忠義の騎士の新たなる人生   作:ビーハイブ

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サブタイを第○○話にしなかったことを後悔。
最初に厨二っぽくつけちゃったから今更普通に戻せないんだZE


狂気と安寧

 

 

 

 

 

 

――『十二月八日』――

 

 

 

 

 闇の書を確保する直前まで追い詰めたが、仮面の男と共に現れたバーサーカーの攻撃のせいで結界の破壊を許してしまい、守護騎士を全員逃がしてしまった。

 

 現在フェイト達は、司令部代理となっているマンションの一室に戻っており、これからの対策と守護騎士の説明を行おうとしたのだが、それを部屋に響いたドアを叩く音が中断した。

 

「? こんな時間に誰だろう?」

 

 代表してエイミィが玄関に向かい、チャイムを鳴らさずにドアを叩く謎の来客の正体を覗き穴から確認する。

 

「うそっ?!」

 

 その姿を確認したエイミィの信じられないといった声に慌てて全員が玄関に向かい、開かれた玄関の外を見た。

 

「あ……っ!」

「……どうやらアサシンの奴は正しい情報を寄越した訳か…」

 

 そこにいたのは破魔の紅薔薇を杖代わりにしているディルムッドであった。服は所々破れ、血が滲んでいたが、大きな出血や怪我は見当たらない。

 

「よく無事で…って言いたいけど…」

「満身創痍だ…我ながら無様だな……まぁ征服王相手に生き延びただけでも奇跡というべ……き……」

「ディルムッド!!」

「ディルムッド君!!」

 

 そこまで言うと安心したのか意識を失い、破魔の紅薔薇が虚空に消える。慌てて倒れそうになったディルムッドをクロノが支え、部屋に連れていった。

 

「ダメージは大きいけど…致命傷はないね」

 

 ソファに寝かせたディルムッドにユーノとクロノが治癒魔法を施す。肉体を限界まで酷使した形跡はあるが、致命傷や呪いの類は見当たらない。

 

「さっき征服王がって言ってたからこのダメージはあの男と戦った結果かもね」

 

 破魔の紅薔薇を持っていたことから、ディルムッドは何らかの手段で能力限定を解除に成功し、その上でイスカンダルと戦ったのだろう。

 あの豪放磊落な大男が全力のディルムッドをここまで追い詰めるほどの力を持っていることに全員が警戒心を新たにする。敵対するのであればあまりにも厄介な存在であるだろう。

 

 彼が目覚めるまで説明は中断されることになり、その間、全員が回復を祈る。

 

 そのまま三十分ほど懸命な治療を行うとようやく意識を取り戻した。

 

「…っ! 俺は……」

「目が覚めたんだねっ! よかった~」

 

 意識を取り戻したディルムッドになのはが安堵の声を上げる。その声に周囲を見渡した彼に――

 

「ディルムッドッ!!」

「がふぅっ?!」

 

 フェイトがダイブしながら抱き付き、腹部を襲った衝撃に彼の口からは普段は聞くことが無い叫びが出た。

 

「良かった…無事でいてくれて…よかったよぉ……」

 

 現在進行形でちょっと危なかったと言いそうになったが、フェイトの泣きそうな表情を見て、その言葉を全力で飲み込んだ。

 あの日、ディルムッドが生死不明と言われてから後悔と不安を胸の内に隠して戦ってきた少女は再会の喜びを抑え切れなかったのだ。

 

「フェ…フェイトにも心配をかけたな……それに皆にも、連絡が取れず済まなかった…」

 

 腹部に直撃を浴びるのは魔猪に殺された時以来であり、久々の衝撃に目の前で星が回っていたが何とか堪えて笑顔で返す。

 傷はユーノ達が治してくれていたが、イスカンダルとの戦いで魔力で筋力の強化を行ったので肉体内部のダメージはかなり残っており、、正直僅かな衝撃でもかなりのダメージとなる。

 

「申し訳ないですけどディルムッドさん。貴方が戦ったのはイスカンダルという男ですか」

「やはりすでにそちらと接触を行っていましたか…その通りです。奴とは軍門に下るか否かを賭けて一騎打ちを行いました」

 

 抱きつきながら涙を堪える少女の頭を撫でつつも深呼吸してその痛みを誤魔化しながらリンディの質問に答える。

 その後もあの後に起きた出来事を語る。デバイスが破壊されていたこと、目覚めた屋敷で住人を人質に脅されて動けなかった事、

ハサンの主という者の技術で能力の封印を解除された事を伝えた。

 

