罪深き萌えもん世界   作:haruko

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タケシ戦ぶりの10000文字です。
本来ならば前回と同じ話にまとめようとしたのですが前回と合わせると17000文字ということでさすがに断念しました。その代りにはやめの投稿となります。

アニポケではサトシゲッコウガが大暴れしてますね。
自分もミズキラプラスとかやってみたいものです。


第3話 5 かなしばり

 

 

 

わっちは人間が嫌いだ。

 

 

自分たちが萌えもんよりも偉いと思っていて、

 

『もっとつよい萌えもんを使わなきゃだめだ!』

 

萌えもんの気持ちなど考えもしないで、

 

『ひんしになっちまった……使えねえ萌えもんだぜ』

 

卑怯な手でわっちらを捕まえて

 

『マヒで動けなくしてダメージを与えるんだ』

 

努力を認めようともしないで、

 

『くそっ。もっと強く育てなくちゃあ』

 

わっちらの後ろで威張り散らすだけ。

 

『そうじゃない、上だ! なんでよけられないんだのろま!』

 

 

 

 

唐突に表れて、

 

瞬く間に消えて、

 

わっちのすべてを奪っていく。

 

 

 

 

『おっ、強そうなガーディ!』

 

『いただき!』

 

『俺が最強の萌えもんに育ててやるぜ!』

 

 

 

 

そんな彼らが、大嫌いだった。

 

 

 

 

そしていろんな場所を回り、

おつきみやまにたどり着いて、

そこで幾度となく通過していくトレーナーを見てきた。

大人であったり、子供であったり、男であったり、女であったり、白人であったり、黒人であったり、新米であったり、熟練であったり。

 

 

 

だが、わっちからすれば誰もかれも等しく同じクズに見えた。

 

 

 

そしてこれまでに見てきた人間の中でも群を抜いて汚く、臭く、みていられない最低の人間たちを初めて見たのは、まだ記憶に新しい話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく。なんで俺たちがこんななんもない辺境の地まで足を運ばなきゃいけねえんだよ?」

 

「仕方ねえだろ。ボスがつきのいしを探して来いって指示を出したんだ。ここに来るしかねえだろうが」

 

「うだうだ言ってねえで働け」

 

萌えもんの技でばらばらに砕けた壁の前で何十人という単位の人間が作業をしている。洞窟にすんでいる萌えもんたちは怖がってちっとも出てこない。

 

「自分の萌えもんの進化のいしをこんなところにまで取りに行かせてるんだ。よっぽど大切なもんなんだろう。それを任されてるんだから信頼されてるってことだろうよ」

 

「なるほどなあ」

 

「でもそろそろ俺たちも暴れまわりてぇよなあ。町とかぶっ壊しまくってよお。金も萌えもんも奪いつくしてやりてえじゃねえか?」

 

「確かに。最近のボスの要求って自分の萌えもんや幹部の萌えもんの育成のために軍を動かしてるだけだよなあ。俺たちしたっぱはたまったもんじゃねえよ」

 

「だからお前らは馬鹿なんだよ。いきなり下手に暴れまわったって反撃されて崩れ落ちるだけだろうが。だったら世間には『R団はもう解散した』っていう風に装っておいて水面下で破壊活動の下準備をしていた方が今は楽なんだよ」

 

「おお、なるほど! さすがだなあ!」

 

バイトをしている最中に世間話をするかのようにわるだくみをする男たち。

影でおびえる萌えもんたちのことなどお構いなしに採掘の手をとどめずに探し物を続ける。

 

「おい、荷物運びのA班の萌えもんがもうぼろぼろになったってよ」

 

「ああ? その辺のやせいのやつ捕まえてくりゃあいいだろうがよ。労働力なんざいくらあってもたりゃしねえんだ」

 

「ああ、じゃあ俺が言ってくるわ。ついでに俺の萌えもんの新技試し打ちしてくるぜ!」

 

「おい! 捕まえる前にぼろぼろにすんじゃねえぞ」

 

まるでスキップするかのようにうれしそうにその場を去っていく軽い男の後ろ姿を見てさぼりたかっただけなのだということを理解する。まあこのあたりの萌えもんに負けるようなことはさすがにないだろうから気にせずに作業を続けておけばそのうち帰ってくるだろう。

