大江山の鬼共   作:ヴェルクマイスター

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第二話

 

 

 ――――キュオォォォォオオオオ!!!

 

 

 プライマル・ファイヤーエレメンタルは、爆音とも呼べる咆哮を俺へと向けて、吐き出す。 レベルの低い者が喰らえば、ダメージを食らうのは確実。 他に状態異常『恐怖』や「麻痺』などもおまけで付いてしまうだろう。

 だがしかし、そんなものは『鬼』に通用しない。 するわけがない。

 何故なら、それは俺が『鬼』だから。 なんてことはなく、所謂種族の効果による影響だ。 異形種『鬼』と言うのは派生がたくさんあり、その全部が、一貫してどれかに特出しているの大きな特徴なのだ。 俺の武器『鬼の器』ほど一つに特化しているというわけではないが・・・。

 

 鋭い眼光が俺を捉え、行動を起こす。

 鈍重に足を進める俺に対して、プライマル・ファイヤーエレメンタルは素早く攻撃に移る。

 十m以上離れた距離から、炎を纏う爪撃を撃つ。 三つ又の爪撃を一つ、2つ、三つと連続して放ち、相手に隙を与えまんとする。

 俺はその攻撃を真正面から受け続ける。 ダメージ量は一つに付き3。 

 チクチクとダメージが増えていくが、俺の体力からすると、微量も微量すぎるし『鬼』としての自然回復もあるので、実質0だ。

 実質0。 そう、実質0なんだが、如何せん、受けるたびに視界が悪くなるのが駄目だ。

 

 

「<オニノホイッポ/山河を超える足>」

 

 

 異形種『鬼』全般が覚えれる職業スキルの一つ。 移動スキルと攻撃スキルが混じった、なかなか使えるものだ。 職業レベルによって範囲距離は変わるが、自身を中点としたら全周囲20m以内にある任意のポイントまで、ノーモーション且つ瞬時に移動できる、これが強みだ。 ノーモーションと言っても制限は無く、棒立ちのまま移動したり、先を読んだ姿勢であったりと、とにかく応用が効くすぐれものだ。

 

 <オニノホイッポ/山河を超える足>で、『鬼の器』を右肩に抱えた状態でプライマル・ファイヤーエレメンタルの頭上へと移動する。

 すると、それを待っていたとばかりに、プライマル・ファイヤーエレメンタルは顎を上にあげて、口を大きく開けた。 次の瞬間、業火の焔が口内から吹き上げて俺を包み込む。

 しかし、この程度でやられるほど『鬼』は弱くない。 物理耐性が高くて、魔法耐性が低い『鬼』ではあるが、しっかりと対処済みである。 ダメージ量は3が連続といった所か。

 

 

「ヌルい、ヌルいよ! 私をもやしたくば、太陽の五つや6つぐらいもってきなっ!」

 

 

 さすがに6つも持ってこられたら、溶ける以前の問題であるが、この際置いておこう。 勇儀姐さんならケロっとしてそうだし。 ・・・そう思いたい。

 

 

「ほおらっ!!! <オニノウデジマン/剛力の遊戯」

 

 

 肩に背負っていた『鬼の器』を、プライマル・ファイヤーエレメンタルの頭に叩きつける。 

 脳天の一撃を食らったプライマル・ファイヤーエレメンタルは、でかい図体を霧散させる。

 

 

「正直何度見ても、目を疑うレベルの攻撃力ですよ『鬼』・・・」

 

 

 後ろで呟くようにコメントを残すモモンガさん。 それもそのはず。 本来プライマル・ファイヤーエレメンタルと言う召喚獣は、攻守において桁外れに高いモンスターなのだ。 たとえ本体がLv80前後であっても、Lv100のプレイヤーでさえめんどくさがるプライマル・ファイヤーエレメンタルと言う存在だ。

 

 

「しょうがない、奥の手・・・かな?」

 

 

 そう言って、アイテムボックスから何かを取り出す仕草をするモモンガさん。 捕捉をすると、『対戦』と言う決闘システムはアイテムの使用も設定できたりする。 今回のアイテム設定は、回復系のアイテムを禁止しているので、俺の星熊之盃は参加ご遠慮と言うわけだ。

 そして、モモンガさんが何かをアイテムボックスから取り出すと、それを前に掲げた。

 

 

「な・・・っ! だ、大豆・・・・・・だとっ!?」

 

 

 モモンガさんの指に五つほど挟まれた、大豆。 ・・・大豆。 そう大豆なのだ。 アイテム名は『炒めた大豆』。

 やばい! 色々興奮しててすっかりわすれてたっ!? 俺の弱み!!

 異形種『鬼』は、対人戦や対モンスター戦において有効な手段をたくさんもち、非常に強力でタフ、耐性もそれなりにあり、しかるべきパーティーを組めば、そうそう負けない。 だが、唯一にして超絶最大の弱点と呼ばれるものが有る。

 それが炒めた大豆だっ!!!!

 

 

「ふっふっふっふ。 <ファイヤーボール/火球>」

 

 

 不敵な笑いを浮かべるモモンガさん。 こりゃまじでやばい、もう遅いが直視してはならない!

