忠義の騎士の新たなる人生   作:ビーハイブ

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ようやく書けたです。仕事ハードでまじ書く時間が無いです。



悲劇の槍 前編

 

 

 

 

――12月18日――

 

 

 

 高町家での騒動の後、一度アースラに戻り封印処置を施したディルムッドは散策を再開していた。しかし、武装隊を襲っていたザイードを破魔の紅薔薇で討ち取った事以外は成果を挙げられていない。

 

 散り際に「今の私は滅びませぬぞぉ!」と叫んでいた事は気掛かりだったが、サーヴァントが消滅する時のように粒子になっていたので確実に倒したはずだろう。

 

 そんなディルムッドの携帯電話にフェイトから電話があった。どうやらクロノに連絡して番号を聞いたらしい。

 

 話したいことがあるから合流したいとの事だったので二人の気配を辿り、指定された場所、『翠屋』に着いた先で、一昨日出会い、一撃ぶつけ合った恭也と士郎もおり、出会い頭に謝罪された。

 

 二人の行動がなのは達を心配してとの事だと理解していたディルムッドにそれを拒む理由は無く、それを受け入れる。

 

 ただ、軽くあしらわれたのは悔しかったらしく、正式な試合を求められた。

 

「その挑戦、受けてたとう」

「ありがとう。・・・俺が勝てば君の正体を教えて貰えないか?」

「構わないが・・・それでは俺を知る事は叶わないぞ?」

「負ける気はないということか」

「初めから敗けを考えていたら勝てる戦いも勝てぬとは思わないか?」

「それもそうだな」

 

 清い心を持つ相手ならば、武を交えれた瞬間強敵(とも)となる。

 

 拳を合わせる二人をなのはとフェイトは呆れた目で見ていた。

 

「さて、二人とも話とはなんだ?」

 

 恋人と用事があるといって出掛けていった恭也を見送り、ディルムッドが二人と向き合う。

 

「すずかちゃんから聞いたんだけど、ディルムッド君ってはやてちゃんの友達なの?」

「あぁ。半年前に出会った」

 

 予想外の名に驚きながらも、フェイトと別行動した際に出会った事を伝えた。

 

「今はやてちゃん、入院してるんだ」

「成る程。家に気配が無かったのはそれが理由か」

 

 実は一度、三日前に彼女の家を尋ねたのだが、人の気配が無かったので探索に戻っていたのだ。

 

「これからすずかちゃんとアリサちゃんと一緒にお見舞いに行くんだけど、ディルムッド君も一緒に行かない?」

「是非同伴させてもらおう。頼る者もなく一人で病床に着いているのはつらいだろうからな」

 

 半年前のはやての姿を思い浮かべながらその提案を受ける。

 頼る者もなく一人で病と戦うのは幼い少女には辛いだろう。

 

「?はやてちゃんは一人じゃないよよ?」

「何?」

 

そう考えていたディルムッドだったが、なのはの言葉に訝しげな表情を浮かべる。

 

「半年前の彼女は一人で過ごしていたはずだが?」

 

はやては家族は死んだと言っていた。それに以前はやての家で食事をした時、他の人間の生活感を感じなかった。

 

「遠い親戚の人が来てくれたんだって」

 

 私達も詳しくは知らないけどと。フェイトがディルムッドの疑問に答えた。

 唐突に現れた親族の存在に違和感を感じたが、彼女の事を深く知っている訳でない。

 

「まぁ。孤独ではないならば別に良いさ」

 

 己にはわからない事情があるのだろうとその違和感を忘れることにした。

 

「じゃあすずかちゃんにメールするね」

 

 ようやく再会の約束を果たせると、携帯を打つなのはの姿を見ながら少し感慨深い想いを感じていた。

 

 もし未来を知っていれば……なのはの行動を止めていただろう。

 しかしこの何気ない彼女の行動が事態を急転させるなど、誰も知るよしもない。

 

「でもディルムッド。なんではやての事を気にしてたの?」

 

 すずかからの連絡を待つ間に、そうフェイトが問いかける。ディルムッドは外見は少年だが本来の姿は歴戦の英雄である。

 普通の少女であるはやてに対してここまで意識を向ける理由がわからないのだろう。

 

