主人公の名前はこの話以降のかなり後で出す予定です。
声が聞こえてくる。近くに誰かいるのだろうか。
何を話しているかまでは聞き取れない。だが声が聞こえてくるあたりどうやら耳は生きているようだ。
視界も霞んでいるがなんとか見えている。ぼやっとだが見覚えのない木造の天井が見える。見覚えがないということは少なくとも僕家ではない、ということだけは言える。
微かに声も発することができるようだが、聞き取るのは難しいだろう。
それに気付いたのか誰かが言葉を発しながら近寄ってくる。
僕の傍にいた誰かが大声で
「目を覚ましたぞ!助かった、生きてる!よかった…」
と安堵したかのように言う。
おまけに僕の耳の近くで。おかげさまで耳がキンキンする。
ただ左手足は動かそうとすると激痛が走り、骨が折れているのか動かせない。
体を少し起こして部屋を見ると叫んだ女性も含め5人の女性がいる。
白か銀髪の人が3人、紫髪の人が1人、黒い長い髪の人が1名。
一人の白か銀髪の女性が近づいてくる。
私の手に軽く触れ、優しげな声で
「私が見えますか?」
と聞く。赤と青の服と白か銀の色をした髪が何とか見える。
擦れ擦れの声で
「はい。」
と言う。
あの声で聞こえたのだろうか、女性はよかった、と安堵する。
「手は動かせますか?」
と少し間をおいてからその女性が聞く。左は動かないので右手の指先を動かす。
「左手はやはり無理ですか?」
声を発しようとしたが微かにしか喉がえらくなって声が出ない。やむなく首を横に振る。
「はい。命の心配はいりません、大丈夫ですよ。」
僕が心配そうな顔をしていたのだろうか、女性はそう答えてニコッと微笑んだ。
一通り聞くと女性はもう大丈夫ねと呟き、
「優曇華(うどんげ)、もう大丈夫みたいだからあとはお願いね。」
と僕の右手の側に向かって大きめの声でその人物を呼ぶ。
「はーい。わかりました師匠!」
と横になっている僕の足より奥の方から元気のよい返事が返ってくる。
返事が返ってくると三つ編みの女性は用事でもあるのかささっ、と部屋を出て行ってしまう。
医者であろう三つ編みの女性に聞きたいことがあったんだが。
治療費とか…。
僕がとりあえずは大丈夫だ、ということを聞いて他の人達も寄ってくる。
「お薬出しますね。」
と紫髪で白い服に身を包んだ女性が僕の右手側にお茶と薬を出す。
紫髪の女性の周りに医療器具の入った箱が複数置いてあることを踏まえると、白い服はナース服だろう。
薬をすぐ飲むと、布団から僕の手の届かないくらい離れた床に置く。
「あの、僕の容体は…」
何とか聞こえる程度の声も出せたので聞いてみる。
流石に聞かされているはず。たぶん。
「容体、ですか。左手、左足が骨折、左脇腹も骨折…他には異状ありません。よかったですね。」
と答えてくれた。痛い箇所と一致するしおそらくあっているだろう。
「他にも聞きたいことありますか?」
と聞かれたので頷く。
「あなた方のことや、ここまでに至る経緯などを…」
あれ?聞いてはいけないことだっただろうか、ぴたりと場が静まり返る。
どうしよう。皆うつむいてしまっている。地雷を踏んだか。
「では私達の自己紹介から。」
と黒髪の女性が手を挙げて言い、布団で横になっている僕の右手側に1歩手前で正座をする。
近くで見てみると、長い黒髪で、腰より長い。ピンクの服に胸元には白い大きなリボン。その下には白い服が見える。床についても横に広がるとても長い赤のスカート。手足を隠すその服装は昔の貴族を思わせる。
その黒髪の女性は
「初めまして、私は蓬莱山輝夜(ほうらいさんかぐや)と申します。」