 

「おい、止めなくていいのかよ」

 

同じ部隊に配属されてもう長い小太りの男が声をかけてくる。

 

「知るか。適当に遊んだら帰ってくるだろう。今はつきのいし探しが先決だ」

 

帽子を深くかぶった痩せても太ってもいない普通の成人男性のような男は、適当にあしらう。

 

「いやあ、でもなあ……」

 

「なんだよ? 言いてえことがあるならはっきり言えよ」

 

先ほどまでの男との会話で少し疲れを感じたためかいらつきを隠そうともせずに聞く。

 

「いや、だってよお。俺たちの前に何回か別の小隊が任務失敗して戻ってきてるって話だろう?」

 

「ああ、あの上層部に『何が起きたのかよくわからなかった』とかいう報告をして首をきられた馬鹿小隊の話か」

 

「俺も最初はただのほら話だと思ったよ。でもさあ、俺実は、ハナダで変な噂きいちまったんだよ」

 

「噂?」

 

「そう。最近おつきみやまにとんでもない強さのほのお萌えもんが住み着いて、通る人間を片っ端から黒焦げにしてるって話。実際おつきみやまから帰ってきた黒焦げのけが人がハナダじゃ最近増えてるんだってよ」

 

「ふーん」

 

わざとらしく興味のなさそうな返事をしながら作業の手は絶えず動かす。

 

「ふーんって……お前、それがもし本当だったら俺たちもやべえってことじゃねえか。もしそんなつええ奴がいたらと思うとよう……」

 

「バカじゃねえのかお前。そんなのいるわけねえだろうが」

 

目に見えていらつきの度合いが増していく帽子の男に対して、おびえていた方の小太り男は唖然とした表情を向ける。

 

「な、なんでだよ? 現に俺たちの仲間の小隊は任務に失敗してるわけだし、もしかしたらそいつらもそのほのお萌えもんにやられちまったんじゃあ」

 

「おつきみやまにそんな奴がいるなんて聞いたことねえし、だいたいそんだけ噂になってる萌えもんの種族もわからねえだなんてそれだけで眉唾物だ。大方、やせいのピッピのゆびをふるで出たほのおわざかなんかを見た誰かが話を大きくしたんだろうさ」

 

「で、でも! ハナダにいたけが人はどう説明すんだよ?」

 

「餓鬼が火の不始末で怪我したのを隠してるだけなんじゃねえの? まあ、ピッピにやられたなんて恥ずかしくて言えないプライドの高いトレーナーって線もあるが。んで、そんな噂に便乗して任務失敗をごまかそうとしたから、その小隊も首を斬られたってとこだろ」

 

「な、なるほど……」

 

「おら、わかったらお前を手を動かせ。いちいちそんなしょうもないうわさを真に受けてんじゃねえっつーの」

 

「わ、悪かったよ……」

 

つきのいしの見つからないいら立ちや、別小隊の失敗の尻拭いをさせられているという現実が余計に彼の平穏を乱しているようだった。

 

「てか、あいつはいつまで遊んでやがる? お前ちょっと一回呼んで来い」

 

「ああ、そうだな……」

 

のそりと立ち上がろうとしたその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「ぎやあああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ今の声!」

 

「外からだぞ!」

 

中にいた数人を連れて悲鳴の聞こえた入口へと走る。

 

 

 

 

 

 

 

自分たちであけた穴の入口まで戻ると、

そこには黒焦げとなった大量の元仲間たちの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい! お前ら、誰にやられた!?」

 

一番近くにいた体を無理やり起こしてきつけを行う。

みたところ死んではいないようだが、どう見ても全身やけど、はたまたそれ以上に悪い状態であることが見て取れる。

そして意識が戻ったその者の声を聴いて初めて、その男は初めに自分たちと作業していた、今から探しに行かせようとしていた男だと気付いた。

 

「わ、わからねえ……」

 

「わからねえだと! ふざけるな! いったい何があったんだ!」

 

「お、おい、それ以上は……」

 

「わ、わからなかった。誰にやられたのか、何でやられたのか、俺たちも俺たちの萌えもんも、気が付いたら、やられてた」

 

「っひ、ひいっ!!!」

 

