天使がダンジョンに堕ちてくるのは間違っているだろうか 作:河灯 泉
最初は第3者視点(?)で途中からまたいつものように彼女の視点に戻ります。
街外れの廃墟と化した教会。
そこに住まうのは一人の少年と一柱の神。
――そして今日、新たな住人がそこに増えることとなる。
「ベル君! きみってやつは……きみってやつは……もしきみが、ぐすっ。帰ってこなかったら、ひぐっ、ボクは……ボクぁ悲しみに暮れて泣き喚いてしまうかもしれないよ! もっと自分を大切にしておくれよ!」
「……ごめんなさい、神様」
「ぐすん。……うん。怪我をするなとは言わないけど。必ず、生きてこの家に帰ってきて欲しい。約束してくれるかい?」
「はい!」
「よし! それでこそボクのベル君だ!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしていたヘスティアは口元を緩ませ、しかし次の瞬間には顔つきを険しくさせる。
ヘスティアの視線の先には漆黒の翼と長い白髪が覗き見えるベッドがあった。
「で。彼女は誰だい?」
「え? えーと……」
「ま、まままままさか、かか、彼女とかではないだろうねぇ!?」
「ち、違いますよ神様!」
互いにどもりながら会話を交わす。
そこには先程までとは雰囲気からして違う、甘ったるい砂糖菓子のようなやりとりが繰り広げられていた。
歳と経験からしてそういった話に強くないベルが慌てふためくのは当然だが、本来落ち着くべきヘスティアまでもが正常な判断ができないとは。
処女神は伊達ではないのである。
神が不変である以上、そういうものなのだろうが。
それを捉える第三者がいないので、詮無い話である。
閑話休題。
ついでに説明中。
「ふぅむ……それは所謂、命の恩人ってやつだね」
「えぇ。あのままダンジョンの中で倒れていたらどうなっていたか……」
「色々と気にはなるけど、起きてくれないことには話もできないね。ベル君も疲れただろう? 少し休むと良いよ」
「はい……実は、もう。結構……ねむ……くて」
「うんうん。ほら、ソファーはここだよベル君」
ベッドはいけない。
彼女が寝ている。
ヘスティアはどこの馬の骨とも知らぬ女に眷属であるベルを渡してやる気は毛頭ない。
ベルの手を引きソファーへと誘導すると膝枕をし、小さな戦士を安らぎの眠りに誘う。
「おやすみなさい……かみさ、ま」
「……おやすみ。ベル君」
愛おしそうに、ベルの寝顔を見つめるヘスティア。
寝息がみっつ。聞こえてくるのはすぐである。
良くも悪くも、みな徹夜などを平気でできる人種ではないのだ。
無論、人以外の神も含めて、である。
朝。
「――ほわぁぁぁあああああああああああああああああああああ!?」
「ふぇっ!?」
若く未来溢れる少年の悲鳴で目が覚めた。
なんだなんだ。
すわ敵襲かと驚き、
「知らない天井だ」
と、まずは意外でもなんでもないつまらない言葉を口にしてしまった。
天丼はありかって? どうだろう……?
無しじゃないかな。
「……夜枷?」
「違います!」
「う、うぅ~ん……なんだいベル君。そんなに大きな声を出してぇ」
ベルに覆い被さるようにして寝ていたヘスティアが小さく声を上げる。
なんか……艶かしい。
てかエロい。
犯罪臭がプンプンする。あと背徳感とか冒涜感も。
「なんで神様がここに!?」
「……あぁ、朝だからね。男の子だものね。仕方ないね。ごゆっくりどうぞ」
「誤解ですッ!! なんか放っておいたらまずい方向に印象付けられてる!?」
「まぁ冗談なんだけど」
「冗談なんですか!?」
「3割くらいね」
ベル君と呼ばれた彼にそんな勇気はないだろう。
……てか勇気じゃないし。ただの性欲の話だし。
ショタ兎とロリ巨乳か……アリだな。
ってなに堕天使としては非常に正しくて真っ当な桃色思考をしているんだ私は!?
「あぁ、忘れてた。おはようございます」
「お、おはようございます……?」
「おはよぅ……ふあ~あぁ」
神はおねむなようです。
寝られると話が進まないので困るけど。
――いえ、メタァな方ではなく。
……ん? なんかキャラが違うような。
自分のあるべき姿?
