魔王様の友人は風変りな悪魔(元男です)   作:Ei-s

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第十九話

アインズとジュンはナザリックへ帰還した。

まるでハチの巣を突いたかのように慌ただしく、いつもの壮厳なる空気では無い。ジュンは、このナザリックが取り乱しているとしか思えぬ状態に、発生した事象は並みではないと直感した。

アインズは王座へ直行しようと歩を進め、ジュンは如何するべきかと立ち止まって考えていれば、アインズの一声でついて行く事となった。

2人が王座の間に入った際、レッドカーペットの両脇には金の山が、5億枚の金貨が積まれていた。

ジュンはこの金貨の山にNPCが撃破されたのだと考えた。

モモンガの旗の真下に違和感を覚えつつも、メッセージでアンジェに連絡を取れば、彼女はカルネ村の周辺の警戒を密にすべく出ており、ライトに繋げれば図書室へ籠り、調べものを手伝っているという。彼女は薄氷の上にいる恐怖を感じた。

一方のアインズは王座にてギルド長権限でマスターソースを開き、ログを確認する。彼はこのシステムがゲーム時代と同じく使える事に感謝した。だが問題が有った。ゲーム時代では、隠蔽系アイテムや魔法を使用していなければ、<誰>と戦闘し、<何時>HPが0となり、<敗北若しくは勝利>したと表記される筈のログは、<時間>と<名前の表示>が、どのような変化をしたのしか分からない。

 

(そうか・・・この落とし前は必ず着けるっ!絶対にだっ!)

 

だが、十分すぎる内容である。

事前に、概要をパンドラズ・アクターに聞かされたとはいえ、シャルティアが遭った災厄に、アインズは内より湧き出た憤怒と憎悪に任せて右の握り拳を力任せに肘掛けへ振り下ろした。

鈍い衝撃音に驚いたジュンが恐る恐るアインズを見れば、漆黒のオーラを淡く揺らめかせ、怨敵を見ているかのように鬼火に似た双眸を輝かせるアインズと目が合う。

 

「・・・あぁ。すいません。つい衝動的になってしまいました」

 

「い、いぇ。大丈夫、ですよね?」

 

「えぇ。何も・・・問題有りませんよ」

 

ジュンの瞳の奥に怯えや不安を感じたアインズは、精神安定の作用で急に冷静さを取り戻し、何でも無いように振る舞う。

ジュンとしては、精神の乱高下とも言うべき感情の変化を起こすアインズの心を心配しての言葉だったのだが、アインズはナザリックの現状や今後と捉えていた。

 

暫くしてアルベドが守護者達とセバスを連れ、王座の間へと入室してきた。

守護者各員の表情が何処か暗く、事態が非常に重いのだとジュンに伝わってくる。

 

「アインズ様。守護者一同。シャルティア・ブラット・フォールン。ヴィクティム。ガルガンチュアを除き、御身の前に揃いましてで御座います」

 

「うむ。負傷したエイトエッジアサシンは何所か。そして、シャルティアに持たせていたワールドアイテムは誰が管理している」

 

跪く守護者一同を前に、アインズは威風堂々と目的を述べる。

その物言いは彼自身、自覚は無いが重々しいモノであり、何処か苛立ちが込められている為アルベドを始め、守護者の背筋に冷たい汗が流れた。

 

「エイトエッジアサシンにつきましては門の前に。僭越ながら、ワールドアイテムにつきましては、私が管理しております」

 

「エイトエッジアサシンを入れよ。ワールドアイテムを私へ」

 

「畏まりました」

 

アインズの様子から、御言葉に確りと応えなければ特大の雷が落ちるのを感じたアルベドは、真剣な顔をして受け答えをする事を選択した。アインズは、初めからどうするのか決めているのか返答のスパンが短い。

アルベドが門の付近に待機しているセバスへ視線を向ければ、セバスは一礼して門を開き、プレアデスのソリュシャンのエントマに支えられた一体の負傷したエイトエッジアサシンに入室を促す。

その様子を視界に捉えたアルベドは王座に近づき、腰に下げていた白い布に包まれたソレをアインズへ手渡せば、即座に元の位置へ戻り跪く。

 

「・・・この布は何か?」

 

「聞き取り調査の結果、どうやらバッグだったようです」

 

アインズはエイトエッジアサシン達が近寄り、アルベドが元の位置へ戻ったのを視認すれば、白い布を膝の上で広げた。

濃い紫の布の切れ端に包まれたワールドアイテムを確認すれば内心安堵する。だが、ソレを表に出さずにアルベドへ問う。

彼女は、ナザリックの秘宝であるワールドアイテムが返って来るのがアインズの最低ラインだったのだと知り、無事に持ち帰ったシモベ達を称賛したくなる程安心した。

 

