魔王様の友人は風変りな悪魔(元男です)   作:Ei-s

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第六話

アルベドは憤慨していた。思わず親指の爪を噛み、酷く苛立った様子でデミウルゴスが待つ地表部分へやって来た。

三魔将は階段から上がってくる守護者統括殿が余りに不機嫌な様子である事から、デミウルゴスが席を外している事を伝えるのが恐ろしくなった。

 

「デミウルゴスは何所にいるのかしら?」

 

「火急の用が出来た為、只今席を外しております。用が済み次第戻る為、アルベド様においてはスカイ・スカルでお待ちになるのが良いかと」

 

質量すら感じるアルベドの視線に嫉妬と呼ばれる女悪魔はスラスラと答えた。最後の部位等アドリブである。そんな同僚の臨機応変さに強欲と憤怒は憧れにも似た視線を嫉妬に向けた。

 

「その火急の用とは何かしら」

 

「・・・モモンガ様が秘密裏に視察を行っております」

 

不機嫌と一目で分かるアルベドの目は大きく見開かれた。近衛から何も聞いていない事から護衛がついていないのだろう。故にデミウルゴスは秘密裏の視察とはいえ、供を連れない事に矜恃が刺激されたと察する。だが、ふと思うのだ。本当に1人だったのかと。

 

「言い忘れている事が有るでしょう?」

 

思考に耽っていたアルベドの目が嫉妬を射貫く。目で語っている。虚偽は許さぬと。

嫉妬はアルベドの感情が手に取るように分かる。伊達に『嫉妬』という名では無いのだから。故に、その稚拙さが目立つのだ。力では敵わぬ相手だが、少し時間を稼ぐ為にも色々と話すべきだと確信した。

 

「アルベド様。排除出来ねば取り込んでしまえば良いのです」

 

「何を―――そう。あの女もいたのね」

 

激昂しかけるアルベドだったが、その真意は別のところに有ると認識した。だが思う。この女は何を言っているのだと。怒りに似た目で嫉妬を見るが、彼女は飄々と受け流しており、それが酷く気に食わない。

 

「私とて女です。彼女と比較されれば我慢なりません」

 

「そう。だけど、どうして取り込む話が出るのかしら?」

 

嫉妬のシンパシーを感じさせる物言いに、アルベドは話を聴く気になったのか腕を組んで見つめる。その視線は同じナザリックの者へ向けるモノとは思えない程、冷徹な雰囲気を見る者に思わせるだろう。だが、嫉妬にとっては子供の癇癪レベルでカワイイモノだ。

 

「そもそも彼女はモモンガ様への感情に自覚が無い様子。寵愛を得る切欠を話し合いで上手く誘導できれば、初めに御相手して頂けるのはアルベド様では?」

 

「何言っているの!?あのモモンガ様よ!あの、チョーカッコイイ御方で、御力も素晴らしく、このナザリックの絶対なる支配者に懸想しない女がいると思って!?貴女も閨に呼ばれたら喜んで行くでしょう!」

 

嫉妬ここに極まり。被害妄想の域までイっている。

嫉妬的には、言いたい事も分かるが、そもそもナザリックの女性陣は大多数のシモベも含めて大なり小なりモモンガに懸想している事をアルベドが自覚していないのが滑稽にも思えた。

至高の41人に奉公すべく生み出された者達。モモンガ以外がこの地を離れて幾星霜。その間モモンガは維持費を稼ぐ為と世界を駆け巡り、その献身的すら思える慈愛を受けて何も思わぬ者達はこのナザリックにはいない。女であるならば、求められたら応えるのが当たり前だと思っている者達も少なくないのだ。年齢的な意味でそんな考えを持たない者もいるが、何かしら役に立ちたいと考えているのだから、敵は潜在的大多数なのを理解していないのが奇妙にも思える。

ジュンについては人間という認識だった為、道楽と判断していたが、同じ悪魔と分かれば傍で只管献身的にモモンガを支えた者である。反意が無い訳では無いが、それでもモモンガを支えた実績と能力は認めた上で、嫉妬すべき相手と認識しなおしている。

 

「アルベド様。モモンガ様の献身的な御慈悲を受けた我々は、求められれば応えるのが当たり前と思っている者も少なくは無いでしょう」

 

