魔王様の友人は風変りな悪魔(元男です)   作:Ei-s

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更新おくれてすいません。仕事の多さナメてました・・・


第二二話

リザードマンの村への侵攻。

アインズはこの決定を少々迷っていたが、シャルティアの一件の数日後、正式に決定した。これは、シャルティアが何とか冒険者として活動している事が大きい。モモンとして監督している時に、モンスター相手だが血の狂乱が発動しかけたのだが、モモンの前だからなのか、それとも悪印象を払拭する為か彼女は見事に抑えきったのだ。

NPCの成長・・・可能性を見た気がしたアインズは、先のアルベドの述べた彼等、リザードマンの遺体が高レベルアンデッドの素体足り得るのか。そして、パンドラズ・アクターから齎された情報により、かの地の地下や湖の下に、己の考察の確証が眠っているのか確認する為に、一度制圧すべきと判断した。

ジュンへは軽い一当てをし、彼等の反応次第では全滅させない。女子供(雌雄の判断はつきにくい)は彼等の人間性というべきか、考え方が人間と変わらない様子であれば手を出さ無い事を条件に侵攻の理解を得て問題は無い。

 

冒険者モモンとして活動し、カルネ村の復興具合やトブの森の捜査結果等々、アインズがアルベドから受ける報告は種類もさることながら、上がっている報告は重要案件も多い。

特に、特異な薬草の材料と成るレイドボス的な、ザイトルクワエの存在が、ナザリック第六階層へ移住したドライアードから齎され、同時に移住したトレント系植物モンスターから得た補足情報により、大元のザイトルクワエをアウラ、マーレを主軸にコキュートス、デミウルゴスを加えたメンバーで殲滅し、枝や根等採取。枝や根を元に栽培に着手した事が地味に重要である。

コレから採取された各種薬草がユグドラシルの赤いポーション。その材料の代価品になる可能性が大きいからだ。

トブの森にてアウラの作成している第二拠点。コレは様々な面を持つ生産拠点になり始めている。万が一育ち過ぎればザイトルクワエの大量放出に繋がる為、管理を徹底させる必要が有る。ザイトルクワエ自体が栄養を奪い合う為、ドルイドであるマーレの仕事は意外と多くなっている。

 

各種報告を受け終わり、時間が出来た為一息着こうとアインズが考えていると、アルベドが己を注視している事に気付いた。

 

(あぁ。結局時間が合わなかったか)

 

「アインズ様。何故ジュン様の案をご採用になられたのか御聞きしても宜しいでしょうか」

 

王座でシャルティアの沙汰を下した際に、良い機会だと話し合うつもりであったが、時間が合わずにできていなかった事をアインズが思い出していると、アルベドは意を決した様子で口を開いた。

その表情も声音も堅く、無表情。シャルティアの沙汰は未だに納得できていない様子である。

 

「そう怖い顔をするな。毒虫が潜んでいた。仕方ない事だ」

 

「しかし!」

 

「まぁ待て。血の狂乱はシャルティアの意思の力で抑えられると判明し、私の許可無く解放する事は流石に無いだろう。あの底抜けに明るいペロロンチーノさんの娘であるシャルティアが沈んでいる姿等見たくないのだ」

 

「・・・畏まりました。」

 

アインズとしては結果的に、シャルティアを通してペロロンチーノを見ている。彼女の仕草にペロロンチーノの影を感じられ、意外にも楽しんでいるのだが・・・モモンとして、冒険者として動いている際に、ふとした拍子にシャルティアの表情が曇る事が多い事に気付いていた。シャルティアはアインズやジュンと共に行動する事から、自責を封じ込め、いつも通りの自分を演じている。空元気というべき状態なのだ。仮にナザリックへ完全に謹慎となればどうなるのか。想像するのは難しく無い。

アインズが内心シャルティアを案じている事はアルベドも理解している。そして、彼女がアインズの前で血の狂乱を抑え込められている結果を出している以上、アルベドも渋々認めざるを得ない。

辛い時に笑う事を強要され、また、他の者達からは渇望と嫉妬の念を向けられる。意外とこの罰はキツイのかもしれないと考えた事も大きい。

 

「うむ。それよりも、だ。お前はナザリックの維持に尽力していると判断した。予想以上の倹約ぶりだ」

 

「はぁ・・・ぇ?」

 

アインズがアルベドと話をしたかったのは、ジュンから言われたように、確りと向き合うつもりだった。そして、その切欠としてアルベドの仕事ぶりは丁度良い。

一方のアルベドは、急に機嫌の良い声音で己の仕事を評価する旨を述べるアインズに、少々思考がフリーズを起こし、何処か不思議そうな相槌を打ってしまう。

 

「なんだ。私がお前の仕事を評価している。ただそれだけの話だぞ」

 

「――はい。ありがとうございます」

 