「畏れナガラ、アインズ様。発言の許可ヲ頂けマスカ」

 

「許す」

 

『死の王。呪いにより治癒魔法が阻害されている様子』

 

そんな中、エイトエッジアサシンが発言の許可を求めた。

彼の忍び装束は新しいモノへと換えたのか皺一つ無いが、ソレを身に纏う彼の状態は悲惨なモノだった。牙や爪は欠け、8本有る脚の数本程失っている。吸い込むような艶が有った甲殻は罅割れており、衣服の隙間からは包帯を覗かせている。重症以外の何物でも無い。

ダメージが酷い為、発せられる言葉は聞き取り辛いモノだった。アインズは何故治療されきっていないのか疑問に思うが、ソレを発する前に、懐へ入れている死の宝珠が発言した。

 

「有り難き幸セ。シャルティア様は御身よりワールドアイテムを貸与されタ事ヲ嬉しく思い、鞄へ入れ、肩よリ下げておりマした・・・」

 

「・・・そうか」

 

(シャルティアちゃんがヤられたのか・・・)

 

アインズの許可に、エイトエッジアサシンはシャルティアの喜んでいる姿を思い出しているのか、その言葉に悔しさを滲ませている。

アインズは短くそう答えるしか出来なかった。思わず作った握りこぶしが震えている事から、アインズの怒りが如何程のモノなのかと思い、皆が皆、アインズの言葉を待つ事しか出来ない。

そんな中、ようやく大量のNPCが殺害されたのではなく、シャルティアが殺害されたのをジュンは理解した。彼女もペロロンチーノと仲が良かった事も有り、苛立ちが間欠泉のように吹き出るのを感じる。

 

「ジュン。彼の治療を頼む」

 

「うん。ただ、この呪い。さっき解いたモノと類似性が有るんだけど」

 

「良い。手早く頼む」

 

(くっ・・・モモンガ様と同じステージに立っているとでもっ!)

 

アインズに治療を依頼される前に、真実の目で解析を済ましていたジュンが確認するも、アインズも理解している。よって、犯人が何所の国の所属なのか既に予測済みだ。

今回の招集において情報の共有が万全では無いというのに、2人はエイトエッジアサシンの回復魔法が上手く作用されない原因を特定しており、その息の良さにアルベドは、己の胸の内にドロドロとしたモノが蠢くのを感じざるをえない。己と比べてしまうのは、人も悪魔も変わらないのだから。

ジュンが左掌をエイトエッジアサシンへ向け、呪いを解くのには魔法最大化と魔法三重化した大治療(ヒール)で十分と判断し、エ・ランテルとは違いシングルアクションで魔法を発動させる。

 

「おぉ。アインズ様。ジュン様。任務を果たせずおめおめ生き残った私に温情を下さり、感謝のしようも御座いません」

 

「何を言う。お前はワールドアイテムを無事にナザリックの者へ渡した功が有る。そして、死なずに帰還したのだ。そう己を責めるモノでは無い」

 

エイトエッジアサシンの治療は一瞬だった。

彼の包帯をソリュシャンとエントマが丁寧に解き、彼は己の脚が8本に戻り、その先に付いている刃の輝きを確認すれば、即座に跪き、頭を下げた。アインズは彼の謝罪に際し、労わる。まるで丁寧に痛めつけられたように重傷だったのだ。回復魔法で傷は癒えたとは言え、精神的ダメージやHPではない、スタミナというべき体力の回復は万全では無いとの判断による言葉だった。

 

「アインズ様っ!しかしっ!」

 

「良いのだ」

 

アインズの暖かい言葉は、更に自責を強化させ、苦しむエイトエッジアサシンは言外に罰を与えてほしいと述べる。だが、アインズに罰を与える気は毛頭無い。

これ以上は不敬に当たると判断し、切腹は別の意味で咎められると判断したエイトエッジアサシンは土下座し、一度額を着けてから跪きなおした。

彼の心中には己へ向けた悔しさ・怒り・憎悪が渦巻いている。だが、君主が許すと仰っているのだ。これ以上罰を欲するのは主人の決定に意見するのではなく、異を唱えるという事。それは不敬と捉え、一礼するのが正しいのだと判断したのだ。

