暗い墓地を、女が2人歩く。夜の墓地である為なのか、それともアンデッドが大量に噴き出した為なのか、木々の枝は歪み、暗闇へ引きずり込む悪魔の手に、幹にある凹凸は苦悶する人の顔に見える。
正に不気味だ。
「んー。ところでさぁ、どうして後ろから斬りかからないの?絶好のチャンスだよね?」
「斬りかかるのを待ってるのに?」
先行するクレマンティーヌは今の、エンリの心理状況を把握する為に、振り返り、後ろ歩きのまま聞いてみた。
エンリは何の面白味も感じていないフリをして、逆に問いかける。クレマンティーヌは一見隙だらけに見える動きで歩いていたのだが、実態は大きく異なる。
エンリは肩等、行動を予測するに必要な部位を見ていた為、斬りかかればカウンターを貰うと予測していたのだ。
「んふふwやっぱり分かっているんだぁ。バレバレ?」
「バレバレ・・・だよ」
クレマンティーヌのニンマリとした、獲物を狙う猫を思わせる笑みに対して、エンリの表情は動く事は無い。
彼女にそんな余裕等無いのだから。
「さーて、此処辺りで良いかな?ヤル前に聞くけど、あの人がカジっちゃんに勝てると思っているの?」
「どうしてそう思うのかな?」
クレマンティーヌはカジットの持つ戦力を把握している。自分では相性の関係から非常に手強い戦力を所持しているのだ。個人的にはさっさとエンリを片付けて逃走するつもりだが、余裕が有れば少し様子を見に行っても良いと考えた。
対してクレマンティーヌの質問の意図が、エンリにはまったく理解出来ない。自分程度では刃を届かせたとしても、意味がないのだから当然とも言える。
「「!」」
そんな時だ。地面が震えた。
クレマンティーヌは、エンリの背後。先程まで自分がいた地点で、降下してきたスケリトルドラゴンが一刀両断にされ、墜落し、倒れ伏せるのを見てしまったのだ。
「あーれぇー?スケリトルドラゴンがもうヤられたんだ」
「あの御方を倒せるのは、なかなかいないと思うよ」
内心冷や汗をかくも、余裕の様子を崩さずにそう述べるクレマンティーヌの姿に、エンリは自意識過剰とも言えるクレマンティーヌに、モモンの強さを敢て暈しながら言う。
「へー。まぁ、重戦士だし相性が良かったんだねw」
「そう思いたいなら、別に構わないけど」
クレマンティーヌは、表情の動かないエンリの隙を作るべく、敢てモモンの強さを疑うような言葉を述べる。
だが、エンリの変化は彼女が求めていたモノでは無かった。エンリは可哀想なモノを見る目でクレマンティーヌを見たのだ。
「余裕だね」
クレマンティーヌは、自分の意識がブレるのを感じた。
己の血が滲む所か、血を噴き出す程の努力の末に到達した英雄クラスの力。己の実力に絶対的な自信を持つ彼女だからこそ、今のエンリの目に、我慢ならぬ程の侮辱に思える。
「・・・このクレマンティーヌさまに勝てると思ってるの?英雄の領域に踏み込んだ私にぃ?」
クレマンティーヌは一度、本気の殺気を放つ。
警告と威圧のつもりだが、エンリにはそよ風にしか思えなかった。
「貴女も分かっているんでしょ?」
「ナメてんのか?まぁ、確かにアンタなら可能性は有るんだろうけどねw」
故に、慣れぬ挑発を行う。
クレマンティーヌは決めた。何としてもエンリの首をモモンの前に引っ提げて行くと。だが、エンリと一度刃を交えたからこそ、油断の出来ない相手だと理解している。故に、本気を出すべく体を隠しているローブを脱いだ。
なま温い、アンデッドが多い墓地特有の夜風が肌を撫で、その不快感が彼女の意識を鋭敏化させ、狂った殺人鬼ではなく、冷徹な戦士としての彼女を呼び覚ます。
「試してみる?」
「へぇー・・・面白そうな装備だね」