ゆっくりと話をする機会に、しかも二人っきりの密室で己の仕事を良い方向で評価される。そして、ソレは己の勘違いでは無い。

アインズの声音が優しいモノである事から、アルベドの胸を幸福が満たす。思わず胸が高まり鼓動が早まる。だが、顔色一つ変えない。ある意味淑女の必須技術だろう。

しかし、事務作業の補佐の為アルベドはアインズの左後ろに控えており、アインズから見えない位置にある腰の黒翼は非常に素直であり、御機嫌そうに、小刻みに揺らめいている。

 

「して、何か褒美として欲しいモノは有るか」

 

「アインズ様の御子を授かりたいです(褒美等、当然の事をした迄で御座います)」

 

アインズはそんなアルベドの様子に気付かず聞く。

だが、色々と御預け状態だった上に、ジュンをメインで構っていると感じていた中で、2人っきりの密室でご褒美を聞かれたアルベド。

つい、本音と建前が逆転するというモノ。

乙女回路が全開駆動中で、いつもの微笑みを浮かべたままでとんでもない発言をしてしまった。

 

「あ・・・」

 

「ぬぅ・・・」

 

思わず沈黙する場の空気。アインズはアルベドの発言にフリーズしてしまい眼窩の真紅の灯が消えている。

アインズの様子に気付いたアルベドは己のミスに気付き、思わず声を漏らせばアインズもフリーズから解放されたのか難しそうに唸る。

 

(失態!失態だわ!つい本音が・・・じゃなくて、えっと、あっと、どうしよう!?落ち着くの!落ち着くのよアルベド。ここは、このまま既成事実を狙って・・・って、今の御姿は元の!けど、きっとオーラブレードとか、見事な御骨がローブの下にあるかもしれないし、ここは飛び込むべき!よし!アインズ様の御反応次第で組伏せなきゃ!天井のエイトエッジアサシンの数は5。増援無し。女は度胸っ!)

 

(あ、マズイ。何か追い詰められた獲物感・・・何とか説得させて落ち着かせないと何か無くしそう)

 

一度言ってしまった以上、取り繕うのは非常に難しいモノである。

内心パニックを起こしたアルベドの脳裏には実力行使・既成事実に彩られ、ソレを可能な限り表に出さぬように努めるも、その眼光は凄まじい。

アインズが身の危険を感じる程に。

 

「まぁ待て。子が欲しいのは分かった。だが、母体になる以上どのような結果になるのか不明であるし、負担も大きいだろう。此処は慎重に、先ずNPC同士や、人間との間に子供が出来るのかを調べ、検証してから行為に及ぶべきだ」

 

「アインズ様!最も偉大で慈悲深き御方!私を案じておられているのですねっ!でしたらお情けを頂けませんか!私は既に準備済みで御座います!勿論着たままが良いという事でしたら、このまま!今すぐに!」

 

アインズは己が何を言っているか自覚は無い。

暗に異種交配実験も考えており、その結果を知った上で、安全且確実に子供が欲しいと言っているようなモノである。

アインズが己の身を案じており、また、己との子も望んでいる。忙しいと彼女にとっての長期間(2週間程)、仕事以外の話は無い上に、メッセージによる魔法で御身の姿を見る事も叶わぬ事多数。ジュンとの関係から、愛していると書き換えたのは戯れだったのかと、内心不安に思っていた彼女の心。

アインズの言葉は暴発に値する程凶悪且強力である。

結果として、アルベドの乙女回路にガソリンどころか、ニトロを投入したようなモノだ。

手を胸の前で組み、腰の羽はパタパタと忙しなく動いており、眼が期待と歓喜でキラキラしている。

地味に手の甲に血管浮かび上がっている事から、襲い掛かるのを自制しているのは、彼女しか分からない事だ。

 

『いけ!アルベド!ソコだ!ヤレ!あだっ――』

 

『モモンガさん。アルベドが焦りすぎですし、正直女をモノ扱いするのは酷いと思うな』

 

『そぅだょーモモンガお兄ちゃん。アルベドの性格からするとガツンッと一発強い口調で押さえつけないと襲われるよー』

 

『えっと、ジュンちゃんが今知ると軽蔑するかも?確り向き合わないとダメだと思うな』

 

タブラの幻影は触手を蠢かせながらアルベドを興奮しながら応援していたが、やまいこの剛腕により黙らされる。

彼女的は暗にアルベドが己を安売り(実態的には押し売り・押しつけに該当)し過ぎている事や、アインズが地味にジュンにしろ、アルベドにしろ、掌で転がしているように見えているのか珍しく棘の有る様子。

やまいこを援護するのは、ロリボイス仕様のぶくぶく茶釜と何か言わないと、いった感じのあんころもっちもち。

アインズ・ウール・ゴウン女子連合による進言は非常に大きな効力を持つ。

 

「落ち着け」

 

「っ――申し訳ございません。不敬を働きました」

 

「よい。一つ聞きたい。何故そうも焦る。我々の寿命というべきか・・・時間は多く在る」

 

絶望のオーラ<Ⅴ>を発動し、黒煙を噴出した上で重く告げるアインズに、アルベドは先の興奮も忘れ、思わず跪く程のプレッシャーを味わう。

完全に我に返り、即座に跪いた。

そして問題は、アインズのアルベドを見る目である。

正確には眼窩に宿る灯なのだが、淡く揺らめいているようでいて、確りとした深紅の輝きに、アルベドは己の心の隅々迄見通される感覚を味わい、己の奥底に在る、アインズ以外の至高の御方への憎悪すら知られているのではと、不安から黙るしか無かった。

