魔王様の友人は風変りな悪魔(元男です)   作:Ei-s

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御盆休みの霊圧が消えた・・・(゜□゜;)


第十八話

ンフィーレアの奪還に成功したモモン達。

市街地へ続く防衛壁へ近づいているのだが不思議な事に、敵性アンデッドはおらず、モモンは少々疑問を覚える。先程迄は、エ・ランテルを呑み込まんとする程いたというのに、接敵しないのは楽だが不自然なのだ。

 

「お帰りなさい」

 

(あ、あれ?ジュンさん?何か怒ってません?)

 

疑問に思いながら門まで戻ってくれば、仮面越しにでも不機嫌だと感じるフドウと、丁寧にお辞儀をしたナーベが出迎えた。

モモンは仮面越しに見えたフドウの目に異様な鋭さを感じ、肉の無い体だというのに背筋がつい、寒くなる程だ。

 

「フドウ。どうした?」

 

「魔力の残りが少ないから、気分が悪いの」

 

「そうか。遅くなってすまない」

 

だが、モモンは己の感じた事を表には出さない。

モモンの気遣う声音に対し、フドウはぶっきらぼうな反応を返す。

フドウの様子は魔力不足で不機嫌になっていると衆人には見えるだろう。彼は彼女が不機嫌な理由が思いつかない。よって、衆人が知るフドウの不機嫌な理由である魔力欠乏を前面に出し、謝る事にした。

実際は、先程のメッセージの魔法で伝えた内容を返事を聞かずに切った事と、目立つ魔法の使用を求められたのが要因である。

 

「ンフィーレア!な、なんてこったい・・・」

 

そんな中モモン達の帰還を知ったリイジーが走り寄ってきた。後ろで慌てて追従する漆黒の剣の4人の姿が見える事から、彼等も心配していた様子だ。彼等の後ろにいる森の賢王がのしのしと、のんびり歩いてくるのが非常にシュールだとモモンは内心思う。

彼女は息を切らしながらも、孫が帰ってきた事を喜ぼうとしたのだが、モモンの肩に担がれ、真紅のマントに包まっているンフィーレアの両目が潰れている事に気付き、孫の今後が明るくない事実に絶句し、青褪めてしまった。

 

「リイジー・バレアレ。少し待ってほしい。厄介な呪いにかかっている」

 

「なんじゃと!?」

 

モモンとしては、彼に触れるのを待って欲しいと考えた為に述べたのだが、リイジーには孫の死を突き付けられるのではと思い、更なる不安が重く圧し掛かる。

 

「仔細は分からんが、このアイテムを普通に外せば発狂してしまう。スクロールに封じられた睡眠系の魔法で完全に眠らせ、起きるまでに解呪すれば発狂しないのだ。もう少し待って欲しい」

 

「なんと・・・お主は戦士じゃろ?何故そのような事が・・・」

 

モモンが左手に持った叡者の額冠をリイジーに見せながら、適切な対応をすれば問題無い事を伝える。

彼女としては、孫が助かる可能性が有り、その手段を持っているとモモンが暗に語っているように思えた。

 

「切り札の一つだ。我が家に伝わる魔封じの水晶。伝承では第8位階の鑑定系魔法が封じられていたモノを使った」

 

「第8位階・・・神話の領域じゃないのか?」

 

「あぁ。正に切り札だろうに・・・」

 

モモンの言った事に絶句するリイジ―。家宝とも言えるアイテムを惜しげも無く使ったと、威風堂々に佇む漆黒の戦士モモンが、事も無気に述べたのだから。

周囲にいる冒険者は、あまりにも凄まじい切り札を使い、悔いも無さそうなモモンに尊敬が多大に込められた視線を送る。

 

「フドウ。切り札をもう一枚使う。その杖に封じられた残り最後の魔法上昇(オーバーマジック)を発動させ。第7位階の解呪をンフィーレア君に頼む」

 

「・・・どういう意味か分かって言っているの?」

 

「無論だ。君がスレイン法国に目を付けられたく無いのは分かる。魔法上昇(オーバーマジック)を使って、第7位階を使えるというのは、君が第5位階の神聖魔法の使い手だと宣伝するようなモノだからな」

 