と言い会釈をする。そのあと後ろへ数歩下がる。
次に僕に薬を出してくれた紫髪のナース服の女性が前に出てきて
「鈴仙・優曇華院・イナバです。鈴仙で大丈夫ですよ。ちなみにさっき出て行った銀髪で三つ編みの方が貴方を治療してくださった八意永琳(やごころえいりん)さんです。私の師匠です!」
と、永琳さんのことも紹介しつつ笑顔で言う。
服装はナース服を着用し、頭にも三角錦をしていたため分からなかったがコンタクトでもしているのだろうか、赤い瞳をしていた。腰より長くはないが紫の長い髪に紫のまつ毛。元気のよさそうな真面目な人だ。
その次に長い銀髪の女性。
「藤原妹紅(ふじわらのもこう)と申します。」
同じく腰ほどでもないが長い銀髪で頭にリボンのようなものをつけている。リボンは白の記事に赤の模様が入っている。上は半袖の白い服に下は赤のズボンを履いている。ズボンには御札のようなものが幾つも貼られており、ズボンはサスペンダーで吊ってある。黒髪の女性とは対照的で動きやすそうな服装だ。男勝りな、中世的な印象を思わせる。だがなんとなく僕に眼を合わせないようにしているような…。
最後に僕が目覚めるや否や叫んだ人。今だに耳が痛い。
「上白沢慧音(かみしらさわけいね)です。」
青のメッシュの入った腰まで届きそうな長い銀髪。頭に青色で3角形?の形をした変わった帽子のようなものを乗せている。上下が一体になった袖の部分だけ白となった半袖の青い服。輝夜さんほどではないが胸元に赤の大きなリボン。急いで駆け付けたのだろうか、カバンのようなものが隣に置いてある。
「ああ、これは教え子たちの宿題が入っていてね。慌ててきたもので置いてくる暇がなかったんだ。」
と気になったことに気付いたのか、質問するより先に答えてくれる。
生真面目そうだから先生もやれてそうだもんな。
と会話をいくつか挟んだが4人はそれぞれ私に挨拶をする。
中でも気になったのは輝夜さんと妹紅さんだ。どこかで見たことがあるのだ。
間違ってたら大変失礼だがわたしはおそるおそる
「失礼ですが、輝夜さんと妹紅さんは竹林でケンカされていた方々…ですよね…?私の顔、覚えていらっしゃいますか…?」
と質問してみる。間違っていたらどうしようと思いつつ。
再び場が静まり返る。間違ってたかな…?
僕が人違いだったことを謝ろうとしたが、その前に
「申し訳ございません、私のせいです」
と大きな声で妹紅さんが私の前で深々と頭を下げ謝る。
状況を飲み込めず仰天する私だったが申し訳ありません、ごめんなさいと言って頭を下げる気配がない。
妹紅さんの傍らにいた慧音さんも同じく
「百うは私にとって大切な存在です。彼女のしたことは私も一緒に償います。申し訳ありません。」
と、僕に深々と頭を下げて謝る。
「慧音、…」
妹紅さんは隣にいる慧音さんの名前を擦れそうになった声で言う。
輝夜さんも同じように
「今回貴方を傷つけてしまったのは私のせいです。申し訳ありません。」
と深々と頭を下げた。
「姫様、姫ともあろうお方が…」
鈴仙さんが輝夜さんの言葉を遮るように言おうとしたが
輝夜さんが遮る。
「イナバ、これは私の責任よ。姫がどうこうなんて関係ないわ。謝っても謝りきれないけどお察しの通り貴方を傷つけてしまったのは私達です。本当にごめんなさい。」
と頭を下げる。
鈴仙さんもそれを聞いて黙り、頭を下げている姫様から目を背ける。
やがて慧音さんが当事者が直接話した方がいいだろう、と言い、2人とも頭を上げる。
2人とも了解したようで、輝夜さんがこれまでの経緯を話す。
