――12月20日――
「っ……がっ……離せ……!!」
暗い山の中、苦悶の表情で一体のハサンが足掻く。
ハサンの人格の中では比較的戦闘能力の高い彼は、己の首を締め上げて持ち上げる目の前の存在に恐怖していた。
――――何故こうなったんだと自問しても応える者はいない
他のハサンのように管理局の捜索を妨害するという命を受けていた彼は山の中を歩く一人の管理局員を見かけた。
いつものように奇襲して倒そうと背後を取る。彼に恐れなど微塵も無かった『気配遮断』スキルを有する以上、相手は背後を取られた事を知覚する事などできない。
その手にあるダークを投擲しようと考えるが、それを行動に移す前に止める。管理局員の中には投擲に反応して抵抗を見せる者もいたからだ。
別にそうなっても負ける気など毛頭無いが、自分は戦士ではなく暗殺者。標的に気付かれずに確実に仕留めるというのが正しいあり方である。
念には念を入れ、背後から絶対に反応できない距離まで接近してから攻撃を行おうと判断した。
暗殺者に見栄や格好など必要ない。そうして彼は敵の真後ろに立つが、目の前の獲物はそれに気付かずに辺りを見回すだけだ。
そして躊躇い無くその手のダークの柄をその頭目掛けて振り下ろすと『気配遮断』が解かれた。
彼の選択は間違っていない。慢心もせず、見栄を捨てて確実さを選んだ。殺せば管理局が全力でこちらを対処しにかかっているのはわかっている為、一撃で昏倒させてようとした。
完全なる刺客から直前まで全く気配を察知できない事に加えて、殺意無しに振るわれた攻撃を感知する事など達人の域に到達した者でなければ難しいだろう。
そう彼の判断に間違えは無かった。
彼が失敗した理由はただ一つの不運――――自分が襲った管理局員が、正体を偽装する力を持っていた事に気が付けなかっただけだ。
至近距離から振るわれた攻撃をアサシンのクラスであった自身が驚愕する速度で反応して回避した敵は、その身の偽装を解除し漆黒の鎧を晒した。
その姿を脳が認識した瞬間には既に遅かった。その時点でダークを左手で奪い取られ、右手は彼の首を掴んでいたのだから。
「――――っ! ―――――!!」
締め上げられた喉からはヒューヒューと空気の通る音だけしか出てこない。恥も外聞のかなぐり捨て、両手両足で漆黒の騎士を攻撃するがビクともしない。
彼だって死線を掻い潜り続けた身だ。生前は人格の一つとして命がけの任務に挑んだし、聖杯戦争では征服王の王の軍勢の中でも、征服王に背後から両断されるまで最期まで戦い続けた。
だがそんな彼でも、後に最高クラスの英霊を多く輩出した円卓の騎士の中で、最強と呼ばれた騎士の放つ存在感とその手に己の生死が握られているという事実の前では恐怖心を抑える事ができなかった。
次元が違うのだ。地を進む一匹の蟻が人に挑めばどうなるかなど、子供でもわかる事でだろう。
「ようやく捉えたぞ暗殺者。質問に答えろ。貴様らの目的はなんだ?」
締め上げる手を僅かに緩め、ランスロットが問いかける。それを聞いて彼は自分が食虫植物に誘われた虫であったのだと気付くがもう遅かった。
「我らが答えると――あがぁ?!」
ギリィと首を掴む手に力が込められ、死の恐怖から逃れようと身体をバタつかせる。
「質問を変える。貴様らは我がマスターはやての敵か否か?」
答えを要求するランスロットの声に感情はない。漆黒の兜によって表情が見えない事と相まってそれが更なる恐怖を彼に与えた。
「敵ではない……! 我らは闇の書の完成を手助けしている……味方だ!」
「その事が貴様らにどのような益をもたらす?」
「かっ……! 完成後にどのような結末を迎えるかを見届けるとしか聞かされていない……!」
「闇の書が完成すれば何が起きる」
その言葉に身体がピクリと反応してしまう。彼は戦闘面に優れた人格であった反面、精神が弱かった。常の冷静な状態ならばまだしも、今のように極限の状態では身体の反応を抑える事ができない程度に。
そしてその僅かな反応でランスロットには十分な回答になった。答えろという言葉に彼は従うしかなく、闇の書について知る事を全て伝える。再生すると知っていても死ぬのは怖かったのだ。
「完成まで手を出せず、完成後は暴走して消滅……介入できるタイミングはその間だけ……か」
ランスロットは聞かされた情報を呟きながら纏めている。その様子を見てハサンはランスロットが本気で救おうとしているのだと理解させられる。