そして、モモンは己に視線が集まっているのを好機と捉え、フドウへ協力を要請した。

メッセージの魔法で先程、触りしか聞かされていなかったフドウは、非常に不機嫌な様子。モモンとしては、叡者の額冠がスレイン法国の秘宝だと先程知った事から、強力な神聖魔法の使い手だと知られればヘッドハンティングが来る可能性も考慮に入れた言葉だ。

フドウとしては、『聖女』が入った二つ名が付きそうな事から、面倒事をスレイン法国が起こす可能性を考慮に入れており、モモンの言葉は間違いではない。既に、己へメッセージを送った時点で、その可能性を想定していたモモンの智謀に背筋が寒くなる思いである。

そして、モモンの言葉を聞いていた冒険者達は、モモン達の持つアイテムや装備の数々が異常な程高価である事に、疑問を覚える前に唖然とするばかりだ。

 

「だが、私を信じてほしい。私は君のパートナーであり、夫だ。愛する妻を護りきるのは、男としての務めなのだから」

 

「え、あの・・・」

 

モモンはフドウへ歩みより、片膝を着いてンフィーレアを優しく地面へ置き、フドウの手を取り言葉を紡ぐ。まるで手に花束や指輪が有ればプロポーズにも見えるだろう。

一方のフドウは突然始まったモモン劇場の空気に呑まれ、どう返すべきか分からなくなり、つい狼狽えてしまう。

フドウの反応を見た周囲の人々は漆黒の戦士の突然の誓約に、男性はモモンの言葉が非常に格好良く思え、女性は一度はそう言われてみたいモノだと思った。

 

「それに、ンフィーレア君は気持ちの良い少年であり、優秀な薬師の卵だ。そんな彼が此処で摘まれるのは忍びない。頼む」

 

「フドウさんや。孫を、ンフィーレアを頼むぅ」

 

「・・・卑怯です。分かりました」

 

モモンの願いと、リイジ―の額を地面に着けた土下座付きの懇願。そして、周囲の人々の目にフドウは折れた。

ここで拒否すれば、己の株どころか、モモンの株すら下がってしまう。地味に、己を見るルプーとナーベ、エンリ視線の意味を知りたく無い事も有る。

ルプーとナーベは、人間社会に上手く潜り込む為の手腕の材料としてモモン劇場を興味深く見ており、エンリは、己や妹カルネ村の面々を救った事の有るフドウへの期待に満ちていただけなのだが、神ならぬフドウに分かるはずも無い。

 

「リイジーさん。皆さん。少し離れて下さい・・・魔法遅延化・睡眠(ディレイマジック・スリープ)大治療(ヒール)

 

リイジ―がフドウの言葉で少し下がり、モモンが己の隣に立ち、己の頭を撫でるフリをしながら、<真実の目>を装備してくれたのを感じたフドウは、先ずンフィーレアの目を治す事にした。欠損部位の修復が第何階位からなのか分からぬ為、取りあえず第6位階辺りの治療魔法を使用する事にし、万が一にも解呪までに目覚めぬよう、睡眠の魔法を遅延で発動させるようにした。

淡い太陽光の輝きが仰向けに寝かされているンフィーレアを包み込み、不自然に眼窩へ沈んでいた瞼が盛り上がる。

 

『何か詠唱をお願いします。そして、大げさな動きと、汗とか額に浮かべれば更に良いですし、ギリギリ解呪できた風を装う為に最後はふら付いて倒れて下さい』

 

(演技指導入りましたー・・・兄さんのバカ!凝り性のアインズさんに色々と教えてくれちゃって!・・・危なかった。やっぱり遅延で睡眠が発動しておけるようにしておいて良かった)

 

真実の目で、ンフィーレアの状態を確認しようとしたフドウだったが、モモンの要請に、こうなった原因の一つである、己の兄に文句を内心で述べた。とんだ飛び火も有ったモノである。

そして、改めてンフィーレアの状態を見れば、大治療で睡眠の状態異常が解除され、即座に遅延で発動した睡眠の魔法が無ければ発狂ルート直行だった事に気付き、内心安堵した。真実の目で鑑定した呪いの種類からして非常に嫌らしい内容だったのだ。

 

真実の目の隠された鑑定条件として、装備者の持つ技能・クラス・種族により鑑定結果の解釈や仔細部が変更される事を知るのは、後程、何故モモンが睡眠の状態異常を切らせないようにと伝えていなかったのか問い詰めた時である。

 

