:秘密基地:夕方
屋上から見える夕日は格別のものであり心が洗われるような風景だ。
この場にいるのは悠、大和、忠勝の三人だ。
「二人の案内は?」
「ワン子がやってくれてる」
「で?なんで俺らを呼び出したんだ、兄貴」
忠勝は、速攻で要件を切り出してくる。
「あの二人の事でな」
『?』
「まぁ俺は一悶着必ずあると考えてる」
「理由は?」
「クリスと黛の性格、クリスは良くも悪くも公明正大、誰彼はばからず思った事を思ったままに言うだろう、黛は逆、内向的過ぎて半ば自虐的にすら見える程だ、前者には京、モロ、紫が、後者にはモモ先輩、岳人が真っ先にシビレを切らすだろ」
「で、俺ら二人にどうしろってんだ?」
「どっちの対応も俺がする、だからその間他を頼む」
「具体的には?」
「・・・京当たりがクリスに飛びかかりそうになってそれはモモ先輩が抑えるだろ、モロは口は出しても手は出さん、紫は俺が押さえつける、岳人も手出しはしない、一子は・・・忠勝がアイコンタクトで自重、って言っとけ」
「何その具体的過ぎる予想」
「最初からその事態を避けるつもりはねぇのかよ?」
「無い、そもそもこういうのは通過儀礼だ、一辺ぶつからなけりゃ本気で仲良くなんてなれねぇよ」
『・・・・・・』
「俺らだって結構ぶつかりあっただろ?京助ける時に大和と岳人がタイマン張ったみたいにさ」
「・・・・・そう、だな」
「まぁ、兄貴が言うなら間違いねぇだろうさ」
「・・・・・デレたな」
「デレたね」
「デレてねぇよ!!!」
「このような廃ビルはさっさと取り壊すべきだな」
建設的じゃない、遊びたければここでなくとも良い。
くしくも悠の想定した通りの事になった。
「お前、死ねよ」
「っ!?」
京が一歩前に出た、紫も、まだ刀を手に取るなどはしていないが手に届く場所に置いてある。
「よくも・・・・・」
一歩、歩み寄る京。
「よくも好き放題言ってくれたなぁぁあ!!!!!」
「止めろ京!!」
大和の言葉と同時にモモ先輩が飛びかかろうとしていた京を抑え込んでいる。
「っ!?」
それを見てならば自分がと飛び出しかけていた紫の肩を悠が掴む。
「義兄様、離してください」
「ダメだ、テメェ何しようとしてた、頭ぁ冷やせ」
えも言われぬ気迫に勢いを削がれる紫。
「分からないだろ、お前には!!この場所が!!この空間が!!どれだけっ・・・どれだけ大切なのか!!!」
その間にも叫ぶ京、その姿にクリスは動揺を隠せずにいるようだ。
「だからこんな新参者を入れるのは嫌だったんだ・・・・っ、壊すべき?よくもそんな事この場所で言ってくれたな!!何様だと思ってやがる!!!」
「み、京、待て、話を・・・・・・」
「さっさと帰れ!!!お前なんか仲間でもな・・・・・」
拙い、そう悠が思ったのと同時だった。
「京!落ち着け!!」
大和が京を止めた、もしあのまま、言い切っていたならば、決して埋める事など出来ない深い深い溝ができる、それだけは避けなければならない。
「大和・・・・・だって、だってこいつ!!この場所を侮辱した!!!否定したんだ!!許せないよ・・・・・・!!!!」
「京、もういい、もう良いから・・・・・」
「う・・・・・・うぅ、・・・・・ううぅぅぅううう」
京が、大和の胸にすがりついて泣いている、そろそろか、そう思って一歩前に出る。
「な、何だ、何が気に障ったというのだ、自分は正しい事を言ったはずだが・・・・・・」
「分からねぇか」
ボリボリと頭をかきながら、悠が言う。
「え?」
「お前な、言う事が一々うざったらしいんだよ」
「!?」
「意味が無い、ここじゃなくても良い、建設的じゃない・・・・それは全部お前のモノサシでの話だろ?俺らは理屈じゃねぇ、この場所が一番落ち着けるからここに集まってる・・・まぁ五年ぶりに戻ってきていきなりこんな廃ビルを基地にしてたのには驚いたけどよ、戻ってきて数日でも俺は皆がここを大事にしているってのはわかったし、俺自身も気にいってる、誰に何をいわれようがここに集まるのを止めるつもりはねぇぜ」
悠が、そう言うもクリスはまだどこか納得いかないようすで。
「自分は、ただ・・・」
「まだ分からねぇのか?今ここで起きた事は全部テメェが悪いって言ってんだよ」
「わる・・・・・自分が、悪だと!?確かに、自分のモノサシではあるが自分以外も普通は同じ意見のはずだ!何故それが悪になるか分からないな!!」
頑固と言っていいのか、とにかく良くも悪くも真っ直ぐすぎるんだろうな、と思う。
「あのっ・・・自分ごときが口を挟んで恐縮ですが!!」
「黛!テメェもだ!」
ここで口を出してきた黛へと、悠は振り向く。
「自分は後輩だ、タメ口を聞くのは失礼、そう思うのは構わんさ、数少ない一年の紫は妙な口調を使ってこっちを惑わせるぐらいだ・・・・・けどな、卑屈になりすぎんな、お前を仲間に入れた時に翔一の言った言葉、まだ理解できてねぇみたいだな」