「俺を救ってくれたのは月村すずかという少女でな」

 

 ハサンから彼女は名なのはの友人と聞いている。突然知った名前が出て驚くかもしれないと思ったのだが。 

 

「あぁ…そうだったんだ」

「ディルムッド君、すずかちゃんの家にいたんだ…」

 

 何故か二人とも妙に納得したように頷いた。

 

「すずかから俺の事を聞いていたのか?」

「そうじゃないんだけど…」

 

 だったらそちらから接触してこなかったのはおかしいと思い、尋ねると二人とも言葉に詰まっていた。

 

((最近の様子が恋する乙女だったから…))

 

 などとは口が裂けても言えない。

 

『フェイトちゃん、キスってどんな味だろうね』

『なのはちゃん、一緒に住んでたら恋人になれるかな…お姉ちゃんたちみたいに』

 

 等、その他を挙げればキリがない。今まではいきなりそのような事を言い出した理由がわからなかったが、今の説明で納得した。

 

「それで今夜ハサンによって能力を解除されてしまったのでな…魅了しては不味いので屋敷を離れたのだ。どうやらハサンの方も合流を認めたようだったのでな」

(手遅れだよ…ディルムッド……)

 

 ディルムッド・オディナは致命的な勘違いをしている。

 自分が女性にモテている自覚は持っているのだが、それらは全て魅了による物だと思い込んでいるのだ。

 

 つまりは自身の魅力だけではそんな事にはならないと信じている。

 なので魅了を封じられた状態や魔力を保有しながらあえて呪いを受けるような人間以外は絶対に自分を愛さないと思って行動している。

 

「それよりそちらの状況はどうなっている?」

「あぁ、今夜例のロストロギア…闇の書を回収しようとしたんだがバーサーカーに襲われて…」

「あの狂戦士もこちらに来たか…」

 

 自身の説明は終わったと、いない間の状況の確認を尋ね、それにクロノが答えていく。

 

 目の前の管理局の女性の視線を一手に集め、一部女性局員を十歳程の少年に対し抱く感情に自分の性癖がおかしくなったのではないかと苦悩させている事など夢にも思っていないのだろう。

 

「ならばバーサーカーの相手は俺がしよう」

 

 そんな少女二人の内心など知らず、一通りの説明を受けたディルムッドがバーサーカーの相手を引き受けた。本当はシグナムに借りを返したいところであるが相性を考えての判断である。

 

「以前戦った時、奴の武器を破魔の紅薔薇で破壊することができた」

 

 バーサーカーの触れたものを宝具化する能力にとってディルムッドの魔力を打ち消す破魔の紅薔薇は天敵と言ってもいい。

 なんらかの奥の手を隠している可能性もあるが基本的に優位に戦いを進める事ができるだろう。

 

 ディルムッドの今後の行動が定まったことで、話は中断されていた話題…守護騎士の正体の話に戻った。

 

「使い魔でも人間でも無い擬似生命?」

 

 それがクロノから語られた事だった。

 

「それって私みたいな…」

 

 それを聞いたフェイトが不安げな声で尋ねる。

 アリシアのコピーとして作られた自分は人間ではないのではないのか。どこかそのような不安を抱えていたのだろう。

 

「それは違うわ! フェイトさんは生まれ方が少し違うだけで命を受けて生み出された人間でしょう?」

「検査の結果でもちゃんとそう出てただろう?」

 

 それをリンディとクロノが即座に否定する。

 

「そうだな。フェイトは人間だろう。そう悲しい事を言うな」

 

 ディルムッドも彼女の不安を否定する。擬似生命というならばむしろ己の方がそうだと思ったが、そう言うと余計にややこしい話になるのは明白であるので口にはしなかった。

 

 エイミィの解説によると守護騎士とは闇の書に内臓されたプログラムであるそうだ。

 

 そもそも闇の書とは転生と再生を繰り返し様々な主の元を渡り歩くロストロギアであり、他の生命から蒐集と呼ばれるリンカーコアと呼ばれる魔力源を喰らう行為を行って魔力と魔力資質を得ると同時に闇の書の頁が増えていく。

 

 守護騎士とは主を守りながら代わりに蒐集を行う感情を持たない存在で、過去の事件で意思疎通を行うための対話能力があることは確認されている。

 

「しかし…俺は烈火の将以外とは会話していないが…彼女には明確な感情があった」

 

 ディルムッドと戦った時、シグナムは笑みを浮かべ、名乗りを上げて礼節を尽くそうとした。横槍に倒れ、怒りの声を上げたディルムッドに対して動揺するなど感情の揺れも見せた。

