忠義の騎士の新たなる人生   作:ビーハイブ

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本来のランスロットの素顔ってディルよりイケメンじゃないですか?


守護騎士と英霊

 

 人気の消えた結界の中、二つの影が交差する。

 

「ふっ!」

「はぁっ!」

 

 ディルムッドが槍を繰り出すとシグナムはそれを紙一重でかわし、返しに振り上げられた逆袈裟斬りにディルムッドが即座に反応し、バックステップで回避する。

 後退したディルムッドを追撃するように大きく前に踏み出したシグナムの上段から振り下ろされた剣をディルムッドが左手甲で弾き、体勢を崩した相手の腹に蹴りをねじ込んだ。

 

「ぐぅっ!」

 

 左手で蹴られた腹を押さえるシグナムに対し、剣を弾いた左甲が痺れていたディルムッドが腕を振るって感覚を戻そうとする。

 

「流石に無茶なかわし方だったか…なっ!」

 

 今度はディルムッドが接近する。

 柄の中ほどを掴んでいた手を石突近くに持ち直し、突くのではなく柄の部分で叩きつけるように振るうと空を裂く音を響かせながら強烈な打撃がシグナムを左から襲う。

 

「甘いっ!」

 

 その打撃をかわすのではなく、手甲の鎧で弾くことで、衝撃を槍に伝わらせる事でディルムッドの硬直を誘う。

 しかしディルムッドはあえて槍を放すことで槍に掛かる負荷を減らし、弾き飛ばされた槍の落下地点を予測してそこに向けて駆け、空中でそれをキャッチした。

 

「輝く貌。貴様、二槍使いか?」

「ご名答だ、烈火の将。二槍でも二刀でも…剣と槍の組み合わせでも戦えるが……今は管理局に力を封じられていてな。すまないが今は一槍しか持っていない」

 

 おそらくは槍の捌き方で気が付いたのだろう。一瞬左手で追撃を行おうと考えてしまい、身体がわずかに反応してしまったのをシグナムは見抜いていた。

 ディルムッドとしては是非とも宝具を使用した全力の死合いを望みたかったが、能力限定を受けている以上それは叶わない。

 

「だが、けして手を抜いている訳ではない。これで敗北するならば俺の力量が貴殿に劣っていた…それだけだ」

「言い訳はしない。と言う事か」

「そういう訳だ。手心など加えるなよ、烈火の将?」

 

 義を重んじる所や真っ向勝負を好む点。その甲冑や剣を使う所など、シグナムにはどこか騎士王の姿を彷彿させた。

 

 それがディルムッドには嬉しいと同時に苦い想いを抱かせる。故に手心を加えないようにと言ったのだ。

 

「安心しろ。けして手は抜かん。主の為にも我らは負ける訳にはいかんのでな」

「それを聞いて安心した」

 

 槍を構えなおし、目の前の騎士と再度向き合う。

 

「貴様とはもっとゆっくりと死合いたいが我々には時間がない。一気に決めさせてもらうぞ……レヴァンティン! カートリッジロード!」

 

《Explosion》

 

 シグナムの言葉に反応し、レヴァンティンと呼ばれたデバイスの峰の一部がスライドし、筒状の物が排出され、刀身が炎に包まれる。

 

「紫電一閃っ!」

 

 こちらに飛び掛ってきたシグナムであったが、ディルムッドはそれに充分に反応できており、斬撃を防いで攻撃しようとし―――

 

「なにっ?!」

 

 硬度を限界まで強化していたはずのデバイスが容易く切断され、左肩を斬り裂かれた。

 即座にリカバリーを施しデバイスを修復したが、左肩の負傷により、左腕に力が殆ど入らなくなってしまう。

 

 シグナムが繰り出す怒涛の斬撃を防ぐのではなく受け流す事で捌いていくが、こちらのデバイスではシールドを突破できず、相手の攻撃は槍で防ぐしかできないという状況にディルムッドが追い詰められていく。

 

「どうした輝く貌! やはり一槍では全力は出せんか!」

「舐めるなよ烈火の将! その程度の剣捌きで俺の首級をあげる事などできはせんぞ!」

 

 単純な技量だけ見ればディルムッドの方がシグナムを上回っているのだが、得物の能力と魔法によってその差は埋められている。

 

 それどころか攻撃が通らない以上、ディルムッドには勝利する未来が見えない。

 

(例え勝てなくとも……烈火の将をここで足止めできれば……!)