「っ・・・やはり、そうなのね?」

 

どうやらアルベドは気付いていたが、現実を直視したく無かった様子だ。歯軋りを禁じ得ないのだろうか。嫉妬を見つめる目に更に殺気が上乗せされ、その強さに憤怒と強欲に緊張が奔るが、嫉妬は何でも無い様にアルベドを見つめるばかりだ。

ここにモモンガがいれば、柱の影に心配そうにアルベドを見つめるタブラの幻影を見た事だろう。

 

「モモンガ様を独占したい。その為なら、万が一の際は全てを振り払う剣となりたいのは見て取れます」

 

嫉妬が述べたのはアルベドが心に秘めた誓いだった。誰にも言わず、心に秘めた思いを見抜く嫉妬に、絶句しながらも最大限の警戒を見せた。

強欲と憤怒は意味が理解できていないのか、お互いを見て首を傾げている。

 

「ですが、貴女様の役割は盾でございます。その時は切り払うのでは無く、受け流すべきかと」

 

嫉妬は続ける。

万が一の際。モモンガがナザリックより離れるその時はナザリックの仲間を説得し、モモンガを説得し、その御身を守るべく傍にいるか、帰るべきナザリックの地を守るのがアルベドの役目なのだと。排除は盾の仕事では無いのだと。

 

「剣はあの女だと?」

 

「そうは思っておりません。それに、剣は多く持つ物です」

 

落ちつきを取り戻したアルベドの問いに、嫉妬は暗に剣はナザリックの者達であると言う。ジュンは剣に成りえないと。

如何様にも使い捨て、折れようとも即座に次の剣を振るう事が出来る。その役割は忠誠を尽くす我らナザリック者達こそ相応しいと。

嫉妬の答えはアルベドの何かを満足させたようで笑みを洩らして頷く。

 

「さと、そろそろ私も外へ行くわ。貴方達。この事は―――」

 

「分かっております。誰にも言いません。モモンガ様に問われない限り」

 

アルベドが言葉を紡ぎ終わる前に、嫉妬は跪いた。ソレを見た強欲と憤怒も一応跪く。

嫉妬の、モモンガへの忠誠を思わせる言葉にアルベドは満足げに頷くと、外へ歩き出した。

 

(あの女の役割は鎧です。モモンガ様の御心をお守りする鎧。その役目は替えが利かぬのです)

 

嫉妬はアルベドに言わなかった事をそう心の中で紡いだ。自身の名の通り、嫉妬して。

恋愛初心者にしか思えぬアルベドに今伝えるべき言葉ではない。主デミウルゴスは気付いているからこそ、どうにかジュンを側妃という立場に入れたいのだろう。ジュンの立場的には正妃が相応しいのだろうが、逃がさぬ為には側妃が良い。嫉妬しながらも、彼女はそう思いながらアルベドの背中を見つめていた。

 

アルベドが外へ出た時、丁度モモンガがマーレと話し終えた様子であり、アルベドは翼をはためかせ、モモンガの傍へ舞い降りる。先程心を乱された事等感じさせない完璧な微笑みを浮かべて。

 

「モモンガ様。ご視察は如何でしたか?」

 

「アルベド。丁度良い。少し聞きたいのだが、ジュンへの食事にサンドイッチを出すよう薦めたのはお前か?」

 

穏やかに話しかけるアルベドに、モモンガは時間も有る事から確認を行うべく問いかける。地味に3食サンドイッチだったのは、種類が豊富とはいえ流石に飽きが有った為か、少し刺々しい物言いになる。

デミウルゴスとマーレはモモンガの言った事に、少し不快気にアルベドを見た。明らかに客人にする対応では無い為だ。

 

「はい。どの様な叱咤も覚悟しております」

 

「よい。この非常事態に手早く食事を取る配慮をしたお前を叱る筈も無かろう。守護者統括として仕事をしている事から褒美をやる」

 

跪くアルベドに対してモモンガは気配りの結果であると言い、逆に褒美を、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを下賜した。

アルベドは両手で大切そうに新たな絆の証を受け取り、その歓喜から頬と翼が動きそうになるのを抑えた結果、少し痙攣気味な動作をしてしまう。デミウルゴスは内心効率化が進むと思うも、指輪を下賜する口実にも思えた。

