罪深き萌えもん世界   作:haruko

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第3話 3 ほしい仲間

 

 

 

 

 

「お久しぶりですね博士。へっ、へっ、へっくちゅん!」

 

『おおミズキ。なんじゃ、風邪か?』

 

「はい……おそらくは……」

 

『なんじゃ情けない。体調管理も旅する萌えもんトレーナーの大切な仕事の一つじゃぞ。研究者が倒れるのとはまたわけが違うんじゃ。シャキッとせいシャキッと』

 

「返す言葉もないです」

 

『まったく。ああそうそう。お主が設計を手掛けた萌えもんの状態を確認することのできるステータスチェッカー。あれの商品化が決定したぞ。従来のポケギアの機能に追加する形にして販売を開始したいとここからかなり西にあるホウエン地方という場所のデボンという大企業の目に留まったとかで……」

 

自分のことにもかかわらずオーキドの事務報告など興味もないと言わんばかりに、座っている丸椅子をくるくるとまわしながら辺りを見回す。これから登山を始めるのであろうトレーナーたちがせわしなく行ったり来たりしていた。

 

 

結局柔らかい寝顔で熟睡しているシークを自分の手ではたき起こすことなどできるはずもなく、まぶしい朝日と冷たい朝風をその身にしかと刻み込みミズキは案の定風邪を引いた。

 

それでも今日の日が落ちる前に萌えもんセンターまでたどり着くことに成功したのはひとえに普段は無駄な戦いを好まず俺の指示するトレーナー戦以外は全く手を出さないス―が率先してやせい萌えもんを駆逐しまくっていたからに他ならない。途中から俺たちの通る道がモーゼの十戒のごとく、すーっとできて行ったのはある意味圧巻とすら言えた。ぶっちゃけトレーナーとしてはその場を収めるべきではあったのだが、どうにも俺に止める事が出来るとは思えなかったため断念。俺に残ったやることと言えば、胸の中で眠り続けているシークをなでながらおとなしくスーについていく事だけだった。空腹の力たるや恐るべし。

 

 

ちなみにシークが寝てる状態でどうやって俺が木から降りてこられたのかというと、通りかかったむしとりしょうねんに頼み込んでスピアーをお借りしておろしてもらった。

その時点で日は大分高くなっていたのでボールの中で一人待っていたスーはかんかんに怒っていてなおのことその後の暴走を止める事が出来なかったという裏話もある。

 

 

まあそんなことがありながらも飯を食わせれば機嫌を直してくれるこいつは本当にいろんな意味で良い相棒だと思う。

 

 

まあ、それはともかくとして。

 

 

そんなこんなで萌えもんセンターの食事にありついていたところ、ロビーから連絡が入ったのが先刻の話。何やら備え付けのテレビ電話でオーキド博士に連絡を取れとのことだった。

旅を出てから博士と連絡を取ったことはないため、博士はこちらの居場所など分からない状態で連絡したはずだ。つまり少なく見積もって後二件、ニビとカナダあたりの萌えもんセンターにも伝言を頼んだのだろう。そうまでしてミズキに伝えたかったことということは重大な用事である可能性が高いと考え、急いで連絡を取って今に至る。

 

 

『……であったから、その新たな機器をデボンは『ポケナビ』という名前を付けてホウエンで先行発売するそうじゃ。それにはホウエンが盛んであることで有名な『コンテスト』のための機能も追加するということで』

 

 

「博士。前置きはいいんで。本題に」

 

 

『……まったく、せっかちじゃのう。まあいい、茶を濁していても仕方ない。そのためにわしはお前さんを送り出したんじゃからのう。おつきみやまをのぼる前に連絡が出来て良かったわい』

 

「ってことは……まさか……」

 

『ああ、おそらくそのまさかじゃ。いま、おつきみやまでは……』

 

 

 

 

 

 

 

「おーい! 大変だ!! 誰か来てくれ、またやられたぞ!!!!」

 

 

 

 

 

 

「!!! すみません博士! 切ります!」

 

『み! ミズキ!?』

 

ぷつん。

 

 

 

通話終了のボタンを押したのちに、声の方向へ走る。入り口付近にはすでに先ほどまでロビーで準備をしていたトレーナーたちで人だかりができてしまっている。人ごみを無理やり押しのけて騒ぎの中心を視覚に入れると、何とも見るに堪えない状況だった、と言わざるを得ない。

倒れ伏している男とその男のつれであろうに三人のそばにすっと座り、体の状態を確認する。

 

 

 

 

 

腕にはかみつかれたであろう跡。

 

 

額には物理攻撃による打撃痕。

 

 

そして背中には焼き切れるといわんばかりの真っ黒な焦げ跡。

 

 

 

 

 

誰がどう見ても萌えもんにやられたことは明白であった。

 

 

 

 

 

「誰か! ジョーイさんを早く連れてこい!」

 

「ダメだ! さっき同じようにやられた奴を連れて病院のラッキーも全部まとめて集中治療室に入っちまった!」

 

