モモンガ氏に憧れてた脱落組が金髪外道美女に憑依したんだってさ【更新凍結】 作:冬月雪乃
——目が覚めたら金髪美女だった。若いし、もしかしたら少女かもしれない。
血のように赤い瞳と、その凶悪な印象を裏切ることない性格。
しなやかな肢体を惜しげも無く曝け出すビキニアーマーは冒険者の名前が刻まれたプレートで構成されている。ノービスが一番多い。
それらは全て自身が殺めた冒険者のものであり、つまり戦利品。
上から黒いマントを羽織ることで露出を抑えているのはやはり女性としての羞恥があるのか、それとも単に目立ちたくないだけか。
腰には短剣サイズの刺突剣が三本……入ってた鞘。
名前は、クレマンティーヌ。
戦闘スタイルは高速で寄って刺し殺すハチのようなもので、殺人に快楽を感じるという凶暴性を考えればスズメバチ科に通じるものがある。あいつらの凶暴性はガチだ。
「——どうした? このままでは死ぬぞ?」
さて。DMMORPGというジャンルをご存知だろうか。
その中でも『ユグドラシル』というゲームは十二年もの間続き、先日サービスを終えたらしいネットゲームのひとつだ。
残念なことに私は引退した。
異形種という——いわゆるモンスターの姿でプレイしていたのだが、一時期この異形種をPKするのが非常に流行った時期がある。
インすれば十デスは余裕。気付いたら二十デスも!
逆にキルは出来なかった。まぁ、速度特化のスライム系種族なんかがまともに四肢を持ったプレイヤーに勝てるわけがない。
と言うわけで、まともにプレイ出来なくなった段階で辞めた。その日のうちにデータも泣きながら消した。さよなら。ぽよぽよりん。
しかし、未練がましくもユグドラシルを検索したことがあった。
その際に知った、最強最悪のギルド『アインズ・ウール・ゴウン』
そのギルドマスター『モモンガ』
オーバーロードという、最上位の魔法職スケルトンがあるわけだが、彼はそれだ。
その存在を知った途端、ぽよぽよりんを消したことを後悔していたわけだが、まぁそれはさておき。
今現在、私は彼に抱き締められていた。
ああいや、そんな恋人にするような抱擁ではない。
今だって腹の中身がぐちゃりと音をたてて潰れ、こぼりと口から血が噴き出す。
骨はバキバキと派手な音をたてて折れ、砕け、潰れ、体内から肉体を破壊していく。
まさしく死の抱擁。
私が目を覚ますまでに何があったのかは知らないが、中々のハードモードだ。
目が覚めたら瀕死とかどうすりゃいいんだよバァーカ!
「がふ、あ、ぐ……なんで……なんでモモ……」
「……んん?」
力がわずかに緩んだ。
「なんでモモンガさんに抱き締められてんのよ私はあぁあ!?」
「ふあぁっ!?」
力が完全に緩んだ。
「ま、待て! なんでお前がその名を知っているクレマンティーヌ!」
「知ってるもなにも! ユグドラシルの最強最悪のギルドのギルマスでしょ!」
沈黙する骨ローブと、血まみれ瀕死で地面に落とされて虫のように蠢く私。
なにこの光景。少し動くだけでめっちゃ痛い。あ違うコレ、何もしなくても痛いわ。超痛い気絶しそ、あ、ダメだわこれ。
「あ、ごめ、私死ぬわ、マジ、最後に会えて良かったわー」
これは心からの言葉だ。
少し調べただけで分かるメンバーの曲者具合。
それを纏めるのがどれだけ大変か、幾つかの無料MMOを遊び、ギルドを立ち上げた私には分かる。
そういった事から、私は非常にモモンガさんを尊敬していた。
「わ、あ、待て! 死ぬな!」
ばしゃぁ、と体に液体がぶちまけられた。
それは多少の苦痛を伴って肉体の傷を暖かく癒してくれた。
やばいコレ癖になるかもぉ。
「がふぅ!? あー、ゲホッ、ペッ」
「あの、もしかして……プレイヤーですか?」
先程とは打って変わって優しげな声。
きっとこれが彼の素なんだろう。
「残念ながらぁー私はプレイヤーじゃあないのよねぇ」
「ほぉ」
「あ、ちょ、待ってやめて違うの! あああえっと!」
待てよく考えたらなんだこの状況。痛いってことはネットゲームの世界じゃ無いんだろう。となれば異世界転移?
なんて非現実的な! いやモモンガさんが目の前でなんか構えてるあたり既に非現実的なんだけど!