クレマンティーヌの、冒険者のプレートで飾ったビキニアーマーの姿に、エンリは鎧を収納し、本来の姿のモノへと変える。
首筋から頬にかけて、鮮血に似た紋様が奔り、その双眸を金色へと変化させた。調整不足なのだろう。全ての毛先が元の真紅に染まっている。
(んふふw私と似たタイプだったんだw)
エンリのギリギリ人間に見える姿に対し、装備変更でどれ程変わるのか分からないクレマンティーヌ。
だが、相手の本職が、装備から己と同じレンジだと推察すれば、殺意と興味が更に強くなるのを感じた。
「毛先が赤って変なのw」
「・・・お喋りは此処まで、だよ」
「っ!」
故の挑発行為である。だが、姿の大半を元のモノに戻していたエンリは、戦いたくてたまらなかった。
挑発の言葉に対して、そう言った矢先に、一足で砲弾程のスピードで踏み込む。
地面を破裂させる踏み込みで、クレマンティーヌの首を取ろうと右手を横一閃で薙ぐが、反射的にクレマンティーヌは不落要塞で強化したスティレットで受け流し、逆に刺そうとするが、エンリの左掌が己へ向けられているのに気付き、流水加速で無理矢理体勢を整え、横へ跳ぶ。
一拍でエンリの左手が放たれ、肘がクレマンティーヌの、剥き出しの横腹を掠め、血が流れた。
「へぇー、やるじゃない」
エンリは左手を放った姿勢のまま、クレマンティーヌの姿を確りとその目に捉えている。残身すら確りとしている彼女に、クレマンティーヌは、御行儀の良い戦闘技術からして彼女に技術を伝授したのは何所ぞの騎士なのかと推察する。
(相手のスタミナを見誤った。それに、予想よりも早いし、武技を使った様子も無し・・・ちょーっちマズイかもwまぁ、終わらせるけど)
(コキュートス様程の技量は無し。スピードはさっきより遅いから、武技で強化していたのかな)
スピードやパワーは負けているとクレマンティーヌは予想し、荒削りの技術から付け入る隙を把握していた。故に、左手で横腹の傷を、血を拭い舐める。懸念材料として武技を使わない点が有るが、このタイミングで使わないのだからスタミナに難が有ると想像した。
一方のエンリは今にも暴れ出しそうな熱を抑え、冷静さの維持に努めていた。
「それじゃぁ、そろそろいっきますよー」
静止し、睨みあう中、クレマンティーヌはさっさと終わらせる気だ。
不落要塞でスティレットの強度を上げ、超回避、疾風走破、能力向上、能力超向上を使用する。まるで武技のバーゲンセールかのように、湯水の如く使用する事で、必殺の一撃を見舞おうとしているのだ。体勢を低く、バランスを崩さないように両足を確りと地面へ付け、右手で土を掴む。
「!ぐっ・・・」
「まだまだ終わりじゃないんだよー!」
一拍の後、クレマンティーヌの体は砲弾の如く飛び出した。驚異的な脚力により生み出された速度で風を切り、右手を腰へ伸ばし、もう一本のスティレットを抜く。
そしてその速度は予想外な程速く、エンリは反応するが避けるには遅すぎた。
クレマンティーヌの左手に持つスティレットは、エンリが咄嗟に左へ動いた事で、彼女の右肩の、波打つ曲線が独特な装甲の隙間を捉え、突き刺さる。
そして避けた方向が悪かった。クレマンティーヌの右手に持つスティレットはそのままエンリの左胸を、心臓を捉えた。右手から伝わる感触に殺ったと確信したのか、それとも、ナメられていたのが気に食わなかったのか、クレマンティーヌは残虐な笑みを見せながらそう叫び、スティレットの柄を時計回り方向へ回した。
スティレットに封入された魔法が発動し、エンリの体に電撃が奔り、爆炎が影ごと舐めるように包み込む。
「アハっ!?」
「熱いし、痺れる・・・」
(バカなっ!完全に心臓を捉えてるし、人間なら今ので死んでる!)