「なにぃ! じゃあこいつはどうしろってんだよ! わざの直撃を何度も喰らっちまったんだ! このままじゃ死んじまうよぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さわぐな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どたばたとうるさい野次馬も合わせて、ミズキが一括して黙らせる。

全く、人というのは非常事態に落ち着くということを知らないから困る。

 

 

 

「て、てめえ!」

 

脇にいた連れの一人のタンクトップに角刈りの男がミズキのジャケットの胸ぐらをつかむ。ボタンが一つ飛んで転がっていくのが見えて少し落ち込む。

 

「これが落ち着いていられるか! 人が死にかけてんだぞ! ダチが死にかけてんだよ! これが落ち着いて」

 

 

 

 

 

「黙って従えドポンコツ」

 

 

 

 

 

「なっ!」

 

 

驚いた拍子に腕の力が緩まったため、無理やり拳をはたき落して再び男に対面する。

 

 

傷口をいち早くふさぐこと、やけどを無理やりにでも収めること、決して体温を下げないこと……

 

 

 

 

 

「今から俺が指示するものを持ってこい。ありったけだ。急げ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました! 急患の方をこちらに運び込んでください!」

 

「こっちー」

 

ラッキーの間の抜けた声に一瞬空気が悪くなるが、そんなことにいらだっている場合ではないと周りの数名が男の四肢をもって担架へと運ぶ。最初は煩わしいほどに群がっていたやじ馬たちも事態が収まってくると次第に自分たちの作業へと戻っていた。

人一人の命の事態であるにもかかわらず彼らの無責任さにかなり不快感を覚えるがそれでも最後まで協力してくれた数名に感謝の言葉を述べて、もともといた電話の前の椅子に腰かけなおす。

 

とはいっても自分も大したことをしたわけではない。すりつぶしたチーゴのみをたっぷり塗りこんだ包帯をやけどの跡にかぶせるように巻き、あとは体力回復の作用のあるきのみを片っ端から口移しで飲ませただけだ。まさに応急処置、といったものに収まってしまったがそれでもやらないよりは幾分ましだっただろう。萌えもん研究のついでに勉学に勤しんでいたこちらからすればあれくらいなら朝飯前だった。

 

「お、おい……」

 

することもなくなり椅子の上でくるくると回りながらどうしようかと考えていると、先ほどつかみかかってきた、タンクトップ兄さんがこちらに向かってくる。

 

「さっきは悪かったな……ありがとよ、助けてくれて」

 

「いい。それより、聞きたいことがある」

 

いきなりミズキがするどいめに切り替わったことに少し面を食らっていたようだが、お構いなしに質問をぶつける。

 

「さっきのあいつはなんだ? いったい何が起きたらおつきみやまでああいう被害を受けることになる?」

 

明らかにほのお系の萌えもんにやられたような跡だった。おつきみやまでそんな萌えもんが発見された例はない。ほとんど洞窟で出てくる代表的な萌えもん、例外でレア萌えもんピッピが出るって話は聞くが、それでもやせいのピッピにあそこまでできるはずがない。

 

「……お前知らないのか、あの噂を」

 

「噂? 知らんな。旅に出たのはごく最近なんだ」

 

「……そうか……実はつい最近になっておつきみやまの中で異変が起きているみたいでな。まだ駆け出しの新米トレーナーたちがハナダへ行くために洞窟に入るとみんなぼろぼろにされて帰ってくるって話らしい。それで個々のジョーイさんとジュンサ―さんが洞窟をしばらく通行禁止にしたらしいんだが、それを聞いたあいつが、俺はそんなに弱かねえって言って……」

 

なるほど話が読めてきた。助けておいてあれだがどこの世界にもそういう迷惑を顧みないバカはいるものだ。そうして人の忠告を聞かずに突っ込み案の定の結果で帰ってきたという話だろう。もっと言えばジョーイさんが集中治療室にこもる羽目になった同じような状態のやつというのも同じようなバカの仕業だったのだろう。どこまでも自業自得な話だ。

 

「んで? そいつらは何にやられたってんだ?」

 

「……」

 

なぜがタンクトップは押し黙る。おいおい、ここまで来て話したくないということもないだろうに。

 

 

 

「わからなかったんだ。速すぎて、何が何だかわからねえうちにぼろぼろにされて……本気でやばいと思ったから、急いであなぬけのヒモを使って離脱してきたんだ……」

 

 

 

「……ふーん」

 

残念そうにつぶやく。

戦いのスタイルぐらいは知っておきたいものだったが、そもそもあそこまでぼろぼろにされたのならそれも無理かとあきらめる。

 

 

 

「ただ……」

 

 

 

「ただ?」

 

 

 

 

 

 

「人間なんて殺してやる……って……そう叫びながら攻撃してきた……」

 

 

 

 

 

 

「……なるほどねぇ」

 

 

唇に人差し指を当て、何かを吟味するかのように、少しずつ脳内でまとめ上げる。

 

 

