなくなった。

 

 

 

 

「前芝ぁ!」

「小林!ここはもういい!お前は先に!」

「なに言って」

「やつら攻撃ドローン持ってきやがった!こっちは2人やられ…ここはもう…」

 

 

 襲撃を行った彼ら1班は逃避行を続けていたが当初8人だった実行メンバーは3人に減っている。そんな彼らも集結しつつある連邦軍部隊に包囲されつつあった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の2班と3班はそれぞれ別々の非常階段からビルを脱出した。目的の車の場所まではまだもう少しかかりそうだった。

 

 

『こちら1班!マズい!助けてくれ!』

 

 

 2班の班員は裏路地から目的地へ移動していた。無線からけたたましい銃声と1班の悲痛な叫びが聴こえている。

 

 

『こちら3班!”パワードスーツ”4体と交戦中!2人やられた。押されつつある』

「こちら2班、順調に向かっている。もう少し耐えてくれ!」

 

 

 3班はパワードスーツと呼ばれる機械化歩兵と遭遇、交戦せざるをえなかった。

 

 

 『パワードスーツ』。連邦軍が2025年に配備を開始した機械化歩兵ユニット。従来の歩兵は持てる火力が限られている上に被弾にとても弱く機動力が乏しかった。その問題を解決するため開発された。武装は30mm単射機関砲(セミオートキャノン)。最大5tの荷物を持ち上げることが可能。全長が2.5mで狭い室内での戦闘と時速30kmでの走行が可能で機動力・火力・防御力の3点がバランス良く設計されており、タングステン対戦車炸裂徹甲弾を装填すれば限定的な対戦車戦闘も行える設計となっている。

 生身の歩兵がパワードスーツを着た敵兵と交戦して生還する確率は低い。

 

 

 

「こちら2班!1班3班!どうにか耐えてくれ!もうすぐ着く!」

 

 

 湿っぽく埃の多いビルの谷間を縫って2班の男5人は駆け抜けていく。昨日の雨でアスファルトの剥がれた地面はぬかるんでいる。

 

 

 そうするうちに開けた空き地に出た。建設会社の資材置き場のようで中央には丸太や小型のバラックが設置されていた。

 

 

 5人はその一角に灰色のシートで被された覆いを取り外した。

 

 

 

 5人の前に現れた黒い車両―――トヨタ・ランドクルーザー『プラド』。ランドクルーザーシリーズの最新バージョン。信頼性・走破性・耐久性に優れており四輪駆動でどんな野山でも走行ができる。車内空間は広々としており、この車両の側面には装甲板を取り付けられ車体上部にはターレットハッチ、74式車載7.62mm機関銃が装備してあるなどの改造が施してる。

 

「乗り込め!」

 

 男たちは迷わず乗り込み1人が機関銃を握りエンジンを掛け発車した。

 

 

 

「こちら2班!車を手に入れた!応答しろ!」

 

 

 

 資材置き場を出たプラドに乗った2班は通信を入れ、軍ビルへ向けて走っていく。しかし、2班からの通信の返答は帰ってこない。

 

 

 

「こちら2班!どうしたっ!?」

「班長!前方より装甲車!」

「煙幕展開!避けて迂回だ!」

 

 

 装甲車と歩兵の部隊が道をふさぎプラドの装甲に銃弾がぶつかる。2班班員は車窓から煙幕手榴弾を投げ鮮やかな黄色の煙で連邦兵の視界が塞がれる。

 

 

 

「ここを右に!おい、誰か応答しろ!」

『…こちら1班の小林。私を残し、全員死亡…囲まれています』

 

 1班の生き残りが無線の応答に出た。

 

 

「待っていろ!すぐに助けに行く!」

『いえ、私は腹に弾を食らってもうもちません。3班の方は全滅したようです』

「……だが!」

『あなた方は情報を持ち帰る義務があるはずです。新潟の仲間たち、日本のためです。行ってください!きやがった!「いたぞ!」「糞が!」ダダダダッ』

 

 

 

 

 

 

 そこで通信が途絶えた。

 

 

「…班長。どうしますか?」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「攻撃ヘリだ!」

 

 

 機銃手が空を指差して機関銃弾を空に放射する。上空にはWZ-10(武直10)がプラドを発見、追跡し始めた。

 

 

「総員対空射撃!ジグザグ走行!」

「対戦車ミサイル!」

 

 

 

 WZ-10から放たれた対戦車ミサイルがプラドの左に着弾した。

 

 

「あっぶねぇ!」

「っ!?ハンドルが効かない!」

「対ショック姿勢!」

 

 

 左側のタイヤが破裂してハンドルが効かなくなったプラドは近くの家屋に衝突していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-2031年5月30日-

-北海道夕張市紅葉山-

-新夕張駅[13:00]-

 

 

 

 

 

「目標11時、99式」

「弾種、貫徹徹甲弾装填完了」

「撃て」

 

 

 砲弾を放つ砲塔に丸みを帯びた形の戦車。

 

 

