天使がダンジョンに堕ちてくるのは間違っているだろうか 作:河灯 泉
ヴォォォォォォォォ!!
「こんのっ、キャナー以下の肉塊の分際でッ!」
走る。
床だけに限らず、壁も天井も、そして空中さえも。ありとあらゆる空間を駆ける。
タイミングを見て、後ろに跳ぶと同時に浮遊する。
宙を滑るように移動する。
振り向きざまにナイフを振るう。
微かな手応え。
それと同時に鼻につく血の臭い。
ヴゥゥゥォオオオオオオオォォォッ!!!
先程とは違う、悲鳴じみた叫び声。
こちらもそれほど余裕があるわけではないので、一気に畳み掛ける。
「私にっ、敵うとでも思った!?」
左腕を切り落とされても戦意を失わず、こちらを睨みつけてくる異形の化け物。
腕の太さは人間の胴体ほどもある。
力任せに振るわれる暴力は人を呆気無く死に追いやる。
――しかし、恐怖は感じない。
残った腕を横薙ぎに振るってくる。
しゃがみこんで避ける。
跳び上がる勢いと浮遊の力を合わせて胸元を切り裂く。
そしてその傷口目掛けて詠唱を開始する。
「燃え尽きろ! 【
業火。
炎の嵐が吹き荒れる。
肉が焼ける臭い。命が消える声。
それが消えた時、残っているのは拳大の魔石だけ。
「あー……疲れたっと」
着地。
あまり高く飛ぶとしばらく浮遊の力が弱まってしまう。不便ではあるが普通の人間は飛ぶことすらできないのでこれ以上を望むのは強欲に過ぎるだろう。
魔石を背中のリュックに詰め込む。
容量のほとんどを翼が占めているので物がほとんど入らないのが難点だ。
腰のポーチはまだ余裕があるが、余裕をなくしてから帰還し始めるのは三流がすることだ。
ちなみに二流は帰った際に余裕と無駄がある。
一流には、無駄も余裕もない。
ぴったり丁度良い量を持ち帰ることは多くない。
だが、それが当然なだけだ。
どれだけ荷物が軽かろうと、どれだけ戦利品を捨てることになろうとも。
命がある。それを答えとしている。
まぁ、冒険者の頃も学園生の時も、後悔したり愚痴も言いまくっていたりしていたが。
捨てたのは物だ。命ではない。
それで、一流と呼ばれ一流と認められ、一流であり続けた。
本当は物云々なんてどうだっていいのさ。それでなにが決まるわけでもない。
私はエンディングまで辿り着いたからね。誰がなんと言おうとそりゃあもう一流ですよ。
「それが、今じゃこんな牛もどきを相手にヒットアンドアウェイか……弱いなー超泣けるわー」
他に誰もいないのをいいことに好き勝手言う。
地上からは遠く、リヴィラからも近くはない。そんな場所。
ミノタウロスのような……というかミノタウロスと呼ばれているモンスターを相手に苦戦する程度の強さしかないか弱い自分が情けない。思い出の中の英雄たち……というか昔の自分はもっと強かった。
強化系の魔法を重ね掛けしてようやく余裕を持って仕留められる現状では長時間の戦闘は不可能だ。これでは半日戦えればかなり長い方だ。
このミノタウロスはいわば基本種。ミノタウロス種のレベル1でしかない。
つまり、このミノタウロスでミノタウロス種との基本的な戦い方を学んでおけというダンジョンなりの優しさなのではないか。
なんて。
考えたって誰も答えてはくれまい。
とともの世界とは違うのだ。
ミノタウロスはただのミノタウロスで、牛鬼なんかがいたとしてもそれは完全な別種かもしれない。
でも、身体の構造が似ていたら同じように戦えるのでは。
……。
まぁ。
どうでもいいか。
こんな浅いとこにいる私には関係のない話だ。
最前線はたしか50階層辺りまで踏破しているのだったか。
いつか、辿り着いてみたいものだ。
「転生ボーナスがあるから中層でも戦えるんだし、完全に初期化されてたらやばかったかもな……。神にでも感謝しながら、帰ろうかね」
リヴィラへ。
借り暮らしのホームへ。
居心地が時と場合と面子によって非常にに左右される非情な住処へ。
「てか、堕天使はいったい誰に祈ればいいんだろうね? 神様って一口に言っちゃったけどさぁ」
私が生まれ落ちた日。
それからマリアローズとアジアンの世話になったのはほんの数日間だけ。
翼を通すために背中に大穴を開けた革鎧と革の籠手、皮のブーツ、鉄製のナイフ、翼を収納できるほどの巨大なリュック、頭の羽を隠すフード付きのローブ。