「・・・天地在りて。風よ。水を巻上げ雷を山へ落とし、炎生み出し土と成す。闇夜を照らすは月のみに在らず。精霊の御名の下、かの者の呪いを形にせん。影よ。汝の姿を映し出せ。呪よ。その姿を見せよ」

 

フドウは少し考え、良い視覚表現として、神官系悪魔祓いイベントで使うイベント魔法、鑑定表視(アプレーザル・ヴィジョン)を使用することにした。この魔法はユグドラシルにおいて、悪魔に憑かれた少女から悪魔の姿を出現させる魔法であり、エフェクト効果は呪い系にも有効だと知っていたからだ。

即興で作った詠唱をし、魔法を発動させれば、仰向けに寝かされているンフィーレアを中心に、二重の円とオクタグラムで形成された光輝く魔法陣が形成された。意識の無いンフィーレアを、魔法陣の光が優しく照らす。

 

「何だありゃぁ・・・」

 

「あれが呪いだってのか?現実なのかこりゃ?」

 

そんな中、彼の体から黒い靄が光を嫌がるように噴き出した。噴き出した靄は女に見える人型になり、ンフィーレアの胸に座り、その頭を掴んでいる。

まるで、彼の心を奪いたいのだと、彼の人格を崩壊させたいのだと言わんばかりだ。スレイン法国の叡者の額冠の装備者を知っている者が見れば、靄は嘗て巫女であったと分かる程、その姿形はハッキリしている。故に、その表情も分かる。何の感情も浮かんでいない無表情に見えるのだが、その目は道連れを求めているのか怪しい深紅の輝きを放っている。まるでレイスだ。

黒い靄で出来た女に殺されそうになっていると理解する現象に、見物人の中には、あまりにも現実味が無いと思い、己の正気を疑う者も少ない。

 

「我断ち切るは呪。蝕むいと黒き深淵の闇。汝のいる地に在らず。来れ。来れ。来れ。大になる御名の下破魔の印を通じ、光あれ呪鎖破断(ブレイク・カーズ)!」

 

フドウは己の厨二臭さに羞恥を覚えるも、演劇の演出なのだと自己暗示し、手早く刀印を組んだ手を動かす。

魔法が発動する瞬間。一見槍にも見える杖の先端が展開し、十字架を型どり、烈光で出来た刃が形成される。杖の効果であり、神聖魔法の効果をアップさせる際のエフェクト効果を発動させたのだ。

フドウは刃が形成されたのを確認し、黒い靄を薙ぎ払った。首を断ち、靄が霧散する中、女の顔が安らかな笑みを浮かべたのが衆人にも見えた。それはまるで、呪いから解放され、安らかに眠れる事を喜んでいるかのようにも見える。

そして靄が消え去り、呪いの状態異常が解除されたのを確認したフドウは眠治療(アンチ・スリープ)で睡眠の状態異常も解除しておいた。これで、間を置かずに起きる事だろうと考えて。

 

「頑張ったなフドウ」

 

「もぅ。第7位階は二度と使わない。聖女の真似事は二度と嫌」

 

「・・・私は裏切らない。必ずな」

 

フドウはモモンの要望道りよろめき膝を着こうとするが、モモンがその前に抱き留めた。演技だと分かっていても、彼女の精神に多大なダメージを負わせた演出から、力なくそう言うフドウに対して、モモンは、まるでフドウが嘗て聖女だと言われており、権力者に裏切られたかのような物言いをした。アンダーカバーの強化である。

モモンの言葉に、これ程の使い手達がカッパーのプレートであり、凄まじい価値の装備やアイテムを所持している事から、何か知らない方が良いモノから逃げてきたのではと、衆人は憶測している。また、エ・ランテル壊滅の危機を防いだ英雄的行動から、無理に詮索するのは好ましくないのでは?という風潮を生み出しているため、知名度アップや余計な詮索を防ぐ機密保持の面からしても、今回の行動は大成功とも言えるだろう。

 

「う、うぁーーーー!目が!めがぁー!」

 

「「!」」

 

「ンフィーレア!何が有ったんじゃ!」

 

「リイジーさん!少し待って!」

 

フドウの予測通り、ンフィーレアは目を覚ました。だが、穏やかな目覚めでは無く、両目を両手で抑え、叫ぶ形で。

リイジーは泣き叫ぶ孫に近寄ろうとするが、転げまわる彼の状態からして、下手に近づけば高齢な彼女の事だ。大怪我を負う可能性もあり、フドウはモモンに抱き寄せられている状態のまま制止するよう求めた。ンフィーレアの治療を担当したフドウに制止を求められた以上、リイジーは彼女に縋るような眼で見るしかなかった。