クレマンティーヌはやっと殺せたと、満足気な高笑いを上げようとしたその刹那、エンリの左手がクレマンティーヌの首に伸びる。ソレを察知したクレマンティーヌはエンリの腹を蹴り、後ろへ跳んだ。
スティレットは相変わらずエンリの右肩と左胸に突き刺さったままで、電撃と炎は相変わらずエンリの体を痛めつけており、エンリの目は、何処か熱に魘されているかのように虚ろだ。
彼女の呟きに、クレマンティーヌは信じられない光景に笑みを浮かべたままだが、内心絶叫した。彼女の必殺パターンで、エンリが死ななかったのだから。
「へぇー。効いてないの?」
「・・・熱い」
クレマンティーヌの問いは、エンリには届いていなかった。
己の中で暴れる感情が彼女の意識を乗っ取ろうとしているのだから。
「熱い。熱い。体がっ・・・はぁっ」
「あらあらっ!子猫ちゃんじゃなくて、雌豚ちゃんだったのかなw」
内側から心を呑み込もうとする炎と比べれば、肉体的にダメージを与えている炎等火種でしか無い。エンリの何処か艶やかな一息に、クレマンティーヌは痛みを快感にする事で、即死を防いでいるのだと考えた。
エンリの実力は己に匹敵しているのだと考えれば、何かしら、ダメージを抑える装備が有れば、即死を防げる。
そう考える事で、クレマンティーヌは己の心の平静を取り戻したのだ。
(火に包まれているのに明確なダメージは無いみたいだし、変なスイッチが入ったのか。カジッちゃんは死んだだろうし逃げる方が良いわね)
(アインズ様からお許しを頂いているし、我慢しなくて良いよね?イってもいいよね?)
クレマンティーヌは冷静に分析し、戦局の不利に対し撤退を決定した。それに対し、エンリは我慢をするのを止める事にする。もう、抑えつける楔は、先のスティレットにより引き抜かれたのだ。その手を、己に突き刺さっているスティレットの柄へ伸ばす。
「はぁぁぁぁっ!」
気合い一発と言うべきか。叫び声と共にスティレットを引き抜く。
エンリの髪が三つ編みにすべく結んでいた紐を千切り、蠢きながら伸びた。その色彩を炎を呑み込むかの如く深紅へ変え、力を抜き、猫背で前傾姿勢でクレマンティーヌへとその視線を合わせた。
「ふぅー」
「ぁ?」
炎と電撃を散らし、体の奥の熱を吐き出すエンリ。外気温との温度差により、吐く息は白い煙となっていた。
エンリの白目の部位が闇を凝縮した漆黒に染まり、金色の瞳は淡く輝く。まるで、闇夜に浮かぶ月と夜空をそのまま張り付けたようだとクレマンティーヌは思った。それがまた、不気味だとも。
「色を変えたんだw目がキュートだよ子豚ちゃんw」
「もっと、もっと熱くさせて」
クレマンティーヌは第六感で、即刻逃げようと考えた。
先程迄ならば、挑発等すればエンリには何らかの反応が有り、御行儀の良い戦闘技術であれば、隙が有る。その隙を突けば逃げられるのだから。
だが、今は違う。エンリは唇を一舐めし、目を細めてその身に力を込める。両手に持ったクレマンティーヌのスティレットを放り投げた。
「なっ!」
「逃げないで、もっと楽しもう?」
(さっき迄と鋭さが違う!この髪どうなってんの!?)