 

 それはなのはとフェイトも同様であったようで二人とも守護騎士達からは感情を感じたようだ。色々と疑問点は残ったが、捜査に当たっている局員の報告を待ち、それから判断することになった。

 

「ディルムッドは守護騎士の事を恨んでないの?」

 

 話が纏まって来た時、フェイトがディルムッドに尋ねる。一騎打ちの最中に不意打ちなど騎士道精神に反する行為をされたにしてはそれほど彼らに対して怒りを感じている様子がなかった事が不思議だったのだろう。

 

「そうだな…最初は憎悪すら抱いてしまったが……少し思うところがあってな」

 

 そう言いながら思い出すのは意識を失う直前のシグナムの表情だった。

 最初は騙されたと思ったが、冷静に時間を置いて考えてみるとあの事態は彼女としても想定外であったのかもしれない。

 もしそうであったならば、あれは互いにとって不本意な結末であったのだろう。

 

「全てが終わった時、今度は正々堂々と全力でぶつかり合って決着をつける。それでいいと思ったのさ」

 

 私情よりも優先すべき事がある。

 

 それはかつて主君に尽くしていた己が一番理解できる。なのにそれに殉じていた彼女を恨むなど逆恨みも甚だしい事だと今は思えたのだ。

 

 明日からはディルムッドはハサンによる限定解除の影響の検査と次の戦いまでに身体を万全にするため、ユーノは闇の書の詳しい調査を行うためにそれぞれ本局へ向かう事となる。

 

 そして、黙って去ることの謝罪と後日の再会を約束した旨を書いた文をすずかの家に届けてもらうことをなのはに頼み、彼女と別れたのだった。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 結界を闇の書の力で破壊し、管理局から逃れた四人が家に戻った時そこに主の姿は無く、今晩一緒に食事を取る約束をしていた友人であるすずかの家に泊まるという内容の手紙が机に置いてあった。

 

「はやてちゃん…ホントにごめんなさい…!」

『平気や。全然怒ってへんよ』

 

 はやてに謝罪するためにシャマルが電話を掛け、電話越しの彼女が笑って怒っていないと答える。

 

『それより聞いてーなシャマル。実はすずかちゃんの家にな、こないだ話したディル君が今住んどるんやって!』

「…え?」

 

 彼女の口から語られた事に、シャマルの意識が固まった。

 ディルムッドという少年は管理局側の人間である。もしもはやての口から自分達の名前が出れば彼女が闇の書の主であることが管理局にバレてしまう可能性が高い。そう思うとシャマルは緊張で自然と口の中が乾いていくのを感じた。

 

『今晩は用事があるてゆーて出かけてるらしくてな…会えへんかってんけど……こんな近くにおるんやったら家に来てくれても良かったのに……』

 

 会いたがっていたはやてには申し訳ないが、幸いにも彼と出会えなかったようだ。それを聞いたシャマルがホッと胸を撫で下ろす。

 その後いろいろと彼女の話を聞き、最後に受話器をヴィータに渡してシャマルが庭に出る。そしてそこにいた予想外の存在を見つけて悲鳴を上げそうになったが慌てて口を噤んだ。

 

 そこにいたのはシャマルを助けた全身を白銀の鎖で拘束された黒騎士だった。

 先程の狂戦士と言っていいほど荒々しい気配とは打って変わり、そこに佇む黒騎士は月夜の湖の水面のように静かである。

 

『それは貸してやる。蒐集に役に立つだろう』

 

 驚くシャマルと異変を感じて出てきたシグナムとザフィーラに向けて念話が届く。その声は先ほど目の前の騎士と共に現れた仮面の男のものだった。

 

 ヴィータははやてを不安がらせないように平静を保つように室内で電話を続けながらもその声に意識を傾ける。

 

「――――――」

 

 まるで彫像のように佇む黒騎士の姿がかつての…はやてと出会う前の…感情を持たず、主の命令に従うだけの存在であった頃の自分達の姿と重なる

 

「こいつは…一体……」

『瀕死のそいつの記憶を覗き、弄った……今のそいつは永遠の悪夢の中に囚われているただの人形だ』

 

 ザフィーラの言葉に仮面の男の声が答える。

 

「Ar……thur……」

 

 アーサー。そう、騎士が呻くように呟いた。

 その声を聞いてようやく黒騎士に心があることに気が付く。しかしその声には悔恨と憎悪…そして深い絶望が篭っていた。

 

