罪深き萌えもん世界   作:haruko

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スーちゃんに厳しい回が続きます


第4話 2 一人飴と鞭

 

 

 

 

 

「……シーク、許してくれよお。悪かったって……なっ? 夕飯は美味しい物作るからさ」

 

(……ぷいっ)

 

「シ~クぅ~」

 

温泉から上がり、今日の宿屋を取ろうとハナダの町を歩いている一行ではあったもののその中の一人、シークは完全にへそを曲げてしまいミズキが四苦八苦しているところから始まる。

定位置とばかりに腕の中に納まっているシークではあるがいくらミズキが顔を動かしても全く目を合わせてすらくれない。

 

「……まるでデートの待ち合わせに遅刻した彼氏の言い訳のようだな」

 

「ずいぶんと明確なツッコミですね……というか待たせたのはフレイドさんもじゃないですか」

 

「わっちは主の長風呂に付き合ってやっただけだ」

 

 

シークのご機嫌を泣きそうになりながら取ろうとしているミズキはさっき熱く語り合った自分の主とは別人のようでフレイドは思わず笑いをこぼす。前にいるミズキは必死すぎて此方を気にする様子もない。

 

 

「というか……私もずっと待ってたんですけどね……」

 

「ん……ああ……」

 

当然のことながら一人で女風呂に入っていたスーはそんなミズキを見つめながら疲れた顔をしている。

ちなみにスー曰く、こおりタイプも交じっている自分としてはねっとうの中に何時間もいたら逆につらいから外に出て待っていたとのこと。

 

「だったら貴様も主にごねてくればいいじゃないか。夕食の権利くらいはもらえそうだぞ」

 

「それはとっても魅力的ですけどね。いいです。わたしはシークちゃんより大人ですから。大人は我慢が出来るんです」

 

フンス、とない胸を張って自慢げに言うがなんとなく力がないということをフレイドは感じ取っていた。

 

我慢、ねえ……

 

「ちなみにどれほど待ってたというんだ?」

 

「え、そりゃあ……シークちゃんと同じですから一時間とかそれくらいかと」

 

 

 

 

 

 

「ふーん……なぜ嘘をつく?」

 

 

 

 

 

 

スーは目を丸くして驚く。声にしたくても声をうまく出せない。そんな状態のように見えた。

 

「硫黄と石鹸の匂いがほとんど抜けていないのに加え、髪もかなり濡れたままでいる。ドライヤーも碌にかけずにそのまま出てきたのだろう。男はドライヤーをかけずにそのまま出てくることも考えられるからな。もっと言えばわっちらが露天風呂で話をしていた時、どうも女風呂の方から一つだけ全く消えない気配を感じた。その時は特に気にも留めなかったが、あれは貴様の物だろう?」

 

追い詰められていくかのようにスーの歩幅が少しずつ小さくなっていく。ミズキの歩幅は変わらぬまま進んでいくため二人はどんどん取り残されていく。

 

「な、なんで……?」

 

「それはわっちのセリフだ。なぜ隠す?」

 

フレイドにスーを追い詰めたいという思いは微塵もない。フレイドはただただスーの行動が理解できないから聞いているだけ。

しかし、現実としてなぜかスーは答えたがらない。

 

「露天風呂にいたら男湯の会話が聞こえてきた。盗み聞きでも何でもないし、特に何の問題もない、自然なことだ。わっちらとしても特に聞かれて困るようなことを言ったわけでもない。なぜ貴様はあそこにいたことを隠している? わっちはそれが知りたいだけだ」

 

フレイドはふと横を見ると、そこにスーはいない。そこからもう少し首をひねれば足を止め、うつむきながらわなわなとふるえるスーがいた。

 

「ま、マスターは、マスターは気づいてましたか?」

 

「……さてな、人間に気付けるはずがない……と言いたいところだが、あの男なら気づいていたかもな」

 

顔を上げた時にこちらに向けた目は不安を体現するかのような目だった。

 

 

「おーい。お前ら、何してんだ? 昼飯食いに行くぞー!」

 

 

首を元に戻して前を向くとかなり離れたところでミズキが二人に手招きをしていた。

 

「わ、わたし……わたしは……」

 

そしてそれすらも聞こえていないかのように、うわ言のように、スーは言葉を紡ごうとする。

 

「……別に話したくなければ話さなくてもいい。悪かったな。今日はどうも余計な発言が多い日のようだ。主の饒舌に感化されたか」

 

そういいながらフレイドはミズキの方へと歩いていく。

最後の発言でスーの体が少し反応したことには、気づかないふりをすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「……主、なんだ。このピンク色の料理は?」

 

「……俺の腕によりをかけた手持ちのモモンのみを全部使った極上スイーツ」

 

「……昼食にスイーツを食えと?」

 

「それは甘いもんが好きなシーク用だよ。スーの分はそこの鉄なべ。俺たちの分はそのわきの小鍋だ」

 

旅館に入るとすでに食事は始まっており、小さな一口でピンク色のケーキを少しずつ頬張りながら幸せそうな顔をしているシークの姿とそれを見ながら一安心しているミズキの姿があった。

