ベタベタなのは特に最後らへんとか。
これらの要素が含まれるので十分に注意してください。
「無理にとは言いません。ですがイナバ達をできるだけ人と同じように接してくれませんか。お願いします。」
と輝夜さんが頭を下げる。
厳しい言葉を言われるのではと覚悟していたが、頭を下げられるとは予想外だ。
なぜそんなことを頼みに来るのだろうと考えていたが、しばらくしてようやく納得する。
僕の怪我の具合からして入院することになる為、彼らに接することにだろうから、頼みに来たわけか。
「が、頑張ります・・。」
と返答を返す。今はこれしか言えない。
僕が返答を返した直後、突然襖が開く。
「聞いてください師匠!姫様が突然私にちょっかいを…」
襖を開けたのは若干涙目になっている鈴仙さんだ。三角筋を再び着用している。その少し後ろに呆れた声で永琳さんが「はいはい。」という。
「突然すいません。姫、あとでお話があります。」
と私に少し会釈をすると、まだ話の途中だからと言う輝夜さんを引っ張ってそのまま襖を閉める。
21時ごろに消灯をすると言っていたが時計を見るともう20時だ。
体も疲れており、そのまま寝れる体制になっていたので布団に肩まで入り目を閉じる。
疲れが溜まっていたからか、目を閉じると意識が薄れていく。
目が覚めると朝だ。チュンチュン、と鳥が鳴いている。朝の陽ざしが差し込んでくる。
しばらくしてコンコン、と襖を軽く叩く音がする。
「朝食をお持ちしました。」
と永琳さんが部屋に入る。
朝食をとった後、早速昨日の出来事を永琳さんに聞いてみる。
永琳さんは少し考えた後、
「姫のお戯れです。人里以外から来られる方は珍しいので、ついからかってみたくなったのでしょう。鈴仙の耳はコスプレなのでお気になさらないでください。」
とあっさりと言った。輝夜さんはそんな冗談を言っている様子ではなかったが。
僕は心の中では輝夜さんが言ったことを考えつつ、口では
「やっぱりコスプレだったんですか。よかった。」
と返す。
永琳さんは勘違いさせてすいません、と言ってニコリと笑顔をすると、部屋から出て行ってしまう。
もしかしてばれたのだろうか。頭の回転が速そうな人に見えたからそう勘ぐってしまう。考え過ぎか。
1人となり、話す人もいないので食事もさっさと食べ終わってしまう。
暇になったので外に出てみようと思い、布団の近くに会った杖を取るためそこまで床を這う。早速右手に杖を握り右足で立とうとするがバランスが取れず、すぐ倒れてしまう。十数回はトライしたが立てない。
残念ながら車椅子は部屋を見て近くを少し物色したが見当たらない。部屋には僕以外誰もおらず、他人の助けは呼べない。
することもないが疲れもある程度取れていて眠気もない。だが立つこともできない。
結局また床を這って、今度は襖の前まで行く。思い切り力を込めて引いてみるがなかなか開かない。
態勢が悪いのだろうか。確かに左手足が折れているので体の右側を床に倒したまま開けようとしているから悪い態勢と言えるが。
しかしこの態勢以外だとキツイので頑張って十数回トライする。十数回のトライののち1センチほど襖が開く。そこをぐっ、ぐっ、と押して隙間を開けて行き、苦闘の末なんとか体を通り抜けられる幅まで襖を開けることに成功する。そして部屋を出るとすぐ縁側に出る。
体を乗り出し過ぎたのか、そのまま縁側からドスン、と鈍い音を立て地面へ落下する。
落ちたことで怪我をしている左手足と脇腹に衝撃が入ったのか、そこがズキズキ痛む。
「痛っ…」
完全に自業自得だ。
ドスン、という僕が落ちた音に気付いたのか、誰かが寄ってくる。
「何の音…?」
「こっちに誰かいたっけ?」
「いないはずだよ?」
複数人の女性の声。声が何となく幼げがあるから子供の声だろう。