 

 悔しいが全力を出せない時点で勝てる可能性はゼロに近い。故にディルムッドは個人の勝利ではなく、管理局が勝利する為に尽くす道を選ぶ。

 

 シグナムの参戦を抑えれば、それだけフェイト達がなのはの救出を行いやすくなる。

 展開されている同一の結界と先程シグナムが無意識に言った『我らは負けるわけには』という言葉からシグナムのような実力者が複数いるとディルムッドは読んでいた。

 

『ごめんなさいシグナム。今すぐヴィータちゃんのとこに向かって』

 

 だが、その中に直接内部を攻撃する能力を持った者がいるという可能性に至らなかった。

 

「なっ……!!」

 

 シグナムにだけ届いた念話の直後。

 ディルムッドの胸を女性の細い手が貫き、その手の中に魔力を放つ黄金の欠片が現れる。

 

「それは…リンカーコア…なのか?」

 

 まるでこの世との繋がりを引き裂かれたような激しい苦痛と底なしの泥沼に沈み込んだような倦怠感がディルムッドを蝕む中、シグナムは信じられない物を見たという顔をしている。

 

「くっ…そっ……! 烈火の将……! キサマ…! キサマもっ! 俺の目の前で……! 騎士の誇りを貶めるのかァ……!!」

「ちっ…違う……!」

 

 先ほどの念話――この手の主の声はディルムッドには聞こえていない。

 そのせいでディルムッドはシグナムに騙し討ちされたと思い、憎悪ではなく裏切られたことへの絶望がディルムッドを支配する。

 

『あっ…! きゃ……!』

 

 その瞬間ディルムッドの中から出てきた金色の破片からドロリとした赤黒い何かが溢れた。

 それが握っていた女性の手の平に触れると慌てたように腕が消え、同時に黄金の破片もその姿を消す。

 

「ぐっ……!」

 

 最後にシグナムを睨み、ディルムッドの意識は途絶えた。

 

『……シャマル。無事か?』

『私は大丈夫…それよりシグナム…ごめんなさい』

 

 シャマルと呼ばれた女性はシグナムが楽しそうに戦っていたのをデバイスを介して見ていた。

 できることならば戦わせてあげたかったが、管理局の少女に押される仲間の救出を優先しなければならず、このような手に出たのだ。

 

『気にするな。我らには使命がある……それを果たすことが最優先だ』

『そうね…後、そのデバイスだけど、貴女の戦闘の映像が入ってるから――』

『わかっている。破壊しておくさ。先ほどのやつらのようにな』

 

 その場に倒れているディルムッドの元に歩み寄り、レヴァンティンの切っ先をデバイスのコアに突き刺した。

 そして、もしかすれば最高の好敵手となっていたかも知れない少年の姿を、しばらく見つめていたシグナムは仲間の救出の為に結界を後にした。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 もう一つの結界の中では、フェイトがアルフと協力して拘束した少女にデバイスを突きつけていた。

 

「名前と出身世界。目的を教えてもらうよ!」

 

 親友を傷付けた相手に対し、嘱託魔導師として毅然とした対応を取る。

 民間人であるなのはへの襲撃は軽犯罪では済まされないが、ディルムッドやフェイトのように更正と協力の意思を示せば減罪の可能性はある。

 

「?! なんかやばいよフェイト!」

 

 本能的に危険を察知したアルフが叫ぶと同時に、下から飛び上がってきた桃色の髪の女性がフェイトに向けて剣を振るった。

 

「フェイト…?!」

 

 辛うじて斬撃を防いだフェイトだが、勢いを抑えきれず弾き飛ばされる。

 さらに援護に向かおうとしたアルフの元に蒼い服の鍛えられた男が飛来し、強烈な打撃を放ってアルフを吹き飛ばした。

 

「レヴァンティン。カートリッジロード」

 

 刀身から薬莢のような物を排出したデバイスが焔を纏う。

 

「紫電…一閃ッ!!」

「っ?!」

 

 防ごうとしたバルディッシュごと切断し、女性が返しの太刀を防ごうと展開したシールドごとその勢いで吹き飛ばし、フェイトが地面に叩きつけられる。

 

