あと、実験的に下ネタ風味入れてます。その結果、キャラ崩壊MAXなので、承知の上でお読み下さい。
カルネ村が襲撃されて数日。様々な変化が有った。特にエンリの生活が一変した。
彼女の朝は早い。
これは、一日の予定が山積みであり、また悪魔へ変異した為睡眠時間が大幅に短縮した事が大きい。嘗てのリアルの生活を知る者がいたら胸が痛くなるほど彼女の生活は実に多忙なのだ。
日が上がる前に、まるで機械の起動かのように目覚め、スヤスヤと寝息をたてるネムの寝顔を確認し、起こさないように音を立てずにベッドから降り、一見薄茶色の麻のような植物で編まれたワンピース状の寝間着から普段着へと着替える。
小鳥すらも眠る時間であり、暗闇の中、布の擦れる音が静寂を乱す。
(あ、あれ?)
エンリは普段着に着替えていると少し違和感を覚えた。何故か少しキツイのだ。思わず、腹部に手をやるが、困惑は更に強まる。思わず何度も触れて確認してしまうほどに。
腹部だけなら太ったのだろうと思うものだ。だが、エンリの腹部には横の余裕は有るのだが、丈の余裕が無く臍が見え隠れしており最低限の仕事しかしておらず、全体的に動きにくく感じている。特に、胸や臀部がキツイ。
胸のボタンは、いつ内圧に耐えきれなくなり弾け飛ぶか分からない状態であり、地味に男の視線を集めるだろう。
数日前までは少し余裕があった服。だが、今は結構ギリギリ着れている状態。ならば、答えは一つしかない。
(人間を辞めたから、か・・・)
エンリは自身でも驚くほど冷静だった。自身の人間だった残照が違和感を訴えるも、この肉体の成長は戦う者としての意識では好ましく思う。
人間の村娘であった頃のエンリは、身長も、筋肉の付き方も一般的だった。
だが、身長は数日で一気に5cm(地球単位)以上は伸び、主に脚部が伸びている事からリーチは伸び、筋肉がバランス良く付いた事から、ポテンシャルが上がっているのも感じる。難点は筋肉が付いた為、バストやヒップのサイズが大きくなり、胸や尻に攻撃が当たり易くなった事だろうか。
ともかく、エンリは着ようとしていた普段着を着るのを止め、どうするか考える事にした。
昨日は多少キツイと感じていただけであり、問題視していなかっただけに悩ましい。特に、自己主張が激しい胸部と、緩々で頼りなく感じるポンチョ状の下着が。
(とりあえず、この胸と下だよね)
彼女は徐に2枚の長めの布を衣類を置いている箱から取り出すと、身に着け始めた。丘から山へと変貌し、圧力が強力な胸を締め付け、押えつけるのを難しく感じながら。
結果、上はサラシを巻いたようになり、下は前垂れの無い六尺褌を巻いた感じとなる。
(恥ずかしいけど・・・誰にも見られなきゃ良いよね。何も穿いていないよりマシだし)
自身の体を確認しながら、彼女は恥ずかしかった。
特に、Tバックの様にお尻が強調され、キュッっと引き締まる尻肉に羞恥を覚えつつ、そう自己解釈し普段着を着なおす。
胸や股間が締まる感覚は、先日の戦闘形態で経験してから慣れたのか、それともクセになってしまったのか、本人には判断がつかない。だが以前までの、上はフリーな状態で、下はポンチョというのはどうも頼り無く思ってしまうのだ。そしてこの締まる感覚に、気も引き締まると感じる。一種の緊張感の維持に繋がっているのだ。
だが、やはり胸と臍が問題だった。特に、シャツの、胸辺りのボタンはその仕事を放棄し、糸が解れ始めていた。
(仕方ないか・・・)
エンリは少し気分の良いモノではないが、解れている部位を留めるのを諦め、シャツが中途半端に見えるのが気になるので、上着ごと内側へ巻き込む。結果、見事にシャツの胸の隙間からサラシが覗き、臍が全開のセクシーな村娘な姿となった。
娼婦にも見えなくも無いのが問題と言えば、問題だ。
そして靴を履こうとそして、ボロになっている事に気付いた。どうやら増した身体機能に着いて来れていない様子。思わず溜息をつきながら履くのを諦め、時間の都合上素足のまま家を出ることになった。
エンリの行動を影で見守っていたアンジェは、サイズの合わなくなった壊れた靴を手に取り、溜息をついた。
(まったく。新しい娘は手のかかる子ね)
アンジェにとっては、ジュンもエンリも、ネムでさえ手のかかる娘のようで、妹の様に思っている。
ネムの安らかだが、何処か寂しそうな寝顔を見ながら、エンリの新しい日課に思いを馳せ彼女が駆けて行った先。トブの森に視線を向けた。
エンリは先ず、ゴブリン達のリーダー個体。カイジャリに昨夜の哨戒及び警護の結果を聞きソレを労り、狩りに出た。朝から肉系を一品追加しようとも考えているのだ。その際、起きているゴブリン達はエンリの姿に何とも言えない視線を向けていたのだが、彼女は気付いていない。
村の復興の人手として、アインズより下賜された小鬼将軍の角笛により召喚された彼等は、この世界の常識を追加で付与されており、服装が問題だと思うが、召喚主の趣味とも判断できる服装でもあるため、指摘出来なかったのだ。
森の賢王のテリトリーという事で魔物の姿は無いが、獣達は魔物から逃れて来やすい。正に絶好の狩場。だが狩りすぎたり、森の奥へと足を踏み入れすぎたりすれば、森の賢王に遭う事から、以前のカルネ村では狩りをする事は少なかった。
しかし、今のエンリは違う。逃げられる可能性が高いと考えており、積極的に狩りを行っているのだ。
右肘迄を変化させ、黒い籠手を着けているような状態にし、木々を足場に森の中を跳ぶ。時折捻りや回転を加えながら最小限の動きで枝葉を避ける姿は優美さすら有るが、その双眸は狩人のソレだ。無慈悲で冷淡すら思わせる危険な輝きを放ち、音もなく獲物を捉えていた。
森の賢王のレベルが不明であるが、ある意味強行偵察の部類に入っており、この事象から森の賢王が今のエンリ以下の実力とアインズは推察している。事実、アウラ主動の森の調査において、推察は正しく、だが、カルネ村の一般村民の安全の為、近々行動を起こす予定だ。
日が顔を覗かせ、大地を淡く照らす時間にエンリはカルネ村へ帰ってきた。
本日の成果は牡鹿1頭と、野鳥が数羽である。首に一太刀を当てられ、頸静脈が断たれており血抜きは既に終わっている。野鳥は縄で首を縛られ一纏めに。そして、その縄の先と牡鹿の角を左手一本で軽く担いで、音も無く帰ってきたのだ。なお、衣服には返り血は無い。彼女の戦闘テクニックが高いのが推察できるだろう。
召喚されたゴブリン達と、警護の一端を担うデスナイト、そしてアンジェしか知らない光景。
ゴブリン達は夜警に当たっていた班に一部振舞われる事から、更なる敬意をエンリに抱いていた。
短時間で音もなく獲物を狩り、ソレを惜しげもなく部下を労わる為に振舞う。この世界で出来る上司は少ない。尤も、コレは飴であり、容易くゴブリンも首だけにする事ができる実力を有していると、毎朝パフォーマンスされている面もあり恐怖の鞭で意識を強制的に引き締められている意味も有るのだが。
優し気に獲物を解体して、必要な部位以外をカイジャリへ渡すエンリ。天秤は優しさに傾いている。反逆や過度な恐怖による行動の萎縮等の心配は必要ないだろう。
ネムが起きる前にエンリは食事の準備をしていた。料理人のクラスを有していないエンリが料理を作れるのには、以前保有していた村人のクラスが悪魔化により消失している今、『純粋なNPCではない事』が関係している可能性が高い。料理人のクラスを保有していない為、バフ効果は追加できないがソレが普通である。
この時点でアインズ達の見解は『設定されていない。また、該当するクラスを所持していない場合、NPCやプレイヤーはその行動を実行できない』というモノだ。
エンリが食事の準備をしているのを見ながら、アンジェは椅子に腰かけ、憂鬱そうな顔でメモを取っていた。
(料理も掃除も・・・何故上手くできないのかしら。まぁ、コレは要報告ね)
アンジェは、知識だけは豊富なのだ。
知識として、料理も掃除も、裁縫も知っている。知っているのだが実行した結果は、残念ながらエンリとネムが後始末をする事になった。
服を畳もうとすれば変な折り目が付き、食器を洗おうとしたら砕け、火力が安定しないからと、肉を火魔法で焼こうとしたら黒焦げにしてしまう。モデルがモデルだけに、彼女の設定は『私生活が微妙なキャリアウーマン』である。ギャップ萌えを愛するタブラの影が見える残念な設定だ。なお、妹であるライトは完全な生産系ビルドであり『家庭的』な設定。
戦闘系故の悲しき設定かもしれない。
「おふぁようごじゃいましゅー」
そんな中、眠そうに目を擦りながら寝室からネムが出てきた。ウトウトと船を漕ぎながら、中途半端に来た普段着姿で歩いてくるのは可愛らしいが、見ていて不安でもある。
ネムの様子を作業の傍ら見ていたアンジェだが、転移門がネムの背後で開き、影が二つ出てきた事に気付く。
アインズとジュンだ。アインズは作業を中断しようとしたアンジェの行動を、軽く手を上げる事で制止し、ジュンはネムの後姿からどんな状態なのかを察したか、小さく微笑んでネムを抱き上げた。
「ネム。危ないから、もう少しハッキリしてからベッドから降りるようにね」
「あい。ジュンさまぁー。アインジュさまも、おはようございましゅ」
優しく注意するジュンにネムはその背後にアインズの姿を見、挨拶をするが完全に起きていない為舌足らずだ。そんなネムの様子に、アインズはふと気づいたことが有った。
「おはようネム。女の子がヨダレを人前で垂らしてはならないぞ」
「ありがとうごじゃいましゅ」
ネムのヨダレが零れそうになっていたのだ。
アインズは上位アイテム作成でハンカチを創り、そっと拭いてやる。ネムは恥ずかしかったのか、顔を赤くして俯きながらもお礼を述べた。そんな姿が可愛らしいのかジュンは小さく笑い、アインズも吊られる様に笑う。
一見、実に幸せな親子のようだ。
(良かった。やっぱり私には、お母さんは早いのかなぁ・・・)
ネムの世話をする偉大な支配者2人に、エンリは配膳をしながら少し落ち込んでいた。
いくら年の離れた妹を娘の様に感じていようとも、ネムにとってエンリはやはり『姉』なのだ。父母の様な暖かさをアインズとジュンに求めていると、エンリには見えてしまった。
