1.朝
「おはよー」
「おはよう」
椚ヶ丘中学校3ーEは、丁度登校時間で、教室には生徒たちが続々と集まっていた。
「あれ?殺せんせーは?」
潮田渚は友人の杉野友人に尋ねた。
いつもなら教室にいるはずの殺せんせーが、今日はいない。
「おはよ渚。俺もみてねーんだよ。残念ながら」
「そっかぁ」
二人はクラスがざわついているのに気がついた。
「どうしたの?茅野」
「あれ!見て見て」
茅野カエデの指差す先の窓の外に、見慣れない四人の女子生徒が見えた。
「?」
「転校生かなぁ?」
「ビッチ先生みたいに、あの子達も殺し屋なのかな?」
倉橋陽菜乃がにこにこしながら言う。
そうだったなら大変だ。
また面倒臭いことになる。
「普通の子達に見えるけど…」
「ていうか美人揃いじゃんッ‼︎」
坊主頭の岡島大河が、気づいたように叫んだ。
クラスの者たちは、そんな岡島を無視した。あたりまえだが。
「なんか一人外国人っぽいし、帰国子女かも」
「外国人って、余計殺し屋なんじゃないかと思うよ…」
「あの子凄い大きなリボンつけてて可愛いね」
「むむ…胸が…」
「茅野、大丈夫?」
*****
四人は学校近くの山にスキマが繋げてあったので、特に疲れることもなく、すぐついた。
「随分なボロ校舎ね。差別されてるって本当だったんだ」
「そうだな。霊夢の神社よりひどいぜ」
「霊夢さんの神社よりひどいなんて…よっぽどですねぇ」
「霊夢、あんな風になる前に掃除とか管理とかしっかりしなさいよ」
「うっさい黙ってろ!余計なお世話だっ!」
顔を真っ赤にする霊夢をからかいながら、四人は窓から何人もの顔が覗いていることに気がついた。
「あーあ、目立ってるわよ全く」
「仕方ないだろ。転校生って、目立つもんらしいし」
「朝からお弁当作りで疲れたわ」
「肩揉みましょうか?」
「結構よ」
校内に入り、スリッパに履き替えると、四人は廊下で呼び止められた。
「君たちが転校生か」
「…?」
「ここの体育教師、烏間という者だ」
「先生?」
「そうだ」
「へぇ、よろしく」
「よろしくだぜ」
「よろしくおねがいします」
「よろしくお願い致します」
「英語教師兼殺し屋のイリーナ・イェラビッチよ。あなたたち、殺し屋なの?」
「生徒である以上殺し屋ね」
「そういうことじゃないわ」
「殺しを生業にしてるかってこと?違うわよ。私は巫女。むしろ、殺しを裁く者でしょ」
「ミ、ミコ?」
「神に仕える者って言ったほうがいい?外国人だからわかりにくいかしら」
「カラスマッ!ミコってだれっ⁇」
「人の名前じゃない」
「この子の名前なの?」
「違うわよ。私は博麗霊夢。一年、よろしく頼むわ」
「それではまず先生に敬語で話しましょう!霊夢さん」
振り向くと、四人の後ろに、背の高い黄色い生物が立っていた。
「あぁ、あんたが月を破壊した…」
「そうですよ」
「迷惑なんだけど」
「言ったでしょう、先生には敬語で」
「暗殺すれば地球は無くならないんだな?」
「そうですよ。あなたも敬語を…」
「そんな簡単にヤレるかしら」
「色々頭をひねったほうがいいですかねぇ」
紫色に染まる殺せんせーに、霊夢はため息をついて答えた。
「わかってるわよ。敬語でしょ」
「そうです。それでは、教室に向かいましょう。お名前は?」
「私は、霧雨魔理沙」
「十六夜咲夜と申します」
「どうもっ!清く正しい射命丸文ですっ!」
「文さん、そのカメラはなんですか?」
文は首に古いフィルムのカメラを下げていた。
殺せんせーは触手を伸ばしてカメラを触った。
「写真を撮るのが趣味なんです。学級新聞とか、作ってもいいですか?殺せんせー」
「もちろんいいですよ」
「ありがとうございます!」
「あんたここに来ても新聞書くの?あくまで目的はこいつの暗殺よ?」