スティレットが地面に落ちた刹那。エンリの髪が餓えた蛇の群れの如く、クレマンティーヌへ襲い掛かる。
伸縮自在・千変万化の動きで、クレマンティーヌを切り裂こうと、巻き付こうとする髪。そして、薄っすらと浮かべた冷笑と手首をよく使う事でブレる刃先。
クレマンティーヌの予測を裏切る斬撃が多い上に、本来の戦闘スタイルだと言わんばかりに刃が奔る。当たりそうになる一撃を予備のナイフを抜き、弾くがたった一撃で刃が欠ける。
「ねぇ―――って、話ぐらい、しても良いんじゃない?」
「熱くさせてよ!口を動かさないで手を動かして!もっと!もっと!もっと!」
それでも、何とか隙を作るべく、不落要塞で強化した予備のナイフでエンリの攻撃をいなし、火花が舞う中、流水加速で無理に避けながら話しかけるクレマンティーヌ。
だが、エンリのテンションは最高潮である。口から吐かれる言葉は支離滅裂であり、吐く息は未だ白い。
(バーサーカー!?さっきまでの御行儀の良い戦法じゃない!)
エンリの瞳孔は不自然に広がっており、言葉が通じる状態では無いとクレマンティーヌには思えた。そして、先程とは違い、戦闘経験豊富なクレマンティーヌの予想が外れる程太刀筋は乱雑である。だが、反撃のチャンスが少ない。密度・質共に凶悪であり、ブレる刃先すらフェイントに思える程だ。
先程迄のエンリは、己の内側から湧き出る衝動を抑えながら戦っていた為、本来の調子ではなかったのだ。
「調子に乗ってんじゃねーぞ!」
だが、抑え込まれている状況をクレマンティーヌは認めたくない。
反撃のチャンスを見つけた彼女は、腰に掛けていたモーニングスターを引き抜き、大きく振り、十分な遠心力でエンリを下から殴りつける。
「っ・・・最・高ー」
「っ!?」
エンリの顎を確りと捉えた一撃。十分な威力を持つ乾坤一擲の一撃により、彼女の体が木の葉のように宙を舞う。だが、エンリは空中で体を捻る事で体勢を整え、髪を伸ばして地面へ突き刺し、即座に収縮する事で着地した。
そして、この一撃の痛みが更にエンリのハートを燃え上がらせる。口端を一舐めし、笑みを見せながらクレマンティーヌを見た。
逃げる隙等、今のエンリがあげる筈も無いのだ。
(クソ兄貴の蛇以上の回復力に、私のフル装備で武技を使っている時のスピード!ここはスタミナが切れるまで長引かせるしか無いけど、いつ増援が来るのか分からない!)
クレマンティーヌは逃げる隙を与えないエンリの姿勢と、浮かべる笑みの獰猛さよりも驚愕する事実を知った。知ってしまった。
クレマンティーヌの一撃は、エンリの骨を砕くには至らず、棘は少ししか刺さっていなかった上に、擦り傷に似た傷は即座に修復されたのだ。
笑みを見せている以上、スタミナの消耗度合や、無理に体を動かしている以上、体へ負担が生じる筈だが、生じているか怪しい。
彼我のスペック差等々により、クレマンティーヌの頭の中で情報が精査されていく。
(マズイ!完全にハマったっ!このクレマンティーヌ様が!?)
