-2030年7月16日-
-福岡県対馬市上対馬町-
-航空自衛隊海栗島分屯基地[10:40]-
「………っん…?」
牧田海斗三等空曹は目が覚めてみると目の前にはアスファルトの地面が視界に広がっていた。どうやら気を失っていたらしいと彼は悟った。
「一体何が……痛っ?」
身を起こそうと額をさすったとき顔面に痛みを感じ、さすった手のひらを見ると赤い液体がついている。牧田は自分の顔から血が流れていることに気づく。
「それよりもレーダーサイトは…?」
牧田は額の痛みをこらえながら身を起こしレーダーサイトを見た。
「…マジかよ…」
レーダーサイトは轟々と黒煙をはき出し丸い形状のドームには大きく穴が空き建物内部から火炎が噴き上げて燃え上がっている。
施設の惨状を見てすぐ出血している額を押さえ牧田はそこに向かって駆け出していった。
「おい!誰かいないのか?!」
施設に近寄いて大声で呼びかけるが返事はない。中に入ろうとするも真っ赤な炎が猛威を振るって中に入れそうになかった。近くには隊員の姿はなくあたりを見回してみると、ミサイルが着弾したのはレーダーサイトだけでなく基地全体に数発着弾していたようで隊舎や観測所、倉庫は半壊していて遠くから叫び声が聞こえる。遠巻きに向こうの建物の前に何名かの隊員が路面に倒れているのが見えた。
「…た、助けて…」
一瞬近くのガレキの山から女性の声が聞こえた。
「待ってろ!すぐ助ける!」
声のした方に走りガレキをどかし始める。小さいコンクリート片や木片ばかりだったので1人でもなんとかどかすことが出来た。
ガレキに埋もれていた女性を引っ張り出し救助した。
「大丈夫か?」
牧田が近寄って女性隊員の様子を案じる。
「はぁはぁ、助けてくれてありがとう…」
「!その声は久佐木か?大丈夫か?」
牧田の助けた女性隊員は休憩で交代した久佐木神奈三曹だった。
「牧田…?牧田なの?!助けてくれてありがとう…」
久佐木はふと痛みでこわばった肩を落ち着かせ安心した様子で答える。
「あぁ、無事で良かった」
「本当にありがとう。ところで今、一体どうなっているの?」
久佐木はそう言うとあたりを見回す。
「…見たところ基地全体が壊滅している。ミサイル攻撃を受けたみたいだ。今のところ生きている隊員を見ていない…」
「…そんな…」
牧田の状況見聞に久佐木は驚き身が固まる。牧田はそんな彼女を見つつ、
「ひとまず生き残りの隊員と基地の医療班と合流しよう」
「了解。できたらどこかに生きてる通信機を探しましょ」
そういい2人が動き出した矢先だった。
連続した銃声が基地に鳴り響いく。2人は立ち止まり音がした方を見た。
2人の200m先の倉庫の前で隊員たちが走っているのが見えた。生存している仲間を見つけた久佐木は手を挙げ声を出そうとする。そんな久佐木と違って牧田は隊員たちの先に動くものに気づいた。
「おい、待て久佐木。様子がおかしい…」
「え?ちょっと!」
牧田は久佐木の腕を押さえ口を塞ぐ。
「なんなの?!」
「あれを見ろ」
牧田はそう言い指差す。指さしたさきに、隊員後ろの茂みから自動小銃をもった迷彩服の集団が現れた。
「っ!逃げろーーー!」
「誰だお前らっ?!ホゲェ」
「おい?!撃つな!グフ」
男たちの持つ自動小銃の銃声とともに逃げる隊員が銃弾を受けて次々倒れていく。
何発か胸に受けた隊員は地面に倒れてすぐに動きが止まる。脚を撃たれ負傷した隊員は脚を引きずりながら自身に起きたことを理解する前に本能から迫り来る死から必死に逃れようとする。
「こ、降伏だ降伏する!」
逃げ場を失った何人かの隊員は両手を挙げた。しかし、相手の男に返事はない。『助かった』と思った隊員らだった、が、次の瞬間に男は隊員たちの足元に丸い玉を転がす。
隊員たちは転がってきたものを視線に捉えそれを理解し顔が青ざめる。
建物の一角で爆発が起こる。
「た、助けっ…ドッ」
銃声が鳴り止むことはなく正体不明の集団は手当たり次第に隊員たちを射殺していく。
「酷い…」
惨劇の一部始終を目撃した2人は光景の有様を目に焼き付ける。
「奴ら…よくわからんがおそらく連邦の兵士だろう。畜生…」
牧田は昨今の情勢から敵を推測する。牧田は力強く拳を壁に突きつける。殺された隊員に親しかった友の姿が見えたが救えなかった自分の無力さに打ちしがれていた。
「…牧田…」
「…奴らが来てる。ひとまずそこの茂みに隠れよう」
「ええ」
武器を持っていない2人は迫り来る集団を見てすぐそばの茂みに身を潜めた。