 

「……カップルだな」

 

「シークは男だ。あほなこと言ってないで早く食え」

 

「ああ、そうだな……いただく」

 

そういいながらシークもミズキに支持された鍋の前に座って食事を始める。目の前にミズキによってよそわれた茶碗とお椀が一対ある。茶碗の中身はつやつやの白米でお椀の方は鍋の中身、野菜やら肉やら大量のきのみやらが食べやすくなるまでじっくりと煮込まれ出汁がとられた特製スープだ。

 

食欲をそそられる匂いにフレイドは軽くがっつくようにお椀に口をつける。

 

「……やはりうまいな。ラプラスがあれだけ食べる理由もわかる」

 

「ありがとよ。作り甲斐があるってもんだ」

 

ミズキも嬉しそうにしながら自分の席に着くが、そこで正面に違和感を覚える。

 

「……どうした、スー? 食べないのか? たくさん作ってあるから遠慮しなくていいんだぜ?」

 

みるといつもすごい勢いでご飯を書き込む姿ではなく、ちょこんと座ってじっとこちらを見ているスーの姿があった。

 

「……いえ、何でもないです。頂きます」

 

 

そういいながらようやく口をつけるが明らかにいつもと違って食事のスピードが遅く、結局ミズキたちが食べ終わった後に鍋の中身を少し残して箸をおいた。

 

 

「……ごちそうさまでした」

 

「おいおい……マジでどうしたんだよスー? どっか調子が悪いのか?」

 

「……いえ、本当に何でもないです。ご心配かけてすみません、マスター」

 

そう謝りながらも彼女の目線は一度もミズキと会うことはない。明らかにいつもと何かが違う。

 

「……俺はこれからハナダの岬って場所に行く予定だったんだけどよ。スー、お前ボールの中で休んどけ。何があったかわからねえけどそんな状態で戦闘になったらとてもじゃないけど動けないだろ」

 

「いえ! そんなこと……」

 

口調自体は強いものだったが、最後まで言い切ることもできない。そんな雰囲気を感じさせるような声だった。早々に食事を終えてミズキの元に戻っていたシークが不安そうにスーの顔を覗き込む。

 

「今はもうフレイドだってシークだっている。お前一人が頑張る必要はない。ダメなときはしっかり休んで次に備えるんだ。それが仲間ってもんだろう?」

 

説き伏せるようにミズキが言う。その言葉に、一瞬スーは身を固めるが、すぐに力を抜き、

 

「……そうですね。いったん休ませてもらいます」

 

とぼとぼとテーブルのわきを歩きミズキの近くまで来ると、腰のボールにポンと触れ、自分でその中へ戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「……主、どう思う?」

 

「……ずいぶんとお前が気にかかってたみたいだな」

 

「……やはりそうか」

 

フレイドが少しだけ肩を落とす。ミズキは全く話を理解していないそぶりのシークの頭をなでながら軽く息を吐きながら続ける。

 

「ま、そういうことだ。お前が加入する前までは仲間を増やすことにはちゃんと賛成してたんだけどな。お前の実力を見て引き気味になってんだろ」

 

「主を取られるかもしれない、という事か」

 

「大方そんな感じだろう。今まで自分が戦わなければいけないっていう責任感にとらわれすぎていたんだろうな。それはたぶん二人目の仲間がシークだった、ってのも一つの要因だ」

 

お前も俺たちの仲間なのにな、とシークを顔の前まで持ち上げて言う。シークは内容がすべてわかっているわけではないがミズキの言葉に思わずうれしそうな笑みをこぼす。

 

「……のんきな男だ。仲間に馬鹿にされていたというのに」

 

抱えられたシークを見ながらフレイドが呆れ声を漏らす。

 

「別にスーもシークを馬鹿にしたかったわけじゃない。深層心理ってやつさ」

 

「……なるほどな。じゃあ奴は……」

 

「ああ、今自分がなんでこんな思いをしてるのか、ってことが分からずに悶々としてるだろうな」

 

腰の萌えもんボールを手首でコンコン、とたたきながらつぶやく。

 

 

 

 

 

 

 

フレイドは先ほどのスーとの会話を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

最初に自分が質問した時の、答えたくて答えられない、答えるための言葉を知らないような、あの表情。

 

 

……いや、実際はその表現も正確じゃなかった。

 

実際にスーは答えたくても答えられなかったのだ。

 

自分で思い返してみても、今の現状が不思議に思えて仕方なかったのだろう。

 

 

 

 

わざわざ露天風呂に残って二人の会話を聞いていたことが。

 

 

 

それを二人にばれないように行動したことが。

 

 

 

二人の信頼し合っていることがわかるような会話を聞いて、自分が苦しんでいるということが。

 

 

 

 

 

 

 

不思議で不思議で仕方なかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてったってスーはまだ子供だ。俺みたいに無駄にけいけんちを積んでるわけでもなければお前みたいに陸での旅に慣れているっていうわけでもない。初めてだらけに困惑している段階なんだよ」

 

髪をいじりながらミズキは自分の推測を話し終える。ふと横を振ると明らかに少し肩を落とした様子のフレイドの姿があった。

 