任務を満足に果たせなかったというのに、慈悲深き君により許され、また自殺等もっての他であり、罰を与えられない。仮に己が同じ立場となったらと考えたジュンとアインズを除く皆は、体幹を氷柱で貫かれたような恐怖を感じ、また、許されずに失望されたならば如何程の絶望を覚えるのだろうと思い、気を引き締めた。

 

「さて、事の次第を聞く前にシャルティアを復活させる」

 

アインズは彼等の心中等知る由も無く、マスターソースを開き、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを掲げた。

金貨が溶け、粘体の生き物の如く蠢きながらアインズの目の前、王座の近くに集まり形を成していく。

程なくして、シャルティアの形となり、色も金色より処女雪のように白い肌となる。

 

「シャルティア」

 

「・・・アインズ様?私は何故このような恰好で王座の間に?」

 

「よい。それより服装を整えよ」

 

マスターソースに表示されたシャルティアの名前は正常な白文字であり、問題無く蘇生されたのだと判断したアインズは内心安堵のため息をしたが、問題が有った。シャルティアはZENNRAなのだ。上位物理作成の魔法で黒い布を作成し、魔法で胸部より下を隠してやり名前を呼んでやる。

するとシャルティアは目を開け、少し寝ぼけ気味な様子で己の恰好等を把握する。意識が未だに混濁しているのか、本当にゆっくりと衣服を、アイテムボックスに似た機能の有るアイテムから取り出せば、ソリュシャンやエントマ、アウラが手早くシャルティアに着せてやる。

 

(ペロロンチーノさん・・・)

 

男性陣は基本的に目を逸らしており見ていないが、アインズにはペロロンチーノの幻影がシャルティアの着替えをガン見しているのが見えている。

だが、アインズには彼の視線に普段の色は無く、握られた拳が堅いモノだと見て取れた。姉であるぶくぶく茶釜の幻影が、何処か狼狽えているように触手をオロオロと動かしている事から、シャルティアが『死んだ』原因に怒りを覚えているのだとアインズには思え、彼の怒りに触発されてか、アインズの胸中は穏やかなモノでは無い。

 

「たいへん、お待たせしたでありんす。このような恰好で御前にいわす事をお許しくりゃんせん」

 

「良い。シャルティアよ、お前の最後の記憶は何だ」

 

「はぁ。確か、ワールドアイテムを借り受け、ナザリックを出立・・・!?」

 

暫くすれば着替えが無事に終わったのか、何時もの装束に身を包んだシャルティアが跪いた。ただし、胸の追加装甲は用意していなかったのか、何時もと違い、随分と御淑やかではある。

それが、ペロロンチーノの意思に反する恰好だと考え、そのような恰好で御前に立つ事が恥に感じているのか、何時もより恥じらいが見て取れるのだが、アインズはソレを指摘する余裕等無かった。

アインズの物言いに違和感を覚えつつも、シャルティアは己の記憶を辿れば、貸与されたワールドアイテムを入れていた鞄が無い事にようやく気が付き、焦りと恐怖から白い肌が一層白くなる。

 

「心配せずとも我が手に在る。残念ながら、鞄はこの通り破壊されているがな。本題としてだが、ナザリックを出てからの記憶は無いのか」

 

「は、はぃ・・・」

 

アインズが己の膝に置いてある、ボロ布が掛けられたワールドアイテムを見せてやり、更に追及する。

シャルティアの心は明確な怯えと恐怖に、今にも罅割れそうだ。普段と違い、実に弱弱しい返事を何とか返すのが、今の彼女の限界である。

 

(蘇生されたNPCの記憶は、ナザリックを出た時から途切れている。か・・・)

 

(シャルティアちゃんだけじゃ確証は得られないけど、ギルドの本拠地がセーブポイント的な働きをしている可能性は高い。かな?)

 

アインズとジュンは、現状。NPCの記憶について考察する。その沈黙はアンデッドが故に、止まっている筈のシャルティアの心臓の鼓動が聞こえそうな程の静寂が王座の間を支配するに足りる程重い。

 

「何が有ったのかを聞く前に、もう一人紹介しておく者がいる」

 

だが、アインズとジュンはそんな事に気付かない。彼は、無造作にそう言って沈黙を切り裂いた。

 

「パンドラズ・アクター」

 

「はい。御身の側に」

 

アインズに名を呼ばれ、パンドラズ・アクターがその姿を現す。

彼は先程迄、モモンガの旗の直下で弐式炎雷に変身し、隠遁していたのだ。始めから王座の間にいると知っているアインズと、違和感を覚えていたジュン以外の者達は、己等に気付かれずにソコにいた存在に、思わず背筋が凍る。