 

「感謝いたします」

 

「マーレにも言ったが、今後、その指輪に恥じぬ働きを求める。デミウルゴスは後日とする」

 

「感謝いたします。その指輪を賜る程の働きをお約束いたします」

 

アルベドの言葉に対し、モモンガは一度デミウルゴスを見た。

功績をもってリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンという、ナザリックに所属する者にとって至宝である指輪を下賜するというのは、最上位の褒美となる。この場面で指輪を渡さない事は、デミウルゴスには更に素晴らしい仕事を期待していると言われたようなモノであり、身を引き締める良い言葉に思えた。

アルベドはモモンガの言葉にマーレの左薬指にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが填められている事に気付いたが、己も填めれば問題ないと精神の平静を保つ。

 

「ふむ。お前たちにも見せておこうか」

 

ふと、モモンガは有る事を思いついた。マーレも見る事になるが、ナザリックの実質の管理を行っているアルベドとデミウルゴスがいる局面で見せた方が良いと思った為だ。流石に3食サンドイッチは美味いが、堪えたのだ。

力の涙(パワー・ティアーズ)を発動させ、ヘルムを構成している魔力を霧散させた。

 

「「「!!!」」」

 

「これは、力の涙(パワー・ティアーズ)の力の一端だ。一先ず色々実験している途中でな。人間の姿をとっている」

 

3人は思わず驚愕に、目を大きく見開いた。モモンガはデミウルゴスが驚愕する等、珍しいと内心思っている。

そこに有ったのは人間のモノだった。

美麗なモノでは無いが、経験からくる思慮深い面持であり、厳しくも慈悲深き穏やかな目をしている男の顔に、何とも言えぬ色気的なモノを守護者3人は感じたのだ。

デミウルゴスは思わず口を開いてしまう。確認できれば今後の予定を繰り上げる事も可能なのだから。

 

「モモンガ様。もしや、御世継ぎを御創りになられるかは既に?」

 

「いや。試していない。それに、この非常時に子が原因で失態を犯すなど支配者にあるまじき行為だ」

 

デミウルゴスの問いを一刀両断にするモモンガ。

デミウルゴスとマーレは純粋に子供に仕える機会がまだ先だという事に対し、安全な環境構築を急がねばと、ヤル気を出した。

一方のアルベドは、モモンガの子を孕む機会が遠のき、モモンガの色に染められる機会が先という事に、思わず悲し気な表情を見せてしまう。

 

(肉が有る!肉が有る!肉が有る!今は人間のモノだけど、上手くイケば悪魔の御姿になれる筈!という事は、モモンガ様の御子を悪魔族として産める!産める可能性が有るのよアルベド!親として愛情を注げる。私みたいに決して悲しい思いはさせないわ!あぁ。実験結果を確認できるように、特殊な情報網を作らなきゃ!実験相手も私が好ましいけど、いえ、何を言っているのアルベド!その危険性も承知の上で初めてを捧げるのよ!)

 

だが、その内心は荒ぶっていた。表面上は、ぎゅっっと、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを握りしめて俯いている。表面的の守護者達の落胆を感じたモモンガは問う事にした。

 

「なんだ。アウラも興味を持ったのか、私とジュンの会話を聴いていたが・・・私の子がそれ程重要か?」

 

先に肉の有る状態をアウラに見せ、情報が上がって無い事から一旦秘匿したのだろうと予測するアルベドとデミウルゴスだが、先に知ったアウラに嫉妬するのを禁じ得ない。モモンガはある程度情報が集まってから知らせるつもりだったのだが、先のサンドイッチはそれ程堪えたのだ。

モモンガは、何故それ程子供に守護者達が執着するのか純粋に理解出来なかった。特に、男のデミウルゴスとマーレの落胆具合が女であるアルベドより多きのかが。

親になる覚悟は勿論の事、産ませる相手を考えれば、どうも誰に産ませるか踏ん切りが着かない己に気付いているだけに奇妙な感覚を覚える。

アルベドを始めナザリックの者ならば色々と問題が有り、ジュン達等、どうやって話題にあげろと言うのだとも考えてしまう。視線を無意識にデミウルゴスに向けた。

 

