天使がダンジョンに堕ちてくるのは間違っているだろうか 作:河灯 泉
それが1万超えてました。
ありがたやありがたや。
「せやっ」
「とやっ」
「うらっ」
「せいっ」
「とおっ」
「……あのさ」
「ん? なに、ベル」
「なんでそんな気の抜けた掛け声なのに一撃で倒せるの!?」
「経験の差でしょ」
はんてぃんぐなう。
ダンジョンの1階層。2階層へと続く道から逸れた、人通りが少ない場所。
そこで私はベルと共に狩りに勤しんでいた。
ゴブリンやコボルトといった小人型のモンスターが相手だ。ちなみにコボルトは竜の眷属ではない方だった。犬っぽい、ポピュラーな奴だ。
さてさて。
人族のレベル1になり、戦闘力ががた落ちしたかと思っていたが。これが意外と戦える。
速さも力強さも堕天使であった頃の比ではないが、それでもこの程度の相手なら楽勝だ。ゴブリンもコボルトも、所詮は一般人に毛が生えた程度の戦闘力しかない。殺意や敵意といった殺し合いの空気に慣れていない一般人だと
ステイタスはかなり下がったが、転生ボーナスのHP・MP・回避はそのまま残っているようだった。俊敏や魔力に上乗せ表示されていないのは仕様が違うからだろうか。
「エル危ないッ!」
「はいっ【
サーチアンドデストロイ。
物陰から襲い掛かってきたゴブリンを後ろを向いたまま火達磨にするまでもなく塵にする。座標とか気にしなくてもなんとなく位置がわかるので、目標をセットするまでもなく反射的に魔法が放てます。なお飛び出してきたのが人間だった場合は十中八九誤射で死ぬ。その時はその時だ。運がなかったとしか言い様がない。
ぽかんと、口を開けているベルが羨ましそうに見つめてくるのがちょっと気になる。
「エルは……凄いね」
「ん? うん。凄くないと言えば嘘になるけど。どうかした?」
「……なんでもないよ」
「そ」
なんだろう。
嫉妬とか、そういう嫌な感じではないけど。伝わってくるのは明るい感情ではない。
場を和ませるのは得意ではないのだが。黙ったままにするのも良くはないだろう。
「私がベルと比べて強いのは当然だよ。今までの、背負ってきたものが違うからね」
「……」
「ベルが憧れる、物語の英雄とはまたちょっと違うけど。それと並ぶことをたくさん経験してきた」
「……」
「妹扱いも面白いし楽しいけど。ベルはもっと頼っていいんだよ。それは厚かましいことなんかじゃない。私は人生の、冒険者としての先輩だからね。後輩を導き鍛えてあげるのも使命みたいなもんよ。私にはその権利と義務がある、みたいな」
「……うん」
「このちんちくりんな容姿で言うのも、おかしな話だけどね」
威厳というか、風格というか、雰囲気というか。お姉さんっぽい見た目であれば説得力もあっただろうし、幼女……もとい童女の姿で元英雄だなんて、どんな冗談だと。
だが。これが原因で下手なコンプレックスや劣等感……ん? 同じものか? ……まぁいいや。それで変な気を起こされても困るのだ。
ベルはベルだ。弱者は成り上がるしかない。その意志が続く限り。
私は私。成り上がるつもりは……なくはない。やろうと思えばできる。その程度だ。ただ人生を遊びたいだけ。
一緒にされても困る。
憧れるのは勝手だし失望するのも勝手だ。人なんて、そんなもんだ。
説教はしない主義なので口に出しはしないが。
「帰ろっか」
「……うん」
行き止まり。
元来た道を引き返す。
弱体化したのだし、多少ベルに頼っても、誰も文句を言わないだろうが。私がそれを嫌うのだ。
いやだって本当にどうにかなるしできるし。
強者として振舞う以外にないだろう。中層で簡単に死ねるような微妙な強さだとしても。
すれ違う人たちを眺める。
浅い階層だけあって様々な人と出会う。
先はまだ短くはないが、そこから上がろうとするだけの若さを失くしてしまった中年。
ベルのような、輝かしい未来を目指す元気溢れる若者。
個よりも群れを生かし、堅実に歩んだ中堅に位置するであろう集団。
単独でクールに、なにものにも縛られず自由に生きる青年……って、風来人さんちーっす。
……。
弱い。強い。
私よりも強い人間がいる。ベルよりも弱い人間がい……ない。
……底辺か。
それはいい。さぞや登る苦労があるのだろう。
頑張れることがある。それは、とても素敵なことだ。
俺は、そう思う。
私は、そう考える。
……。
「それで。初めてのダンジョンはどうだったのかな。聞かせておくれよ」
「うん。予想以上に楽だったよ。ベルが荷物を持ってくれてね。身軽なまま動けた」
「……エル君。ひとりで戦ったのかい?」
「危険はなかったよ。当然ね」
「それは……そうだろうね」
「あ、終わった? 見せて見せて」
「うん……ある意味、当然の結果だぜ――」
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名:エル Lv.1 種族:ヒューマン(?)
力:I50→I52 耐久:I80→I80 器用:I20→I23 敏捷:I60→I61 魔力:H180→H181
<魔法>
【トゥルーワード】
・呪文。真言葉。
<スキル>
【
・本来の姿である堕天使という存在へと回帰する。
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「――四半日狩ってこれだけしか上がらないんだ」
「うーん……元が元だからそんな簡単には上がらないと思うぜ。もっと手強い相手じゃないと経験にはならないだろ?」
「にゃるほど」
「ステイタスの数値だけで言えばベル君の方が上なんだけどねぇ」
「潜り抜けてきた死線の数が違うから参考にもならないね」
「うん。まぁベル君が無理をしないように、見ていてくれると、ボクとしては大いに気が楽になるな」
「お任せを、神ヘスティア」
「頼んだぜ、エル君。ボクはちょっと出かけてくるから」
「そう。いってらっしゃい」
「あ、欲しい武器とかあるかい?」
「あるけど自分でどうにかするからいらないよ」
「そうか。じゃあ行ってくるぜー」
「はいはい、いてらー」
説教はしない主義←うそつけっ!
なんやかんやでヘスティアが軽いキャラになってしまっている現状。
……まぁ、無駄に暗く考え込むような話になるよりはいいか。
気楽でなにより
気楽がなにより
それはとっても良い感じ。