 

「ショック症状、かな」

 

「フドウ。何か分かるのか?」

 

「恐らくだけど、意識が混濁しているんだと思う。たぶん、目を潰されてからソレを着けられただろうから、その時の痛みとか恐怖がフラッシュバック・・・噴き出したと思う」

 

フドウは真実の目で、彼の容態を確認しるが、状態異常・HPやMPの情報は正常を示している。そのため、フドウはそう推察するしかなかった。

彼等いたリアルでは、事故に遭えば略間違いなく命は助からない為、症例は少ない内容だが、フドウは幼少期に兄と共に、育ってからは一人でも旧世代のアニメ・映画を鑑賞しており、その中で、入院患者が意識を取り戻した瞬間に、事故に遭ったその瞬間の記憶でパニックなる描写を見た事が有った為、推察出来た内容だ。

モモンとしては知ら無い内容である為、問いかけ、今一番ンフィーレアの容態を心配しているだろうリイジーにも聞かせるべくフドウは簡潔に説明した。

 

「なにか、彼を安心とか、落ち着かせれば良いんだけど・・・強制的に鎮静化させる魔法なんて知らないし・・・」

 

「エンリ。彼を抱きしめてやれ。胴に着けている鎧を外してな」

 

「「?」」

 

フドウの物言いに、モモンは自身の思いつきを試してみる事にした。フドウとエンリは、モモンの提案の意図が分からずに首を傾げてしまう。

 

「古来より、落ち着かせるには心音だ。リイジ―では、あのように暴れていては、な・・・」

 

「分かりました・・・?」

 

モモンは言外にンフィーレアの関係者で、抱きしめ、心音を聞かせる事が出来るのはエンリだけなのだと言っている。

だが、エンリとしては友人ではあるが、ンフィーレアの為に鎧を脱いでまで抱きしめる必要が有るのかと疑問を抱いている。色恋に疎いのだから仕方無いのだろう。

エンリは胴体に着けている鎧の金具に手を伸ばし、外す。

一見ゴムにも見える素材で出来た黒いアンダースーツは汗をかいていた事もあり、体にぴっちりと張り付いている。外気に触れる事で体温が下がり、涼しく思い、爽快感からなのか小さく笑みを浮かべた。

 

「私の背に置くと良いっすよー」

 

「ありがとうございます」

 

問題は、鎧を地面に置きたくない事である。すると、ルプーが静かに近寄っっていた。エンリはルプーの好意に甘える事にし、その背に鎧を置いた。ルプーは器用に無造作に置かれた鎧を落とさず、ナーベの側へ歩いて行った。

 

『もう少し、アンダースーツは凝れば良かったですかね?ちょっと薄い気が・・・』

 

『・・・今回に限っては好都合でしょう』

 

周りに見ていた衆人。特に男性は、エンリの鎧の下に隠されていた双子山の存在に生唾を呑み込んでおり、一見肌が黒いのかと思うほど張り付いたアンダースーツは目の毒だ。

フドウはその張り付き具合からして、動きやすさ重視であり、見える事も無いからと薄くした事を問題視しており、モモンへメッセージを送る。一方のモモンは、エンリが羞恥心を覚えていない様子であり、ンフィーレアの恋路は中々険しそうだと思ったが口には出さなかった。

 

「っ!?」

 

「ンフィー?」

 

エンリは転げ回るンフィーレアに巻き付いているモモンのマントを掴み、片手で彼の体毎持ち上げると、そのまま頭を抱きしめた。

顔に触れる柔らかな感触と暖かさに。そして、ほんのりと香る甘い匂いに硬直するンフィーレア。急に動かなくなった彼に、エンリ声は呼びかけてみた。

 

「え、あ・・・」

 

「ゆっくりと目を開けて」

 

「け、けど、ボクの目は・・・」

 

「私を信じて」

 

エンリに顔を抱きしめられていると感じる現状に戸惑っている。そんな中言われた内容に、どうするべきなのか分からなかった。

抱きしめられたのは、非常に強い衝撃であり、既に彼の思考は正常なモノとなっているが、エンリはンフィーレアが完全に落ち着くまで対応するのが正しいと感じており放す事は無い。

 

