天使がダンジョンに堕ちてくるのは間違っているだろうか   作:河灯 泉

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ここらへんで更に好き嫌いが分かれそうな予感。

だが駆け抜けていくスタンス。


Rose

 逃走中なう。

 

 背後から猛スピードで追跡してくるエルフの気配を感じながら実況っぽく思ってみた。

 そして後悔した。

 悔いてどうなるものでもないが、やめておけばよかったと思わざるを得ない。

 

 どうしてこうなったかというと。

 

 森に逃げた後、私は森の奥へと歩いた。

 そこで一人のエルフを見かけた。

 彼女は墓参りに来ていたらしく、墓標と思わしき場所で花を添えて黙祷をしていた。

 

 そう。そこで私は隠れたまま、浮いた状態を維持して来た道を引き返せばよかったのだ。

 

 ついついその神聖な空気に中てられて、私は地に足を着けてしまったのだ。

 ちょっとシャツの中の翼が気になって弄っていたから気が散ってしまっていたというのも理由だけど。

 

 で。

 枝を踏んだ。

 パキッとね。

 

 そりゃ気付くよ。

 当然、探るよ。

 透明だから見えはしなくても感じるよ。

 相手が女性だからって「誰ですか!?」と問われて半裸で出て行く勇気はなかったのよ。

 逃げたよ。

 追いかけてきたよ。

 

 ……うん。

 自己責任だね。パーフェクトに。完全に。自業自得だね。

 なにも悪いことはして……なくもないけど。

 

 ……はぁ。

 

 彼女、早すぎませんかね。

 この世界の住民はみんな本気を出すとあんな速度が出るの?

 冗談。あれは、あの人はきっと一線級の戦士だ。

 そうでもないとちょっとスペック的にカースト最下層入るから生きていけなくなりそう。

 

 どうにかして逃げ切りたいところだが、さてどうしよう。

 攻撃するのは最後の手段。てか不意打ちでも即死させられるかわからないし。即死しなかったらカウンターで逆にこっちが危ない。防御手段は呪文に限られているのだ。

 状況を打破する呪文を検索……いや、作成しよう。

 初期制作時には詠唱が必要? おっけー。やってやるよ。

 

 作用の確認。使用する言葉を合わせて……できた。

 

「【速きせし倍化の力――PO(ペーザンメ)AL(アリフラー)OS(ザンメシーン)】」

 

 透明化が解除される。

 初めてだからどうなることかと心配したが、問題ない。

 木々に視界を邪魔され、直接見られる可能性は低い。

 森でエルフを相手にしているのでどこまで通用するかは未知数だが、追いつかれたら透明化なんて意味を成さない。感知では解けないが完全に捕捉されたら効果が切れてしまう。

 素早さが跳ね上がるのを感じる。

 流れる景色もさっきとは全然違う。

 速い。とにかく速い。

 それはもう、集中していないと木に激突しそうなほどに。

 

 おや。

 あれは……穴かな?

 洞窟の出入り口のようなものが見えた。

 人の気配はなさそうだ。

 速くなったとはいえ、エルフ相手に森の中ではいつか捕捉されそうな気がするので躊躇わず通り抜ける。

 

 ……。

 追ってこなくなった。

 

「はぁ……つ、疲れた」

 

 精神的にも肉体的にも疲労困憊。

 隠れるのも逃げるのも、かなり神経を使う。

 

 こんな入り口付近で立ち止まるわけにもいかないので歩く……というか浮いて移動する。

 浮遊のコツというか日常的な感覚というか、もう少し慣れたら歩くことを忘れて四六時中浮いていられるようになりそうだ。

 セレスティアって寝る時はどうすればいいのだろうか。

 仰向けには寝られないし……やっぱりうつ伏せ? それとも寝転がらずに座って寝るとか?

 浮いたまま寝るのは……どうなんだろう。できなくはないけど余計に疲れそう。

 

 ……。

 道は上に向かって続いている。

 このまま探索を続けていればいつかは地上に出られるのだろうか。

 ……出て、それからどうするのか。

 

「そんなの、考えるのは今で、悩むのは出てからだよ」

 

 自分自身に言い聞かせるように呟く。

 ダンジョンで暢気に考え事ができるのかという疑問は放置して。

 なぜかまだモンスターを一体も見かけていない。

 ここはまだ安全地帯(仮)なのだろうか。

 

「……うわぁ」

 

 広間に出た。

 そして目に入ってくるのは巨大な水晶の壁。

 その内側から感じられるのは厄介な大物。敵である。

 

 しばし警戒しながら観察していたが、まだ時期ではないらしい。

 少しだけ、安心した。

 初めての実戦であんな奴とやりあうのは御免だ。レベル6、7の上位呪文を連発すればこの初期レベル状態でも勝てるだろうが、はっきり言って無謀だ。危険すぎる。

 ソロでダンジョンに挑む時は慎重に動くこと。これ常識ね。冒険者でも学園生でもそういったことに関した認識に変わりはない。

 

「――――――!」

「――――――?」

 

「やばっ」

 

 誰か来る。

 数は……二人、かな?

