忠義の騎士の新たなる人生   作:ビーハイブ

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後書きにて謝罪があります。


集いし英霊

 

 

 

 

 

――12月24日―― 

 

 

 

 

「はやてちゃんが……闇の書の主だったんですね」

「……そうだ」

 

 夜の帳が落ちたビルの屋上。そこで四人の少女達が対峙していた。

 高町なのはとフェイト・テスタロッサが見つめる先にいるのはヴォルケンリッター、シグナムとヴィータ。

 

 ここ数日管理局の目を完全にすり抜け、存在を全く感知させなかった守護騎士となのは達が出会ったのは本当に偶然であった。

 

 いつものようにすずかとアリサと共にはやての見舞いに行った二人が扉を開いた先に彼女たちがいたのである。

 

 すぐさま管理局に連絡を取ろうとしたフェイトだったが、シャマルによって即座に展開されたジャミングにより念話を封じられ、はやて達の手前、迂闊に動く事もできなかった。

 

 出会ってしまった以上気付かない振りをする訳にもいかない。

 

 予期せぬ邂逅に両者が動揺したが、守護騎士は引く事はできず、なのは達も闇の書の蒐集を阻止する機会を逃す訳には行かず、両者はにらみ合う事になってしまった。

 

「ディルムッド君を連れ去ったのは、はやてちゃんと出会わせたら気が付かれると思ったからですか?」 

「そうだ。奴の観察眼は尋常ではないからな。最初はあのような少年があそこまでの物を持っているのかいぶかしんだものだが、この地の伝説に乗る英雄の魂を持つと聞いてからは納得したものだ」

 

 なのはの問いかけにシグナムが答える。何故ディルムッドの正体を知っているのかは言わなかったが、現状を考えるとハサンから聞いたと考えるのが正解だろうとフェイトは思った。

 

 彼は自身がフィオナ騎士の一員であった事を誇りに思っているのでそれを隠す気が全く無い。

 

 だが同時に英雄である事を驕る事もしない彼が、自らの正体を明かす事も無いだろうというのもフェイトにはわかっていたからだ。

 

 守護騎士が知識としてサーヴァントの事を知っていた可能性は限りなく低い。つまり誰かから聞いたと考えるのが当然で、そう言った情報を流す可能性があるのは彼らの逃走を援護し、強力な隠蔽スキルを持つハサンだと判断するのは当然とも言えた。

 

「一つ聞かせてください」

 

 闇の書の主の正体、そして彼らの目的。

 

 管理局の人間として最初に知らなければならない情報は得た。次にフェイトは真っ先に問いただしたかった言葉を口にした。

 

「ディルムッドはどこですか?」

 

 冷静さを保ちながらフェイトが問いかける。使命感で管理局員として対処しようと努めていたが、それを幼いながら押さえていた。

 

「すまないが闇の書が完成するまで伝える訳にはいかない。ただ生きてるのは確実だ」

 

 シグナムの言葉を聞いたフェイトの口から思わず安堵の声が零れる。

 

 

 

―――「生きている」 それは彼女が何よりも知りたい情報だった

 

 

 

「……では貴方達を捕らえて教えて貰います!」

 

 

 バルディッシュを展開し構える。視線の先ではシグナムとヴィータもデバイスを展開していた。

 

 その姿を確認した時、フェイトは自身の失策に気がつく。目の前の二人を警戒するあまり、病室で出会ったもう一人の守護騎士の存在を失念していた事に。

 

 そこまで考えた時、フェイトは反射的にその場から跳躍する。その直後、足元から現れた緑色の糸が伸びてくる。

 

「きゃ……!」

 

 運よく奇襲を避ける事に成功したフェイトだったが、なのはは反応できず捕えられてしまう。

 

「グラーフアイゼン!!」

 

 その瞬間、今まで沈黙を守っていたヴィータがデバイスを構え、突撃した。

 

 狙いが動きを封じられていたなのはだと気が付いたフェイトはなのはの足元に向けて斬撃を放った。

 