「こらっ!霊夢さんっ!先生をこいつ呼ばわりしないっ!」
「はいはい」
「殺せんせーって背ぇ高いよなあ。羨ましいぜ」
「あんた四人の中で一番背低いしね」
「うっせー」
「まあまあ、魔理沙。そのうちその背も伸びるわよ」
「背が一番高い咲夜にだけは言われたくなかったぜ」
「…ふふふ」
そうこう言っているうちに、
「皆さん、おはようございます!」
殺せんせーが足を踏み入れると、蜘蛛の子を散らしたように、生徒たちが席についた。
「日直の人は号令を」
「規律、気を付け、礼、着席!」
*****
日直の号令を終えて、3ーEは席に着いた。
殺せんせーの後ろに、四人の生徒が立っていた。
どれも美人だったがそれぞれ変わっていた。
1人は黒く長い髪の上に、赤いリボンがついていて、それが物凄く目立っている。
1人は金髪金眼で、髪の一部を三つ編みに結んでいた。
1人は薄灰色の色の髪のもみあげあたりが両側とも長く、三つ編みに結ばれている。
1人は肩くらいの黒髪で、首に古そうなカメラを掛けていた。
「自己紹介をしてください」
「博麗霊夢よ。好きなものはお茶。よろしく」
「霧雨魔理沙だ。得意科目は理科と数学っ!よろしくだぜ」
「十六夜咲夜と申します。得意なことは料理を作ったり掃除をしたりすることです。よろしくおねがいいたします」
「清く正しい射命丸文ですっ!好きなことは写真を撮ること。よろしくお願いします!」
「よろしくおねがいしますね。転校生に質問がある人はいますか?」
「はーい!」
倉橋が勢いよく手を挙げた。
「四人とも、彼氏とかっているの?」
「あー、私も気になるー!」
「カレシ?カレシってなにかしら、魔理沙」
咲夜が魔理沙に尋ねた。
しかし魔理沙は首を傾げた。
「カレシ?わかんないぜ」
「男という意味の言葉がくっついてますが。彼と氏」
「じゃあお付き合いしている男性がいるかってこと?」
「そういうのはいないわね」
「じゃあはい!四人とも偉く親しげだけど、知り合いなの?」
茅野が手を挙げた。
「私と魔理沙は幼馴染ね」
「私も霊夢さんの小さい頃は知ってますよ」
「私は比較的最近知り合ったわ」
「へぇ、じゃあさ、君らって殺し屋なの?」
赤羽業が、四人に向かって言う。
3ーEの全員が気になっていることだった。
「3ーEの生徒である以上、私たちはこいつを殺す殺し屋よ」
「お前らだって、殺し屋だろ」
その言葉に、全員が納得した。
僕らは殺し屋。
暗殺対象は、先生。
*****
2.体育の時間
「えー、四人にはこれから体力テストをしてもらう」
「体力テスト?」
「性能テストといったところでしょうか」
「とりあえずな。手始めに100m走をしてもらおう」
四人はグラウンドのスタート位置についた。
「よーい…スタートッ!」
岡野ひなたが勢いよく声を出す。
その瞬間、
1秒後 文がゴール。
「え?」
「何秒ですか?」
「えっと…1.00秒」
一方、霊夢達三人は死闘を繰り広げていた。
咲夜が魔理沙と霊夢の前を走っているのだが、魔理沙と霊夢が大体同じくらいだったのだ。
「はっ!はっ!」
霊夢は素早く魔理沙の足にお祓い棒を出した。
「うわっ!」
魔理沙は転び、その間に霊夢は走った。
「くっそーっ!」
魔理沙は八卦炉を取り出し、霊夢に向けて、威力を抑えながら弾幕を撃った。
「痛ぁっ!」
転びはしなかったが少し遅くなった霊夢に魔理沙が追いつき、結局二人とも同時にゴールした。
「こら霊夢さんに魔理沙さんっ!邪魔しあっては駄目でしょうっ!正確なタイムがはかれないじゃありませんかっ!」
殺せんせーは怒っていたが、二人には聞こえていない。
「ちょっと魔理沙?あんたなにやっちゃってんの?」
「それはこっちのセリフだぜ。ふざけんなよ?」
「弾幕撃つことないでしょう!弾幕はっ‼︎」
「お祓い棒もおかしいだろうがぁっ!」