 曖昧なのはナニカそれ以外が紛れ込んでいて探りづらくなっているからだ。

 

「【SO(シーンザンメ)PIC(ペーイチェー)】」

 

 本日二度目の透明化。

 この広間に逃げ場はない。

 来た道を戻ろうとしても相手はどのみち街へと続くそこを通る。

 ならば。

 この広い空間ですれ違い、相手が街側に向かった瞬間を衝いて地上側へと走ればいい。

 水晶側の壁に近付き、通り過ぎてくれるのを待つ。後ろの存在感があるから気配は探れまい。

 

 ……来た。

 

 一人は黒髪黒服の男。かっこいい。超イケメン。

 ただ、ちょっと怖い印象がある。目付きも鋭い。

 もう一人は真紅の髪の……女?

 男には見えないけど女かと問われれば「うんまぁそう見えるよね」と答えざるを得ない……ってことは女のはずなんだけど。確証が持てない。なんだろうこの不安な気持ち。

 

「ちょっとどうしたのさアジアン。急に走り出したりなんかして」

 

「……そこに隠れているのは誰だい」

 

 やべっ。

 と思うのは本日何回目?

 

「……誰もいないけど。もしかしなくてもきみの目って節穴? ここに隠れる場所なんてないでしょ」

 

「キミにそう言われると、少しだけかっこいいところを見せたくなってくるヨ。アルカーディア!」

 

 黒い男の右腕からナニカ黒い鞭のようなモノが現れた。

 それを横薙ぎに振――

 

 や ば い !?

 

 浮遊することに意識を集中させて、飛翔する。

 勢いがつき過ぎて逆さまで上に向かって落ちていくように天井へと吹っ飛ぶ。

 それでも振るわれた紐状の物体を避けきれず、私の白髪に掠った。

 触れた毛先が消し飛んだ。

 互いに反発し合い、結果打ち負けた。そんな気分の悪い感触がした。

 戦闘状態に移行し、透明化が効果を失う。

 

「【DIL(ダールイラー)TO(ターザンメ)】」

 

 唱えたのは暗闇を生み出す呪文。

 こんな姿を見られたくないという至極真っ当な理由と、まともに戦っても勝てない実力差がそうさせた。

 

「――ジャシュギシュ」

 

「ぎぶあっぷです! タイム! 待ってやめて止めて!?」

 

「あ、アジアンストップ!」

 

 紅い性別不明が黒い男を羽交い絞めにしてなんとか命は助かった。

 シャツの裾を伸ばすように手で押さえながら僅かに浮遊した状態を維持する。

 

「アッ、背中にマリアの軟らかいモノが当たってるヨ」

 

「ない! 当たってないしそもそも当てられないしきみには絶対に当てない!!」

 

「フッそんな素直じゃないキミも好きだヨ」

 

「死ね!」

 

 ちっ。

 バカップルがここにいる。

 

 

 

 ……。

 

「っていうかさ。きみはいったいなんなの?」

 

「それはまた難しい質問ですね……」

 

 気を取り直し、黒いのを地面に埋めた紅いのと話をすることに。

 

「なんでシャツ一枚なの? 変態なの?」

 

「他に服がないんです!」

 

「背中の膨らみはなに?」

 

「翼です。見ますか?」「アジアン(これ)がいるのにそんなこと言うと危ないよ。っていうか男の前で服を脱ごうとしないで。痴女じゃないんだから。え? それとも痴女なの?」「断じて違います」

 

 だって苦しいんだもの。

 あとあんたは男なのか女なのか。

 そんな顔を赤くして目を逸らさないで。

 こっちが恥ずかしくなってくる。

 

「あ、申し遅れました。エルです」

 

「今更な上に今言うことじゃないよね……マリアって呼んで」

 

「ボクは――」

 

これ(アジアン)のことは放って、地面の染みとでも思っておいて。人の半裸姿をじろじろ見るな変態! ぼくも同類だと思われたらどうするのさ!」

 

「誤解だヨ! ボクが見ているのはいつだってキミだけサ愛しのマリアローズ!」

 

 ……。

 まぁ。

 愛の形は人それぞれだし。

 私が口出すことじゃないからね。これはこれで、良いコンビなのかもね。

 

「とりあえず話が進まなくなるからアジアンは黙ってて」

 

「オーケー。ボクはいつだってキミの」「黙ってて」「……ハイ」

 

 ちょっと楽しそう。

 紅い方は否定しそうだけど。

 少しだけ、羨ましい。

 

「……それで。どうしてきみはこんなところにそんな格好でいるの?」

 

「実はですね――」

 

 改めて、自分という存在が生まれてから今までのことを話す。

 具体的には、目が覚めたら記憶をなくして街で服を拝借して人から逃げてここまで来たということだけだが。

 前世だの設定だの、そういったことは誰にも話すつもりはない。

 魔法(呪文)についての知識は曖昧に誤魔化しておく。

 

「信じられない……っていうかあんまり信じたくないんだけど」

 

「信じられる話だネ」

 

「……そうですか?」

 