状況はクレマンティーヌにとって最悪だった。
自身のスタミナの消耗度合や、体の負担からして継続戦闘能力は著しく短くなっている。だが、エンリの回復力がギガントバジリスク以上である事等も考慮に入れれば、倒すには時間が要るどころか、倒しきれ無い可能性が高い。スピードの差からして、逃げられる確率も低い上に、カジットが倒されていると予測している以上、先程会った漆黒の戦士。モモンと、従える大狼ルプーが応援に来るか分からない状況なのだから。
「あらら。お姉さん疲れちゃったんだけど?少しお話ししても良くない?もっと楽しみたいんでしょっ!?」
「ウソはダメだよ?まだまだ余裕のクセに」
少しでもスタミナを回復させたいクレマンティーヌは、無駄だと分かっていても話しかけるしかない。
だがエンリには関係無いのだ。言い終わる前に再び強襲した。
「チッ、このバケモノめ!」
「バケモノは失礼だよ。私は、悪魔なんだから」
猛攻を仕掛けるエンリ。ソレを防ぎ、避けるクレマンティーヌ。
一向に体力の衰えを感じさせないスピードと、攻撃の重さに思わず舌打ちをし、罵声を浴びせるクレマンティーヌだったが、エンリは彼女の膝から一瞬力が抜け、体勢を崩した事を嗤いながら髪を伸ばす。
「ぐっ!?」
「捕まえた。それと、私の髪はそう簡単に斬れないよ」
武技の連続使用により、消耗した肉体はクレマンティーヌが思っていた以上にダメージを蓄積していたのだ。
彼女が体勢を整える隙等エンリが与える筈も無く右大腿部の中央。大腿骨ごと螺旋を形成したエンリの髪の一房が貫き、地面へ突き刺さった。
クレマンティーヌは激痛に耐え、己の足を貫くエンリの髪を予備のナイフで斬ろうと刃を奔らせるが、予備の武器はメインの武器と違い、品質は下がるモノだ。武技。不落要塞で強度が増しているが、エンリの髪を斬るには至らない。
「がっ・・・クソがっ!」
「残念。名残惜しいけど、そろそろ御終いだよ」
ナイフをエンリに向けて投擲するも、エンリは軽々と避け、クレマンティーヌの腹部を蹴る。
肝臓を正確に捉えた蹴りに、終にクレマンティーヌは崩れ落ち、足に力が入らない事も有り仰向けに倒れた。
倒れたクレマンティーヌの肩を、ピンの代わりに刃が有るピンヒールに似た靴で踏み、彼女の胸の中央に右手の刃先で狙いを定め、武器が無いのを確認した上で、そう通告するエンリ。
クレマンティーヌの顔は、屈辱と怒りで染まり、歪んだ形相を浮かべていた。
「ん?まだ終わって無かったのか」
「モモン様。申訳御座いません。今すぐ終わらしますから」
「!アハハハ!叡者の額冠を外しちゃったんだ!発狂確定!お疲れさまでしたーw」
そんな中、ンフィーレアを担いだモモンと、手に布で包んだモノを持ったメイド姿のルプスレギナが到着した。
エンリは一瞬背後を見、そう言ってトドメを刺そうとしたが、クレマンティーヌの言葉に動きが止まる。
彼女は、モモンの左手に叡者の額冠が有るのを目敏く見つけ、最後の足掻きなのか大声で嗤ったのだ。
「何を言っている。完全に意識を失わせれば、発狂するのは意識が戻ってからだ。ソレまでに呪いを解けばリバウンドは発生しないぞ」
「・・・は?」
歩きながら情報を精査し、死の宝珠のレクチャーにより更に魔法の知識を高めたモモン。今の彼にクレマンティーヌの悪足掻き等通用しない。
モモンが言った事を理解できないのか、彼女の表情は唖然と言うよりも、何か大切なモノを失った人のソレだ。
エンリはモモンの指示が有る迄クレマンティーヌを生かす事にし、様子を見ている。
「要するに、目が覚める前に呪いを解けば発狂しないという事だ」
「はぁ!?スレイン法国の秘宝、叡者の額冠が呪いのアイテムだって言いたいのか!?あ・・・」