愚者や無頼者にソレを求めるのではなく、敬う相手にソレを求めたネムに、エンリは安心感を覚える。尤も偉大な支配者が子守りをしている姿は、不敬ながらも奇妙な親近感に似たモノを抱かせるのだが。
エンリの視点では、ジュンは苛烈ながらも慈悲深く、愛に満ちた女性である。アインズは死を体現しながらも、無辜の民を穏やかに見守る王だ。
2人が聞けば卒倒・悶絶しそうな評価である。
(平和ね・・・)
幼い妹の世話をする両親に、年上の姉が朝食を準備する姿。実に平和的な光景だが、アンジェは内心そう皮肉った。
アインズはいつもの豪華なアカデミックガウンに、骸骨の姿。ネムを抱くジュンは、堕天使の翼を思わせる髪型に、獣の手足と尻尾を持つ半魔形態で白地に金の桜の白いワンピースを着ている。
アンジェを含み女性陣の衣装は貧富の差を感じさせるが文明レベル的には近い衣服で、髪色等、色々と違うが・・・まぁココだけ見ればまだ、姉妹や親子に見えなくもない。だが、父に該当するアインズの姿とジュンの姿が、実に違和感しか無い。衣服の差ではない。そもそも骸骨と悪魔の姿なのだから。
「アインズ様。色々整えてから来る方が良いと思うのだけど」
「ん?あぁ。確かに食事をするのに、この格好は無かったか」
(いや、そうじゃないって・・・)
アンジェが対情報系の結界を張っているが、その恰好(骸骨や半魔形態の姿)でナザリック外へ出る。しかも、友好的な関係の構築に成功したカルネ村で正体を公言する行為。アンジェの魔法の実力を信頼しているとも考えられるが、彼女的には、万が一にでも正体がバレ、有る事無い事が広がるのはあまり面白くない。
アンジェの、ジュンやアインズをチラ見しながら言った一言に、アインズは力の涙を発動させ、数秒発光しながら人の姿を取り、また、服装も漆黒のスーツへ変更した。無表情ながらその瞳は穏やかであり優しげだ。
さり気無く胸にワンポイント扱いでモモンガを表す紋様であり、背中にはアインズ・ウール・ゴウンの紋章が金糸で編まれており、結婚にでも着るのかと言わんばかりの高級品である。無駄に伝説級アイテムであり、マフィアのドンとも見える姿が実に悩ましい。
アンジェの溜息は外に漏れる事は無いが、ある意味コレで最大の違和感が消えたとも見れる。顔の表情が分かり、その様子から不器用だが優しげな父親に見えるのだから。
問題は、上記の通り仕事が怪しい裏の仕事っぽい事だが、ソレはリアルの価値観を持つ者限定である。
「アインズ様カッコイイ!」
「スーツって、態々合わせなくても・・・」
「なに。コレはコレで家族みたいだろう?それに、そろそろ姿を人間のモノにな」
「ありがとうございます。アインズ様」
(いつも気遣ってくれてありがとう)
ネムはアインズの変身する時の光で完全に目が覚めた様だ。そして、一見貴族や有名な豪商にしか見えないアインズの姿に、目を輝かせる。
ジュンはアインズの服装が暴走したホワイトプリムを代表とする、裁縫等を得意とする生産職が意を決して作成した、異種族対応の41人分のマフィア風の正装姿に頭を悩ませながらも、続けてアインズが発した一言に、エンリとは違い内心感謝する事となった。エンリとネムの様子からして、マフィアのドン風のスーツが、豪華だが一般的なのかもと誤認した為でもある。
そして、ジュンは姿を人間のモノへと変化させ席に着く。ジュンも本来の姿は人間ではないのだから。
ジュン的には、エンリとネムが両親を奪われ、その悲しみを癒すべくアインズは行動した。と考えているのだ。実際は単なる点数稼ぎなのだが、知らぬ方が良い事も多い。アインズがさり気無くアンジェと窓を一瞥していた事等、知らない方が良いのだ。
(ジュン。ゴメンなさい。そして、気づかない方が良いかもしれないわね)
アンジェは内心謝るしかできなかった。表情等に変化がないのは流石としか言えないだろう。何事もなく談笑を開始した。
仲良く談笑しながら食事を取る姿はアインズ達の服装に違和感を覚えるだろうが、窓の外から中を覗く村長には家族に見えているのだ。
村長は両親を急に亡くし、襲撃時に、本当にエンリか分からなかった事への罪悪感。そして、村を救った方々から力を授かれば、村を離れる前にと村の防衛力を強化すべく奮闘するエンリの姿から心配になり、朝と晩に様子を見に来ていた。
エンリの急成長は敵を多く倒した結果だと村長は認識しており、エンリが決して化け物だと思われないように、村民に確りと説明している。
この世界では症例こそ少ないが、急激なレベルアップにより、肉体が急成長・急回復・若返り等が起こると周知されている。これは、英雄譚を先人が語り継いだ結果であり、スレイン法国が新たなる勇者を迫害により人類の敵や悪党等にしないように勧めた成果だ。
(エンリ・・・いない間は安心しなさい。ネムは私達やアンジェ様が確りと面倒を見るよ)
今村長が見ている光景は何だろうか。穏やかな家族の光景ではないか。
ジュンが時折食べ物を落としたり、口の周りを食べかす等で汚してしまうネムの世話をする姿など、母にしか見えない。そんなジュンを穏やかな目で見守るアインズは正に配偶者だ。在りし日の己を村長は幻視した。村長の妻はジュンと比べられない容姿だが、彼には最も愛しい人なので関係無い。
アインズやジュン。時にエンリ達も含め行方が分からない事や、格好が違う事もあるが、魔法詠唱者であるアインズにかかれば、一瞬で移動する事等々容易い事なのだろうと村長は安心し、決意を新たに、愛しい妻が朝食を用意している我が家へと帰る事にした。
(だが・・・ネムが付いて行きたいと言い出さないか心配だ)
現村長の心配の種は尽きない。家族の様な光景から起因しているのだろうかと心配になるものの、神でもない彼にはどうにもならない事だ。
(あとエンリ。その服装はちょっと、なぁ・・・)
そして、エンリの服装に一抹の不安をよぎらせる。若い男には目の毒なのだ。
アインズはアンジェからの報告と、遠隔視の鏡による観察で村長の行動を把握しており、今回の、一般的な食事がどのようなものか知るという題目の下、この様な行動に出た。
村長の存在にジュンが気付かないのはアンジェの結界の効果である。
支配者が訪問中である為、今のカルネ村の周囲の森には様々なシモベが警備しているのだが、ソレを知るのはナザリックに所属する者達だけだ。
ハッキリ言って、少し裕福な農民の家庭程度の食事は美味かと問われれば、大して美味いモノでは無い。いつでも調味料が手に入る環境では無いのだ。特に生命維持に必須である塩は万が一を考え、使用量を制限するのが一般的なため、薄味になる。また、シチューも含めて3種類しか並んでいなかった。
だが、合成食が基本だったジュンとアインズには、薄味ながらも様々な工夫を加えられ、食材本来の味と各種香草のハーモニーにより、香り豊かな風味は悪くないと思わせる。エンリの母の経験は娘に確かに伝えられ、彼らを満足させるに至っていた。
その味を楽しみ、多弁になるジュンと、楽しそうなジュンに好奇心を刺激され雰囲気で幸福を覚えるアインズ。談笑が弾みながら、笑顔溢れる食卓はある意味至高の食卓であろう。
談笑を含む朝食は意外にも時間がかかるモノだ。気がつけば、村中には談笑する声で賑やかさが生じていた。
食器を洗うのはジュンとエンリだ。ジュンは、現実では家事万能だったが、設定の記載は少々有るが、実際に家事をしてみれば結果はどうだろう。何も問題は無い。食後の茶を飲みながら、アンジェは少し敗北感を味わっていた。
実験的に、家に有る香草や薬草を煎じ、ハーブティーを淹れたのはジュンだ。何のバフ効果も得られないが、適度な渋みと甘さを醸し出し、目が覚めやすいようにとミントのような爽やかさを含む一杯は美味い。
「ふむ。記載が関係するのか。それとも経験か」
「少なくともバフの有無がクラスの有無の違いね。武器が急に持てなくなる事や、物理法則の作用の奇怪さといい・・・情報が足りないわ」
ジュンの淹れたお茶を楽しむアインズの呟きに対し、アンジェの答えは悔しさを滲ませたモノだった。
アンジェの知識はジュンやウルベルトが整理した、膨大な地球のデータを基に構成されている。双方共に大学卒業の学歴を持ち、趣味人である事から、空想科学的な事も含まれているのだ。
アンジェはジュンやアインズの航空状態から、地球の物理学ならば衝撃波が発生する事は計算済みだ。だが、発生しない。この事象や魔法の効果原理を化学を交えた考察も行ったが、説明がつかない。
現実主義(地球の物理学を重視した)な性質を持つ為『細かな原理を省き、想定する』という条件付けの考察が出来ない。ゆえに、空想科学の知識が上手く作用しないからだが彼女はソレに気付かないのだ。
「アインズ様。あのね。ネムは包丁とか持てるよ?アンジェ様は持てるけど、アインズ様は持てないの?」
「そうかそうか。私は料理が苦手なのだよ。ネムは凄いな」
そんな中、ネムは少し不思議そうに言ってきた。
アインズとアンジェの会話から、包丁が持てないのでは?と勘違いしたのかもしれない。普通であれば、10才くらいの子供に言われたら馬鹿にしているのかと思うだろう。
だが、ネムは幼く見える上に、その目に一遍の悪意もなく、純粋に疑問に思ているのが良く分かる。純粋な好奇心・疑問からの言葉であると判断したアインズは、穏やかな目をして普通に嘘をつき、ネムを優しく撫でる。ネムは気持ちがいいのか、猫の様に目を細めて笑った。
「スゴイのはアインズ様だよ!魔法で色々と作れるし!」
「ハハハ。料理はできんがな」
ネムは純粋に、さり気無く無から有を創造するアインズこそ凄いと思っている。目を輝かせている為か、アインズはネムを己の膝の上へ乗せ、撫でながら笑った。
アインズの姿は娘を甘やかす父親に見えるだろう。実に穏やかで、暖かそうだ。ジュンはアインズの湯飲みが空になっている事から、さり気無く急須で新しいお茶を注ぐ。
「アインズさん。結局、森の賢王ってどうするの?」
「鵺と思われるレベル40以下と思われる魔物か。まぁ、近い内にな。エ・ランテルへと行く前には片付けよう」
ジュンは先ほど、食器を洗っている時にエンリと話した会話から事に当たる時期を聞き、アインズはジュンの意図を正しく汲み取った。10年以上の付き合いは伊達ではない。