「手榴弾!」

「うぁぇ!?」

「1人殺った!」

「おい、宮下!宮下!」

「おい、そいつはもう……お前らここはまずい!後方に撤退するぞ!」

「神野准尉!橋本二曹・田中一士戦死!宮下二士も」

「あとで遺体は回収!撤退!撤退しろ!」

 

 

 塹壕から制圧射撃、飛び込んできた手榴弾の爆発で手足が吹き飛ぶ男たち。

 

 

 

 

 ここは中華連邦軍との最前線の日本義勇軍陣地である。2時間前、新夕張駅周辺の市街地に前線の日本義勇軍戦車隊を撃破した99式戦車を主とする連邦軍戦車隊が侵入した。連邦軍は後方から増援として駆けつけた日本義勇陸軍第1師団と激闘を繰り広げている。日本義勇軍側は戦車が足りない影響で、倉庫に保管され退役した74式戦車を修理の上、前線に出して迎撃にあたっていた。

 

 

 

「エンジンに命中!撃破!」

「横から突っ込んで来るぞ!宇津島下がれ!」

「了解」

 

 

 

 コンピュータ誘導の105mm対戦車徹甲弾は99式戦車のエンジン部を貫き撃破した。旧式とされている105mmライフル砲でも側面やエンジンなどの弱点を狙えば連邦の主力戦車を撃破することができた。

 

 

「やばい!見つかった!」

「移動しろ!」

 

 

 

 砲火で敵に発見された74式戦車は陣地から移動を始める。

 

 ここの戦車隊を指揮する部隊長・岡田(おかだ)治(おさむ)二尉は優れた戦略家だった。防衛大時代に学んだ大戦時の旧日本軍がフィリピン防衛戦で実行した「移動トーチカ作戦」を手本に予め、紅葉山に陣地を築いていた。

 

 遮蔽・擬装はほぼ完璧であったが105mm砲の砲火は目立つ。今いる戦車壕から横の戦車壕に移動を完了した。

 

 

 

「よし!次だ。目標2時の歩兵戦闘車!」

「撃て」

 

 

 

 

 戦車隊が前線で敵の侵攻を阻んでいる後方で数台のトラックが到着した。

 

 

 

 

 

 

 

「全小隊下車!戦車隊の支援、敵後方への排撃任務に当たれ!」

 

 

「中隊長が先陣切ったぞ!第1小隊下車!続いて行くぞ!」

「おい!怖じけんな!止まると死ぬぞ!行け行け!」

 

 

 

 到着したトラックから普通科隊員が次々吐き出されていく。トラック内で尻込みする隊員のケツを叩きながら第1小隊隊長や中隊長を先頭に前線の塹壕へ全員向かっていく。前線へ走る隊員の中に松原三曹と清元一士の姿があった。

 

 

 

「…生き残るぞ!相棒!」

「俺がいつから…まぁいいぜ相棒!松原!」

 

ヒュルルルルル!

 

「迫撃砲だぁ!」

 

 

 降りて10mぐらい走ったところで乗ってきたトラックに砲弾が直撃し出遅れた隊員数人が全身火だるまになった。

 

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああぃぃぃいい!?」

「うぇぇたああすぇけぇ!?」

「ここだとああなってやられるぞ!向こうの塹壕へ走れ!全力でだ!!!」

 

 

 

 2人は小隊長の掛け声や火薬の臭いと火炎の熱さに煽られて気分は高揚している。他の隊員も同じようで鳴り止まない銃声と着弾する砲弾の硝煙によるコンバットハイで恐怖心がなくなりつつある。

 

 

 

「また迫撃砲だ!」

「今度は第2小隊のやつらが!」

「固まっているから狙われるんだ」

「とにかく走れ!塹壕に!」

 

 

 隊員たちが走る中でも容赦なく砲弾は降ってくる。

 

 

「よっしゃ!入った!」

「今度は前方から敵兵!」

「キャリバーでなぎ倒せ!」

 

 

 清元がすぐさま銃座につきドダダッとブローニングM2機関銃を発射していく。突撃してきた敵兵は文字通り12.7mm弾の弾幕になぎ倒され銃撃に気づいた後方の敵は壊れかけのブロック塀に身を隠した。

 

 

 そこへ遠くの上空からプロペラ音が徐々に大きくなっていく。

 

 

 

『(ザッ)…こちらコブラ01、支援攻撃を開始する…ざ』

「了解コブラ01!っておい…誰か通信班を引っ張っこい!無線が壊れた!」

 

 

 

 無線手は頭を撃ち抜かれて死んでいるため小隊長が無線器を分捕った。直後に上空からAH-1Sコブラ2機が飛来、近接航空支援を開始した。

 

 

 

 

「私が行きます!」

「君は?どこの所属だ?」

「ただいま到着した根室の第4普通科連隊第1小隊の松原三曹です!」

「よし、松原三曹!よろしく頼んだ!」

「はい!清元いくぞ!」

「おう!」

 

 

