些細な事だ。
生まれてから二十六年間、呆気ない人生だったと思う。 趣味には没頭し、他はなぁなぁでひと時の生を謳歌してきたんだ。
俺の名前は、百鬼 勇樹。 苗字は、たまに間違われるんだ。 友達とかの場合は『ひゃっき』だの中二病満載でよく呼ばれていたが、病院など他の施設では、『ももき』などとも呼ばれていた。 まったく違うんだけど。
趣味と好きなものは、車観察・乗車・星熊勇儀。 特技はスポーツ全般。もちろん彼女はいる。 いや、『いた』かな。
職業は、給料が高い所だったって考えてくれ。
俺、輪廻転生しちゃったようです。
☆☆☆☆
自分、と言うか『俺』が芽生えたのは、遥か幼いころ。 年齢にして1歳か2歳だったか。
初めは驚愕した。 目覚めると見知った親の顔、所謂前世と変わらない両親が俺を覗きこんでいる状態で、え? 何事? と口から声を発しようとすると、『あー』だの『うー』だのよくわからん馬鹿馬鹿しい赤ちゃんの様な声。俺のカリスマ溢れる渋声はどこいった。
そんな俺を他所に、口角を上げ、微笑ましい物を見るかのように笑う親達。 いや、笑うなよ。 お宅の息子さん輪廻転生で記憶もってるよ?
そこから驚愕と言うか、表現し難い事が満載だった。
俺が輪廻転生する前の、最後に確認した年が『2015年 12月 22日』。そして、赤子さんである俺がどうにかこうにか聞き出せた今日の日付が『2119年 12月 22日』。
あ、はい。 そうですか、もういいです。
まぁ何というか、未来に来てしまったわけだ。 とりわけ、それを知った俺は喚きまくった。 『何故』とか『何で』やら『どうして』等など。 ・・・全部あーやらうーに変換されていたが。 それを目にした両親は、またもや微笑ましい物を見ているかのようなイラつく表情をしていた。 殴りたい、その笑顔。
その状況を後々に聞いてみると、ものすごく奇妙な顔をしていたと親は語っていた。 なんせ、泣きながら笑っていたのだから。
赤子さんから順調に成長していく。
幼稚園では、落ち着いた世話の掛からない大人しい子、と教師には言われ、後には天才と慄かれた。 いやだってさ、せっかくこれからの人生に役立つ知識を継いでるんだから、忘れないようにね。 四則演算しました、はい。
『すごい』等と親から賞賛の声が掛かり、どこで教わったかとか色々事情聴取されたが、早口で適当な事を言っておいた。 次にはご褒美にと、欲しいものはないか聞いてくる。 俺はその言葉に鋭く目を細めて、ちょっとニヤけてしまう。 そう、何故幼稚園児で四則演算などという難しい事を行ったかと言うと、目ざとく褒美を狙ってやってのことだ。 さっきにも言ったが、俺の好きなものは星熊勇儀。 東方projectで登場する鬼、星熊童子の元ネタとなった女性だ。 金髪長髪の和服美人、一本角の姐さんである。
俺の好きな、大好きな、超絶大好きな勇儀姐さんの画像検索やニコニコ動画での動画検索。 それともうすこし成長したらネット通販をするために、パソコンを所望した。 割と切実に。
その渇望に、俺の両親は引きつった笑みを浮かべて、カタコトになりながら了承してくれた。
幼稚園児にて、パソコンをゲットした俺は、目にも留まらぬ速度で『星熊勇儀』とネットで検索を掛けてみると、検索結果が0件と言うあり得ない現象を観てしまったのだ。 ・・・は? え、まじで?
嘘だろ。と心の中で絶望しながら、額には冷や汗を描く。 そして、次に『東方project』と調べてみると、物の見事にこちらも0件だった。
『絶望』『恐怖』が俺を襲う。 そして、泣いた。 泣きに泣きまくった。 体を床に放り投げて、手足をばたつかせ、子供の如く慟哭した。 いや、子供っていうか幼稚園児なんだけどさ。
一日中泣き腫らした俺は、魂が、本性が悲しんだ。 これから勇儀姐さん無しで、生涯を生きていかねばならぬ、と。 意気消沈した俺を見かねて、親が何か言ってくるが無視だ。 シカトシカト。 そんなことに構っていられる状態ではなかったのだ。
その翌日も、我が魂は抜け殻。 どうしようかと考えに考えても、良い案は浮かんで来ず、その日の幼稚園は休んだ。 しかし、丁度親二人の就寝するときに、ピコンと閃いた。
――――無ければ、作ればよいのだ。
明くる日、就寝時に閃いた我が妙案を実行すべく、行動に移る。 あ、作ればいいと言っても、東方project全体ではなくて、勇儀姐さんただ一人だ。 さすがに、全部は俺の手に負えない。
次の日に、さっそく絵を描くことにしてみる。 勇儀姐さんの細部まで記憶に残る脳内画像で描く。 描く。 描く。
途中でカメラを持った親に邪魔されたが睨む事で一蹴する。 そして、出来上がった暁には邪魔をしてきた親が、微妙が表情で『誰?』と問うてきたので、星熊勇儀さんと一言言っておいた。 うん、完璧だ。 妖艶な和服勇儀姐さん。
幼稚園児は勇儀姐さんの絵を描く事で終わった。
小学生に階級昇進すると、親が自転車を進呈してくれたので、とりあえず痛チャリ作ってみた。 もちろん勇儀姐さんの絵で。
それに伴って、他のやつらからちょっかいを受けるようになってしまった。 勇儀姐さんを馬鹿にするとは愚かな人間めっ! 鉄拳制裁!!
