忠義の騎士の新たなる人生   作:ビーハイブ

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ようやく書けたです。誤字はないと信じています。


狭間の中へ

 医務室で簡易的な治療を施し、意識を取り戻したフェイトを連れ、ディルムッド達はブリッジに入った。

 

「第二小隊突入成功!」

「第一小隊! 侵入開始します!」

 

 ブリッジのモニターにはサーチャーからの映像が映っており、プレシア逮捕のために突入した武装した部隊が以前ディルムッドが完全に破壊した門から続々と時の庭園内部に入っていく姿が映っている。

 

 フェイトがここに来たのは本人の意思だ。

 母親が捕らえられるのは仕方が無い。それでもその現実から目を背けず、それを見届け、共に償いをして行きたい。

 そんな彼女の意思を高町ど……なのはが尊重し、別室のモニタールームで監視を行っていたクロノに頼んで連れて来る許可を出してもらったのだ。

  

『目標、発見しました! これより投降を呼びかけます』

 

 サーチャーが玉座の間を映し出し、そこに悠然と座るプレシアを映し出していた。

 何十人と武装した魔術師……この世界では魔導師と呼ぶらしい……を前にしても全く動じることなく、自らを捕らえに来た者達の姿が目に入っていないかのようであった。

 

 魔導師達がプレシアを包囲して行く中、一部の者が周辺の散策を行ってるとプレシアの背後にあった扉の存在に気が付き、その中に入っていった。

 

 その瞬間プレシアの様子が急変し、その姿が消えた。

 

「転移魔法?!」

『私のアリシアに…近づかないで!!』

 

 直後、狂ったような叫びが扉の中から聞こえ、中に入った者達が玉座の間へと弾き飛ばされた。

 

「エイミィ! 局員達を送還して!」

『はいっ!』

 

 おそらく非殺傷設定を解除しているのだろう。雷撃で負傷した隊員を治療するためにアースラに転送されていく。

 プレシアをあそこまで豹変させる『アリシア』とは何であるのか。残った武装隊の人間がサーチャーを操作し、通路の先を映し出す。

「えっ……」

 

 その映し出されたモノを見てフェイトが驚きの声を上げる。

 

「フェイト……ちゃん?」

 

 培養液の入った巨大なガラスの中にいたのは隣にいるはずのフェイトであった。

 

 残った武装隊の者がプレシアに向けて攻撃を放つが彼女に当たる直前に空間が歪み、全てかき消された。

 

『……うるさいわね』

「危ないっ!防いでっ!!」

 

 映像の中でプレシアがかざした手の中に光が収束するのを見たリンディが叫ぶ。

 玉座の間一帯まで降り注ぐ紫電を防ごうと全員が一斉に障壁を展開したが相殺しきれず、雷撃が止んだ後には全員が倒れていた。

 

 即座にエイミィが全員を回収し、破壊されなかった数個のサーチャーからの映像と音だけがその場から伝わってくる。

 

『たった九個でたどり着けるかわからないけど、時間がないわね……だからもう終わりにするわ……この子の身代わりの人形を娘扱いするのはね…』

「……え?」

 

 信じられない言葉を聞いたフェイトの体が硬直する。

 娘の代わりの人形……培養液の中に浮かぶ少女をいとおしげに見つめながら呟くプレシアが誰の事を言っているのか、わかりたくなくても理解させられてしまった。

 

『聞いてるかしら? フェイト、あなたのことよ。アリシアの記憶をあげたのに見た目だけのただのお人形……』

 

 そんなフェイトにプレシアは容赦なく冷たい言葉を叩きつけていく。

 

「……あの子は何者なんだ?」

「二十六年前の事故でね……プレシアは実の娘……アリシア・テスタロッサを亡くしているの」

 

 培養液の中の少女を見ながら尋ねるディルムッドに答えたのは別室にいたエイミィだった。

 語られたのはプレシアが失踪前に人造生命の生成と死者蘇生の秘術を研究していたこと……そのプロジェクトに付けられた開発コードの名がプロジェクトF……フェイトであったという真実だった。

 

『よく調べたわね。だけど……ちっとも上手く行かなくって出来上がったのは全く別の欠陥品……』

「止めてっ!!」

 

 残酷な真実を告げる狂気に囚われた女の言葉を止めようとなのはの叫ぶ。

 

『あなたはアリシアが蘇るまでの私が慰みにするだけの出来損ないの偽物……』

 