 

「それはっ・・・」

 

「良い。この場において私の心にのみ留めよう」

 

至高の御方から問に沈黙で答えるのは不敬である。

何か言葉として返さなければと焦りから言葉を紡ごうとするアルベドだったが、不意にアインズから優しげに発言を促される。

アルベドは、アインズの先の重々しい言葉とは違い、慈悲深く聞こえる声音が恐ろしく感じ、未だに発動される絶望のオーラ<Ⅴ>の重圧とのギャップも含め、思わず背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。

 

「っ・・・」

 

「アルベド。答えられぬか?」

 

言葉が詰まったアルベドに対し、アインズの声音は何所までも柔らかい。

アインズに、アルベドを追い詰めるつもりは全く無い。だが、この声音に反し、真偽を見抜くような視線をしていると、アルベドに思われているとは考えてもいない。

 

「ジュンか・・・いや、それだけでは無いな?」

 

「っ!!!」

 

あえて既存の情報を出し、相手を揺さぶるのは尋問の常習手段である。

疑問形で〆ているのは、不安等で追い詰められている相手にはたまったモノでは無い。アルベドは顔にこそ出しはしなかったが、一度翼ピクリと跳ねた。そして、アインズはソレに気付いている。

 

「ジュンへ嫉妬しているのは知っているし、私が手を加える前に私を愛していたのは嬉しく思う。一つ聞きたい。やはり、お前も皆を憎んでいるのか?」

 

「やはり、とはどういう事なのでしょう?」

 

「なに、パンドラズ・アクターがな。私に告白してくれたのだよ。私も、彼等へ思う事は多々あるが許している」

 

「そう、なのですか・・・」

 

アインズの言葉に、何処か神妙な様子を見せるアルベド。話を聞く体勢になったと感じたアインズは手応えを感じていたが、彼女の理解は彼の理解の範疇外に在る。

なんの事も無い。己の造物主を含む、他の至高の御方と呼ばれる40人の存在は、彼女の心を占める割合がソレ程大きくないのだから。

アインズは、やはり己の心の奥に仕舞っている感情に気付いている。そして、類似の感情を抱いているが、既に昇華済みなのだとアルベドは理解した。愛しい人を傷つけ、己等を捨てた者達であり、負の感情の向ける相手。

だが、ただそれだけだ。

アルベドが真に恐れているのは、彼等がアインズ――モモンガを元の世界へ連れ去る為に現れる可能性である。その危険性が燻っている為に、ナザリックへ押し留める為の楔。『子供』が欲しいと考えていないと言えば嘘になるのだ。

もっとも、上記は要因の一部であり、彼女自身の性格等が主原因である。

 

「おまえも私を見ていてくれた。ならば、私の不甲斐無さの為にそう思っていても可笑しくはあるまい」

 

「不甲斐無さ等!そもそも他の至高の御方がこの地を去ったのがそもそもの原因ではありませんか!」

 

アインズ的には予想外だが、アルベド程の美女から好かれるのが嫌かと言われれば、否である。もっとも、色々と困る事も多いが。

ともかく、王座の間にいたとすれば、己を見ていたと考えると、パンドラズ・アクターのように考えているのでは?と考える程、パンドラズ・アクターの告白は、アインズのアルベドへの考え方を変える要因となっていた。

アルベドは、アインズの自嘲に反論する。アインズの思惑通りに。

 

「そう怒るな。そもそもリアルは我々が生きていく上での割合が非常に大きかったのだ。その結果、此方へ来れなくなったのだ」

 

「・・・しかし、アインズ様だけは残って下さいました」

 

ユグドラシルという世界を、可能な限りゲームでは無く、一つの世界としてアルベドの意識改革を行おうとアインズは考えていた。仮に皆が見つかったとして、NPCに殺される等考えたくもないのだ。

だが、リアルではなく、ユグドラシルへ傾倒していたアインズが言っても説得力が半減するのは当たり前である。皆が皆、一日が一週間。一週間が一月。終いには引退。そんな彼等とアインズの違いは些細なモノなのだろうが、ソレが致命的でもあった。

 

「そうだな。だが、彼等にとってリアルの方が大事であっただけだ。せめて、躯となり来れなくなっただと思いたくないモノ。何人かは、病が原因であったからな」

 

「病・・・しかし蘇生魔法や治癒魔法が――」

 

「リアルには存在しない。いや、既に夢幻の果てとなったと言うべきか・・・」

 

アインズは彼女が確りと落ち着いたと判断し、絶望のオーラ<Ⅴ>を解除し、彼女の言分を優しげに肯定しつつも、止むを得ない事情が有ったのだと伝える。

アルベドの答えはゲームであるならば当然の答えである。アインズは、嘗て在ったかもしれない魔法や奇跡を想い、戦争や環境破壊の末に失われた古代文明の遺跡や文化財の存在を含めて、何処か遠くを見るかのように答える。