「シグナム……」

「すまんヴィータ、遅くなった……素晴らしい槍騎士に苦戦してな」

「槍…騎士?」

 

 ビルの中まで叩きつけられたフェイトは槍騎士という言葉に反応する。彼女の脳裏に浮かぶのは先程もう一つの結界に向かった大切な人の姿だった。

 

「結構手こずったみたいだけど勝ったみたいだな」

 

 ヴィータと呼ばれた少女を拘束していたバインドをシグナムと呼ばれた剣士が解除した。

 

「あんな結末は勝利と言わん…!」

 

 悔しげに左手を握り締めるシグナムを見てヴィータが首を傾げているが三人とも内心は激しく動揺しており、それに気がついていなかった。

 

 槍騎士とは間違いなくディルムッドの事だろう。そして彼が敵を逃すはずは無く、彼女がここに来ることが出来た理由は一つしか思いつかない。

 

 

 

――――ディルムッドの敗北

 

 

 

「そんな事――」

 

 あるはずがない。

 フェイトにはそれを信じることができず、その可能性に至ったユーノとアルフからも動揺の気配を感じた。

 

「……槍使いの魔導師をどうしたの?」

 

 何かの間違いであるとフェイトは必死に自分に言い聞かせながら、努めて冷静に問いかけた。

 

「殺してはいない…が、それ以上の侮辱を与えてしまったが……」

「っ?! バルディッシュ!」

 

《Scythe Form.》

 

 切断され短くなったバルディッシュを修復することなく斬りかかる。激高したフェイトの攻撃をあっさりと防ぎ、そのまま押し込まれ弾き飛ばされた。

 

「悪くは無い…が、輝く貌には遠く及ばんな」

 

 吹き飛ばされた事で冷静さを取り戻す。闇雲に飛び掛っても勝てないと悟ったフェイトはバルディッシュにリカバリーを行い、失った柄を再構成する。

 

 現在この結界には通信妨害の術式が組み込まれており、アースラとの連絡を取ることはできない。

 

『ユーノ、アルフ。全員を結界外に転送できる?』

『アルフと協力すれば何とか…』

『ちょいと厳しいけど、やってみるよ』

 

 ヴィータと呼ばれた少女だけならば逮捕も可能であったかもしれないが、増援に現れた二人によって現在は三対三となっており、戦力差の優位性は失われた。

 

 その状態に加えて負傷したなのはを護りながら戦うのは正直厳しい。

 

(だったら今は撤退してなのはの安全とアースラとの合流を優先した方がいい…)

 

 何の準備もなく飛び込んだフェイト達はこのままでは不利である。

 ここは取り逃がす事になるが、まずはなのはの安全の確保とディルムッドの回収を優先すべきであると判断したのだ。

 

『私が前に出る。その間にやってみ―――』

「AAAALALALALALAIE!!」

 

 そんなフェイトの決意をぶち壊すかのように稲妻と轟音と共に上空から何かが飛び込んできた。

 

「げっ……!!」

 

 敵の増援かと思ったが、その姿を見たヴィータが心底嫌そうな声を出し、武器を突きつけているのでおそらく違うのだろう。

 

「ほう! 昨日と似たようなもんが展開されておったので見に来てみたが……」

 

 二頭の雷を放つ牛が牽引するチャリオットとあり得ない存在に乗っている二メートル近くの大男は空中で対峙するシグナムとフェイトのど真ん中に陣取ると愉快げに結界内で戦う者達を眺めている。

 

「おぉ! 昨夜の赤い小娘もいるではないか! 」

「……ヴィータの知り合いか?」

「そんなんじゃねーよ!」

 

 明確な敵意と警戒を込めたその声から何かを感じ取ったのか、シグナムとアルフと戦っていた男も

現れた乱入者への警戒を強めている。

 

「そう睨むでない。今宵は貴様達と戦う気は無いわ」

「じゃあ何のために来やがった!」

「そりゃあお前さん…この場にいる者がこの征服王イスカンダルと共に覇道を目指すに値するかを見定めるために決まっておろう!」

 

 ヴィータの怒鳴り声にも怯まず、イスカンダルと名乗る男はそう答え、フェイト達もシグナム達も唖然とさせられた。

 