「…つまり輝夜さんが妹紅さんと決闘をしていたところに傍にいた私が偶然、光の弾=弾幕?というものに当たって現在に至る…ということですか…?」
僕が話を聞いて輝夜さんに質問すると輝夜さんははい、と頷き、
「ええ。私の弾幕が貴方の左足と左脇腹に、妹紅の弾幕が貴方の右肩に、それぞれ当たりました。誤っても謝りきれないれど、本当にごめんなさい。」
と、妹紅さんと一緒に改めて頭を下げる。
…言葉が出ない。下手すれば死んでた、なんて。助けを呼ぼうとしたら逆に死にかけるなんて。
話を聞いた僕は少し体を起こしていたが力なく布団に倒れた。一気に全身の力が抜けた感じがする。
沈黙がしばらく流れる。
少しして、
「お暇があるときでいいけれど、目を通して戴きたいものがあって。」
と輝夜さんが1枚の紙を僕の右手前に置く。
このタイミングで渡されるものだ、重要なものだろう。試しに聞いてみる。
「僕の今後に関わることですか?」
「はい。今日でなくても構いません。」
輝夜さんから返事が返ってくる。やはりか。
だけど僕の気分はそんなんじゃない。一人になりたい。落ち着きたい。
2人には失礼だが、何となく居心地が悪い。だから、
「気分が悪いのですいませんが…」
と今日のところは2人には悪いが後日にさせてもらう。色々と整理したい。
人払いをしたので永琳さん、鈴仙さん以外は来ないはずだった。が。
「失礼します。夕食をお持ちしました。」
この声は鈴仙さんか。
どうぞ、と言うとナース姿の鈴仙さんが入ってくる。
部屋でぼーっとしていたらもうこんな時間か。襖から日差しが入って来ていたのがすっかり暗くなって月の光が差し込んでいる。結局輝夜さんから手渡された紙は読んでいない。
食事は鈴仙さんの補助が入り苦もせず完食することができた。補助と言っても皿を持ってもらったりしただけだが。
食事が終わると鈴仙さんは持ってきた食器を持っていき部屋から退出する。
鈴仙さんが部屋から退出して数分後くらいに軽く襖を叩く音がして、
「中に入ってよろしいですか?」と、聞き覚えのある声の誰かが訪ねてくる。
残念ながら病み上がりで記憶もぼやっとしている部分も多く、思い出せない。鈴仙さんの声でないことは確かだが。
とりあえず、「どうぞ」と返事をする。
入ってきたのは輝夜さんだった。
「火急お話ししたい重大なことがあるのですが、よろしいですか?」
と輝夜さんは僕に尋ねる。
僕が後日にして欲しいといった、今日の件だろう。そっちの予定もあるので早めに聞いておきたいのだろう。
「渡した紙の件ですか?まだ読んでいないので後日でも…」
と返す。
しかし輝夜さんはいいえ、と首を振る。一体何の用だろうか。別の用事など、皆目見当がつかない。
僕もいくつか質問をさせてもらおう、と思い部屋に入れる。
輝夜さんは自分への質問など許可を取らなくても大丈夫なので気軽にどうぞ、と言ってくれた。
これを機会に今気になっていることを聞いてしまおう。
そう思った僕は僕は輝夜さんに質問を幾つかする。
「ここはいったいどこなんですか?」
一番肝心な質問。むしろ今までなぜさっさと聞かなかったのだろう。自分でも不思議だ。
「ここは永遠亭。幻想郷の中にある永遠亭というところです。」
と輝夜さんは答えたが、幻想郷、永遠亭と言われてもわからない。
そうだ、僕の住んでいる町だ。
「田町町(でんまちちょう)というところなんですが近隣で聞いたことなどはありますか?」
何時間か歩いてここに来たとは言え、確か家の県は山ばかりだから隣の県まで徒歩だと1日半くらいかかるって言うくらい不便な県。確か1日前後しか歩いてないから周辺の人ならわかるんじゃないか…?
