罪深き萌えもん世界   作:haruko

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10000文字オーバーです(震え声
自分の友人にラプラスドールを買ってきてもらった結果高ぶりすぎてしまいました。

読むときはお時間にお気を付け下さい。



第2話 3 戦慄の戦略

 

 

 

「いけ、イシツブテ」

 

「GO スー」

 

第一ステージはイシツブテか。とりあえず最悪の詰み状況は回避できたみたいだな。

がんせき萌えもんイシツブテ。その体はトレーナーがやさしく砂で磨けば磨くほど固く強く成長するといわれている。さすがにいわタイプのエキスパートを名乗るだけあってイシツブテのコンディションは最高レベル、最初っからかなり厳しい。

しかも相手が得意とするのはクロスレンジの打撃戦。ブルー戦のような仕込をしてる時間もない。

 

「いけ、イシツブテ。突進しろ」

 

すさまじい勢いでイシツブテが突っ込んでくる。速い。あれがいわタイプの萌えもんの動きか?

 

「走れ、スー。的を絞らせるな」

 

「はい!」

 

スーが右前方へ全力で駆け出す。確かに相手のすばやさも大したものだがそれはもちろんイシツブテの中でだ。まだまだ小さく体重の軽いスーのスピードなら振り切れる。

だがこちらの手持ちは一匹のみ。持久戦は当然今回もしかけられない。

勝負を決めるのは、最初の五分だ。

 

「ほう……ラプラスにしてはなかなかいい動きだな。だが、ぼうぎょの構えがいつまでもつかな? イシツブテ」

 

タケシの声と同時にイシツブテが振り返り、再び突進を仕掛けれくる。

ちっ、さすがに戦略ってもんをわかってやがる。

完全にこっちが速攻で決めようとしているのをわかっていて、わざと愚直に突っ込ませている。イシツブテを完全におとりとして使っている。

あまり好きな作戦ではないが、さすがはジムリーダー。やってることが合理的だ。

 

「スー、みずでっぽうだ。近づける前にたたけ!」

 

「あまい! イシツブテ、がんせきふうじだ。防御壁をはれ!」

 

イシツブテがその場で両拳を地面にたたきつけ、その力によって地面から巨大な岩の柱が五本、正面のフィールド横方向にに出現する。岩のカーテンによってみずでっぽうは完全にはじかれ、スーの位置からは完全にイシツブテが視認できない状態となった。

わざの応用性も抜群、これがジムリーダーか。威張り散らすだけの実力は持ち合わせてるってことか。

 

「どうだ、そろそろ見えるか? 格の違いが」

 

がんせきふうじの壁はちょうどフィールドの中心辺りにあり、そこをはさんでむこう側にスー、こちら側にイシツブテがいるため姿を確認することはできないが声の調子から言ってかなり勝利を確信しているようだ。相手のどや顔が目に浮かぶ

それでいい。

スーを見て、俺を見て、どんどん自分に酔いしれろ。

そこが俺たちの唯一の勝機だ。

 

「一気に行くぞ。イシツブテ、いわくだきからいわおとし! 」

 

叫びが届くや否や、イシツブテは自身で作った巨岩を破壊し、砕いた岩を自慢の力で二人の頭上に分投げるす。本来洞窟などの限定的な条件でのみ最大威力を発揮するいわおとしをジムフィールドで活用するために考案されたのだろう。

しかしどう考えてもイシツブテ自身もいわおとしの射程圏内に入ってしまっている。いわタイプとはいえ見過ごせないダメージが入るはず。

 

「仕上げだ。イシツブテ、まるくなる」

 

此方の考えを見透かしたかのようにイシツブテはおそらく想定されていたコンボの最終体制へとはいる。

なるほど、まるくなるによってもともとのぼうぎょりょくをさらに高めたイシツブテなら、己のいわおとしの自爆ダメージでは雀の涙ほどのダメージしかならないだろう。

 