そりゃあ……。
これでしょう。
今の、この、堕天使以外にないでしょう。
うん。
なんだかよくわからないが、目が覚めてきた。
話を進めよう。
――― 堕天使眷属神様準備中 ―――
「いやー、このじゃが丸くんとやらはおいしいですねぇ」
「そうだろうそうだろう! きみってやつは話がわかるねぇ、うんうん!」
貧しいけど。これ単体だと寂しいけど。
それを直接口に出すような無粋で無礼なことはしない。
食わせてもらっているのは自分だ。
対価をどうするかはまだ考えていないが、ここで無意味に彼らの生活に口を挟むべきではないだろう。
私はただの浮浪者なのだから。
他人の家庭に茶々を入れるほどの人でなしではない。
「「「ごちそうさまでしたー」」」
腹は膨れた。
ダンジョンで餓えて死に掛けていたのだから、こうして地上で物が食べられるだなんて、それはとても幸せなことじゃあないか。
流石にずっと血は飽きる。
しかもそれがモンスターのだったら尚更だ。
「で。単刀直入に訊ねますけど、天使ってどう思います?」
「かっこいいです!」
「ありがとねー」
はたはたと、私の気持ちを表す背中の翼。ついでに頭の羽も少しだけ動く。
ありがたくも即答してくれたベル君には私の好感度をプレゼント!
これから君のことは君付けで呼んであげよう!
……ん? 好感度をプレゼントしたらむしろ下がるのでは?
送るのではなく発生させるものなのでは?
……。
まぁ、いいや。
「そちらの神ヘスティア様はどうです?」
「……別に。どうも思わないさ」
「それは重畳」
やや不貞腐れているヘスティアが気になるが……気にしないでおこう。
どうせベル君が目を輝かせて私のことを見つめているのが気に入らないとかそういう理由だろう。
「……どういう意図だい?」
「特に深い意味はありませんよ。ただ、私をこのヘスティアファミリアに入れてほしいなと思っただけでして。見たところ眷族はそこのベル君のみで基本的な生活にも余裕がないご様子」
「ぐっ」
口ごもりながらも「ぼ、ボクだって頑張っているんだぞ」と反論しているヘスティア。
その隣でベル君が「僕がもっと頑張らないと……」と決意を新たにされているところを見ると「落ち着け」と言いたくなる。昨晩死にかけたばかりじゃないのか君は。
勇猛果敢で大変よろしい。
でも、放っておけそうにない。心配だ。
この世界において私の親しい(相手からはどう思われているかなんて知らんが)友人たちは殺しても死にそうにない者ばかりだったから、こういった感情は初めてかもしれない。
マリアなんかは死ぬ時は死ぬだろうが、絶対守護者のアジアンがいるし生存本能は強い方だからあまり心配はしない。本人曰く足掻くのは得意だそうだし。
「さぁ。さぁさぁさあ! 冒険者としての伊呂波なんて欠片もご存知ではありませんが、戦闘経験や魔道技術、人生経験なんかはそれなりにあるはずですよ! そんな私が、今ならなんと! 条件無しで貴女のファミリアに参入いたします! これはすごいチャンスだ見逃せない見過ごせない!」
「……うーん」
「あれ?」
なんか、反応が悪い。感触が悪い。
気を悪くされたのか。なにが原因か。
考えろ。
……。
わからんな。
ヘスティア神がちらっとベル君の方を見たが。それだけだ。
そもそも、天上の存在の思考なんてわかるはずもないか。
たとえそれが、地上に降り立っている者だとしても、ね。
「「まぁ、いいか」」
ハモった!?
「え? え!?」
話に付いていけずに置いてけぼりのベル君。悪いが、ここはヘスティアと私が交わす会話なのだよ。
「きみの名前はなんて言うんだい?」
「私の名前はエル。種族はセレスティア。堕天使。よろしくね、カミサマ?」
「ボクは竈の神ヘスティア。よろしくお願いするよ、エル君?」
友好的なはずなのに、なぜだろう。
こうも互いに緊迫した空気を纏ってしまうのは。
自分の事ながらちょっと恐ろしく感じてしまう。
「っちゅーわけで
「唐突だね……いや、いいけどさ」
「スピーディな流れをつくろうとしているだけですよ。ベル君が退室する前にいっちょやらかしておこうかと思いまして」
「きみは自然に嘘を吐くことをやめるべきだよ。裸体を見せることなんて欠片も考えていないくせにさ」
「冗談ですよ。ただの軽口と戯言です」
未だに話に追いつけないベル君を部屋の外に追い出しフェードアウト。
「その取って付けたような敬語もかい?」
「これはただの趣味です。礼儀知らずになるのもなんだか面白く無さそうだったので」
「嘘じゃなくても本気ではないんだね」
「あってないようなものですからね、言葉遣いなんて。ただこうしてみたら思いの他それで妥協できそうだったのでそうしているだけです」
ベッドへ移動し、うつ伏せになる。
その際、朝食時に身体に巻いていたシーツを元に戻しておく。
「脱ぐのは上半身だけでいいんだよ!?」
「元々が全裸なのにどうしろと。スカートもズボンもないのですが」
元々身に付けていた衣類は破れていたし、主に血とか、色々な物で汚れすぎていたので廃棄した。
だからってベル君の服を借りるわけにもいかないし、ヘスティアは普通の服がない。
べ、別に胸が足りないとかそういうのじゃないんだからねっ!