 頭上で銃弾砲弾が五月雨に飛び交う中を2人は頭を伏せて塹壕を駆けていく。上空ではコブラがバルカン砲で敵兵を狩っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次目標チャーリー、納屋に隠れた。ハイドラで射撃」

「了解」

『01へ02より、地上からの対空砲火が激しい。手伝ってくれ』

「こちら01了解」

 

 

 武器射撃員が押すロケット発射ボタンと同時に両翼に付けられた70mmハイドラロケット弾が連続発射され目標の納屋へ飛翔していく。

 

 

「納屋が爆散。目標チャーリー沈黙」

「了解。02の支援に向かう」

 

 

 ヘリパイロット山城(やましろ)和也(かずや)一等陸尉と射撃員の二木(ふたぎ)裕二(ゆうじ)三等陸尉の操るAH-1Sコブラ01号機は上空から地上の敵を蹴散らしていく。

 

 

「っ!ミサイルアラート!」

 

 

 [Missile Alert]の赤い点滅と警告音が機内に鳴り響き、パイロットの山城一尉は操作パネルを操作してフレアの放出を行った。赤外線のミサイルはヘリからそれた高度で爆発した。

 

 

 

 

「躱した!どっから撃ってきた?」

「スティンガーをもった一団発見、排除します」

 

 

 二木三尉が操作パネルで目標を選択し、機体下部に取り付けられた20mmバルカン砲が火を噴く。

 

 

「命中!」

「さっさと支援だ!」

「了解」

 

 

 

 

 

 

 そんな上空でのやり取りを尻目に地上では激しい銃砲撃戦が展開され、松原と清元の2人は無線班を探していた。そんな彼らのもとに新たな脅威が迫るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-2031年5月30日-

-中華連邦極東自治区第3極東経済特区京都[18:00]-

 

 

 

 京都では治安が非常に安定しており、人々は多少不自由ながらも占領前と変わらぬ暮らしを送っている。中華連邦総合庁舎前のコンビニエンスストア『フェミニスト』ではアソパソマン700円クジサービスとアイス半額セールが重なって店内は来店客で一日中溢れていた。当然、コンビニレジも慌ただしく運悪くバイトの研修に入った新人の学生は緊張とパニックでアワアワとミスが頻発していた。

 

 

「おい!早よしろや」

「す、すみません。お待ちくださいませ…」

「ちっ俺は忙しいってんのに」

 

 

 苛立つ近所のおっちゃん客は今にもブチ切れそうだった。すると、新人に代わって副店長が入れ替わった。

 

 

「申し訳ございません!お客様!」

 

 

 ニッコリと暖かな笑顔(営業スマイル)を見せる副店長はスパッとレジ通しを終わらせる。

 

 

 

「おっ!なんや長(なが)ちゃんやないけ!いつの間に出世したんやぁ?」

 

 

 この男、副店長然り長町(ながまち)(伊藤翔准尉)であった。

 

 

「いえ、有友(ありもと)さん。これでもまだ新米ですよ」

「長ちゃん、身体大事にせいや?ほなまた!」

 

 

 そう言っておっちゃん客は帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も店内業務が終わった伊藤は店奥に着替えに入っていた。連邦の庁舎に隣接していることもあり役人からの情報収集に励む伊藤だったが任務のため禁欲している影響もあり最近疲れているようで、

 

 

(ヤバい……そろそろ限界か?とりあえずこのあとトイレでも…)

 

 

と、思案しながら裏部屋の戸を開けた。

 

 

 そこには今日も北上(きたかみ)穂乃果(ほのか)がスタンバイしていた。

 

 

 

「お疲れ様デース!」

 

 

 

 戸の死角から北上は子犬のようになって無防備な伊藤に飛びついた。

 

 

 

 

 

「えっ?ちょ!?北上さん!何やって…」

「えへへへぇ」

 

 

 

 北上(きたかみ)穂乃果(ほのか)。彼女は優れたスタイルの持ち主で成績と部活の両立で文武両道の才色兼備(自称)であった。

 

 伊藤の胸板に接触するそんな北上の豊かなバストとほんのり香る女の子特有の甘い匂い…。

 

 北上は長町(伊藤)が告白したいなど暗に示す自分の話に全く興味を示さないばかりで非常に悔しく、このままだと何も変わらないと危機感を抱き、戦術の変更をするべきと考え、ネットで調べた「抱かせればどんな男でもオチる」という戦法で打って出た。

 

 

(これで…これで…長町さんが…えへへへぇ)

 

 

伊藤の胸元でニヤニヤとこのあとの展開を妄想する北上であった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方の伊藤はこの甘美な状況に内心混乱しまくっていた。軍の仲間のため任務のためとはいえ禁欲していた伊藤も人間の男である。男として美人な女子高生に抱きつかれてじっとしていられない。諜報員の性でこれがハニートラップではないかと考えつつも、

 

 

 

 

 

(マズい…いい香りがする…って!?いかん、彼女ってハニトラ要員か?でも理性がぁぁぁぁ!)

 

 

 心の中では嬉しいのか悲しいのか判らない叫び声が木霊していた。

 

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