アインズは森の賢王についてどうするか迷っていた。
現地の情報収集は順調だが、精査が追い付かないのも事実。故にジュン共々、カルネ村、ナザリックの周囲以外への移動を自粛している。
既にエ・ランテルへセバスとソリュシャンを派遣しており、治安や大まかな文明レベル、物価等々有用な情報が集まり、また、消えて良い人材が釣れる可能性が大きいのがアインズを満足させていた。
文字に関してはニグン達、元スレイン法国組は翻訳書の作成を司書長達と既に終えている。人数が有る事は不幸中の幸いか。不眠不休のアンデッドに付き合わされた彼らは揃って休養中だ。
彼らが休めなかった最大の理由は、知識欲旺盛な、不死の司書達の質問攻めに遭った事が大きい。何人かはストレスからか嘔吐を繰り返し、使い潰さない様に気を配った司書長が、大仕事の終了と同時に、休みを与えるようアインズとジュンへ提案した為である。
アインズは情勢がもう少し落ち着けば、休暇・給与の導入を考えた切欠になった事もあり、不用意にジュンへ近づかなければ良いと、再評価の検討を考えていた。
「ではエンリ。今日も色々と試してみてくれ」
「畏まりました」
ジュンとアインズはナザリックへ帰還し、書類仕事へと戻るのだが、その際にエンリは2人の前で跪き、転移門へ歩を進めるのを見送った。
だがアインズとしては、この地で得られた部下(双方共にジュン直属であり間接的)の中で成果が著しいのはエンリである。
ジュンの意思により産まれた『悪魔となったエンリ・エモット』という存在は、実に有用であった。現地人とのハイブリットNPCとも言える存在であり、ジュンに『寛大であり、優しい己』を見せる機会を作ってくれ、その結果、得がたいデータやジュンの好感度を上げられる。一石何鳥だろうか。結果、エンリの評価とネムの行動に、2人の存在はアインズの中でも大きくなる。ネムに関しては、種族が人間であるため、お気に入りのペット感覚が有るのは否めないが、人間に対しては破格の評価だと言える。ナザリックの者が知れば間違いなく嫉妬するだろう。
カルネ村の復興は著しく、襲撃されて僅か数日であるのに防衛力まで強化されつつあった。
アインズより貸し出されたゴーレムと、村の危機を救った死の騎士により簡単な木造の防護柵は完成。防壁の作成が始まっていた。また、農作業等の雑事の補助にとエンリはスケルトンを10体程アインズより借り受け、ゴブリン達も含めてその全ての指揮を行っていた。その結果だろうか。彼女の指揮官系職業レベルのレベルアップは目覚しく、その成果は目に見えて分かる程だ。
また、このスケルトン達は、スレイン法国の襲撃の際に、カルネ村以外、且つジュンの行った村以外で亡くなった亡骸を使用しており、消える事は無い。なお。土壌改善にマーレがアインズの命令で魔法を使用したのはアンジェ、ジュン、エンリしか知らない。
普通であれば、骸骨が農作業をし、魔物に守られる等考えられるモノではなく、気味悪く思うか、多大なストレスを受ける。だが、村人達はかなり好意的であった。
生き残った彼らには共通点が有る。それは『魔物に襲われた事は無く、人間に襲われた事』だ。カルネ村は森の賢王のテリトリー内いるため、魔物が近寄らない環境下に在った結果だとも言える。
村人視点でだが、化け物クラスの力をエンリが手に入れ、彼女が先頭に立ち、瞬く間に村の安全を強化され、気が付けば安心感を覚えており、農作業に必要な労力が大分軽減されてしまい、時間と心の余裕が出来た事が大きい。
彼女の指揮の下、ゴブリンに武器の使い方を学ぶ者もいれば、防壁作成に力を入れる者もいる。ある男2人は、防壁作成の為の作業を中断し、子供の笑い声がする広場を神妙な目で見た。
「なぁ。いくらアインズ様の召喚したアンデッドで、エンリやネムちゃんの言う事を聞くからって、コレは良いのか?」
「まぁ、小さい子の面倒を見てくれてるし、あの恐ろしい姿からは想像出来ないほど繊細な扱いをしているしな」
彼らの目の前では、死の騎士の肩に乗せられた子供や、その周りではしゃぎ、笑う子供達の姿が有った。
ネムは肩車されている状態であり、彼女が指差した方向へ、他の肩に乗っている子供を落とさないように、また、傍を走る子供にぶつからない様に歩く死の騎士の姿は、何と言えば分からない奇怪さが有る。禍々しい剣と巨大なタワーシールドは手になく、その恐ろしい骨と皮だけの手は、今は子供が落ちない様に添えられてる。
襲撃の日。逃げようとする騎士を切り裂き、吹き飛ばしていた存在が子守。いや、子供達の遊具と化しているのだ。男達は言葉に出来ない寂しさを覚えていた。
一方の死の騎士はこの状況を楽しんでいた。彼が一番幸福を覚えるのはアインズの望みを叶える事だ。その命令で、戦友であるエンリの指揮下に入り、またその願いでこの弱き者達を守る事は、彼に一定の満足感を覚えさせていた。
アンデッドとして、怖がられないのは奇妙な感覚であるが、子供達にとっては殺しに来た者を倒し、守ってくれた存在であるのだ。怖がる対象では無いと認識している。
子供の屈折の無い好感は刺激であり、アインズ製である彼。死の騎士に、彼等を守る喜びを覚えさせるに至っているとは、アインズにも予想が着かない事だ。
「エンリって、スゲェよな。ゴブリンやゴーレム、スケルトンに、あのアンデッド。命令ばっかりだしてると思えば、率先して動いてさ」
「あぁ。あの命令って・・・つい言う事聞いて、動いちまうよな」
これも、エンリの行動の結果である。
2人の認識はコレに尽きる。そして、2人して奇妙な感情が湧き上がってきた。
この世界における女子の平均的な結婚の適齢期は13~20程だ。生きる事が厳しい為か随分と早く、子を作る等の性的な価値観の成熟も早い。体が未成熟な時期から既に将来の相手がいるのはそれ程珍しいモノではないのだ。
エンリは向日葵の笑顔が似合う少女であり、よく働き、家事も上手くて優しい為人気が有った。父母の生前はその老後の心配や、ネムが幼い(まだ10歳)上に、身体的成長が遅れ気味で8歳ほどにしか見えない事から、気づけば16才。適齢期の年齢に差し掛かっていた。
そもそも彼女がネムを娘のように見ているのは、ネムが未熟児として産まれ、虚弱体質で奇跡的に育ったが発育不良である事が大きく、父母が生きている頃は、ネムが15才に育つまで、己の結婚等考える気が無かったのだ。
その彼女が新たに『力』を手にし、彼等視点だが、失意の中に在った皆を引っ張り、より良い未来へと導こうとしている姿は、美しさに磨きをかけている。
現在は、ベリュースに行った残虐な行為に理解が有る男性に関しては求婚を考えるくらい人気だ。『力』を持つというのは例外が有るが、有用なモテ要素であるのだから。
ともかく、彼女が知れば悶絶か激怒するかもしれない評価だ。
余談であるが縁談が少なかった背景には、年齢に反し栄養不足等で肉体的成長が遅れていた事も関係あり、少々男性側の食指が動きにくかった事も有る。
「・・・それに、あの急成長だもんな」
「鞭って、どう思う?」
「いい・・・」
エンリの肉体的な急成長は彼等にある欲望を抱かせる。身長もだが、胸と臀部は大きくなり、それに反して全体的に引き締まった肉体。少々筋肉質でありながら、豊満さを主張する果実が4つ。特にこの日の服装は素朴ながらも艶やかであり、男の性欲を刺激するのは正常だろう。既婚・未婚関係なく、本日のエンリを見る男の目には何処か情欲が宿っているのだが、そういう経験が無いエンリには気づかない。
だが、ジュンと共に行った衝撃的行動により少々異なっていた。2人は、あの冷淡な視線に心を撃ちぬかれ、指揮しているときの真面目な目に心奪われていたのだ。
「そこ。サボらない」
「「は、はい!(馬や牛みたいに鞭で叩かれたらどうなるんだろう?)」」
サボって喋っている2人の存在に、少しの時間なら休憩代わりに目を瞑っていたエンリだが、流石に黙認できなくなり、よく通る声音と鋭い視線を2人へ向けた。
その視線に、彼等が抱いた好奇心と欲望に気づけない彼女には、何故2人が焦りながらも嬉しそうに作業を再開したのかは理解出来ない。
昼を過ぎ、エンリの指揮が必要無くなった状態。あとは明日行う為の段取り、準備作業へ移行しており、材料の処理を行うだけになったのを確認したエンリは、アンジェの協力の下ナザリック地下大墳墓へと向かった。
向かったのは第六階層の大闘技場。
コキュートスの指導を受け、その戦闘力を鍛える為だ。レベルが50近くなってきた彼女ではコキュートスに勝てない。だが、戦闘経験は積み重ねは動きの最適化も含めて、実力を着けるという意味も有用だ。
なお、コキュートスが内心決めている事項をクリアすれば、エンリに経験値が入りレベルアップしている。撃破と比べて入る量は微妙だがレベル差が2倍以上有る。結果だけを言えば悪くは無い。なお、この指導の後に行う、アインズにより召喚されたアンデッド相手の戦闘も行っている。確認も含めて召喚された中位・下位アンデッド達は、エンリの経験値に溶かされているのだ。アインズには、エンリの成長を測る調度良い計測器扱いである。
「お願いします」
「ウム。来ルガ良イ」
鍛錬を始める前に、確りと一礼し、悪魔形態へと姿を変えるエンリ。右手の刃の展開と、強い意志を感じさせる金色の双眸を確認したコキュートスは一度頷く。
その頷きをもって、鍛錬開始の合図とし、エンリはコキュートスへ向かっていった。
何度弾き飛ばされても、何度刃が折れようとも向かってくるエンリの姿は、開始の礼儀正しい姿も含めて、武人たるコキュートスに好感を抱かせる。コキュートスにとってエンリを鍛える行為は、将来産まれるであろうアインズの子を鍛える予行演習にも繋がっており、有益な時間であると同時に、その成長する姿が彼に楽しさを覚えさせていた。
「あのお気に入り。もうすぐプレアデスくらいかな?」
「色々と役立ってるみたいだし、その言い方は良くないよ」
激しい金属音。火花が散る攻防。砂塵が舞う闘技場。エンリの攻撃を全て受け流し、時に一撃を加えるコキュートス。エンリにとって重い一撃を受けても、戦闘が楽しいのか笑みをもって反撃をするエンリ。なんと楽しげだと思うドラゴン・キン達。コキュートスが手加減しているとはいえ実に見ごたえが有る。