脇にいた先ほど話していた小太り男が腰を抜かして尻もちをつく。

 

「なんだ今度は!」

 

 

「ま、まだいる! やっぱりいるんだ! ほのお萌えもんが! 最強のほのお萌えもんが!」

 

 

言われてからあたりも見回すと、確かに何かの気配を感じる。

しかしどこにいるのか全くつかめない。恐ろしいすばやさで自分たちの周りを動き回っているということはわかった。

 

「ど、どうすんだよ! このままじゃあ俺たちもやられちまうぜ!」

 

その声を皮切りに残った奴らもざわざわと騒ぎ始める。

くそっ。雑魚どもが。

 

「黙ってろ。いったんここを離れて体勢を立て直してだな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間。

気配が一気に後ろに移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

頭のいいその男は、戦闘において背後を完全にとられるということが何を意味するのか。

それを理解してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

やられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

男は目を開ける。

 

意識がある?

 

そして自分の手元に目を落とす。そこには五体満足の体があった。

 

なぜ? 自分は完全にやられたはず。

 

そう頭の中で思い、こんらんした状態で恐る恐る後ろを振り返ると、

 

 

 

 

 

ぼろぼろのガーディがそこに倒れ伏していた。

 

 

 

 

 

「が、ガーディ?」

 

腰の抜けていた男が恐る恐る目の前の青あざだらけの動かない萌えもんに近づいていく。

しかし、それはまったくもって動く気配を感じない。

 

「……けがをした体でこの人数の仲間とその萌えもんたちをこんなにしたってのか。あの一瞬の隙に」

 

改めて首をまわして見渡すと、少なく見積もっても全体の半分はやられたことだろう。おそらく機能するこちらの戦力は二けたにかかるかかからないかぐらいの人数しか残っていない。

 

「こいつが例のほのお萌えもんってことか?」

 

「ああ。まさか本当にいるとはな」

 

しかし、けがをした体であの速度を出しながら戦闘をするのはさすがに無謀だったのだろう。完全に力尽きてしまっている。

 

「お。俺、いいこと思いついた!」

 

「あ?」

 

「こいつ、ボスに献上すればいいんじゃねえか!? そしたらここでの作業ももっと楽になるし、これだけ強けりゃボスも喜んでくれるだろう?」

 

「……たしかにな」

 

素直にそれはいい考えだと思った。このままでは作業もままならないのでどのみち本部に戻って作業員の補充をする必要がある。ならばこいつを捕まえてボスにわたせばこの惨状の言い訳とすることもできる。

 

「よし、じゃあ俺が捕まえるぜ」

 

 

そういいながら前にずかずかと出ていくと、それに反応してか、かすかに前足が動いたのが見えた。

 

 

「おい。まて、そいつ、意識が戻ったぞ」

 

そういわれてからのボールを構えていた男も一瞬固まる。

すると、確かにのそりのそりと動きだし、低く野性的な唸り声を響かせる。

 

「ぐっ、かはっ、ああ。まだだ、まだ負けてないぞ」

 

「ふっ、安心しな。もう俺たちはお前とはたたかわねえよ。お前は今から俺が捕まえる。これからはR団の萌えもんとして生きていくんだ」

 

「な……にぃ……」

 

無理やり体を起こしてこちらをにらむが、もはやそれにおびえる者もおらず周りにいる残った仲間たちもそれを見てにやにやといやらしい笑顔を浮かべている。

 

「ふざけるな。誰が貴様らの萌えもんになんぞ……」

 

「安心しな。逆らえるのは今だけだ。ボールに入っちまえばあとはこっちのもんなんだからよ」

 

下種な笑いが場を支配する。先ほどまでおびえていた軍団とは思えないほどだが、その恐怖の反動でそう思う気持ちはわからなくもないので無言で事の巻末を見届ける。

 

 

 

「そら、くらえ。萌えもんボール!」

 

 

 

弧を描くその赤いボールはガーディの額あたりをめがけてきれいな回転で向かっていき、

 

 

 

 

 

「わっちを…………なめるなあ!」

 

 

 

 

 

全力で振り上げた後ろ足でまるで“まわしげり”をうつかのようにボールをはじき、

 

 

 

「ぎゃん!」

 

 

 