 放たれた魔力の刃が彼女を捕らえた緑色の拘束を切り裂いた事で自由を取り戻す事に成功する。

 

 そしてグラーフアイゼンが激突する直前、ギリギリ間に合ったなのはが障壁を展開する。そして、激突により発生した衝撃が爆発を引き起こし、屋上を紅蓮に染め上げた。

 

「ちっ!」

 

 今の一撃で仕留めるつもりだったヴィータが舌打ちする。

 

 ここまで彼女が激高せず黙していたのは、念話で打ち合わせていたこの奇襲を成功させる為。

 

 シグナムがなのは達が知りたがる情報を話すことで二人の意識をシグナム一人に集中させる事で、ヴィータとシャマルへの意識を逸らした所に強烈な一撃を叩き込もうとしたのだ。

 

「もうすぐはやては助かるんだ……だから……邪魔すんじゃねぇ!!」

「待って! 話を―――」

 

 それが失敗したのならばそんな事をする必要がない。大切な主を救うのを邪魔する敵を潰そうと容赦無く鉄槌を振り下ろす。

 

 だが、怒りに染まった彼女は話し合おうとするなのはの言葉を無視して襲い掛かっていく。

 

「今の不意打ちによく気が付いたな」

「私の師匠は接近戦の達人ですから」

「ふっ……なるほどな」

 

 苛烈な攻防を繰り広げるなのはとヴィータとは正反対に、冷静に互いを睨み合うフェイトとシグナム。

 

「正直貴方達がこんな手を使ってくるのは意外でした」

 

 最初の邂逅の際にはなのはを奇襲した守護騎士だったが、あれはリンカーコアの蒐集という目的の方が主であり、

不意打ちをあまり好まない彼女達にしては予想外の攻撃だとフェイトは思っていた。

 

「私としても不本意だがな。輝く貌に仲間を殺されたのでな。手が足りんのだ」

「……え?」

 

 悔しそうに、だが悲しげに表情を歪めてそう答えるシグナムの言葉を聞き、フェイトの思考が停止した。

 

「ザフィーラを取り戻すためにも……我々は闇の書を完成させねばならない!」

 

 そう言って一気に距離を詰めたシグナムがレヴァンティンを振るう。

 衝撃的な言葉を聞かされて硬直していたフェイトだったが、反射的に身体が動いたおかげでガードに成功した。

 

 ザフィーラの喪失はシグナムには静かなる闘志を、ヴィータには苛烈なる激情を与えた。彼が単身で死闘に望んだ理由は自分達のせいだと思う後悔が彼女達を突き動かしているのだ。

 

 彼女の言葉に動じてしまったフェイトだったが、すぐに気持ちを切り替え、戦いに集中する。

 

 何が起きたのか気になる所ではあるが、彼は管理局に所属する事になった際、不用意な殺生を行わないとリンディ達に自身の聖誓を持って約束させられている。

 

 そんな彼がそれを破るような事したのは、そうせざるを得ない状況であったのだろうと、ディルムッドに絶大な信頼を寄せるフェイトは信じているからすぐに心を落ち着かせる事ができた。

 

「バルディッシュ!」

《Haken Form》

 

 カートリッジが回転し、薬莢が吐き出されると魔力の刃が発生し、漆黒の杖がデスサイズに変化した。そして再度迫り来るシグナムの斬撃を迎え撃つ。

 

「はぁっ!」

「やぁっ!」

 

 シグナムの紅蓮を纏う剣とフェイトの雷光の戦斧が激突すると紅と黄の輝きが周囲を照らす。その色を見た両者の脳裏に、今はここにいない騎士の姿が浮かんだが、即座に目の前の相手に意識を戻す。

 

 今回で守護騎士との戦いは四度目。そして過去三回の戦いのうち、一度は逃げられ、二度は敗北を喫したフェイトにとって雪辱を晴らす為の機会でもあり、彼の居場所を知るチャンスでもあり負けられない戦いである。