「これが俺たちの実力だ、お前たちでは俺の戦略を超えることなどできはしない。とっととつぶれて眼前から失せろ」

 

確かに。数少ない経験ではあるが、こんなコンボを披露するトレーナーはこれまで一人もいなかった。いわタイプのジムを任されるものとして、推敲を重ねて作り上げたのだろう。

よく考えられた行動だ。

 

 

そう。ただ、それだけ。

 

 

よく考えられた、机の上だけで完結する動きだ。やってることはブルーと同じ。いや、こいつは自分の萌えもんすらも傷つけてそれを作戦と呼ぶ。萌えもんと一緒に強くなろうと思って努力したブルーにすら及ばない。

 

 

 

 

それでお前は最強になるとのたまわったのか。

 

 

それでお前は俺の友達の心に傷をつけたのか。

 

 

それでお前は野望という言葉を口にしたのか。

 

 

 

 

バカにするなよジムリーダー。

 

 

 

 

お前の独りよがりな戦略じゃたどり着けない、俺たちの信頼を見せてやる。

 

 

 

 

「スー、CROSS!」

 

 

 

「! それは……」

 

 

 

そう、あの時の……

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ、そうだ。スー。今から萌えもんバトルの時の決まりごとを少し決めておくぞ』

 

『決まり事? どういうことですか?』

 

『ああ、要するにだ。俺たちの指示を相手に聞かれちゃいけないとき、俺の指示が遅れたら致命傷を受けるとき、そういう時が来たとするだろ?』

 

『はあ』

 

『そういう時にだ。俺たちの中でいくつかの決まったパターンで作戦を作っておく。そして俺がその作戦名を宣言した時、その後の俺の指示に従って決まった動きをする。要するに作戦指示の暗号化をするってことだ』

 

『おお! かっこいいです!』

 

『というわけで、何個かの非常事態に分けて作戦を三つぐらい先に作っておくぞ』

 

『はい!』

 

 

 

 

 

『ま、マスター。これ、本当にやるんですか?』

 

『怖いか?』

 

『いや、まあ、かなり……』

 

『悪いな。これは絶対ここから先に必要になる特訓だ。少なくともR団と戦うためには俺もお前も普通のままじゃあいられない。だからここで一度、俺は心を鬼にさせてもらうぜ。この特訓ワンセットが終わるまでは今日森から出ない』

 

『ほ、本当にできるんですかよね?』

 

『安心しろ。絶対できる。お前はお前のやることをやり、俺は俺のやることをやる。それが俺たちの信頼関係だろ?』

 

『いや、でも……』

 

『スー』

 

『……はい』

 

『俺は嘘をつくような男か?』

 

『! いいえ』

 

『お前が震える戦術で戦った俺はお前の信用に足らない存在か?』

 

『いえ! そんなこと!』

 

 

『大丈夫。必ずできる。俺を信じろ』

 

 

『……はい!』

 

『まあ、もちろん練習を重ねたうえで絶大な信頼を作り上げた後でできる戦術だからな。当分使うことはねえだろうさ。そりゃあミスれば大怪我だしな』

 

『そ、そりゃそうですよね』

 

 

 

 

 

 

 

 

コンマ一秒、砕けて舞い散る岩の隙間から主人の瞳を映しこむ。

本気だった。

そうですよね。マスターは嘘なんてつきませんものね。

 

 

 

 

信じてますよ。マスター。

 

 

 

 

最後の景色にそれを映しこみ、スーは自分の思考を飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スーからの了承の合図が見える

走り回った結果のほぼ偶然だったが、位置関係が幸いした。

 

 

 

 

任せろスー。

必ずこっちに来させてみせる。

 

 

 

 

さあ、タケシ。

覚悟しろ。格の違いを教えてやるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イシツブテ、セントウフノウ。ラプラスノカチ。ジムリーダータケシハスミヤカニニヒキメノモエモンヲセンタクシテクダサイ』

 

 

町の設計上底まで広くないジムの中に無機質な声が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理解が追い付かない、というのが正直な感想だった。

今目の前には自分の必勝パターンを作った萌えもんとそれを受けている萌えもんがいる。

そしてその奥に対戦相手がいる。

絶望の表情が見えるはずだった。

ましてや、相手の萌えもんは最初で最後の一匹。いわこうげきをくらえばひとたまりもないこおりタイプのラプラス。

負けるはずもない。

瞬殺するはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

なぜ、イシツブテが倒れている?