クレマンティーヌの、理解が追い付いていない様子にモモンは要約して、結果だけを述べる。
彼女の常識では明らかに有り得ない情報に、ついクレマンティーヌは叡者の額冠が元々どの国のモノだったか言ってしまう。
「ふむ。何処かで聞いた名前だとは思っていたが、コレがそうか。まぁ、正確には付与と呪詛により、本来ならば在り得ない効果を発揮させている。呪いによりリバウンドの遅延と蓄積を実現させる事で、リスクを装備者のみにさせているのだろう。そして、目を潰す必要性は人としての意識を取り戻す切欠を作らないようにする為だろうか。耳を潰さないのは、命令を感知する感覚器官を残す為だと推察するが、メッセージの魔法で命令を伝えれば良いモノを・・・中途半端だな。恐らくだが、親しい者が命令以外で話かけ、人としての意識を覚醒した為に発狂する事故が有ったのではと推察―――っと。ついつい話し過ぎてしまったな」
モモンはクレマンティーヌの言葉で、叡者の額冠=巫女姫が装備していた物だと理解すれば、以前、己とジュンのカウンター魔法で破壊したスレイン法国の土の神殿を思い出した。
クレマンティーヌの表情からして、少々説明してやろうと思い、話す。
己の考察を含めて、起きた可能性の有る事故迄話せば、何処かエンリが己をチラ見している気がした為咳払いをし、区切る。アイテムについて詳しく話したくなるのは、彼の悪い癖だ。
「ありえない。何でソコまで・・・アンタ。戦士じゃないの?」
「私が、いつ戦士だと名乗った?」
クレマンティーヌは信じられないモノを聴いたと言わんばかりの表情だ。
先程モモンが言った事故は実際に有り、巫女姫に選ばれた者の親しい者は、今生の別れとし、晩餐を共にした後は一切の接触を禁じられているのだ。
そして戦士がこれ程アイテムに詳しい事等ありえないと考えたクレマンティーヌは、モモンが立派な金属鎧を装備している事も有り、言外に嘘だと言いたくなる思いを噛み殺し問う。
モモンは、憶えが悪い生徒を見る、嫌みな教師の如く答え、クレマンティーヌを更に追いやる結果となった。
「ねぇ。幾つか聞いても良い?」
「構わないとも。今の私は気分が良い。運が良かったな」
クレマンティーヌを諦めが侵食する。
大腿部からの出血は酷いが、もう暫くは大丈夫だと理解している彼女はダメ元で問答する事にした。
彼女にとって、死の宝珠を手に入れ、ジュンの世界級アイテム<真実の目>の仔細を知ったモモンが御機嫌である状態は、幸いだった。
「私。死ぬの?逃がしてくれない?」
「ん?何か死ねない理由でも有るのか?」
クレマンティーヌの、賭ける価値は有ったと思いながらの問答。
モモンは聞く気にはなっていた。もっとも、聞くだけであり、エンリの本当の姿を知っているクレマンティーヌを生きて帰す気は毛頭無い。だが、クレマンティーヌの表情の変化から、彼女の心理状態の変化や反応からして、命乞いであればどんな事を言うのか気になったのだ。
「っ・・・ぶっちゃけさ、クソ兄貴やジジイ共を殺したいの。ついでにスレイン法国を潰したいんだよね。ジジイ共はクソ兄貴だけを可愛がって、私はまだ弱かった頃に
(<真実の目>は便利すぎるな。ワールドアイテムを持っていなければこんな事も解るのか)
クレマンティーヌの言い様に、モモンの着眼点は、<真実の目>の更なる効果を実感する事に有った。
内心細笑みながら、抑えきれ無いのか小さな笑い声が漏れる。
「ウソが有るな。君はまだ処女だろ」
「うぇっ!?」
(ア、アインズ様。その言い方はちょっと・・・)
(ふぇー。アインズ様。どうやって見抜いたんすか?・・・あれ?だとしたら私もバレてる?)
