第一回妹攻略会議を始める!嘘だけど。
さて、私の指から産まれた妹だが、どうしようか?答えは二択だ。
生かすか、殺すか
DEADorDIEではない程度には私にも良心がある。だが、必ず生かす訳にはいかないのだ。
私と違って黒霧の量がごく僅かしかなく、完全な妖怪なのだ。妖力が無くなれば身動きがまともに取れないし、その回復のためには食事や恐れが必要になる。
なにより、この子は生まれるべくして生まれた存在ではない。ただのほんの少しの実験で生まれた存在なのだ。
それならまだ何も知らない今のうちに殺す、いや処分した方が良いかもしれないのだ。私と瓜二つな外見なのだから。
私の知らない敵がいるのだ。それも、神と仲良くなれる、恋心を抱かせるほどの。
そんな危険のある場所に放り出していいのか。
妖怪なんだから気にしなくてもいい、なんて逃避の答えを出すつもりは無い。あくまでこの子は私の身勝手で生まれた子なんだ。そして私もそんな事をしたら私でいられない気がする。
神綺に頼る、魔界に住ませるのも良いと言えば良いが……うーん。迷惑を掛けたくはないし人を食べる必要のある妖怪の場合が問題だ。
魔界の人を食べさせる訳にはいかないから魔界に住ませるわけにはいかなくなる。
「あら?おかえりなさい。魔界に戻っていたのに何か悩んでいる顔ね」
いつの間にか幽香の家に帰ってきたようだ。妹は後ろに連れて来ている。
まあ、答えは決まっていたさ。魔界に置いておくわけにはいかない、危険がある。だったら何も知らないうちに殺すまでだ。その方が何も不幸な目には遭わない。
彼女の幸せも無くなるわけだが、現状を考えれば彼女が生きている良さの方が少ない。
ならば……今のうちに殺すのも私の責任というものだ。
「悩みは無いよ。ただ、決意をしただけ……。紹介するね、この子は妹よ」
名前は、無い
「ふうん、なるほどね。私に一回目に殺された時の蘇生手段で両方生きていたらどうなるか試した結果ね」
「まあ、そういうことだね」
「それでさっきまで悩んでいたように見えたのはこの子をどうするかということで、か」
「まあ、殺すことは決まっていたんだけどさ。でもそれを私の手でする決断がちょっとね」
「ねえ木五倍子」
「はいな」
「殺すという決断が必然だということは無いわ。もし何か条件が一つでも違えばその結果は変わっていることもあるのよ」
「いきなり哲学的なことを言っていたわけだけど、それで?」
「貴女の妹を殺すのなら、私の妖怪化に利用させてもらってもいいかしら?」
「ああ、うん。いいよ。手段は?」
「妖怪になるには恐れられるのが有名なやり方だけど人の身じゃあ難しいのよ。それで次に有名なのが妖怪を食べるということよ」
「人魚の肉ってやつかね」
「まあ、そんなところね」
「それじゃあ、あの子も再生能力はあるからまずはそれを無くすべきかな」
「ところで聞きたいのだけど、貴女の再生の条件って何なの?」
「基本的に肉体の固定化で、そこから成長や欠損があれば起きた後に戻すって感じかな。それと、例えばマスパで吹き飛んだ身体はマスパが無くならないと再生はされずに待機状態になる」
「待機状態ってどういうことよ」
「マスパが通っている間に再生したらまた破壊されるから、破壊されない霧状態で待機するんだよ。そして、霧の部分だけマスパが無くなった瞬間に治る。もし死体を土に埋められたり火に入れられたとしても再生はしないけど身体が霧になる。全身が霧、つまりそこから移動して安全地帯に行けばすぐに治る場合は自動的に動くらしいよ」
「便利な能力ね」
「再生に使った霧の分は一日待てば元に戻るよ。それと、じわじわ殺す攻撃が一番やっかいだね」
「ということは私の植物化や毒殺が弱点なのかしら」
「時間をかける攻撃は終わり切ってから再生の場合とすぐに再生の二つがあって、殺す速さより再生の速さが遅いと死んでから生き返る。逆に再生が早いと再生を開始するから、それが一番苦痛になりやすいかな」