 

なぜ、みずでっぽうをくらっている?

 

なぜラプラスが倒れていない?

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が砂埃で視界を奪われていた数秒に

何が起きた……?

 

 

 

 

「貴様ら、いったい何をした……!」

 

 

 

 

いつの間にか二人並んでいる餓鬼と嘲笑した挑戦者とハイタッチをしているその萌えもんの勝ち誇った顔を見ながらタケシはただただ怒りの表情を浮かべることしかできないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、こんらん状態に陥ったのはタケシだけではなかった。

 

「カゲ、今いったい何が起きたんだ……?」

 

化け物を見たかのような調子の声で、ジャッジコンピューターの後ろのベンチに見学として座っているレッドが言った。

 

「俺たちが一瞬でやられちまった必殺コンボを受けて、俺たちと同じように岩に取り囲まれて、そこまでは俺にだってわかった。でもそこからだ。いったいミズキは何をした?」

 

 

数字を言った。

 

 

いや、何を言っているのかとかそういう事じゃなく、

それしか言えなかった。

 

 

なんといったって本当にミズキは数字いくつかを言っただけだったのだ。

 

 

ミズキがいきなり英語を叫んだかと思ったら、今度はすさまじい数の数字を呟きまくって、それをきいたラプラスは何事もなくステップを踏むかのように落石を片っ端からよけはじめ、無傷で突破したかと思ったら振り向きざまにイシツブテに向かってみずでっぽうをうって一発KO。言葉で言ったらこれだけになるが、俺には何が起きたのか意味が分からない。

 

ミズキは最初からあの攻撃を予想していた?

 

ラプラスの能力はそれほどまでに高かった?

 

全然わからない……。

 

「なあ、カゲ。お前、ミズキが何をしたか分かったのか?」

 

正面のフィールドにくぎ付けになっていたため目を合わせずに会話をしていたレッドが久しぶりに思いながらカゲの顔を見る。

 

 

正直、ぎょっとした。

 

 

カゲは顔を真っ青にしながら両手で体を抱えて凍えるようなポーズで震えていた。

 

 

「か、カゲ!? どうした!?」

 

本気で心配になったレッドは無理やり覚醒させるようにカゲの体をめちゃくちゃにゆする。

 

 

「正気じゃねえよ……あいつら……」

 

「はあ!? 何の話だよ! 落ち着け!」

 

 

カゲはうわごとのように少しずつ感情をレッドに伝える。

 

 

「俺の位置からは見えた……あいつらは、あいつらのは……信頼なんてレベルじゃない!」

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ、落石の中で、目をつむってたんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

「マーベラス。としか言いようがないな。ご苦労だった、スー。イシツブテを無傷で倒せたのは間違いなくお前の功績だ」

 

相手をしっかりと目で見据えながら、やんわりとスーの頭をなでる。

 

「そんな……わたしだって驚いてるんです! マスターの言ってた通りでした! まさか本当にあんなことがわたしにできるなんて!」

 

その場でむじゃきにステップを踏むスーの姿は本当にただの子供のようで、一瞬ジム戦であることを忘れかける。

 

「なーに言ってんだ。本来一二回の練習でできるもんでもねえし、やる予定もなかった。俺はやるしかなかったからやったまでだ。全部を前のおかげだよ。誇りに思え」

 

さてと……

 

ちょっとした作戦のスイッチはあったがここまでは予想の範疇。

問題は間違いなくここからだ。

おそらく残るは、エース級二体。

 

 