 

「大地は腐り、空気は毒に。海は死で溢れる世界。ただ奪うだけでは飽き足らず、壮絶なる過労の末の死のみが慈悲。下々が魂すら削り、己等の生活を維持している事に気付かぬ愚か者共には、子を増やし未来を創る発想も無い。夢と希望を下々に与える事も無い不毛ともいえる世界。ソレがリアルだ」

 

アインズは資料で知っていた。いや、資料としてでしか知らないと言うべきか。それ故に、この世界の夜空を見た際に、アンデッドと化した精神にも感じるモノが在った。

リアルは、一世紀程前はまだ大地は緑であり、空や海は蒼かったのだと。数々の問題が在ったが、ソレでも最低限の生活が保障され、人としての尊厳が護られていた時代。

それが、己が生きる時代では完全な統制の下、サボる事を禁じられた働き蟻の如く、富裕層を生かす為の部品と化した人々。そして、子供を育てるには劣悪すぎる環境に加え、そもそも結婚を考える事も少なくなった世界。

悟で在った頃はリアルに生きる価値を見出せなくなっていたのだ。

転勤と称され、退職した女性が路地で奪われつくされた躯となり、曝される事も少なくなかったのだから。

末期な世界である。

 

「不思議そうだな?」

 

「いえ、アインズ様の為となるならば死すらも受け入れるのが我々の役目でありますので」

 

「私の為に働く事こそが、お前達の夢であり希望であるのは理解しているし、嬉しくも思う。だが、この世界の者も。人間の夢は違う。家族の幸せを、より未知を、奪われたモノを取り戻したいという夢を持つ者が大半だと願いたい」

 

アインズの怒りを通り越した悲しみを感じさせる声音にアルベドはどう話しかけて良いか困惑していた。そして、その困惑している様子を、アインズは価値観が合わない為なのだろうと考えれば、肯定する答えが返ってきた。

アルベドの言い分も理解できる。ナザリックに休暇制度を導入しようとした際の猛反発にはアインズも頭を悩ませたのだから。

だが、己を崇拝し、何も変わらぬ日常は幸せなのだろうかという疑問がアインズには在る。

 

「私はな。子が笑い合い、皆が皆最低限の教育を受け、死するその瞬間、幸福感で満たされる事が最善であると考える。中には例外はいるがな」

 

アインズの祈り。

慈悲深い『優しい世界』。もっとも、自己利益のみを追求し、奪うばかりの者は例外だとも考えているが、青臭い理想論。

だが、之こそが、鈴木悟という人間が抱いていた夢だとすれば、現実により打ちのめされ、砕かれた夢の欠片は星となり、確かにアインズの中で輝き続けているのだろう。

 

「アルベドよ。現状ナザリックにおいて我が子を作ったとして、子が笑える世界であるか?このナザリックの外はどうだ?」

 

「時期尚早だというのは理解しました。ですが、何故お情けを頂けないのでしょう?」

 

アインズの中で『子』は次世代を、『未来』を表しているのだろう。

故に、アルベドは『子』が産まれる土壌、『世界』が整っていないと理解した。現状、不足しているモノばかりなのだから。

だが、彼女の『女』としての部分が不満を訴える。

愛しいヒトと一つとなり、得られる幸福感は確かに存在するのだから。

 

「子が出来る可能性が有る以上すべきではない。それにだ――」

 

「あ、アインズ様?」

 

アインズは静かに立ち上がり、アルベドの前に立つ。アルベドはアインズが己を見下ろし、己の目を見るアインズの眼窩に宿る炎を直視できなかった。

 

ワールドアイテムである<力の涙>で人間の肉体を得る事は出来る。小悪魔等の種族レベルを設定すれば、悪魔の体を得る事も可能だろう。

同系統種族であれば子を成す事は可能性が有るとアインズは考えている。だがジュンの件も有る。アルベドと向き合い、確りとした結果を出さなければならない上に、現状アインズは二兎を追っている状況なのだ。

 

「おまえが・・・子が出来ぬと嘆き悲しむ姿等見たくはない。今は、コレが限界だ――」

 

「アインズ、様・・・」

 

アインズは彼女の細い腰へ腕を回し、抱き寄せ頭を撫で、その額に口を近づけた。皮膚が無い状態であり、前歯を額に当てる行為は『キス』と言えるかは不明である。しかし、アルベドは『キス』であると認識し、頬を赤く染め、アインズの背中へ手を伸ばした。

不誠実な行動であるが、アルベドを説得するにはこうするのがベストであるとアインズは考えており、己へ抱き着く彼女の好きにしながらも頭を撫で続ける。

 

『なに?このチョロイン・・・』

 

『タブラちゃん。此処は娘を大切に思ってるって思おうよ』

 

『乙女ゲーだねw』

 

『茶釜さん。ロリボイスでソレは無いよー』

 

アルベドのあまりのチョロイン具合に、製作者であるタブラの幻影は明らかに肩を下ろした状態で愚痴る。

そんな彼を女性陣3人が笑い話にしているのだが、兎も角。彼等はこれ以上覗く気は無いのか、霞の如く消え去った。

 

(あぁ・・・抱きしめて頂いてる。頭に感じるこの感触。あぁ、アルベドは、アルベドは――)

 

アインズは、子ができる可能性が有るというのに、出来なかった場合アルベドが傷つき、嘆くと考え、行動しないのだと言っているように、アルベドには聞こえた。

抱きしめられているアルベドの心は荒れ狂う大海に浮かぶ木の葉かのようだ。アインズという大海に翻弄され、今、その御身に包まれている。

幸福感と共に、ソレは顔を出し、ソレを抑え込む事等彼女にはできなかった。

 

「く、くふぅぅううう!」

 

(なにが起きた!?)