「生身で空を駆け、奇妙な宝具を持つ者達が戦う……バビロニアの王が言っておったように、この世界は余を飽きさせることはない!」

 

 そう言うとチャリオットに積んであった樽の蓋を拳で破壊し、中身の真紅の液体…おそらく赤ワインを柄杓から直接飲む。

 周りの反応など気にせずに酒を飲んでいる豪胆な男の姿に全員戸惑うが、ユーノだけはイスカンダルの言葉からその正体に行き着いた。

 

「宝具…貴方はディルムッドと同じ世界から来たのですか?」

「ディルムッド……おぉ!! ランサーの奴めもこの地に現界しておったか! こりゃあ面白いことになっているではないか!!」

 

 ディルムッドの名を聞きイスカンダルは大いに喜んでいた。

 

「腑抜けたマスターに自害を強要されて散るなどあの男もさぞかし無念であったろうからなぁ…」

 

 彼は軍門に入れたい逸材であり、忠臣ウェイバーの使い魔から伝えられたディルムッドの末路を知っている。

 なので彼の絶望を理解しているイスカンダルからすれば今度こそは朋友としてその力を振るってもらいたい相手であったのだ。

 

「自害……?」

「ディルムッドは自分で命を絶ったって言うのかい?」

 

 イスカンダルの呟きはディルムッドを知る者達からすれば信じられないものである。いくら主君に命令されたからと言って彼が自ら命を絶つなど有り得ないと。

 状況を理解していないシグナム達も目の前の男を警戒しながらもその話を聞き、同時に機会を狙っていた。

 

「自ら…というのはちぃと違うのぉ…余も直接その結末を見た訳ではないのだが…おそらくは令呪による強制であろうな」

「令呪…?」

「ランサーの奴からは聞いておらんか? サーヴァントに掛けられた三度の絶対命令権よ」

 

 イスカンダルはディルムッドが意図的に省いた事実を言った。

 令呪とはマスターは自分より圧倒的に格上の英霊を御するための物で、三回の絶対に拒絶できない。

 それによりディルムッドはマスターから『自害』を強制されて自らの胸を槍で穿ったと。

 

「どうして…ディルムッドの主はそんなことを…」

「さぁなぁ…余もそこまではわからん。それがセイバーとの一騎打ちの最中であったと聞き及んではいたがなぁ…む?」

 

 最後の言葉に何かを感じたのかシグナムの表情が歪むが、イスカンダルは何かに気が付き、視線をそちらに向けたのでそれに気付かなかった。

 

「なのは?!」

 

 そこにはユーノが展開した結界から出たなのは上空に向けて収束砲を放とうとしている姿だった。

 

『私が結界を壊すから…タイミングを合わせて転送を!』

 

 なのはが念話でフェイト達に呼びかけ、三人がそれに頷く。シグナム達もそれに気が付き、なのはを止めようと向かったが、それをフェイト達が阻む。

 

「ほほう…」

 

 それを興味深げに見ていたイスカンダルの前でなのはに異変が起こった。

 

 

 

―――少女の胸から腕が生えていた

 

 

 それを見たフェイト達が叫ぶ。

 胸から現れたその手には彼女のリンカーコアが浮かびあがり、明滅していた。

 

「スターライト……!」

 

 なのはは苦悶の表情を浮かべながらも収束した魔力を放とうと構え――

 

「ブレイカ―――!!!」

 

 自身の渾身の魔法を上空に向けて撃ち込んだ。

 

 放たれた桜色の閃光が結界を切り裂くが、おそらくはあの腕に何かされたのだろう。その直後、なのはが意識を失い、地面に倒れた。 

 

『結界が抜かれたか…離れるぞ!』

『心得た』

『あの牛のおっさんはどうすんだよ』

 

 三人が念話で会話する視線の先には、イレギュラーな乱入者であるイスカンダルの姿がある。

 

『今は放っておけ。あの男に管理局の意識が行っている方が撤退しやすい』

 

 彼女達の仲間である蒼い騎士…ザフィーラがそう答えた。

 ここでイスカンダルの魔力を狙うよりも管理局から逃れる方が優先であるという判断だ。

 