「くっ……くはははははっ!」
思わず哂いが零れてしまう。主さえも不可能に近いと言っている事を目の前の一介の武芸者は成し遂げようと思案しているのだ。そんな事は不可能だと自明の理だというのに。
「主君を裏切り死に追いやった貴様がマスターを死から救う? 果せなかった忠誠をあの小娘で代用しようとしているのか!」
それならば滑稽だ。完全なる騎士と謳われた騎士が罪の意識から逃れる為に年端も行かない小娘に代償行為をして満足しようとしているなど滑稽と言わずなんと言おうか。
くだらない。じつにくだらない。とハサンは嗤う。どうせ殺されるならば目の前の騎士の
――――だがその侮蔑の言葉に対する答えは否定でも怒りでもなく
「そうかもしれんな」
――――肯定を持って返した
「私はアーサー王を裏切り国を滅ぼした。それを否定する気はない。王が望むのならば煉獄の炎に堕ちてもよい。奇跡を持って滅びを回避せよと望むならば聖杯を使ってでも叶えよう」
英霊となっても罪の呵責に苛まれ続け、理性を捨ててでも逃れようとした騎士。だが彼はあの輝かしい黄金の剣で討たれた事でその心は穏やかさを取り戻していた。
「この身はすでに地に堕ちている。今更光の中に戻るつもりなどない。だがマスターには夜天の守護騎士達と共に幸せに生きて欲しいと思ったのだ。それが果されたのならば――――」
在るべき場所に戻り、そこで然るべき裁きを受けよう。
そう答えた漆黒の騎士は容赦無くその右手に力を込める。
――――ゴキリ
不快な音が聞こえた後、ハサンの意識は途絶え、その身体は粒子となり消え去った。
―――――――――――――――
――12月21日――
時が巻き戻せたなら―――
ヴィータは前を行く自身の主と仲間である守護騎士二人を見つめながらそう思っていた。
ザフィーラを失ったあの戦いから三日後。あの日から彼女を蝕んでいた原因不明の麻痺の進行が止んだ。
最も蒐集の成果が出た……という訳ではなく、あの日の夜に訪れたランスロットと名乗った黒騎士に渡された指輪によるものらしい。
指輪が秘める魔力は大した事無いのだが、シャマルが解析を行った所、強力な魔力に対するレジスト効果を持つ物らしく、それがリンカーコアの浸食を抑えているとの事だ。
(あいつにはお礼言わなくちゃな……)
それでも完全には無力化できず、麻痺の進行を停止する事はできなかった。だが痛みは殆ど緩和できているらしい。おかげで担当の石田先生から許可を貰って久方振りに外に出る事ができた。
しかしそれを手放しに喜ぶことはできない。それだけ失った者が大き過ぎたのだ。
過去の彼女達なら仲間を一人失ったからと言ってここまで深く悲しむことは無かっただろう。
だが今は違う。仲間を……大切な家族を失ったのだ。悲しむなと言われても無理である。
はやてにはザフィーラは少し遠くに出かけているという事にしてある。数日で戻ってくると。
(そうだ。その為にもあたしたちは―――)
そこまで考えた時、ふと前を行く三人が立ち止まっている事に気が付く。シャマルとシグナムが警戒をしている事も。
地面に落としていた視線を上げる。そこにいたのは―――
「む?」
正直会いたくなかった筋骨隆々の大男、征服王イスカンダルであった。
警戒心を込めて構える守護騎士の視線など意にも介さず、イスカンダルははやてに目を付けた。
「シグナム、この人知り合い?」
二メートルを超える巨漢に見下ろされて少々怯えながらはやてが尋ねる。そんな彼女をイスカンダルは数秒少女を見つめた後―――
「すまんな小娘よ、彼奴らには以前会った時にちぃと迷惑をかけてしまった事があっての……それで少々嫌われているのだ」
ニカリと愛嬌を感じさせる笑みを浮かべながらそう言ったのだった。
―――――――――――――――
「あやつが貴様らの王か?」
「……そうだ」
そうベンチに座るイスカンダルが尋ね、傍らで立っているシグナムが頷く。
話がしたいというイスカンダルの要求に応え、シグナムとヴィータは傍にあった公園を訪れていた。
余計な情報をはやてに伝えられたくなかったので、はやてにはシャマルと共に少し離れた位置で待ってもらっている。
「ずいぶんと顔色が悪いが……どうかしたのだ?」
「……ディルムッドとの戦いで仲間の一人が討たれた」