はじかれたボールは戻ってきて男の顔にクリーンヒットする。

 

 

 

「人間に使われるなんて……真っ平御免だ!」

 

「てめえ……」

 

男がガーディに向き直る。きっちりとボールの跡が残ってしまっているその顔で怒りでわなわなとふるえているさまはすごく滑稽だ。帽子の男を筆頭に、何人かは苦しそうに笑いをこらえている。

 

「よかったなあ。ガーディにゲットしてもらえて」

 

「うるせえ! この死にぞこないが! だったら力づくで捕まえてやる!」

 

 

さっきの一撃で完全に力尽きてしまったガーディに対して男は怒りのままにガーディに向かって突っ込んでいく。

そのままボールを投げりゃあ捕まるのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃあああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう叫びながら男は、ガーディを通り過ぎ、より奥まで走って行ったあと壁にぶつかって気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう。何とか間に合ったみたいだな」

 

「“あやしいひかり”のこんらん効果は失敗することだってあるんですからね。しかもこんな遠距離で。本当に危機一髪だったじゃないですか」

 

「勝てば官軍。細工は流々、仕上げを御覧じろ。終わりよければ何とやら。俺は結果だけを求めるのさ」

 

「物はいいようってやつですね」

 

「まあ真面目に話すのであればレベルの上がったお前の能力ならそれぐらいやってくれなきゃ困るの」

 

「信頼して頂けてるんですよね」

 

「そうともいう。シークもお疲れさん。ここまでずいぶんと無理させたな。しんどかったろ?」

 

「……」

 

ぽんぽん。

 

「……ありがとよ。さ、こっから先は戦闘だ。シークは先にボールに戻っててくれ。行くぞ、スー」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

しゃべりながら黒い影がいくつかこちらに近づいてくるのがわかる。

まずい。なんだかわからないがすごく嫌な感覚を覚える。

 

「ちょっとまててめえらあ!」

 

するとその影の後方からすさまじい怒号が聞こえてくる。先ほど壁に突っ込んでいったあいつだ。

 

「何が起きたのかはよくわからなかったが、さっきのへんな光はのはてめえらの仕業か!? 俺たちR団に対してなめたことしてくれるじゃねえか!」

 

「自分がいいようにあしらわれただけのくせに団のネームバリューで“いかく”するとは、三下、したっぱの極みだな。いかくの方法、ガーディにならった方がいいんじゃねえのか?」

 

「なんだとごらあ! このクソガキ、もうゆるさねえぞ!」

 

叫びながら腰のボールに両手をかけ、思いっきり投げる。

 

「ズバット! アーボ! 奴らを蹴散らしてやれ!」

 

そういいながらいかりくるう男から放たれた萌えもんボールは、青と紫の色を基調とした二匹の萌えもんをそこに召喚する。

 

 

 

……すすの付いたぼろぼろのスカート、汚れた髪の毛。本来の色とは程遠い肌。

そこには本来の姿から想像するのは少し難しいやさぐれきった目をした萌えもんたちの姿があった。

 

 

 

「……一応、お前に聞いておくことがある」

 

「ああ!?」

 

「お前、萌えもんが好きか?」

 

「はあ?」

 

言っている意味が理解できないと言わんばかりの反応を見せる。

 

「お前はなぜその萌えもんたちを捕まえたんだ?」

 

問いに少し固まった後、馬鹿にした笑いがその空間を支配する。

 

 

 

「そんなもの決まってんだろ。俺のために働かせるために使ってやってんだよ。しょせん萌えもんなんざ使い捨てのどうぐなんだ! この世界には使い捨てられるどうぐがそこらじゅうに転がってる! だから使ってやってるんだよ、わりいかよ!?」

 

 

 

醜い笑い声を背景に、

途中乱入の少年、

 

 

 

「よかったよ。お前らがずっとクズのまんまで」

 

 

 

ミズキは安堵の表情を作る。

 

「あ?」

 

 

 

 

「お前らがこの四年間で改心でもしてようもんなら、俺のこのたびはここで終わっちまうからな。面子揃えて“契約”なんてものまで作って、トレーナーの俺が、必要ありませんでしたじゃあみっともねえだろう?」

 

 

 

「何の話をしてやがる」

 

 

 