 

 だがそれはシグナムも同様である。過去一回に勝利し前回は不本意な勝利を手にしたとはいえ、デバイスの性能差が無くなったフェイトの強さは十分に勝利を手にする事ができる物である。

 

 敗北すればはやてを救えないと信じているシグナムが油断する事などあり得ず、両者が全力でぶつかり合う。

 

「レイジングハートっ!」

《Accel Shooter》

 

 そしてそれはもう一つの戦いを繰り広げる二人も同じである。

 

「ちっ! 相変わらず厄介な……! アイゼンっ!」

《Schwalbefliegen》

 

 話し合う意思を拒絶するヴィータに十二発のホーミング弾が放たれ、それを気合で回避しながらお返しとばかりに四つの小型の鉄球を放つが、なのははそれをホーミング弾を操って全て迎撃した。

 

 かつてフェイトに対して行った「ひとまず撃墜して話し合いに持っていこう」という小学生の考える発想とは思えない、グラニア並のとんでもない行動を至って真面目に真摯に実行しようとしているなのはと、頭に血が上って自分達の障害となって立ちはだかる物を叩き潰そうとしているヴィータが全力で攻撃を繰り出している。

 

 射撃特化のなのはと近接特化のヴィータという一見すると真逆の戦闘スタイルだが、両者とも非常に高い防御力を有しているという共通点がある。

 

 お互いに攻撃力も高いのだが、同時に防御力も非常に高い。その結果、互いの攻撃が障壁を突破できずに術者に届かないのだ。

 

 なのはとヴィータ。フェイトとシグナム。

 

 互いの譲れない物をかけた戦いは一進一退の攻防となり、その戦いは永遠に続くのではないかと思わせた。

 

 

 

――――だがそれは唐突に終わりを告げる。

 

 

 

 一度距離を取り、体制を立て直そうとした瞬間、突如出現した白銀の鎖が四人の動きを止めたのだ。

 

「「あっ……あぁぁぁぁっ?!」」

 

 その鎖に囚われた瞬間、脳を狂気が浸食していき、理性を強制的に剥離される苦痛が四人を襲う。

 

 必死で鎖の呪縛から逃れようとするが、その精神を狂わせる強烈な不快感と自己を飲み込まれる恐怖が術式を構築する余裕を与えず、逃れる事ができない。

 

「がっ……はっ?!」 

 

 その苦痛に意識を持っていかれていた守護騎士達はその場に接近し、彼女達から闇の書を奪っていた乱入者の存在に気が付くことができなかった。

 

 唐突に自身を襲った強烈な虚脱感がシグナムの失われかけていた思考能力を僅かに取り戻させ、自身を縛っていた鎖がランスロットの自由を奪っていた物と同じだと気が付かせる。

 

 そして同時に目の前に開かれた闇の書と自身のリンカーコアが浮かび上がっている事も。

 

「きさ……まは……」

 

 闇の書を手にしていたのは仮面の男だった。正体不明の協力者は表情を窺わせない仮面の奥から彼女達を見つめている。

 

「なに……しやがるんだ……」

 

 隣を見たシグナムはそこで自身と同じように囚われ、リンカーコアを摘出されているヴィータの存在を目にする。

 

「貴様達三人の魔力を蒐集する事で闇の書は完成する」

「ちく……しょう……!」

 

 貴様達は用済みだと。そう言いながら仮面の男は容赦なくリンカーコアの魔力を根こそぎ蒐集し、ヴィータの姿が虚空に消し去った。

 

「ヴィータ……!」

 

 その光景に絶望するシグナムや目の前で起きた事に驚愕しているなのはとフェイトを無視し、仮面の男が別の術式を起動すると魔方陣が展開され、光の中心に主であるはやてが姿を現す。

 

「シグナム……?!」

 

 病室から転移魔法を使って連れてこられ、戸惑いながら周囲を見回したはやてが拘束された三人の姿に気が付く。 

 