「まだまだ行くぞ、スー。ここからが本当のバトルだ」

 

 

「今ならいける気がします! 任せてくださいマスター!」

 

 

スーに勢いがついたことに関してはうれしい誤算ではあったのだが、まあ勢いだけで勝てる相手でないのはイシツブテだけで十分わかった。

後は残りがサイホーンあたりであってくれることを切に願うばかりだな……

 

 

 

 

「……いったい何をしたのかはわからないままだが、少々敵をなめすぎていたようだな」

 

 

けっ、そのままなめててくれりゃあ幾分楽にもなるのによう……

 

 

 

「いいだろう、ここからは俺も本気でいこう。後悔してももう遅い! いけ!」

 

 

 

 

こ、こいつは……

 

 

 

 

「……表に出たのは久しぶりだな。まあいい。ぶった切る」

 

 

じゃきん、じゃきん、という音をたてながら自慢の腕を研いで素振りを始める。こげ茶っぽい体の先の銀色の金属はかなり映える。

それが見えた時に願いははかなくも崩れたのだとさっと理解しため息も出ない。

 

 

「カブトプスだと!」

 

まずい、とんでもなくまずい。

 

カブトプス。こうら萌えもん。

グレン島の萌えもん研究所でつい最近古代の化石から復元することに成功した株との進化系。カントー地方では数少ないのいわ・みずタイプの萌えもんで、水陸両用のスーにかなり似た能力の萌えもんと言えるだろう。

 

そう、スーとかなり似た種の萌えもんなのだ。

 

萌えもんバトルをするにあたって、同レベルのトレーナー同士が、同族で、同じわざを使い、同じレベルである萌えもんで戦うとき、勝負を決めるのはなんだろうか?

 

 

答えは一つ、けいけんちだ。

 

 

戦闘に対する慣れ、土壇場での地力、予想外に対する判断、理由を挙げればきりがなくなるが、同条件で戦闘をする場合は戦闘経験を積んで相手から技術を盗んできたベテランの方が圧倒的に有利。

 

相手はジムリーダー。こちらはマサラを立ってから一週間とたってはいない。

経験の差は歴然だ。

 

 

さらにもう一つ。

カブトプスなんて萌えもんが出てくるのは完全に自分の計算外だった。

 

 

言い換えるならば盲点だった。

まさか、化石萌えもんがこんなところで出てくるなんてという思いと、もしかしたら出てきてほしくないという願望の表れもあったのかもしれない。

もう一ついうと自分自身化石萌えもんという存在を博士から聞いて研究していたのはかなり最近の話で知識が足りなかったということもある。

とにかくカブトプスに対しての対策は正直まるで考えていない。

 

 

 

 

落ち着け。

 

 

 

 

自分で言ったんだろ。

 

優れたトレーナーってのは、予想外の出来事を上から飲みこめるトレーナーのことだって。

 

 

 

 

 

久しぶりに黙想だ。

十秒で終わらせる。

 

 

 

 

カブトプス。鋭い鎌から繰り出されるこうげきはきゅうしょを狙えばいちげきひっさつ。

鎌を生かすことができるわざが、最低一つ。多くて三つ。

そして自身のタイプを生かすなら、みずタイプのわざといわタイプのわざを一つずつ。

サポートわざが一つくらい。もしかしたらサブウェポンになる予想外なわざを一つぐらい持っているかもしれない。

そしてタケシはこの中から四つを選択して使ってくる。

もしサブウェポンにすいとる系のライフゲインのわざがあったら持久戦になって詰み、わざがいわタイプで統一された最悪の相性だった場合も詰み。

試合前にスーに言った、詰みの発生率もかなり高い。

けどそこをくぐりさえすれば……そして、俺の予想が正しければ……

 

 

勝負を決めるのは、わざの選択。

 

俺とタケシ。どちらがうまくわざを使えるかで決まる。

 

 

 

 

 

「またせたな、スー」

 

「いいえ、まったく。勝てますよね、マスター」

 