 

つい最近から始まった本来そこにいるはずのないタイプのかなり実力のある萌えもんによる人間へのこうげき。

 

かみつきの跡にやけどの跡。

 

閉鎖された洞窟。

 

先ほどのオーキド博士からの連絡。

 

はたしてどういう関係があるのか。はたまた全くの無関係なのか。

 

 

 

 

 

 

「……ま、行ってみなきゃあわからんなぁ」

 

 

 

 

 

 

どのみち博士からの連絡が俺の予想通りの物であったならば、

 

 

 

いや、違うか。

 

 

 

十中八九、俺の予想通りである以上。

 

 

 

俺は止まっちゃいられない。

 

 

 

 

「お、おい! どこ行くんだよ!」

 

タンクトップが肩をつかむのをうっとうしそうに振り払いながら立ち止まる。

 

「みりゃあわかんだろ。ここで手に入る情報はもう尽きた。酒場に用がなくなったのなら次のマップを目指すのさ。RPGの基本だろ?」

 

「バカ言え! 俺の話を聞いてなかったのか! 殺されるかもしれねえんだぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

「殺されないかもしれないだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

楽しそうに笑いを浮かべる少年は、先ほどのれいせいに話を進めていた男とは別人のように見えた。

 

 

「それに、俺思うんだよねえ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その萌えもんと、仲良くなれそうな気がするんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で? そのこを仲間にしたいんですか?」

 

「まあな。まあ高望みはしないさ。第一目標はこの山を今日超えること。それさえできれば上出来だ」

 

「……マスター。嘘はダメですよ」

 

(こくこく)

 

ばれてーら。

 

センターから外に出ればすぐに洞窟の場所はわかった。どう見ても進入禁止を表そうとしている標識が山ほどおかれている場所があった。散々さっきバカにしておいてなんだが、ここまでされると入りたくなるという心理はわからないこともない。

 

 

 

横にスーとシークを並べ、通行止めをけり倒しながら中へずんずんとはいっていく。

 

「マスターのそういうところ、嫌いじゃないですよ」

 

「おお、うれしいフォローをありがとう」

 

(ぽかぽか)

 

横並びに歩くミズキとスーの後ろからシークが弱い弱いパンチを太ももあたりにぶつけてくる。

モノを言えないシークだが言いたいことは100%わかってしまう。『危ないんだからやめようよ』だ。

まあ当然そういうわけにもいかない。

 

「さてと、ここか」

 

やがて頭上三メートルほどの大穴までたどり着く。さっきの話を聞いた後からか、恐ろしいものが待ち構える大穴のようにさえ見える。

しかし、思うことは変わらない。

 

「悪いなシーク。恨むなら俺たちと契約した自分を恨め」

 

 

そういうと今まで自分の足元でせわしなく動いていたシークの腕がピタッと止まる。

 

うーむ、やはりスーとはまた違った魅力のある萌えもんだ。

掛け値なしに俺にはもったいない娘だと思う。

 

 

「さてと、じゃあ改めて言おうか。今回のとりあえずの目標」

 

 

一つ、今日中におつきみやまを突破する事。

 

一つ、マジギレほのお萌えもんに接触する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つ、R団に接触する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 接触するだけでいいんですか? 『ぶっ潰す!』とかじゃないんですか?」

 

「もちろん潰す。だが、こんな辺鄙な山まで出張ってる奴らを倒したところで組織としてダメージがあるとは思えない。わざわざ俺たちの存在を警戒されるようなことをする必要はないさ」

 

「ああ、なるほど……」

 

 

「だからぶっちゃけ最初に行ったことは半分嘘で半分本当なのさ。今回の最優先の目標は、おつきみやまを抜けること。R団に関しては会うことがなければ会わなくてもいいし、ほのお萌えもんだって、本人がついていきたくなけりゃあ連れて行くつもりなんてまるでないし」

 

 

 

 

「でも、仲間にしたいんですよね?」

 

 

 

 

 

「まあね」

 

 

助けてあげたいなんて高尚なことを言うつもりはないけどさ。

 

何分俺たちも助けてほしい側の人間萌えもんもの集まりだし。

 

でも、だからこそ、あってみたい。話してみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、楽しく旅する友達を探しているんじゃない。

 

 

 

 

 

楽しく死ねる、同士を探しているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わかっていますよ。だからマスターはその子に利用してもらいたいんですよね」

 

 

 

 

 

 

 

はん。

 

 

 

「さあ、どうだかな」

 

 

 

 

 

緩む口元を手で多い、洞窟へと一歩を踏み出す。

 

 

先陣を切るミズキ。

 

微笑みながら後ろを行くスー。

 

よくわからないという顔をしながらもとたとたとついてくるシーク。

 

 

いびつながらも土台は出来上がっている、

そう思えた。

 

 

 

 




最近一話一話が短い気がしますが、基本的に一気に長くなる前触れだと思ってください。
一つの物語ごとにメインストーリーが一個ある感じにする予定なので
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