「……やはりわっちは悪いことをしたようだな」

 

「してねえよ。風呂でも言ったろ。悪気がなけりゃ謝る必要なんてありゃしない」

 

「悪気がなければ何をしてもいいという事でもないだろう」

 

そういいながら悔しそうに拳を作る。

 

「今回はそれに該当しない、ってこと。結論だけ言えばこの一件はスーが一人でいじけてるだけだ。お前が反省する必要はない」

 

本当に何でもない事のようにふるまいながら、食器の片づけを済ませていく。

 

「……それでいいのか。主」

 

あんなに仲が好さそうに振る舞っていた二人だったのに、信じられない。という表情をつくる。

 

 

ミズキは壁に寄りかかりながらグーとパーを繰り返す自分の手を見つめる。特に意味はない行動だが話が長くなった時の間つなぎとしてよく行う行動だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前を仲間にする前に、スーとこんな会話をした」

 

 

 

「……? 会話?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは、楽しく死ねる同志を探す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレイドは一瞬戸惑った顔を見せるが、すぐにふわりと表情を崩す。

 

「……なるほど。言いえて妙な言い分だな」

 

「取り方次第だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しく死ねる、同志。

 

 

 

 

 

それはお互いをお互いに利用しあい、自分の目標のみを目指す。

 

そういう、聞くだけなら嫌な関係。

 

 

 

 

 

 

しかしそれは、ミズキの契約、というファクターを通せば話が変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自己犠牲の精神はいらない、という事か」

 

「理解が早くて何よりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミズキはこう言っているのだ。

 

『自分を利用してくれない奴は必要ない』、と。

 

一人で悩み苦しむのはやめろと。

 

不器用に、遠回しに、適当に、告げているだけなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前を捕まえる前まではスーもその辺は理解してくれていたんだけどねぇ。今のままじゃあ最悪スーとはサヨナラだな。残念な話ではあるけれど」

 

立ち上がりながら何でもない事のようにそんなことを話すミズキに背筋が凍るものの、その後体中を電流が駆け巡ったかのような衝撃を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この男は……違いすぎる。今まで見てきた人間と。

 

 

 

フレイドは今まで逆の人間を山ほど見てきた。

 

 

 

『利用できない奴は必要ない』

 

 

 

そんな人間たちに嫌気がさし、自分はおつきみやまにいたのだ。

 

 

 

そんな人間たちを片っ端からやっつけるためにおつきみやまにこもっていたのだ

 

 

 

そうして自分はミズキに会えた。

 

 

 

そうして今自分はここにいる。

 

 

 

 

 

 

初めてフレイドは神というものに感謝をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スパルタだな。主は」

 

「……うれしそうに言うな。にやつきを抑え切れてないぞ。ドМかよ」

 

フレイドはとっさに口元を抑える。

そしてスーに微量の申し訳なさを感じたが、それすらもすぐに忘れるほどに興奮していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この男の一番になりたい。

 

この男を利用し、利用されたい。

 

この男と野望をかなえたい。

 

 

 

 

 

 

 

この主とともに、ずっとずっと旅をしたい。

 

この人とならそれも許してもらえる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

はっ、と意識を元に戻すと、ミズキは自分の食器をあらかた片づけて皿洗いをするためにキッチンにいる。テーブルに残っといたのはミズキの据わっていた座布団の上にちょこんと座るシークだけだった。

 

「……貴様はいいのか? ケーシィ」

 

(……?)

 

なにが? とでも言いたげな顔をこちらに向ける。

 

「今の話は聞いただろう。主はとんでもない人間だ。わっちにとっては理想のトレーナーだが、お前にとってもそうとは思えん。あいつの最低限の理想をこなせなければ今言っていたように捨てられるかもしれないぞ? それでいいのか、貴様は?」

 

 

フレイドとしては正直どんな答えを望んで聞いたというわけでもなかった。

おびえるだけならそれでもよし。それで逃げ出すならそれもよし。

自分は最後の一人になったとしても、ミズキとともに歩み続ける。そう決めたからこその確認するためだけの質問だった。

 

 

 

 

そんな質問を受けてシークは、自分の手のひらをじっと見つめていた後、

 

 

 

 

 

 

フレイドの前足を一回たたいた。

 

その動作の意味はすでにミズキから聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……くっくっくっくっく……あーはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

 

 

 

 

 

 

 

笑いが止まらない。おくびょうなそぶりをしておきながら、大した気構えの持ち主だ。

 

「……長い付き合いになりそうだな。よろしく。シーク」

 

そうして二人はお互いの右手を握り合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

それをキッチンの窓口から覗く幸せそうな顔のミズキは、思わず一つのボールに手をかけた。

 

 

 

 

 

「……このままじゃおいてかれちまうぜ。スー」

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろを向くと鍋が沸騰し始めていた。

温めなおしていたスーの昼食の残りだ。

 

 

 

 

 

 

「誰か、食う?」

 

「もらおう」

 

(こく)

 

 

 




おくびょうなシークは公式で甘いものが好きなのです。
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