「印象深かったのさ」

 

 それだけ答え、彼女に出会った時に感じた感覚については口をつぐむ。

 

 ディルムッドとしては語るには曖昧で、あり得ない事だと思って言わなかっただけだが、なのはとフェイトは違う意味で捉え、なのはの意外そうに、フェイトは拗ねたような表情に変わる。

 

(我ながらおかしな感覚だがな……)

 

 二人が彼がはやてに恋愛感情を抱いているというとんでもない誤解をしている事など気付かないディルムッドはその時の感覚を思い出す。

 

 八神はやてという少女が放つ、全てを包み込むようなオーラから『上に立つ者の資質』を感じたのだ。

 異なる時代に生まれ、特殊な才覚を有していればもしかすれば王は無理でも団長のような立場に立つ事もあったかも知れないと。

 

「……それでも……俺の求める主君の姿ではないだろうがな」

「え?」

「気にするな……只の独り言さ。それでなのはよ。はやての保護者は―――」

 

 連絡が帰ってきたか確認しようとしたディルムッドだったが、脳に響いた声によりそれは中断された。

 

「……すまない、二人共。どうやら見舞いに向かうのはまた今度になりそうだ」

「え?」

「ど……どうして?」

 

 先程までの穏やかな気配は鳴りを潜め、鋭い戦意を現したディルムッドに二人が問いかける。

 

「奴ら、俺に用事があるらしくてな。一人で来いとわざわざ念話で呼び出された。罠の可能性が高いが・・・無視する訳にはいかないだろう」

 

 誰が。とは言わなかったが、二人はそれで彼を呼んだ人物達に気が付き、表情を引き締める。

 

「さて……このタイミングで俺を誘き出す理由はなんだ。……烈火の将よ」

 

 唐突に気配を現した騎士のいる方角を眺めながら、ディルムッドはそう呟いた。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 ディルムッドがシグナムの気配を察知する少し前、シャマルは自身の携帯に届いた連絡に動揺していた。

 

『ディルムッド・オディナをはやての見舞いに連れていきたい』

 

 そんな内容の文面がはやての友人であるすずかから来たのだ。

 

「ど……どうしよう」

 

 五日前になのはとフェイトが見舞いに来ることになった際と全く同じように、焦っていた。

 前回との違いは今後の動きを確認するために守護騎士全員が八神家に集結していた事だろう。

 

「会わせる訳にはいかんだろうな」

 

 シグナムがはっきりと断じた。はやてにまた自分達の事を黙ってもらうにしても、二人と違い、ディルムッドならばその違和感を感じ取り、自分達に行き着く可能性が高いと考えたのだ。

 

 他の守護騎士もそれには同意を示し、頷く。

 

「だがどうする? 断る理由がない」

 

 ザフィーラの言葉に三人が難しい表情を浮かべる。

 ディルムッドがはやてと縁がない人物ならば「怪しい男を近付ける訳にはいかない」と言えたかもしれない。

 

 しかし、二人は自分達よりも先に出会い、はやても会いたがっていた。はやてにディルムッドの見舞いを拒否した事を伝えないように頼むのも手だが、なのはとフェイトの口を止める事は難しい。

 

「なら方法は一つしかねーだろ」

 

 ヴィータが胸元にある待機状態の《グラーフアイゼン》を握りながら呟く。

 

 会わせる訳にいかないのであれば、会わさなければいい。

 

 はやてに接触する前にディルムッドを説得、もしくは撃破してしばらく動けない状態に持ち込む。

 

 言うだけならば簡単だが、相手の実力を考えればかなり難しいだろう。

 

 「奴が主はやての身を案じているならば仲間に引き込めるかもしれん」

 

 闇の書を完成させなければはやては死ぬ。

 それを理解してもらえばディルムッドもこちらに協力してくれる可能性もあるとシグナムは考えていた。

 

 彼が説得に応じ、味方に付いてくれるのが理想。しかし相手は管理局に属する身である。

 