そして、次の作業の準備の為に第六階層にいたアウラとマーレはソレを目撃していた。さり気無く入場口近くで、壁に背中を預けるアウラと傍に立つマーレ。
アウラは、エンリがアインズのお気に入りであると認識しており、ソレがちょっと面白く無い。お父さんが拾ってきた猫ばかりに構って、自分を構ってくれないと拗ねている子供かのようだ。そんな姉の気持ちも理解しているが結果を出している事が、マーレにエンリが仲間であると認識し始めさせている。
「評価しているだけだし。それよりも・・・」
「うん・・・」
アウラもつまらない嫉妬だと理解している。そして、ソレよりも気にかける事が有った。2人とも、敢えて目を逸らしていただけなのだ。
2人の視線の先では、漆黒の全身鎧を纏い、2振りの大剣を木の棒の様に軽々と振り回すアインズと、ソレを的確に避け、弾き、軽く攻撃を加える半魔形態のジュンの姿が有った為だ。
鍛錬だと理解していても、至高の御方が攻撃される姿を見るのが気に食わないのだろう。ヘルムを脇に抱え、鎧を身に纏うアルベドのいつもの微笑みが崩れかけている。薄らとだが、首筋に血管が浮き上がっており、アウラとマーレにはアルベドがイラついているのが丸分かりだ。
アインズの力任せで、直線的な横薙ぎの一振りを、刀身の腹に一度手を着きそのままアインズの頭に踵落としを振り下ろし、その反動を利用し。即座に四肢で着地すると、そのまま右手を軸に体を回転させ、アインズの両足を払う蹴りを繰り出すジュン。
蹴りの運動エネルギーを対象へ無駄なく伝える事で、空中で強制的に回転させ、人間が相手だろうが骨を折らずに転倒させる。そして、後頭部を地面へ衝突させる魔技だ。
アインズが倒れ砂が巻き上がるが、空中で強制的に回転させられ瞬時に変化した視界に混乱していた彼が見たのは、ジュンの足裏が眼前に振り下ろされる瞬間だ。
「力任せになりすぎ。円の動きを意識してコンパクトにね」
「あ、あぁ」
寸止めをしてそう指摘しながら手を差し出すジュンに、少し困惑しながらも、アインズはその手を取り立ち上がった。
アインズは、あの一瞬で自分が何故地面に倒れていたのか理解しきれなかったのだ。決して、チラリと見えた白い布地に目を奪われたからではない。
「よし。もう一本頼む」
「分かったよ」
「・・・では、始めて下さい」
アインズはジュンやアルベドから何をされたのか聞き、熟考の後にそう述べ、ジュンは微笑ましくも少し嬉しそうに承諾。十分に距離をとったのを確認したアルベドの一言で段取が再び始まった。
ジュンが半魔形態なのは手加減の為だが、この形態の全力の攻撃でも、クリーンヒットすればアインズは大ダメージ必至。しかも、さり気無く全力の一撃が繰り出されるため、アインズは油断する事無く真面目に訓練している。
ジュンが半魔形態+チャイナ風胴着を着用しているのを極力無視して。
この装備はモンク等素手での攻撃を用いるクラス専用の装備であり、対象のHPが必ず1残る手加減仕様。断じて彼女の趣味ではない。
通常攻撃を、パッシブスキルや装備品の効果等で『必殺の域迄高めれば、必殺技なんて要らない』というのがジュンの持論だ。
攻撃系・補助系のアクションスキルが、合計で50以下しか使えない様に、ベルセルクの仕様ギリギリ迄調整した戦闘形態はその極致。本来の習得数は、アクションスキルが200以上、パッシブスキルが300以上というビルドであり、習得しているスキルを制限し、装備をも制限する事で能力を上げるベルセルクを取得している事から、狂気的だ。
だがスキルの制限をした事で、一度に大ダメージを負わせる手段が少ないジュンは、『とりあえず殴る。攻撃は避けるか逸らせ』という超脳筋プレイだ。そんなプレイスタイルでPKKしまくっており、勝率は7割を超えるのは異常の一言。
ジュンの負けるパターンは、行動阻害・追加状態異常効果付きの連続絨毯爆撃がメインである。
「・・・フム。姿勢を崩す一撃に、バランスよく攻撃する事か。悪くないな」
「でしょ?で、肩とかの関節って結構動きを阻害するダメージに繋がるから効果的なんだよ」
再びジュンの寸止めで段取を終えたアインズは何度か剣を振りながら、先ほど貫手を受けた肩や、蹴られた膝の動きを確認し、半身になりその切先をジュンへ向ける。
構えのつもりらしい。
ジュンは剣の角度を、アインズの腕を少し持ち上げたり、手首を動かして修正し、さり気なく股の開き具合が大きすぎ、姿勢が低くなり過ぎていると、アインズの踵を土踏まずで軽く押したりして、色々と監修する。
結果、半身になり左手の剣は垂直に、右手の剣は腹を上に見せた状態で前方を捉える。各部関節は余裕を持たせる為に少し曲がっているが、鎧の厚さで分からない様な状態であり、一見、唯半身になり、切先を相手に向けているだけにも見えなくは無い。
顎が少し上を向いている事から、完全に相手をナメている様に見えなくもないが、重厚な全身鎧を身に纏い、大剣二本を普通の剣であると扱っている時点で、相手は威圧感を覚えそうだ。
まるで、ボクの考えたカッコイイポーズにも見える。ジュンはソレも意識して、敢えてこのポージングにした。
「アルベド。どうだ?」
「はい。実に雄々しく、逞しいお姿でございます。ですが、個人的には、もう少し威風堂々と攻撃する為の格好が良ろしいかと」
アインズには、この格好がどれ程の意味があるのか不明である。内心、カッコイイかも等と考えていたりする程度だ。
だが、この格好。実は反撃重視だったりする。
大剣2本も持っている事から攻撃特化に見えるが、通常の剣の如く扱えれば攻撃範囲は防御範囲にもなる。また、間接の余裕を鎧の厚さで隠す事で、直ぐ動ける状態で待ち構えるカウンターの姿勢だ。また、敢えて腰を落としていない状態であり、アインズ自身の背格好から下からの攻撃を誘っている。手前に来ている右手に持つ剣の腹が天に向かっている事から、その姿勢のままで、直ぐに振り下ろせない状態であると認識させる。
右手は右側の攻撃(背後も該当する)に対応する為の剣であり、下から来れば蹴りや肘打ちを繰り出し、左手の剣はバランサーであり、その他(上空も含む)への対応用や追撃、防御に残している状態。
円を描きながらの連続反撃を可能とさせる姿勢なのだ。
アルベド自身警戒はするが、これ程挑発的に見える構え方。剣の構え方も知らないと思われる構え方に罠が仕掛けられているなど、目の前で監修されていなければ気付けなかった程。
支配者たる者。目上に立ち、死ねない立場にあるならば、護りの剣を学ぶのが当たり前だ。だが、アルベドにとって人間は雑魚を通り越して虫である。虫ならば、踏みつぶしてしまえと考えている。
故に、この警戒している待ちの構えではなく、攻撃に転じやすい姿勢を取るのが良い。そう考察した結果だ。
だがアルベドの一言はジュンを刺激する結果になる。態々アルベドも参加させた意図を、彼女が汲み取っていないのか。アインズの身を案じていないのかと。
「今のアインズさんが堂々と攻撃しちゃ、力任せになりやすし、避けられやすいんだよ?」
「ジュン様。お言葉でございますが、下等生物相手では全て吹き飛ばすのが良いのでは?」
「ぇっ?おい・・・?」
双方ともに笑顔で見つめ合うアルベドとジュン。何故か寒気を覚えたアインズは小さく疑問の声を漏らすが、2人は気づいていない。
アルベドも理解している。今のアインズは近接戦闘初心者である。ジュンが万が一が起きないように、軽戦士を代表とするインファイターを警戒しての行動だとも。敢えて肉が有る相手が受ければ面倒になる攻撃をアインズへ行い、ソコを狙うようにし、リスク軽減の為軽い攻撃を推奨し、大振りな一撃を振るえない状態にしている事も。そして、その一方で後々の為か攻め手を強化する下地を意識している事も。
アインズの身の安全を第一とした姿勢は共感出来る上に、防御特化である己の目の前で鍛錬する事で粗探しを行っており、つい反応した点を把握し、ソコを重点的に修正を加えている。
だが、アルベドは共感を覚えると同時に怒りを抱いていたのだ。
これではナザリックの者が、アインズの盾となって死ぬばかりか、偉大な支配者に守られる愚物に成り下がってしまうと。
中途半端な力は男の過信を増長させる。冷静沈着であり慎重であるため、ありえないだろうが万が一アインズが己の力を過信し、最悪な結果に至る事は許されないのだ。
王は王座に座り、指示を出していれば良い。前線に立つのは王の目であり、耳であり、肉体である我々が行えばよい。アインズがモモンガに戻り、そんな柵を断ち切る選択をすればアルベドは喜んでジュンの考えを支持するだろう。だが、それは出来ない。アインズと名乗った以上、その双肩にはナザリックが乗っている。慈悲深き愛しきヒトが支配者であり、ソレを護るとした決意。
ナザリック地下大墳墓を守るという意思は慈悲深い。だが、その根底にあるのが、去っていった他の至高の御方への思いが根底にあるとアルベドは考えている。
故にアルベドは忌々しく、憎々しく思いながらも、アインズの幸せを願い、隙有らばその心を得たいと想うのだ。愛は祝福であり呪いであるのか。其れを知った時、彼女は許せるのだろう。
「アインズさんが近接の立ち回りを覚えて、自衛力を増すのが気に食わないの?盾になる事が減るから?」
「何を仰っているか理解できません。虫相手に防御は不要と思うだけです」
だが、其れはまだ来ぬ事だ。
アルベドの私欲も含まれてると感じたジュンに、図星を突かれた事を隠し、言外にジュンを臆病者と言うアルベド。
本来であれば、安い挑発であり、ジュンは買わないだろう。だが、苛ついていた事もあり、アルベドへ笑みを浮かべる。一見穏やかそうだが、威圧感を伴うものを。
双方共に華麗な美人であり、浮かべている笑顔は優しげなものであるが、その双眸は怪しげに光を持ち始める。まるで鏡合わせの存在かのようであるが故に、威圧感が相乗効果で高まってるようにアインズには感じた。
万が一が起きぬように、時間稼ぎや、致命傷を避けようとアインズに防御法の習得を勧めるジュン。己の身を盾として護ると決意しているアルベド。まるで同じ物質だというのに、正反対の性質を持っているとも見えなくもない。
(クソっ・・・如何するべきなんだっ!)
