忠義の騎士の新たなる人生   作:ビーハイブ

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章の使い方わかってなかったんでステータスを無印編の途中に組み込みました。
慣れない機能を予行演習無しで使うからこうなるんでしょうね・・・。


月下の対峙

 

 

 深夜、暗い山道を走る少年の姿があった。

 

 昼間学校から帰ってきた彼はテストの成績が悪かったせいで親に怒られてしまい、思わず家を飛び出した。

 

 飛び出したはいいが意地を張ってしまい、すぐに戻れなくなった少年には行く当ても無く、特に何も考えずに山の中に入ってしまった。

 

 探検気分で奥に進んだ少年は道に迷ってしまい、入ったのは昼間だったのに日が暮れる前に山から出ることができず、辺りが暗くなってしまったのだ。

 

 最初は心細さを必死で堪えていたが、完全に辺りが闇に包まれ、野犬の咆哮が聞こえた瞬間、耐え切れずに泣き出してしまった。

 

 それでも家に帰れることを信じて歩き続けた少年は月の光が差し込む広場に出る。

 

 

 

 そこには化け物がいた。

 

 

 

 月の光の中でもわかる不気味な色をした触手が蠢いている。

 まるで彼が良く食べる蛸のようにも見えるが少年以上の大きさを持った蛸などいるはずがないだろう。

 

 逃げなければいけないとわかっていたが、恐怖で足が竦んで動けない。

 どれくらいそうしていただろうか。ふと蠢いていた触手が一瞬、ピタリと動きを止める。

 

 そして触手が正面の赤い部分を少年の方に向けた。

 

 

 目が―――合った気がした。

 

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

 

 その瞬間、恐怖の鎖が千切れ、少年は山の中を駆け出した。

 

 

 あれからずっと走っているが、いつまでたっても後ろから何かが迫ってくる気配と引きずるような音がが消えない。

 

 もう自分がどこを走っているのかわからなかった。

 

「あっ!」

 

 永遠に続くかと思っていた逃走劇は唐突に終わりを告げる。

 

 足をもつれさせた少年が木の根に足を引っ掛けて転倒してしまったのだ。

 立ち上がろうとしたが足を挫いてしまったのか、起き上がれない。すると背後で大きな音がした。

 

 振り返ってはいけないと思っても身体は言うことを聞かず、ゆっくりと背後を見た。

 

 

 異形が目の前にいた。

 

 

「う……うわぁぁぁっ!!」

 

 

 足の痛みも忘れて駆け出そうとしたがそれより早く伸びた触手が少年を捕らえた。

 

 

 

 

 その直後、空から放たれた真紅の閃光が魔物を貫いた。

 

 

 

 

 

「なんとか間に合ったか」

 

 その光の正体が紅い槍だと気が付き、空から現れた黄色い槍を持つ男の子の姿を見た瞬間、安心した少年は意識を手放した。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「まるでキャスターの海魔のようだな」

 

 紅と黄の槍を携えた少年……ディルムッド・オディナが苦虫を噛み潰したような顔で目の前の異形を睨む。

 

 破魔の紅薔薇で刺し貫かれ、断末魔の叫びを上げる異形の姿は聖杯戦争でキャスターが呼び出した海魔とそっくりである。

 

 それがよりにもよって子供を狙っていたのだからイヤでもあの外道を思い起こさせ、それがディルムッドを苛立たせた。

 

「ジュエルシード……破壊させてもらうぞっ!」

 

 紅槍と黄槍を投擲し、異形に突き刺して動きを止めたディルムッドが二振りの剣をその手に呼び出す。

 

 

 大なる激情(モラルタ)小なる激情(ベガルタ)

 

 

 養父アンガスから授かった神の剣を振るい、敵を切り裂く。

四つの宝具の餌食となった異形がその姿を崩し、青い宝石を残して消え去った。

 

「やはりこの身の丈であれば剣の方が扱いやすいな」

 

 なのはと別れたディルムッドは、ユーノが気が付いていないジュエルシードがあの街以外にあるかもしれない可能性を考え、ここ一週間ほど周辺の市街を散策していた。

 しかしなかなか見つからず、一度最初の森に戻ろうとここを通りかかった時、偶然ジュエルシードの気配を感じた。そして駆けつけると、子供が襲われていたのだ。

 

 破魔の紅薔薇以外を仕舞い、その刃先をジュエルシードに向ける。

 

 直後、右から殺気を感じ、破魔の紅薔薇を両手で持って構えると衝撃が走った。

 

「そいつをどうしようってんだいっ!」

 

 視線を向けるとオレンジの髪をした女性がこちらを睨んでいる。

彼女に破魔の紅薔薇をへし折る勢いで殴られ、踏ん張りが効かずに先ほどの場所から一メートルほど押し出されていた。

 

「悪用する気は無い。ただ破壊しようとしただけだ」

「そんなことさせる訳にはいかないよっ!」

 

 再度殴りかかってきた相手の攻撃を大なる激情で受け流し、破魔の紅薔薇で斬る。

 相手が後退した隙を狙い、地面に落ちたままのジュエルシードの元に向かい、紅槍の切っ先でジュエルシードを弾き上げ、それを左の指先で摘み取った。

 

