膨大な魔力の弾丸をかいくぐり、時には紅槍で払いながらディルムッドが一気に接近していく。
なのはの物とは比べ物にならない高密度の障壁が展開されているが、そんな物ディルムッドには関係ない。
「穿て……破魔の紅薔薇……!!」
目の前の相手に向け、必殺の一撃を叩き込んだ。
「ディルムッド!止めてっ!!」
フェイトの叫びにその手を直前で止める。
シールドを透過し、喉元に突き突きつけられた紅槍を見て、ようやく目の前の女……フェイトの母であるプレシア・テスタロッサが動きを止めた。
何故このような事になってしまったのだろうか。
喉元に槍を突きつけられながらも、無表情にこちらを見下すプレシアを睨みながらディルムッドは怒りを隠そうとはしていなかった。
「『時の庭園』?」
「うん。そこで母さんとアルフと一緒に住んでいるんだ」
家を出る時、母親の事を話すフェイトはとても嬉しそうで、そんな見るのは久々であった。名前はプレシア・テスタロッサというらしい。
反対にアルフの様子は暗い。彼女によるとフェイトの母は『厳しい』ようで今回の報告も出来れば行かせたくないらしい。
「この短期間でジュエルシードを四つもゲットしたんだし、怒られることは無いと思うけれどね……」
「むしろ賞賛されるほどであろう。これほどの物、手に入れるだけでも困難だ」
しかも、なのは達と競い合いながら、ディルムッドがいなければそれを二人で成そうとしていたのである。
そうして時の庭園と呼ばれる地に辿り着き、話をするためとフェイトが母親の元に向かう・・・・・・そこまでは良かった。
重く閉ざされた扉も向こうでフェイトの苦痛の叫びが聞こえるまでは。
「……なんだ?!」
後で紹介すると言われ、アルフと二人で待っていたディルムッドが異常に気が付き、立ち上がる。
「いつもあぁなんだ・・・フェイトに厳しく当たって・・・あたしは助けてあげることもできない・・・ッ!」
その言葉を聞き、ようやくアルフの言う『厳しい』の意味を理解した。
ディルムッドの時代と今は大きく違ってはいるが、こんな叫びを上げる事になるのは今も昔も関係なく、常識の範囲を超えている。
「アルフッ!魔力を貸してくれ!」
「ディルムッド?何をするんだい?」
目の前の扉は硬く閉ざされており、子供になったディルムッドの力では開くことができない。
さらにこの扉には魔力衝撃だけではなく、物理的にも硬度で、破魔の紅薔薇だけでは破壊不可能である。
「最大の一撃でこの扉を破壊する。アルフは俺に魔力を注ぎながら、破魔の紅薔薇の刃を扉に押し付けておいてくれ」
アルフに破魔の紅薔薇を渡し、大なる激情を取り出して構えた。
今は自分の力では解放できない大なる激情だが、辺りには高密度の魔力が漂っている。それに加え、アルフの魔力の補助を受ければ可能かもしれない。
「真名……解放……ッ!!大なる激情《モラルタ》ッ!!」
ディルムッドの叫びに呼応し、膨大な魔力を吸収した神の剣が神々しく輝く。
それを一気に振り下ろすとあらゆる防壁の第一層のみを破壊する大なる激情によって最小の衝撃で扉を破壊した。
強引な真名解放により大なる激情が砕け散った。再生するまでの一週間は切り札の一つを失った状態だが今はそんなことはどうでもいい。
アルフから破魔の紅薔薇を受け取り、室内に入ると、そこには魔力の紐のような物で両手を吊るされているフェイトと鞭を持った女がいた。
それを見たディルムッドが女に飛びかかる。そうしてそうして冒頭の状態に戻る。
「お前はなんだい?」
フェイトが目の前にいる限り、自分が殺されないとわかっているからだろう。
命を奪おうとしている紅槍を前にしてもプレシアは微動だにせず、ディルムッドを冷たく見下ろしている。
「フィオナ騎士団、ディルムッド・オディナ。今はフェイトと共に行動を共にしている」
「あらあら、ずいぶんと可愛らしい騎士さんね。それでそこのお姫様を助けに来たってところかしら?」