だが、現状は非常にマズイ。
ジュンとアルベドが仲違いをする事は、今後を左右する悪手。だが、アインズには、この仲違いの原因が己の設定改変にあるのか、純粋に相性の問題なのか判別できない為、行動に移るのは躊躇われる。心の中で悪態を付く位しか出来ない。
そして、2人が謀反や己へ不利益を齎す事は無いという信頼感があるのが、この場を諫めない要因なのだから動けないのだ。
下手にアルベドの肩を持てばジュンが去る可能性が高まる。
下手にジュンの肩を持てばアルベドが己に分からぬ範囲で行動し、ジュンを追い出そうとする可能が有る。
美女達の放つ威圧感に、ビビッているだけかもしれないが、決めかねているのは事実だ。
「おや?賞味期限切れが何か粗相を起こしたのでありんすか?」
「誰が賞味期限切れだゴラ!このポイズンクッキング!」
「ああ゛っ!?」
そんな絶望的な岐路を救ったのは離れて様子を見ていたシャルティアだった。シャルティアは、周囲の防衛についてアウラとマーレに相談する為に来たのだが、現状が非情にマズイと直感的に行動した。
シャルティアは己の介入でこの揉め事を、『ナザリック内の問題』へとする為に、あえてからかい半分でアルベドへ話しかけ、着地点や冷静さを見失っていたアルベドは乗った。
乗ったが、双方共にチョイスした単語が問題だった為、同じナザリック生れであるからか、ヒートアップし、深紅と紫紺のオーラを纏い言い争いを始める。
そんな2人の行動に、ジュンも気が削がれたのか、不機嫌そうにアインズの傍へ戻った。
「まったく、カオスだよねー」
「その通りです。実に嘆かわしい」
問題が大きいモノだと捉えていないアウラは溜息混じりにそう言うしか無かった。それに反して、重大な問題だと捉え、どのタイミングで介入するか機を見計らっていたデミウルゴスは眼鏡を位置を修正しながらも、頭痛が酷いのか、眉間を軽く揉む程だ。
デミウルゴス的にはシャルティアの介入は意外であった。あったが、女性の揉め事へ問題を遷移できれば、これ以上の結果はない。不機嫌そうなジュンへアインズが話しかける姿は、どこか日常的でも有る。
「デミウルゴスさん。どうでした?」
「アレに関してはもう少し情報を集めてからだね。然るべき時にアインズ様へ報告すべき案件だよ」
何処か苦労人に見えなくもないデミウルゴスの様子に空気をかえるべく、マーレは捜索で知った事の確認を行ったデミウルゴスへ問いかける。
デミウルゴスの答えは簡潔なモノだった。対策の為にもと、色々調べているのだが、相手のレベルなどがハッキリしない事や、周囲の者たちが弱すぎる為、伝承が有ったとしてもハッキリしないとも思う。一番手っ取り早いのは全守護者で破壊する事だが、この選択は彼には選べない。
不思議そうなアウラとマーレを他所に、デミウルゴスはコキュートスとエンリの鍛錬している姿へ視線を移した。
深紅の髪を触手の如く変幻自在に動かし、関節部や、武器を握っている指を狙ったり。地面を蹴るのを、敢えて無駄に力を入れる事で砂塵を巻上げたり。等々レベル差が2倍近く有るのを気にせず。果敢に攻めるエンリの姿はデミウルゴスの目でも意外と楽しめるモノだ。
その四肢に傷を受けようとも、唯コキュートスを見、戦闘を楽しんでいる姿は実に面白い。コキュートスも楽しんでいる雰囲気なので尚良しとも思う。
「それにしても、彼女はよくやるモノだね」
「デミウルゴスの言う通り、実に有用だ」
デミウルゴスは理解していた。今、結果的にアインズを一番満足させているのはエンリである。その行動原理は悪魔らしからぬモノだが、ジュンやアインズも可愛がっている様子である以上、彼には文句も何も無く、その向上心に感心するだけだ。
デミウルゴスの呟きに、いつの間にか彼らの背後へ移動したアインズも同意した。
デミウルゴス達は跪こうとするが、アインズは軽く手を上げる事で制止した。その傍には相変らず不機嫌そうなジュンの姿が有る。どうやらご機嫌取りは中途半端になっている様子であり、ヒートアップしているシャルティアとアルベドは、相変わらず言い争っていた。その姿がブラフであるとデミウルゴスは気づいており、更に頭痛を覚えなくもないが、鋼の忠誠心で抑え付ける。
「これはアインズ様。ジュン様。もうよろしいので?」
「私達の会話を聞いていたのか、コキュートスもエンリもよくやってくれるからな。実に分かりやすい」
「2人が聞いたら喜ぶで事しょう」
胸に手を当てながら、紳士的な一礼を見せるデミウルゴス。アインズもコキュートスとエンリの立ち合いを鑑賞しながら、実に満足げに頷く。
デミウルゴスはジュンの指導がどのようなモノかは知らない。だが、コキュートスの攻撃がコンパクトであり、エンリの攻撃が甲殻ではなく、防御の薄い関節部や指への狙いが多く、無茶な攻撃はしない。時にコキュートスのバランスを崩そうとしたり、フェイント代わりに目を狙ったりした攻撃が多い事に気付いていた。
思う事が無い訳ではないが、アインズの満足している様子に、そう返すしかない。
デミウルゴス的にも、アインズがそんな小手先の技を学ばなくとも良いとも思えるが、対処できるように。という意味では、知っているのと知らないのでは違うのは理解していた。
「・・・エンリが特殊な事例だと理解しているが、検証が出来ないものか」
「シモベ・・・可能なら守護者が現地人を孕ませれば良いって、変な事考えてません?」
アインズの呟きは流石にジュンも看過出来なかった。そして、ソレはたっち・みーもだ。ソレを止めるべく、ウルベルトの幻影も現れジュンとアインズを見つめる。
デミウルゴスは、己が計画していた『新たな種族を生み出す神聖な神事』をアインズも考慮している可能性を感じ、少し楽しみに思う。
ジュンの脳裏に、同人誌みたいな行動をするデミウルゴスとコキュートスの姿が浮かぶが・・・合わないと考え直し、脳裏から消えている事は知らない。また、言ったけど有り得ないとも思っている。
「セバスを心配している。たっちさんソックリだからな。アレはモテるだろう」
「あー・・・確かにそうかも。将来的には戦力増強になるかもね」
アインズはジュンの言った事が結果的に、己が求めている検証を行う方法だと知る。
そしてアインズの脳裏に、咄嗟に浮かんだのがセバスだっただけだ。内心、可能性でしかないと思いながら話すが、ジュンはアインズの言葉に、結果的にそうなる可能性が有るのを思い至る。
たっち・みーの光は実に苛烈すぎた。
2人の知るたっち・みーは清廉潔白・八方美人なナイスガイ。妻子のいないセバスならば、可能性が無きにしも非ず。異種婚して子を成せば、新たな種族が生まれるだろう。
愛が有れば有り得る内容に、ジュンもアインズの言った事に納得してしまい、アインズも求める検討が意外と早くできそうな気がしてきた。
たっちは、アインズにとってヒーローであり、今でも尊敬している人なのだ。そんなたっちとソックリなセバス。一か月もしない内に、女の1人や2人、無自覚に落としていてもおかしくはない。そう考えてしまった。
尊敬や善意は時に、悪意無き刃となるのだ。
『冤罪だ!?モモンガさん!ジュンちゃん!』
『フン。無自覚に落として、社長秘書から情報を引き出したのは誰だったか』
2人の言葉に慌てたのはたっちである。思わず触れないのも忘れてジュンの肩を掴もうとするが、ウルベルトがその手を掴み、止めた。慌てている相棒の様子が面白いのか、喉をクツクツと小さく震わせて笑う。
そんなウルベルトの様子に苛立ったのか、たっちはその手を払い、そのままウルベルトを指さした。まるで意義あり!と言っている弁護士っぽいポーズである。