それらの声は僕の直前で泊まって、物陰から鈴仙さんとは大きさこそ違うが、大きなウサギの耳を付けた3人の女の子がこちらを見ている。身長は僕の167センチより低い。150~155センチくらい、と言ったところか。
その子たちは僕を物陰から見るや否や、知らない人がいる、と言ってささっと逃げて行ってしまった。
「あなたたちどうしたの?」
と、すぐ向こうから輝夜さんの声が聞こえる。何回も聞いてるので流石に声は覚えた。
「それが知らない男の人がいて」「1度も見たことがない人で」
とみんなそれぞればらばらにしゃべりだしている。見に行った方が早い、と思ったのか輝夜さんが近づいてくる。
「あっ、あなたでしたか。どうしたのですか、地面に倒れてしまって。」
と僕を見た輝夜さんが僕に尋ねる。
「ええと、暇になったので外の景色でも見ようかな、なんて思ってたら落ちてしまって…。」
と正直に答える。
輝夜さんが手を差し伸ばし、
「どうぞ、手をお貸しします。つかまって。」
と僕を持ち上げ、僕はお姫様抱っこさせられる。
後ろにいた鈴仙さんより幼いウサ耳を付けた子供たちは、おお~~、なんて言って、中には羨ましい殿方ですなあ、と言っている調子のいいのもいる。全く子供なのに饒舌なことだ。
輝夜さんは縁側まで僕を運ぶと、靴を脱ぐため一旦僕を縁側に下ろす。靴を脱ぐと僕の寝ていた部屋に入って、押し入れの2段目から横になって入っていた車椅子を取り出して持ってきてくれた。そこにあったのか、流石に2段目は取れない。
そして車椅子を広げて僕を乗せてくれると、
「ついでですし、永遠亭を散歩しますか?」
と僕に聞く。
外に出てみたいのでそれはしてみたいが、永琳さんたちが部屋に来て僕がいなかったらどうしようか。
「永琳たちには見つかった時に言いましょう。永遠亭も広いうえに永琳たちも診療所の仕事が忙しいからなかなか来ませんよ?ばれても私と一緒にいればいつものこと、と納得しますよ。」
と、僕に催促をするかのように言う。しかし納得するって、それはそれでいいのだろうか。
折角だし、お言葉に甘えて退屈なので回ってみるとしよう。
「ところでその一緒について来ている子達は…?」
ああ、と輝夜さんが言い、
「永遠亭のウサギたちです。私の可愛いペット達です。私はイナバ、と呼んでいます。」と答える。
ウサギと言うがどう見ても人型だ。まるで、
「妖怪みたいで怖い、ですか?」
と輝夜さんに心の中を見透かされたように言われ、ドキリ、とする。たらり、と汗が流れる。
ウサギたちの僕を見る視線が冷たくなる。ごくり、と唾を飲む。輝夜さんがそれを見てまあまあ、となだめる。
「確かに貴方からすれば怖いかもしれない。でも彼らも同じです。初めて見た貴方を見て私たちと同じように怖がり、気になっている。私の後ろにくっつきながらもついてきているでしょう?形は違っても同じ生き物なんです。」と言って僕にニコリと微笑む。
確かに彼女の言うとおり、彼らは何もしてこない。むしろ僕と同じように近寄ってこない。
「同じ生き物、というわけですかね。」
と呟く。ええ、と輝夜さんが頷く。
輝夜さんの話を聞いて何か思ったのか、ウサギたちが
「悪いことしなければこっちも暴行して磔にしないよ。」
と言う。
恐い。その外見でなんて言葉使うんだ。暴行の上磔とか恐ろしくて逆に近寄れないんだが。
「違うでしょ、悪いことをしなければこちらもしない、でしょう?暴行や磔なんて乱暴な言葉を使ってはダメよ?」と輝夜さんが優しく指摘する。
「そういえばいいのかー、さすが姫様!わかりましたー!」
と無邪気に元気よく挨拶をする。
「根は優しくていい子達なんです。だから人と思って接してほしいんです。あなたの身の安全は私が保証します。」と私に改めてお願いする。
「完全には無理かもしれませんが、善処します。」僕はそう返事をする。
輝夜さんはそれを聞いて、少し安堵したのかニコリとして、