 思わず手を伸ばそうとしたはやてに見せ付けるように、シグナムのリンカーコアから一気に魔力を蒐集する。

 

「主はやて……申し訳……ありませんでした……」

 

 仲間を奪われ、大切な主を守る事すらできない事を後悔しながら、はやての目の前でシグナムの姿も虚空に消えていき、はやてがシグナムとヴィータに送った洋服だけがその場に残されていた。

 

 目の前で家族が消されるという絶望的な光景を目の当たりにし、涙を流すはやてを後ろから誰かが抱え上げ、跳躍すると仮面の男から離脱しようと駆ける。

 

「シャマル……!?」

 

 最初の奇襲を行った後。結界維持と索敵を行う為に、この場から離れていたシャマルが異常事態を察知し、主を守ろうと駆けつけてきたのだ。

 

 その両手を覆う右歯噛咬と左歯噛咬に驚いたが、それよりもはやては、彼女が無事でいてくれた事に安堵した。

 

 アヴェンジャーが憑依し、暗黒面を浮き彫りにされていたとしても、その本質はシャマルと変わらない。

 

 今のシャマルはアヴェンジャーの意思が完全に表出していないので、闇の書の完成よりもはやてを守る方を重要視しているのだ。

 

「まずはここから離れないと……!」

 

 シグナムとヴィータが消された事に怒りを覚えてながらも、今は逃げる事が最優先だと判断する。

 

 主を抱えて全力で距離を取ろうとしたシャマルだったが、横から迫る殺気に気が付き、即座に障壁を展開したと同時に何者かが強力な蹴りを打ち込んできた。

 

「二人……?!」

 

 自身に強烈な蹴りを打ち込んできた人物とビルの上からこちらに接近してくる人物の姿が同じものであった事にシャマルが驚愕する。

 

 分身か別の固体かはシャマルにはわからなかったが、はやてを抱えながら逃げる事が困難である事は明らかだろう。

 

「くっ……! ここで私まで蒐集される訳には……!!」

 

 問答無用で仮面の男達が放つ攻撃をはやてを守りながら全力で凌いでいく。

 

 本来のシャマルはサポートに特化した能力であり、直接戦闘はあまり得意ではないので、これほどの攻撃を受ければ数分も耐える事ができなかっただろう。

 

 しかし今はアヴェンジャーが憑依した事でサーヴァント化しているので、強力な『神秘の加護』を獲得している。それによってある程度は耐える事ができた。

 

「きゃあっ!?」

 

 それでも仮面の男達の攻撃に完全に耐え切る事はできなかった。単身で逃げるだけならばまだしも、はやてを守りながら逃げるには力が及ばなかったのだ。

 

 障壁を砕かれ、強烈な打撃が打ち込まれる。咄嗟に右歯噛咬で守られた手でガードするも魔力を帯びた打撃に武器が耐え切れず粉砕され、無防備になった彼女の白魚のような手の骨が砕かれてしまう。

 

「っ……!」

「あっ……!」

 

 アヴェンジャーの力が宿っていてもその身は守護騎士の時と大差はない。

 

 激しい激痛がシャマルを襲った時一瞬意識が霞み、はやてを手放してしまう。落ちて行く彼女を助けに向かおうとしたが、その隙を付かれて拘束されてしまう。

 

「シャマルっ!」

 

 下を見るとはやての身体が宙に浮いていた。どうやら仮面の男が落ちないように浮遊魔法を施したようだ。

 彼女が無事であった事に安心するが、胸元から浮かび上がるリンカーコアを見て、自分の消滅も免れない事を悟る。

 

「……ごめんなさい」

 

 全身を覆う虚脱感を感じながらはやてに向けて謝罪の言葉を告げ、シャマルはアヴェンジャーごと闇の書に蒐集され、消滅した。

 

「あ……あああぁ…………!」

 

 自身を決死で守ろうとしてくれたシャマルの消滅により、押さえ込んでいた絶望感が溢れそうになる。

 