「たりめーよ。俺を誰だと思ってる」

 

当たり前だ。俺たちは、こんなところで止まれない。

こんな奴に、負けてられないんだ。

 

 

「スー。お前は今から俺の指示に従い続けろ。何を言われても不思議に思わず、愚直に俺に従い続けろ。俺の指示で表情を変えるな。それでお前は確実に勝てる」

 

 

「……そんな指示、いりませんよ。最初っからずっとそのつもりでしたから!」

 

 

「走れ、スー。全力疾走だ! めちゃくちゃに動き回れ!」

 

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

「攪乱作戦か」

 

カブトプスの目の前でどたばたと前後左右に走り回る敵の姿を見て、タケシは冷静に推理する。

カブトプスのすばやさと鎌の一撃を恐れ、極力動き回ることで的を絞らせまいとしている。カブトプスに対し自分たちは接近戦を持ち込むことができず、なるべく近寄られないように動き回りチャンスをうかがう。理由としてはそんなところだろう。

当然一瞬で決めることは望ましい。だがその短絡的な思考では奴を倒せないことはイシツブテが証明した。

ならばこちらは三体目につなぐ、そのためにダメージを相手に重ねる、それだけを目指して攻撃すればいい。

このバトル、本来はすべてにおいてこちらに歩のある勝負なのだ。ならば相手の奇策に惑わされず、淡々と作業していけばいい。

 

 

「カブトプス、焦るな。こちらは相手が仕掛けるまで、動く必要はない」

 

 

カブトプスは軽く頷き、構えを崩さずスー、というよりはその後ろのミズキに対して正対する。

 

「スー、しろいきりだ。相手の視界を奪え!」

 

ラプラスが走りながら口から煙幕のようなものを吐き始める。なるほど、まずはこちらの身動きをとれなくする、ひいては素早さを封じに来るのか。

 

「させるな、カブトプス。つるぎのまいで弾き飛ばせ」

 

風をまとうように激しい舞はスーから生み出された靄をすべて弾き飛ばし、そのうえでカブトプスは自分の力を鼓舞するように舞を続ける。

 

どうだ、挑戦者。

これ以上踊られたら貴様らは勝ち目がなくなるだろう。

今こっちはお前らの唯一の砦、ラプラスの耐久力、それを上回るこうげきりょくを得ようとしているぞ。

焦れ、おびえろ、竦め。

そしてお前らがとる行動は……

 

 

「スー、足を止めてみずでっぽう! 最大出力だ!」

 

 

急いでつるぎのまいを止めようと攻撃してくる!

 

 

「カブトプス! こっちもみずでっぽうだ! 相手のこうげきを止めろ!」

 

 

 

 

 

 

 

きたっ……

……勝利のためのワンチャンス!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「スー、突っ込め!!」

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何!」

 

冷静に行動しようと心掛けたタケシの心が再びゆれる。

つるぎのまいを止めるためにやむなしにみずでっぽうをうってきた。そう思ったためにこちらもみずでっぽうで迎撃し、相手の動きを止めてから接近戦を仕掛けに行く。これがタケシのプランだった

 

なぜ奴らの方から突っ込んでくる……!

 

相手は接近戦で優位に立つことができないために攪乱作戦をとったと考えていた。事実、ここまでラプラスがつかってきたこうげきわざはみずでっぽうのみ。ここにきてわざわざみずでっぽうをくらいながらこちらの得意な接近戦へ赴いてくるのか、まったくもって理解できなかった。

よもや、接近戦でカブトプスに有効な一撃をここまで隠し持っていたという事だろうか……それは考えにくい。それなら最初のラプラスの動きは完全にラプラスの体力を使うだけの無駄な行動だったことになる。有用な攻め手があるのなら、つるぎのまいをする前のカブトプスと接近戦で殴り合い、さっさと倒すのが最善策だ。まだこちらが二匹目なのにそんな後先考えない責めをする挑戦者でないことは先ほどまででわかった。

そもそもラプラスがみず・こおりタイプとはいえ、無駄にみずでっぽうを受けてしまってはほんの少しずつでもダメージは入る。現状相手にとっては、どんな小さなダメージでも受けてしまっては悪手なのだ。

 

ということは、相手はこちらがこうげきを仕掛けてくることを待っていたことになる。

その結果、俺たちからみずでっぽうを引出し、それを好機と見て突っ込んできた……

 

 

 

 

 

!!!