「そういう訳だ。フェイトは連れて帰らせても貰うぞ」
答えを聞かず、破魔の紅薔薇の切っ先でフェイトを戒める縄を斬り、解放する。
「ふん……好きにしなさい。フェイト、次は母さんの期待を裏切らないでね……」
そうしてプレシアがフェイトの答えも聞く前に姿を消した。
「ディルムッド……」
「大丈夫か?とりあえず話はここを出てからだ」
弱っているフェイトをいわゆるお姫様抱っこの形で連れ、破壊した扉から出るとそこではアルフが待っていた。
「フェイトッ!」
「アル……フ……」
駆け寄ってくるアルフと優しく見つめてくるディルムッドの姿に安心したフェイトが意識を手放した。
「フェイト……ごめん……ごめんよ……」
項垂れているアルフと共に三人の拠点である自宅に戻ったのであった。
―――――――――――――――
「「駄目だ(よ)」」
自宅に戻りすぐに目覚めたフェイトの言葉をディルムッドとアルフが却下した。
「そんな身体ではいずれ倒れる。今は休んで体力を万全にしろ」
「そうだよっ!今日くらい休んだっていいじゃないか!」
ディルムッドに言われて食事は前よりも摂るようになったが、その分を消してしまうほど身体を酷使している。特にここ数日間は、負担を考えて訓練を取り止めざるを得ないほどだ。
「だけど……!ジュエルシードを手に入れて帰ってきたら……きっと母さんも笑ってくれる……また昔みたいに優しい母さんに戻ってくれる……だから!」
いつもは口数が少ないフェイトにしては珍しく、力強い口調で懇願する。
気絶させてでも休ませるべきかと思ったが、そんなことをすれば目が覚めた時にディルムッドやアルフの目を逃れてジュエルシードを探しに行きかねない。
「わかった……ただし俺かアルフが危険だと判断したら素直に撤退しろ。それだけは約束してくれ」
「それでいいよ……」
二人でフォローすれば最悪の事態にはならないだろう。やむを得ない判断だが、フェイトの意思を尊重する選択を選んだ。
破魔の紅薔薇と必滅の黄薔薇を取り出し、背に構える。大なる激情を失っているのは正直痛いがそれぐらいで弱音を吐くわけには行かない。
「そういえばその黄色い槍は久々に見たね。どんな力があるんだい?」
アルフが黄色い呪槍を見て尋ねてくる。そういえば二人の前で必滅の黄薔薇を見せたのは最初に会った時以来である。
危険な能力であるので対人戦闘が多かったので意図的に封じていた。
「それは明かせんな。破魔の紅薔薇よりも厄介な能力とだけ言っておこう」
「バリア無視の攻撃より厄介って想像つかないんだけど……」
顔を引きつらせながらアルフが言う。破魔の紅薔薇の一撃を受けた者としては信じられないのだろう。
「行こう……二人とも」
そんな二人にバリアジャケットを纏ったフェイトが声を掛ける。その声には母の為にという強い想い込められていた。
「あいよっ!」
「承知した」
その後ろに付き従う二人の姿はまるで主君に従う騎士のようであった。
―――――――――――――――
「感じるね。あたしにもわかる」
「うん・・・もうすぐ発動する子が・・・近くにいる」
夕暮れの中、三人はそこでジュエルシードが発動する気配を感じ取っていた。
「今までと違って、俺でもその気配を明確に感じ取れるな……」
今までは発動中の物しか知覚できていなかったディルムッドであったが、今回はすでにその気配を漂わせている。
おそらくはそれだけ強力であるということだろう。
「改めて言うが……俺が引けと言ったならば必ず引け。
「・・・うん。ごめんね、ディルムッド」
「気にするな。女性に優しくするのは我が
「げっしゅ?なんだいそれ?」
アルフがディルムッドに尋ねる。
「俺の国での誓いさ。己に一つ制約を課す事で神の加護を得ることができる」
「神様って・・・曖昧な物を信じてるんだね?」
「今・・・この世界ではそうかも知れんが俺の世界では確かに存在していた。」
実際に四つの宝具を与えてくれた養父が神の一柱であった。