「再生と殺す速さが同じの場合は?」
「死ぬ」
「それを利用すれば霧の消費が多くすることができるのね。で、それを利用してどうやって妹を殺すのかしら?」
「私の能力で凍らせる。寝ている今なら外側だけ冷やしていけば気付かれずに力を奪えると思う」
「そう、じゃあ任せるわ」
「ありがとう」
さあ、これは私がやらなきゃいけない事だ。
寝室で眠っていた妹を花畑の一輪だけ咲いている不気味な向日葵の傍に横たえる。
どうせ殺すなら同じ方法で生き返ったここにしようと思った。
もしかしたら、この死体も私じゃなく妹のような人のだったのかもしれないし。
死ぬ前の私が私である理由は無い。もしかしたら記憶や意志を移すのではなくコピーしているだけかもしれないのだ。
だから、『私』が切り離して蘇生させた私も次に死ぬときは別の人になっていてもおかしくは無い。
だったら、初めて肉体を捨てて本当に死んだかもしれない『私』の隣で、別の『私』かもしれない妹をここで眠らせてあげるべきだろう。
「……本当にいいのね?」
「うん……始めるよ」
妹の手を握り能力を発動させる。イメージは氷、永遠に溶けることは無い、私が初めてこの世界に生まれた場所のような氷を。
手から腕へと、私も妹もゆっくり凍り付いて行く。死なないように霧が私たちの体を温め始める。
私のイメージが強すぎたのか、風が吹いていないのに周囲が寒くなってきている。
時間が経つにつれ、吐く息が白くなり、雪も振り始めてきた。
霧の絶対的な量が違うため、徐々に妹の体が凍り付いてきた。私は能力を使い続けている手だけが凍っている。
雪の降る量が増し、地面に降り積もり始める。妹には雪が何故か当たらない。
妹が凍っていく。氷結は徐々に妹の体を侵食していく。
「お姉ちゃん」
不意に、妹が目を覚ました。私に手を握られ、徐々に氷に包まれて殺されるのに。優しく笑いかけて。
「大好きです。髪も唇も体も心も全て」
私の中には無い記憶が揺さぶられるような慈愛の目で見つめながら
「…………××しています」
妹の体は、全身凍り付いた。目尻の氷が少し膨らんでいるのは、気のせいだろうか。
最期に遺した妹の言葉は私への反撃なのか、告白なのか。こういう時だけは私の名前嫌いが無くなってほしいと思う。
「……完全に凍らしちゃって、どうやって食べるのよ馬鹿」
「あ……ごめん」
幽香の事をすっかり忘れていた。
能力を切ったため、雪は止み積もってはいるけど周りが暖かくなってきた。
「まあ、いいわ。氷くらい簡単に壊せるし」
氷を殴って壊し、小さくしてから幽香は口に入れる。身体まで凍りかけていたせいか、口に入れてから一瞬だけ悩んだように止まった後、ガリガリと音を立ててかみ砕いていく。
「不味いわね」
氷を積み木のように壊して欠片を拾い、口に含む。土も落とさずに。
「土がジャリジャリするし、なんか酸っぱい味がするし、血が溶けて鉄の臭いがするしっ……」
幽香が俯く、髪に隠れて表情は見えないが何も言わずに氷を食べ続ける。
寒くは無いのに肩が震えているのは見間違いでは無いだろう。
そして、幽香が氷を食べ終わるまで、何も会話は無かった。
「……さあ、食べ終わって私も妖怪になれたのだから、もう寝ましょう」
幽香が立ち上がり何も残っていない足元を一瞥した後、こちらを見る。
その顔には涙の後は無かった。
「うん、そうだね……時間も掛かっちゃったし、もう寝ようか」
私も立ち上がり、なるべく明るく聞こえるように言ってみた。
二人で並んで花畑を後にする。
「木五倍子」
「ん、なに?」
「私はもう自分の為の殺しはしないと誓うわ」
「……そう」
妖怪には埋葬なんて概念は無いし、鎮魂なんて知らない。
一輪だけ生えている不気味な向日葵に破れたピンク色の紬の代わりに目立たない、薄緑色の紬が掛けられており、黄色のリボンが落ちた花弁と一緒に風で舞っていた。
今回短くてごめんなさい!