『そういう君は、普通に口説いて操り人形みたいにしていただろう!』
『知らんな』
反論の論点がズレている気がしないでもないが、ウルベルトは気にせず、マントの裏から葉巻を取り出して咥え、葉巻の先端を人差し指を近づけると魔法で火を着け、大きく息を吸い込んで紫煙を吐き出して笑う。何がそれ程面白いのか謎だ。そして、その動作が自然すぎる。地味に幻影でも魔法の練習・把握に勤しんだのだろうか。
「・・・ウルベルトさんは、普通に女性を口説いていたのか?」
「ルックスと経済力、権力にしか興味がない女は良い駒だって、ワイン片手に高笑いしてたのは覚えてる」
唯一幻影会話を聞こえる。見えるアインズは仲間たちの知らない一面が気になったのかジュンに問えば、帰ってきた答えは、ハッキリ言っていい大人がして良いのかと言いたくなるモノだった。どんな小芝居だ。
ジュンも当時、何故兄がそんな行動を取ったのか分からなかったが、取り敢えず空のワイングラスに注ぎ足した。ウルベルトは一瞬見られた事に硬直したが、何事もなかったかのように振る舞うジュンに流されていたりする。
結構面倒な仕事が片付き、見た目だけの地雷女を良い感じにフれた結果に、ストレスフリー状態でついハメを外して喜んでいただけだ。決して彼がいつもこんな行動を取っている訳ではない。現実ではと前に付くが。
「なるほどな・・・」
「アインズ様がご所望なら、誠心誠意頑張らせて頂きます」
アインズの視線が呟きと共にデミウルゴスへ向けられる。デミウルゴスが口説けば、スキルの関係上、この世界で抗える女は少ない可能性が高い。
だが、ジュンの視線に冷たいモノが混じっているのに気付いたアインズは、此処では諫める事にした。
決して、デミウルゴスの楽しみだと考えていそうな良い笑顔を止めさせる訳では無い。
「デミウルゴス。女が踊る姿は美しいが怒らせれば面倒だ。事に当たるならば侮るべきではない。女の勘は予知能力に匹敵するやもしれんのだ」
(このエロ骸骨・・・)
アインズの一言は、まるで百戦錬磨では無いか。
アインズ自身はチェリーだが、営業先で女性が相手だと非常に面倒であり、小賢しく狙いを気付かれ苦い思いをしただけなのだが、ジュンはリアルでの兄の行動を、兄がたっちと共に飲んで騒いでいた為良く知っていた。
価値観も女へシフトした関係か、アインズを見る目が冷たくなるのは当然かもしれない。
少なからず知っている相手の裏の顔を想像したのが気に食わないのか、それとも別に原因が有るのか。内心悪態をつくジュンは、何故か不機嫌になる己の心に、完全に振り回されていた。
「これは大変失礼いたしました」
ジュンの冷たい視線と、苦々しい声音のアインズ。
デミウルゴスはジュンの不評を買えば、矛先がアインズに向きそうだと考え直し、計画の修正や隠蔽を更に深めるべきだと判断した。
先の会話から、善性のセバスが結果的に、人間的な『愛のある結果』であれば問題無さそうな様子。デミウルゴスはセバスが忠誠心に反する行動をするとは思えないが、情に絆され、疑われる行動をする可能性を支配者2人が考えている事に優悦を感じなくもない。
故にこの場はしっかりと一礼し、流すことを選んだ。
「だいたい。兄さんは理想が高いんだよ。最低でも甘えてくる、甘えさせてくれて、支えてくれる女性っていないよ」
苛立っているジュンは兄との会話で思い出したのか、そんなイキモノいないわと言わんばかりに酷評した。相反する属性持ちでギャップ萌えなのかと、当時ぶくぶく茶釜に相談し、茶釜はある意味己の罪を突き付けられた気がした。まぁ、面白そうだと考え直し、ウルベルトに暫く優しくするように、と逆に悪化しそうなアドバイスもした。実に嫌がらせである。
(いや。ジュンさんみたいな女性じゃないかソレ?)
(ウルベルト様の好みを、このような形で知ることになるとは・・・実に魅力的な女性像ですね)
ジュンの一言に、アインズが真っ先に浮かんだのがジュン本人である。
デミウルゴスも自身の造物主の意外な女性の好みに、共感を覚える。子は親に似るというが、デミウルゴス的には愛を授ける事は有っても、献身的な愛を受け取った事が無いので素晴らしいとも思える。なお、悪魔的で献身的な愛はデミウルゴスも不要に感じる。
悪魔は恐怖や不安を与えられる事は有っても、与えられる事を好まない事が多い。特に上位になればその傾向が強い。基本、S属性が多いのだ。
『相棒・・・』
『見るな。そんな目で俺を見ないでくれ』
一方。まるでエロ本を発見され、晒された気分を味わっているウルベルトは葉巻を取りこぼし、三角座りで落ち込んでいた。たっちの何処か優しげだが、同情を感じさせる目が、ウルベルトの心を突き刺すナイフになっているとは気付かないだろう。
幻影の会話や様子に、気の毒に思ったアインズはNPCもいる手前。少しはフォローしようと考えた。
「好みは色々だが、何らかの形で支えてくれると男は滾るモノだ」
「理解できるけどしたくないよ。ペロロンチーノさんはちっちゃいのが好き。兄さんと、たっちさんはお尻や足。タブラさんは着痩せする事。建御雷さんはヘソとか、くびれ好きだし・・・」
なお、全てジュンの記憶からである。
悲しいかな。ユグドラシル時代。野郎同士が故にフェチ等を語り合った紳士的な談話がこの場で日の目を見てしまった。
猥談に参加しない面々も、ペロロンチーノ主催、協力るし☆ふぁーの大暴露大会で、女子3人がいない内に暴露してしまっていたのだ。なお、当時の価値観でジュンの好みは一般的な胸であり、モモンガは尻も含めたハイブリットだったりする。ある意味忌々しき遺産だ。
ジュンの視線がアインズを捉えた瞬間、彼の中で警笛が鳴り響く。苛立ちが収まっていないと言わんばかりの視線の冷たさに、アインズはその背後にいる守護者達の異変に気付き、好機を手にした。
「ジュン。それ以上は良くない」
「え?あ・・・」
アインズは、半ば無理やりジュンの肩を掴み、アウラ達の様子を見せた。
幼い容姿であるアウラやマーレの前で話す内容ではないと、ジュンは冷静になり、思わず口を噤む。
「なんだか、ドキドキした」
「大人な会話だよね。僕はどうなるんだろう・・・」
「少し早い話だったかもしれないが、参考にはなっただろう?」
だが遅かった。
2人の目の前では、顔を赤くしたアウラが、思わず自分の胸や腹部、尻や大腿部を擦りながら体型を気にし、マーレはそんな姉の様子にアウラの手の動きを目で追っている。外見年齢が10歳前後であり、性への軽い目覚めを覚える年頃なのだろうか。双子の姉弟だが、女性的なパーツを気にするのに、姉の体を見る。女装男だが彼も男だ。華奢で女の子らしい彼だが、己が男だと確りと理解している証拠かもしれない。
そんな2人を微笑ましく眺めるデミウルゴスが嫌に味を出している。悪魔は純粋な者が汚れていく姿を見るのも、楽しみの一つだ。また、アインズが言った内容を考慮するならば、性教育を行うべきかと思案しているのが実に悪魔らしい。実演を何らかの形で見るのも手だと考え、仲間であるアウラがオーバーヒートを起こすのまで幻視し、ナザリックの者を己の愉悦の対象にしてはいけないと考え、自制する辺り仲間思いなのだろう。悪魔だが。
ぶくぶく茶釜の幻影が何かショックを受けた様子で、ピンクのグミみたいになり、痙攣しているのはアインズの秘密だ。
(肝心のモモンガ様の好みは何なのよ!?アイツ等の趣味はどうでもいいから、ソコを言いなさいよこの●●●●!)
(この姿はペロロンチーノ様の好みでありんすか!あぁ、幸せでありんす。この姿でアインズ様を射止めて見せますえ!)