「恐れながら申し上げます。御身に万が一が無いとは存じ上げておりますが、モモンガ様の直系の御子息にも忠誠を誓える栄誉が欲しいと愚考いたしました」

 

「ふむ・・・であるか・・・」

 

その視線に気付いたデミウルゴスは跪き、あえて情報を小出しにする事を選んだ。モモンガが子供を作らないと言い出せば、それがナザリックの選択となる為だ。

モモンガはデミウルゴスの言いように、全てを語っていない気はしたが、あえて問い詰めず思案する。そもそも、藪を突いて蛇を出す気は無いのだから。

 

「まだこの体の性能は分からんのだ。まぁ、久しく取った食事は素晴らしかったがな」

 

故に、モモンガは情報が確定していないが為の先延ばしを選択した。

アルベドはモモンガが3食食事を摂った可能性に気付き、思わず顔を青くする。ナザリックの最高責任者に、非常事態とは言えサンドイッチ。

非常に不敬である。モモンガが穏やかな様子である事から気にしてはいないと分かるも、守護者統括として、女として選択を誤った事を痛感した。

デミウルゴスはアルベドの内心が手に取るように分かるも、モモンガが今回の事は不問とする様子である為、以後気をつければ良いと判断し、似たような局面で己が気付けばフォローすれば良いと考えている。

マーレは食事を御一緒できれば良いな。と、ある意味子供らしく思っていた。

 

「では、そろそろ―――むっ」

 

モモンガは一度私室へ戻ろうとしたが、近くに転移門(ゲート)が開いた。自身が使う物と同様に混沌の斑模様であり、そこから戦闘形態のジュンが黙々と歩いて出てきた。目が殺気や怒気で黄金に輝いている事から、尋常では無い様子であると判断できる。守護者達が思わず得物を取り出そうとしてしまう程、危険を感じた程だ。

 

「ジュン。どうしたのだ?」

 

「会議だ。会議をする」

 

モモンガの問いにも、普段と比べ一段と低くなった声音で答えるジュン。先程空で見せた恥じらいの表情が夢幻で有ったような変わりように、モモンガの心の中で何かが灯る。

 

「何が有ったか、詳しい話を聞こう。アンジェはどうした」

 

「アッチで後処理中だ。俺の考えが間違い無ければ、獣が着く可能性が高い」

 

ジュンに釣られる様な形でモモンガの声に重さが加わる。ジュンの第一人称が『俺』へ変化している事から、相当頭にキているのがモモンガにも理解した。そう認識したが故に、力の涙(パワー・ティアーズ)の使用を止め、元の姿へ戻る。

ジュンの回答がPKK時の簡潔なモノ言いから、ある程度結論を出していると分かる。

守護者である3人は顔見せの時の威圧感が児戯で有ったように思える程、全てが変わっている様に思える。特にアルベドは、ジュンの戦闘力は予想通り至高の41人に匹敵及び一部凌駕していると判断した。

そんな中、空から鴉羽色の猛禽類に類似した羽が舞い落ちる。

 

「ジュン姉ちゃん。来たよ」

 

「アルベド、デミウルゴス。お前たちも来い」

 

スカイ・スカルの実質的管理者であるライトが翼を広げ、降りてきたのだ。ライトを呼ぶ事態はスカイ・スカルを万が一の際は動かすと言っているようなモノだ。

モモンガは丁度良いと皆を連れてリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで己の執務室へ転移した。

 

ジュンの報告は自身の考察を入れたモノだった。

村人が全滅し、人間的な感覚では非常に残虐な行為を行った内容であり、状況証拠からPKKを挑発して誘い込む系列の罠の可能性から、この国に属し、武力が有り政治的に邪魔になる人物を誘い込もうとしている可能性も視野に入れていると明言した。

また、その壮絶さから、既に目標の人物はこの近くへ来ている可能性を考え、万が一村へ着いた際の対応の為アンジェを残し、周囲に別の村が有る筈とシャドウデーモンに調べさせ、結果ナザリックに近い位置に村を発見済みである。また、殺された村人達のレベルは真実の目により調べた結果、総じて5以下である為敵戦力は不明であると報告した。

襲撃された村を殲滅させ、近くに村が有るならば次の襲撃の時間はおのずと判明するモノである。

 

