忠義の騎士の新たなる人生   作:ビーハイブ

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かっこよくディルムッドさんを書きたいけど書けてるかな・・・私の脳内ではかっこいいんですが・・・伝わったら嬉しいです。


出会い、そして邂逅

 

 

 なのはとフェイトとの戦いから数日後。ディルムッドは街にある図書館に来ていた。

 

 先日街中で女性が集まってきた原因をフェイトに尋ねられ、生まれながらに魅了の呪いがかかっている事と、そのせいで色々大変な目にあったことなどを話すと、解決の手段を行ってくれた。

 

 ジュエルシードの封印を応用した封印処置を黒子に直接施すことでその効力を抑えることができたのだ。

 

 ただし、この呪い自身がディルムッドと深く結びついているので魅了の呪いだけを封じることはできず、ディルムッドの能力にまで大幅に制限をかけてしまう。

 

 緊急事態に備えて任意で解除できるが、再度封印する場合はフェイトかアルフに頼まなければならず、顔の右側に文様が浮かび上がってしまうので顔の右半分に包帯を巻くことになった。

 

 幼い少年の顔に包帯が巻かれ、『輝く貌』と呼ばれるほどの美しい顔が包帯の無い方から見えているので違う意味で注目を浴びているのだが、それでも街中を歩いても大変な目に合わなくていいのはありがたく、久々の平穏を堪能していた。

 

「これか……」

 

 図書館でディルムッドが手にしたのはケルト神話・・・特にアイルランドに関する書物だ。

 

 彼がこの本を探していたのは、この世界に英霊、ディルムッド・オディナの逸話が残っているのかを確認するためだった。

 

 少し探してみると、その名前はあった。フィオナ騎士団の中でも勇敢で心が広い騎士・・・そして己のゲッシュにより主君を裏切り、最期は主に見殺しにされて命を落とす。そこにはディルムッドが誰よりも知っている真実が記されていた。

 

(……俺は)

 

 この世界でも生きていたことを確認し、同時に感じるのはただ後悔だった。己の生き方には後悔はなく、主であるフィン・マックールに対しては恨みなど感じてはいない。

 

 ディルムッドが死した後、フィンは王に裏切られ、騎士団と運命を共にした。もし己が生きていれば、友であったオスカも・・・主も死なずに済んだのではないだろうかと思ってしまう。

 

「ん……?」

 

過去の悔恨の想いに耽っていたディルムッドだったが、ふと視界の先に車椅子の少女を捉えた。

 

「…………届かへん……!」

 

どうやら上の方の本を取ろうとしているようだが、車椅子の身では届かずに困っているようだ。図書館の職員はその姿に気付いておらず、周りの人間は無視を決め込んでいる。

 

「この本でいいか?」

 

 困っている女性を放置する事など己の誓いに反する。すぐさま駆け寄り、目当ての本と思わしき物を取って渡した。

 

 そして、顔の半分を覆う包帯に驚いた様子の少女と目が合った。

 

 

 

 

「どうもありがとうございます。わたしの名前は八神はやてって言います」

 

 少し変わった発音で少女がお礼を言ってきた。

 

「我が……俺はディルムッド・オディナだ。敬語は使わなくていいぞ」

 

 言い直したのは先日フェイトとアルフに指摘されたからだ。

 

―――二人曰く、なんか時代がかった言い方でものすごく変。との事である。

 

「ディルムッドってケ……ルト神話の登場人物の名前やね?」

「君は詳しいようだな。偶然似たのか、もしくは親が好きだったのかもしれんな」

「本を読むのが好きやねん……というかそれしかできることが無くってな……」

 

 そのケルト神話の英雄本人です。など言える訳がないので適当に誤魔化しておいた。

仮に言ったとしても目の前の少女が信じる訳がなく、おそらく頭のおかしい人間として見られるだけであろう。

 

「はやてでええよ。代わりにわたしはディル君って呼ばせてもらうわ」

「了解した、はやて。俺もそれで構わない」

 

 普通に女性と会話できることをフェイトに感謝しつつ、ディルムッドは目の前の少女と話す。

 

「聞いたら悪いかもしれんねんけど……顔は怪我でもしたん?」

「そんなところだ。とは言え、痕になったりする傷ではないがな」

「そらよかった。ディル君かっこいいのに傷残ったら勿体無いもんな」

「そういうはやても可愛らしいと思うが?将来は美人になるな」

 

 夕暮れの図書館で夕日を浴びながら朗らかに会話する美少年と美少女。

車椅子と顔の包帯と言う痛みの象徴がその美しさを際立たせており、その姿を見た周りの人間は本などそっちのけで二人を見ている。

 