聖杯戦争の時、全盛期の状態でも特出した能力を持たないディルムッドが強大な力を持った古今東西の英霊達に立ち向かえたのは、養父の宝具のおかげである。
クラスの制限によって破魔の紅薔薇と必滅の黄薔薇しか使えなかったが、それでもセイバーやバーサーカー相手に有利に立ち回ることができた。
「というかその誓いって……絶対に身を滅ぼすよ?」
呆れた声のアルフに、知っている。とだけ答えておいた。
後悔はしていないが実際破滅を迎えたのは事実として受け入れなければならないだろう。
「というかそれならなんで最初は素直にジュエルシードをくれなかったのさ?」
「あの時点では敵であったろう?女性だからと言って無条件に頼みを受ける訳じゃないさ」
逆に言えば味方であれば無条件に受けるということでもある。
二人は、聖誓のことを聞いて彼が一緒の家に暮らす事を受けたのだという事に気が付いた。
その事をフェイトが問おうとした時、近くで眩い光の柱と魔力の奔流が発生した。
「さて……フェイトの為にももう少し休んでおきたかったが……行くぞ」
背にある二槍を両手に構え、駆け出した。アルフとフェイトもその後に続く。
ジュエルシードの発動した公園にたどり着くとそこでは巨大な樹の魔物が蠢いていた。
すでに周囲にはユーノが張った結界(フェイト曰く認識をズラす効果がある)が発動し、なのはが杖を構えている。
先制するために後ろからフェイトが魔力弾の雨を放つが、樹も魔物が障壁を展開してそれを防いだ。
「障壁を張るとは・・・今までの物とは違うようだな」
「まぁ、こっちにはディルムッドがいるから関係ないね」
確かに障壁を無視して攻撃できる破魔の紅薔薇は、あの魔物の守りは意味がない。
「そうだな……と言いたいが……ここは俺よりあちらと合わせた攻撃を行ったほうがいいな」
そう言って空中で杖を構えているなのはに視線を向ける。
対人戦においては絶大な威力を発揮する破魔の紅薔薇だが、あそこまで巨大な相手では突破しても紅槍でのダメージは殆ど無いだろう。
「なのは!フェイト!俺が引き付けている間に砲撃を同時に撃ち込め!」
ディルムッドが叫び、駆け出した。当たれば人間を一撃で押し潰すような巨大な根の攻撃を容易く回避しながら接近する。
「必滅の黄薔薇ッ!」
障壁を展開してこない所まで一気に接近し、鞭のようにしなる巨大な根を元から黄槍で切断する。
元が命ある樹であるからか、治癒不能は発動し、切断された部位は元に戻らない。
今度は破魔の紅薔薇を魔物の眉間付近に投擲する。それは障壁の輝きを無視して魔物を貫き、その叫びが木霊する。
「あの紅い槍……障壁を無視して……この前のジュエルシードの暴走も……もしかして……!」
ユーノが以前の暴走を止めた時の様子と今の攻撃を照らし合わせ、紅槍の特性を見抜いたようだ。
しかし単純に再生が遅いだけど思ったのか、それとも予想すらできなかったのか、黄槍の能力には気が付いていない。
「道は開いたぞ!二人とも!やれっ!」
すぐに離脱して紅槍を回収したディルムッドが振り返って叫ぶ。
「撃ち抜いて――ディバイン!」
「貫け豪雷!」
それに呼応するかのように、二人のデバイスの先に魔力が収束していった。
《Buster!》
《Thunder smasher!》
そしてほぼ同時に、十歳の少女が扱う力とは思えない強大な魔力が魔物に向けて放たれ、断末魔の叫びを上げながらその輪郭を崩し、ジュエルシードを残して消え去った。
「ジュエルシード、シリアルⅦ!」
「封印!」
二人が同時に封印を施し、辺りに静寂が訪れる。
ディルムッドが紅槍と黄槍を背に戻した。封印は手伝い、ジュエルシードの奪い合いには参加しない。ディルムッドはこの位置を動くつもりが無いからだ。
「私は・・・フェイトちゃんと話をしたいだけなんだ」
なのはがフェイトに思いを伝えようとしている。
フェイトはそれを拒絶するようにバルディッシュを構え直した。