 しかしプレシアのその叫びは止まらない。今すぐこの映像を消してやりたいが、そうしてしまえばプレシアの行動がわからなくなってしまう。

 

『後ね…ずっとあなたに言ってあげたい言葉があったの……』

 

 そして、辛うじて堪えていたフェイトに向けて、ついに致命的な一言を告げる。

 

『あなたを作ってからずっとね…憎くて憎くて…大嫌いだったのよっ! もう用済みだからどこへなりとも勝手に消えなさい!』

 

 母に笑って貰いたい。その想いを胸にここまで頑張ってきたフェイトは自身の存在を母に……母親だと思っていた女に根本から否定された。

 

「フェイトちゃんっ!!」

 

 信じられない現実を拒絶するように呆然自失となって崩れ落ちるフェイトを倒れる前にディルムッドが支えた。

 

『ところで…小さな騎士さんも傍にいるんでしょう? その人形を守るとか言ってたけど……ショックで言葉を失ったのかしら?』

「貴様のような下種と語らう口を……このディルムッドは持ち合わせていない」

 

 嘲るような口調で話しかけてきたプレシアにディルムッドはただ一言を返した。

 

「貴様が娘を愛しているのはわかった。その為に己が全てを賭けようとしているのもな。しかし……」

 

 かつて己も愛に生きた。故にプレシアがアリシアを本当に愛しているのがわかるディルムッドにその想いを否定するつもりなどない。

 

「その為に人の道を踏み外し、命を弄ぶ外道に成り果てるなど断じて許さぬ!」

 

 ディルムッドが抑えきれない怒りを込め、プレシアの全てを否定しながら睨みつけた瞬間。強烈な威圧感がディルムッドから放たれ、ブリッジにいた者達を震え上がらせる。

 今まで親しみやすさを感じさせていただけの少年の物とは思えない圧倒的な存在感はディルムッドが人を超えた頂に辿り着いた者であったことを明確に伝えた。

 

(……なんだいこの、感覚……)

 

 純粋な威圧感とは異なる何かを獣の本能で感じたアルフだったが、その正体は理解できなかった。

 

『……っ?! だったらどうするって言うのかしら?』

 

 怒気が伝わったのか、一瞬反応したプレシアだったが、すぐに表情を戻し、ディルムッドに問いかける。

 

「貴様を討つ…と言いたいが、残念ながら今は管理局に属する身……貴様を捕らえるぞ。プレシア・テスタロッサ」

『残念だけどそれは受け入れられないわ……』

 

 ディルムッドの答えを聞いたプレシアがそう答えると同時に、時の庭園内部に異常が起きた。

 

「魔力反応多数…!!それぞれがAランク相当の魔力を有しています!!」

 

 軽く百は越える鎧を纏った人形が地面から出現するのと同時にプレシアの周囲に九個のジュエルシードが現れて輝きを増す。

 

「九個全てのジュエルシード発動! 次元震が発生します!」

 

 膨大なエネルギーが解放され、その余波が艦を大きく揺らす。今すぐあれを止めなければどのような惨劇を引き起こすかわからない。

 しかし、その為にはあの大量の魔術兵器を越え、その上でプレシアの元へ辿り付く必要がある。

 

『アリシアを蘇らせる為に……失われた都……アルハザードへ! そして取り戻すのよ…すべてを!』

 

 魔力の奔流と共に、プレシアの狂ったような叫びがブリッジに響き渡る。

 

「まずはフェイトを医務室へ。その後に俺達も出るぞ」

「う、うん!」

 

 虚ろな瞳のフェイトを気遣わしげな目で見つめながらなのはが頷いた。

 

「クロノ!」

「ディルムッド、僕も出る! 付いてきてくれ!」

 

 ブリッジから飛び出し、廊下を駆けていると反対方向からやってきたクロノと出会う。

 

「了解した。アルフ、フェイトを――」

「ディルムッド、ちょっとだけでいいから……フェイトの傍にいてやってくれないかい?」

 

 アルフにフェイトを託して時の庭園に向かおうとすると、唐突にそう切り出された。確かにフェイトの事は心配であるが、プレシアの暴走を一刻も早く止めなければならない。

 

「フェイト、あんたの事、凄く信頼してたんだ…だから」

「ディルムッド君! 私が行くからフェイトちゃんの傍にいてあげて!」

 

 迷うディルムッドの背をなのはが押した。

 

「……わかった。クロノ、すまないが少しだけ時間をくれ」

「わかった。待ってるよ」

 