「―――なんで?どうして見えるの?」

 

「全部終わったの。もう大丈夫だよ」

 

「ぁ・・・う、うん」

 

ンフィーレアは目に痛みを感じない事と、此処で目を開けなければエンリを信用していない事になる現状に、意を決し、目を開ければ、彼の予想通りにエンリの顔がすぐ近くに有った。

目が見える事に戸惑い、エンリの浮かべた微笑みに恥ずかしくなったのか下を向いた。

 

(怖かったんだ・・・まぁ、仕方ないよね)

 

(暖かい。嫌がってないみたいだし、このままは・・・けど、離れたら怖いんだ。ゴメンエンリ。僕って最低だ・・・)

 

だが、下を向けばエンリの胸に顔を埋めている状態となる。安堵や緊張、恥ずかしさ、そしてエンリから香る匂い等から小刻みに震えてしまうンフィーレア。その震えをエンリは恐怖心がまだ残っているのだと思い、優しく彼の頭を撫でる。

エンリの好意に満ちた行動にンフィーレアは自己嫌悪せずにはいられなかった。だが、エンリの暖かさや肌から伝わる彼女の鼓動は彼に安堵を、彼女の柔らかさと花に似た匂いで興奮を覚えているのだから。

だが、色々な事有った為心が限界だったのだろうか。それとも、安堵が勝ったのかンフィーレアの瞼は閉じていき、眠ってしまった。静かな寝息を感じたエンリは、彼をそのまま抱き上げた。

 

(そうかぃ。ワシも年を取ったモノだねぇ・・・)

 

だが、衆人には2人のやり取り等関係無い。ンフィーレアが無事に助かったという事実に歓声が上がる。

歓声の中、リイジーは感慨深くンフィーレアとエンリを見ていた。

 

「うむ。フドウもンフィーレア君も疲れている様子であるし、どうしたモノか」

 

「少し良いかね?私は冒険者組合組合長アインザックという。話を聞きたいのだが、明日以降の方が良さそうだな」

 

モモンは歓声等から満足する結果を得られたと大きく頷く。そして、気が付けば時間は遅い。冒険者としては冒険者組合に報告するべきなのだが、時間の都合等から言えば問題が有る。

悩む彼に、フドウは取りあえず組合へ行くことを進言しようとするが、その前にアインザックが話しかけてきた。

組合長アインザック。一見50代に見える白髪が目立つナイスミドルであり、髭が印象的な男性だ。

彼は、先程から目にしていた凄まじいフドウの防衛力や神聖魔法から、消耗した彼女や眠ってしまったンフィーレア。そして、戦闘を終えたばかりのモモン達の状態からして、調査をある程度先に済ましてから話を聞いても問題無いと判断したのだ。

 

「配慮に感謝する。では、首謀者と思われる者の首と遺留品。協力者と思われる女の腕を渡しておこう」

 

「では、一人には逃げられたのかね?」

 

配慮したという事実は重要である。相手に好感を覚える良い切欠になるのだから。

アインザックの配慮に、モモンも配慮した。だが、モモンの言葉にアインザックは警戒せずにはいられない。冒険者チーム。漆黒の剣の報告では、女の方が厄介な様子なのだから。

 

「探せば死体が出るかもしれんが、片足には深手を負わせているからな。アンデッドの群れの中で歩行が困難な状態で両腕を失えばどうなるか分かるだろう?」

 

「なるほど。ンフィーレア君の命を優先したのか」

 

だがモモンの説明を聴けばどうだろう。実に単純明快である。モモンの言うように、そのような状態で生き残っている可能性は考えにくいのだ。モモン達もまだ知らぬ事だが、高位の治療魔法でなければ時間の経った欠損部位は治療できない。

アインザックの常識では、第3位階の魔法でも欠損部位の回復は可能であるが、治療には一定の条件が有る上に、早急な治療が必須なのだ。また、彼の知る青いポーションでは時間はかかるが、傷口を塞ぐ事は可能。だが、その場合新しい腕は生えない。

その為、モモンの言う通りであれば失血死か、戦闘能力が著しく低下していると考えれるためアンデッドに食い荒らされている可能性が高い。万が一生きていたとしても、腕が無くなっている以上、警戒を密にすれば欠損部位の回復可能時間が過ぎれば脅威度は低くなるとアインザックも判断したのだ。

 