真実の目は、虚偽をも見抜く効果迄有ったのだ。だが、己のウソがジュンにバレていない事から、己がワールドアイテムを所持している幸運と、皆が持つ事を許してくれた過去に感謝するモモン。
よって、言い方にデリカシーが無い事等気付いていない。
処女だとバラされ、見た目の年齢が25歳程のクレマンティーヌはかなりの不意打ちになり、驚愕を通り越して形容しがたい顔になり、エンリとルプスレギナは考えている事は違うが、冷汗を流しているのは一緒だ。
「エンリ。罰として腕を落とせ」
「あ、はい」
「へっ?ぁがぁあああああ!」
モモンの指示に、少し気が抜けていたと言わんばかりにクレマンティーヌの両腕を、肘から少し上で斬るエンリ。
精神的ダメージが大きく、茫然としている所に、ごく自然に腕を飛ばされたクレマンティーヌ。痛みで我に返るのが泣きっ面に蜂だ。
(クソ!クソクソクソがぁ!予想外に程があんだろッ!?あ、ヤバい。血が足りない・・・)
(へぇー。血の味って、こんなのなんだ)
(悪魔は血を好むのかもしれん。アルベドにも何かしてやらねばならんが・・・)
(エンリちんの好みなんすかね?)
色々な意味で予想外過ぎた。両腕からの出血も追加された事で、クレマンティーヌは治療を急がなければ失血死するのを経験で感じ取った。
刃をクレマンティーヌの血が伝い、妙に惹かれたモノが有ったエンリは、刃に付いている血を舐めとる。そしてその味が以外にも芳満であり、好みの味だったのか小さく笑みを浮かべた。
ソレを見たモモンとルプスレギナ。
モモンはアルベドのストレス軽減には何が良いのかと考え、ルプスレギナはエンリの味の好みに、血の味が有るなのかと考えた。
「スルシャーナ?あ、あはは・・・死んだ筈の神様が冒険者のふりをするなんてね・・・」
「・・・残念だが違う。君には色々と頑張って貰おうか。放り込め」
「ぐふっ」
モモンはアインズの姿になる。
失血から少し目が霞み始めているクレマンティーヌは、死の神だと称され、死んだスルシャーナを思い出していた。諦めの籠った力無い笑い声を漏らす。
アインズは転移門を発動させ、そうエンリに命じれば、エンリは無言でクレマンティーヌの腹を蹴った。
クレマンティーヌは詰まった声を残し、転移門へ呑み込まれ、彼女がココにいた痕跡は、血溜りと転がっている両腕しか残っていない。
『デミウルゴス。今送ったモノを殺さぬ程度で可愛がってやれ』
『アインズ様。何か有ったのですか?』
転移門の出口は、ナザリック地下大墳墓。デミウルゴスの管理する溶岩のエリアの中で、最も涼しい彼の執務エリアだった。それでも、唯の人間には砂漠に捨てられたようなモノ。クレマンティーヌは失血と合わさり、体力を著しく奪われ、死ぬのは時間の問題だろう。
突然、苦悶の声をあげる人間が転移門より、ポイっという擬音が似合いそうな状態で投げ出された上に、アインズからのメッセージによる言葉。
司書長とスクロールの代用品について話をしようと、図書室へ向かおうとしていたデミウルゴスには即座に解決すべき案件なのでは?と考えるのは、彼にとって当然だった。
『なに。有用な情報源が手に入ってな。少しは悪魔らしい事をしても良いぞ』
『これはこれは。気遣って頂き、感謝の言葉も御座いません』
デミウルゴスにとって、生かさず殺さずで、苦悶をあげる人間の様子を見るのは愉悦を覚える内容であえる。また、殺さぬようにすれば自由にしても良いとアインズから言われたようなモノ。
ご褒美であると考えるのは自然だが、そのままの意味で受け取るのは早計だとデミウルゴスは考えた。
『部下のケアは大切だ。効率が良く、素晴らしい仕事をしてくれる。そうだな?』
『はい。御期待に副えるよう努力致します』
暗に、更に良い報告を求めているアインズに、デミウルゴスは内心舌を巻くばかりだ。
スクロールの代用品の目途が立ちそうな現状での、この事態。代用品については、まだ報告していないのだ。