「私が勝ったら……ただの甘ったれた子じゃないってわかったら……お話。聞いてくれる?」
それを聞いたフェイトが頷いたのを確認したディルムッド達とユーノは一歩下がり、戦いの行方を見守る。
共に譲れない信念を持ち、ジュエルシードを巡って対峙する二人の少女がぶつかり合う直前―――
「ストップだ!ここでの戦闘は危険すぎる!」
突如前触れ無く現れた者がその道を阻んでいた。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情をきかせてもらおうか」
今のディルムッドよりも小柄で、なのは達と同じくらいの背丈の少年だった。まだ幼いがなのはとフェイトの動きを同時に抑える事ができるとはかなりの実力を持っているのがわかる。
とはいえ、関心しているばかりではない。ディルムッドとしては彼の行動は不快であった。
「このまま戦闘行為を続けるならっ……?!」
地面に三人が降りた瞬間、魔力弾の雨がクロノと名乗った乱入者の少年を襲うが、少年はそれをシールドで防いだ。隣にいたアルフが跳躍し攻撃を放ったのだ。
「フェイト!撤退するよっ!離れてっ!!」
アルフが続けて放った魔力弾が周囲に着弾し、煙幕となり三人の視界を覆い隠す。
しかしフェイトは撤退の約束を無視し、ジュエルシードを確保しようと飛び出すが、そこを乱入者に撃たれ墜落してしまった。
「フェイト!」
アルフが間に合い、地面にぶつかる前に受け止めるが、その隙を見逃す気はないのだろう。少年の杖が魔力を収束しており、放たれようとしていた。
「少年、隙だらけだぞ?」
「くっ?!」
こちらも黙ってフェイトがやられるのを見ている訳には行かない。一声かけてから黄槍を突き出すと、鍛えているのだろう。しっかり反応してシールドで防いだ。
「ほう・・・いい反応だ。まだ未熟な所はあるようだがな」
反応できていなければ黄槍で一日動けなくしてやろうと思ったのだが、若いながらすでにセンスはあるようだ。
「フェイト、素直に引くと約束したしただろう……アルフ、フェイトを任せた」
「ディルムッド……」
「ちゃんと戻っておいでよっ!」
二人の気配が遠のいたを確認したディルムッドが二槍を構え直し、目の前の少年に向き直る。
「さて突然割り込んで一騎打ちを邪魔するとは……少々無粋ではないかな?」
「君は何者だ。彼女達の仲間か?」
「正々堂々の勝負を汚した者に名乗る名はない。さてクロノと言ったかな? ここで散らすには勿体ない才を持っていそうだ……殺しはしないが二人が逃げ切るまで少し付き合って貰おうか?」
「ふざけるなっ!」
格下扱いされたことが気に食わなかったのだろう。クロノが即座に魔力を収束し攻撃に移る。
「遅い」
「っ速い?!」
それが放たれるよりも速くディルムッドが接近し、紅槍を突き出す。
クロノも即座にシールドを展開し、その攻撃を防ぎながら反撃しようとしていた。
「初撃はサービスだ。次はないぞ?」
「何っ?!」
攻撃をわざと逸らすと喉元に向けられていた切っ先がずれ、シールドを無視して通り抜けた紅槍がクロノの頬を切り裂いた。
「シールドを……!」
距離を取ったクロノの頬から紅い血が流れている。格下扱いされて感情が怒りに揺れていたが、ディルムッドが持つ武器の脅威に冷静さを取り戻していく。
「やっぱり……魔力を打ち消している!」
「ほう……やはりユーノは気が付いていたか?」
目の前で起こった現象で自分の推理が正しかったと判断しているユーノに賞賛を込めて答えを返す。
「それはなんだ……? ロストロギアか……?」
裂かれた頬を押さえながらクロノが詰問してくる。流れる血の量から、けして浅くはない傷のはずだが、それに動じる様子はない。
「ロストロギア……ジュエルシードのような物をそう呼ぶのだったか? 生憎だが、我が宝具はそのような物ではない」
槍を振るって刃先に付いた血を払うと破魔の紅薔薇を突きつけ、必滅の黄薔薇を背に戻した。