「ふむ。それもそうだね」
堕落の影響か、私とヘスティアの間には言葉にし辛い垣根があるように思える。
相容れない存在と云うか。
私自体がイレギュラーなために生まれてしまうズレとでも表現するか。
「それじゃあ、始めるよ」
ヘスティアが腰の辺りに跨る。
……軽いな。
「痛いのは慣れないなぁ……んっ」
あ。
血だ。
神の血だ。
血だ。
血か。
血だな。
血だ。
あぁ、血が騒ぐ。
――ぱりん
「弾かれた!? なにを――」
気が付くと私は、ヘスティアを押し倒していた。
針によって小さく穴の開いた指を口に含み、舐める。
血だ。
「ひゃうっ!? や、やめないか!」
確かに、神の血だ。
噛む。
吸う。
「やめ、あ……ぅん……」
……美味しい。
美味い。旨い。甘い。
穴倉のゲテモノなんかとは根本からして格が違う質が違う。
あれが下水に流れる工業排水だとするとこれは人の手の及ばない山奥にひっそりと生み出された聖水。
もっと欲しい。
もっと飲みたい。
もっと味わいたい。
もっともっともっともっと。
「この……調子に乗るんじゃない!!」
がつん。
「ったぁ~!?」
ごつん。
がっ。ごっ。
「痛いです痛いですごめんなさいごめんんさい目が覚めました我に返りましたひとまず謝るんでちょいタンマストップやめてやめて羽に傷が付いちゃう!」
……。
ぜえはあ。
息を整え、なぜかそこにあった一片の木材を床に置くヘスティア。
返り血は付着していない。
私のHPというか、生命力に当たる耐久の値が高いのだろう。
あんな物で頭部を殴られたら普通は血が出る。
堕天使の普通というのがどういうものなのか、知らないが。
「……落ち着いたかい?」
「ええ。ご迷惑をおかけしました」
「一体全体、どうしてああなったのか、説明してくれるね?」
「はい。おそらくは――」
対神特効である堕落と堕天使としての吸血衝動が制御不能に陥ったことによる暴走である。
これが堕天したセレスティアの正常な反応なのか、それとも私だけの不具合なのか。
ととものには敵以外の神がいなかったからなぁ……。
同族に関しての知識もほとんどないし。
「そんな危険があるのなら先に言っておいてくれないかい! ビックリしたじゃないか!」
「いや、まぁ……はい。すいません」
これは私の過失なので素直に謝っておく。
大丈夫だと思ったんだけどなー。
「……それで。どうするんだい?」
「二度目は……ありませんよね。えぇ、わかっています。対処法はひとつだけありますが」
「その手段は安全なものなんだろうね?」
「……たぶん?」
やってみないとわからない。
危険はないはず。
呪文は偉大だ。そして自由だ。
発想は柔軟に。適応と対応は早急に。
理想を思い描き、言葉を選ぶ。詠唱開始。
「封ずるは力、変えるは我が身の存在【
……。
溶ける。
落ちる。
折れる。
曲がる。
崩れる。
消える。
変わる。
存在が、私と云うモノが。
書き換えられていく――
……。
………………。
(´・ω・`)でも、だから書くわ。
ダンまち世界において天使と堕天使の扱いがわからなかったのです。
まぁそんなのあったとしてもそれほど気にかける訳ないのですが。だって私だもの。
ヘスティアのキャラをうまく捉え切れない。作者の力不足です。
ZILFICKUSMANOS【ジルフィクスマノス】:転変・改変。超カオスな呪文。嘆願のマハマンでもいいのではないかと思ったけどやっぱりオリジナリティを加えたかった。その結果、こんなことに……。
効果は不明。細かく考えてもすぐに破棄される。
次話でご都合主義上等にするけどスキルとアビリティにまだ悩む。