 

 

 

 

 

なるほど……ついに読めたぞ……貴様らの戦略が!!

 

「カブトプス、みずでっぽうを止めろ! 突っ込んでくるラプラスをそのまま迎え撃て!」

 

 

 

奴らの狙い……それは、我々からみずタイプのこうげきわざを引き出すこと!!

 

 

 

「ちっ、スー! そのまま突っ込め!」

 

 

 

やはりな。

 

 

 

萌えもんには、バトルを優位に働かせるために自然の中で身に着けた固有能力、とくせいと呼ばれるものがある。

たとえばイシツブテだったとしたら、とくせい、がんじょう。

これは、相手から一撃で倒されるタイプのわざに対して耐性を持つ、というとくせいで、山や洞窟で生活することの多い萌えもんであるイシツブテが環境の中で身に着けた能力。

カブトプスだったら、とくせい、すいすい。

あまごい状態の時に場に出ていると、すばやさが格段にアップする。

これは古代に湿地帯に住んでいたカブトたちが、雨の時に素早く行動して天敵から逃げるために身に着けた能力だ。

このように萌えもんには必ず一つ、バトルで有効に働かせることのできるとくせいを一つは持っているのだ。

 

 

 

そして、ラプラスのとくせいの一つ。

 

 

 

ちょすい。

 

 

 

水タイプのこうげきわざのエネルギーを吸収し、自分の体力へと変換してしまうという、みずタイプに対してかなり有利になれるとくせいだ。

 

 

 

やつはこれを利用した。

 

 

 

イシツブテとの戦闘を経て、直接的なダメージを受けることはなくてもかなりの体力を消耗した。やつはそれでまだ見ぬ三匹目と戦うことが不安だった。

そこでカブトプスを見て、ラプラスの体力を回復し、同時に接近して近距離でこうげきをたたきこむことで一気に相手を倒し、万全な状態で三匹目を迎えるチャンスだと考えた。

最初のただ疲れるだけのめちゃくちゃな動きも、のちに回復する予定だったと考えれば説明がつく。

 

 

 

敵ながらあっぱれ、と言わざるを得ない戦略。

 

 

だが、もう遅い。

 

 

戦略は敵にみやぶられた時点で、戦略としての意味をなさなくなる。

 

 

現にこちらが目論見に気付いたことで貴様のラプラスが受けることができたみずでっぽうはほんのわずか。あれでは全快は見込めない。

 

 

 

しかも貴様はいま、ラプラスの突進を止めることはできない。

ここでラプラスを引かせてしまえば、奴の一番恐れる、持久戦が始まってしまうことは間違いないからだ。

貴様はダメージを承知で、自分の萌えもんを突っ込ませることしかできない。

 

 

 

「カブトプス、きりさくだ!」

 

 

「……失せろっ!!!」

 

 

 

カブトプスのきりさくがラプラスの肩口に突き刺さる。

どう見たってきゅうしょにあたった。クリティカルヒットだ。

わかりやすく顔が歪んでいくのが自分の位置からわかる。だが、ラプラスは倒れず、引くこともせずに踏みとどまった。

ほう、さすがの耐久力だな。

 

 

 

「がんばれスー! みずでっぽうだ! カブトプスの体制を崩せ!」

 

 

 

至近距離からのみずでっぽう。決してカブトプスが苦手なわざではないが、さすがにきりさくの当たる至近距離からのこうげきでは少なくないダメージを受けてしまう。ましてはカブトプスはいわタイプの中では軽量級だ。軽々と水流にのまれ、フィールド中央まで運ばれてしまう。