 いくら死者を出さないように努めているとはいえ、蒐集を受けた人間は無傷という訳ではない。

 直接確認する事はできないが、リンカーコアに外部から凄まじい負荷を与えているのだ。後遺症が残った者も確実にいるだろう。

 

 はやての命を救うためとは言え、真っ直ぐで背信行為を嫌う彼が、このような被害者を出す行動を黙認する可能性はあまりにも低い。

 

 行動を封じる手としては結界に捕らえるか、外界に転移させるかの二つがある。殺害するという手段もあるが、それは自らに課した誓いによりできない。

 

「結界はすぐに察知される可能性が高い。故に奴を捕らえ、未開惑星に飛ばす手を使うぞ」

 

 未開惑星とは言っても、食事に困らない自然豊かな場所に転移を行うつもりだ。

 

 今回は緊急なのでこのような手段に出るが、心情的にははやての友人である彼にこのような事はしたくはない。

 ただ現在の蒐集の速度を考えた場合、多少のズレがあって遅れたとしても、クリスマスの夜までには闇の書を完成させる事ができるはずなのだ。

 

 逆を言えば、まだそれまでは完成させる事ができないということである。

 今管理局にはやての事がバレてしまえば、病院から動かせないはやてを守らければならなくなる。その状態の彼女を管理局から守りながら蒐集を行うのは不可能と言っていいだろう。

 

 それに何よりも時間がない。

 

 闇の書は刻一刻とはやての命を蝕んでいるのだ。守護騎士達にずっと隠し続けていた身体の痛みを誤魔化しきれなくなる程に。

 

「いくぞ……ディルムッドの場所に案内できるか」

 

 将であるシグナムが立ち上がりながら誰もいないはずの空間に声をかける。すると空間が揺らぎ、そこに褐色の少女が姿を現した。

 

「はい。ご案内します」

 

 ランスロットの離脱と共に守護騎士の協力者となったハサンの少女がシグナムの言葉に答えた。

 何故彼女がここにいるのか……それはハサンが主であるジェイル・スカルエッティより受けた命令は闇の書の完成させる事であるからだ。

 

 本来ハサンは彼女達と共に行動する予定ではなかった。

 イレギュラーたる元サーヴァントであるディルムッド、イスカンダル、ランスロット……そして別世界にいるジルを監視し、主の望む流れに誘導する。

アサシンの本分であ『影』として徹するつもりであったのだ。

 

 管理局にディルムッドと闇の書一派にランスロット。

 

 どちらにも所属せず単独で動くイスカンダルとこの世界にいないジル。

 

 数日前まで四体の英雄は見事にそれぞれ異なる立場にあったので戦力が拮抗していたのだが、ランスロットが単独行動に移ったことで守護騎士の戦力が大幅に低下してしまった。

 このままでは闇の書完成に影響が出ると判断したハサンはそれを補う為、彼女達の前に姿を現す事にした。

当然最初は警戒されたが、サーヴァントの正体と彼女らでは知りえない管理局内部の情報を教えることで協力者としての立場を認められる事となった。

 

(彼女達は四人で挑めばディルムッド・オディナに勝てると踏んでいるようですが……さてどうなるでしょうね)

 

 他のハサンの誘導でディルムッドの元に向かった守護騎士の後姿を屋根の上から見つめながら、ハサンの()()()()()少女が内心で呟いた。

 

 この世界に来たサーヴァント達は全員受肉を果たしている。つまりは霊体化を取ることができない。

 

 それはハサンも同様のことである。それなのに他のハサンが霊体化を取ることができる理由は他のハサンという存在があくまでここにいる受肉している少女の姿をしたハサンの宝具という扱いだからである。

 

 

 

―――― 妄想幻像(ザバーニーヤ)

 

 

 

 生前の多重人格であった逸話を宝具化したこの能力は、最大八十体に自身を分割し、それぞれが単独行動をとることができる。

 

 しかし、本来それはハサンが霊体であったから可能だっただけで、本来は一つの肉体に複数の意志が宿るだけのはずであった。

 なのに何故ハサンは群体をとることができるのか。それは受肉したハサンの少女を核とし、魔力によって自身の意識に肉体を与えているのだ。

 