「悪用しようとしていたのは貴様の方か・・・悪いことは言わん。素直に下がれ」

「それを渡すなら素直に下がってやる!」

 

 目の前に現れた襲撃者に紅槍の切っ先を向けながら、左手のジュエルシードをポケットに仕舞った。

 

 奪われないようにと咄嗟に掴み取ったが、いつ再び暴走するかわからない魔石を持ったまま戦うのは避けたい。

 破魔の紅薔薇で表面の魔力を打ち消し、自身の対魔力で押さえ込んでいるおかげで沈静化してるとはいえ安心できない。

 

「今の手合わせでわかっただろう。貴様ではこのディルムッドを倒す事はできない」

 

 先ほどから殺気を飛ばしてくる女を軽く挑発する。

 鎧のような物はなく、露出の多い衣服を着ており、マントを羽織ってはいるが身を守る効果はなさそうだ。

 何より目を引くのは挑発した瞬間に現れたオレンジの髪の上から生えている獣の耳で、それが彼女が人ではないことを物語っている。

 

 魅了の影響を一切受けている様子が無いのでおそらく魔力を持っているのだろう。

 

 女が跳躍し、再度攻撃を仕掛けてくる。

 パワーは凄まじく、今のディルムッドを上回っている。しかしその動きに技量は無く、単調な力押しなので届かない。

 

 大振りの攻撃をかわし。後ろに回りこんだディルムッドが死角から攻撃を繰り出す。

 

「くっ……!シールド!」

 

 獣のような反射神経でこちらの攻撃に反応した女の目の前に魔方陣が浮かび上がった。

 魔方陣は攻撃を繰り出す前に展開されており、女は攻撃を回避する気配無く、シールドに手をかざしている。

 

「穿て……!」

 

 アルフの判断は間違っていなかった。堅牢なシールドは見事に展開が間に合っており、防いでカウンターを叩き込めば大きなダメージをディルムッドに与えれる。

 

「破魔の……」

 

 唯一の誤算は、その手に握られていたのが、血のように紅い長槍であったことだけだ。

 

「紅薔薇ッ!!」」

 

 放たれた一撃は目の前のシールドを通り過ぎ、その切っ先が女左肩に吸い込まれ鮮血が飛び散る。

 

「そん……なっ……!」

 

 信じられないと目を見開きながら女が後ろに飛び、距離を取る。

 

 雌雄は決した。彼女の左腕は今の一撃で完全に使い物にならなくなり、ディルムッドはここまで手傷の一つも負っていない。

 

「一つ問おう。何故これを狙う?」

「あの子が……大事なご主人様が必要としているからさっ!!」

 

 左肩の激痛を堪えながら女が叫ぶ。その目には今だ闘志が宿っており、まだ諦めてはいなかった。

 そして咄嗟に後ろに飛ぶと、先ほどまでいた地面が迸る雷撃で大きくえぐられた。

 

「……アルフッ!」

 

 彼女を庇うように金髪の少女がアルフと呼ばれた女とディルムッドの間に降り立った。

 

「フェイト……ゴメン……!」

「ううん。大丈夫だよ」

 

 フェイトと呼ばれた少女がアルフに優しい笑顔を向け、手のひらを傷口にかざすと風穴となっていた左肩の傷が埋まり出血が止まるが、応急処置程度の効果しかないのか左腕はまだ使えないようだ。

 

「貴様がこれを必要としている者か……何故このような民に危害を加える物を求める?」

 

 アルフとフェイト。こちらを睨む二人の少女に尋ねる。

 

「必要だからっ……バルディッシュ!」

 

 それだけ告げるとフェイトが手に持った杖を鎌に変化させて突進してくる。

 

「フィオナの騎士を侮るな」

 

 ディルムッドは冷静に対処し、こちらに迫ってくる金色の刃に破魔の紅薔薇の切っ先を当てると魔力の刃は霧散した。

 それにより不意打ちするために接近したフェイトの方が驚かされることになり、振るわれた左手の大なる激情を慌てて杖の柄で防ぐ。

 

「くそっ……なんなんだいその槍……!」

 

 あらゆる魔術を消し去り、シールドすら容易く貫通する紅槍に二人が翻弄される。

 魔術師としては優秀な二人だが、その力の源である魔力を打ち消されてしまうせいでその能力を発揮できず、紅槍の攻撃を魔術障壁で防ぐことができない事を知ってしまったせいで迂闊に踏み込むことすらできなかった。

 

「我が破魔の紅薔薇の前に臆したか。それではこのディルムッドに勝つことなどできんぞ」

 

 ディルムッドは力を失っている。

 リーチの変化や能力の制限。全てのステータスは落ち、魔力に至っては正面にいるフェイトの足元にすら及ばない。

 

 しかしそんなのは彼にとってはほんの些細な事である。

 基礎の能力では劣るはずのディルムッドが二人を相手に圧倒する事が出来るのは経験と覚悟の差だ。

 

 破魔の紅薔薇は確かに強力な宝具だが絶対の物ではない。

 