「安心しな。てめえらみてえなクズは全員、俺がぶっ飛ばすって話だよ」

 

 

「な、なにぃ……!」

 

 

 

 

 

 

どうやらその発言は手前の小太り男だけでなく、

奥にいた軍団のいら立ちのゲージも一緒に刺激したようで。

 

 

 

 

 

 

怒りで我を忘れた男たちによって、

 

開戦の一砲が鳴る。

 

 

 

 

 

 

「お前ら全員俺に続けえ! このクソガキを叩きのめしてやるぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「おおーーーーー!!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに強くなかったですね」

 

「あんな奴らがニビジムのタケシより強いはずはねえさ。入り口で言ったろ。こんな場所にきている奴らなんざ軍のしたっぱしかいねえってな」

 

「そうですね。あ、そういえばマスター! けがはもう大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫だよ。さっきまで立てなかったのはけがのせいじゃなかったし、一応殴り合いの中でも致命傷は避けてたつもりだしな」

 

体の汚れをはらいながら、そのトレーナーと萌えもんは状況報告を済ませていく。

その周りには殴られ蹴られわざを当てられ、一人と一匹に見事に完封され倒れ伏すR団員たちの姿。

 

 

 

圧倒的な敗北だった。

 

 

 

 

開戦に出遅れて残った最後の一人、帽子の男はただただ唖然とするだけだった。

 

なぜ自分はこんなところで窮地に追い込まれているのだろうか?

 

自分はエリートだった。

 

人一倍勉強して、萌えもんリーグの協会の役員になり、順風満帆な人生を送る予定だった。

 

なのに、自分は就職に失敗した。

 

その後の人生は下り坂。他に自分にできることもなく、自分のことを評価してもらう事などできなくなった。

 

そう、自分は、自分を認めないくだらない世の中に復讐するためにR団に入ったのだ。

 

幹部になり、ボスの役に立ち、そしていずれはR団の次期首領となる。

 

そのためのまっすぐな道を歩いていくはずだったのに、やっと上り坂が見えるようになるはずだったのに……

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔を、するなあ!」

 

「うぐっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「てめえら、少しでも俺に近づいてみろ。このガーディの首元掻っ切ってやるぞ!」

 

ミズキとスーが声のする方向に顔を向けると、そこにはぼろぼろのガーディを吊し上げ首元にナイフを当てる男の姿があった。もう指先一つも動かせないといった体のガーディはほとんど反抗することもなく、腕の中で苦しそうな声を上げる。

 

「ごほ、げほ」

 

「さあ、そこのお前はさっさとラプラスをボールに戻しやがれ! そしてボールを足元に置いて跪け!」

 

完全に男の目は血走っている。とても正気だとは言えないだろう。

 

「……R団、あんな事までやるんですね」

 

スーは怒りに震える。

この旅の始まりの刻、スーはミズキから聞いていた。R団の悪さ、醜さ、凄惨さ、あくどさ、いやらしさ、汚らしさ。

しかし、いざ対面して感じると、人間の汚さというものはスーの想像をはるかに超える、初めて心を許した人間がミズキであるスーには理解しがたいものだった。

 

こんなのが人間なのならば、こんな人間を見続けたのならば、

人間を殺してやるという発想になるのも仕方ないのかもしれない。

 

しかし圧倒的に状況が悪くなったのは事実である。もちろんガーディを見殺しにすることなどできはしない。しかし、ここで男の要求に屈してしまうことはそれこそ思うつぼ。自分がボールに戻った後、ミズキが何をされるのか。無事に帰してくれるわけがない。

 

「どうしましょうか、ます」

 

 

たぁ、と言おうと口を動かしたが、うまく声が出せずに固まってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

初めてみるミズキの表情だった。

 

怒り、とも、哀しみ、とも、恐怖、とも違う。

 

 

 

 

 

 

何もかもが抜けきっているかのような目、

全てを捨ててしまったかのような、残念そうな表情。

 

 

 

 

 

 

 

燃えたぎるような感情に諦めと憐みが混ざったかのような、

見ていてつらい、さみしい顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らみたいなやつがいるから、ガーディが辛い思いをするんだろうが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さく、小さく、耳元でささやく時に使うような声で、ミズキは自分の思いをぶつける。

 

 

 

 

「何ぶつくさ言ってやがる! さっさとラプラスをひっこめやがれ! さもなければこいつの命は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺れよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は? やれよ?