 

 

 

「そこだ! 地面にみずでっぽう!!」

 

 

 

なにを、とほんの一瞬戸惑うタケシだが、すぐにその意味を理解する。

すさまじい勢いで放たれた水は、カブトプスの足元に広がり、泥水の川のような状態になる。

大の字でフィールドの中心にいたカブトプスにはたまったものじゃないだろう。ダメージによってうまく動けずに軽く溺れてるような状態だ。

カブトプスの真下の地面はかなりやわらかいすな地帯に、いくつかの鋭い石が転がっている状態となっている。

最初のイシツブテのいわくだきの結果だ。そこに激しい水流をたたきこんだとしたら……

 

 

 

「だくりゅうのようなこうげきに、砕けた石によるだげきこうげきまで入ることになる、か。なかなかよくできた戦法だな」

 

 

 

カブトプスが一撃でやられたというのにもかかわらず、にやにやとした顔でタケシは萌えもんボールにカブトプスを戻す。ジム内に再び機械音が響き渡る。

 

 

 

「これでようやく一対一となったわけだ。正直驚いた、というか油断していた。まさかラプラス一匹と戦略だけでここまで追い詰められるとは思っていなかった」

 

パチパチパチと雨だれのそうな拍手がひびく。当然ミズキは笑わない。

 

「で、どうする? まだやるのか? さっきのカブトプスとの戦闘でお前のラプラスはどう見ても致命傷を負ったぞ。まあクリティカルヒットしてくれたのはうれしい誤算だったんだが、きりさくはもともとそれを狙うわざだ。まあ、運が悪かったとあきらめてサレンダーしてくれ」

 

ミズキがスーに目線を移す。自分の方へと肩を抑えながら歩いてくる自分の相棒はひどく息を切らしていた。見た限りでは押せば倒れる、といった印象を受ける。

 

「まあ別に続けてくれてもいいんだがな。それならそれで俺は最後の一体で貴様の唯一の萌えもんを再起不能にしてやるまでだ」

 

三つ目のボールをお手玉するようにまわしながら返答を待つタケシ。

もはや勝ちは決まった。

そう言いたげなのは客席にいたレッドたちですら感じとって、ただひたすらに強く膝の上で手を握っていた。

 

もう無理だ。

勝てるはずがない。

最初から三対一なんて無理だったんだ。

 

 

 

 

 

 

「さっさと次の萌えもん出せよ。こっちはずっと待ってんだ」

 

 

 

 

 

 

「お前……正気か?」

 

「お前こそ何ぬかしてんだ。勝手に話を進めやがって、そんなにこっから負けんのが怖えのかよ?」

 

 

 

……落ち着け、ちょうはつにのるな、とタケシは自分の心に言い聞かせる。

奴のラプラスは満身創痍。どう見ても気絶の一歩手前だ。

ここから奴が勝つには、

 

ダメージを受けずに攻撃をかわし続け、敵を倒す

一撃を耐えた後に相手を一撃で沈める

 

このどちらかしかない。

前者は不可能。なぜなら俺の最後の萌えもんはそれを許さない萌えもんだから。

後者はもっと不可能。なぜなら相手はボロボロなうえに火力が優れているとはお世辞にも言えないラプラスだから。

 

 

 

唯一の気がかりはラプラスのわざ。

 

 

 

ラプラスはここまで

みずでっぽう

しろいきり

この二つしか使っていない。

まだ二つわざを隠し持っているはずだ。

 

だがそれももはや関係ない。

ここまで使うことができなかったのなら、大したわざが残っているはずがない。

もはやラプラスはボロボロだ。

いいわざを持っていたのなら既に使うタイミングは山ほどあったはずだ。

 

 

 

 

俺の勝利は揺るがない。

もう奴にはうつすべなどありはしない。

 

 

 

 