 皆と別れ、ディルムッドは医務室に向かう。中に入り、フェイトをベッドに寝かせ、その手に先程彼女が手落としたバルディッシュを握らせてやる。

 

「……俺も本物ではない」

 

 ディルムッドの言葉にピクリとフェイトが反応した。それを見て言葉が伝わっていると判断したディルムッドがそのまま話を続ける。

 

「今は時間が無いので詳細は省くが…俺は英霊『ディルムッド・オディナ』の『情報』を使って作られた存在だ」

 

 聖杯によって英霊の情報をそのまま転写して現界した存在なので、本物と言っても構わないほど差異はないが、コピーという意味ではフェイトと同じ存在と言ってもいいだろう。

 

「俺は己を確たる個として認識している。英霊ディルムッドのコピーではなく、この世に存在するディルムッド・オディナであると」

 

 今の状態ではどうなるかわからないが、本来は死すれば情報となり座に送られるだけの存在だ。

 座にいる己とは別であることを理解しているが、それでもディルムッド・オディナの代わりだとは思ったことは無い。

 

「無論、俺と同じ考えを持てなど高慢な事は言わん。だがなフェイト…」

 

 こちらを見つめる少女の頭を優しく撫でながらただ伝えてあげたい言葉を口にする。 

 

「お前はお前(フェイト)だ。他の誰でもない、俺と共に過ごしたフェイト・テスタロッサは偽りなどではない」

 

 上手く伝えられたかわからない。アリシアの代わりではなく、フェイトという一個人であるという事をディルムッドなりの言葉で伝えたかった。

 

「辛ければここにいていい。フェイトは今まで努力し続けてきたのだからな」

 

 突きつけられた残酷な真実を受け入れるには少女はまだあまりにも幼い。逃げ出しても…現実から目を背けても責める者はここにはいないだろう。

 

「だがもしもあの女に伝えたい言葉があるならば…自らの足で立ち、向き合い想いを伝えろ」

 

 だが…己のように後悔だけはして欲しくない。願わくば辛い真実に向き合って乗り越え、前に進む力に変えて欲しいとも思っている。

 

「どうするかは…お前が決めろ。フェイト・テスタロッサ」

 

 最後の決断をフェイトに託し、ディルムッドは医務室を後にした。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 ディルムッドが去った後、フェイトは彼の言葉を反芻していた。

 

 

―――俺と共に過ごしたフェイト・テスタロッサは偽りなどではない

 

 

 母さんは私を偽者だと言った。その言葉が悲しくて……信じたくなくて……悲しい現実(イヤなこと)から逃げようとした。

 

「母さん……」

 

 母さんに微笑んで貰いたかった。頑張ったねって言って欲しかった。私が生きていたいと思ったのは…母さんに認めて貰いたかったからだ。

 

 辛い思いも…痛いことも…母さんが笑ってくれる為ならと耐えられた。捨てられた今でも…その想いはこの胸に残っている。

 

 母さんに会いたい。あってもう一度話をして……この気持ちを伝えたかった。だけど―――

 

「怖い……」

 

 拒絶されるのが――またあの冷たい声で「いらない」と言われる事が。

 辛ければここにいてもいいとディルムッドは言ってくれた。なのはとの戦いの後も頑張ったねと褒めてくれた。

 

 でも……彼の言葉の中には逃げないで立ち向かって欲しいという願いが込められていたのも私は感じていた。

 

 まるで彼自身が何かを後悔し、その想いを味わって欲しくないと言っているように思ったのだ。

 

「伝えないと……」

 

 ディルムッドも大切な人に伝えられなかった何かがあったのかもしれない。

 

 だったら自分がどうするかは決まっている。ディルムッドが握らせてくれた掌の中にいる大切なパートナーを展開する。

 

「バルディッシュ……また一緒に頑張ってくれる?」

 

《Yes sir.》

 

 ボロボロであったバルディッシュはフェイトの想いに呼応するように放たれた光に包まれる。

 

 光が弾けた時、そこにあったのは新品同様の姿に戻った戦斧の姿だった。

 

「行こう……! 本当の自分を始める為に!」

 

 黒衣のバリアジャケットを纏い、フェイトは自分を支えてくれた者達の元へ向かう。

 

 

 

 

――――今までの自分を終わらせて前に進む為に

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 時の庭園にたどり着いたディルムッドは先に向かったクロノ達の元へ向かっていた。廊下には大量の鎧片が散らばっており、激しい戦闘が行われた事は想像に難くない。