ポーズの口喧嘩を止めて清聴していた2人は、実に正反対だ。
アルベドは内心ディスっており、シャルティアは、ペロロンチーノが聞けば卒倒するような事を考えていた。無意識にタブラの趣向が反映され、脱がなくてもナイスバディだが脱いだら更に凄いアルベド。意識的に反映され、無いっすバディなシャルティア。
これも、親の心子知らずの一例だろうか。知らないほうが良いのかもしれない。
自身の趣向を晒された野郎5人は、思わず両膝を着き、地面を転がる者。叩く者。項垂れる者と結構バリエーションに富んでいた。
『『『『『モモンガさん。止めるならもっと早く!』』』』』
『『『サイッ・テー』』』
(すいません。我が身がかわいいんです)
そして、暴露されなかったアインズを思ってか血涙を流しているのが印象的である。そんな5人とアインズを、復活したぶくぶく茶釜を代表に女性陣全員でトドメを刺すべく絶対零度のを視線を向けている。実に手厳しい。
女性的な観点から、己から誘惑する時以外だと、性的な視線を向けられるのを酷く嫌う傾向がある。男の注目や、可愛さ等で選んだ服装だとしてもだ。
リアルで打ち上げをした際、会ったことがあるが故に余計に気になるのだろう。男的には自意識過剰と言いたくなり、冤罪だと叫びたくなる。
ジュンに恨み言を言わないのは、男性陣は元々女性的だったがゆえに思いつかないのだろうか。女性陣的には、アインズが同人誌的展開を望んだ様に考えているとジュンが推察した。推察するような事を言ったのが原因と捉えており、ジュンを男性陣同様、無意識に女性と見ていた為だろう。
アインズの心の中で呟かれた謝罪は、同志を憐れんでいる気がしないでもないし、デコイにした可能性も否めなかった。
「守護者達よ。後程会議を行う。情報の精査や資料の用意を頼む」
ともかく、コキュートスとエンリ以外はかなりハチャメチャである現状。一度色々とリセットする事が好ましいと判断したアインズの一言は正に鶴の一声。皆が皆思考を再開し、コキュートスを除く守護者一同が一斉に返事をして、行動を再開した。
一方のコキュートスは息を切らしたエンリを前にしており、他の皆の様子から此処までだと判断した。エンリも呼吸を整えながら、アインズが元の魔法使いの姿に戻り、アンデッドを召喚している事から次の鍛錬が始まるのを理解したのだ。
「コキュートス様。またお時間が御座いましたらお願いします」
「ウム。新シキ仲間ヨ。アインズ様、ジュン様ノ為ダ。私ニ出来ルコトナラ任ヨ」
息を整えたエンリは一礼し、色々と昂ぶっている為か好戦的な笑みを浮かべた。コキュートスとしてはその向上心が実に良いと判断しており、何処か聞こえずらい声音だが、明らかに楽しみにしていそうである。
「そうだね。今日は私も協力しようか」
「あ、ありがとうございます。デミウルゴス様」
そんな中、デミウルゴスも悪魔召喚をしながらニコヤカに笑う姿に、今日は帰りが遅くなりそうだとエンリは思う。
闘技場は気づけば悪魔とアンデッドの群が形成され合計で300体以上はいる。この世界の者達で、彼らの脅威を理解する者が見たら卒倒するのは間違いない。
能力的にはレベル40以上が30体。一度に10体以上の部隊と戦う事になるだろう。息が整ったエンリは、コキュートスとデミウルゴスに一礼して、群へ切り込んでいった。
「アインズ様ト、ジュン様ハ実ニ良イ拾イ物ヲシタ。彼女デアレバ任セテモ良イ」
「不安はあるが、君がそう言うなら良いかな」
勇猛果敢、孤軍奮闘。
エンリの傷を負いながらも、刃を、足を、髪を振るう姿にコキュートスは認めていた。何度か満足気に頷く同僚の姿に、2人の道楽の付き人の一人がエンリになるのをデミウルゴスも認めたのだった。
エンリがカルネ村へ帰って来たのは日が完全に沈み、家々では食事を始めている時間だった。
鍛錬の一部としてナザリックから帰るのは転移門を使わない事を決めているのは、足場の関係等でバランス感覚を養うのと、身体能力に慣れる為だが、この時ばかりはお願いすべきだったと悔やんでいる。また、悪魔と死者の連合軍を確りと全滅させるのに時間がかかってしまったのが最大の要因だ。
闘技場ではドラゴン・キン達がせっせとその死骸等を掃除している。かなり派手な様子であるが、アウラが仕方無さそうに首を横に振っているのが、その光景を見るマーレには印象的だった。血と肉片が散乱し、アンデッドすら動けない程に破壊され、痙攣する肉塊が実に美意識に欠ける。だがエンリが鍛錬を頑張った証だ。
「遅れてゴメンね、ネム!今用意・・・あれ?」
「お帰り。今日は私が作ってみたからねー」
「ジュ、ジュン様が御作りになられたんですか!?」
「うん。手を洗っておいで」
門を慌てて開け、息を切らしたエンリが見たのは料理が並べられて、席に座りエンリを待っていたアインズ達の姿が有った。ジュンが朝のワンピースにエプロンを纏い、更に鍋を手にして笑顔で言う姿にエンリは驚愕を通り過ぎ、唖然としてしまった。偉い人は自分で料理等は作らない。作っても趣味のお茶程度であると認識していた為だ。咄嗟に配膳を手伝うべきと考えるも、ジュンの一言と共に放たれた洗浄の魔法で、服や体に付いた汚れが一掃される。だが気分的な問題なんだろうか。ジュンの一言に、エンリは後ろ髪を引かれる思いもある中、手を洗いに行くしか無い。
「どうして?なんで?ジュンには料理人のクラスは無いのに、何で作れるの?この世界の法則は・・・」
並べられた料理の数々に、アンジェは頭を抱えて小さく呟くしか無い。色々と精神的にダメージを受けた為だ。手を組み、ソレを支えにするように額を当て、項垂れていた。
ナンのようなパンが並び、中央に置かれた鍋にはコーンスープが入っており、各自の前にも色々と並んでいる。メインなのかウサギのグリルがあり、肉の上にハーブが添えられている。切れ込みを入れ、蒸かしたジャガイモにはさり気無くベーコンが覘かせており、オリーブオイルが少量かけられたモノと、バターを乗せられたモノが2種類用意され、少しアッサリしたモノが要るだろうと、数種類の野菜にバルサミコ酢を混ぜたサラダが有った。デザートは少し焼かれ、八等分にカットされたリンゴらしき果実にハチミツを垂らしたモノだ。
この世界に合わせたのか、塩とコショウ等基本的な調味料の使用は控えめだが、トブの森で採れるハーブは多く使い、ナザリックより持ち出したのは牛乳、大豆、白ワイン、ベーコン、バターと3種類の野菜にバルサミコ酢とオリーブオイル、ハチミツである。
レア度は下位であり、スカイ・スカルよりナザリックへアイテムを運ぶ際に見つかったアイテムで、ジュンとしては処分ついでに使ったのだ。まだ色々と食材系は有るが、保管系アイテムに入れておけば品質は劣化しない為、使い道に迷ってしまう。
ともかく、少量しか使われていないが炙った黒コショウの香りが豊かであり、食欲を誘う食卓だ。
エンリは、見慣れない食材の有る無しもあるが、夕飯で6種類の料理が並んでいるのは豪華に思ってしまう。一般的な農民は、1か2品目で食べるのが普通だったりする。朝、エンリは結構頑張ったのだが、ソレを知らなかったジュンは作っている内に楽しくなったのか、作りすぎてしまった。
料理が出来ずに落ち込んでいるアンジェと、朝の献立が非常に不満だったのかと内心焦っているエンリ。
エンリの笑顔も元気がないのモノへ変わる。
「アンジェ様とお姉ちゃん。疲れてるねー」
「ハハハ。気にしてはダメだぞネム。さて、冷える前に食べるとしよう」
「はーい!」
二人が落ち込んでいる様子に、ネムは心配そうに見るが、アインズの一言で意識を変える。
ネム的にも美味しそうに思えた為だろうか。元気よくそう言って、パンに手を付け、ソレが合図になったのか、皆食べ始めた。
(こ、コレはリアルで貰ったモノより美味いじゃないか!これが、本当のジュンさんの手料理・・・何故作れるか、バフ効果が無い何て関係ない。食べれて良かった)
(うーん。塩やコショウの制限がなぁ・・・)
(ジュン様。苦手な事って有るのかな?お役に立てる事は有るのかな?)
アインズは実に満足気だが、ジュンは調味料の制限が思ったよりキツイ事だと思い知る。だがエンリは、自身が仕える相手のスッペクがとんでもない事だと思い知った。
パン一つにしろ、生地には灰汁を抜いた木の実を砕いたモノとオリーブオイル、各種香草が練りこまれており、塩の主張がさり気無いモノだが、それ故に小麦や木の実の甘さが強調され、香草の爽やかな風味が鼻腔を吹き抜け、味覚と嗅覚のバランスを整えている。何より、黒パンと違い噛み千切りやすく、顎が疲れにくいのが魅力的だ。
手間暇がかかっているのは間違いない。そして、少しでも食べやすく、美味しくなるように工夫されている。ジュンの作った料理はそう自己主張していた。
「美味いぞジュン。やはり、君の料理は最高だ」
「お世辞を言っても、毎日は作れませんよ」
アインズが目尻を緩ませて言った一言に、ジュンは少し照れているのか頬を淡く、赤く染める。
エンリとアンジェは、敢えて何も言わないのだが、ネムは2人のそんな様子から、興味深そうにアインズとジュンを、小さく交互に見ていた。何か期待ているような、何かを知りたそうな目は実に好奇心に満ちている。
「君の作った味噌汁を飲みたいのだが、実に残念だな」
「もう。けど、味噌汁かぁ・・・お米、何とかしたいなぁ」
ネムの視線は気づいているが、何でも無い様子だ。アインズの残念そうな声音に、ジュンはどうしたモノかと思案してしまう。アインズの希望から、味噌汁に合うモノと連想した結果、米が出てきたのだ。
培養系食材だが、何とか天然物に近い味を保っていたのが米であり、それは貧困層も食べなれた味なのだ。言うなれば故郷の味だろうか。
「無かったか?」
「栽培。ナザリック内部には適した土地は無いし・・・しばらく我慢だね」
空振りだと判断したアインズだが米は彼的にも食べたくなる物。
ジュンは天然物の栽培をどうするか悩んでしまう。彼女の知識では、精米後の米では発芽しない事くらいしか知らないのだ。また、屋内栽培だろうが天然物の栽培方法は秘中の秘。おそらく、企業上層部が賄賂にでも使っているのだろう。ネット上に栽培方法の情報は存在はせず、植物学者辺りなら、まだ知っている可能性が高いくらいしか分からないのだ。
またジュンは、今はまだ在庫が有るが、鰹節や昆布系の食材を何とかしたいと考えている。だが、醤油や味噌の制作方法の情報不足等、難点が多い。植物であれば、種として利用が可能かは『真実の目』を使えば一目瞭然だろうが、栽培方法や作成方法が全然分からないのが大きな課題だ。
食品関係である事から、ダグザの大釜でユグドラシル金貨を消費すれば品質度外視であれば補給は容易だろう。
ジュンとしては、エクスチェンジ・ボックス(通称:シュレッダー)を使えば手に入るが、ユグドラシル金貨を趣味趣向で消費するのは許されるべきではない。ナザリックのトラップ再使用等も含め使用しなければならい上に、万が一、守護者が死亡すれば復活の為に、大量消費しなければならないのだから。現段階での浪費は好ましくないのだ。
幸いと言うべきか、人手が出来た。旧陽光聖典はジュン直属である。彼等を使えば類似した植物の栽培方法を手に入れる事は容易である事だと判断した彼女は、会話を打ち切ろうとしたのだが少し気になった事がある。
「アインズさん。スープが」
「ん?すまんな」
コーンスープには豆乳を入れており、火の調整を少々ミスしていた為、湯葉が出来てしまっていた。
アインズは気づいて無いが、丁度口端に付いている状態であり、席も隣だった為に、ジュンはソレを人差し指で拭いそのまま口にしたのだが、その取り方に問題が有る。
双方共に、笑顔で穏やかな雰囲気だが、実際は異なっていた。
(ちょっ!?ダ、ダメだ。落ち着け俺!)
(あれ?どうしたんだろう?)