「そうなる。では、彼女の冒険者登録も有る。明日向かうが宜しいかな」

 

「問題ないとも」

 

モモンがンフィーレアの命を優先したと言質を取ったアインザックは、モモンが続けて言った内容的に、人格的にも問題無いと判断した。

彼の内心は非常に満足していた。エ・ランテルの防衛力の低下が防がれただけではなく、人格的にも、能力的にも申し分ない人物がリーダーを務めるチームが、新しく冒険者組合に登録されたのだから。

 

「組合長!そんな勝手を許すのか!」

 

「彼は?」

 

「バカだよ」

 

そんな中、イグヴァルジが2人の会話に割り込んできた。彼の内心は嫉妬、憎悪、憤怒に彩られていたのだ。

悪感情を煮詰めた彼の雰囲気が、フドウの中で何かを起こす。まるで拳銃の撃鉄を起こし、シリンダーが切り替わるように、彼女の雰囲気を冷たく、堅いモノへと変えた。

モモンは腕に抱くフドウの雰囲気だけでなく、いつもと違い、第一声が罵声だった事に驚いた。

 

「なんだと!このクソアマ!」

 

「事実でしょうに」

 

様子を見るべきかと考えるモモンを他所に、激昂したイグヴァルジは近寄ろうともフドウに触れようとしない。彼に自覚は無かったが、心が折れており、本能は死を恐れ、短絡的な行動を密かに禁じていたのだ。

唾でも飛ばすのかと言わんばかりに怒鳴りかかるイグヴァルジに対して、仮面越しでも分かる程、フドウの目は道端に転がる小石を見るかのように、酷くつまらなそうだ。

 

「彼は冒険者チーム。クラルグラのイグヴァルジだ。どうやらフドウ君が防衛している中で、いち早く来たのは良いが、中に入るのを拒まれ、彼女と口論になったらしい」

 

「成程。失礼」

 

「ぐぅお!?」

 

そんな中、呆れ気味のアインザックの言葉にモモンは左腕にフドウの背を抱えたまま、右腕でイグヴァルジの首元を掴み、吊るし上げた。

このままでは、フドウが短絡的な行動に出るのではと危惧した為だ。

イグヴァルジは片手で吊し上げられた事で息苦しさを味わいつつ、ソレを可能とする筋力を持つモモンへ嫉妬の視線を送った。

 

「度胸は買うが、己の力不足を猛省するのではなく、私の妻へ暴言を吐くのは宜しく無いな」

 

モモンは内心、イグヴァルジを如何にして排除するべきか考える。彼の目に宿るモノは、リアルで営業マンをしていたモモンにとっては馴染み深く、この目をした者がする内容が予測できた為だ。

ただ警告を送る程、モモンは優しく無い。何処か、Gを発見した者に近い嫌悪感を内心抱いている。

 

「それにだ。君には2体のスケリトルドラゴンとアンデッドの群れを撃破し、彼を救い出せる手段が有ったのかね」

 

「でたらめだ!」

 

「出鱈目かどうかは、組合の調査で判明するだろう。護衛として同行すれば分かる事だ」

 

モモンは理攻めでイグヴァルジの行動を制約し、どのような行動に出るのか選択肢を狭める事にした。

当然の如くイグヴァルジはウソであると言ってくる。モモンとしては、口だけの男であれば真っ先に否定すると考えた為だ。

だが、実際は異なる。

モモンは知らぬ事だが、クラルグラのフルメンバーで、一度スケリトルドラゴンを狩った事が有るのだ。

ただし、それは他のミスリル級の冒険者チームが全滅と引き換えに弱らし、仲間の一人が死にかけた。故に、イグヴァルジはスケリトルドラゴンの恐ろしさをよく理解しているつもりだった。仲間に魔法詠唱者がいなかった為、真の恐怖は知らない。

 

「モモン君。ソコまでにしておいてくれないか」

 

「いいでしょう」

 

「くっ・・・」

 

モモンに理は有り、このままでは冒険者の格を落とす内容になると考えたアインザックはモモンに要請した。

モモンとしては、アインザックが出てきた以上、これ以上責めるのは得策ではないと考えているため、放してやる。

イグヴァルジは襟元を整え、未だに悔しそうな視線をモモンとフドウに送っていた。

 

「イグヴァルジ。モモン君の言うように調査に向かう。君達に強制依頼として同行してもらおう」

 

「んな!何でだ!」

 