『わーったよ…シャマルごめん。助かった』

『うん…いったん散って……いつもの場所で……』

『シャマル? どうかしたのか?』

『ううん…大丈夫よ。心配しないで…それじゃあまた後でね…』 

 

 シャマルの苦しげな様子の声にシグナムが心配そうに尋ねるが、彼女は何でもないと答える。

 

 その言葉をひとまず信じた全員がバラバラに散開していく。その瞬間、認識齟齬の魔法も解除されてしまった。

 

「むぅ? 余の神威の車輪が見えているのか」

 

 その言葉で我に返ったユーノが騎士達がいなくなった事で解かれていた結界を再展開した。手遅れの気もするが、何かの見間違いと勘違いしてくれることを祈るしかない。

 

「こりゃー、一献交わせる様子では無くなったなぁ」

 

 散っていった騎士達の方向を眺めながらイスカンダルがため息を吐き、現在の拠点に戻ろうと手綱を握る。

 

 そのまま去って行くイスカンダルをフェイト達は見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 アースラの内部では、送られてきた映像に騒然となっていた。

 

 バラバラに散っていく四人とスターライトブレイカーを放った後に倒れたなのは。

 

 さらには先程上空から結界の中に侵入していった男が映っており、一体中で何が起きたのかと全員が混乱していた。

 

「急いで医療班を現地に飛ばして!」

 

 だが、まずはなのはの治療と保護が最優先だと、リンディが命令を下す。

 

「乱入者の男も撤退を開始しました! 追跡を開始します!」

 

 四人はすでにバラバラの方向に逃走しており、レーダーのロックから外れてしまったので、せめて一人だけでも居場所を掴もうと局員の一人が手元のパネルを操作する。

 

「申し訳ありません。それは困ります」

 

 その言葉と共に、パネルに黒塗りの短剣が突き立てられ、火花が飛び散り、ブリッジに悲鳴が響き渡った。

 

 それに反応した全員の視線がそちらに向くと、そこにいたのは褐色の肌の少女だった。

 

「お初にお目にかかります。我らはアサシンのサーヴァント、ハサン・サッバーハと申します」

 

 そういうと少女が短剣を引き抜きながらペコリと頭を下げる。

 頭にお面のように付けている髑髏が不気味であったが、それ以外にはおかしな所はない。

 

 

 

―――ここが一般人の入れないアースラのブリッジでなければ

 

 

 

「気が付かなかったのは仕方がありません。我らの『気配遮断』と主の技術を合わせたのですから」

 

 リンディ達の焦りを理解しているハサンがあっさりと能力を暴露する。アサシンの気配遮断はわかっていても気付く事ができないからだ。

 

「あなた方に手を出すつもりはありません。我らが命じられたのは『ライダー』とヴォルケンリッターを逃がす手伝いだけですので」

「我らということは、他のもいるという事かしら」

 

 リンディはディルムッドからアサシンというクラスがあった事は聞いている。つまりは彼女も何らかの英雄であると同時に特殊な能力を有しており、それによってここに侵入できたという事は想像に難くなかった。

 

「我らは一人にあらず」

 

 少女がそういうとリンディの背後に黒い靄が現れ、振り返ると骸骨の面を付けた黒尽くめの女が現れる。

 

「我らは分断された個」

「郡にして個の英霊」

「されど個にして…影」

 

 ローブを纏った者、長髪の者、小柄な者…骸骨の面と黒尽くめという共通点がある不気味な人物がブリッジに現れる。

 その数はすでに十を超えており、異常を察知したクロノとエイミィが駆けつけた。

 

「我らに構っていて宜しいのですかな?」

「どういうことだ?」

 

 クロノがデバイスを構え、ハサンの一人が不意にそんなことをいった。

 

「我らはここにいるのが全員ではありません。予め分裂していた者もいます」

 

 クロノの問いに褐色の少女が答える。

 

「ランサーから目を離すとは」

「意識を失った仲間を放り出しておくとは」

「管理局も冷たいものですな」

「っ?! しまった! ディルムッドはどうなってる?!」

 

 周囲のハサンの言葉を聞き、ようやく彼らの言葉の意図を掴んだが遅かった。

 慌てて同時に解除されたもう一つの結界周囲の映像とディルムッドのデバイスの発信機の信号を確認するが、彼の痕跡が消えていた。

 