「貴様が何者かは興味ないが……騎士の前で勝負を汚した罪は償って貰おうか?」
引くわけにはいかないクロノが、飛び出して来たディルムッドとぶつかり合った。
―――――――――――――――
次元空間航行艦船『アースラ』の中は、地上で発生した異常事態に動揺が走っていた。
画面ではクロノが逃げた少女の味方と思われる少年と交戦し、一方的に押されている。アースラの者は全員クロノの実力を理解し信頼しており、その彼が圧倒され、追い込まれているということが信じられなかった。
「あの槍の情報は?」
アースラの艦長であり、クロノの母親であるリンディ・ハラオウン提督は打開策を見つけるために情報を調べていた。
しかし、シールドを無視する武器など管理局に取っても前代未聞であり、管理局の過去のデータには該当する者がない。
恐ろしいのは先ほどからあの少年は本気を出していない。つまり彼が本気を出せば、いつでもクロノの命を奪える状態である。
「艦長!」
内心で焦りつつも表面上で冷静さを保っていたリンディに、管制官であるエイミィ・リミエッタが声を掛ける。
「何かわかったの?」
その声に他のオペレーター達も振り返る。
「現地も物である可能性を考え、第97管理外世界『地球』の文献から該当する情報を探してみたんです。そこに伝わる御伽噺……ケルト神話にあの少年と共通する物を発見しました」
「御伽噺?」
それと今の状況がなんの関係があるのかと全員が同じことを思い、不審な目を向けてきたが、エイミィはそれを無視して話を続ける。
「はい。私も最初は流しそうになったのですが、そこにある名前が先程逃走した使い魔の言っていたものと同じなのです」
画面にエイミィが調べたデータが表示される。
「フィオナ騎士団《輝く貌》ディルムッド・オディナ……」
魔を打ち消す紅槍と治癒不能の呪いを掛ける黄槍、二振りの剣を持つ騎士。
彼の右目下の泣き黒子は、生まれながらに宿った魅了の呪いで、女性を狂わせる絶世の美男子と書かれている。
「魔を打ち消す紅槍……信じられないけど一致する所は多いわね……」
戦闘中の様子を拡大すると彼の右目下には泣き黒子があった。
伝説の英雄が蘇って襲ってきている……滑稽無糖だがそれを信じさせる条件が揃い過ぎている。
「……待って! 彼の左手の槍は……!」
もしこれが真実であるならば、今クロノを斬りつけようとしている彼の左手の黄色い短槍の正体は――
「治癒不能の呪いを掛ける黄槍……! 黄色い槍に当たっちゃ駄目ーっ!!」
それに気が付いたエイミィが叫んだ。
―――――――――――――――
「なかなかやるな。少年」
「クロノだ・・・!」
バリアジャケットは所々破れ、目に見えて疲労しているクロノに対し、ディルムッドは全くの無傷である。
「ディルムッド君・・・!」
「なのは、手を出すならな俺は本気を出すぞ?」
本気を出す。つまりは命を奪う気で行くということだ。そう言われてしまえば彼女は手を出せない。ディルムッドの目的はフェイトの離脱までの時間稼ぎであり、彼を倒す気はない。
「とはいえ……フェイトもそろそろ逃げ切っただろう。俺を素直に逃がす気はないかな?」
「それをこちらが受けるとでも……?」
「だろうな君の目は諦めていない。最初は無粋な輩だと思ったが……非礼を詫びよう」
そうして背に戻していた必滅の黄薔薇を左手で構える。
彼には申し訳ないが追ってこられたら厄介なので、一日は動けないようにしておかねばならない。
「次の一撃で仕舞いにする」
「こちらも犯罪者を逃がす気はない……捕まえさせてもらうぞ!」
確かにあちらからすれば悪はこちらなのかも知れない。しかし、フェイトの為にもここで捕まる訳には行かなかった。
クロノの魔力が溜まるのを待ち、その間に訪れる静寂。魔力が溜まると同時にクロノが駆け出した。絶対に外さない零距離で当てるつもりなのだろう。
(防御は無意味……ならば……!)