 自分でこういうのもなんだが、あまり信用できる状況ではないと思う。

 記憶喪失なんてそうそうあるものじゃないし、中途半端な知識だけは残っている。

 それでいて透明になる魔法が使え、おまけに種族が堕天使ときた。

 怪しさ満点だろう。

 堕天使は種族ではないような気もするが、堕ちたセレスティアのことは堕天使と呼ぶのでやはり堕天使でいいのだろうか。

 

 ……堕天使がゲシュタルト崩壊しそう。

 

「ぼくもアジアンも似たようなものだからね」

 

「ほ?」

 

「その言葉と動作は厄介事を引き込むバカを思い出すからやめて。……似てないのになんでアレのことを思い出すんだろ?」

 

「あ、はい」

 

 首を傾げながら言っただけなのに。

 なにかトラウマでもあるのだろうか。

 

「ところで。お二人は天使って見たことあります? 私みたいな」

 

「ないよ」「ないネ」

 

「ですかー……」

 

 羽はアクセサリーでも被り物でもして隠すとして、翼はどうしよう。

 シャツに詰め込んでおくとストレスが溜まるからできるだけ早く開放しなければ。

 

「こんなところで話を続けるのもどうかと思うし、リヴィラに行かないかい」

 

「アジアンにこんな半裸姿の少女を連れ回す趣味があったなんて知らなかったよ。失望したからここで別れて永遠にさよならしてくれない?」

 

「おおっと、ボクがそんな些細なことでキミから離れると思ったら大間違いだヨ! それに、彼女は透明になれるんだから街に入る時の姿なんて関係ないじゃないか」

 

「それはそうかもしれないけど……いや、やっぱり半裸でうろつくのは問題があるでしょ」

 

「彼女をボクとキミの愛の巣に入れるのは非常に不愉快だけど、ボクがマリアしか受け入れられない器の狭い人間だと思われたくはないからネ! 寛大な心で保護してあげなくもないサ!」

 

「愛の巣なんて場所はこれまでもこれからも存在しないしあまりにも恩着せがましい言い方でむしろ器が小さく見えるよ」

 

「いえ、落ち着ける場所を提供してくれるのですしそれくらいの物言いは当然では」

 

「いいや! こんな奴(アジアン)はね調子に乗らせると何時までも何度でもお高く留まっちゃうんだから最初にビシッと言ってやらなきゃだめなんだよ!」

 

「は、はぁ……」

 

 話が逸れて、また少し戻りかけて。

 そして再び道を外して。

 そんなグダグダな話し合いは、上と下から第三者がやって来るまで続いた。

 

 っていうか。

 SOPICの透明化、便利すぎない?

 まだあと7回使えるんだけど。これで魔法使いのレベル2呪文だよ?

 上位の呪文回数を使えばまだまだ余裕があるんだけど。

 

 え?

 話はどうしたかって?

 

 とりあえず。

 紅くて女じゃない人ことマリアローズと黒い変態ことアジアンの借りている場所に向かい、またそこで話をすることに落ち着いた。

 

 ……時間をかけた割に見事なまでに進んでないな。

 

 まぁでも。

 初めて、お友達ができました。

 協力者だったり保護者だったりもするけど。

 

 これから、楽しくなりそうだ。

 わくわくする。

 本当に。

 




マリアとアジアンの掛け合いがめっちゃ難しいぞこれ……。

エルデンと比べたらオラリオとかそりゃあもう楽園天国極楽浄土みたいなもんでしょう。平和だし。人が日常茶飯事に犯されないし死なないし。穏やかだし。てか神様いるし。
ZOOの面子の出番は未定。書くの難しい上にレベルが8とか9とかいってそう。
綺麗なSIX? もっと無理です。力不足です。

漫画版くらいにソフトな内容でアニメ化しないかなー。

え? あぁ。
コロナ好きです。はい。(小声)


勝手な設定。面倒になって無視される可能性は高い。

呪文は時間経過で回復する回数制限とMP(魔力的なナニカ)の両方が適応されている。発動する呪文より上位の呪文の回数を消費して本来の回数(1スロットMaxで9回)以上使うことができる。

SOPIC【ソピック】:透明。魔法使いスロットのレベル2。戦闘状態に移行すると解ける。なんとなく便利にするため少し改変されている。

POALOS【ポアロス】:倍速。オリジナル呪文。スロットは未定。魔法使いレベル2の【俊敏】PONTIがあるけど作りたかったのでやったった。

TILTOWAIT【ティルトウェイト】:核撃。魔法使いスロットのレベル7。とともので云うビックバム。全体攻撃最強。この世界のダンジョンで使うとどうなるかはまだわからない。階層ぶち抜くくらいは普通にできそう。

MALOR【マロール】:転移。魔法使いスロットのレベル7。戦闘中に使うと転移先が決められないので下手すると埋まる。当然死ぬ。リヴィラからオラリオまで一瞬で何度も行き来できてしまうので調整を考えている。



なお。
攻撃系の呪文は全て迷宮内では本来の1割の威力となっている。
外で使うとどうなるのだろうね?
てかこの設定Wizのどこにあったのかまったく覚えが無い……。
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