「で、あるならば明け方か?」

 

「たぶんな。シャドウデーモンには村の周辺も捜索させているが・・・2小隊は間違いなくいる」

 

獣を檻へ追い込む部隊と殺害する部隊で最低でも2部隊は有ると判断している。壊滅した村の様子から、檻へ追い込む部隊は最低でも20人近くいる可能性が高い。

 

「そもそも、餌ですか。随分と楽しまれたと仰りましたが・・・」

 

「餌が食いつくか分からんのに、徒に殺す。無意味な死は気に食わん」

 

デミウルゴスはジュンの趣向を調べるついでに、状況証拠の仔細を問おうとしたのだが、ジュンはバッサリと切った。暗に報告以上のモノは無いと言っている。ジュンの怒りが籠った言葉にデミウルゴスは少し頭を下げ、一礼する。心に『無意味な死は御嫌いである』とメモをして。

途中で獣が危険を察知して引き返す可能性が有るのだ。それを引き返さないと確信を得ているかのように、殺しまわる。可能性は可能性でしか無いと考えているジュンにとって、かなり不快であるのだ。状況的に死後も辱める必要が何所に有るのかとも考えている。

そんなジュンの心中を予測したモモンガだが、先程からジュンの話を聞いて何も思わない自身の心境に疑問を覚えた。そして、それ以上にジュンがそれ程怒る原因が見当が思いつか無い。また、周囲にある村を何故救おうとしているのかも。

 

「ジュン。何故助ける気になった?」

 

「メリットが有るからだ。村を助ければこの世界の足掛けになるのは間違い。小指程度には役立つ」

 

故に問う。だが、返って来た答えは人情では無く、損得勘定だった。

モモンガは理解している。ジュン自身は損得で動く者では無い。だが、何か有れば損得で回りを動かそうとする部分が有るのだ。事実、モモンガは情報を一早く入手したいと考えている為効果的である。

 

「らしくないな。お前が損得を言うのは」

 

「話を戻します。モモンガ様。如何なさいますか?」

 

アルベドは話が脱線気味だと判断し、モモンガへ方針の決定を求めた。

モモンガは正直あまり乗り気では無い。感覚的に人間を同族と思え無い為だと理解しているが、下手な事をしてジュンがナザリックを去る等愚策中の愚策。上手い口実を考えるも、見つからない為この部屋にいる皆を見た。

するとどうだろう。給仕に徹していたセバスの背後に白銀の騎士、たっち・みーの幻影が見えた。

 

『誰かを助けるのは当たり前!だ!』

 

(昔から思ってましたが、シュール過ぎます)

 

幻影はモモンガにサムズアップしながら、高らかに宣言する。さり気なく背後に『正義降臨』のエフェクトを背負って。何故かデミウルゴスの背後にウルベルトの幻影もおり、肩を竦め、首を横へ振るアメリカンなジェスチャーで呆れているのを表現していた。

たっち・みーが異業種狩りから初心者を中心に助けていた際、何時もの如く背負う文字エフェクトは助けられた側が、思わず唖然とするのが当たり前になっており、その度にジュンや他の初期メンバー達も唖然・若しくは白けた目でたっち・みーを見ていたのだが、終に本人は気付かなかった様だ。

兎も角、方針は決まった。

 

「後詰めの準備をし、少数最大戦力での、威力偵察及び強襲を行う。ジュン。万が一の際は即座に撤退だ」

 

堅実に攻める案だ。先ず、包囲する為の部隊が接近し、ジュンを含めた少数で真実の目でレベルの確認を行い行動を選択する。レベル60以下なら継続して作戦を行い、一部でも90以上なら撤退する。ある意味嬲り殺しがガン無視かの2択なのだ。

 

「見捨てるのはどれくらいになりそうだ?」

 

ジュンはモモンガの案に異論は無かった。だが、現状では犠牲者が出るのだ。ジュンの言葉にたっち・みーの幻影が難しそうにモモンガとジュンを見る。

 

「・・・十数人は覚悟しておけ」

 

「恩を売るとなりますと、もう少し、少ない方が良いのでは無いでしょうか?」

 