 

「お、お前。なにをいってんのかわかってんのか?」

 

 

「いいから殺れよ。本当にそいつを殺す気があるのならな」

 

「ひっ!」

 

おびえた、怯んだ、この俺が。

こんなガキの睨みだけで。

 

……違う、こいつはガーディなんてどうでもいいと思ってるんじゃない。

俺はこいつを殺せないと思っているのだ。

こいつは俺のことを、なめているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふざけるなあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっ殺してやろうじゃねえかあ! よく見とけこのクソガキがああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は思いっきりナイフを振り上げ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振り上げた状態で制止する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は? う、動かない?

 

こつん、こつんという音が響く。子供がこちらに近づいてきているのだ。

 

お前、何をしやがった。いったい俺に何をした。

 

声に出そうとするが、まったく声帯がふるわない。

 

おびえて出ないのではない。全く動かないのだ。

 

まるで“かなしばり”にあったように。

 

 

 

 

 

 

近づいてきたその子供は、こちらの腕からガーディを無理やり引っぺがし、何事もなかったかのように去っていく。

 

 

 

 

 

 

待て、お願いだ、俺を戻してくれ。

 

 

 

 

 

 

「……ま、マスター?」

 

「行くぞ、スー」

 

 

 

 

 

 

お、おい、待ってくれ、たのむ、たのむからよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そうだ。忘れてた。おい、あんた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういいながら、振り向き、右手の親指を前に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

夢幻の悪魔に注意しな。

 

 

 

 

 

闇はあんたの心を貪る。帰ってこれるかはあんた次第だ。

 

 

 

 

 

死にたくなけりゃあ頑張るんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――常闇の間、夢幻の回廊―――――――――――――――

 

 

 

 

……動ける。

 

「ここは……どこだ?」

 

首も回せるようになったので辺りを見回す。

 

 

 

どこを向いても、黒、黒、黒。

 

一寸先も見えはしない。

 

 

 

ガキは? ガーディは? ラプラスは?

 

 

 

「どこへ消えた?」

 

いや、もはやそんなことはどうでもいい。

動ける。

逃げられる。

 

 

「出口を探そう」

 

 

とりあえず闇雲に動くんだ。

 

きっとどこかに出口はある。

 

 

 

 

 

 

 

……もうどれぐらい歩き回っただろうか……

 

一時間くらいのような感覚もあるし、数分間のような感覚もある。

 

もしかしたら何日もさまよっていたのかもしれない。

 

出口が全く見つからない。

 

それどころか、自分以外の物がないにもない。

 

壁も、空も、空気も、

 

今自分がいるここが本当に地面なのかも把握できない。

 

一体自分は何をしているのだろう。

 

 

 

 

 

もういやだ。

 

 

 

 

 

帰れない。

 

出られない

 

死のうにも、腹がすかない。

 

痛みも感じない。

 

空気を吸いたいとすら思わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だれか……だれかここからだしてくれえ! もういやだあ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ココカラデタイノカ?

 

 

あんたは誰だ?

 

 

トウテルノハワレダ。ココカラデタイカ?

 

 

……出たい。もういやだ。ここはもういやだ。

 

 

……ツイテキタイノナラバツイテクルガイイ。

 

 

こ、ここから出られるのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……アア、ココカラデラレル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「空が白み始めてるな、もう夜明けだ」

 

「マスターが一人で戦うなんて無茶をしなければもっと早く踏破できましたからね!」

 

「必要だったんだから仕方ないだろ」

 

「全くもう……。で、マスター。よかったんですか?」

 

自分たちが上ってきた山道を振り返りながらスーが尋ねる。

それに倣ってミズキも足を止め、眺める。朝日をバックにしたおつきみやまがまぶしいながらも美しい景色だった。

 

「……仕方ねえだろ? 残念だけど、あんなことがあった後で『俺と一緒にこい』なんて無神経なこと言えねえよ」

 

自嘲気味な笑いをこぼしながら、元の道に戻って進み始める。それにスーが小走りで追いついてもう一度横並びに歩き出す。

 