これが、ナザリックの者であり助かったと思うべき内容なのだ。

万が一敵だったのならば、己等は目の前で最後に至高の御方である、アインズの死を何も出来ずに観るハメになったのだから。

 

「紹介しよう。私が創造した宝物殿の領域守護者だ」

 

Auf Wiedersehen sind es alle von Ihnen(御機嫌よう皆様)私はパンドラズ・アクター。どうぞお見知りおきを」

 

「さて、エイトエッジアサシン。お前が知る限りの内容を報告せよ」

 

アインズの言葉に、エイトエッジアサシンは語り始めた。

 

そもそも武技を使う者の鹵獲がシャルティアの任務であった。実力者が不自然に消えては問題が有る為、消えても問題無い盗賊等の犯罪者がターゲットである。

 

先行し、エ・ランテルで情報を収集していたセバスとソリュシャンと共に、シャルティアも夕刻。王都へ出発した。馬車の中は実に和気藹々としており、シャルティアは己の任務の重要性よりも、ワールドアイテムを貸与された事に、アインズの愛を感じていると幸せそうだった。

セバスやソリュシャン。そして陰ながら観ているエイトエッジアサシンは、嫉妬を覚えているが、それよりも幸せそうなシャルティアが見た目の年相応の空気を纏っている事から、微笑ましさが勝っていた。

 

だが、この光景は打ち切られる事となる。道中、予定通りに道案内兼任で従者として雇ったザックという男の手引きによる盗賊の襲撃が有り、根城の情報を得て襲撃したのだ。

死を撒く剣団の本拠地である洞窟は吸血鬼の花嫁により阿鼻叫喚の渦へと落とされるも、その進撃はある男により阻まれる。ガゼフにも勝るとも劣らないと言われるブレイン・アングラウスは、剣の修行を目的に、この傭兵団なのか盗賊団なのか怪しい一団の一員になっていた。

彼は武技を使う刀使いであり、少し遊びたくなったシャルティアが相手をする。

だが、期待外れも良い所であった。彼女は、ブレインが武技を使っているのかも分からず、爪も切られぬ弱さに落胆した。その上逃げ出すブレインに、次の遊戯は鬼ごっこと捉え、中途半端に熱を持ってしまった為に、血の狂乱の抑えが効かなくなったシャルティアは、本来の真祖の吸血鬼に相応しい、ヤツメウナギと称される程醜い本来の姿となり、瞬く間に盗賊団と化していた傭兵達の血を吸いつくしていく。

そして、結果的にブレインには逃げられ、接敵した冒険者達を殺害するに至った。

 

「ぅぁ・・・」

 

「ウーンッ!デザートォオイシイィィィ!」

 

「シャルティア様。問題が発生しました」

 

だが、血の狂乱により正気を失っている彼女が気にする筈も無い。

仲間が瞬く間に殺害され、銀武器が効かぬと怯えつつも剣を構えた赤毛の女冒険者。ブリタの健康そうな小麦色の首筋にシャルティアの無数の牙が突き刺さる。

あえてシャルティアが死なぬよう加減してゆっくりと血を吸いだしているが故に、彼女の意識は有り、ゆっくりと確実に血を失い、体の感覚が消えていく感触を、次第に目が見えなくなっていく事で、『死の足音』が近づいてくる事実を実感しており、心は恐怖と絶望に染まる。

力なく頬を流れる一筋の涙は勝気な彼女とは思えない程弱々しく、恐怖がブレンドされた彼女の健康な血液は、シャルティアの舌を満足させる程まろやかであり刺激的だった。

嗜虐心と空腹が満たされる感覚に、シャルティアのテンションはMAXに近い。

だが、水を差す者が現れた。エイトエッジアサシンである。

 

「ナァニィィィ?」

 

「この冒険者らしき人間には仲間がおりエ・ランテル方面へ。そして、先の武技使いは王都方面へ逃走した様子。更に、私に気付くレベルの者を有する集団が森を進行している為方針の決定をお願いしたく」

 

彼の本来の任務は、情報をなんとしてでもナザリックへ持ち帰る事だ。

彼は、先ずブレインを始末、若しくは気絶させてから逃げた冒険者を始末しようと考え、ブレインを追おうとしたのだが、ある一団に己の存在に気付かれてしまったのだ。

高レベルであり、気付かれる事は少ないだろうと、彼の中で慢心が有ったのかもしれないが、例え慢心してようが、気が抜けていようが、早々気付かれる程彼の隠密能力は低くは無い。

だが、気付かれてしまった。謎の強者を含む一団がおり、別方向に逃げる人間が一人ずつ。彼の判断権を大きく上回る事態にシャルティアへの報告・相談を行うべきと判断したのだ。