 

 そのまま疾走していくとクロノの姿を見つけた。なのは達とは別行動を取っているのか、一人で大量の傀儡を相手取っている。

 その背後から一体が迫ってきているが、疲労のせいかそれに気が付いていない。

 

「はぁっ!!」

 

 彼を守るため一気に間合いを詰め、大なる激情と小なる激情を一閃し、傀儡を斬り伏せた。

 

「少年、隙だらけだぞ?」

「嫌味か!」

 

 初めて会った時と同じ台詞を言うと、しっかり反応が返って来た。

 

「まだ余裕がありそうだな」

「当たり前だ。犯人の下に着く前に倒れるわけにはいかない」

 

 話ながらも向かって来た傀儡をディルムッドが斬り、クロノの魔法が薙ぎ払う。

 

「向かってきた分は全て俺が斬り伏せてやる。お前は安心して魔法を使えばいい」

「実戦でこんな安心感を感じたのは初めてだよ」

 

 傀儡に対してディルムッドは一切防御を行っていない。

 ランサーとして呼ばれるにふさわしい敏捷性を発揮する彼の前では鈍重な傀儡では反応することすら叶わず、一瞬で懐に入り込んでは胴体を分断していく。

 

 遠距離からの攻撃を当てようとするとクロノの遠隔魔法が頭を打ち抜き、音を立てて崩れ去る。

 

 クロノを中心にその周りを走り、跳躍して刃を振るい、迫る敵から彼を守る。ディルムッドの攻撃射程外の者はクロノが正確無比な射撃魔法で倒していく。

 

 初めての共闘でありながら、実力を持つ二名は互いのサポートを行うことで絶妙な連携を発揮し、五十以上はいた傀儡達が僅か三分足らずで駆逐された。

 

「なのは達はどうした?」

「駆動炉の封印に向かってもらった! 僕達はこのままプレシアの所に向かうぞ!」

「承知した。先陣は努めよう!」

 

 二人して最深部へ駆けながら邪魔な傀儡を倒し、プレシアのいると思われる区画に向かっていく。

 途中の穴から見えるのは『虚数空間』と言い、魔力が拡散するせいであらゆる魔法が使えなくなる空間らしい。

 落ちたら助けられないと言われたが、そのようなヘマをやる程落ちぶれてはいない。

 

「近道するよ!」

 

《Blaze Cannon》

 

 クロノのデバイスが放った砲撃魔法が壁を貫き、穴を空ける。そこから飛び出すと目的の人物がいた。

 

「プレシア・テスタロッサ!」

「待たせてしまったかな? 約束通り、捕らえに来てやったぞ?」

 

 アリシアの入ったカプセルの傍らにいる女に声をかける。ディルムッドとクロノの姿を見るとその顔を忌々しげに歪めた。

 

「どうして……どうして邪魔をする……!」

「こちらを巻き込んでおいて随分な言い草だな。道を阻む者を排除する…先程貴様がやったことであろう?」

 

 プレシアの想いを否定はしない。だからと言って他人を巻き込んでいいという訳ではない。

 罪には相応の裁きを与え、償いをさせなければならないだろう。

 

「それに、どのような技術や奇跡を用いても死者の完全なる蘇生など不可能だ」

 

 聖杯ならば可能性はあるかも知れないがそれをここで言っても仕方がないだろう。

 

「そんなことは無いわ…! アルハザードにならばその術はある!」

『アルハザードはただの伝説です。存在するかもわからない曖昧なものに縋って、貴方は何を望むの?』

 

 執念だけで生きる女の言葉を否定するようにリンディの声が念話で届く。

 視線を向けると背中から光の羽を発生させた彼女が、巨大な魔方陣の上に立ち、こちらを見ていた。

 

「私は取り戻すの…アリシアとの過去と未来を…! こんなはずじゃなかった世界の全てをっ!」

「世界は、いつだって…!こんなはずじゃないことばっかりだよ!!」

 

 隣に立つクロノが怒りの篭った視線をプレシアに向け叫ぶ。彼もまた変えたい…取り戻したい過去を抱えているのかもしれない。

 

「ずっと昔から……! 誰だってそうなんだ!」

 

 ふと、こちらに向かってくる気配に気が付き上を見上げると、バリアジャケットを纏ったフェイトの姿が見え、その瞳と目があった。

 