「それはそうですけど……マスターがあんなに思ってた娘だったのに」

 

「そんなことより」

 

そういいながらミズキは目線を正面から右下、つまりスーの方に移す。

 

 

 

 

「お前こそ、いいのか? 俺に質問しなくて」

 

 

 

 

「……何がですか?」

 

「とぼけるのも無理があるだろうよ。というか本来とぼけるべきなのは俺だけどな」

 

力のない笑いで空気を和ませようとしているのがわかるが、あまり効果はない。

 

だからこそ、

スーはしっかりと答えなければならないと思った。

 

 

 

 

「聞きませんよ、わたしは」

 

 

 

 

「……」

 

その場で足を止める。目線はスーに落としたまま。

 

「話したくなったら話してください。それまでわたしはまってます。かくいうわたしもマスターに待ってもらっている身でありながら、マスターにはもうすでに数えきれない恩があります。マスターにどんな過去があっても、わたしはマスターを信じます」

 

それに、

 

「契約、ですよね?」

 

 

 

 

わたしたちにはわたしたちの過去がある。

わたしたちは野望をかなえるために全力を尽くす。

 

 

 

 

「それでいいんですよね?」

 

「……ああ、そうだな」

 

 

いきなり早足になって隠そうとしていたミズキのうれしそうな横顔を、スーは見逃してはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「今の話は本当だろうな」

 

 

 

 

 

 

 

「「!!!」」

 

驚いて軽く構えながら振り向いた二人の目の前には、

 

 

 

「過去の話はしない。野望はかなえる。今の話に嘘はないんだろうな」

 

 

 

茶けた橙色の体毛を揺らすガーディ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わっちもついていってやる。そのかわり、腑抜けたことしたらその首もらうぞ。主」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“フレイド”だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、ボスのお使いついでに自分用のつきのいしもほしいと思ってこんなところまで来てみれば……どういう状況ですの?」

 

「あ、あなたは! はっ! どうやら先行して捜索に向かわせていた小隊が何者かによって壊滅させられたようで、ほとんどの物はいまだ意識不明の重体のようです」

 

おつきみやまの見張りとして駆り出されていた男ははきはきとした口調で目の前の女性に先だって与えられた情報を話す。

 

「ふーん。で、その犯人さんはどちら様ですか?」

 

「そ、それが……」

 

「? どうなさいましたか?」

 

「それが、意識ある小隊員のほとんどが、『あたりが薄暗くて顔を確認できなかった』と主張しておりまして、百六十ほどの身長の男であるということは判明しているんですが……」

 

「ふーん。使えない殿方たちです事」

 

「……あ、そういえば、隊員の中に一人おかしなことを言っている者がおりまして……」

 

「おかしなこと?」

 

「はい、何でも……」

 

 

 

 

悪魔にだまされた、とかなんとか。

 

 

 

 

「悪魔に、だまされた……」

 

「は、はい。何度聞いてもそれしか返さなくて……あ、そいつは今タマムシの精神科医に送り込んだんですけど……」

 

 

 

 

 

「……あー、そうですの。でもその人、もう治らないと思いますわよ?」

 

 

 

 

 

「は?」

 

「……ふふっ、なんて。情報、ありがとうございました」

 

「あ、どうも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボスの言っていた通り、

戻ってきていたんですわね。

 

 

 

 

 

 

 

ということは、近い将来、会えるのかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふふふふふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

契約者 4人

ミズキ、スー、シーク、フレイド←NEW

 

契約1

我々は互いの過去に関せず

 

契約2

我々は互いの野望のために尽力し、中断およびそれに準ずる行為のすべてを禁ずる

 

契約3

大なり小なりの野望を携え、既存の契約者と同等およびそれ以上の野心を持つ者のみ、新たな契約者としてパーティに加入することを許可する。

 

野望

ミズキ

R団を壊滅させる

スー

誇れるような自分となり、故郷に帰る

シーク

???

フレイド

ある人間を探す

 

契約4

楽しい旅であれ

 

 

 

 

過去

ミズキ、スー、シーク、フレイド   不明

 

 

 

 

 




長かった三話もようやく完結。
シークにフレイドにミズキの設定。
意外と今後に響く回になりました。
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