「す、すみません、すみませんっ!!」
さて、とクリスの方へと向き直るならば、憮然とした表情のクリスがそこにいる。
「さっきから意味不明だ」
「さっきの何が意味不明だ大馬鹿もの」
「なっ!?バカ!?」
「おいクリス、お前大事な持ち物とかあるか?」
「持ち物?」
「なんでもいいから言ってみろ、物理的なもの、だぞ」
「・・・・・・親からもらった、ぬいぐるみなど・・・か」
「そうか、だが俺にはぬいぐるみの何が良いか分からん、かさばって邪魔になるから捨てたらどうだ?」
「っ!!!貴様ぁ!!!」
ズドン、と悠の顔面にめり込むクリスの拳、口元から血が垂れ落ちる。
「・・・・・良い拳だ、それだけ、大事なモンなんだろうな・・・・今のお前の気持ちが、ここにいる皆がさっき抱いた気持ちだ」
「なん・・・・・・だと」
「お前にとってのぬいぐるみが俺たちにとってのこの場所だ、どこの誰が何を大事にしているかなんてそれこそ人それぞれ、よっぽどの理由が無けりゃ侮辱していいもんじゃねぇ」
「・・・・・・!」
眼を見開くクリス、ようやく、自分の言葉の重大さに気づいたのだろう。
「そうか・・・・・それだけ、大事な場所だったんだな・・・・・・」
その場に正座するクリス。
「椎名京、皆、謝罪する・・・・・・すまなかった」
深々と、その場で土下座するクリス。
「あの・・・・・その、私もすみませんでしたっ!まだまだ勉強不足でした・・・でも、それでも!それでもまだ私は皆さんと一緒にいたいですっっ!!!!」
初めて黛が自分の意見を主張した。
「自分も・・・・今のような発言をしない事を誓う、だから、ここにいさせて欲しい・・・・・また、皆と遊ばせてほしい」
静まり返る空間、その静寂を打ち破るように扉が思いっきり開け放たれ。
「おっーーーす!!いやいやいや聞け聞けお前たち!俺の運たるやまさしく豪運と言って良い領域だぜ!?ガラガラ回しまくって豪華景品GETだぜ!!!さぁさぁ寿司の残りをつまみつつも皆で俺の偉大さを祝ってくれ!!ネタたまごしか無いけどな!!!」
そこまで、一気にまくし立ててから、場の空気に気づく翔一。
「・・・・・何だ、この空気?・・・・・ずるいぞう悠!大和!俺のいない間に何青春っぽい気まずい雰囲気になってるんだよ!!!」
怒る論点が絶対に違う事には何も言わないでおこう。
「落ち着け、今全部話す」
説明中・・・・・・・・・・
「ふーん、成程ねぇ・・・ってか話もう全部解決してんじゃん、クリスもまゆっちも謝ったから終わりだろ?」
「まぁそういう事だな」
どっかりと定位置に座り込む翔一。
「まぁ一回ぐらいこういうの仕方ねぇわな」
「寛大な処置じゃないかキャップ、同意見だ」
「京に紫、とっとと機嫌直せや」
「つーん」
「つーん」
「いじけてんなぁ・・・・大和、悠、ケアは任せた」
翔一の言葉に従って大和と悠が京と紫をなだめにかかった頃、翔一が切り出す。
「取り敢えず皆、今ちょっと気まずい思いをした関係を修復するのも兼ねて連休中旅行とかどうよ?」
「旅行!?」
急に反応したワン子。
「急に反応したなお前」
「いやーアタシもさっきクリになんか言おうと思ったけどさ、たっちゃんがアイコンタクトで自重って」
「あれ以上人数増やすと収集つかねぇからな」
と、忠勝がもっともらしい理由をこじつけている。
「で、旅行ってどういうことだ、風間」
「ふふ、商店街の抽選で見事引き当てたのだ・・・見て驚け!じゃーん!二泊三日箱根旅行団体様招待券!!!」
「なんと、そんなものを当てて来ましたか」
「それ何位だったの?」
「二位、ほかは全部ティッシュだった」
みんなで人笑いしてから、翔一のもってきた寿司で和気藹々と旅行の話をする皆。
「おう、さっきはキツイ言い方して悪かったな」
叱られた二人に、連帯感が生まれたのを見れば、笑いながら歩み寄る。
「いや、あれは自分も悪かった、それよりさっき自分が殴ったところは大丈夫か?」
「あ?ああ、さっきのか・・・何、問題ねぇさ」
「そう言えば気になってたんですけど・・・」
黛が、秘密基地に飾ってある写真へと視線を向ける。
「これ、皆さんの昔の写真ですか?」
「おー、十人揃ってるだろ?」
「皆、面影があるな・・・」
それから大和により皆でリュウゼツランを護った時の話が語られる。
「っつーわけだったのよ」
いつの間にか話し手が悠に切り替わっていた。
今度はこの十二人で五十年先のリュウゼツランを見よう、そう、誓い合った夜だった。
悠が思いっきりぶん殴られました(w。まぁ何はともあれ、クリスとまゆっちが正式にメンバー入りして、次回からは箱根編、どうしてくれようか、って感じです。