「そや……! ザフィーラは……? ザフィーラはどこに……」

「奴はとっくに死んでいる。ディルムッド・オディナの手によってな」

 

 最後の希望に縋ろうとここにいない家族の姿を探すはやてに向けて、残酷な真実を無常にも叩き付ける。

 

 それがはやての心を壊す引き金となり、悲痛な少女の叫びと共に闇の書が起動した。

 

 これこそが仮面の男達の……いや二人の主の待ち望んだ瞬間であった。

 

 破壊不可能な闇の書を封印すること。それが二人の主の悲願であった。だがそれを為すには闇の書を完成させる必要があった。

 

 その結果として八神はやてという罪無き少女が犠牲になるとわかっていながらも、二人は守護騎士達の蒐集を手伝ったのだ。

 

 二人の視線の先では、覚醒した闇の書に飲み込まれその姿を変質させたはやての姿がある。

 

 その姿は記録にあった管制人格と同一であり、闇の書が完成した事の証明である。後は彼らの主が用意した切り札を使う事で悲しみの連鎖が終わる。

 

 

――――――そのはずであった

 

 

『湖の騎士のプログラムの異常を感知』

 

 シャマルと共に取り込んだアヴェンジャーの存在が異変を引き起こす。

 

 闇の書に根付いた歴代の所有者の悪意と全ての悪を肯定するアヴェンジャーが共鳴したのだ。

 

『サーヴァントの現界状態を確認……ランサー。ライダー。アサシン。バーサーカー。キャスターの現界を確認しました』

 

 闇の書が無機質な機械音を発する事に管制人格の周囲に禍々しい気配が漂っていく。

 

『アヴェンジャーにセイバー、アーチャーのパラメーターをインストールします』

 

 管制人格の周囲に漂っていた闇が形を成して行き、それが形を成す。それを見た仮面の男も拘束を解除したなのはとフェイトもその不気味な存在に威圧される。

 

「――――――――――――ッ!!!」

 

 集合した闇が新たなる存在生み出す。生まれた異形が声にならない叫びを轟かせた。

 

 本来ならば暗黒面を表出するだけのアヴェンジャーだが、闇の書の中に眠る悪意は膨大であり、その影響により意識ではなく質量を持った反転存在を生み出すまでに至ったのだ。

 

 その姿は二本の足で立つ影の獣。その異形を現すに相応しき名は『ビースト』。666項を持つ闇の書が生み出した黙示録の獣の化身。

 

 その禍々しさの具現化したビーストが握るのは二振りの宝剣。見る物に恐怖を与えるビーストとは正反対に宝剣が放つ輝きは見る者の心を振るわせる存在感を持つ。

 

 

 

―――右手に握るは『乖離剣エア』

 

 

 其れはバビロニア神話に登場する知恵の神・エアの名を持つ開闢の剣

 

 

 

―――左手に握るは『約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

 

 其れは湖の乙女から授かった人々の願いを星が集結させ、鍛えた聖剣

 

 アヴェンジャーを介し、聖杯の記録から取り出した神造宝具二振り。それぞれが莫大な魔力を秘め、どのような奇跡を用いても砕けぬ究極の武装だが、歪な手法でこの世に再現された事で

その存在が捻じ曲がり、担い手でない事と相まって本来の姿と在り様には劣る姿となっている。

 

 名を付けるのならば『偽・乖離剣エア』と『復讐に歪められし勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』と呼ぶべき歪められた幻想。

 

「――――――――――――ッ!!!」

 

 獣が咆哮を上げ、周囲を空気を振るわせる。劣化しているとはいえ、その力は並みの宝具を超えている事は事実であり、その存在感はその場にいる四人を圧倒するには十分な代物と言っていいだろう。

 

「ちっ! なんだあいつは?!」

「一度引くぞ! 父様に指示を―――!」

 

 発生した異常事態に動揺する仮面の男達が撤退しようと転移魔法を起動しようした瞬間、ビーストの視線が二人を捉えた。

 

「っ! マズっ?!」

 