『その鎖がある限りそいつは貴様達には逆らず、命令がなければ暴れる事もない。だが戦いになれば命を賭してでも目的を遂行するだろう』

「貴様…ッ!!」

 

 記憶を改ざんし、鎖で自由を奪い道具のように利用する。

 黒騎士の意思を無視したあまりに残酷な行為に守護騎士達が怒りを覚える。

 

『何を怒る? 貴様らは今までも多くの者を蒐集によって踏みにじり、苦しめただろう? それが少し増えたところでたいした事ではあるまい?』

 

 彼らの怒りに対し仮面の男が返したのは哄笑と侮蔑の言葉だった。

 今更善人面するな。他者を苦しめ、その力を利用しているという意味では同じだと。

 

「……っ!!」

 

 シグナムは違うと言おうとした瞬間、ディルムッドの最後に自身を見る表情を思い出してしまい躊躇ってしまった。

 

「違うっ!!」

 

 そんなシグナムに変わり否定の言葉を上げたのは、はやてとの会話を終え、庭に出てきたヴィータだった。

 

「あたし達とお前は違う! あたし達はこんなひでぇ事しねぇ!」

 

 叫ぶヴィータの声は、まるで自分に言い聞かせるようにも聞こえた。

 ヴィータもまた、大切な主を守るためとはいえ他の誰かを傷付ける事には自責の念を感じているのだ。

 はやてと出会う前であるならば、目の前の拘束された黒騎士を見ても何も感じる事無く、ただ蒐集が楽になると思うだけであっただろう。

 

 だが今は違う。はやてと出会い、その優しさに触れた事で変わった。

 他人の痛みも悲しみも理解できる。理解できるからこそ蒐集を行う事が辛いのだが。

 

『そうか……そのバーサーカーも…かつては湖の騎士と呼ばれていたそうだ』

「え?」

 

 ヴィータの叫びに何かを感じたのか、仮面の男は唐突にそう言った。

 思わずシャマルが聞き返そうとするが、その言葉を最後に念話が途絶えてしまい、詳しく聞くことはできなかった。

 

「行ってしまったな…」

 

 ザフィーラが呟く。守護騎士とやや猫背気味に佇んでいる黒騎士…バーサーカーだけがその場に残された。

 

 バーサーカーは何も喋らない。なんとも言い難い気まずい雰囲気が寒空の庭を支配する。

 

 縦横無尽に動き回っていた時は気付かなかったが、改めて見ると思ったより小さい。

 全身を覆う甲冑と猫背のせいでわかりづらかったが背丈はおそらくディルムッドと同じくらいだろう。

 

「……どうしましょうか?」

「とりあえず、中に入れる…か?」

 

 寒さを感じるのか…そもそも彼(?)が人間なのか使い魔なのかもバーサーカーが発する黒い魔力の霧によって判別することができない。

 

 家主の判断無しで家に入れていいのか迷ったが、こんな寒空の中に鎖に拘束され、自由を奪われたバーサーカーを放り出したままにしておくのは彼らの芽生えた良心が痛む。

 

 室内に入るように言うと素直に四人の後を付いて来た。

 

「うぉわっ?! スリッパが真っ黒になった?!」

「あの時の杖みたいになったわね……」

 

 土足と呼んでいいかわからないが全身を覆う騎士甲冑のままリビングに入れるのはまずいと思ったのでスリッパを履かせると、ピンクのスリッパが真っ黒に変色し、赤い模様が浮かび上がっている。

 

「とりあえず…食事にしようか」

 

 はやてが用意してくれた鍋を食べようと全員が席に着く。

 なんとなく怖いもの見たさもあったので、バーサーカーを空いているはやての席に座らせる。

 

 グツグツと鍋の中身が煮立つのを待つ中、緊張感が漂う。全員シャマルからバーサーカーが大暴れして管理局の魔導師を圧倒していた話を聞いていたからだ。

 先ほどの仮面の男が命令がなければ暴れないと言っていたが、それでも絶対にそうだという保障はない。

 

「え…と。貴方ってご飯食べれる…?」

 

 鍋で出来上がり、緊張しながらも勇気を出したシャマルが中身を食器に移し黒騎士の前に置く。

 バーサーカーは数秒それを見つめた後、やたらと器用に同じく触ったと同時に黒くなった箸と器を持った。

 

「うぉ! そこ開くのか?!」

 

 兜が邪魔で食べれないのではないかと思っていたが、兜の下顎部分が上にスライドし、隙間が生まれてそこから器用に食べ始めた。

 