「君へのペナルティだ。衛兵からも話を聞いたが、下手すれば、事件解決前に彼女の魔力が尽きていた可能性が有る以上看過はできん」

 

「っ・・・分かった」

 

アインザックは呆れ気味のため息を漏らし、イグヴァルジ率いるクラルグラへ強制依頼を出す。

クラルグラとしては特に問題を起こしていないが、イグヴァルジの行動は目に余る内容が多い。それは、今回だけの件だけではない。

他の冒険者の依頼を、我先にターゲットを倒す事で依頼妨害をした回数や、それが原因でトラブルになり、終にはパーティを離散させた事が有る等、問題行為が多いのだ。

 

「では、我々は失礼する。イグ―――(何だったっけ?)」

 

「イグヴァルジ。で御座います。モモン様」

 

モモン達のやり取りで憂さ晴らしになったのか、フドウはすっかりイグヴァルジに興味を無くしていた。

モモンは、彼女の敵意に似た感情が失せたのを感じ、移動する事にしたのだが名前を思い出せなかった。不自然な空白に、ナーベがモモンに、彼の名を教える。

そして、先日のフドウの指摘は、興味が無い相手の名等、モモンを演じているとはいえ、ナザリック地下大墳墓のアインズ・ウール・ゴウンが覚える必要がないのだと理解しての発言だったのだと理解したのだ。

 

「うむ。イグヴァルジよ。君はミスリルの冒険者であり、リーダーならば正しく戦力差を把握せねば仲間を殺すぞ。精進する事だ」

 

「っ・・・」

 

名をそもそも覚えていない。覚える価値も無いと言われたようなモノであり、イグヴァルジの自尊心はボロボロだった。彼の視線は鋭く、苦虫を噛みしめた様子である。ソレを横目に、顔程度は覚えておくべきだとモモンは思う。

蚊相手程度の警戒心しか抱けぬ違和感を無視して、フドウ達を連れ、エ・ランテルの市街地へ向けて歩き出した。

漆黒の剣の面々は話しかけるべきかと考えていたが、夜も遅い上に、激しい戦闘を終えたであろうモモン達を気遣い、明日、また改めてお礼を言えばいいと考えた。

 

『アインズ様。お話しが御座います』

 

『エントマか。何だ』

 

そんな中、ナザリック地下大墳墓で業務に準じている筈のエントマよりメッセージが届いた。冷静さを装っていると感じる声にモモンは違和感を覚える。

 

『シャルティア様が殺害されました』

 

『・・・何者にだ』

 

エントマの一言は信じられぬ内容だった。

レベル100で戦闘特化のシャルティアが撤退を選べずに撃破される等、到底許容できるはずも無い。そして、問題はそれ以外にも有った。

 

『不明で御座います。事実確認等をアルベド様主導で行っておりますが、報告してきたエイトエッジアサシンも重症であるため、目覚めるのを待っている状況でもあり、情報を少しでも収集する為吸血鬼の花嫁達も回収済みで御座います』

 

『一度セバスとソリュシャンを呼び戻せ。現状使っている馬車については、人間に見えるシモベで休んでいるように見える状態で待機させよ。そしてワールドアイテムの回収はどうだ』

 

モモンからの返答がない事に、エントマは現状を伝える事にした。

モモンとしては、一度招集し、計画の変更も考慮に入れる。だが、最大の問題はシャルティアが出立する際に持たせたワールドアイテムだった。

この世界にも存在し、万が一洗脳でもされれば碌な事にはならないのだから。

 

『ワールドアイテムは問題御座いません。負傷したエイトエッジアサシンが回収しております。御命令承りました。アルベド様へ報告致します』

 

『うむ』

 

だが、幸いにもワールドアイテムは守護者の外部での行動時に支援や陰ながらの護衛を行うエイトエッジアサシンが回収しており、負傷した彼を回収した際に問題無くナザリックへ戻った様子である。

モモンは最悪の事態は回避できたと安堵した。シャルティアには桜花聖域の領域守護者に持たせていたモノを持たせていたのだから。

一度切られたメッセージに、今後の戦略はどうするべきか考えようとするが、精神安定が複数回発生する程の苛立ちを覚える。

 

『アインズ様。火急のご報告が有ります』

 

『今度はお前か。パンドラズ・アクター。何だ』

 

故に、続けざまに繋がったメッセージの相手であるパンドラズ・アクターへの返答は刺々しいモノとなった。

 