 

アルベドは興奮に満ちた奇声と共に、アインズの大腿部へと手を伸ばし、掬い上げて押し倒した。見事な零距離による両手刈りだ。そしてそのままアインズの股間部へそっと腰を下ろす。

余りにも空気を読まない、完全なる奇襲に、天井で待機しているエイトエッジアサシンと目が合ったアインズは混乱が瞬時に収まり、状況を把握しようとする。

 

「アインズ様。私の愛しき御方!アルベドは、アルベドはもう我慢できません!子が出来なくとも私はっ!私はアインズ様と一つになりたい!」

 

「ま、待て!」

 

興奮冷めぬアルベドは金色の瞳を妖しく輝かせながら、己の服とアインズのローブへと手を伸ばす。

強行するアルベドにアインズも焦る。起き上がろうにも腰を完全に抑えつけられ、暴れても抜け出せる程、アルベドの身体能力は甘くはない。

制止の言葉をかけるも、アルベドは口元を歪ませ、いつもとは違う獲物を狩る獰猛な魔獣の笑みを見せた。

 

「いえ!待てません!」

 

「アルベド様ご乱心!ご乱心である!」

 

「失礼いたします!くっ!?何という剛力!」

 

だが、ソレも一瞬である。

清々しい笑みを見せ、行動に移ろうとする彼女に、天井に張り付いていた3体のエイトエッジアサシンが降り、彼女の肩や腰へと手を伸ばすがビクともしない。レベル差による身体能力の差が圧倒的すぎるのだ。

 

「「「「「「!!!」」」」」」

 

アインズの執務室が喧噪溢れる空間となっているのは、門の外にも聞こえてくる程熾烈なモノとなる。流石にアルベドもエイトエッジアサシンを攻撃する事は無いが、いない者として扱っている。

そんな中、砲弾にでもぶつかったのか扉は破裂音と共に内側へ開き、中へいた全員の意識が扉へ向かう。

 

「んぐっ!」

 

「やっぱり守護者最堅なだけあるね」

 

意識が向かった瞬間。アルベドは胸に、大きな衝撃を受け肺の息を強制的に吐き出さすハメとなるが、壁へと衝突する事なく着地した。彼女は己を攻撃した者を、怨敵を見るかの如く睨みつける。

アルベドの胸にジュンのドロップキックが炸裂し、吹き飛ばされたのだ。

彼女の様子からして、ダメージはそれ程でも無いと理解したジュンは、装備変更の腕輪へ手を伸ばす。

視線が合い、ジュンの目つきも危険なモノへと変貌し、ジュンの髪が、アルベドの翼が大きく横へ広がる。

 

「っ!そういう貴女こそ、よくも邪魔を!」

 

「ナメた真似をした以上、止められるのは覚悟の上じゃないの?」

 

「何をっ!私のアインズ様への愛を愚弄する気!?」

 

ジュンへの物言いが通常時の彼女とは反し乱暴なモノへと変わるアルベド。

アインズへ襲い掛かる(性的)という行為をしたにも関わらず、強制的に制止した己へ威嚇するアルベドに、ジュンの中の獣が騒ぎ立てる。

 

一触即発。キャットファイト等、可愛らしいモノには間違いなくならない状況だ。

 

「止めんか!」

 

「ハッ――申し訳ございません」

 

「フンッ」

 

暴れたり、脱がされかけたりと乱れたローブを正し終えたアインズは、自然に、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのレプリカを己のアイテムボックスより取り出し、絶望のオーラ<Ⅴ>を最大威力で発動させる。

暗き闇が一瞬執務室を駆け巡り、その怒声で我に返ったのだろう。アルベドは跪く。一方のジュンは不機嫌の極なのか、そっぽを向いた。

 

「デミウルゴス。ジュン。助かった・・・して、何の用だ」

 

「ハッ。スクロールの材料。その代用品について目途が立ちましたのでそのご報告を。その内容からしてジュン様にも聴いていただく必要が有ると判断いたしました」

 

アルベドへ謹慎を命じようかと考えつつ、ジュンへ加勢するつもりだったのか、その腕や頭を変化させていたデミウルゴスと目が合うアインズ。

ジュンはデミウルゴスに連れられ、何か用事で来たのだとアインズは判断した。

礼を言いながら要件を聞けば、デミウルゴスは元の姿へ戻り、要件を述べる。

 