「…ディルムッドさんをどうしたのですか?」

「殺してはいませんよ。我らが命じられたのは『可能な限り場を面白可笑しく引っ掻き回して欲しい』ということなので少し彼を移動させただけです」

 

 そう言うとハサン達の姿が掻き消えていき、少女の姿だけがそこに残った。

 

「何故、今代の主はそのような命令をしたのかしら?」

 

 先程の四人の顔をリンディもクロノも知っていた。

 守護騎士ヴォルケンリッター。二人にとって因縁深いロストロギア『闇の書』の防衛プログラムである。

 

 ただでさえ強力な守護騎士を持つ闇の書の主がサーヴァント『アサシン』を配下にしているというのは厄介であり、主の狙いを読み取ろうと問いかける。

 

 それを聞いて首をかしげたハサンの少女は数秒考え込んだ後、あぁ。と何かに気が付いた素振りを見せる。

 

「勘違いなさっているようですが。我らの主と、やて…闇の書とは無関係ですよ。さてそれでは失礼します」

 

 そういうといつの間にか少女の手に握られていた小型の機械が光を発し、その姿を包み込んでいく。

 

「待てっ!」

「我らは影です。必要とあらばこちらから逢いに参りましょう」

 

 クロノの静止を無視し、ハサンの姿がその場から消えた。

 

「ディルムッド…」

 

 消えた友の身を案じながら、クロノが拳を握り締める。まもなく戻ってくるフェイト達に何と言っていいのかクロノにはわからなかった。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 月村すずかは焦っていた。

 

 突然窓から飛び出した猫を追って外に出ると森の入り口に左肩を斬り裂かれ意識を失った少年が倒れていたのだ。

 

「だ…大丈夫?」

 

 大丈夫ではないと思うが、意識があるかを確認するために声をかける。少年は荒い息を上げているだけで、呼びかけに反応する様子がまったくない。

 

―――整った顔の少年だった

 

 年齢はすずかと同じ位だろうか。

 黒髪だが、西洋系の顔立ちで右目下に泣き黒子がある。触れてみると同年代としては異常なほど鍛え上げられた体付きをしているのがわかる。

 傷口自体はそれほど深くはないが、衰弱しており、放っておけば危険であるのは間違いない。

 

「とりあえず治療してあげないと……」

 

 病院に連れて行くべきだと思ったが、それを躊躇ってしまったのは少年の隣に突き刺さっている損傷した機械の槍の存在があったからだ。

 

 重症を負った少年と機械の槍。

 

 普通ではあり得ない事情を抱えているのは明白であるが、怪しいからといって見捨てることが出来る少女ではない。すぐに家に駆け込み、二人のメイドを呼ぶと、即座に対応してもらった。

 

 詳しい事情は彼が目覚めてから聞くことにして、屋敷で処置を施すことになった。

 なんとなくだったが、すずかは彼が悪い人だとは思えず、早く話をしてみたいと思ったのだった。

 

 

 

 ちなみに似たようなのを抱える事になってしまった彼女の親友のアリサは、翌日のテレビで空飛ぶ牛が現れたというニュースと不鮮明な画像を見る事になるのだが、それが庭で鍛錬している同居人であるとは夢にも思わないのであった。

 

 




ウェイバー君出したろうかって思うほどイスカンダルさん大暴走。突っ込み不在は大変です。

ディルムッドさん最期のトラウマ再現回になりました。

二点ほどお伝えしたいのですが

一・ロリアサシンは没設定ではしゃべれないのですが、このSSでは会話します。
一つは喋らせやすいってのと脳内でイメージした時に黒タイツ骸骨が喋るより可愛い幼女が敬語で喋ってる方が絵的によくないですか?

二・月村さんの家の設定ですが、作者がトラハって何ってくらい知らないです(なのははわかるんですが)。他の作者様の作品の設定からイメージして書くって手もあると思いますが、それだと確実にキャラがぶれたり設定がめちゃくちゃになってしまうと思いますのでこのSSでは『金持ちだけどちょっと裏の顔を持ってる人間』という設定で行きたいと思います。

吸血鬼とかWI○I見たら書いてますけど血を見たらどうなるとかが全く書いてないので動かし方がわからなかったのです。
吸血鬼ってDI○様しか浮かばないですし。

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