 

「・・・何ですって?」

 

「あぐぅっ」

 

血の狂乱による狂態が一瞬にして静まり、シャルティアの姿を元の美少女に戻す程の衝撃である。死にかけのブリタを取り落とし、ブリタは突然の衝撃と痛みに呻くも、シャルティアに気付く程の余裕は無い。

アインズの命令には、ナザリックの存在を気付かれぬようにと隠密性も求められていたのだから。

正気を取り戻した彼女は、己の名を知ったブレインの逃走を許したばかりか、吸血鬼がエ・ランテル近郊にいるという情報を持つ、冒険者を取り逃がしたのだと気付き、アインズの叱咤を受ける恐怖に冷静さを失ってしまう。

 

「ッ!眷属よ!殺せ!あぁぁぁ・・・失態。失態だわ!アインズ様に叱られるっ。ワールドアイテム迄貸して頂いたというのに、私はっ。ワタシわぁ・・・っ!」

 

「シャルティア様!お待ちを!」

 

焦りに満ちた彼女は近くに在った巨木の頂上まで一瞬で駆け上り、眷属である吸血鬼の狼を召喚し、森へ散らせた。

大樹の頂上で嘆くシャルティアに、撤退すべきだと進言しようとしたエイトエッジアサシンだったが、眷属が消された感覚を覚えたシャルティアは、その前に眷属が消された地点目指して飛び降りた。彼の制止の声等聞こえる筈も無い。

 

(殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスッ!)

 

守護者最強を自負しているのに、この失態の連続。せめて、エイトエッジアサシンが己の失態をフォローしようとして発見した謎の強者を始末せねば払拭どころか更なる失態の上塗りになる。アインズの信頼や期待に応える所か、失望されても可笑しくないのだ。

恐怖は怒りに、怒りは殺意に。

シャルティアの意識は完全に血の狂乱に呑まれ、身体は暴走を始めた。

真祖の吸血鬼としての本来の姿になり、四肢を地面へ着けて駆ける姿は唯の悍ましい化物であり、殺意に光る深紅の双眸は祟り神のようだ。

 

「ミ゛ヅゲダァァァァ!」

 

「ッ!密集形態!カイレ様!セドラン!」

 

十名ばかりの一団と接敵したシャルティアは、速度を緩める事無く襲い掛かる。

隊長はタンクをしている部下に、カイレが傾城傾国を使う時間を稼ぐ為に盾になるように命じた。

 

「ぐっ(重い!)」

 

「ギィィッ!」

 

漆黒聖典第一次席。隊長のランスとシャルティアの爪の一合目。

彼はランスの特徴である円錐の形状を利用し、シャルティアの爪の一撃を受け流すも、その衝撃は手が痺れる程強力。だが、一拍有れば十分である。カイレの着る傾城傾国の龍の模様が光輝き、光の黄金龍がシャルティアの呑み込まんとし、そのアギトを向けた。

絶対洗脳の効果を持つが、同じワールドアイテム所持者には無意味である。

だが、己を洗脳しようとしたのは、シャルティアも認識した。地面を殴り、その反動で跳び上がり、標的をカイレに変更した。

 

「ま、まだイケる!」

 

「なんと、ケイ・セケ・コゥクが効かぬだと!」

 

だが、その前に巨躯とタワーシールドを持つセドランが立ちはだかる。シャルティアの一撃は盾も、鎧も貫き、セドランの腹を貫通した。

痩せ我慢も良い所だが、セドランはシャルティアを抱きしめる形で、カイレが逃げる時間を稼ごうとする。だが、カイレは傾城傾国の効果が発揮されない事を驚き、後退するまでに一拍の時間を要する。

 

「ザワルナッ!」

 

抱きしめられたと認識したシャルティアは、左腕も腹へ突き刺し、そのまま左右に引き千切る。セドランは苦悶の声をあげる間も無く、上半身と下半身に分かれた。

シャルティアのターゲットは変わらずにカイレである。

クアイエッセが咄嗟に、壁役になるギガントバジリスクを召喚し、シャルティアへ差し向けた。

 

「ジャマァッ!」

 

「ギガントバジリスクまで!」

 

だが、無駄である。シャルティアにとってギガントバジリスクは図体だけの木偶の坊だ。セドランと同じくシャルティアの剛力にその身を引き裂かれ、赤い華を咲かせた。

クアイエッセは自慢のモンスターが塵芥の如く、吹けば散る現実に何とも言えぬ表情をして見せた。

 