魔法などで監視されている訳では無い。だが、このタイミングで、殺さぬ範囲であれば楽しんで良いとの指示。デミウルゴスは、己はアインズの掌の上で踊っているのでは?と考えてしまう。
だが、アインズの望みが何であり推察し、ソレを叶えるべく行動するのが守護者の役目だと考えるデミウルゴスにとって、アインズの英知の一端を知る良い機会なのだ。
『よい。それと、治療に関しては痕が残らぬようにな。必要であればペストーニャを使え』
『畏まりました』
そして、念押しの如く伝えられる、人間を殺さぬようにしろとの事。
アインズの言う痕とは、心の傷が大きなモノであると推察したデミウルゴスは、最高の収穫を迎えるプランを瞬時に練り上げる。
アインズの求める結果へ至るには、己の悪魔の愉悦が必要であると推察したデミウルゴス。
コレは、心を、精神を破壊しない加減を覚えるように、練習しろとの通達なのではとも考え、その必要性が有る事態を考えれば答えが出た。
(成程。流石はアインズ様。数手先を読んでいらっしゃる)
デミウルゴスが考えたのは、彼女(クレマンティーヌ)は効率の良い組織の掌握方法を習得する為の練習台であり、様々な用途で使えるモノなのだと考えた。
デミウルゴスは、人間が己等と比べれば非常に脆いと認識している事もあり、態々己の近くに転移させた以上、この人間は頑丈な部類だと理解したのだ。
逆を言えば、この人間が簡単に壊れるのならば、己の力加減が誤っていると知る切欠となる。また、苦悶の声で鳴くのならば悪魔としての欲は満たされる。
己が読める限界を痛感しながらも、デミウルゴスはアインズの智謀に脱帽するばかりだ。実際は、クレマンティーヌを殺さぬ範囲で、デミウルゴスが楽しんでくれたらと考え、ナザリックへ送っただけなのだが。
『それともう一点。アルベドの様子はどうか』
『はい。アインズ様の御部屋にて勤しんでおります』
『そうか。アルベドとスケジュールの調整を頼む』
『畏まりました』
アインズとしては、アルベドのストレス状況を知りたかったのだが抽象的過ぎたのだろうか。デミウルゴスは、アルベドがアインズのベッドや執務室等で○○や××、果てには△△等をしている事を思い出し、流石に伝える事が憚られた結果である。
故に、アインズとしてはアルベドの状況を把握するには至らない。よって、デミウルゴスは地面で悶絶し、危険な痙攣を始めたクレマンティーヌの持つ情報で、何かしらアインズのスケジュールが変わる可能性を視野に動く事にしたのだ。
『そろそろ戻ります。あと、ンフィーレア君の治療と第7位階相当の解呪系魔法をお願いします。テキトーに、スクロールか魔封じの水晶でも使えば問題無いでしょう』
『ちょっ!まさか、この公衆の面前でですか!?』
アインズはメッセージでフドウ(ジュン)へ要点のみを伝える。
予定では最大第五位階迄使えるとしていた。第五位階ですら英雄クラスであり、第七位階となれば問題しか生まないだろう。
特に、耳の言いフドウは、地味に観客達が聖女コールをしているのが聞こえている為、非常に都合が悪い。
『良いタイミングでしょう。では、お願いしますね』
『まっ―――』
だが、そんな事等知らぬと言わんばかりに、言うだけ言ってメッセージの魔法を切るアインズ。大衆の面前で素晴らしい治療を行えば、更なる名声を得る事しか考えていないのだ。
よって、フドウが何かを言いかけた事等知る由もない。
「それでは、凱旋するとしよう」
再び、モモンの姿へとなり、エンリとルプスレギナを見れば、其々人の姿と狼の姿となっている。エンリはルプスレギナから受け取った布にクレマンティーヌの腕を入れ、町の方へと歩を進めたのだった。
えー。
次でエ・ランテル編はラストですが、仕事が忙しいので24、最悪31日迄には投稿します。
平日で1~3時間の残業。祝日返上。土曜?元々出勤日です。
そして、クレマンさんはナザリック送りになりましたー。
好きなキャラなので、レベル55程度のエンリと渡り合えるぐらいに強化したんだけどね?