「ところでもうこんな時間だが……家族は心配していたりはしないのか?」

 

 しばらく会話していたが、彼女を迎えに来る気配も無く、はやて自身も誰かを待っている様子が無かったので気になった。

 

「わたしは家族がおらへんねん。だからそういうのは大丈夫や」

 

 話を聞くと、小さい頃に身寄りを失い、現在は父親の友人から援助を受けながら一人で暮らしているとの事だった。

 学校には足の障害のため休学しており、今は通っていないらしい。

 

 辛いことを聞いてしまったと思ったが、はやてに特に気落ちした様子は見えない。

おそらく家族を失った悲しみは乗り越え、今は孤独であることの寂しさを感じているといった所であろう。

 

「そういうディル君は大丈夫なん?」

「同居人がいるが、今は出かけているので問題ないさ」

 

 現在フェイトとアルフはジュエルシードの気配を追って今朝から温泉地に向かった。

 

 フェイトの魔力供給を受けたアルフの傷は癒え、戦える状態に戻っている。

もう少し様子を見てもよさそうだったがリハビリを兼ねたいとの事なので戦線に戻らせた。

 

「なので俺も今日は家に誰もいない」

 

 ディルムッドも同行するかと聞かれたが、調べたい事があり、無理になのは達との接触する機会を作る必要もない。

 何より、あんたがいなくても問題が無いってことを見せてやるよと意気込んでいたアルフの様子もあったので断った。

 

「ほんなら今日はうちでご飯食べていかへん?」

 

 フェイトは大丈夫だろうが、なのはの方は無事で済むのかと考えていると、はやてがそう言った。

 

「……そうだな。ならば同伴させてもらおう」

 

 車椅子が大変なのはケイネス殿の様子で理解している。障害を抱えたこんな幼い少女が一人で暮らすのは大変で、何より寂しいのだろう。

 

「ほんなら買い物にいこっか!今日は腕によりをかけて作るでー!」

「それは楽しみだな。期待させて貰おう」

 

 意気込んでいるはやての車椅子を押しながらディルムッドの表情にも笑みが浮かんでいた。

 聖杯戦争の時には感じることの出来なかった穏やかで微笑ましい気持ちになりながら、二人して商店街へ向かった。

 

 

 その後、はやてと二人だけの夕食を終えて夜遅くまで話をし、また逢う約束をしたディルムッドが家に戻るとフェイトとアルフが戻っていた。

 

 

 暴走したジュエルシードを回収し、なのは達からも一つ手に入れたようで現在は4つになった。

 

 

 どんなもんだと笑顔で言うアルフの顔を見ながら、もしかしたらはやてとフェイトは気が合う友達になれるのではないかと思うディルムッドであった。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

「大体この辺りだと思うんだけど・・・大まかな位置しかわからないんだ」

「確かにここは気配が多すぎる。簡単には見つからないだろうな」

 

 はやてと出会ってから数日後の深夜。フェイト、アルフ、ディルムッドの姿は高層ビルの上にあった。

 

 フェイトの探査魔法で姿ジュエルシードの位置を調べ、その回収のために

 

「ちょっと乱暴だけど・・・周囲に魔力流を打ち込んで、強制発動させるしかないね」

「民に被害を及ぼす方法であるならば止めさせてもらうぞ?」

 

 破魔の紅薔薇をアルフに。大なる激情をフェイトに。その切っ先を向けながら尋ねる。

最近は互いに信頼してきているが、その協定を破るならば容赦はしない。

 

「結界は向こうさんが張るだろうし問題無いだろうさ」

 

 アルフが言う向こうさんと言うのは下にいるなのは達の事だ。

あちらはフェイトに気が付いておらず、ディルムッドがこちらに付いているなど夢にも思っていないだろう。

 

 ディルムッドは刃を下ろしたのを了承の合図と受け取り、アルフがフェイトの代わりに魔力流を打ち込んだ。

 

 その影響で雷鳴が鳴り響き出すと、なのは達もフェイトが近くに居ることに気が付いたのだろう。結界が展開し、外界と断絶される。

 

「バルディッシュッ!」

《sealing form. set up.》

 

 フェイトの声でバルディッシュが封印用の形態に変化する。最初はディルムッドが知る魔術とは全く違う機械の杖に驚きもしたが、慣れという物は恐ろしい者で、現在ではバルディッシュを一個人として見ている。

 

 魔力流の影響で発動したジュエルシードの煌々とした輝きに向けてフェイトの金色の光の矢が放たれる。

 それと同時に放たれた桜色の魔力光がジュエルシードに激突し、せめぎ合った。

 