 何故直視して駄目なのか。 それはなんとも酷いことであるが、『鬼』の弱点『炒めた大豆』を視界にいれて認識すると、様々なバッドステータスが強制付与される。 攻撃力減少、物理耐性減少、魔法耐性減少、移動制限・・・等など。

 そして炒めた大豆と言うアイテムはフィールドに結構あることが多くて、人間プレイヤーからすれば、街でもどこでも手に入れることができるのだ。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 炒めた大豆を媒介にした、<ファイヤーボール/火球>をくらった俺は苦い声を上げてしまう。 やばい、めっちゃ食らった。

 さらに、酷い現実が待ち受けている。 『鬼』は炒めた大豆を見ただけでも、色々なバッドステータスが付くが、炒めた大豆が直接体に当たると、ダメージ判定を受けて結構食らうし、元々のバッドステータスを上乗せするバッドステータスが強制付与されてしまう。 まぁ、『鬼』の性能から考えたら妥当っちゃ妥当かもしれないけどさ・・・。

 

 

「くっ。 なかなかやるねぇ・・・っ」

 

 

「いやいや、『鬼』といったらこれしかありませんよ」

 

 

 バッドステータスが重くてろくに動けん! 対処法は有るには有るんだけど、酒を使うことになるから、この戦いじゃ使えない。 もうひとつがスキルでのバッドステータス解消。 と言うかこのスキル、かなり当てならなくて、実践でも成功したことがやたらと少ないんだよ。 でも一か八か! 成功しろ!

 

 

「<オニノショウネンバ/起死回生の志>っ!」

 

 

 わざわざ口に出して、スキルを発動させる。

 回復のエフェクトが出てこないが、バッドステータスのいくつかが解消される。

 

 

「うは、成功しちゃいましたかっ!」

 

 

 いよっしゃぁ! まだバッドステータスは残ってるが行動するのに異常はない。 もっと楽しもうかとおもっていたが、次出されるとさすがに無理だ。 ケリをつける!

 

 

「おら! 一気にいくよっ!! 『三歩必殺』!!」

 

 

 三歩必殺。 容姿や性格、口調と違ってロールプレイで表現できなかった模倣物。 と言うかオリジナルになるが、ユグドラシルで一時有名になった星熊 遊戯の必殺技だ!

 

 

「一歩っ! <オニノジナラシ/大地の轟轟>」

 

 

「<フライ/飛行> <グレーターフィールド/頑層の魔壁>」

 

 

 足を大きく開き、伸ばしてスキルを発動させてから地面に勢い良く叩きつける。

 モモンガさんの目下の大地が、大きく盛り上がり、荒々しい尖った岩が一挙に突き上がる。 しかし、既にモモンガさんは空へと浮かび上がり、素早く横に避ける。

 

 

「二歩!! <オニノホイッポ/山河を超える足>

 

 

 未だに避けている行動中のモモンガさんへと瞬時に近づく。

 そして三歩目。

 

 

「三歩ぉっ! <オニノセイヅキ/正々堂々の拳>」

 

 

 最上位の魔力障壁を展開しているモモンガさんへと正拳突きっ!

 突然だが、ここで一つ俺の悔みを公開しようと思う。 星熊 勇儀をロールプレイするにあたって、勇儀姐さんの攻撃方法とはいかに。 と質問されたら、俺は真っ先に拳しかないだろと即答するのだが、如何せん異形種『鬼』の職業で拳闘士やらファイター、拳で攻撃するものがなかったのだ。 そのため、スキルで拳をつかことが合っても、通常攻撃には拳が使えない。 『鬼』のユグドラシルの戦闘システム上、ただのパンチは攻撃に判定されなくて、泣く泣く、それはもう盛大に悔やんだのち武器を携帯するようになった。

 

 モモンガさんの張る障壁が、崩れない。 大豆のバッドステータスが響いてるか・・・。

 しょうがない、三歩で決められなかったけど、此処でやらなきゃ、また離される。

 

 

「<オニノカナボウ/鉄の錘>!」

 

 

 『鬼の器』を振るって障壁を破り、そのままモモンガさんへと直撃する。 モモンガさんは物理無効のスキルを持っているが、『鬼』の最上位種族効果で、それを減少に置き換える。

 大豆のバッドステータスが未だに残っているが、それでも『鬼』の攻撃力は異常だ。異常を通り越してチートかも知れない。

 俺の攻撃を食らったモモンガさんの体力が29パーセントで固定され、眼前には『勝利!』との文字が出てくる。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

「いやー、お変りなく強いですね! 勇儀さん」

 

 

 バトルが終了して、お互いの体力やMP、装備の耐久力などがシステムにより回復したあと、モモンガさんが声を駆けてくる。

 

 

「おつかれさん。 まぁ『鬼』だし、星熊 勇儀だからね。 これくらいは強くないと私が認められないんだよ」

 

 

 こういっちゃなんだけど、『鬼』と言ったらタイマンで最強。 って言うイメージしかなかった俺には物足りない。 ユグドラシルでの『鬼』はパーティーメインで、前衛を請負、しっかりした後衛の基でPKとかバトルをしなきゃままならないんだ。 主に大豆のせいで。

 

 

「それじゃあ、俺は円卓に戻りますね。 皆が戻ってくるかもしれないので」

 

 

「あぁ、無理言って遊びに付き合わせてすまんね。 私は見納めとして、ナザリックを見て回るよ」

 

 

「いえいえ、俺も久しぶりの戦いだったんで、楽しかったですよ。 ではまたあとで円卓で会いましょう」

 

 

 笑顔のアイコンを表示させて、テレポートするモモンガさん。 

 ・・・さて、まずは、我がナザリックでの住居にでも行こうかね。


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