 原理としては闇の書の守護騎士システムに近い物があるだろう。

 

 ただしあちらはそれぞれが一騎当千の強さを持つ故に四人しかいないのに対し、こちらは個の力を薄めることで数を産み出しているという違いがあるが。

 そしてこの力が宝具であるというのがこの世界での強みである。宝具の再生はハサンも有する。つまり人格が破壊されても再生するのだ。

 

 つまり本体である少女が存命である限り、全てのハサンは蘇生する。

 

 ザイードの人格がディルムッドに殺害されても痛手ではないのにはそんな理由があった。

 

「ランサーと守護騎士が接触したようだ」

 

 しばらく守護騎士が向かった方角を眺めていた少女の背後に、ポニーテールのハサンが現れそう告げる。

 

「そう」

 

 興味無さ気に少女が答えを返す。それも仕方がないかもしれない。

 

 彼女にとってはこの戦いでディルムッドと守護騎士がどうなっても知ったことではない。

流石に守護騎士が全滅すれば、蒐集ができなくなってしまうのでそれは気にする点ではあるが、全滅するまで戦うことは無いだろう。

 

 スカリエッティによって闇の書の真実を伝えられている少女にとって守護騎士の行動はあまりにも滑稽に見えていた。

 主を守る為に命賭けの戦いをし、その行動が結果主を殺す。しかもそれを守護騎士は理解していない……いや理解できないのだ。

 

 改竄されたプログラムによって守護騎士は、現在の闇の書のシステムに疑問を持てないらしい。

 ある程度の違和感を認知できる事もあるそうだが、真相に辿り着く事はできない哀れな道化として戦い、主を殺して消える宿命を持った存在なのだと。

 

「全く愚かで……くだらない存在ですね」

「命に執着するのは当然の反応だ。守護騎士は主を慕っている。ならばその命を守るために戦おうとするのは当然の感情と言っていいだろう」

 

 生きようと足掻く者達に対し無感情にその行動を否定した少女にハサンの一人たる女性が答える。

 

「理解できません。これだけ人間がいるのですから少し減ったくらいで問題ないはずでしょう」

 

 異常な精神を有するハサンの中において、最も異端な存在なのは他でもなくこの少女であった。

 

 彼女は全てのハサンの中でもっとも普通の姿をとっていながら、その心は誰よりも虚ろで感情と命の価値観が欠如して生まれてしまった誰よりも人間らしくない異常者であった。

 

 その為ハサンの少女にとって生命とは無価値な存在であり、それに執着する事に意義を見出せないのだ。それは自身の命に対しても例外ではない。ただ命令を与えられて遂行できればそれでいい。仮にスカルエッティに死ねと命じられれば他のハサンが止めてでもそれを成し遂げるだろう。

 

 勿論スカリエッティにそのような命を下すつもりはない。何故なら彼にとってハサンもまた娘の一人であるからだ。

 

 だが心無い少女にそれを理解できない。主が自身に向ける者は使える者であるから目にかけて貰っている程度でしかないのである。

 

(この無意味な物語が終わる時に……私は心という物を理解できるのでしょうか?)

 

 少女にとって今生きる理由は、かつてもマスターのように『目的を見つけるのが目的』であるからだ。

 

 ハサンはこの世界にいる元サーヴァント達の正体を伝えたが、意図的にある一点の情報だけを隠した。それは英雄達の必殺の切り札である宝具の存在だ。

 

 神秘と伝説が形を成した奇跡の宝物は、どれだけ不利な状況でも一撃で覆す力を持つ力を有している。

 

 守護騎士がディルムッドに勝てると判断したのは、必殺の宝具の存在を知らなかった事が大きいだろう。その結果が何を引き起こし、どのような結果を迎えるのか……少女は知りたかった。

 

「どのような結末を迎えるのか。見届けさせていただきます」

 

 少女は虚ろな眼で展開された結界を見つめながら、そう呟いたのだった。

 

 




後編はディルムッドと守護騎士の戦いです。

その結果が何を引き起こすか……構想はありますけどまだかけてないのでまたしばしお待ちください。

感想、評価、誤字脱字指摘などなどお待ちしています。

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