「ジュエルシードッ!シリアルⅩⅨ・・・封印ッ!」

 

 互いの魔力がぶつかり合い、強烈な光を放つ。光が収まると、封印されたジュエルシードが静かに佇んでいた。

 

「俺はここで待機している」

「うん・・・見ててね」

「サクッとあたしとフェイトが片付けてやるよっ!」

 

 ジュエルシードを手に入れるため、フェイトとアルフが飛び出していった。

 

 アルフの傷が癒えた時、三人はディルムッドをなのは達に対する必殺の切り札としてギリギリまで隠す事にした。

 そして、今まで結果的に直接的な戦力として動けなかった侘びにと、ディルムッドは万が一の時に援護する役割を担うことになっている。

 

 万が一の時・・・つまり、フェイト達に危機が訪れた時や捕まりかけた時に離脱の援護を行うという事だ。

 

 ディルムッドの支援が後ろにあるという安心感によるものなのか、戦いに挑む二人には以前のような切迫した空気を感じない。

 

「二人の一騎打ち・・・このディルムッド・オディナが見届けさせてもらう」

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 ディルムッドと別れたフェイトは白い魔導師と対峙し、アルフはユーノの相手をしている。

 

「こないだは自己紹介できなかったけど。私なのは、高町なのは」

 

 ジュエルシードの目の前で互いに見つめあう中、なのはが唐突に自己紹介を始めた。

 

《scythe form. set up.》

 

 その言葉を無視し、フェイトがバルディッシュを構え、斬りかかる。

屋上で予想通りだと微笑んでいるディルムッドには気が付いていない。

 

 バルディッシュの攻撃を以前のように上空に飛んで回避するが、そこからの動きは以前とは大きく変わっていた。

 一番顕著な変化は魔法の制御だ。魔力を収束してから放つまでの速度が段違いに上がっており、一撃一撃が必殺の威力を持つ砲撃を連続して放つ。

 

 速さを武器とするフェイトでも全てを回避するのは困難であり、時にはシールドで防ぎながら射撃で応戦するがなのはは膨大な魔力で構成した堅牢なシールドでそれを防ぐ。

 

 近接戦ではディルムッドから師事を受けているフェイトが上だが、なのははその攻撃をデバイスの補助を使って高速回避し背後を取って攻撃する。

 

「フェイトちゃんっ!!」

 

 放たれた砲撃を障壁で防いだフェイトになのはが呼びかけた。その声は人の気配が無くなったビルに木霊し、大きく反響してディルムッドの元にも届く。

 

「話し合うだけじゃ・・・言葉だけじゃ何も変わらないって言ってたけど・・・!話さないと、言葉にしないと伝わらないこともきっとあるよ!!」

 

 フェイトに向けて放たれた言葉だったが、それは屋上に居るディルムッドの心に大きく響いた。

 

 聖杯戦争の時、主であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトが己の想いを理解してくれないことを嘆いた。どれだけ主君に聖杯を捧げたいだけだと伝えても、彼は決して信じず、己を道具としてしか見ていなかった。

 

 だが果たしてそれは主だけだったのだろうか。俺は主を個人としてではなく忠義を尽くすただの器としてしか見ていなかったのではないだろうか。

 

「私がジュエルシードを集めるのは、それがユーノ探し物だから。ジュエルシードを見つけたのはユーノ君で・・・ユーノ君はそれを元通りに集めなおさないといけないから。私はそのお手伝いで――」

 

 なのはのように・・・・・・彼女が今フェイトに向き合っているように・・・彼の人格や思想と向き合おうとしていれば、違う結末もあったのではないだろうか。

 

「これが私の理由!お願い!どうしてフェイトちゃんはジュエルシードを集めているのか教えて!」

「私は・・・」

「フェイト!答えなくていい!あたし達の最優先事項はジュエルシードの捕獲だよ!」

 

 なのはの想いに揺れ、答えようとしたフェイトだったがアルフの言葉で自らの目的を思い出し、宙に浮かぶジュエルシードに突進した、

 

 なのはもそれに反応し、ほぼ同時にたどり着き、二人のデバイスがジュエルシードを挟むようにぶつかった。

 

 そして二人のデバイスに亀裂が走り、ジュエルシードの封印が解けた。

 

「駄目だ・・・!ジュエルシードが・・・」

「レイジングハートッ!!」

 

 ユーノが叫ぶが、互いのデバイスが大きく損傷しており、暴走状態のジュエルシードを封印処置することができず、

 絶望的な状況になのはとユーノの声に絶望の色が宿る。

 