どのような反応を示すのかと思ったが、イスカンダルはそうかと一言呟いただけであった。
慰めの言葉が欲しい訳ではなかったが、そのあまりにも淡々とした物言いに心が苛立つがそれを抑える。
「その事をあの小娘に伝えておらぬのか?」
シャマルと笑顔で話すはやてを視線の先に捉えながら征服王が問いかける。答える義務など無いが、目の前の男が放つ雰囲気が答えねばならないと思わせ自然に口を開かせる。
「伝えていない……それどころか主はやては我らが戦っている事を存じ上げていない」
「そうか……手間を取らせた。余はこれ以上貴様らに関わらぬ事を誓おう」
そう言って立ち上がるイスカンダル。こちらとしては彼のようなイレギュラーが手を引くというのはありがたいが、その対応に疑問が生じた。
「主はやてを軍門に降すのではなかったのか?」
はやてを降した上で守護騎士を配下にしようと宣言していたとヴィータから聞いていたからだ。だがその様な素振りをイスカンダルは見せない。それが気になりシグナムが尋ねる。
「覚悟無き者を軍門に降そうなど余は思っておらん。それだけだ」
「……どういう事だ」
「わからんか? あの小娘は貴様達が戦っている事を知らんだろう。歪な主従の在り方など痛ましくて見るに堪えぬ」
あの一瞬でどうして気が付いたかはわからない。しかしイスカンダルは確かに事実を見抜き、守護騎士とはやての絆を歪と一蹴した。
「我らと主はやての絆を愚弄するのか?!」
「そうではない……貴様らが何を望み、何を為そうとしているか余は知らぬし、止めるつもりもありゃせん。だがな騎士達よ」
シグナムの怒気を受け流し、征服王は立ち上がり、己の考えを語る。
「余はな、王と配下は同じ先を見据えてなければならぬと考えておる。同じ先を見ておらねばとな」
王とは先陣に立ち配下を率いるものだと。そして配下は王の意思の元に纏まり、共に歩むものだと。
「そこの紅い小娘には以前言うたが、余は貴様らの行動を否定せん。征服王たる余は敵を蹂躙し略奪を行っておったからな。それを否定する気も止めるもつもりもありはせん。むしろ肯定しよう」
マケドニアの王は己の決断がつき従った朋友を散らせてしまう事も覚悟して戦っていた。悔やみはしないが、その死を悼みながらも胸に前に進む事を。
「王とは道標であると共に臣下全ての命を背負う者だ。配下が千であっても万であっても……一人であっても変わらん。すなわちそれは臣下が王にその身を捧げたその瞬間から、そやつの命は王の命となるという事だ。王の意思に背き、ましてや死ぬことなど断じて許さぬ」
「はやては……闇の書の主だけどそんな王なんて大きな物じゃなくて……大切な家族だから……」
「統べる者。という時点では王も主も変わらぬわ……無論これは余の王道、余の考えである。それを貴様らに押し付けるつもりも毛頭ありゃせん。ただ、そういう訳で余は貴様らを臣下にしようという気が失せただけの事よ」
ヴィータの言葉を断じてイスカンダルは背を向ける。これ以上語る意味はないと。背中がそう語っていた。
「最後に一つだけ言わせて貰うならば……苦しいかもしれんがあの小娘にも背負わせてやれ。自らが知らぬ所で臣下が傷付き、死していくというのは王としてはなかなか苦しいものだぞ」
そうしてイスカンダルははやてに別れの挨拶を告げると、ゆっくりと歩を進めて去っていった。
「できる訳がない……!」
イスカンダルが消えた方角を睨みながらシグナムは呟く。あの優しい少女に悲しみを苦しみを背負わせる事など。
「大丈夫だ……闇の書が完成すれば……」
はやての身体は治り、ザフィーラが戻ってくる。闇の書の莫大な力を使えば全ては無理でも犠牲者に償いをする事も可能だ。そして罪を清算すれば―――――全てをやり直せる。
奇しくもそれは征服王がかつて否定した騎士王の願いに近いものだった。
―――――――――――――――
――12月23日――
「くそっ!」
「クロノ君……」
苛立ちを抑える事ができず壁を殴ったクロノをエイミィが心配そうに見ている。
彼が苛立つ理由は先日の守護騎士との接触したディルムッドが行方不明になった事だ。
それも戦闘中の突発的な事故ではなく、自身の判断が友人をこのような状態にしてしまったのだ。責任感が強いクロノが苛立つのも仕方がないだろう。
「転移の痕跡が全くない……! これじゃ虱潰しに探すしか方法が……!」
