天使がダンジョンに堕ちてくるのは間違っているだろうか 作:河灯 泉
「やー、助かりました。あれの処理は今の私だと不自然で目立ってしまうのでどうしようかと」
「いえいえ、困った時はお互い様です。それに私は商人ですから。流通に一役買うくらいは当然の義務です」
魔石とドロップアイテムを抱えたまま右往左往していた私に手を差し伸べてくれたのは『はねぼうし』の武器商人さんだった。太ましくて大らかな人だ。彼は私の変わり様を平然と受け止め、以前と変わらず接してくれた。
彼に換金をしてもらい得たお金は約80万ヴァリス。
……オラリオでの生活費っていくらくらいなのだろうか?
「コネルトさん」
「誰のことでしょう」
わざと名前を間違えてもニコニコ笑みを崩さない商売人の鑑。
「地上で装備を揃える場合っていくらくらいあればいいんでしょうか?」
「ふむ」
顎に手を当てしばし考える。
きっと今の彼の脳内では物凄い計算式が広げられているのだろう。
「ピンからキリまでありますが……そうですね。リヴィラの街にいた頃と同じ物なら……
「そうですかー」
どうすっかなぁ。
今更だけど、革装備ってどうにも馴染めなかったんだよなぁ。いや悪くはなかったんだけど。もっと質の良い装備が欲しいと思ってはいたし。防具なんてなくても攻撃を全て避ければいいのだからいっそのこと武器に全額つぎ込むか。
「
「……ですね。ありがとうございます!」
今の私じゃパルゥム用の装備じゃないとサイズが合わないからあまり選択肢が無い。
武器は……刀が欲しいな。あと鎌。元一般人の俺にはさっぱりわからないが、元英雄の私なら完璧に使いこなせる。まぁ大鎌を使ったことってあんまりなかったんだけどね。セレスティアは物理関係のステータスが低かったし。
とりあえず用途が豊富なナイフをいっぱい買っておこう。解体用のナイフと投擲用のナイフかピック、あとソードブレイカーも欲しいな。あー、ククリナイフとかクナイとか手裏剣とかってあるかな?
……ん? なんか思考が対人寄りになってるような。
「ベル。行くよ?」
「あ、うん」
武器商人さんが持っていた武具を見せてもらっていたベルを呼び戻す。
こういうのに夢中になるところなんかは、男の子だな。
実に微笑ましい。
値段で「ぐぬぬ」となっているあたりなんか、可愛らしい。
「……驚かないんだ」
「ここの文明レベルからしてみればまぁ驚くに値する物だけど……普通のエレベーターだからねぇ。今更驚くようなものじゃないんだよ」
「え? オラリオ以外にもこれあるの?」
「さぁ?」
ダンジョンにもエレベーターがあれば便利なのにね。
雰囲気とか緊張感とか台無しになるけど。
「ベルはなんか必要な物とかある?」
「いや。エルに頼ってばかりじゃ情けなくなっちゃうから。いいよ」
「そう?」
じゃあベルに買ってあげるのはポーションとかの消耗品にしておこう。
武器商人さんから教えてもらった武具の売り場は少し薄暗い。
しかも所狭しと物が詰め込まれているから非常に動きづらい。頭上から足元まで警戒していないと転んだり打ったりしそうだ。ダンジョンに潜る人間を鍛えるのに使えそう……っていうかそういう意図まであるのではないだろうか。
「かーまーかーま~、サーイス♪」
そんな奇特な武器は、果たして。無かった。
いや、今回はただ見つからなかっただけかもしれない。次のチャンスを待とう。
一流の冒険者には専用の鍛冶師がいることが多いそうだ。羨ましい限りである。色物武器を使う身としては、本心からそう思える。なんで鎖鎌とかないの? あれ某国民的超大作RPGの序盤でかなりお世話になるのに。
さて。
本日の収穫。購入した物。
無銘の小刀1本、スローイングナイフ3本、ククリナイフ2本、汎用ナイフ2本、軽金属製の小さな甲冑一式。甲冑の素材は不明。ステンレスとかアルミ合金よりも軽いんじゃないかな?
流石ファンタジー。ミスリル欲しい。オリハルコンもいいけどタングステンとどっちが硬いのかな。オリハルコンって太陽に放り込んでも数秒は固体のままでいられたような。
ちなみにこれ全部で9万ヴァリスである。うーん、意外と所持金に余裕ができたな。
「ベルは本当にナイフとかいらないの?」
「ん? んー……」
「まぁ、いいけどね。ベルがそう望むのなら、私がとやかく言うことじゃないし」
「うん。ごめんね」
申し訳無さそうに言うベル。
別に構わないのに。買おうと買うまいと。
ベルが選んだことだ。それを尊重するのは義妹として当然のことです。義妹に養われる兄って情けないし。仕方ないね。いくら俺であった頃でもそれは嫌だ。
「……帰ろっか」
「だね」
さぁて。明日は人生初めてのダンジョン攻略だ。
人類エルちゃん頑張るぞー。
おー。
時系列とかは気にしない方針で。