 獣の本能が直接警鐘を鳴らす程の危険を察知し、防御行動に移る。魔法に特化した仮面の男が強固な障壁と復讐に歪められし勝利の剣がぶつかり合い、発生した金色の光が周囲を照らす。

 

「えっ――――――?」

 

 二つが激突した数秒の後、ズプリ――――と肉を切る不快な音と信じられないといった声がもう一人の仮面の男の耳に届く。

数秒硬直したが、吹き上げる鮮血が相棒が致命傷に近い傷を負わされたのだと気が付かせる。

 

「刃以もて、血に染めよ。穿うがて、ブラッディダガー」

《Blutiger Dolch》

「ヤバイ……ッ!」

 

 ビーストというイレギュラーにばかり警戒心を向けていたが、管制人格が消えた訳ではない。彼女の周囲に展開された血色の実体を持った鋼の短剣が止めを刺そうと放たれる。

 

 その攻撃が放たれた直後、傷を負っていない方の仮面の男の対応は素早かった。意識を失い、宙に投げ出されている仲間を掴むと、転移先を記録してあるカードを取り出して即座にその場から姿を消した。

 

 仮面の男達がその場から離脱した。そうなれば管制人格とビーストの次なる狙いがその場に残され、鎖に囚われたなのはとフェイトになるのは当然である。

 

「くっ……!」

「外れ……ない……!」

 

 二人が持つ膨大な魔力が銀の鎖の狂化をレジストしているので理性を剥離される事は無かったが、堅牢な鎖は簡単に引き裂く事ができない。

 

「ブラッティ―――」

「――――――――――――ッ!!!」

 

 動く事も抵抗する事もできない二人に対し、管制人格は鋼の短剣をなのはに、黙示録の獣は復讐に歪められし勝利の剣をフェイトに向けている。

 

 闇の書が生み出した二つの闇はそれぞれ容赦無く死へと誘う一撃を放つ直前――――!

 

遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)ッ!!」

「オォォォォォォォッ!! 切り裂け『無毀なる湖光(アロンダイト)』!」

 

 上空より飛来した二つの影がそれを阻む。

 莫大な魔力を手に集中させていた管制人格を雷撃を纏う神牛の蹄が吹き飛ばし、迫るビーストの身体を、偽りの神造宝具ごと湖の光を湛えた真実の神造宝具が切り裂いたのだ。

 

 

 

――――突如現れた予想外の増援に驚く二人の背後に三つ目の影が舞い降りる

 

 

 

「穿て……破魔の紅薔薇ッ!」

 

 そしてその人物の発する声は、二人が良く知る少年の声だった。彼が振るう真紅の魔槍が二人を戒めていた鎖を破壊し、囚われの少女達に自由を与える。

 

「あっ……!」

 

 鎖の呪縛から解放され、振り返ったフェイトの瞳に涙が浮かぶ。彼女が目にしたのは一番会いたいと思っていた人物の姿。

 

「遅くなってすまないフェイト」

 

 

 

――――――フィオナの騎士、ディルムッド・オディナが、マケドニアの覇王と円卓の騎士と共に戦場に帰還した

 

 

 

 

 




ビーストさんの名前はフェイト プロトタイプから。ビーストさんの姿はホロウの無限の残骸をイメージしてください。

この状況自体はずっと前から考えてましたが、どうやってここまで持っていくかに苦戦しておりました。

では本題です。以前アンケートをさせていただきました件なのですが。

申し訳ありません。1の選択肢の話しかできそうになってしまいました。

2の方向で内容を纏めていたのですが、戦力バランスを考えた時、ライダーが自分が納得できる立ち位置に置けなくなってしまったのです。

いっそ出さなければ。とも思ったのですが、それではイチゴのないショートケーキのようなちょっと物足りない感じになりそうに感じてしまうのです。

ですので、アンケートにお答えしてくださり、期待してくださった方々には大変申し訳ないのですが、ストライカーズの話は1の方向で進ませたいと思っています。



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