-同日-
-長崎県佐世保市-
-海上自衛隊佐世保基地[10:40]-
2人の男が倉庫の中であるものを物色していた。
「…自衛隊の飯も意外とイケルな…俺らの飯に比べてな…」
「あぁ、最近ろくにいいもん食えてなかったしな」
「全くだ。最近の作戦のせいで腹ペコだ。ここで全部食っちまうか?」
ここは食料倉庫。2人が手にしているのは自衛隊の戦闘糧食で美味そうに食べていた。
目の前の食料に夢中になっていた男たちは見る限り敵がいないこともあり緊張を解いている。
「そういや大丈夫なのか…?隊長に見つかったら」
「大丈夫だろ?奴ら今頃…タンッ」
「?どうし…タンッ」
男の言葉が喉でいきなり詰まった。声の代わりにヒューヒューと喉笛が鳴っている。男には訳がわからなかった。
目の前では缶詰を手にした仲間が口から血を吹きだした。視線と体がゆっくりとスローモーションみたいに斜めに倒れていく。男は自分に何が起きたか理解したときにはすで意識は途絶えていった…。
「……クリア。進め」
アクリル板の床に響く薬莢の音がしたあと、積み上げてあるダンボール群の中から89式小銃を構えた久瀬二尉と一色士長が姿を現す。
直後、缶詰を握る人形になった2体の敵を尻目に5人の侍が倉庫内を速やかに歩を進める。久瀬の率いる5人の隊は武器庫を経由して海岸に比較的身を潜めて行ける食料庫内部の通路を通って脱出しようとしている。
「…サプレッサー(減音器)つけといて正解でしたね」
先頭の久瀬に続く羽柴が小声で話しかける。
89式5.56mm小銃は1989年に自衛隊が制式化した自動小銃であるが、対テロ・対ゲリラ戦闘や海外派遣など近年の防衛方策の変化に伴い、使用する現場の要求と状況に合わせた改修が施されている。
2023年には次期制式採用銃としてXM8アサルトライフルにレイルシステムを加えた外観の豊和工業製23式小銃が採用される。
しかしながら、近年の防衛費の削減で海自では未だ旧式化した89式が主力になっている。
だが、久瀬たちがもっている89式は細部が異なる。
サプレッサー(減音器)着脱銃口、光学照準器等をつけられるマウントや派遣先の砂漠地帯で問題となった防塵性を高めるなどの改造がなされたいわゆる「89式小銃・改」と呼ばれるタイプの銃であった。
制圧した武器庫でこの銃を見つけた5人はそれぞれ手持ちの旧型の89式と交換、装備していた。
減音器を入手していなかったら発砲音で敵に気づかれ囲まれていたことだろう。
「…まぁな…しかし、酷いさまだ…」
久瀬たちは行く先々で隊員を見かけるが、今までに生きている隊員は見かけなかった。みなすべて頭部が損壊しているもの下半身がないもの腸が飛びでているもの、どれもかなり傷ついた死体ばかりだった。
最初のうちは親しかった仲間、炊事のおばちゃん、ゲーム好きでよく対戦した一曹、可愛かった新入女性隊員、親しかった同僚の変わり果てた姿を見た彼らは、昨日食ったものを戻したり気が狂いそうだった。
しかし今やみな慣れたようだ。
「連中酷いことしやがります…」
先でまた新たに仲間の死体を見つけた。
「…構うな。さっきと同じようにして行くぞ」
初めは泣き出して腰を抜かした木地士長は淡々と仲間の認識票をちぎる。
「…よし、行くぞ」
再び通路内を速やかに進むと出口にたどり着いた。
外に出ると海岸まで一直線の護岸があるだけだった。
「…いいかみんな、俺の合図で一斉に海まで走って飛込め。後ろは決して振り返るな。生き抜くことを最優先にしろ」
「「「「了解」」」」
「……………よし、今だ行くぞ!」
返事とともに施設を出て全員走った。
「…いたぞ!!!」
「絶対に逃がすな!」
敵に見つかってしまった。それでも構わず走る久瀬たちの足元に何発かの銃弾が夾叉(きょうさ)した。
100m先にはトラックの荷台につけられた重機関銃が銃口をこちらに向けて重厚な連続音を響かせ散発に銃声が鳴り響く。こちらは腰だめに小銃を撃ちながら海へ逃げる。必死に走って逃げる。
「…ウッ?!グシャ」
誰かが倒れた。そうしている合間にも頭上の10cm上を銃弾が掠める。
掠めた銃弾で久瀬が少し体制を崩すも走って応戦する。
「振り返るな!」
「うぉおおおおおおお!」
久瀬たちは後ろを振り返らずに銃弾が掠める中、一目散に海に飛び込んだ。
本作を書いていて作者の技術の未熟さでなかなかうまく描けず苦戦していますが、どうか温かい目でお願いします…。次話もお楽しみに!!!