「アルベド。私も性急過ぎた。今回は不問とするが私の考えは伝えたぞ。すまんがもう少し我慢するよう努めよ」

 

「・・・畏まりました」

 

アルベドを謹慎させる程余裕が無いと判断したアインズは、一度溜息を洩らし、無駄かもと内心思いつつ、そう言うしか無かった。

そして、アルベドも苦虫を噛潰した気分を味わいつつ、アインズの言葉を了承する旨を述べるしかない。

 

「仕切り直しだ。それでは、報告を聴こう」

 

アインズが徐に椅子へ座りなおせば、ジュンとアルベドは一度視線を合わせ、アルベドはアインズの右隣へ。ジュンはアインズの左隣へ移動し、彼女だけ上位物理作成で椅子を作成して座る。

聞く体勢が出来たと、アインズはデミウルゴスへそう告げた。

 

デミウルゴスの報告は簡潔に纏められていた。

司書長からの話をベースに、ある生物の皮がスクロールの材料となるというモノ。ただ、ジュンとアインズが不快になる可能性を考え、『両脚羊』と告げた。

 

「第二位階迄しか封入できぬらしいが・・・」

 

「ハッ。命令であれば直ぐに量産に移る事も、更なる研究も可能で御座います」

 

「問題は、両脚羊って名前の人間の皮って事だよね」

 

(え?そうなの?)

 

デミウルゴスから受け取った、白みが強いスクロール紙をまじまじと見ながらアインズの確認の言葉に、あえて命令を受けなければ行動しない旨を強調するデミウルゴス。

アインズが疑問に思う前に、ジュンは<真実の目>の鑑定結果から、悩ましい様子で羊の正体が人間である事を告げ、ジュンの言葉に思わず彼女を見るアインズ。

その様子からして、2人の想定外の内容であると考えたデミウルゴスは、己の行動が誤っていなかったのだと確信した。

 

「はい。かの人間の治療の際、皮の損傷度合から、一度全て剥いだ上で治療いたしました。未だ意識が戻らぬ状態ですが、両手が無い事以外は火傷の痕も無い状態です」

 

「ぬぅ・・・何故その皮をスクロール加工しようと考えたのだ」

 

あくまでも治療の一環であり、実験も兼ねたスクロール作成だったと強調するデミウルゴスに、アインズはどう判断すべきか悩む。

 

「はい。以前、ウルベルト様とジュン様の御話しを耳にしておりました。ですが、ジュン様は弱き者が無意味に死す事が御嫌いな御様子。であれば、先ずはトブの森の獣、魔物をメインで実験しておしりましたが芳しく無く・・・」

 

「え?もしかして、力ある魔導書は人皮で作られたって話から試したの?」

 

「左様で御座います。また、司書長の話では損傷が少なければ、彼女の皮であれば第四位階迄は封入できる可能性が高いとも」

 

アインズの疑問はご尤もである。己は様々な実験の末に、あえてしなかった実験を行った。そういうニュアンスが強いデミウルゴスの言い分に、兄との会話を思い出したジュンは内心血の気が引く思いをしながら確認を取れば、肯定が返ってきた。

ユグドラシル内での馬鹿話が、ネタではなくガチになった瞬間である。

 

「ドラゴンとかの革は・・・現時点だと試せないよね。剥ぐ為に召喚するとか、コスト面でダメだし、そもそも第八位階以上とか現時点だと在庫も有るよね・・・」

 

「仕方あるまい。デミウルゴスよ。現時点では消えても良い人間のみでの実験を行え。量産計画もそうだが成果は数十年程要すだろう。その間に見つかれば、分かるな?」

 

ジュンは、スクロールの材料としてドラゴンの皮の存在を思い浮かぶが、コスト面等からして最悪の部類である。

アインズとしては、知らぬ人間がいくら死のうともどうでもいいが、真剣に悩んでいる様子のジュンの手前。真意を述べる事は出来ない。

犠牲を最小限に抑えつつ、更に有用な代用品の捜索を付け加えるしか無いのだ。

 

(ドラゴン等の高価なモノは見送り、人間のモノの成果は数十年待ち実験がメイン。代価の捜索も続ける・・・で、あれば丁寧な対応が良いでしょう)

 

(少し悠長な気もするけど、仕方ないのかしら)

 

デミウルゴスは、今回スクロールの材料を提供した女を『丁重』に扱うようにし、アルベドはアインズが気長に考えている事に、まどろっこしさを感じる。

デミウルゴスはジュンの離反を起こさぬよう、悪魔的な『可愛がり方』等を自重しているのだ。

 

「何故クレマンティーヌの皮であれば第四位階を狙えるのか。これが問題だ。アレは一応英雄クラスの人間らしいからな。丁重に保護し、情報を上手く引き出せなければならん」

 

「御命令であれば消えても良い人間を選別し、男女一組で数組採取致しますが」

 

「今回は見送れ。だが、欲深く罪深い者は探しておけ。理由は分かるな?」

 

