天使がダンジョンに堕ちてくるのは間違っているだろうか   作:河灯 泉

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Asuka

 ……。

 

 夢を見ている。

 とても大切な、でも、ものすごくどうでもいいと思っていた夢を。

 無くして気付いて、それはやはり当然で、ありふれていて。

 しかしそれ以外に学ぶことも思い知ることもできなくて。

 

 やっぱり、帰ることはできない。

 戻れない。引き返せない。

 

 それを選んだのは自分だ。

 そこを進んだのは自分だ。

 それを捨てたのは自分だ。

 それを悔いるのは自分だ。

 

 

 

 ……後悔しているのか?

 

 わからない。

 わかれない。

 わかりたくない。

 わかりっこない。

 わかんない。

 

 わかれよ……。

 

 

 

 夢は醒める。

 人は覚める。

 事は冷める。

 記は褪める。

 

 

 

 ――起きよう。

 

 悩んでもいい。

 忘れてもいい。

 覚えてもいい。

 それも、自分だ。

 

 さぁ動け。

 少年少女よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ぅ……」

「おぉ、目が覚めたでござるか」

「……ん」

 

 眩しい。目が痛くて、頭に光が響く。

 重い。身体が痛くて、気力まで霧散する。

 

 ――状態を確認。

 

 人族の童女の姿。

 外傷は認められず。内部は不明。

 魔力は……枯渇気味。でも命に関わるほどではない。

 

 次にするべきことは、身の安全。

 周囲の確認。

 目の前にいるのは袴姿の女性。桃色の髪にポニーテール。

 ……なんかどっかで見た覚えがあるようなないような。

 

「……貴女は?」

「拙者、アスカと申す。お主が我等が住処の前で倒れておったので介抱した。元気そうでなにより」

「あぁこれはどうもご丁寧に……私はエルです。ヘスティアファミリア所属の冒険者になります」

「ほぉ、その歳にしてもう冒険者とは」

「アスカさんも冒険者なのですか?」

「いや。拙者はまだただの風来人でござる」

「……まだ、ね」

「うむ」

 

 少しだけ、嬉しそうに……というか楽しそうに語るアスカさん。

 年上の女の人と話すのは久しぶりだ。神は論外だし。

 若く見えるがいったい何歳なん……おっとやめておこうやばい気がする。

 

 あとやっぱり風来人ってことはあの人の知り合いなのかな。

 齢10にして鬼の暴挙を治め和解し、最果てへと辿り着いた、伝説の風来人の……。

 

「そういえば。お祭りはどうなりました? モンスターが暴れて大変なことになっていましたが」

「ロキファミリアというところの者達がそのほとんどを退治したそうでござるよ」

「……蠍のような奴は?」

 

 アンタレスはちゃんと始末できたのだろうか。

 着地際にできるだけ衝撃を一点に集中させて、大穴が空くくらいで済まそうと頑張ったところまでは覚えているのだが。

 フルーレティごと圧殺したのは確実だ。むしろあれで生きていたら奇跡に等しい。

 それよりも問題なのは周囲の被害状況なのだよな。

 

「うむ。拙者も人伝に聞いただけでござるが……そ奴ならどこからともなく現れた悪魔と戦い、謎の崩落と共に滅されたそうでござる。人死にが出なかったのは不幸中の幸いであったそうな」

「そ、そうですか」

 

 まぁ、死人が出ていないのなら、いいのではないだろうか。

 ばれなきゃいいのだ。

 仕方なかったんや。襲われたから正当防衛しただけなんや。わいは悪ぅない。

 色々と深く追求される前に帰ろう。自分でもなんで爆心地じゃなくてここにいるのかわからないのだし。

 

 ……帰るって、どこへ?

 決まっているじゃないか。

 帰還しよう……ヘスティアファミリアのホームへ。

 

「ありがとうございました。もう大丈夫ですので」

「そうでござるか? またいつでも会いに来てほしいでござる。拙者、この街に来たのはつい先日で知り合いという知り合いが少ないのでござるよ」

「ですか。では、また改めてお邪魔させていただきますね」

「茶菓子を用意して待ってるでござるよ~」

 

 ふりふりひらひら。

 見送りに出てきてくれたアスカさんに手を振る。

 

 さぁ、帰ろう。

 私の家族(ファミリー)の元へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ん? なんだ帰ってしまったのか」

「家族が心配するといけないから、と言われては無理に引き止めることもできないでござろう?」

「ああ、そうだな。それで、どこのお嬢さんだって?」

「ヘスティアファミリア、と言っていたでござる」

「……へぇ、あいつのとこになぁ」

「知っているでござるか。また近いうちに来るそうでござるよ」

「菓子折りでも持って来るのかな……ってあいつのとこじゃ難しいか。常時金欠だろうし」

「そうでござるかな?」

「……なにがだ?」

「強い目をしていたでござるよ」

「……へえ」

「それよりも早く恩恵とやらを――!」

「まあ待てそう焦るな――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー。ベルー? 神様ー? って誰もいないッ!?」

 

 

 

 これは英雄譚。

 どこかの誰かが紡ぐ、勇敢なる者の物語。

 

 堕天使は、今日も生きる。

 




【天使がダンジョンに堕ちてくるのは間違っているだろうか】
これにて一旦おしまいおしまいでございます。

ネタも尽きて勢いと流れが無くなってしまいましたからね。
それでも思いの他長く書けて失速しなかったな、と。

ちなみにアスカさんは風来人さんことシレンさんより3歳年上だそうです。
シレンは10歳の頃にはもうすでに城を建ててアスカ達と一緒に鬼退治をやっており……子供の頃から超人かっ!?
この話では二人とも20代半ばというどうでもいい設定があったり。


ここまでこのような小説を読んでくれた読者様方に感謝を。
(ネタが出るか気が向いたらまた書くかも……?)


12/4 誤字修正
「介錯した」→「介抱した」
殺してどうする……しかもちょっと似合ってるし。
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