どういう仕組みかはわからないが、あの紅槍には防御は意味がない。ならば防御の魔力を加速に回し、右肩を貫かれてでも左手に集めた魔力を叩き込むことに費やすのがいいと判断したクロノが接近する。
「ふっ……」
防御する気のないクロノを見てディルムッドが笑みを浮かべ、左手の黄槍を突き出し、二人が交差する直前―――
『黄色い槍に当たっちゃ駄目ーっ!!』
念話で響いた幼馴染の叫びに、クロノは考えるより前に反射的に攻撃を当てることを諦め、回避に徹した。
「くっ……!」
それでも神速の槍を避け切ることは叶わず、バリアジャケットの紅槍で斬られて破れていた部分から肌を裂かれてしまう。
「本能で危険を察したのか……見事な反応だった……が、終わりだ」
「なんだと・・・?」
右肩を押さえながら膝を付くクロノの前で紅槍と黄槍を消した。自分の右肩を治そうと治癒魔法と思われるものをクロノが掛け、それでディルムッドの言った意味を理解した。
「傷が……治らない……?」
「与えた傷に治癒不能の呪いを掛ける呪槍……必滅の黄薔薇。本来は永遠に治らんが今は力が落ちている。一日経てば呪いが解けるだろう」
『申し訳ありませんが、今解いてもらわなければ困ります』
背を向けて立ち去ろうとした時、空中に現れた魔方陣に女性の顔が浮かんだ。そこにいるクロノの仲間だろうか。
「すまないが俺自身では解くことはできん。必滅の黄薔薇を破壊すれば解けるが……この状況で切り札を破壊することはできんのでな。諦めて欲しい」
勿論、彼の命を奪いたくはない。元より後で破壊するつもりであった。
『フィオナの騎士とはずいぶんと冷たいのですね?ディルムッド・オディナさん?』
「いずれ気づくと思ったが……必滅の黄薔薇の破壊だが、こちらの条件を飲むならば応じよう」
『……その条件とは?』
クロノの出血量では一日持たない。なので絶対に必滅の黄薔薇を破壊する必要がある。
その為にある程度の条件は受けざるを得ないと相手は思っているはずだ。
「そう警戒するな。数日……いや、少なくとも一週間。フェイト達に手を出すな。それを受けるのならな黄槍を破壊しよう」
最初からクロノの背後にいる者から転移魔法を使えないディルムッドが逃げ切れるとは思っておらず、必滅の黄薔薇で攻撃し、その能力をあえて教えたのは、クロノの後ろにいる者を引きずり出すためであった。
『……わかりました。お受け致します』
その言葉を聞いたディルムッドが必滅の黄薔薇を再度取り出し、彼女の目の前で破壊する。
「これで必滅の黄薔薇の呪いは消えた。後は治癒魔法で治すことができるだろう」
『ありがとうございます。こちらも一週間は彼女に手出しを致しません。ついでにこちらで事情を説明していただきたいですがよろしいですか?』
「最初からそのつもりであろう…………いいだろう。こちらも色々と聞きたいのでな」
相手がこちらの提案を受けた以上、しばらくはフェイトも回復に努めるとこができるはずだ。
傍にアルフがいれば問題は無いだろう。もし彼らが約束を違えれば容赦するつもりはない。
回復を終えて立ち上がっていたクロノの方を振り返る。
「さて……そちらの拠点に案内してもらおうか?」
まさかの1話の間に宝具2つ失う展開。修復できるって設定つけてよかったです。
最初はなのはの『お願い』で折れる予定でしたが、それだとなんかかっこ悪いんでこんな風になりました。会話分が多かったりちょっと色々自分でもあれかなと思うとこあったんですがこれが今の精一杯でした・・・。