このままでは漆黒聖典は程なくして全滅する。だが、その後はどうだろうか。

将来的には竜へもその牙を剥くであろうスレイン法国だが、現状、彼等の存在で人間種や竜王国は何とか存続していると言っても良い。

そして、この恐るべき吸血鬼はどのような行動を取るのか分からぬのだ。ならば、まだ行動が予測できるスレイン法国の方がマシだと彼は判断した。そして、今スレイン法国の力が大幅に削られるのは良くない事象である。

 

白銀の鎧が左籠手を大幅に損傷しながらもシャルティアの爪を受け流し、カイレを護りきる。

 

「貴様はっ!」

 

「今は先に行動すべきだ」

 

「ギエロォ!」

 

「っ!どうやらそのようだな」

 

隊長が謎の鎧を着たモノへ何者だと追及する前にシャルティアの追撃が迫る。

敵か味方か。そのような事よりも合力せねば生き残れないとの判断だ。

 

「ギぃ!?」

 

(鞄を庇った?ならば!)

 

鎧と隊長の攻撃。8名程の人間による第2~5位階の魔法の乱打。魔法はレベル差から全く効かないが意識が逸れる為、地味にダメージを負う2人の刃が届く事が何度か有り、咄嗟にシャルティアはワールドアイテムが入っている鞄を庇った。

そして、何か重要なモノであり、この戦局を変える何かが有ると隊長は考え、そのランスを鞄の金具の穴へ向け付き出した。

 

「ジマッ」

 

「カイレ様!」

 

乾坤一擲の、生涯でも何度出せるか分からぬ神突というべき一撃は見事に金具を破壊し、鞄がずり落ちる。シャルティアの鞄は<上位>に属するアイテムだったのだ。流石のペロロンチーノであっても、数多くの衣装やアクセサリーを遺産(レガシー)以上で揃える事はできなかったのだ。その為、シャルティアは万が一が無いよう、不浄衝撃盾を使わなかった。使えなかったのだ。

そして、地味に隊長のランスはスレイン法国の至宝であり六大神の遺した武器。アイテムのランクは遺産(レガシー)であり、付与された効果の一つ。装備破壊が見事に仕事をした結果である。

 

「んぐぃいいいいいッ!?」

 

洗脳の黄金龍の咢にかかり、シャルティアは己の頭が罅割れるような激痛を覚える。

精神攻撃への耐性を持つ己の精神を弄ろうとしている。この事実は彼女に血涙を流させ、最後の力を振り絞り、右手にスポイトランスを、左手に清浄投擲槍を召喚し、大きく仰け反った姿勢から二本ともカイレへ向けて投げた。

正に最後の渾身の一撃。二槍は空気を切り裂き、空間すら裂くのではと思われる速度で突き進む。

そして誰も反応できぬまま、スポイトランスは白銀の鎧を貫通し、清浄投擲槍はカイレの腹を打ち貫いたのだ。

 

「カイレ様!セドラン!」

 

「なんという事だ。まさか、討たれるとは・・・」

 

完全に支配する前にカイレが討たれた事で、シャルティアは力無く俯き、先程迄の狂態が嘘かのように静かになった。

森の静寂の中、慌ただしく状態確認をしようとする漆黒聖典の足音や声のみが、異様にハッキリと聞こえる。

 

「っ!?この姿は・・・」

 

(どうやらえぬぴーしぃー(?)のようだね・・・そろそろだとは思っていたが、早いな・・・)

 

隊長はカイレとセドランの処置を部下達へ任せ、シャルティアの姿に驚く。先程の醜い姿では無く、可憐な少女の姿をしていたのだ。もし、敵として遭わなければ、何所ぞの貴族の娘だと言わんばかりの恰好に、驚きを隠せないでいたのだ。

一方、鎧を通じて参戦していた通称、ツアーと呼ばれるドラゴンはその強さや、現在の美貌からシャルティアが100年周期で現れる存在の付属品であると判断した。ドラゴンは寿命の関係から、非常に時間感覚が疎い為、既に100年を過ぎているのかと、再び面倒な事態になると考え、本体がため息をつく程だ。

 

「!まだ居たのか!」

 

「ぐっ!(ぬかった!だが!)」

 

「煙幕だと!?」

 

戦闘直後はどのような戦士でも極度の緊張が解け、油断する事が多い。激戦であればある程この傾向が強い。これは、人が長い時間集中できず、ストレスに弱いからだと言う者がいる。