「患者さんが貴方たちをなでなでしたいそうよ?いい?」
と唐突に言う。ちょっと、そんなこと言ってませんよ。
すると、
「ナデナデしてください…」
と少し怖がり緊張しつつも、1匹ずつ僕の近くまで来て少し会釈をする姿勢をとるウサギたち。
僕はそ~っと右手を伸ばして頭に触れる。そのまま優しくナデナデする。
すると気分がよくなったのか、1匹のウサギが耳も、という。ナデナデするものなのか耳は。
耳に触れてみると温かくて綿のカーペットのように柔らかい。モフモフして気持ちいい。
全員一通り撫で終わると、ウサギたちは気持ちよかったのか笑っていて。
以前のようにギクシャクした冷たい目で僕を見ていない。
僕も何となく親近感を少し抱いてしまっていて。イナバと呼ばれるウサギたちはナデナデしてもらった、とウサ耳をぴょんぴょん跳ねさせながらはしゃいでいる。
彼らの耳についている、大きなウサ耳。同じくウサ耳をしていた鈴仙さんのことが、昨日の件もあり、気になる。
「鈴仙さんもやっぱり同じなんですかね…」
と心なしに打呟く。
「ええ。そうです。永琳が何か言っていましたか?」
やっぱりか。同じウサ耳だからそうではないか、と思っていたが。
「コスプレだから安心しろ、と。永琳さんは言っていました。」
正直に答える。彼女なりの私が混乱しないための配慮だったのだろうか。
「永琳は貴方やここに住む者たちに混乱を与えないように鈴仙のはコスプレだ、と言ったのでしょうね。私は反対に否定してしまったけれど。いずれわかってしまうもの。」と輝夜さんが少しさびしそうに答える。
寂しがることが過去にあったのだろうか。確かに輝夜さんの取った行動は永琳さんの答えとは反するものだった。
ただ永琳さんの答えは輝夜さんの行動の後だったのでタイミングが悪かった。永琳さんの答えに安堵した部分もあったが混乱してしまった部分も多い。
「やはり不安でしょうけど、相談したことや分からないことがあったら遠慮なく聞いてくださいね。」
と右手を差し出す。僕も右手を差しだして握手をする。
「あ、いたいた。」
と僕の少し後ろから声がする。
「やっぱり姫様でしたか。患者さんが部屋にいないからどこへ行ったか探しました。」
と鈴仙さんが少し遠くから少しくたびれた様子でこちらを見ている。
「姫、何をしておられるのですか、そういうことは慎んでくださいと…」
と永琳さんもやってきた。
二人がやってきたこともあり、僕達は部屋へ戻される。
「患者さんは勝手に部屋を移動されないでください。姫、貴方は姫なのですから姫らしく威厳を持って身内にも接していただなくてはなりません。患者さんを唆して外に出るなどやめてください。まだ亭内だからよかったものの…」
と主に輝夜さんが永琳さんに30分程説教を喰らう。私は蚊帳の外らしい。
説教が終わると、永琳さんが話があるので残ってほしい、といい、話を切り出す。
「明日から数日間私が急な用事でいないため、診療は私から優曇華に、姫様も優曇華の補助のため明日は人里へお出掛けになります。そこで永遠亭は私たちがいない状態となってしまうので、今日のように外へ出られないでください。もしなにかあればウサギたちに声をかけてください。お伝えしたいことはこれで以上です。」
よほどのことはないと思いますが、と付け加えて。
相変わらずきめ細かい対応である。しかし永琳さんが数日不在で、明日は誰もいないとは寂しいな。
「私は数時間で帰ってくるので大丈夫ですよ。」
輝夜さんがそう言ってフォローに入る。まあ数時間なら寝ていればいいし何とかなるか。
「そういえば僕は退院時にはいくらくらい払えばいいのですか?」
と、気になってみたことを恐る恐る聞いてみる。明日は数時間とは言え誰もいない。知ってそうな人がいるときに忘れないうちに聞いた方がいい。