『実は―――』

 

パンドラズ・アクターは受けた密命の報告の前に、火急の報告を述べる。

己の造物主が苛立ち、怒りが声のみで伝わる程込められている等、尋常では無いのを理解している為だ。

 

『うむ。お前も一度ナザリックへ帰還せよ』

 

『はい。例のモノは如何なさいますか?』

 

『お前が管理せよ。そしてシャルティア復活の為、王座の間に金貨5億枚を用意しておけ』

 

『承知致しました』

 

パンドラズ・アクターの報告はモモンを落ち着かせるには足りる内容であった。故に、事前の準備等を行うよう命じる。

 

「どうしたんですか?」

 

「一度ナザリックへ戻る案件だ。そして、問題が有る」

 

メッセージでのやり取りは知らないが、道中モモンより不穏な空気を感じ取ったフドウは、聞いても良いか迷った末に問う。

モモンの返答は、小さな声だがフドウやルプー、ナーベ、エンリには確りと聞こえた。そして、気を引き締める。この言い様ではナザリックに問題が発生したように聞こえた為だ。

 

「宿が取れていない。そして、金が無いっ・・・」

 

「・・・モモンさん。此処でソレは無いと思うな」

 

「ん?」

 

だが、判明した問題にフドウは肩透かしを食らった感覚を覚える。

確かに重要且火急の問題だが、心配していた類のモノでは無いのだから。故に、モモンの疑問を抱いている一言等、気にしてられない。

 

「リイジーさん。エンリは泊めてあげてくれませんか?ンフィーレア君の状態から考えると、近くにいた方が良いと思います」

 

「そうじゃな。孫にとってもその方が良さそうじゃし、エンリちゃんだけなら問題ないねぇ」

 

フドウの言葉はリイジーにとって医者の言葉に等しい。

そして、今は2人暮らしである為、エンリだけなら寝床はどうにかなると彼女は判断した。だが、内心モモン達はどうするのかと疑問に思う。

 

「あと、出来たら宿を何とかしたいんですけど、手持ちが少ないのでお恥ずかしい話ですが、この宝石を担保に貸して頂けませんか?」

 

「おぉ。その宝石かい・・・コレは、そのまま宿屋へ支払いとして渡した上で、差額分を貰う方がいいじゃろう。黄金の輝き亭ならば扱ってくれるだろうね。念の為に一筆用意しとくよ」

 

だが、彼女が問う前にフドウは懐から宝石を取り出した。

リイジーは鑑定魔法を使うまでも無く、フドウの持つ宝石は、拳大の大きさである事から、ある程度旧知の仲の者が支配人を務める黄金の輝き亭を薦める。

実力が有るとは言え、魔法詠唱者である彼女が高価な品を所持していると知れば、問題を起こす相手は数知れぬのが世の常だと理解しているのだから。

 

「黄金の輝き亭ですか?確か、高級宿だったと記憶していますが・・・」

 

「お嬢さんや。そのように高価な物の価値が分からんといかんぞ」

 

「以後気を付けます」

 

フドウはリイジーが薦めてきた宿に、それ程この宝石に価値が有るのかと疑問を覚える。彼女的には唯のドロップ品であり、ゲーム時代では二束三文でしか売れないアイテムなのだから。

そんな彼女の様子に、リイジーは何所か叱る雰囲気を醸し出していた。フドウの返答が在り来たりなのはある意味仕方がないだろう。

 

結果として、モモン達は問題無く、黄金の輝き亭に宿泊する事となった。

ただ、部屋へ入って直ぐに、モモンはアインズへ。フドウはジュンとなり、即座に転移門でナザリックへ帰還した為、ナーベがメイド姿で部屋の前で待機している事等知る由も無かった。

なおルプーは森の賢王と共に、早々に馬小屋で寝た。




えー。ちょっと衝撃的過ぎる事実に唖然とするばかりでございます。
御盆休み返上となりましたです。はい。

あと、携帯電話がそろそろ満2年なので、機種変更しようと考えてます。304SH→Xx3か最新のXPかで迷ってますけど・・・そもそもSBは機種変更者には優しくないので、余計に困るという・・・とりあえず、ショップに話を聞きに行きますけどね。ショップごとのキャンペーンに賭けるしか無いかぁ・・・また休日一日寝れないのかー

次回の更新は8月7日を考えてます。
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