考え方の一つとして、敵を倒した事から、恐怖を与える者を倒し、安心した為に極度の緊張が解かれたというモノが有る。

この瞬間が最も危険だと隊長は理解していた。

エイトエッジアサシンは油断無くシャルティアの鞄だった物の近くへ、音も無く近づいていたのだ。だが、不運な事に鞄はシャルティアの近く。隊長は勘と、微弱な風の流れの変化によりエイトエッジアサシンの接近に気付き、咄嗟にランスを振り抜く。

その一撃は、咄嗟に脚数本ごと体を守ったエイトエッジアサシンの脇腹を掠めた。だが、このランスの装備破壊が作用し、彼の脚や甲殻、爪は罅割れ、砕けた。

彼の体は生体装甲である。不運にも防具扱いになる肌であるのが災いとなり、予想以上のダメージを負ってしまった。

しかし、彼はダメージと引き換えに鞄の奪取に成功し、懐から取り出した煙玉を地面へ投げつけ、一帯を白煙が覆う。

 

「っ!?カイレ様がっ!」

 

「なんという事だ!このままではっ!」

 

そして、一陣の風が吹いた。

一瞬だけ晴れた白煙に、本国で蘇生する為に遺体の保存作業をしていた隊員は、カイレの死体が一瞬にして消え去った事に驚愕する。

これが意味するのは、至宝<傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)>が奪われたという事だ。

 

「敵・・・敵、テキ、敵ハコロス!殺す殺す殺す!」

 

この異常事態に、エドガールはシャルティアが暴れ出さないように捕縛を試みたのだが、それが災いした。

捕縛を攻撃と判断し、先の殺意が何所かに残っていたのだろう。再びその爪が猛威を振るう。

美しい少女の姿のまま爪を伸ばし、エドガールを切り裂いた。 

 

「っ!撤退っ!」

 

「隊長!?」

 

「きゃはははははっ!」

 

シャルティアの再起動により隊長は撤退を選択したが、遅かったのかもしれない。

彼女は一歩でツアーの操る鎧へ接近し、スポイトランスを引く抜きば、鎧をランスで薙ぎ払い、ピンボールのように弾き飛ばすと、隊長へ接近。ランスとランスがぶつかり合い、強大な金属音が響き渡り、隊長のランスは彼の腕を肩口から千切り、弾き飛ばされる結果となった。

 

「どうやら正気を完全に失ったようだね。ここは、ぷれいやーがいると理解しただけでも良しとしよう。漆黒聖典の全滅は予想外だが、まぁ良いか」

 

ツアーは鎧越しに、シャルティア主催のブラッティーカーニバルを観ながら、今後を如何するべきか思案する。

護りたくも無かった漆黒聖典が阿鼻叫喚の渦の下全滅するのを眺めながら、プレイヤーとの接触に際し、どう対応すべきなのか悩む。

心臓を引き抜きながら嘲笑うシャルティアの姿が、あまりにも邪悪に見え、八欲王側のプレイヤーの可能性が高いと感じる為だ。

もっとも、接敵時で既に暴走しており、現在は正気を失っている為、種族としての残虐性が発揮している可能性も有る。プレイヤー自身も見た目が如何に邪悪であろうとも善良な者もいる為、判断は非常に難しい。

 

「あ、貴方は・・・」

 

「今は休みなさい」

 

そんな阿鼻叫喚の中、エイトエッジアサシンはランスに込められた呪いと毒により、霞む意識の中己を抱えて移動する忍び装束を着た異形の者の影を見た。

感じられる気配はナザリックの者ではあるが、彼の記憶には己と大差ない身長で忍び装束を纏う者は知らない。そんな彼に、異形の者は優しく労わるように述べた。

 

以上がエイトエッジアサシンの記憶であり、最後にアルベドがこの異形の者らしき存在がエイトエッジアサシンを吸血鬼の花嫁の前へ置き、颯爽と姿を消したと付け加えた。

 

王座の間は嫌な沈黙が支配していた。

万全な態勢で送り出した守護者最強、シャルティアの失態は非常に暗い影を落とすのに相応しい。

 

「アンタ、アンデッドなのに操られたっての?」

 

「あ、あぁぁぁ」

 

「お姉ちゃん。シャルティアさん・・・」

 

そんな中、アウラが馬鹿にするような口調でシャルティアへ話しかけた。

だが、シャルティアの精神状況は最悪である。両膝を着き、顔を両手で隠しながら俯き、狼狽するばかりで意味の成す言葉を発していなかったのだ。

マーレは姉の言葉に心配と労わりが有り少しでも反発させることで元気づけようとしたが、失敗したのだと分かり、己は彼女を労わるべきなのかと思った。

 