「大体軽く見積もって1500万円でしょうか。」
手術代の相場は知らないが、とても銀行通帳や保険証も家に忘れて持っていない僕にとっては払えるような金額ではない。
「保険等が適用されるとどのくらいになりますか?」
と聞く。
「患者さんはご存知かもしれませんが、ここは幻想郷という異世界です。現代社会において通用する常識はここでは通用しません。ですので残念ながら医療保険の適用はありません。また、銀行もこの世界にはありませんので通帳を持っていても引き出すことはできません。」
と永琳さんが簡潔に、全額自己負担で払いなさい、という僕にとってはとても過酷な現実を突き付けてくる。
困り果てる僕。そんな金額の数字、医療保険も適用されないのでは払うことなどできない。話の流れからすると国民皆保険も適用されないだろう。どうすればいい。
狼狽しきった顔になっていたのだろうか、皆が怪訝そうな顔で私を除く。
「そういえば、渡した紙は読んでくださいましたか?」
と輝夜さんが私に問う。
「実はまだ、読んでいません。」
と過酷な現実を突きつけられたばかりの僕は、元気のないしぼんだ声で答える。
どんな内容なのだろうか。早速手にとって読んでみる。
内容は、お詫びとして医療費も含めて永遠亭で見る、という信じられない内容だ。
「これに書いてあることは、本当ですか…?」
こくん、と輝夜さんは頷く。
この状況下ではここに書かれていることは願ってもない助け舟だ。棚から牡丹餅だ。
だが手術代を負担する、と言っても半端な額ではない。それに皆納得しているのだろうか。
「私は昨日から言っている通り反対です、姫。今回は姫が悪いとはいえ自分たちで何とかしろなど金額が金額です。私達にも生活があります。それに今回例外を認めるとなると他の患者さん達の不満が高まってしまいます。」
と永琳さんが真っ向から反対する。筋が通っている。というか昨日から議論がされてたのか。
「姫様、お師匠様の言うとおりです。確かに今回は何らかの形で補助があってもいいとは思いますが、全額などの私たちの負担が…。」
と鈴仙さんも反発する。そりゃそうか。医者だって生計を立てなければならない。
「イナバ、だれも帳消しにするとは言ってないわ。払うのは私と妹紅の2人で払っていくのよ。」
と輝夜さんが言う。そう書いてあったが二人で一生を懸けて何年も払って行けるような額とは思えない。
永琳さんがですが、と更に反対しようとするが、輝夜さんは、
「大丈夫よ永琳、貴方も知っていると思うけれど私達にはそれができるもの。払えるあてもあるわ。」
と毅然とした態度で言う。
数分間の沈黙ののち、まず鈴仙さんが折れて、
「姫様に従います。」
と言い了承してくれる。
永琳さんも、
「そこまで姫が強くおっしゃられるのでしたら。ただし妹紅と姫様で負担です。完済するまでは途中で無効とはなりません。他の方に押し付けたりも駄目ですので。」と強く強調して言う。
「わかってるわ。でも永琳も研究費用をそろそろ見直した方がいいわ。たぶん研究費用足りないから他からのお金も使ってるんでしょう?」と輝夜さんも了承しつつ永琳さんの揚げ足を取る。
「うぐっ…。それは今関係ないでしょう、輝夜。」
と永琳さんが痛いところを突かれたからか話を逸らそうとする。意外な事実。おまけに呼び捨てにしているあたり素が出てるな、たぶん。
「私だって言われる続けるだけでは嫌だもの。大丈夫、約束は守る。ちゃんと返済もするし、」
言いかけて、輝夜さんはこちらにいつものようにニコリと笑って振り向くと、
「あなたの身の安全は責任を持って保障しますから。」
と言い、その細く綺麗な手で、私の頭にそっと触れる。
その手は輝夜さんの心を表したように優しく、温もりを感じる。触られて気持ちがいい。
できれば前書きを見て読んでほしいかな、と思ってます。