 

 

 

 

 

 

 衝撃が辺りを揺らし、魔力の奔流が周囲を吹き飛ばそうとした瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

「穿て、破魔の紅薔薇!!」

 

 上空から放たれた真紅の長槍がジュエルシードに直撃し、暴走する魔力が一瞬で霧散した。

 

「フェイトッ!やれっ!!」

 

 破魔の紅薔薇を持ったディルムッドが叫ぶ、爆発は止めたが、封印を行った訳ではない。

 

 バルディッシュを待機状態に戻したフェイトが駆け、ジュエルシードを掴むと同時にディルムッドが離れた。

 

「止まれ……止まれ……止まれ……!!」

 

 両手からあふれ出そうとする魔力の奔流でフェイトの掌の皮膚が切れる。それでもジュエルシードを離さず握り続けると、その願いに呼応したのか光が消え、沈静化した。

 

「フェイトッ!」

 

 それを確認して安心したのか魔力を使い切ったフェイトが意識を失って倒れそうになったので慌てて支える。

 

「すまんな、アルフ。姿を晒した」

「いや、最高のタイミングさ。むしろ出てこなかったら後で噛み付いてたね」

 

 もし破魔の紅薔薇を使わなくてもフェイトはデバイス無しでの封印を行っていただろう。そうすればどうなっていたかなど考えたくない。

 

「ディルムッド君・・・?」

「なんで・・・」

 

 案の定、ディルムッドの姿を見た二人が驚愕していた。

 自分達を助け、久しぶりに再会した相手が敵と親しげに話していれば仕方が無いだろう。

 

「アルフ、フェイトを連れて先に行け。俺は少し足止めしてから戻る」

「わかった!感謝するよ!」

 

 人型に戻ったアルフにフェイトを預け、二人の姿が見えなくなるのを確認すると、破魔の紅薔薇と大なる激情の切っ先を二人に向けた。

 

「さてせっかくの再会だが……すまんがそういう訳でな……二人が逃げ切るまでお相手願おうか?」

「どうして僕達の敵になったんですか!」

 

 ユーノが沈痛な声で叫ぶ。あの日以降姿を消したディルムッドのことを二人とも気にかけていたのだ。

 

「敵……と言う訳ではないさ。むしろなのはと同じ、ジュエルシードの暴走を止めたい側・・・仲間と言ってもいい」

 

「だったらどうして……!」

 

 なのはの問いに答える義理はないが、先程の彼女の言葉を聞いた以上、互いを理解するためにも答えたほうがいいだろう。

 

「一つはあの二人に俺の理想を見た事……もう一つは……これはフェイトにも言っていないのだが、単純に彼女を放っておけんかったのさ」

 

 最初に出会った夜。母親の為だと叫ぶ彼女のか悲しげな瞳を見て、そう思ったのだ。

 

「フェイトちゃんはなんでジュエルシードを……」

「答えてもいいが……それはお前が自らフェイトから聞くことに意味がある……おそらく彼女の心を救えるのは、なのは……君だけだ」

「え……?」

 

 その言葉を聞いたなのはが動きを止めた。

 

「さて、そろそろ逃げ切った頃だろう。なのは、どうかフェイトを頼む」

 

 そして彼女達が何かを言う前にディルムッドは気配を消して、暗闇の中に姿を消したのであった。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

「怪我は大丈夫か?」

 

 なのは達を撒いたディルムッドが部屋に戻るとアルフがフェイトの掌の傷を治療していた。

 

「大丈夫。平気だよ」

 

 無理に笑顔を作ってそう言うフェイトの掌は見ていて痛々しかった。

 

「明日は報告に、母さんの所に行くんだ」

「フェイトの母君の?ならば俺は周辺の散策をしておこう」

 

 フェイトの住んでいた家は、次元を隔てた所にあるらしい。そんな所に素性のわからないディルムッドが乗り込んでは向こうに悪いだろう。

 

「ディルムッド!一緒に来てもいい……いや一緒に来てくれ!」

 

 何より親子水入らずの空気に割り込むのはが申し訳ないと思ってそう言ったのだがそれをアルフが必死な様子で拒絶する。

 

「……わかった。同行しよう」

 

アルフの真剣な剣幕に不吉な気配を感じたので、ディルムッドが頷いた。

 

 

 

翌日になってその判断が正しかった事を身をもって知るのであった。

 




ディルさんの感情はお兄さん的な物です。

そして魅了無しで好感度を上げていっています。

イケメンに生まれたかったですね。本当に。ジル・ド・エレも本来はイケメンです。
世の中って不公平ですよね。

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