アインズの目には毛を逆立てながら、黄金の面から覗かせる目を憤怒から赤く光らせるペロロンチーノの姿が見えていた。

彼は思うのだ。血の狂乱は設定付けも有るが、ビルドの関係で着いたスキルである。発動を無効化するアイテムが有れば、また、ワールドアイテムを入れていた鞄が遺産(レガシー)以上であれば、この様な結果に至らなかった可能性が高いのだから。

そんな彼を珍しくぶくぶく茶釜が触手を伸ばし、背中を軽く撫でてやっているのが非常に印象的である。

 

「・・・成程。やはり、羊の群れの中に狼が隠れていたか」

 

「アインズ様!これは由々しき事態。即座に対応するべき案件だと愚考致します」

 

アインズは、パンドラズ・アクターより事前に、簡潔に聞かされていた内容だが、以前、会議にて懸念していた内容が大当たりだったと思う。そして、デミウルゴスはアインズの先見の明に戦慄を覚えながらも、この対応は火急であると進言した。

 

「その通りだが、まだ続きは有る」

 

「続キデスト?」

 

アインズとしても、守護者達への説明は必要だと考えている。その為の招集なのだが、情報の開示はまだ全て終わっていない。

危機的状況が有ったという説明はコレで終わりだと思っていたコキュートスは、まだ続きが有るとは考えていなかった様子だ。

 

「僭越ながら、報告を申し上げます前に謝罪させて頂きたい」

 

そんな中、パンドラズ・アクターはアルベドの横へ移動し、跪きなおした。

謝罪をする内容とはと、守護者達はパンドラズ・アクターへ注視する。

 

「アインズ様より賜った密命を遂行していた道中、私はこの現場の上空におり、非常事態だと判断し参戦いたしました。アインズ様へ御指示を伺う事も無く、御命令に背き姿を現し、エイトエッジアサシン殿を逃がしたのは私で御座います」

 

「よい。密命に関しては確証を得られぬ情報は無用な混乱を抱かせる。私としても無用な混乱を起こさぬ為にそう命じたに過ぎん。通常であれば命令違反となり問題になるが、おまえはナザリックの秘宝を守るべく、己で考え、私の為に行動したのだ。称賛する類のモノであり、罰するモノではない」

 

ナザリックの主、造物主直々の密命等、ナザリックに属する者にとっては命を賭けて達成せねばならない内容であり、至上の名誉である。

パンドラズ・アクターは己の咎を確りと認識しており、アインズはパンドラズ・アクターのみを信頼しているのではなく、都合が良かっただけなのだと暗に告げ、パンドラズ・アクターを逆に褒めてやった。

 

(っ、アインズ様謹製の宝物殿の領域守護者であり懐刀だったのね。私にも知らされぬ密命だなんてっ!)

 

(やはり、アインズ様は我々を御試しになられているか・・・そうは見せぬ立ち振る舞い。私もまだまだですね)

 

(密命か・・・私も、そろそろ彼女を動かす事にしようかな。それに構想も纏まったし、実験の為にNPCを創らないと。彼女はアインズさんに知られる訳にはいか無いから、デコイに丁度良いだろうし)

 

だが、守護者にはそうは聞こえず、パンドラズ・アクターはアインズの切り札でもあるとしか伝わらなかった。

アルベドはその重用される事に嫉妬し、デミウルゴスはアインズの慎重性や演技力に感服する。

ジュンは、未だ起動していないNPCを使う事にした。そして、もう一体創る事を決定する。起動に際し不安も有るが、己の目や耳となるNPCは必要なのだから。アインズが何をもってパンドラズ・アクターを動かしたのかは知らないが、己に知らさずに動かしたのが非常に気にかかるのだ。

 

「しかしながら行動が短絡的でありました。シャルティア殿をワールドアイテムの洗脳状態から救い出すため―――殺したのは私で御座います」

 

アインズの許しの言葉はパンドラズ・アクターにとって予定調和である。

しかし、守護者達への説明は不十分であると感じていたパンドラズ・アクターはそう言って、一度頭を下げなおした。

 

彼の言葉に、守護者達に激震が奔った。





パンドラ「ア~インズ様の真の側近は、創造物であるこのぉ私ぃだぁ!」
アル&デミ「ぐぅぎぎぎぎっ!」


ペロ「ちくしょう!ちくしょう!俺のシャルティアを傷モノにしやがったなこの卵ヘッド!」
茶釜「・・・アンタ。無理にボケなくて良いから」

ってなお話しでした。
次は・・・うまくいけば21日に投稿できると思います。
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