「クロノ君、落ち着いて! らしくないよ!」
「落ち着いてなんていられるか! もう五日近くたったんだぞ! 転移先によっては下手をすれば―――!」
そこまで言ってハッとなる。彼の事が心配なのは自分だけではない。アースラの乗員も本局の局員も彼の安否を気にしている。それは隣にいるエイミィも同じだ。
「……ごめん」
「ううん、気にしないで。それに一番ショックを受けているのは……」
ここにはいない少女。目の前で恩人であり、想いを寄せているディルムッドが転移させられたフェイトの落ち込みようは見ていられなかった。
周囲の気遣いもあって表面上は立ち直った様子であったが、彼の安否を誰よりも心配し、何もできない自分を責めている。
「早く見つけて、フェイトちゃんを安心させてあげないとね」
エイミィの言葉にクロノは頷いた。しかし、事はそう簡単なことでない。
転移魔法が発動し、結界が解除された直後からすぐに追跡を行った。しかし、転移先の特定は殆どうまくいかず、わかった事も地球以外の場所に飛ばされたという有様。
取れる方法は二つある。一つは先ほど言ったように虱潰しに他の世界を捜索する事だが、無数にある次元世界の中の一つにいる人間を一人見つけ出すなど、砂漠に落とした砂を見つける事よりも難しい。いや、下手をすればそっちの方が簡単かもしれない。
そうなれば取るべき方法はもう一つ。守護騎士から居場所を聞き出す事しか有り得ないだろう。そちらもハサンの妨害のせいで容易ではないが、前者よりはだいぶマシだろう。
(彼は万能じゃない……そんな当たり前の事を忘れるなんてな……!)
ディルムッドは強い。それは紛れも無い事実だ。実際に自分を一方的に追い込んだランスロットと彼は互角の戦いを繰り広げた。
だが彼は魔法に関してはゼロではないが凡人よりも劣る。それを補い超える接近戦の技術と強力な武器を使いこなす事でそれを全く感じさせないのだが。
最も武芸に関しては非凡なる才能を持っている訳ではあるが、今回の結果が招いたように魔法を用いた絡め手に対してはそれを発揮することは出来ない。
「せめてデバイスを持っていれば信号で居場所を見つけられるんだが……」
「『グラニア』の調整が終わったのが行方不明になった一日後だったからね……」
このデバイスが後一日早く出来て、彼が結界に入る直前に渡せていれば。と、もしもの結末を考えずにはいられない。
(信じる事と任せる事は違う……それなのに僕は!)
クロノが許せなかったのは他でもない自分であった。周りの人間は「想定できるものではなかった」「自分を責めるな」と言うがそうではない。
自分は心のどこかで思ってしまっていたのだ。ディルムッドならば何とかしてくれるのではないかという持ってはいけない考えをしてしまった。
一介の武装局員や局員であればそう考え、期待してもいいだろう。直接奇跡を起こした訳ではないが、ディルムッドも純粋な英霊である。彼に希望を抱き、その強大な力で勝利をもたらして欲しいと頼ってもいいだろう。
――――――だがそれは上に立つ者がしていい考えではない
ディルムッドは強い。条件に左右されるところはあるが、正面からの一騎打ちであればなのはやフェイトにもそれどころか自分も勝てるだろう。だが彼は無敵でも奇跡を引き起こす力を持っている訳でもない。
それを理解しているつもりだった。だがそう思っていただけで実際にはわかっていなかったのだ。
もし守護騎士に呼び出されたのがフェイトやなのはであったら間違っても単独で向かわせることなどしないだろう。逃走の可能性があっても相手の誘いを蹴り、万全を期して部隊を編成し向かわせたはずだ。
当然だ。どのような罠が仕掛けてあるかわからない場所に無策に向かわせるなど言語道断だ。だが、クロノはディルムッドにそう命令してしまった。彼を部下として見ていたのならば、力があったとしてもフェイト達と同様に扱うべきだったというのに。
ディルムッドがそれに応じたのは上官であるというだけではない。彼は闇の書という危険な存在から人を守りたいというクロノの願いに応えるために、危険を承知で敵陣の中心に単独で向かったのだ。
クロノは彼を部下としてではなく英雄として見てしまった。人を超える力を持ち、奇跡をもたらす存在ならばこの困難を乗り越えてくれると心のどこかで期待してしまっていた。