たっち・みーの動きを1人見る事が出来るモモンガは言いずらそうに口を開いた。ここで、黙っていたセバスが口を開く。犠牲者はもう少し抑えられ、それでいて恩を売れる可能性を理解してるが故の発言だ。

 

「そうしたいのだが・・・転移門(ゲート)の関係も有る。前もって見つけようにも戦力が不鮮明な為、初動が遅れる」

 

「それに、シャドウデーモンが5体で周囲1キロ固定で捜索・警戒しても見つからないという事は、相手は騎馬での奇襲をかけるつもりだ」

 

モモンガは魔法のラグと情報不足を述べ、ジュンは現在の探索状況から相手の作戦の予測を言う。2人は情報を集めたいが、未知と言うのはそれだけで危険に思える。

 

「物的証拠が有れば、ニグレドに捜索させるのだが・・・」

 

「有ったら既に報告している。流石に混ざり合った精液では個人は特定できん」

 

ジュンが『精液』等と口にし、また無感情である事から、仕事中は冷静に振舞える事をアルベド達は理解した。意識が戦闘モードにでも移行しているのか、顔見せの時は戦闘時の姿に対して恥じらっていたのだが、今はそのような様子を全く見せず、凛々しい姿はアルベドもつい認めてしまう程である。

非接触系で確実に探索できるニグレドなのだが、そもそも村を襲撃したのが『何所』の『誰』であり、『どんな装備』をしているか不明なのだ。大まかに『ナザリックの半径20キロ以内に殺人をした男性』と調べようにも、確実では無い。

非接触で個人を確定するには確固たるアイテムが必要なのだ。カフェオレを牛乳とコーヒーに分ける等、不可能である。

 

「セバス。シモベを徒に消耗したくないのだ。情報を持ち帰れねば、唯の犬死となる」

 

「スカイ・スカルでの上空による大規模捜索も考えたが、大まかな戦力すら不鮮明だからな・・・」

 

モモンガはナザリックの消耗を最大限に抑える為、捜索にはシャドウデーモンを5体以上出す気は無い。一方のジュンはどんな遠距離攻撃を持っているか分からぬ為、大々的にスカイ・スカルを出そうと思わない。一度ワールドエネミーに撃墜されかけたのが相当懸念材料になっているとモモンガは判断した。

 

「大変申し訳ございませんでした」

 

「良い。お前はたっちさんに創られたのだから、そう進言する可能性を視野に入れていた。他に方法は無い」

 

「はっ」

 

セバスは己の具申は既に考慮に入れていた事実に、己を恥じた。アルベドとデミウルゴスは必要ならば下等生物相手にも慈悲を見せるモモンガへの信服は止まる所を見せない。

セバスの思考形態はたっち・みーと良く似ている。そして、たっち・みーは職業柄か無謀は好まないのだ。事実、ジュンとモモンガの説明が終わり、納得したのか幻影は既に消えていた。

 

「モモンガさん。いっそ、俺が村に潜入すべきか?」

 

「その苛立ちを収えられるのならな」

 

ジュンの案は、そもそも今のジュンの精神状況では任せられないとモモンガは判断している。さり気なく己の口を指さした。ジュンはモモンガの行動に疑問を覚えたが、現在の己の思考や、口調が『男』のモノとなっている事に気付いた。

 

「・・・仕方ないな。どうも抑えられん」

 

「一先ずはこんなモノか」

 

それ程冷静さを失っている以上、何所でヘマをするか分からない為、引き下がるジュン。

モモンガは現在考えている案からアルベドとデミウルゴスにシモベ等の選別等細かな調整を行う旨と、後詰めには森での行動が優秀であるアウラとマーレがメインで行い、ナザリックの守護にはセバス、コキュートスを。デミウルゴスとシャルティアは非常戦力として待機し、威力偵察には自身とジュン、アルベドで行く旨を伝える。

少数すぎるが、デミウルゴスには最も生存確率が高いと判断せざるを得ない。下手なシモベが行けば、今回の作戦上変に戦力を消耗する可能性が否めない為だ。万が一、シモベを守ろうとジュンやモモンガが怪我をしようものなら目も当てられない。

ソコまで話終えれば、部屋の隅で鏡を弄っていたライトから書類を渡されるジュンとモモンガ。内容を確認すれば、アイテムの使用方法が細かに書かれている。

 