(気づきなさい。気付きなさいよ。胃と胸が痛いわ)
ジュンは、アインズの口端からゆっくりと人差し指で上唇をなぞり、次は中指で同じ口端から下唇をなぞる。アインズが美味しそうに己が用意した夕食を食していたのが嬉しいのか、はたまた、食べている雰囲気が子供ぽかったのがおかしかったのか、小さく笑みを浮かべ、そのまま指を己の口へ運んだ。
アインズの目がジュンの瑞々しい唇に囚われ、その白魚を思わせる指先の消えた先を捉え、耳がクチュクチュとした水音を拾う。そして、静かに抜かれた2本の指をジュンは少し目を細め、もう一度舐めた。
アインズには刹那の如く短い時間が、異様に長く感じ、その一度抜かれた際に出来た銀糸を凝視し、再び、舐め取られた際の表情とその唇の艶やかさに意識が持っていかれた。異様に蠱惑的で挑発されていると感じ、熱を下腹部に感じたのだ。
故に冷静になれた。
アンデッドになった為に感じていなかった、命の熱を帯びた感覚は、困惑と共に狂喜させるに足りるのだから。猛火の如く一気に感情のバラメータが振り切れ、精神攻撃無効化の副産物、精神安定が発動し静止した。
ジュン的には、兄との食卓で米粒を取った時と同じ感覚で拭い取っただけであり、味わって食べただけなのだ。故に、何故アインズが硬直したのか分からない。
ソレを見ていたアンジェは思わず胃の辺りを押さえ、エンリとネムは数日前に失われた筈の、家族団欒の夕食の雰囲気にアインズの変化等気づいていない。
エモット姉妹は、実父が露骨に、父からオスになった瞬間を知らないのか、男性のそういう視線に疎いのだろう。
(まだだ。悪手は避けなければっ!)
溜息をついているアンジェに、ますます困惑してしまうジュンは眉をハの字にしてしまう。まさに無知と言わんばかりの表情だ。
成熟した女性の姿で無垢な幼子の雰囲気。それがまたアインズの征服欲を刺激するが、思い留まる要因となる。己の色に染め上げたいと思うのは男の欲だ。だが、傷つき、恐れられて逃げようとするかもしれない。
そんな選択をする程アインズが愚かでなかったのはジュンにとって幸いだったのだろうか。アインズの心の声は己への宣言にも取れそうだ。
「冷えてしまっては勿体ない。早く食べるか」
アインズの口調は穏やかで、優し気な表情を浮かべているが、理性が本能を抑え込んだ瞬間でもあった。ジュンは静かに頷き、匙に手を伸ばした。
今すぐにでも己のモノにしたい。組み伏せ、屈服させたい。自分の傍から離れられないようにしたい。そんな黒々とした欲望を、欲求を抑え込んだアインズの瞳の奥に鬼火が揺らめいているのを無視して。
(?気のせい、だよね・・・?)
ジュンは一瞬アインズの人の顔の左半分が、元の骸骨のモノであると幻視し、それが恐ろしいと思うと同時に、何か期待するかのように心臓が一度大きく跳ねた。
一瞬感じたソレをジュンは勘違いとしたのは、彼女の『心』が未成熟だからなのだろうか。
ジュンは気付かない。
米粒をとる感覚で、スープを拭うにしても、もっとソフトなモノとなる筈。だというのに、態々見せつける様に口に含んだ理由を見て見ぬフリをしているのだ。
関係が崩れるのが怖い。アインズの心を『得』ようとしている女がいる。不安が募り、強い生存本能が目覚めの時を知らせている。そう、心の奥にいる『女』が叫んでいるのに気付かないフリをしている。
少し問題が有ったが、こうして一日は過ぎていった。
翌朝、エンリは初めて大物を仕留め、村に帰ろうとしている時にある音を聴いてしまった。その音は人間では聴き取れぬ低周波数の物だ。
(・・・えーっと、シチューにしようかな。それとも、アンジェ様に相談しようかな?)
ゴブリンテイマーが持つ笛の音。犬笛みたいな物の音だが、人間に聞き取れない事を良い事に合図に用いられている。弱く長い音程は、敵対性が有るがゴブリン達だけで処理が可能なサインだ。故にエンリはのんびりと獲物を担ぎ上げ、歩き出した。
ぽたぽたと、切り裂かれた頸動脈から流れ続ける血液と、担ぎ上げた故に感じる弱っていく獲物の心音と擦れた呼吸音を聞きながらのんびりと、獲物の料理法を考えながら歩くのだ。
「さて、兄さん方。念の為に武器は置いてくれますかね?俺らも、武器を下げたいんでね」
「くっ・・・」
カイジャリの降伏勧告にたいし、皆が皆苦虫を噛みしめた表情で睨む。いや、睨む事しかできなかった。
人数では5人だが護衛対象が1人いる。護衛対象を含め2人は魔法詠唱者だが、護衛対象は馬車の上であり、完全に包囲されている上に弓に狙われている状態。馬2頭で引かれていた馬車だが、2頭とも怯えており、暴れる方向ではなく硬直している。鞭を入れても直ぐには走り出せないだろう。また、夜通しの強行軍で来た為に、皆が皆疲れてしまっている。
詰みだ。
皆、悔しそうにしているが、特に護衛対象の少年は、命の危機だと現状を理解しているが、護衛の冒険者達に武器を降ろすように言えない。冒険者達も、義理を大切にする者達がゆえに、彼の指示がなければ武器を降ろせない。
漆黒の剣の面々は、道中や冒険者組合で少年の必死な願いを聴いたゆえに、降ろす気はない。万が一の際はニニャと護衛対象を逃がそうと、チャンスを伺う野伏のルクルットは普段の軽薄さは微塵も見せず、周囲を睨み付けていた。
「まったく、困ったもんだ」
「なんだよ、ありゃぁ・・・」
彼等の様子と、エンリが帰ってきたのを感じ、カイジャリは実に面倒そうに後頭部を掻いた。
それに先ず気づいたのはルクルットだ。微かに匂う血の匂いに、思わずその方向を見れば、3メートル近くありそうな熊が森からゆっくりと此方へ動いて来ている。
10以上の統率されたゴブリンに加え大型の獣の出現。驚愕と共に強行突破を思案するが、ゴブリン達の警戒は解かれていない。無理だろう。
「え?」
先に気付いたのは、視点が高かった少年。ンフィーレアだった。よく見れば熊の首は力なく垂れさがっており、四肢は動いていない。熊は歩いていない。何かに担がれていたのだ。彼の困惑した雰囲気に、冒険者達は思わず彼に目を向けるも、熊が既に死んでいる事に気付いた。
故に警戒する。熊を仕留め、担いで連れてくる存在がいる事に。
エンリは普通に熊を投げ置いたつもりだが3メートルは上がり、落ちた。目算で300kgは有りそうな熊を軽々と。鈍い音と共に、落ちた衝撃で草花が揺れる。
彼女は、軽く首や肩を動かしていると、自身に視線が集まっているのに気づき、見てみれば唖然とした表情の友人と、護衛と思われる冒険者の姿が目に映る。
「ンフィーレア?」
「エ、エンリ!?」
エンリにとっとは、数日後には会う事になるだろうと思っていた人物がいる状態は、奇妙なものであり、不思議そうに首を傾げた。それが切欠になったのか、ンフィーレアの硬直が解け、また、心配していた相手のパワーアップ(?)度合に度肝を抜かれた。
ンフィーレアの知り合いだと、馬車等で聞いていた女の子が、目の前にいる女だと知った漆黒の剣は皆が皆困惑している。
「アレが言ってた・・・」
「確かに可愛らしいコですが・・・」
「けどよ。ありゃぁ・・・」
「実に逞しく、強そうなのである」
傭兵に似た鎧を着た、漆黒の剣のリーダーであるペテルの声には疑問が混じり、続けた魔法詠唱者のニニャの声は困惑したモノだ。
野伏のルクルットは明らかに冷や汗混じりであり、森司祭のダインは堂々とした結論を述べる。
ンフィーレアの話では何の力もない、村民の娘の筈だった。だが、この場で誰よりも強そうであり、一見農村の普段着を扇状的に着こなしており、胸元や首筋、腹部には隆々ではないが引き締まった筋肉が見て取れる。猫系のモンスターに似たしなやかさなのだろう。それでいて、熊を持ち上げ運ぶ事ができる筋力は冒険者である彼らにとっても驚愕に値する。
ミスリル、オリハルコンプレートを持つ冒険者なら出来なくもなさそうだが、これ程軽々と行えるかは疑問だ。
明らかなエンリの強さと、ゴブリン達のリーダーが彼女であると判断。襲われる可能性が無い事を感じた漆黒の剣の面々は完全にオーバーワークだったのだろう。安全が確保されたと感じ、ンフィーレアの承諾等の言葉が出る前に、緊張感が解けたのか座り込んでしまった。
「撤収だー」
「あ、解体お願いねー」
明らかに疲れを見せる彼らに、エンリは不思議そうに首を傾げ、カイジャリはエンリが、強力な戦力が来た事から己等は不要であると判断。ゴブリン達は彼の一言で武器を下げ、元の持ち場へ戻る事になった。
エンリの一言に、数体がかりで熊を運ぶ事になり、えっちらおっちらと鑪を踏んでいるかのように不安定に歩く事になったのは気の毒でもある。
(さてと・・・どうしよう?)
エンリは、アンジェが笛の音を聞いており、この場の光景を見ている事を願わずにいられない。報告する手段が限られ、メッセージの魔法を使う為の魔導具の具申をするべきだったと考えており、目の前の冒険者+1をどうするか悩む。
(エンリ。ちょっと見ない内に、凄くキレイになったね)
エンリが悩んでいる様子を見ながらも、ンフィーレアの目は釘付けだった。
彼的には数ヵ月振りに目にした、愛しい人の急成長した部分は魅力的だったのか。それとも、少し汗で濡れ、朝日を反射して光沢を見せる肌に魅了されているのか。
兎も角、何故心を掴まれている感覚を覚えているのかは彼しか知らない事だ。
えー。親知らずの不調から原付転倒再び。あのバイク何か憑いてるんじゃ?とつい思ってしまいますわ。そして、先週火曜日。親知らず抜歯。スゴイっすわ。まさか、肉に隠れていた所が、黒ずむ程の虫歯とか、唖然です。そして、今も痛いっす。
ともかく、復帰しますわ。次回投稿は大体来週日曜になります。次回から1万~1万5千の予定です。誤字脱字は、余裕があるときに修正予定です。
感想返しとか、2日程遅れそう・・・。御口痛いの・・・