「……いいだろう。貴様の相棒とやらを二度とたてないように一撃でぐしゃぐしゃにしてやる!!」

 

「やってみろ。勘違い男」

 

 

 

 

 

 

 

 

ラストバトル。

 

 

 

 

三匹目の萌えもんは

 

 

 

 

 

 

「ぐわぁおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

イワーク。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

速攻で仕留めてやる。

 

 

 

 

「イワーク! ロックカット」

 

 

 

 

イワークは突然、自分の体をたたきながら傷をつける。

表面岩、と呼ばれるいわタイプ特有の体表の岩、所謂人間の皮膚のような岩を剥がし、削ることによって自分の体を研磨していく。

それによって超重量級のイワークは、地上でとんでもないスピードを得ることとなる。

 

 

 

 

 

「スー、なきごえ」

 

 

 

 

 

くわぉわぉわぉぉぉ。

文字で表現するならこんなところだろうか? 何とも言えない音だった。

だが耳の具合とは裏腹にタケシは不敵な笑みを浮かべる。

 

 

 

それが三つ目のわざか。

 

 

 

音系のわざでも最低ランクと言っても過言ではない、初期の初期のわざ、なきごえ。

間違いない。奴にもう打つ手はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなものが効くか! これで終わりだ、イワーク! すてみタックル!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝った!

勝った!!

勝った!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の勝ちだああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コレニテ、リーグニンテイ、モエモンバトルニビジムセンヲシュウリョウイタシマス』

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 

 

誰に、というわけでもなく軽く会釈をした後、頭を上げながら振り向き、レッドたちと一緒にフィールドを去る。サイズが小さいままの空の萌えもんボールを愛しい人からのプレゼントのようにやさしく手に包んだまま、自動ドアをくぐり外の空気を思いっきり吸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ。あほみたいに疲れた。もう二度とジム戦なんかやりたくねえ!」

 

「右に同じです。全身痛いよぉ、ますたぁ」

 

 

 

 

 

涙目になりながらスーが見上げてくる。

 

 

 

 

 

「ほんとに悪かったな、俺の我が儘でこんなことになって。でも、まあ、チョーかっこよかったぜ。ありがとう、スー」

 

そういいながら軽くコン、と大きくしたボールをスーにぶつける。

 

「えへへ、またご褒美に美味しいごはんですよ、マスター」

 

 

 

 

少し痛みで顔をゆがめながらも満面の笑みを浮かべながら、ボールの中へと戻っていく。

 

 

 

 

「さてと、お前ら。いろいろ話すこともあるから、俺の泊まってる旅館に先行ってくれ。俺は先に萌えセン行ってスーのこと回復してくるからよ」

 

旅館の住所と部屋番号の書いたメモを押しつけながら、そういってミズキは足早にその場を去る。

 

 

 

 

翻したジャケットに光る四角いバッチがそれはそれはよく似合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残されたのは今まで友達だった男のすごさを理解し放心状態となった一組の男たちだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……申し訳ありません、負けてしまいました。

 

えっ、いや、あの、すみません。正直な話、なんで負けたのか、まったく分からなかったんです。

 

勝ったと思った。

 

最後、間違いなくこうげきが当たったのに、奴の萌えもんは立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ボス……あいつは何者なんですか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニビ 瞬間契約 ジムリーダータケシを倒す CLEAR

 

 

 

 

 

 





タケシ

イシツブテ ♂ がんじょう
いわくだき
いわおとし
がんせきふうじ
まるくなる

カブトプス ♂ すいすい
きりさく
みずでっぽう
つるぎのまい

イワーク ♂ いしあたま
ロックカット
すてみタックル


ミズキ

スー ♀
みずでっぽう
しろいきり
なきごえ
????


当初の予定ではカブトプスにはあまごいを使ってもらう予定だったり、イシツブテは完全に一撃でやられる予定だったりとマイナーチェンジをしまくった結果めっさ長くなってしまいました。

次回、レッドとの戦略解剖編



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