「ごめんなさい、存じ上げません。」
知らない。まあ中には知らない人もいるだろう。ではこれならどうだ。
「ここは日本のどの県になるのですか?」
まるでおちょくっているような質問だ。さて、何かしらの情報は得られるはずだ。相手がムキになってなければ。
「日本まではわかるけど、何県、というと?」
ん?一番よくわからない答えが返ってきた。ひょっとして僕はおちょくられているのだろうか。
「例えば、愛知県や京都府、東京都、と言った具合に…」
とわざとらしく返してみる。流石に山奥にあって隔絶された地であっても隣接する県位は…
「隣接しているも何も、表の世界とここは隔絶された世界だから、接しているところなどありませんが…」
はい?え、何どういうこと?えっ?
異世界…ということ?
何考えてるんだ僕は。そんなのあるわけないだろう。遭難したとはいえ攫われたわけでも漂流したわけでもない。現に言葉だって通じている。ここは日本のどこかだろう。異世界なんてそもそもあるわけがない。
「お客様にお茶をお持ちしました。あれ、姫様、いらしたのですか。」
僕が考え事をしていると鈴仙さんがさっきと同じナース姿で追加のお茶を持ってきてくれた。僕の右手前にお茶を置く。
「ありがとうございます。」
と近くに置いてもらったお茶を飲む。ああ言ったあたり鈴仙さんは輝夜さんが訪ねてくることは知らなかったようだ。
茶を飲み終わった僕に輝夜さんが早速質問をする。本題突入か。
「あなた人以外の存在についてどう思いますか?」
身構えていると、いつでも聞けるような質問が飛んできた。本題じゃないじゃないか。
「さあ…?」
動物は猛毒だったり凶暴なものでなければ別に…。植物も同様に。花粉を飛ばすスギは苦手。
何でこんなことを聞くんだろう。
すると輝夜さんは鈴仙さんをちょいちょい、と手招きして、突然頭の三角筋を取った。
「ひゃあっ?ひ、姫様?」
素っ頓狂な声を出す鈴仙さん。そりゃそうだろう。いきなりそんなことされては驚く。
しかしそんなこととはどうでもよくなる衝撃的なものを見た。
僕は目を疑った。三角筋を取った鈴仙さんの頭には大きなウサギの耳のようなものがついている。
コスプレだよな。じゃなかったらなんだ。
おどおどと頬を赤らめる鈴仙さんは、そのまま失礼しました、と言いお茶を片づけて部屋から出て行く。
あの様子からして僕が鈴仙さんの頭についている耳に驚いていることには気づかなかったようだ。
「イナバを見てどう思われました?」
と輝夜さんが聞いてくる。
「あの頭の耳は…コスプレですか…?」
赤い瞳は近所でコンタクトを買って、かっこいいだろ?とか自慢してた奴がいたからまだわかる。
だが頭のウサ耳はコスプレじゃなかったら困る。
「元からです。」
輝夜さんが表情を崩さず答える。ワンモアプリーズ。
「元からとおっしゃいましたが生まれてきてからということですか?」
まさか、はいとは返ってこないはず。
「そうです。」
嘘だろ。考える時間もなく回答が返ってきた。僕の望む回答の180度真逆のが。
思えば弾幕というものに当たった時点で疑うべきだったじゃないか。
どうしよう。目の前にいる人が人間じゃないなんて。こんな事態陥ったことがない。
「怖いですか?」
輝夜さんが更に聞く。
「正直、怖いです」
と、元気のない、よれよれの声で言った。
「そうですか。やはり、人ではないからですか?」
更に重い質問が来た。
元気なく、こくん、と小さく頷く。
輝夜さんはそれを聞くと
「これは身勝手なお願いです。ここにいる子達もさっきのイナバと同じ妖怪です。でも、できるだけ人と接するように接してくれませんか。どうか、よろしくお願いします。」と私に頭を下げた。
前書きの通りの内容です。語尾の不統一等があったらすいません。