アインズ的に、クレマンティーヌは食玩等のレアキャラである。

これは、彼女の実力や、多義多様な武技が使える事が大きく、また、元漆黒聖典というこの世界有数の武力を持つ集団所属だった事が大きく関与している。そして、既に彼の中でスレイン法国は仮想敵国。情報収集は基本だが、本国へ潜入させるにはまだリスクが大きい。よって、ニグン等とクレマンティーヌの重要性は跳ね上がったとも考えていた。

アインズのクレマンティーヌの保護する意向に、デミウルゴスはスクロールの実験材料収集にそう提案するが、アインズはジュンとアルベドを一瞥。目を瞑るジュンと、優しげないつもの笑みを浮かべたアルベド。此処は無理に行動する事はしない事を選択した。

 

「はい。アインズ様が警戒する『プレイヤー』なる存在対策にも、アインズ・ウール・ゴウン様は『最善』でなければなりません。その為の『魔王』もご用意させて頂きます」

 

((魔王?))

 

(アインズ様はその慈悲を下々にも与えるおつもり・・・気に食わないけど、ソレがアインズ様の御考え)

 

だが、此処でアインズ的には意外な事をデミウルゴスは返してきた。『最善』や『魔王』とはどういう事なのだろうと。ジュンはアインズを一瞥するも、何処か骸骨の額に汗が浮かんでいるように見える為、デミウルゴスの考えている戦略なのだろうと考えた。

アルベドは先のアインズの言により、御身は下々の者共を尊重し、慈悲をもって対応しようとしていると考えている。ナザリックの者達以外に意が向けられる事に不快感を覚えるが、慈悲深いアインズの考えだとすれば、ある種の納得もしているのだ。

 

「魔王か・・・よもや、お前自ら出るとは言わぬな?アインズ・ウール・ゴウンはおまえが言う様に『最善』でなければならぬ。ならば、分かるだろう?」

 

「畏まりました。では、アインズ様が思う魔王は、どのような者が良いと思われますか?」

 

アインズはデミウルゴスの言う『魔王』が、表沙汰に出来ない実験の数々。咎を背負うスケープゴーストであると考え、その『魔王』を、ウルベルトに似て責任感が強そうなデミウルゴスが演じるのではと危惧した。

実質の配役変更の命令に、デミウルゴスは内心落胆するもアインズの命令である。だが、そうなれば一体『誰』が『魔王』を演じるのか。己が再び配役を決めるにしても、御方の求める『魔王像』は必要であると考えたのだ。

 

「さて、どうするか・・・ジュンはどう思う?」

 

「魔王で謀略ならゼノンみたいなのが良いかもしれないけど、近似種はいない。サタンはモチーフでアンジェにしているし、アモンは可動済み・・・いっそ、強欲とか?」

 

アインズは己がユグドラシルにおいて、非公式ラスボスや、魔王等と思われている事は知っている。だが、何故そう思われるか知らない為、ジュンに投げる事にした。

一方、意見を求められたジュンは己のアバター繋がりで考え、結果、デミウルゴス親衛隊の『強欲』を推薦する事にしたのだ。彼ならば、作戦立案者であるデミウルゴスの面子を潰さずに済むと考えた事も大きい。

 

「(よく分からないけど、可動済み?)強欲か。ユグドラシルにいた種族なら、まだ反論できるが・・・何故強欲なのだ?」

 

「三魔将で迷ったんだけど、憤怒は明らかにパワーファイターだし頭が良さそうには見えない。嫉妬はSっぽい見た目。だったら、頭も良さそうでマスクで隠しているけど、顔も良い強欲なら見た目的にも栄えそうだしね。デミウルゴスが『魔王』を演じるのが一番なんだけど・・・デミウルゴスが表に出せないのは損だし、消去法かな」

 

アインズは聞き捨てならない事を聞いたが、今問いただすべきでは無いと考えた。『魔王』の配役が済んでからでなければ、面倒な事になる為だ。

ジュンの弁は実に単純明快である。アインズは随分とオブラートに包んでいると思う。

ジュンが言いたいのは、憤怒であれば虐殺上等、嫉妬ならば凌辱万歳に見え、そう行動しない事に違和感が生じる可能性が有ると言っているのだ。

一方の強欲であれば、マスカレードタイプの仮面で多少隠されているがイケメンっぽい為に、勝手に頭が良さそうに思われる。ならば、被害を大きくしない事は何らかの作戦なのだと思われる可能性が高いのだと。

消去法だと態々強調するのは実に大きなポイントであるとも考えた。

 

「フッ――デミウルゴスよ。ジュンはお前を随分と評価しているぞ。私も変わらんがな」

 

「この上ない栄誉で御座います。御二人の御期待に応えるべく万進致します」

 

(イケメン・・・なのでしょうね?)