いや、自画自讃してるみたいで嫌だが、私はこんな可愛エロくない。スタイルだって悪いし。
他のネットゲームでもこんな娘を作った覚えはない。まず戦士系というのがありえない。私は魔法使い専門だ。
悪役プレイはモモンガさんに憧れた当初、他のMMOで良くやったが。
「ええっと! ええっと! あ! ユグドラシルやってたけど狩られて辞めた脱落組!」
「……なるほど。ってことは日本人の……でも……」
「目が覚めたらー、抱き締められててびっくりしたわー」
「あー、いえ、それは……」
今の状況を把握し、導き出す答えはつまり、大体百年前に流行った憑依ものの異世界転移だろう。
つまり、この身体の持ち主は既に死んでるか、入れ替わってるか。
そこまで地球に未練は無いから戻れなくて構わないが。
「モモンガさん、ちょぉーっとだけ、付き合ってくれない?」
「へっ?」
クラウチングスタートをさらに低くした体制で飛び込むように前へと跳躍。
ラグビーでいうタックルのようにして腹にラリアット。
結果。私の腕が折れました。
「痛たた! かったぁい」
「……同じような台詞でも中身が違う人だとこんなに印象が違うんですね」
ポーションらしき血のように赤い液体を渡されて飲み、骨折があっという間に治るという全国の医者も涙目な光景を見ながらモモンガさんが言った。
どうやら、同じような台詞を私が憑依(暫定)する前の戦闘でしていたらしい。
うん。記憶があるよ。
「しっかし、どーしよーかなぁ」
「どうする、とは?」
「今後の動き。『クレマンティーヌ』のフリをするのも良いんだけど。それにしたってやっぱ元の組織には戻れないじゃない? 知ってる人からして違和感持たれたら困っちゃうしー」
「なるほど。なら、どうでしょう。ナザリック大墳墓で貴方を保護するというのは」
「ナザリックって異形種だけで構成されてるんでしょう? 私どう見ても——あ。そうだね、それはいい考えだ」
私は起き上がって武器を回収。鞘に戻してマントを羽織って振り返る。
「さて、モモンガさん。私はそうだね、死を超越するために様々な生物に取り憑く幽霊っていうのはどうだろう」
「なるほど。そして古くから親交のあった私を偶然見つけ、手頃な生物に取り憑いてみた、と」
「そ。でも、技能やらなにやらは大体取り憑いた生物に引っ張られてしまう、と」
これは事実。
人殺しが心から愉しいし、下品な話、下腹部が熱くなって身体が疼く。
今さっきの攻撃もクレマンティーヌ本人の動きと良く似ていたとモモンガさんのお墨付きだ。
ちなみに、向こうでの私は血液を見るだけで倒れ、殺人のニュースを聞くだけで吐き気を催した。
「とはいえ、ナザリックに加盟することは叶いません。そこは分かりますね?」
「もちろん。私は異形種じゃないし、引退したからプレイヤーですらない。そこの分別はあるから」
「ありがとうございます。では、貴方を——あー、名前は」
「クレマンティーヌでいいよ。元の名前は忘れちゃったから」
「分かりました。では改めて。我がナザリック大地下墳墓は貴殿、クレマンティーヌを食客として招こう」
いきなり王者の貫禄を出さないでいただきたい。
思わず跪いてしまった。
「じゃあ、とりあえずあっち行きましょう」
私は若干の不安を持って先導するモモンガさんの後を追った。
「あ、そうだ。今の私はモモン。冒険者の姿を取っています」
そういってモモンガさんは黒甲冑に姿を変えた。
なるほど。
「で、ナザリック大地下墳墓の主であるオーバーロードの姿がアインズ・ウール・ゴウン。そしてあなたの友人としての姿がモモンガ。よろしくお願いします」
「なーるほど、色々考えて行動している訳ねー」
「えぇ。私だけではありませんからね」
それだけいって身を翻し、再び歩き出した。
その背中がひどく大きく見えた。
なるほど、ギルドを——家と家族を守るというのは並大抵ではない訳だ。
——その後は結構トントン拍子に進んだ。
モモンガさん——モモンの仲間……というか部活のナーベラル・ガンマさん。森の賢王とか二つ名があるジャンガリアンハムスター……の化け物ハム助。
ナーベラルさんにはテレポートからの魔法ぶっぱという凶悪な一撃をいただきかけたがモモンが止めてくれた。
モモンの説明をすんなり信じてくれたナーベラルさんだが、多分コレ私が説明したら殺しにかかったんだろうなぁ。
なにやら建物の中に入っていったモモンを見送り、私は墓の出口に歩き出す。
「……どこかに行かれるのですか?」
「あ、うん。一応、事件の首謀者な訳で。知ってる人はいないかもしれないけど、念には念を、ね」
「かしこまりました」
「我が友人には適当に歩いてる——とでも言ってくれ。どうせロケーターも使えるんだしね」
一礼するナーベラルさんを背後に墓の出口から堂々と抜け出そうとしたら墓守が一杯いたから横側から逃げ出したでござるの巻。
さぁて、モモンガさんが接触してくるまで、何して時間潰そうかなぁ。
とりあえずビキニアーマー脱ぐかな。前のクレマンティーヌはともかく、私は戦利品を集める趣味はない。邪魔だし。
……下着は……うん、ちゃんと付けてるね。
そうしてしばらく歩いていると、不意に頭の中に声が響いた。
『クレマンティーヌさん! 勝手にいなくならないでください!』
『んあー? あー、ごめんごめん。ってか私の名前長いっしょ? ティーヌとでも呼んでよ』
『うぇぇ!?』
あらかさまに狼狽えた。モモンガさんは童貞か。
『一応首謀者の一人だし、英雄の凱旋にいるとまずいかなって』
『あー。でもティー……ティーヌさんは顔見られてないし……』
『念のため、ね。……慎重過ぎて困ることはないでしょ』
『えーと、なら、とりあえずそこにいてください。ナザリックへの迎えを頼んであります』
『おっけぇー。あ、そだ。殺人も拷問も出来るから、もしその方面の仕事があったら依頼してもいいよ』
『え、あっ、ハイ』
むしろウェルカム。
よろこんで殺しにかかる所存である。
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さて、少しするとなんかちっさい虫みたいなのが来た。
彼? 彼女? の案内で大墳墓まで辿り着いたわけだが、これが凄い内装! 綺麗!
一応、私の居住区は六層のログハウスとのとこで、ついでだから思いつきを試してみることにした。
「アウラちゃーん。蜂の毒ってない?」
「蜂の毒……ですか……?」
何に使うんだんなのみたいな目で十歳くらいのダークエルフの男装少女に見られる。
一応食客として招かれていることだし、へりくだるのは良くないかと思って近所のお姉さん的接し方で接してみた。
当たりだったらしく、彼女は小鉢に入った毒を私に持ってきてくれた。