 それを当てる技量、扱う技術。間合いを読み、敵の動きを読む心眼。

 

 それらを有するからこそ、ディルムッド・オディナは英霊足る器を持ち、ここまでの力を発揮できる。

 

 

 

「強い……」

 

 中距離の攻撃もアルフの援護も通じず、得意の近接戦闘も全く通じない。

 すでにフェイト達には目の前に悠然と立つ少年から勝利を得ることは不可能だと理解していた。

 

「でも……引くわけには行かない……!」

 

 それでもフェイトは立ち向かう。諦める訳にはいかないのだから。

 

「母さんの為に……!それを手に入れなきゃいけないんだっ!!」

 

 己の全力を持って目の前の槍騎士に突撃し、鎌を上から振り下ろす。

 

 

 

「ようやく理由を言ったな」

 

 フェイトの本心を聞き、満足気な笑みを浮かべたディルムッドが紅槍を上に向けて振り上げる。

 

 キィンッ!!と金属同士がぶつかり合う音が静寂になった山に響き渡る。

 

「フェイト……と言ったか。どうやらこの勝負、俺の勝ちだな」

 

 手から弾かれた杖が地面に突き刺さり、喉元に槍を突きつけられて、フェイトは自分の敗北を悟った。

 

「最後に一つ、尋ねよう。フェイト、貴様はこの魔石を御する事ができるのか」

 

 ジュエルシードを取り出し問いかける。

 

「ならばフェイト、これを渡しても構わないが……俺と手を組まないか?」

 

 フェイトが頷くのを確認したディルムッドがそう切り出した。

 

「……どういうつもりだい?」

 

 アルフが警戒心を隠さず、こちらの腹を探ろうとしてくる。

 

「そう警戒するな。俺がこの魔石を破壊しようとしているのはこれ以外の手段を持たないからだ」

 

 大なる激情と破魔の紅薔薇を仕舞い、丸腰になって敵意の無いことを伝える。

 

 先ほど初めてジュエルシードを掴んだ時、今の破魔の紅薔薇では『破壊できない』事を感じ取った。

 

 そうなればこれを放置する訳に行かない以上、封印可能な者に頼る必要がある。

 なのでフェイトが現れた時、勝つのではなく彼女にこれを渡しても大丈夫かどうかをその真意を聞いて判断しようとした。

 

「その母君がこの魔石を如何様に使うかは知らんが・・・少なくとも貴様という人間がこれを悪用する事はないと判断した」

 

 いずれはその真意を知り、危険であれば阻止すべきであるが、今は彼女達を信用したかった。

 

「俺の目的はこの魔石が暴走して民を巻き込まないように処理することだ。封印できるならば破壊の必要はない」

 

 何故なら、理由を尋ねた時のアルフの瞳には覚えがあったからだ。

 それはフィンに、ケイネス殿に対し己が向けていた物。絶対の忠誠・・・己の全てを賭けてでも主の為に尽くす。という強い信念が篭った眼だ。

 

 それに気が付いていたディルムッドは、次に現れた主であるフェイトの瞳を見た。

 彼女がアルフを見るその眼は、全てが変わったあの日まではフィンが己に向け、ケイネス殿が一度も向けてくれなかった物だった。

 

 主に忠義を尽くし、主から信を得る……ディルムッドが渇望し得られなかった関係が目の前にあった。

 

「さてどうするかねフェイト。俺は君の判断を尊重しよう」

 

 ディルムッドの言葉を信じ協力関係を結んでジュエルシードを受け取るか。信頼せず敵対して目の前のジュエルシードを逃すか。

 

 考えるまでもなく前者であろう。戦力としては申し分なく、正々堂々と闘う彼が裏切る男には見えない。

 

「協力を……お願いします」

「承知した」

 

 差し出された手を握り返し、先ほど手に入れたジュエルシードを地面に置いた。

 フェイトが弾かれて地面に刺さっていたバルディッシュと呼ばれていた武器を抜き取り、杖の先をジュエルシードに向ける。

 

「ロストロギア、ジュエルシード。シリアルⅡ……印」

《Yes sir.》

 

 眩い金色の閃光が現れ、ジュエルシードを飲み込み、光が消えた時そこにあったのは膨大な魔力の奔流を感じない静かな宝石だった。

 

「見事なものだ」

 

 なのはの時もそうだが、あれほどの魔力を持つ物をこのような年の少女が容易く封印するとは。

魔術の知識はないが、これが凄いことではあるのはディルムッドでもわかる。

 

「これで封印は完了しました」

《Captured.》

 

 バルディッシュの声と共にジュエルシードは金色に輝く球体の中に飲み込まれていった。

 

 

 封印を終え、互いを気遣い寄り添う主従の姿をディルムッドが見つめていた。

俺はまた……仕えるべき主を見つけ、今度こそ忠義を尽くすという我が本懐を成し遂げられるのだろうか。

 

 月夜の中、二度も全てを失った騎士はその光景を黙って見つめていた。

 

 




ソロで行くか組ませるか悩みましたがタグにハーレム(?)ってあるんでこうしました。

フェイト達に魅了聞いてないのは魔力あるからで、失われているわけではないです。

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