(……向き合う決心をしたのだな)

 

 その瞳にある決意を感じディルムッドが微笑む。この世界の子供達は何故こうも強いのだろうか。

 

「こんなはずじゃない現実から目を逸らすのも向き合うのも個人の自由だ! だけど…自分の勝手な悲しみに無関係な他人を巻き込んで良い権利はありはしない!」

 

 かつて己も愛に生きた。グラニアを守るために多くの者を巻き込み、傷付けた。

 

「周りを傷付けて得た幸せは生涯消えぬ楔を心に遺す。本当の下種ならばその限りではないがな」

 

 確かにプレシアはフェイトの心を傷付け、今も一つの世界を巻き込む大災害を引き起こそうとしている外道であるかもしれない。

 だが、その行動の根幹にあるのは失ってしまった娘への無二への愛情だ。その想いを持つ者が救いようの無い人間とは思えない。

 

「故に止める。何よりその少女も…母が破滅を迎えることを望まないだろう」

 

 そしてディルムッドが一歩下がり、クロノもそれに倣う。

 

「母さん……!」

 

 二人の想いは伝えた――今度は彼女が想いを伝える番だ。

 

「……何しに来たの…消えなさい。もうあなたに用は――」

 

 不意に言葉が途切れ、プレシアが口を押さえて激しく咳き込む。

 

「プレシア・テスタロッサ……貴方は…」

 

 顔を上げたプレシアの口から流れる紅い筋を見てクロノが呟く。おそらくは病…それもかなり重度のものだろう。

 おそらくは自身の最期が近かったことを理解しており、索敵される可能性があったのにかかわらずあのような暴挙に出たのだろう。

 

「貴方に言いたい事があります」

 

 駆け寄りたい気持ちを堪え、フェイトがゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「私はアリシアではありません…貴方が作った…ただの人形なのかもしれません…だけど――」

 

 辛い現実を受け入れながらフェイトが真っ直ぐにプレシアを見つめる。

 

「私は…フェイト・テスタロッサは、貴方に生み出してもらって…育てて貰った。貴方の娘です!」

 

 はっきりとフェイトが宣言した。

 

「貴方が娘であることを望むなら…私は世界中の誰からも…どんな出来事からも貴方を守ります。貴方は…私の母さんだから」

 

 そう言ってフェイトが手を差し出す。その手をプレシアが取るならば、フェイトはクロノに…ディルムッドにも刃を向け、彼女を守るだろう。

 

 

 

「…くだらないわ」

 

 

 

 しかし、彼女の想いに対するプレシアの答えはたった一言の拒絶の言葉だった。

 アリシアの幻影に囚われた哀れな女は、フェイトの無償の愛情を理解しようとしなかった。 

 

 そしてディルムッドが両手の剣を握り直すのとほぼ同時に、プレシアの足元に魔方陣が現れる。

 

(ちっ…! 破魔の紅薔薇を失った代償をここで払わさせられるかっ!!)

 

 破魔の紅薔薇を投擲して魔方陣に刺せば止められたかもしれないが、肝心の紅槍の修復は終わっておらず、止めようと駆け出すが、間に合わない。

 

 プレシアを起点に亀裂が走り、周囲が崩れていく。

 

「私は向かう…! アルハザードへ…!! そして取り戻すのよ…たった一つの幸福を…!」

 

 そして、彼女の足場が崩壊し、アリシアと共にその身体が虚数空間の中に落ちていく。

 

「かあさ…!」

「フェイト! 止まれ!」

 

 反射的に飛び込もうとしたフェイトを後ろから掴んで引き寄せる。

 クロノから虚数空間の話を聞いていなければそのまま彼女が飛び込むのを止めれなかっただろう。

 

 最期の瞬間まで、誰よりも己を信じてくれた存在の温もりに触れないまま、プレシア・テスタロッサは虚ろなる狭間の中へと消えていった。

 

「母さん――――――!!!」

 

 フェイトの叫びが崩壊する庭園に響き渡った。

 

『みんな! 脱出して! 崩壊まで時間がないよ!』

 

 しかし状況は干渉に浸っている時間は与えてはくれず、崩壊する時の庭園から転送魔法を使い、脱出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――不気味な面を着けた人物がその場に居た事に誰も気がつかぬままに

 




この二次SSはFate/Zero×魔法少女リリカルなのはです。

オリキャラ登場予定は今のところないです。

色々と込めた結果纏まらない纏まらない……。

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