彼らから譲り受けたり借りたりしたのはそれだけで、その分の対価はすでに魔石やドロップアイテムで返し支払い終えている。
ファミリア専用のスペースに住まわせてもらっているのは、ただの厚意だ。ある日突然出て行けと言われたら出て行かなければならない。それについては文句もない。むしろ現状置いておいてもらっているだけでも十分感謝している。
ファミリア。
神々が下界に降臨なされて、加護……というのか、
人々は
一般常識や文字を教えてもらう時に聞いただけなので詳しいことはよくわからない。
神が実在するというのか? この世界に。
いや、堕天使がなにをおっしゃいますのかと。
堕天使には対神の特効があったからなぁ……お互いに敵対する可能性も低くはない。
神様なんか相手にして勝てるわけないでしょう。
幸い、神々はダンジョンの中に入ってはこないようなので安心した。
物理的に入れないわけではないそうだが。
そこは出会ってみないと、どうなるかなんて私には想像もできない。
仲良くできるのなら仲良くしたいところだ。
襲い掛かってくるモンスターを作業的に塵へと返す。
当然だが私は
しかし、レベル2相当とされているミノタウロスを倒せる。
これでもしも私が
もっと強くなるのだろうか?
……まぁしかし。
背中に
あぁそうそう。
マリアローズとアジアンはフレイヤファミリアとやらに属している。
一流一線級の強者が大勢いるファミリアだ。
ビッチっぽい名前の神様だねって言ったら殺されかけた。マリアローズとアジアンが助けてくれなかったらマロールで即死を覚悟して逃げるところだった。
たまにリヴィラに寄る人たちは、今の私ではとてもじゃないが太刀打ちできない者ばかりだ。オッタルとかオッタルとかオッタルとかね。あの猪野郎。
レベルさえ上げれば万能のトゥルーワードを扱う私が勝つだろうがね。てかこの世界のレベルって
……うーみゅ。
やはり一度は地上に出て神とご対面しないといけないかもなぁ。
おっと。
考え事をしていたら知り合いに出逢った。
黄色いお方だ。
喋れはしないが意思を汲み取ることはできるし、阿呆な人間などよりもよっぽど話が通じる御仁である。
行動も性格も紳士だが、私などよりも余程強い。アジアンとやりあっても互角に戦えそうな程だ。
「こんにちは」
クエッ。
コクコク。
「魔石集めですか?」
コクコク。
「あ、このちょっと大きいのいります? 嵩張るから小さいのと交換して欲しいのですが」
コクコク。
「どうもありがとうございます」
クエー。
「え? おにぎりとパンどっちが好きか? んー。今はパンな気分ですね」
クイクイ。
クエッ。
「貰い物だけど? 『大きなパン』ですか。ありがとうございます。あとでおいしく頂きますね。今度ギサールの野菜が手に入ったらそれでお返ししますので。あぁ、魔法書も情報を手に入れられればお教えしますので」
コクコク。
バッサバッサ。
「はい。では、また」
クエー。
タッタッタッタッタッタ…………――――――
「火よ柔らく灯れ【
やはりダンジョンで持つべきものは、お友達である。
大きなパンを焼いたらこげパンになってしまったのには疑問を抱いたが。
なんで小さくなるん? なんで大きくなくなるん?
謎だ。
ダンジョンと同じくらいに、不思議だ。
不思議のダンジョンじゃないのにね。
不思議じゃないダンジョンなんてありはしないのさ。きっとね。
世界は神秘に満ち溢れているのだろう。
あぁ、なんて楽しい人生なんだ。
「んぅ~、生きてて良かったぁ!」
(´・ω・`)またちょっと精神的に病んできた。
(´・ω・`)シャーロットには期待していたんだけどな。
LAHALITO【ラハリト】:業火。魔法使いスロットレベル4。人間目掛けて発動させると消し炭になります。
QSVLIKO【クスヴリコ】:灯火。オリジナル呪文。スロットは魔法使いレベル2の予定。とある武器商人が火炎草でパンを灰も残さず焼き尽くしてしまった経験談を聞いて作ったらしい。
QSVは小さいという意味……のはず。自信はあまりない。ヘブライ語とかタロット関係を調べても独学+片手間でいまいち理解できていないからどうしたものか……。
15/09/19 変なところで改行されていたので修正。
神聖文字に《ヒエログリフ》のルビを追記。