色々と問題行動をおこした俺だが、無事に小学生を終えることに成功した。
中学生では、所謂オタクと言うやつが増え始める年頃。 俺みたいに痛チャリにしてくれとせがんで来るやつが結構いたので、承諾してやった。 もちろん注文された絵じゃなくて、全部勇儀姐さんにしたけど。
そして、人生の転機と呼ばれる物に邂逅したのが中学三年生の時だ。
当時、世間では『Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game』と言う、体感型オンラインゲームデバイスが話題になっていた。 体感型と言うのは、仮想世界にデータとして自らの体を用意して、その後、五感を投入し、あたかも現実で過ごしているかのように感じる画期的なものだ。 さらに同時発売したオンラインゲーム「ユグドラシル ~Yggdrasil~」もDMMORPGと同じく、話題沸騰中であった。
「ユグドラシル」の広告はこんな感じだ。 自由度、やりこみ度、すべてに置いて無限の楽しみを追求することが出来る。
そんなまさかと、思いつつもパソコンを開いて、ユグドラシルの紹介PVを観てみることにしてみた。 そこには、ユグドラシル制作委員会の謳い文句が、何一つも間違っていないこと証明していた。
自身が宿るキャラクターだけでも420種類。 職業は二千を超えるほどである。 そして、数は制限されるが二千にも及ぶ職業の中から、自身の好みや得手で選べたりなど。
さらに、別枠で販売されているクリエイターツールを購入することで、自身の外見はもちろん、武器や防具の外装、自分又は自分達が保有する居住の細部までの設定を変更することが出来るらしいのだ。
俺こと、百鬼 勇樹は確信してしまった。
このDMMORPGでユグドラシルをプレイすれば、俺の憧れ、大好きな人である『星熊勇儀』に成りきることができるのではないか、と。
そこからの行動は早かった。 音を置き去りにするくらいのスピードで、痛チャリをはしらせ、ゲームデバイスとユグドラシル、クリエイターツールを購入しにいった。 資金は親のではなく、両親の随伴のもと、成り行きで買ったロト7で当たった一等の金で買った。
即座に帰還した俺は、ユグドラシルとクリエイターツールを起動させて、キャラクター制作に取り掛かった。
まず名前だ。 真っ先に思いついたのが、『星熊勇儀』。 しかし、この世界には東方projectを周知している人々はいない。 よって、元ネタである『星熊童子』でもいいのではないか、と悩みに悩んだ。
悩みぬいて一時間程、名前は『星熊 勇儀』に決定した。 やっぱり好きな人物が一番でしょ。
次いで、種族である。 さすが、無限を誇るだけ合って『鬼』の種族を発見するのは難しかった。 ちなみに、『鬼』と言う種族は亜人と分類されずに、異形種となっていた。 人間に近いから亜人と思っていたら違ったようだ。
さらに次いで、職業だ。 『鬼』に最適な物を色々選んだ。
最後に容姿の設定である。 待っていましたぁ! とテンションが最骨頂に達していた俺は、『鬼』である初期の容姿を観て、怒りがこみ上げてしまった。 なんでそのまんま『鬼』なんだよ! 誰得だよ! ふざけるな! 氏ね! と一人罵ってしまった俺は悪く無いだろう。 もう本当にそのまま。 お祭りでよく売ってあるお面のそれである。
怒り心頭。 こみ上げる激情を押さえ込みながら、クリエイターツールを開いて『星熊勇儀』を作り上げていく。 金色の長い髪の毛、おでこから伸びる赤い一本角。 そして赤い目。 その際のアクセントとして、右目の下に小さい星マークの泣きぼくろを入れておいた。
服装は、ロングスカートな和服。 肩を開けさして、胸の半分だけ覗いている、妖艶な服だ。 メインの色は紫で、桜など鬼のイメージが着く花びらを刺繍する。 帯は赤色。 江戸を思わせる下駄。 これで勝つる。
・・・おぉ。 目の前に映る、和服美人な勇儀姐さんは本物となんら変わりはない。 泣きぼくろを除いてだが。
「ふふっ」
自然と湧き出てくる歓喜の笑い声。
これから始まる『星熊 勇儀』としてのロールプレイ。 楽しみだ。
――――さぁ、之こう。 三度目の新しき人生。
次話から一気に飛んで、原作開始します。