彼にとってクロノは友人であると共に守るべき民の一人である。だからディルムッドは英雄として救済を求められ、それに応じただけである。
クロノ達は気がついていないが、本来のディルムッドの属性は思考は社会なルールに肯定的な秩序ではあるが、自身の中の善悪感は中庸……積極的に救いを行う気はない。
闇の書に関してここまで積極的に協力しているのは
勿論悪を肯定する気など微塵も無い。ただ、味方と罪無き民に犠牲が出ないように立ち回るが、敵対者の犠牲に関しては今回のように複雑な事象が無ければ容赦しないというだけだ。
そんな彼が今英雄として応えてくれているのは、恩人であるフェイト達に義をもって報いようとしているというのが大きい。最も本質的には善に近いので、目の前で苦しむ無辜の民がいれば迷うことなく助けるだろうが。
「僕は彼に重荷を背負わせていたんだな……」
「クロノ君……?」
「いや、彼の強さに頼ってばかりじゃダメだって思っただけさ」
情けないと呟きながらガシガシと頭を掻くクロノにエイミィにそう言葉を返した。
英雄を殺すのは異形の存在ではなく人だと以前彼は言っていた。あの時は意味を表面的にしか理解できなかったが今なら理解できる。
直接命を奪われるということだけではないという事だ。英雄として人の願いを背負い、自身の限界を超えた望みであっても叶えようと戦い、その結果破滅を迎える事だってある。
それを自分は彼に強いてしまった。それを彼は苦にも思っていないだろうとしても。
だが悔やむのはこれまでだ。そんなものはディルムッドが戻ってからいくらでもすればいい。今すべき事はそんな事ではなく、闇の書の負の連鎖を断ち切る事なのだから。
「まずは守護騎士の転移状況から奴らの行動範囲を調べてくれ……僕も決着を付けなければならない事がある」
「了解! その範囲に飛ばされた可能性が高いからね! 何を調べてるかはわからないけど、クロノ君ならできるよ!」
「ありがとう」
決意を新たにし、精神的に成長したクロノはエイミィに背を向け執務室に向かう。ここ数日調べていた事の確信が取れそうなところにまで来ており、その独自の調査が大詰めを迎えていたのだ。
仮面の男。その正体と行動の目的。そして真実を知るという目的を果たす為、クロノが彼の戦場で戦う。
―――――――友が戻ってきた時に誇れる自分である為に
―――――――――――――――
そして時間は進む
――12月24日―― クリスマス・イブの夕方
夕日が差し込む病室で守護騎士達は大切な主と語らう
だが彼女達は気が付いていない
主の大切な友が近づいてきている事に
そしてその者が自分達の敵である事に
やがて鳴り響くノックの音と共に
――――――穏やかな時間を砕く運命の扉が開いた
日付が一気に進みましたが「これ以上オリ話したらディルが霞む」とか「作者の能力の限界」とかそんなんじゃないんだからね!
さてディル以外のサーヴァントのステータスを書きます。
・イスカンダル
筋力B 耐久B 敏捷D 魔力D 幸運A+ 宝具A++
保有スキル:対魔力(D)、騎乗(A+)、カリスマ(A)、軍略(B)、神性(C)
全盛期の姿に近いので殆ど聖杯戦争時のステータスになっている。
・ランスロット
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力D 幸運C 宝具A
狂化(―)、対魔力(―)、精霊の加護(A)、無窮の武練(A+)
ステータスは全盛期には劣り狂化の恩恵を失っているが、無窮の武練により生前の戦闘技術を完全に再現できる。
対魔力は本来Cだが、はやてに魔避けの指輪を渡したので今は失われている。
ハサンは個体差はあるが基本は聖杯戦争と同じ。
対魔力スキルについて。魔法攻撃にある程度の耐性を持つ事ができる。
ただし、純粋な魔力に対する耐性なので、魔力を炎に変換されたり、魔力で形成された鉄球などは耐久判定になる。
わかりやすくなのはの魔法で比較。
E:無意識に働きかける魔法の影響は殆ど無効にできる。この世界の魔力所有者は
Eランク相当の耐性を持つ。これによって魅了の呪いを弾く事が可能。
D:魔力を込めた攻撃ダメージを軽減できる。
C:通常砲撃を半減する。魔力を込めた打撃を通常攻撃に戻せる。
B:通常砲撃を無効。ディバインバスターのダメージを半減。
A:ディバインバスターを無効。スターライトブレイカーレベルの威力を半減。