『鎧の中身が見える気がするのだが…よくわからんな』

『たぶんあの黒い魔力の霧が彼の姿を識別できなくしているのよ』

『だが、おそらく少年だな……十代半ば程か?』

『なぁ、はやてにこいつ飼っていいか聞いていいか?』

 

 椅子にちゃんと座り、何も言わずに黙々と食べる姿は、

狂気に満ちた戦いをしていた時とのギャップを感じさせてそれが場を和ませた。

 

 そんな事が話し合われているなど理性を奪われたバーサーカーには察することなどできず、ただ本能のままに食事を行う。

 

 なお、理性が無いのに行儀良く食事をしているのは掴んだ物を自身の宝具として扱う『騎士は徒手にて死せず』と戦闘技術が劣化しない固有スキル『無窮の武練』による賜物である。

 

「さて…ご飯食べ終わったし…あたしとザフィーラと……お前も蒐集に向かうぞ」

「――――――――」

 

 食事を終えたヴィータが声をかけると鎧を軋ませながらバーサーカーが立ち上がった。

 

「でもこの子武器を持って――」

 

 いないとシャマルが言おうとした時、変化が起きた。

 全身を覆っていた黒い魔力の霧が消え、白銀の鎖と漆黒の鎧がはっきりとその姿を見せる。

 

 そしてバーサーカーの右手に禍々しくも見事な造詣の剣が姿を現した。

 

 

 

―――――無毀なる湖光(アロンダイト)

 

 

 

 約束された勝利の剣と同じく神造兵装であり今は魔剣となった伝説の武器である。

 円卓の騎士の中で最強の男であった彼が有するその剣はそこに存在するだけでもその威光で他者を屈服させる。

 

 理性を奪われた悲しい黒騎士が赤と黒の光彩を放つ至高の宝剣と共に動き出した。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

――『十二月九日』――

 

 

 

――――頼む、一緒に来てくれ

 

 

 管理局に着き、検査に向かおうとしたディルムッドの服を掴みながら、珍しくクロノ・ハラオウンが懇願してきた。

 それほど身体に不調を感じている訳でも無く、何より緊急の用事も無いのに上官の頼みを断る訳にも行かないだろう。

 

 そんな訳で現在はクロノ、エイミィ、ユーノと共に闇の書の調査を協力してくれる人物の元に向かっていた。

 

「これから会う人物はクロノがそこまで警戒する人物なのか?」

 

 前を行き、ユーノと色々と話をしているクロノに聞こえないように隣を歩くエイミィの耳元に口を寄せ、尋ねる。

 二人組みであるとだけは聞いていた。ディルムッドは目の前を歩く聡明な少年が警戒するのだから底の見えない老人二人組みなのではないかと考えていた。

 

「んー…警戒はしてるけど、たぶんディルムッド君のイメージとは違うかな」

 

 そんな考えを読んだのか、エイミィは正しい人物像を浮かべながらそう答える。

 

 とりあえず会えば理由がすぐにわかるという事だったので、そのまま黙って廊下を進み、やがて一室のドアの前で立ち止まる。

 

 クロノがゆっくり深呼吸し、緊張で固まった表情を笑顔にするとドアを開いて中に入る。

 

「リーゼ、久しぶりだ。クロノだ」

 

 ディルムッドも三人の後に続いて入る。そこにいたのは猫耳を生やした二人の女性だった。おそらく双子なのだろう。全く同じ顔をしていたが、片や長髪、片やショートカットである。

 

「クロスケ~!」

 

 数秒の静寂の後、ショートカットの女性が嬉しそうにクロノに飛びかかり、そのまま抱きしめて押し倒した。

 

「リーゼアリア!おひさしっ」

「うん。おひさしっ」

 

 悲鳴を上げる幼馴染を無視してエイミィがもう一人の女性…リーゼアリアと呼ばれた長髪の方とタッチしながら挨拶した。

 助けようとしないのを見たところ、おそらくこれが普段から繰り広げられているのだろう。ディルムッドはようやくクロノがあんなに警戒していた理由を理解した。

 

 楽しそうに話す二人の邪魔をしないようにディルムッドとユーノはエイミィの後ろで黙って聞いていた。クロノが助けを呼ぶ声が聞こえた気がしたが、命の危険は無さそうだし、何より邪魔したら余計にややこしくなると思ったので気付かない振りをする。

 

「リーゼロッテ。おひさしっ」

「エイミィ、おひさしだ!」

 