「あーもう面倒臭いっ!弾幕勝負よっ!」
「受けて立つぜ!」
「やめなさいっ!二人ともっ!」
「…っ!」
「うわっ!」
文と咲夜が後ろから二人を止める。
「ちょっと文っ!離しなさいっ!」
「離せよ咲夜っ!」
「いい加減にしないかっ!」
烏間先生の声が響き渡る。
「…わかったわよ」
「頭に血が上ってたぜ」
少し睨み合ってから、2人だけもう一回タイムを計りなおした。
霊夢の方が少し速かった。
「くそっ!最下位かよ」
「文には勝てなくてもいいけど、あんたに負ける気はないわよ!」
「そんなこと言ってるけど勉強で私に勝ったこと、お前あったか?」
「それは…っ!ない…けど…っ!」
「いつか両方でお前に勝ってやるからなっ!」
「それはこっちの台詞よっ!」
「あの二人は昔から変わらないわね」
「そうですねぇ」
「貴女いつカメラ持ってきたの?」
「ついさっきです」
「そう」
こいつも相変わらずだと、咲夜は気付かれないようにため息をついた。
*****
隣でナイフを振る練習をしていた3ーEの生徒たちは、四人の100mを見入っていた。
「凄い…」
「速いねぇ、四人とも」
「いやいや待っておかしいでしょっ⁉︎」
淡々と語るカルマと杉野に、渚は思わず突っ込んだ。
魔理沙と霊夢と咲夜はいい。
けれど文だけ別格だった。
「殺せんせーに比べたら、ずっと遅いけど…やっぱりあの転校生、只者じゃないみたいだね…」
「暗殺するところ、ちょっと見てみたいな」
「見てないでナイフ振りなさいっ!あーもうっ!肌が焼けちゃうわっ」
「「「はーい」」」
ビッチ先生のヒステリックな声を聞きながら、3ーEの生徒たちの意識は、四人から逸れた。
*****
四人の体力テスト結果が、企画外だったのは、言うまでもない。
文は反復横とびが凄いことになったし、霊夢は握力が凄いことになった。
魔理沙と咲夜は飛び抜けていいものはなかったが、それでも優秀だった。
意外な結果を見せたのは、魔理沙だった。
20mシャトルラン…あのえげつない持久走が、150回くらいまでいったのだ。
文には負けたが、それでも霊夢と咲夜には勝った。
「疲れたー」
「もう…疲れたわ」
「あぅ…」
「三人とも起きなさい。お昼よ」
「…そうね」
「ねえねえ博麗さん達、一緒に食べない?」
「別にいいわよ。それと、霊夢でいいわ」
「やったーっ!」
霊夢達に話しかけてきたのは、茅野カエデと渚たちだった。
「…ん?四人とも同じメニューだね」
「私たち同居してるから、咲夜がつくってくれるのよ」
「咲夜ぁ、私のにトマトいれるなって言っただろ?」
「ちょっと咲夜っ!なんで私のだけこんなにオクラが入ってるのよっ⁉︎」
「好き嫌いしないで食べなさい。そんなんだから魔理沙は背が伸びないのよ?」
「うぐっ」
「なんか咲夜さん、お母さんみたいだね…」
「ていうか気になってたんだけど…。なんで文ちゃんってあんなに速いの?」
「ん⁉︎」
急に会話がふられて驚いたのか、文は箸を手から離した。
が、落ちる直前に殺せんせーが掴んでいた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、はい。大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「私も気になりますねえ、なんで文さんがあんな人間離れした速さなのか」
「あややや、秘密です」
「そうですか。じゃあ先生ちょっとフランスまで行ってお菓子を食べてきます」
そう言って、殺せんせーは窓から飛び出していった。
「それで霊夢さんたちはどうするの?暗殺するの?」
「んー、まあ明日くらいにやるわよ」
「そっか〜」
こうして初日は過ぎていった…。
To be continued…
次回、第一暗殺