 

兄であるウルベルトの創造物であり、ある種息子であるデミウルゴスの自尊心を傷つかせないようにと配慮する彼女に、アインズは少し笑いを洩らし、己も大きく評価している旨を伝えれば、デミウルゴスは珍しく笑みを浮かべて一礼した。

アルベドはデミウルゴスや強欲の容姿。特に顔を思い浮かべてみれば、確かに一般的にはイケメンだと称されるのだと考えるが、彼女が好きなのはアインズである。何所が良いのか良く分からない為、少し首を捻った。

 

「それでジュン。アモンとは何者だ?」

 

「悪魔の勇者だよ。新しい守護者クラスの子を創った。もう出してるけどね」

 

配役は問題なく済み、強欲にどのような役が求められるのかデミウルゴスならば言わずとも対応するだろうと考えたアインズは、問題の者を聞いてみれば、やはり聞捨てならぬ内容をジュンは答えた。

勇者という単語が出た上に、守護者クラス。だが、生まれたばかり。その実力は如何程のモノか測りかねる。

 

「っ!報告を受けていませんが!」

 

「リザードマンの村に行かしたよ。侵略するんでしょう?その性質を知る為だよ。前にアインズさんが言ったように、善良なら女子供には手を出さないようにする為だし、何か問題が?」

 

アルベドの非難するような声に対し、ジュンは何でもないように答える。

ジュンの本来の目的は、彼等の住む土地に在る。だが、NPCにどう説明すべきなのか。また、ナザリックのNPCを動かす事を良しとしなかった為、急遽予定に無かったNPCを創ったのだ。

アモンは、もう一体のNPCへ目を向けさせない為の囮でもあるのだ。

 

「ッ・・・アインズ様の御命令の補佐。その為に動かれたのは理解しましたが、今後は自粛して頂きたいのです。貴女の勝手な行動の末問題が起これば、どうするおつもりなのでしょうか?」

 

「アルベド。流石に不敬過ぎますよ。仮に問題が起きれば、暫くアインズ様の御許可、御同伴無くして外出されぬよう努めて頂ければ良いだけでしょう」

 

ジュンの言う内容は、アルベドはあえて手を付けていなかった。

戦いの中でこそ、その者の本質が現れる上に、実験材料は一つでも多い方が良いと考えていた為である。

だが、ジュンの勝手な行動はナザリックにおいて不利益しか生まぬと考えた彼女の言い分は一見筋が通っているように聞こえるだろう。

デミウルゴスはアルベドの言い分を嗜めるも、対外的な罰を仮に出す事で『問題が起きなれば』ジュンの行動を制限しない事をアインズに求め、その承諾をジュンに求めた。

 

「問題が起きればそうするけど?」

 

「問題が起きなければな・・・しかし、コキュートスの負ける可能性が高いと考えていたが、確実になったか」

 

「「!!?」」

 

デミウルゴスの案は意外にもすんなりと二人は受け入れたが、アインズが静かに洩らした言葉に、アルベドとデミウルゴスに激震が奔る。

アインズの考えるコキュートスの敗北が意味するのは何なのか、悪魔達がその結果を知る迄、様々な憶測が飛び交う事となるのだった。

 

一方、ナザリックでそんな会話がされているとは知らぬ、渦中のアモンは――

 

「人間とは、よく食べるモノなのだな」

 

「いや、兄者。彼は例外だ」

 

「んぐんぐ――っぷはぁー・・・うんめぇー。助かったぜ!」

 

リザードマンの村。その族長の家で食事をしていた。

始めて見る人族の様子から、呆れと興味が混ざった声を出すシャースーリュー・シャシャと、兄の認識を正そうとするザリューシュ・シャシャの会話等、アモンは聞いているようで聞いてはいない。

その姿は一見初心者冒険者風の、革で補強された服を身に纏った16歳程の黒髪の少年である。目つきは鋭いが、笑顔で食事の礼を言う姿は豪快。しかし、見る者に不快感を覚えさせる類のモノではない。

 

「して、旅人よ。何故倒れていたのだ?」

 

「森で迷った。いやー。食いもんも、水も無くなった時は焦った。で、水を飲んだらそのまま寝ちまってな」

 

族長であるシャースーリューの問に、笑って己のミスを済ませる姿は何とも言えぬ所があるが、食事中に話した限りでは、彼の知識は有用だと、族長の弟であり、生け簀の教えを人族に受けた『旅人』であるザリューシュは考えている。

そもそもリザードマンは排他的な部分が強く、余所者を好まない閉鎖的な種族である。生け簀の近くで寝ていたアモンの第一発見者がこの2人でなければ、食事を貰う事無く追い出されていた可能性も0ではない。下手すれば過去の事情により殺されていたかもしれない。

 

「っと、俺はアモン。暫く厄介になるぜ!」

 

アモンは食事をしながら、ジュンから聞いた生け簀の問題点を次々と述べ、その知識を活用させて貰おうと2人から暫くの滞在を求められた。

アモンは、まだ答えを言っていなかったと思い出し、豪快に笑いながら、2人のリザードマンからの要請を快諾するのだった。

 

産みの親であるジュンに『お願い』されたからとは言え、このトカゲ人間の観察や一定以下の協力。そして本命である調査をするのは骨だと思い、内心面倒そうにしている事は彼以外誰も知らない。

 




えー。アモンさんのモデルは「デビルマンG」ベースなので、マイルド仕様です。

今回。期日迄に間に合わなかった事や、リアルの仕事の関係で次回更新日は10/9とさせて頂きます。

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