 ソファの影から満足そうな表情で出て来た女性…リーゼロッテにエイミィが声をかけると嬉しそうに飛び出して、先ほどのようにタッチした。

 

 後で顔にキスマークを付けられた幽鬼のように立ち上がるクロノを放置してエイミィと談笑していたリーゼロッテだったが、ふと後ろでそれを見ていたユーノに気が付き、彼をじっと見る。

 

「なんかおいしそうなネズミっ子がいる。あ、食っていい?!」

「よくないよ?!」

 

 その目は獲物を見つけた獣の物であった。普段フェレットに変身している事に本能的に気が付いているのかもしれない。

 焦るユーノを苦笑いしながら見ていると、今度はリーゼロットの視線がディルムッドに向けられた。

 

 数秒ディルムッドの顔を見つめ、その視線が右目下の泣き黒子に移ると、その表情は納得がいったというものに変わる。

 

「あぁ! あんたが噂の『管理局の輝く愛の狩人』!」

「待て。なんだその不名誉な通り名は」

 

 リーゼロッテの口から出た不吉な呼び名にディルムッドの表情が歪んだ。

 その瞬間、クロノ達が笑いを堪える気配を感じるが、ディルムッドにとっては正直笑えない。

 

「だって今君、超有名人だよ? 老若男女をその麗しい美貌で虜にし、数多の局員が性犯罪に走りたくなる絶世の美男子が管理局に入ったって。後は裁判にかけられたのはその魅了の呪いが原因だとかなんとか」

「そんな訳ないだろう…って、待て。男とはどういう…いやっ! いいっ! 答えないで構わん!」

 

 不吉な言葉は聞こえ、思わず聞き返しそうになったが止めた。確かに女性のせいで人生破綻したが別に男に逃げる気など微塵もない。

 

 聞きたくなかった己の通り名を聞かされてだいぶ心が折れそうになったが、何とか持ち直したディルムッドは皆とそこで別れ、技術部へと足を運んでいた。

 

 シグナムとの戦いで損傷したデバイス『グラニア』の修復を依頼するためである。

 

 レティ提督の元、正式に宝具の開帳が許されたので今更必要無いかもしれないが、万が一の備えとして持っていても悪くはない。

 ディルムッドが直接渡さずともよいのだが、わざわざ開発してもらったデバイスをここまで壊した事を謝罪しなければならないと思い、直接出向くことにしたのだ。

 

「失礼する。嘱託魔導師、ディルムッド・オディナだ。マリエル殿はおられるか?」

 

 第四技術部と書かれた扉を開き、開発を主導してくれた人物に声をかける。

 

「あ。ディルムッド君。数日行方不明って聞いて心配だったけど…元気そうで安心したわ」

 

 その声に振り返ったのは目的の人物、マリエル・アテンザだ。

 彼女はエイミィの後輩であり、彼女を介して出会った。ディルムッドの管理局入りの頃から宝具の代わりとなるデバイスの相談をしており、

アースラの面々を除くと管理局内では一番付き合いが長い。

 

「騎士の誇りは砕かれたままだがな…昨日報告が行っていると思うがデバイスの件で伺った」

「レイジングハートとバルディッシュ見た後だから覚悟してたけど…これは……」

 

 ディルムッドから手渡されたデバイスを見てマリエルが苦い表情を浮かべる。

 待機状態である時計型の原型を辛うじて留めている程度という酷い姿に開発担当としてはやはり相当ショックなのだろう。

 

 改めて深く頭を下げて謝罪をするとマリエルが慌ててそれを止めさせる。

 無理をした訳でも故意に破壊した訳でも無い事をわかっているのでそこまで気に病まないでいいと。

 

「ただ…コアがここまで大破してるとなると…修復より再開発した方が早いね…」

「そうか…ならば一つ頼まれて欲しい。最悪、飛行魔法は外しても構わない―――」

 

 そうして今回の敗北を踏まえ、グラニアへの改良プランを提示する。

 ディルムッドが依頼した希望を叶えるために開発した技術が後のデバイスに継承されることになるのだが、それを知るのはまだ先の話である。

 

 その後、色々と話をした後、ディルムッドは検査に向かうため、技術部を後にした。

 




厳しい指摘にちょいと心折れそうながら頑張って投稿。

特定のワードで自分のSSがyahooの検索の一ページ目に出ると死にたくなりますね。
なんで出るねんと焦りました。

バーサーカーって全身装甲だとかわいいと思うんですが皆さんはどうですか?
彼も受肉してるのでご飯を食べるです。

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