天使がダンジョンに堕ちてくるのは間違っているだろうか 作:河灯 泉
「ダメ! 絶対にダメなんだからね! ダンジョンになんか行っちゃダメ!」
「それこそダメです。なんてったって私は冒険者なのですから」
「なにも冒険者に拘る必要はないでしょう!」
「一番手っ取り早く多く稼げて、尚且つ私にとって最も有意義な天職なのに……」
「ダンジョンは貴女が考えているよりもずっと危ないところなのよ!?」
「それはない」
邪神や神竜がいるわけじゃあるまいし。
それに、世の中人間の方がよっぽど恐ろしいものだ。
化物なら幾度と無く討伐したが、怪物はまだだ。
お話ができて殺せる奴はただの化物だ。お話もできなくて殺しても死なないような恐怖の体現者が怪物なのだ。
さて。状況を説明しよう。
ベルがエイナさんからのお叱りを受けた後。私の冒険者登録の段階で止められて今に至る。
命の危険がある場所に私みたいな幼い少女を行かせるのはどうかと、自分でも客観的にそう思うわけだが。
私は、自分では大して問題にならないことを理解している。たかがダンジョンで私が死ぬわけが無い。
慢心? 蛮勇? 確信?
ちょっと違う。
本当のことを述べるなら、死ぬこと自体はそんなに恐れることではないと、身に染みてしまっているだけなのだ。
ゲームの話をするなら死なずにクリアとか初見じゃまず不可能だし。
それが現実となった今でも、その考えはなんら変わっていない。うっかり死ぬのは当然。堅実に、素早く手早く、それでいて効率的に生きる。それが私の冒険者論だ。
まぁ嘘なんだけど。つい今しがた考えただけなんだけど。
要は死ななきゃいいのだ。部位欠損がトゥルーワードで治せるかは知らんが。
太く短く。楽しく可笑しく生きなきゃね。なんたって折角のファンタジーライフなのだから。
「稼がなければ餓えてしまうのになぜ稼ぎに出てはいけないのですか」
「仕事口なら他にも色々あるでしょう! もっと安全な、街の中で働くことも考えて――」
「非効率的です。基本的に戦闘以外は相性が悪いので」
「――えぇ~……ベル君なんとか言ってよ~。お兄さんなんでしょう?」
「ボクですか!?」
ちなみに私の名は『エル・クラネル』だ。
うん。そうなんだ。ベルの妹としてお世話になることにしたんだ。
良い感じの苗字とか思いつかなかったし。
歳は適当に10歳ってことにしておいた。本当に適当だったから疑惑の目を向けられた。
「ベルだっていつまでもソロのままじゃ大変でしょ?」
「そうだけど……エルは戦えるの?」
「少なくとも農民上がりのベルよりかは強いよ。魔法もあるし」
堕天使の時より弱体化しているから最大でどの程度の威力があるのかわからないが。
ここは地上だし、
それが1割になったとしても、ダンジョンでもそれなりの威力にはなるだろう。少なくとも火炎瓶よりは強いはずだ。
「そっか。エルは魔法が使えるんだったね……いいなぁ」
「ベル君そこで言い負かされちゃっていいの!? 妹さんがダンジョンに潜ろうとしてるんだよ!?」
「というかもうすでにステイタスがあるので潜らないのは宝の持ち腐れではなかろうか」
「う~ん……でも、ねぇ……」
エイナさんが渋っているのは私の年齢が問題なのか。
ん? でも私くらいの人間が登録した例だってなくはないのではないだろうか。
ということは、他に理由があるのか。
「どうしてそんなに止めたがるんです?」
「……」
「私は死にませんよ?」
昨晩死にかけてやって来た奴のセリフじゃないけど。
あれは蘇生に掛かるコストが悪かったんだ。完全なソロならもっと余裕があったんだ。
だから大丈夫。保障も保険も無いけど、断言しよう。
私は死なないと。
「……ベル君」
「はい!?」
「エルさんのこと、ちゃんと守ってあげられる?」
「全力で守ります!」
「冒険は?」
「絶対にしません!」
「……はぁ。心配だなぁ」
溜息を吐きながらではあったが、許可が下りた。
許可なんてなくても勝手に潜っていたので今更な気はするが。
いや。これで堂々と換金ができるのだから楽にはなるか。
……登録したてのレベル1が中層の魔石やらドロップアイテムやらを持っている理由は?
考えてなかった。
しまった。そこまでは考えていなかった!
考えるまでも無く思い当たるはずが本当に考えていなかった!
うわぁぁぁどうしよぉぉぉ!?
ヒューマンの精神が弱すぎて動揺するぅぅぅ!?
言い訳とかどうしよう?
うわぁ前途多難だぁ……。
実際。エイナ氏はこういうキャラではないと思う。
じゃあどんなキャラだって問われると「わからない」と答えることしかできないのだが。
誤字脱字。あったら言うて(書いて)くだされ。