「貴方が、暁月光ですか?」
そんな風に聞かれたのは初めてだった。
確かに学校でも目立たないように生活してきたが、流石に同じ制服を着た女子にいきなりこんなことを聞かれるなんて滅多にないことだ。
だが、おかしい。
うちの学校は中等部と高等部が存在し、相手の制服は完全に中等部の恰好なのだ。
それに見た目がシンプルだ。でも、どこかに何かを際立たせるモノを持っている。
そんな感じの美人だ。
それに、普通の人から見たら美人だと思う。
長く綺麗な黒髪に、少しだけ不愛想に見える表情だが冷静な雰囲気を醸し出している。
背中には野球のバットを入れる袋を下げている。
傍からみればソフトボールをやってるのかな?って感じだ。
まぁー簡単に言うと、地味と美人の間で留まっている美人だ。
まるで蛹(さなぎ)から綺麗に羽ばたく蝶になろうとしていない蛹だ。
「いや、多分人違いじゃないか?俺はそんな名前を付けられたら恥ずかしさで発狂するね」
「そうですよね。こんな厨二臭い名前を付けられて生まれて来たら恥ずかしすぎて自殺してしまうかもしれませんね」
「あぁ、ってことで人違いだ。じゃぁな」
軽い相槌を含ませ、学校に向かうため駅から出る。
さっきまでの人混みが嘘のようにいなくなっている。
そんなに謎の少女Aとは話してなかったはずなの…
そんなことを思いながら改札へ行くためにポッケの定期を取り出そうとした瞬間…
「っと、まぁーこんな冗談は置いといてですね。」
首筋に一本の十字架を模した銀色の剣が当てられていた。
吸血鬼は銀が嫌いだ。
更に言うと、銀の十字架なんてもっと嫌いだ。
「ど、どうした?危ないでしょうが、これ」
月光は銀の剣に目を向けながら驚いたフリをしながら言った。
「そんなことよりも暁月光。何故、貴方のようなこの世の危険因子が平然とした表情で学校なんてものに通っているのですか?」
「俺みたいな異端児でも、友達は欲しいし学ぶことは学びたいんだよ。何か悪いか」
喋りながら振り返ると、丁度喉仏当たりに銀の剣が当たる。
血がツーっと垂れてくるが別段何にも問題はないのでほっておく。
血が流れた瞬間に吸血衝動にかられるが、抑え込める程度のものなので気にしない。
「何が目的ですか?暁月光」
「だから友達が欲しいって言ってんだろ?頼むからこの剣を収めてくれ…」
無表情でスッと剣を収めてくれる。
意外と話が分かるやつなのかもしれない。何て思った俺が馬鹿だったのかもしれない。
すると、瞬時に心臓部位にお札のような気味の悪い紙を貼られる。
「暁月光。これは貴方が少しで魔力を放出した瞬間に爆発します。しかも、内部で爆発するので体も五体同時に弾け飛びます。」
俺は呆れた。
もう頭を抱えるレベルで…
こいつは人の名前も、真祖のハーフということも知っている。
だが、一つ知らないことがあったみたいだ。
それは俺の体が吹き飛んだとしても直ぐに治るということとまだ、誰の血も”飲んだことがない”こと。
吸血鬼は強い霊媒。
つまり、魔力の強い人の血を飲むと段々と強くなっていく。
それはもう世界を滅ぼしてしまうほどに…
だがこれはチャンスだと思った。
ここでうまく誤魔化せば、俺がただ第四真祖という世界一強い吸血鬼の子孫だと言い張っている悲しい奴に思わせるチャンスだ。
「だから、俺には魔力はないって。実は普通の人間なんだよ…その、昔に吸血鬼に襲われて何らかの症状が出たから有名なお医者さんに直して貰っているだけだって」
「だから?」
「だから…その…、俺は勝手に第四真祖を名乗っている恥ずかしい奴なんだって…」
来た!
これは完ぺきな演技力だ。
相手も少し悲しい人だな~みたいな表情でこっちを見てくる。
そして少し考え、何か重大な間違いを起こした平社員のように態度を百八十度変え何もなかったかのようにお札を剥がし銀の剣を地面に刺す。
「すみません。忘れてください」
頭に金と金が反響したような音が響く。
頭を下げ、もうスピードで駅から消え去る謎の少女A。いや、Bはいないんだけど…
「ふぅー、いけた…かな?」
駅での激論の末にやっと学校へ迎える月光であったが、あんなに喋っていたのだ。
遅刻しないほうがおかしい。
だが、そんなことは確認もせずにゆっくりと学校へ向かう。
黒いパーカーを深く被り、できるだけ日陰を歩く。
この行動だけでも結構おかしい人だが仕方ない、吸血鬼は朝にも光にも太陽にも暑いのにも弱いのだ。
色んな説がある。
血を吸う化け物だとか、死ぬことのない不老不死だとか、そんな下らない説ばかりだ。
一見、これだけ見ると最強に見えるかもしれないが実際は弱点なんて腐るほどある。
「クソみたいに暑いな…今日も」
意味もなく独り言を吐きながら登校する。
その言葉は一人寂しく宙を舞う。
◆
外見はただの普通の高校だが、中に入るとそれは一遍。
力を隠し持っている奴が一杯いる。
例えば、今の瞬間。俺の目の前にいる青少年。
「よう、月光!元気にしてたか?」
「当たり前だろ?家から一歩も出てないさ」
「いや、その場面でドヤ顔はないわ」
なんて、軽いコントが出来るくらいの仲の良さだ。
いつも首にはボロボロになり、所々に無数の傷があるヘッドフォンをつけている青少年の名は矢瀬 夕記(ゆうき)。
中等部の時からの仲だ。
何となく信用できない部分があるのだ。そう何となくの感がそう告げているのだ。
こいつは何か知ってるな…てきな?
「いやー、しかし中等部に超絶可愛い転校生が来たらしいぜ?月光」
「へぇー、そうか」
「軽く流すねー、随分と。実はもう知ってるとか?」
「いや、転校生が来ることを今日初めて知ったんだぞ?俺は。ただ単に興味がないだけさ」
「マジか。可愛いのに」
そして、言った本人もそこまで興味はなさそうだ。
なら何で俺に行ってきたのだろうか?
まぁ、よく分かんないことを気にしても仕方がない。取りあえず寝よう。
因み、学校についたのは遅刻ギリギリだった。
新しい先生が来るということで、他の先生達も忙しかったんだろう。
三階の教室まで誰とも会わなかった。
「よし、今日も静かに過ごそう。目立つのは嫌だしな」
そう言いながら腕を組んで眠りに入る。
そして久しぶりに夢を見た。
懐かしい昔の夢を見た。
父親が…暁古城がまだ生きていた時の…
「「生まれて来てくれてありがとう…月光。」」