「ライト。遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)の操作確認は終わったな?」

 

「うん。ついでにスカイ・スカルのカメラの画面にも繋がる様にしといた」

 

ジュンは既に動かしたりしていると判断すれば、ライトはさも当然の如く機能を付け加えた旨を伝える。これにより捜索・村の監視が楽になる為、良い頃合だとモモンガは判断した。

 

「行動を開始せよ」

 

モモンガの一言でナザリックが慌しく行動を始めた。

 

 

―――その日の明朝。

辺境の開拓地であるカルネ村は穏やかな朝を迎えていた。いつものように家族で食事の準備をし、平穏な日常を送る筈だったのだが、猟師の絶叫によりそれが叶わない事が発覚した。

走る馬の駆け足の音と、村人達の悲鳴が日常の崩壊を告げる。

唯の村娘であるエンリは妹を連れ、両親の犠牲の下森へ逃げ出した。幸運にも無事に森へ出れたのだが、2人に気付いた騎士風の男が2人。その剣に2人の血を吸わせるべく襲い掛かる。

エンリはその凶刃がネムに届かぬよう、咄嗟に突き飛ばした。

 

「お姉ちゃん!」

 

ネムが見たのは両手を大きく広げ、袈裟斬りを受けて大量の血を流しながらも立つ姉の姿だった。

エンリにとって歳の離れた妹のネムのは、娘にも等しい者だった。唯の村娘であり、姉であり、女ならば意識が混濁する程の激痛に耐えられないだろうが、母は違うとエンリはその身で実感していた。だが、己はもう助からないとも判断出来ている。

意識が薄れていく感覚は少しでも力を抜けばそのまま倒れ、目を覚ます事は二度と無い。そう自覚してしまっている為に、足に力を込め、立つ。

 

(神様が助けてくれないなら、悪魔でも良い・・・)

 

己1人では守れ無い。町で神官の言う教えが無意味であるならば、ネムを守れるならばこの身を悪魔に捧げても良い。そう思いながらエンリは腹に刺突を受けた。

 

「ネム―――」

 

姉を貫く剣に、ネムは言葉も出なかった。何よりエンリが口から血を吐きながらも振り返り、穏やかに笑みを作ったのがネムには理解出来なかった。ネムの怯えきって尚、唖然とした顔に逃げる様に言おうとしたエンリの口が止まる。

何を考えているのだと。このまま死んでなるものか。妹を残して死ねるものか。

この時エンリの思考は『怒り』と『愛』しか無かった。平穏を奪い、父母を奪い、己のモノを奪い尽くそうとする者達への『怒り』。そして、ネムだけは守らねばという庇護『愛』と犠牲『愛』。エンリは現在全てを曝け出していた。

強い思いで何かが変わる筈も無く、エンリは既に致命傷を受けており、死は間近である。だが、その言葉を、意思を受け取る者がいれば、全ては変わるのだ。

 

『全てを代価に、力をやろう』

 

「ぇ・・・?」

 

エンリは聴いた。音程が低いが女性の声だ。まるで脳裏に響く声は何と言ったかと理解する前に、あるモノに気付く。

エンリが見たのは、ネムの背後に広がる混沌とした空間からナニかが飛び出してきたのだ。そして、ソレは紅い触手をもってエンリの全身を貫く。

エンリは、ネムだけは救いたいと思いながら、何かが己と混ざり合う感覚を受け入れながら。その意識を失った。

己を貫くモノを呼び出した存在と思われる存在は、混沌の空間に浮かぶ黄金の瞳をしたモノなのだろう。その目が非常に穏やかであったのが、とても印象的だった。




嫉妬姉さんwアルベドの思考に関しては、アンセムさんへの感想返しにも書きましたがこんな感じです。
前書きにも有りますが、追加するタグはエンリ関係ですw結構色々ヒント出してますが、どうなんだろう?ちょいとマイナーだからなぁ・・・分かる人は間違いなく分かりますがw
あ!アームズやガイバーじゃないからね!そこの所宜しく!

序にアンケートしますかね。詳しくは活動板に書き込みますのでしばしお待ちを・・・

次は―――水曜になると思います。少しリアルが、リアルにキツイ・・・
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